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激突部活動!! バトルク☆LOVE

作者:ぽかりす
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序章

 夕日に照らされるビル街。そのコンクリートジャングルの中を必死の形相で駆け抜けていく一人の少年。その右手には何故か竹刀が力強く握られている。

「…クソッ!このままじゃヤバイ!」

こんな都会のこんな賑わいそうな時間だというのに彼以外の人影は見えない。それでも時々後ろを確認し、何かから逃げるようにその少年は走り続けていた。

おそらく十六から十七歳ぐらいであろうその彼が着ている珍しい濃い蒼の学生服は遠くからでもその学校の生徒であるということが瞬時に分かるくらいに鮮やかで目を引く。だが、その服は着崩され転んだりして付いたのであろう汚れがかなり目立つ、しかも右腕の袖は途中で破れてしまって七分丈のようになってしまっていた。

「ミナトは無事なのか?…いやあいつならきっと大丈夫!それよりも今は自分の身だ!」

彼は口から大きな独り言をこぼすと、ビルとビルの間の細い路地の駆け込み、無造作に突っ込まれた不燃ごみが今にも溢れ落ちそうなダストボックスの影に身を潜めた。手にしている竹刀の柄を額に押し付け、上がりきった呼吸を整えようと深く深く何度も深呼吸を繰り返す。この秋の涼しい時期にも関わらず彼の身体は汗でびっしょりと濡れていた。それだけの距離を走ってきたのもあるのだろうが、彼の表情から伝わる切迫した空気からどうも要因がそれだけでないことを教えてくれる。

 少年は一、二分で深呼吸を終えると、ゆっくりと立ち上がり恐る恐るビルの影から顔を覗かし周囲の状況を確認した。が、先ほどと同様、道路や建物内にも人影はなくこの街にはもう彼しかいないのではないかと思うほどに静まり返っている。それでも彼は警戒を怠ることはなく見えない何かを見るような鋭い視線を空虚な街に飛ばし続けていた。

 だがその時だった。


「…グハゥッ!」

 
 突然背中に走る今までに経験したことのない痛み。彼の意識が一瞬この世から飛んで逝ってしまうほどの深く重い激痛。

「クソ…遠距離なんて反則だろうが…」

少年は左手で背後の痛みの原因を探る。それは背中のほぼ中心に深々と刺さった棒状のモノ、彼には自分に刺さっているものが瞬時に何か分かった。いや、もう刺さる前から自分が何で襲われるか分かっていたのかもしれない。背中に刺さったそのモノは間違いなく弓から放たれた『矢』であった。それを悟った時に再び意識が飛び崩れ落ちそうになるが気合でグッと立ち堪える。その間にも大量の血液が背中をつたって下へ下へ流れていくのを衣服に染み込む血の温度で感じる。

「フハハハ!随分辛そうじゃないか!良かったら手を貸そうか?ふふふ…」

 細い路地に中傷に満ちた笑い声が響いた。少年は明らかに慈愛の意思が全く感じられない声の方へ振り返りその声の主を肉眼で確認する。
そこには少年と同じ年くらい男性がいた。歳だけではなく身なりもほとんど代わりない、全く同じ学生服を着ている。大きく違っているのは手に握られた長さがその人物自身の身長と大差ないような大弓、背中に背負われている矢を十本ほど入れた矢筒、そして女子のように長く、留め具で一纏めにされている銀の髪くらいだろう。

「君すばしっこいからさぁー回り込むの苦労したんだよ?でもまぁ僕の視界に入ったら確実に射抜けちゃうから問題ないんだけどね?ふふふ」

顔にかかる前髪を掻き上げながら悦に入ったような口調、不毛で一方的な話を続ける様子から彼の普段からの人物像が少し伺える気がする。

「…うるっせーなキザミ・・・てめぇの馬鹿みたいな笑い声なんとかなんねぇのかよ。頭に響いてウザイんだよ・・・」

 息を荒げ前かがみの体制になりつつも少年は恐怖とは対極の力強い眼差しを真っ直ぐそのキザミと呼ばれる男に向けていた。その眼差しは例えるなら大和の魂を持つ侍のように芯をしっかり持ったものだ。とたんにそれを受けたキザミの顔からスゥーっと笑み消えた。先ほどのご機嫌さからは想像もできないような、まるで万物を見下したそんな冷たい顔つきへと変わる。

「お前なに言っちゃてんの?俺が・・・馬鹿・・・だと?調子乗ってんじゃねぇぞこのド底辺がァ!!」

彼の中の怒りスイッチを押してしまったのか、キザミは声を大きく荒げ怒鳴り散らすように罵声を飛ばす。

「いいか!よく聞けこのタコッ!俺は学園内でもトップクラスの学力!弓道に関しては日本一!いやもう世界一と言っても過言じゃねぇ!!そんな俺に対してお前みたいな三下がなに抜かしてんだ!!」
「・・・いや、馬鹿だよお前・・・」

罵声のマシンガンを遮るかのように少年が口を挟み込む。

「一発当てたくらいで何油断してんだよ?確かに俺はこの怪我じゃ全力は出せない。けどな?それでも弓道部のお前となら近接戦では負ける気がしねぇ。弓道部がのこのこ前戦に出てきてんじゃねぇよ・・・」

そういうと少年は両手で竹刀を体の中段付近で構える。凛とした立ち姿、しかし背中の痛みのせいか額には汗がにじみ息もまだ少し上がっている。それでも彼の姿は実に勇ましかった。

「・・・いくぞ!キザミ!ハァァアア!!」

叫び声と同時に少年は地面を強く蹴り出し一気にキザミとの距離を詰める。そのスピードから彼が重傷人だとは微塵も感じられないほどキレのある素早い動き、それでいてどんな反撃にも対応できそうな柔軟さを兼ね備えた猛進だ。

「喰らえキザミ!!」

少年の竹刀がキザミに振り上げられたその瞬間、キザミの顔に再び笑みが戻った。しかもそれは少年を嘲笑うような少し恐怖や狂気を含んだようなものだった。

「馬鹿はお前だよ、この馬鹿」

「・・・・・・グッハァッ!!?」

少年がキザミを切りつける直前のその刹那、先ほどの刺された矢の数十センチ右斜め下を別の弓矢が射抜いた。竹刀はキザミの右肩を少しかすめるが、少年の手から離れカラカラと音をたててアスファルトに横たわる。それを追うように少年も力なくそこに崩れた。

「くくく・・・っふははは!バーカバーカ!この戦いはチーム戦なんだよ!そんな常識も分かんねぇ馬鹿はそこで馬鹿みたいに死んでろ!アハハハハ!!」

勘に障るキザミの笑い声も耳に入らない朦朧とした意識の中、少年は背後から近づいてくるもう一人の人物の存在を僅かに感じた。しかし今更気付いたところでどうしようもない。徐々に重くなっていく目蓋に必死に抵抗しつつも、その視界は確実に黒く深く染まっていくのであった。



 
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