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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第十八話 高度30,000mの戦い②

 
前書き
9月に入るとめっきり忙しくなりますね。
更新の感覚も空いてきちゃって申し訳ないです・・・ 

 
「ほ、本当にいいんですかぁ……?」
「構いませんわ。どうぞ存分におやりになってくださいまし、リーネさん」

 ――翌日
 よく晴れた基地の空には、おっかなびっくりで対装甲ライフルを構えるリーネと、悠然と滞空するペリーヌの姿があった。そして、その二人の間には武装も何も持っていないエイラがいる。

「さあエイラさん。わたくしをサーニャさんだと思ってしっかり守ってくださいな」
「えー、お前がサーニャかヨ……」
「なっ!? もとはといえば貴方が持ちかけてきた話でしょう!! ――リーネさん、構うことはありませんわ。思いっきり撃ち込んで結構でしてよ!!」
「は、はいっ!!」

 瞬間、リーネの指が引き金を引き絞り、ボーイズMkⅠの銃口から焔が迸った。
 模擬弾でも何でもない、正真正銘の徹甲弾だ。ネウロイの体躯を抉り撃つそれを――

「よっと!」
「きゃうっ!?」
「ソーレ!!」
「くぅ……!!」
「あらよっと!!」

 リーネが狙い撃つ先、ユラユラと滞空するエイラは、次々と飛来する弾丸を驚くほど鮮やかに回避してみせる。都合六発撃ち込まれた弾丸は全て虚しく空を切り――ペリーヌのシールドを直撃した。

「ななな、なんて事なさいましてエイラさん!! これは貴女の訓練でしょう!?」
「い、いやぁ……ほら! 普段からワタシはシールド使わないから慣れてなくっテ……」
「そのための訓練でしょう!? これではわたくしのシールドが先に力尽きますわ!!」

 額に青筋を立てて怒るペリーヌ。なるほど、ペリーヌの言い分ももっともである。
 なにしろいま三人がやっているのは、エイラのシールド訓練なのだ。実戦でシールドを使用した事の無いエイラは、その点を不安視され攻撃隊から外されている。それを何とか撤回させるために急遽こうして訓練に臨んでいるのだが、結果はご覧のとおりである。

「も、もう一階だけ頼む! な、それならいいダロ?」
「……まあ、それくらいなら結構ですわ。――リーネさん、もう一度だけお願いしますわ」
「り、了解です!!」

 再び響き渡る轟音と悲鳴。
 結局、エイラのシールド訓練は午前中いっぱいまで続けられたのだった。





「あ、エイラさん」
「なんだ、沖田かヨ。いまワタシはすっごく忙しいんダ!!」

 昼食をとりに食堂へと降りて来た和音は、やや焦ったような表情を浮かべたエイラとすれ違った。せっかくのマリネも流し込むようにして食べ終えると、エイラはそのまま「ご馳走様!!」といって駆け出して行ってしまう。

(シールド、巧く張れないのかな……?)

 和音は思い出す。和音の時代――1995年に伝わるエイラ・イルマタル・ユーティライネン最大の武勇伝といえば、〝決して被弾しないこと〟であった。その武勇から、ついたあだ名が〝無傷の撃墜王〟
 実戦でシールドに頼ることなく終戦まで生き延びた、類を見ないエースウィッチとして名高い彼女だが、そんなエイラの若かりし頃にこのような試練があったなどと、いったい後世の誰が想像し得ただろうか?

(作戦の決行も近づいてきてる……このままじゃ間に合わない……)

 作戦の決行は明日の早朝。ということは、今日の夜までにシールド制御をモノに出来なければ攻撃隊への参加は事実上不可能となってしまう。
 エイラ抜きでも作戦それ自体に不備はないが、今後それを引き摺るだろうことは容易に想像がついた。

(なんとかしないと……でも、どうすればシールドを巧く張れるようになるんだろう?)

 ウィッチにとって、シールドの展開は呼吸も同然に容易く、半ば本能じみたものだ。
 それを意識的に制御し、訓練しようというのは、あまりにも当たり前すぎるが故に難しい課題となって立ちはだかってくる。

「あれは……エイラさん!?」

 外から聞こえたユニットのエンジン音に気がついて外を見ると、今しもユニットを履いたエイラがペリーヌとリーネの三人で飛び立って行くところだった。
 おそらく、午前中の特訓を繰り返す気でいるのだろう。それだけ必死なのだ。

