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ローエングリン

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24部分:第三幕その九


第三幕その九

「あなた、どうか!」
「さらばだエルザ」
 項垂れたまま小舟に向かう。
「もうこれで」
「どうか・・・・・・」
「どうか神よ」
 皆神に祈らずを得なかった。
「どうかこの方をドイツに」
「姫の御側に」
 王も祈った。エルザは必死に呼び止めようとする。だがローエングリンは今まさに小舟に乗ろうとする。その時だった。
 不意に鳩が小舟の鎖から口を離した。そうしてローエングリンの上まで飛ぶとそこで。あるものに姿を変えたのだった。
「あれは・・・・・・」
「杯!?」
 皆その杯を見て言った。それは確かに杯だった。
「杯がどうして」
「どうしてここに」
「グラール・・・・・・」
 ローエングリンはその杯を見上げて言った。
「鳩は貴方だったのか」
 だが聖杯は何も答えない答えないかわりに彼の上を円を描いて飛びつつ。そこから黄金の清らかな水を流し。それでローエングリン、そしてエルザを清めたのだった。
「これは・・・・・・」
「聖水!?」
「いや、これもまた神の奇蹟だ」
 王が言った。
「これもまた」
「王の奇蹟だと」
「これもまた」
「そうだ、奇蹟だ」
 王は言うのだった。
「だがこの意味は」
「聖杯は今私に告げました」
 ローエングリンはそれに応えるようにして厳かな声で言った。
「このブラバントに留まれと」
「この国に」
「そしてドイツを護れと。エルザ=フォン=ブラバントがこの世に生きている限り」
「それでは貴方は」
「またこの国に」
「そうです」
 こう一同に述べたのだった。
「間違いありません。私はブラバントに」
「おられる」
「最後の奇蹟だ」
「そう、奇蹟です」
 ローエングリンは感動に打ち震えながら一同に告げた。
「神の慈愛による奇蹟です。これは」
「ではあなた」
「そうだ、我が妻よ」
 エルザをまた我が妻と呼んでいた。
「これで私達は永遠に」
「二人で」
 あらためて抱き合う二人だった。そして王が玉座から立ちここで告げるのだった。
「皆この奇蹟を讃えよ」
「はい」
「今ここに」
「神の奇蹟は無限だ。そしてその慈愛もまた無限だ」
「ええ。神の慈愛を讃えよう!」
「今ここに!」
「そして二人の愛もまた!」
 口々に叫ぶのだった。
「永遠に讃えられてあれ!」
「ここに!」
 ローエングリンとエルザを囲んで讃えていく。今ローエングリンとエルザは結ばれたのだった。神の無限の奇蹟により。


ローエングリン   完


               2008・11・13
 
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