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星の輝き

作者:霊亀
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第7局

 あかりの母も押しかけて来ての夕食となった。ヒカルとあかりの母たちの盛り上がり方はものすごかった。食事の後もリビングで二人で大はしゃぎしながらしゃべっていた。海王受験の話は、二人にとって、そこまでセンセーショナルなものらしかった。

「…前の私たちは海王中に入ってないんだよね。」
「…ああ、受験なんか話したこともなかったよ。普通に二人とも葉瀬中だったんだけどなぁ。まったく同じじゃないってのは分かってたつもりだったんだけど、ここまで違ってくるとはなぁ…。」
-ヒカルの二回目の影響ということですか…。
 
 ヒカルたちは、ヒカルの部屋に逃げ込んでいた。
「…とりあえず受けるだけでも受けてみろって、このままだとなっちゃいそうだよ?私はともかく、ヒカルは間違いなく合格しちゃうんじゃない?」
「…んー、あの過去問と同じレベルならなぁ。でも、塔矢と同じ学校に行くわけには行かないだろ、なんて言って諦めさせるか…。」
 あかりの複雑そうな表情に、それどころではないヒカルはまったく気がついていなかった。

-塔矢あきらと同じ学校ではいけませんか?
 そんなヒカルに、佐為が声をかけた。
「いや、そりゃまずいって。言ったろ、あいつほんとにしつこかったんだ。俺にって言うか、佐為と打つために、一時期がむしゃらだったんだよ。俺が打たなかったからって、ただ1局打つためだけに囲碁部に入るようなやつなんだぜ。そのせいでいろいろトラブルもあったみたいだけど、押し切ったみたいだったし…。そんなあいつが同じ学校になったりしてみろ、どれだけ付きまとわれることになるか…。今回は、少なくとも”最後の日”を越えるまでは誰にも邪魔させないって決めただろ?あー、こうなるって分かってたら、塔矢と会わなかったのになぁ。失敗したなぁ。あのままおとなしくしてれば、囲碁関係者に会うこともなかったんだけどなぁ…。」
「でも、塔矢くんは、ヒカルの生涯のライバルなんだよね?」
「まあなぁ。あいつがいたからこそ、俺は囲碁が強くなったようなもんだし…。あいつは佐為を追いかけて、オレと間違って失望して…、あー、今だにあのこと思い出すとむかついて来るな…。」
「だったら、やっぱり、塔矢くんがヒカルとあったことは間違いじゃないと思うよ。」 
「いや、お前と佐為がそう言うから、わざわざ作戦を考えて塔矢に会ったんだけど、こうなるとどう考えても失敗だろ、あれ。」
 頭を抱えてもだえるヒカルに、佐為が口を挟んだ。
-いえ、むしろ必然の流れなのかもしれません。

「どういう意味だよ。」
-私も、塔矢あきらとヒカルの出会いは、お互いにとってのプラスだと分かります。しかし、今回のヒカルは、あくまでも私のことを最優先に考えています。
「…そりゃそうさ、当たり前じゃん。俺は佐為に消えてほしくないんだ。もう、あんな思いはしたくないんだから…。」
 照れくさそうにそう答えるヒカルに、にこりと微笑む佐為。
-ヒカルがそう考えてくれるのは、私もとてもうれしいですよ。そしてそのために考えて動いてくれるのも。前回のとき、私とヒカルが打っていた時には何も問題は起こらなかった。ヒカルが他の人たちと打つようになり、私にも機会を見つけては他の者と打たせてくれるようになった。それから徐々に私の様子がおかしくなることがあり、私は消えてしまった。ヒカルの考えはそうでしたね。
「…ああ。…オレが打つ碁の中だけにこっそり紛れ込んでな。きれいさっぱり消えちまった。でも、今回はうまく行ってる。前は二年半くらいで消えちまった佐為が、もう倍以上経つのにぜんぜん大丈夫なんだ。このままうまく”最後の日”を超えることができたら…。」

