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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
  終わりのプロローグ



「ふぁ……」

大きな欠伸をかみ殺す気はさらさらなく、出るがままに任せたその音は閑散とした廊下にやたらと大きく響いた。
放課になってから随分と時間が経ち、もう午後の6時前と学校に留まっているにはかなり遅い時間だ。そんな時間になったのも別に日直だからとか、部活だからとか、居残りだからという理由ではない。

あまりの眠さに放課になった瞬間に机に突っ伏し、鍵を掛けるために見回りに来た教師に呆れた声で起こされたのだ。おまけに最上階の教室の鍵閉めを頼まれる始末。
自業自得とは言え、面倒くさい事この上ない。


突き当たりの教室まで鍵を閉め終わり、階段まで来るとふと顔を上げた。

「ん……?」

屋上に続く階段の昇った先にあったのは巨大な鏡。吸い込まれそうなほど透き通った鏡面部分に豪華だが、どこか怪しげな雰囲気を放つ縁の装飾。禍々しくも目を惹き付けて止まない怪しい魅力を放つ鏡がそこにあった。

螢は別に芸術に関して特別造詣が深い訳でもなく、ましてやその価値を判断する基準を心得ている訳でもない。


故にそれに惹き付けられ、あまつさえ触れてしまうなど、本来であれば無かったはずだ。


鏡面部分に恐る恐る触れた瞬間、強烈な引力によってその中に引きずり込まれる。

「なぁ!?」

突然の事にろくな抵抗も出来ず、彼は鏡の中に姿を消した。




____________________________________________________




『黒き導き手』ことリンもとい、鈴木燐は整理した荷物を要領よく段ボールに詰め、辺りを見回した。

晴れて家出(?)を認められて明日からはついに友人、和人の家に厄介になる事となった。
あらかた片付けた部屋だが、何も全ての荷物を持っていく訳ではない。これを期に不要品を放置し、勝手に片付けてもらうつもりだった。その時、


―コンコン……


ドアを叩く音。家の者であるわけ無いので、必然的に誰かは察する事が出来る。

「こんにちは、燐」
「いらっしゃい、詩乃」

やって来たのは幼馴染みの朝田詩乃。ギリギリまでもつれ込んだ引っ越し作業の救援に来てもらった。詩乃は辺りを見回すと、呆れたような苦笑を浮かべながら言った。

「全く……燐はやり始めれば速いのにどうして前々からやらないかな?」
「やれば速いからな」

真顔でそう返すと、詩乃の苦笑はやがて呆れへ移行し、もう一度深くため息を吐いた。

「後、どれを片付ければいい?」
「ん……そうだな。机の脇の本を段ボールに入れといてくれ、ガムテープ持ってくるから」
「わかった」

健全なこの歳の男子ともなればその手の『アレ』の一冊や二冊はあるのだろうが、生憎俺はそんなもの持っていない。故に詩乃に本を触らせてもお約束の展開にはならないのだ。

確か予備のガムテープは一階のリビングにあったはずと下に降りようとして、足を止める。

「あんな鏡、あったか?」



階段が90°折れ、小さな踊り場になっている場所に存在する大きな鏡。
少なくともさっき見たときは無かった筈だ。

「……………」

しばらく黙考した末に出した結論は、




(放置だな……)


いかにもな鏡だ。SFなど信じてはいないが、だからと言って興味を持つ事はない。
ガムテープを持って部屋に帰って万事オッケー。

目的のものはすぐに見つかり、手でそれを弄びながら再び階段を上がっていく。すると、鏡の前にはそれを眺める詩乃。

「あ、燐。あった?」
「ああ。これだけあれば充分だろ」

手に持つそれを掲げて見せると詩乃は小さく頷き、思い出したようにまた横を向いた。

「燐、この鏡は?」
「いや、知らないな。どうして?」
「私がさっき来たときは無かったような……」
「……………」

いよいよ本格的に怪しい。何かの間違いで触れようものなら本気で異世界に飛ばされかねない。






―――しかし、奇しくも『刻』は午後6時。逢魔が刻と『異端者』の因果はただ注意深いだけでは抜け出せない。



―――鏡が禍々しく光始める。

「―――っ!?詩乃、逃げろ!!」
「え………?――きゃあ!?」


階段を2段飛ばしで駆け上がり、詩乃と鏡の間に割り込む。途端に引力が生じ、2人は鏡へ引き寄せられていった。

(まずい……!!)