「わたしにも何かできることはないかな……」

 しばらく考え込んでいた和音は、やがてはっとしたように顔を上げると、一目散に格納庫の方へと走って行った。





――ロマーニャ基地 格納庫

「エイラさん!! 待ってくださいエイラさんってば!!」
「あーもう!! なんダヨ!! 言っとくけど、ワタシには時間がないんだゾ!!」

 ようやく追いついた和音の手を、苛立ちも露わに払い除けるエイラ。
 訓練に使える時間が午後いっぱいである以上、今ここでシールドをモノに出来なければエイラはサーニャを守ってやる事ができない――
 それはエイラにとって計り知れないほど大きなダメージであり、ともすれば自身の根幹にかかわる一大事なのであった。

「だから、その訓練にわたしも協力させてください!!」
「な、なに言ってるんだよオマエ!?」
「細かいことはいいんです!! さぁ、早くこっちに来てください!!」

 困惑するエイラの腕を掴み、そのまま和音は格納庫の奥へとズルズル引っ張って行く。
 そこは普段使われていない、そして和音のF-15Jが保管されている区画だった。

「お、おい……こんなところに連れ込んで何するきなんダヨ……」
「いいですかエイラさん。万が一シールドコントロールをモノに出来なかったら、明日の作戦でエイラさんはサーニャさんと離ればなれなんですよ? それでもいいんですか!?」
「そ、それは……でも……だって……で、できないものは仕方がないじゃないカ!! どうせ宮藤ならサーニャをまもれるんダロ!!」
「諦めちゃダメですッ!!」
「――――っ!?」

 真剣な眼差しの和音が、エイラの頬に両手を置いていった。
 その威圧感たるや、歳も階級も上のはずのエイラが気圧されたほどだ。

「よく聞いてくださいエイラさん。実はわたしに秘策があります」
「ナ、ナンダッテ!?」
「ですが、これはかなり強引な方法ですよ? それでもやりますか?」
「……本当に、シールドが張れるようになるんダナ?」
「もちろんです!! ……たぶん、きっと」
「おい、どっちなんダヨ!!」

 詰め寄るエイラに和音は言った。

「張れるようになるというか、張れないと命に関わるというか……」

 チラチラとF-15へ視線をやりながら言う和音。そんな態度に業を煮やしたのか、エイラが和音に詰め寄る。

「ああもう!! いいからさっさと教えろヨ!!」
「実はこう言う方法を考えていてですね……」
「フムフム、それでワタシはどうすれば……」

 エイラと和音の極秘作戦会議は、こうして人知れずひっそりと行われたのだった――






 ――翌朝 作戦決行時刻

「全員よく聞け!! この作戦の成果がロマーニャ防衛を左右するものと思え!!」
「超高高度での戦闘は人類の限界をはるかに超えるわ。最終確認を入念にしなさい」

 あわただしく機材や武装がセットされ、攻撃隊打ち上げの準備が進む滑走路に、ミーナと坂本の声が響き渡った。
 二人とも、厚手のコートにマフラー、それに手袋と耳当てという出で立ちだ。比較的温暖なロマーニャではまず目にしない格好だが、これは高高度での低気温対策だ。和音の時代であればそれこそ耐圧・防寒対策を兼ね備えた衣服や、ユニットのシールドに調整を施すことでカバーできるが、この時代にそんなものは望むべくもない。

「よく似合ってるぞ、ルッキーニ」
「うぇー、暑いのやだぁ」
「バルクホルンさんのコート、ちょっとサイズが大きいかな……」
「ないよりはマシですわ。打ち上げのみとは言え、相当な高度ですのよ?」

 整備班がユニットやロケットエンジンの最終確認を行う横で、防寒装備を整えた宮藤やペリーヌたちが最後の詰めを行っていた。そんな彼女たちから少し離れたところから、心配そうな顔をして立っているのが――

「え、エイラ……これ、わたしのマフラー。使って……」
「……うん、ありがとな、サーニャ」

 スオムスから持ち込んだコートに着替えたエイラと、そしてサーニャだった。
 作戦決行直前、最後のブリーフィングを行う際、サーニャは勿論の事、501の誰もがそれとなくエイラの事を気にかけていた。エイラがサーニャを大切に思っているのは全員が知っていたし、これまで使おうともしなかったシールドの訓練に明け暮れた事も知っている。
 あのバルクホルンでさえ、ミーナに向けて「攻撃班や打ち上げ班の編成は予定通りでいいのか?」と言い、それとなく編成の見直しへ話を持って行こうとしたほどだった。

「あのね、エイラのくれたイトスギの葉、お守りにして持ってるんだよ……?」
「……うん」
「エイラ、やっぱり――」
「――サーニャ、整備班の人たちが呼んでるゾ。アタッカーなんだから頑張れよナ」
「………………」