-…超えることができたらどうなるのですか?
「え、いや、それは…、俺にもよく分からないけど…。」
-私はヒカルと打つことで強くなりました。そして、ヒカルも私と打つことで強くなりました。しかし、まだまだ神の一手には遠い…。ヒカル、このまま私たちだけで打ち続けて、神の一手にたどり着けると思っていますか?
 まるで対局時のような鋭い眼差しの佐為に、ヒカルは息を呑んだ。
「で、でも、あ、そうだ、あかり、今回はあかりもいるじゃん。今はまだ力が足りないけど、あかりは前回とは比べ物にならないくらい力をつけてる。このまま三人でがんばればいずれきっと…。」
「ヒカル…。」
-…無理ですね。それでも届かない。それにヒカル、気づいているのでしょう?私たちはあかりと何度も打ってます。それでも私は消えていない。
「そ、それは、あかりは身内だからだよ!だから大丈夫なんだ!」
-結局何の根拠もないのですよ、ヒカル。なぜ私が消えてしまったのか、どうしたら今の私が消えてしまうのか、何も分かっていない。
「で、でも!」
 必死に言い募るヒカルの前に、佐為はゆっくりと語りかけた。
-しかし、何か私は流れを感じるのです。

「…流れ?」
-ええ。以前の私は、消えるのを怖がっていたといっていましたね、ヒカル。
「…後から考えてみればってやつなんだけどな。当時のオレは気にも留めてなかったんだけど…。」
-そして、以前も今も、ヒカルは私に消えてほしくないと思ってくれていますね。
「当たり前じゃんか!」
「わ、私も、佐為が消えちゃうなんていやだよ!」
-ありがとう、ヒカル、あかり。今の私もそうです。消えたくなどはない。まだまだ碁を打ち続けたい。そして、不思議なことに、今の私には何の不安もないのです。むしろ毎日が楽しい。ヒカルやあかりと碁を打ち、ともに碁を学べるこの毎日がとても楽しい。
-…ただ、先日、違和感を感じました。ヒカルと塔矢アキラの出会いに関してです。ヒカルは最初、この時期には会わないで済ますつもりでしたね。
「ああ。」
-しかし、以前に塔矢アキラの事を聞いていた私とあかりには、二人が会わないことはあまりにも不自然に感じたのです。だから、私とあかりはヒカルを説得し、塔矢アキラとの出会いという流れができた。最後はヒカルもかなり乗り気になってましたよね。
「…まあな。」
-そして、出会いだけを作り、ヒカルはアキラとの接触をしばらく絶つことを決めていた。そうしたところに今回の出来事です。まるで、誰かが流れを修正しているかのようにも思えませんか?
「オレと塔矢の接点を作るためにか?」
-ええ、そうです。正確には、そこにあかりも交えてですね。
「え!わたし!?」

-ええ。ヒカルの前回と今回、一番大きな違いは2点です。私との出会いの時期、そして…、
「…あかりだな。」
 じっと佐為を見つめるヒカルは、いつのまにか落ち着いていた。あわてたのはあかりだ。
「え!私何か悪いことしてるの!?」
-いえ、むしろあかりがいることが。あかりの今があるからこそ、いい方向に流れているのではないのかと、私には思えるのです。
「…そうだよな、あかりがいるから佐為に会いに行く勇気がもてたし、今もこうして周りに邪魔されずに碁を打てるしな…。」
-あかりが説得したから、塔矢アキラと会ったんですもんね、ヒカル。
「えっ、そうなの、ヒカル?」
 びっくりしているあかりに、ちょっと赤くなったヒカルが頭をかきながらこたえた。
「ま、あんだけ一生懸命言われたらなぁ…。」
「そ、そうだったんだ…。」
 ヒカルの言葉を聞いて、今度はあかりが赤くなってうつむいた。
「んー、まあそれはいいとして、あれか、どうもこのままじゃ悪い流れになるから、塔矢との接点が増えるように進路が修正されつつあるって言いたいのか、佐為。」
-ええ、そうです。ですので、私には悪い流れとは思えないのですよ。
「んー、でもなー…。」


「あかりー、遅くなるからそろそろ帰るわよー。」
下からあかりの母の呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!。もうこんな時間だもんね。」
-今すぐ決めなくてはいけないことでもないのですよね。しっかり考えて見ましょう。
「…そうだな。」
 
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