心の中で詩乃に謝り、精一杯足を踏ん張って突き飛ばす。

「燐……!!」

何とか鏡の引力から抜け出せたらしい詩乃の気配が遠ざかって行くのを感じ、燐は一度意識を失った。




____________________________________________





誰かが自分を呼んでいるような、そんな気がした。



のんびりと夕暮れを知らせるカラスの声と共に小日向蓮は、容赦なく自分をベッドインさせようとする睡魔から必死に抗いながら眼を覚ました。昼寝をしようと寝たら、思いの外寝てしまったようだ。

見知らぬ天井、とかカッコいい台詞を脳裏で閃かせたいが、生憎瞳に写るのはボロい木製の天井である。ついでに言っておくと、鼻孔に入ってくる香りも消毒された病室のアレとかではなくて、普通にカビ臭くってホコリっぽい、いつものアパートの臭いだった。

───静かだな。

ふとそう思った。いや、気付いたというほうが正しいか。

いつものアパートの騒々しさが嘘のように静まり返っている。隣人の赤坂龍之介は、トイレの時以外は出てこないと言う重度のヒキコモリだからしょうがないとして、反対側の隣人、葛城ミサトが休日の夕方に騒いでいないと言うのはどういうことなのだろうか。独身街道まっしぐらの彼女の休日と言えば、昼頃からアパート住人達と酒を酌み交わして、夜を徹してどんちゃん騒ぎをしているのに。

そこまでを考えて、蓮はベッドから抜け出す。時計を見ると、すでに時刻は午後六時時を指していた。昼か夜かが微妙な時間帯だが、むしろアパートの住人達にとってはもっとも活動が活発的になる時間だ。

───ま、たまたまってこともあるか。

そんな呑気な思考を脳裏で思いつつ、部屋のドアを開けた。
アパートの廊下はやはり、普段の姿とは全く違って静まり返っていた。
さすがにいつまでもこうしてじっとしているわけにもいかないので蓮は部屋を出て、少し早めの夕食を食べに階下に降りていく。文字通り、《夕》食だ。

うーん、心が高鳴る。賄いである、るり子さんの料理は絶品だからだ。SAO時代に、何が悲しかったってそりゃ、るり子さんの《手》料理が食べられないことであるくらいだ。

和食ならシャケ定食、洋食ならオムレツ辺りかなぁ~♪などとポワンポワンした幻想の中に身を任せていた蓮は、だから階下から上ってきた人影に気が付かなかった。

ドン!と派手にぶつかった。

「うわっ!」
「ひゃうっ!」

ぶつかった場所が踊り場だったのが幸いした。階段を転げ落ちると言うアンラッキーなイベントが発生することもなく、尻餅をついた。

いてて、と言いながら見ると、両腕一杯に小難しそうな分厚い本を数十冊持っている状態で同じく尻餅をついている、見た目小学生の《女性》がいた。階下に住む高校教師、月詠小萌である。

「いたた、あれっ?蓮ちゃん。お昼寝たんですか?目が眠そうですよー」

のんびりとした声で言う彼女に、小萌せんせー、と蓮は言う。こう言わないと、彼女は泣き出す寸前のいじめられっ子のようなオーラを発するのだ。

「ちょうどよかった。みんなはどう…し……たの………」

フェードアウトしていく声。
蓮は踊り場の端っこに妙なものを発見して、ぎょっとした。



夕焼けの真っ赤な陽の光に照らし出されたそこには、大きな緑の姿見があった。
大きい、といってもボロいアパートのボロい踊り場だ。天井はそこまで高くはない。その鏡は、一メートルと………八十センチくらいだろうか。