 しかし、当のエイラはまるで別人のように気が抜けてしまって、こうしてサーニャに話しかけられても表情一つ変えない。やはり訓練は実らなかったのか――一瞬、瞳を揺らしたサーニャは、しかしそれ以上何も言うことなく整備班の方へ行ってしまった。

「…………」

 もうこうなってしまっては誰もエイラに話しかけることなどできない。
 妙に乾いた雰囲気の中、打ち上げの準備と緊張感だけが、徐々に高まっていった。






 ――そして、打ち上げの時がやって来た。

「――打ち上げまであと1分。カウント20から秒読み開始ッ!!」
「各自、ユニットに魔法力を流入させろ!!」
「「「了解ッ!!」」」

 まるで組体操のように、塔を模るかのようにして組まれた打ち上げ体勢。
 頂点にいるのは、攻撃隊を担うサーニャと宮藤。その二人を支える台に打ち上げ班には、エイラと和音が配置されていた。

「魔導エンジン始動を確認。各部異常なし。雲量、風向、ともに打ち上げに支障なし」
「観測隊より入電。敵ネウロイの動きに変化なし。打ち上げは察知されていません」
「打ち上げまで20秒!! カウント開始!!」

 続々と寄せられる整備班らの報告が、無言を貫くウィッチらの耳を駆け抜けていく。
 静かに高まるエンジンの唸りと緊張感が、今まさに命がけの攻撃を行う時が事を知らせていた。

「……18……17……16……15……14……13……12……11……打ち上げ10秒前ッ!!」

 しらず掌に滲んだ汗が腕を滴り落ちていく。
 緊張で体が強張っているのは、皆どのウィッチも一緒だった。

「9!! 8!! 7!! 6!! 5!! 4!! 3!! 2!! 1!!――――――発射ッ!!」

 瞬間、打ち上げ隊の魔導エンジンが一斉に最高出力へと達し、絶大な馬力にモノを言わせて垂直上昇を開始する。耳元で轟々と風が唸り、シールドで減衰されてもなお耐え難い風圧が体を押し付ける。
 急激に魔法力が失われていくのを感じながら、第一打ち上げ隊は無事第一次目標高度へと到達した。

「次ッ!! 第二打ち上げ班ロケットブースター点火ッ!!」
「「「了解!!」」」

 すでに魔法力が衰えつつある坂本は第一打ち上げ班に入っていた。
 緩やかに地表へ向けて降下しつつ、鋭い声で指示を飛ばす。そして――

 ――轟!!

「――っ!?」

 これまでとは比較にならないほどの急激な加速。
 自分自身が砲弾になったかのような加速に、和音は思わず目の前が暗くなりかけた。
 全身から魔法力が滝のように流れ落ちていくような虚脱感に苛まれながら、歯を食いしばってひたすらに上を目指す。叩くべき敵は、遥か上空に居るのだから。
 そして、第二打ち上げ班も当初の役割を完遂し、あとは攻撃隊を見送るのみとなった、まさにその時だった。

「――今です、エイラさん!!」
「サーニャ!! サーニャ!!」

 離脱して降下に転じる筈の和音がエイラの襟首を掴み上げ、強引に上昇を開始する。

「なにしてるのエイラ!?」
「サーニャは……サーニャはワタシが守るんだ!! いつだってワタシはサーニャの傍にいたい!! どんな目に逢ってもダ!!」
「――――っ!?」

 すでに攻撃隊の二人はロケットブースターを点火している。
 魔法力も燃料も底を突いたエイラと和音が追いつくのは無謀極まる試みと言えた。しかし。

「あがれええええええええええっ!!!!」

 乾坤一擲の全力全開。エンジンが再起不能になることも厭わぬ大出力をもって、和音はどうにかエイラをサーニャと宮藤の横に到達させた。

「あとは……頼みましたよ、エイラさん、サーニャさん、宮藤さん……!!」

 力尽きたように背面から地表に向けて降下していく和音。
 残された三人は、そのまま力強く空の向こうへと上昇していく。

「エイラ……エイラ……っ!!」
「大丈夫だよサーニャ。ワタシも頑張るから――黙ってて悪かったナ、宮藤」
「びっくりしましたよエイラさん……帰ったら怒られますよ?」
「いいんダヨ。サーニャを守れるなら、それくらい安いもんダロ」

 いつしか三人は雲を越え、空を越え、ついに高度30,000mの世界に足を踏み入れていた。
 もう、ここでは言葉は通じない。
 しかし、彼女たち三人が心を通わし合うのに、言葉などなくでも十分だった。
 小さく目配せして頷くと、三人はすばやく位置を入れ替え、眼前に聳えるネウロイの巨塔へと進路をとる。
最前衛に宮藤が、その後ろにはサーニャが、最後衛にはエイラが。
 鉄壁を誇る宮藤のシールドが敵の攻撃を尽くはじき返し、エイラの未来予知が最適な接近ルートを導き出す。まさに完璧なコンビネーションだった。

(ワタシが……ワタシがサーニャを守るんだ!!)