しかし、高さなどどうでもいい。蓮が驚いた訳は、その鏡が宙にフワフワと浮いていたからだ。
かのアインシュタインだかニュートンだかが定説した万有引力に、真っ向からタイマンを張っているそのシュールな光景に蓮は釘付けになった。

「な……に、あれ…………?」

小萌先生も蓮のただならぬ気配に気付き、釣られるようにその視線を追って───

「何を見てるんですか?蓮ちゃん」

一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
小萌先生はナチュラルに訊いてきた。極めてナチュラルに。まるで、何言ってんのこの子は、みたいな口調で。

「え?いやだって………」

あんなにはっきりと見えるのに、と言いかける蓮に小萌先生は本来の目的を思い出したかのように、足元に散らばった本達を集めている。

「今日はですねー。珍しくみんな出かけてるのです。ミサトさんは朝から飲み会って言って、深瀬さんとかを連れて出かけちゃいました。るり子ちゃんは華子さんと住職さんとでお買い物に行ってますねー。あ、るり子ちゃんが蓮ちゃんのためにおやつを置いといたって言ってましたですよー」

間延びした先生の声を意識の端で聞きながら、蓮はフムと唸る。これで静けさの謎は解けた。

まぁ確かに、手首しかないオバケのるり子さんと、挨拶しか言わない無口な幽霊の華子さんのツーペアでは、買い物すらもままならないだろう。

アパートの隣にある昧礼寺(まいれいじ)の住職は、趣味の筋トレで極限まで鍛えた体と僧籍にある者としての禿頭──人はそれをスキンヘッドと呼ぶ──、さらには目が光に弱いためにかけているサングラスから「ターミネーター」と呼ばれているほどの人物だ。護衛役としてもうってつけだろう。

しかし、そんな蓮の思考はたちまち消し飛んだ。考えるのを止めたのではない。

考えられなくなったのだ、なぜか。

蓮はまるで、街灯に吸い寄せられる蛾のように、ふらふらとした足取りでその鏡の前に立った。

改めて見ると、かなり凝った意匠の鏡だった。枠は深い緑で、苔でも生えているように怪しく光っていて、そのくせ鏡本体は吸い込まれそうなほどに透明だった。そのなかに写る自分の姿を見ていると、湖の水面に写っているしはれを見ているような錯覚に陥る。水滴でも落とせば、波紋でも広がりそうな。

だからだろうか。蓮は手を伸ばして、その艶やかな表面に触れようとした。
特に理由はなかった。ただ、そうしなければならないと思ったから。

蓮の指先が一センチ、二センチと、ゆっくり近付いていく。鏡との間も、二センチ、一センチと縮まっていく。



そして、それに───


触れた。





小萌先生は、やっとのことで全部の本を回収した。一般人ならば、見ただけで勉学に対する興味が一瞬で失せるようなそれらを両手で抱え込む。
そして、振り向くと

「あれ?」

そこには誰もいなかった。
踊り場には、月詠小萌だけがポツンと残された。




______________________________________________





学校帰り。いつもどおりユキとともに帰っていた。

「ねえ、ゲツガ君。今日はエギルさんのところでバイトは無いの?」
「ん?今日は休み。高校生だから労働基準法に合った時間しかさせてくれないんだよ。エギルのやつ」
「えー、違反するくらい働いちゃ駄目だよ。ゲツガ君はまだ高校生なんだから。それにそこまでお金にも困ってないでしょ」
「そうなんだけどさー、何か仕事していたほうがいい気がするんだよなー」
「ちょっと、ゲツガ君!今の歳ですでにワーカーホリック発症するなんて危ないよ!高校生なんだから少しはそういうことは置いといて高校生活を満喫しようよ!」

ユキが今の状態の自分を見て少し慌てたように言った。確かに、高校生でワーカーホリックはおかしいだろう。

「そうか?そこまでは依存とかしてない気がするんだけど?」
「してるよ!もう、今日はエギルさんも働きすぎだから休めって言われてるんでしょ?それなら今日はゆっくりするのが一番!ということで、今からゲツガ君の家に行こ」
「おい。まあ、いいけどさ」

ユキに今日のそう決められたので頬を緩ませながら家へと向かう。家は普通のマンションの三階だ。そのマンションはエギルの店にも近いからとても役に立っている。

「相変わらずにゲツガ君って階段しか使わないんだね」
「ん?ああ、エレベータなんて体調が悪いときか家具とかの重い荷物を運ぶくらいしか使ったことないしな。それに三階まで上がるくらいならこっちのほうがいいんだよ。エレベータ待つよりも速いし、それにちょっとした運動になる」
「まあ、私もたまにはこういうのもいいかな」

そして二階まで上がり、そのまま三階まで行こうとしたとき、奇妙な光景が二人の目に入った。

「何だあれ?鏡か?外から見たときはあんな大きな鏡無かった気がするけど」
「私は詳しく見てないからわからないけど、こんな大きな鏡がこんな狭いところにおいてるなんて不思議だよね。普通だったら大きなマンションのロビーとかにこんなの置いてない?」
「そうだけど、俺の住んでるマンションはロビーはそこまででかくないからありえないし、私物だとしても自分の部屋の横に置くはずだしな」

不思議な鏡を二階から眺めているとユキが先に上がって行った。その時に感覚が危険信号のようなものを発する。あのままでは危ない、そんな気がする。

「ユキ、待て!」
「え?」

しかし、マンションの階段というのは本当に踊り場までの距離が短くすでにユキは辿り着いてしまった。


その瞬間に、鏡の表面が波打つように揺れはじめた。

「クソッ!」

危険を感じたため三歩で階段を登りきると、すぐにユキのと頃まで辿り着くとユキを三階に上がるほうの階段のほうに押した。

「きゃあ!」

ユキは何とか押すことで鏡から離せたがこんな狭い踊り場なのだから一人を押しただけで逆に鏡の表面に触れてしまう。触れた場所はまるで水のようになっていてそのまま腕から入ってしまう。

「なっ!?」

驚くが冷静さはまだあったようでそのまま手すりを掴んで何とか堪える。

「痛いよゲツガ君~、いきなりって……えっ?」

打った部分をさすりながら振り向いたユキは今の状況を見て一瞬思考が止まったかのように固まった。

「な、何この鏡!」
「ユキ、とにかく離れてろ」

鏡の中で誰かが引っ張っているのか、ずずっと体が少しづつ鏡の中に吸い込まれていく。いくら握力などが強くてもこの強い力で引っ張られていると腕に乳酸がたまり、握力が弱くなっている。

「ゲツガ君!」
「ユキ、お前まで巻き込まれる!」

近づこうとするユキに離れるように言う。しかし、ユキは自分を助けようとおろおろするばかりだ。
そして、手にあまり力が入らなくなった瞬間を狙ってなのか強い力で一気に引っ張られた。手すりから手が抜けてそのまま鏡の中に吸い込まれた。その場所には水のような波紋が広がる。

「ゲツガ君!!」

ユキもその後を追うように手を伸ばしたがその鏡はそれ以上の侵入を拒むかのように水のような波紋を止めて、もとの鏡の状態に戻った。

ユキの手は鏡の中に吸い込まれることは無くガラスの部分に弾かれる。

「……ゲツガ……ゲツガ君!!」

大切な人の名を読んだが返事は帰ってくることも無い。ただ、その鏡には悲しそうな表情をする自分の姿しか移っていなかった。


 
 

 
後書き
個人的にはいきなり性格が表れたお気に入りの話。

レイ、レン→何か起きてから対処する。石橋はとりあえず渡ってみる、泥舟は面白そうだから乗ってみるタイプ。

リン、ゲツガ→慎重に行動。石橋は大岩で叩いて渡る、泥舟は見向きもしないタイプ。 
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