 知らず力を込めた掌を、そっとサーニャが握った。
 ――すでに敵のコアは目前だ。恐れるものは、何もない。

(行け!! サーニャ!!)

 心の中で精いっぱいの声援を送るエイラ。
 そんな彼女の目の前で、サーニャの白く細い指が流れるようにフリーガーハマーの安全装置を解除し、黒く詰めた引き金に指を乗せた。
 凛として見据える瞳の先には、すでに回避も迎撃もできなくなったネウロイのコア。
 ――そこから先は一瞬だった。
 流星のように尾を引いて飛ぶ9発のロケット砲弾がコアへと殺到し、一拍置いて凄まじい爆発を引き起こした。
 完全に粉砕されたコアは再生を果たすことなく塵となり、天を貫く巨塔の如き体躯が崩れ落ちていく。

「エイラ」
「エイラさん」
「ありがとな……二人とも」

 爆風から二人を守ったのは、他ならぬエイラのシールドだった。
 吹き飛ばされそうになったサーニャと宮藤を捕まえ、全ての魔法力をシールドに動員したのである。訓練の成果は、キチンとあらわれていたのだ。

「ううん。エイラがわたしの手を握ってくれたから……」
「カッコよかったですよ!! エイラさん!!」
「そ、そんなんじゃネーヨ、バカ……」

 用済みとなったブースターは既に切り離した。
 あとは、地上へ落下していくだけ。

「なあ、サーニャ。帰ったら、いっぱい謝るからさ、今だけは、勝手にこんなことしたの、許してくれないカ?」
「うん……うん……っ!!」
「わぁ、ロマーニャってこんなに小さいんだ……」

 遥か成層圏の高みから見下ろす絶景に、言葉を失う三人。

《……か!? …サーニャ、聞こえるかサーニャ!?》
「坂本少佐からの通信……? はい、聞こえています」
《よかった……全員無事だな? このままでは魔法力がもたん。急いで帰還しろ!!》
「了解です。任務達成、これより帰投します」

 そのまま一つの塊となって地上へと落下していった三人は、基地でまつ501の皆から祝福を持って迎えられた。無論、命令違反と無謀な独断専行を行った沖田とエイラには厳罰が言い渡されたが、二人はどこ吹く風と言ったふうに満足げであったことも付け加えておくべきだろう。

「ねぇ、和音ちゃん?」
「なんですか、宮藤さん」

 後日、自室禁錮を言い渡された和音に、宮藤はドアの外から聞いた。
 どうやって、エイラにシールド能力を開花させたのか、と。

「ああ、簡単なことですよ」

 クスクスと笑いながら沖田は答える。

「わたしのF-15に積んであった、模擬戦闘用の誘導ペイント弾を、実弾だといってエイラさんにありったけ撃ち込んだんです。いくら未来予知で逃げても追いかけてきますからね。見事、作戦成功です」
「………………」

 予想の右斜め遥か上をいく回答に絶句する宮藤。

「そ、それでどうなったの……?」
「当然エイラさんには〝当たったら死にますよ?〟と言ってあったので、もうすごい勢いで逃げてましたよ。最後はちゃんとシールドで受け止めてくれたので種明かししましたけど」
「………………」

 有史以来、かくも強引なウィッチの鍛錬方法があったのかどうか。
 宮藤はあまりの強引さに頭痛を覚えたほどだった。

「いやぁ、一か八かの賭けだったんですよ。これで開花しなかったら本当にどうしようかと……」
「か、和音ちゃんも、だいぶ501の空気に染まって来たよね……」
「え? 何か言いましたか、宮藤さん」
「ううん、なんでもないよ!」

 その後、無事作戦を完遂したサーニャには、ロマーニャ公が直々に叙勲を執り行い、新聞やラジオでも積極的に報道がなされた。
 なお、その際には当然エイラがシールドを使ったことも報道されたのだが、本人は痛く不満であったらしく、「ワタシは実戦でシールドを使わない主義なんダ!!」と地団太を踏んで猛抗議したというのだが、それはまた別のお話でありましたとさ――
 
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