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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第12話 アスターテ会戦再び


宇宙暦807年/帝国暦498年 7月18日。
ガイエスブルク要塞襲来の報に、テンボルト要塞の司令部では大騒ぎとなった。

なにしろ、テンボルト要塞は収容艦艇5000隻の中型要塞でしかない。
収容艦艇16000隻を誇るガイエスブルク要塞とは大きさからして天と地ほどもあり、それはそのまま投入できる戦力の違いも意味する。
また、ガイエスブルク要塞の主砲であるガイエスハーケンに匹敵する要塞砲があるわけでも耐え切れる装甲があるわけでもない。

しかし、だからと言って容易に逃げるわけにもいかない。

ここでテンボルト要塞を放棄して撤退することは簡単だ。
だが、それではガイエスブルク要塞が来る度、拠点を放棄して逃げねばならなくなる。

ロアキアにはガイエスブルク要塞に匹敵する要塞は存在しない。
帝都ロアキアを守護していたロアキア史上最大の要塞であるテスタメント要塞(収容艦艇15000隻)も既に銀河帝国の所有物である。

要塞の死守か、戦略的撤退か。
確かなのは、司令官のゴズハット中将が両者を天秤に掛けている間にも事態は着実に動いているということだ。

ベトラント星域にワープアウトしてきたガイエスブルク要塞は、そのままテンボルト要塞へと進撃してくる。

「ともかく、艦隊を出せ。要塞に籠っていてはどうにもならん」

要塞そのもので劣っている以上、それは当然の選択であったが、それならば銀河帝国軍も艦隊を出撃させるだけである。
出撃したゴズハット艦隊は約4000隻であったが、ガイエスブルク要塞より出撃したミュラー艦隊は8000隻と倍の戦力であった。

ゴズハット艦隊をミュラー艦隊が押さえている間にテンボルト要塞へと近づいたガイエスブルク要塞は、要塞主砲のガイエスハーケンを放つ。

一筋の光がテンボルト要塞を貫き、巨大な爆発が起こった。

この一撃でテンボルト要塞は半壊。
出撃した艦隊も倍の敵艦隊に逆撃されている。

「……全軍に通達、直ちに要塞を放棄して…撤退せよ」

勝敗は、あまりにも呆気なく決した。


* * *


テンボルト要塞が陥落した頃、銀河帝国はウィンディルム大将、クラフスト大将、ブルーナ大将の3個艦隊を(テンボルト要塞のある方面とは)別方面からオリアス支配下の宙域へと侵攻させていた。
また、マリナ・フォン・ハプスブルク大将率いる8000隻の艦隊もエルダテミア共和国のダレダン星域へと向かっているはずである。

銀河帝国軍はレイスナティア星域に入ったところで、ロアキア軍の迎撃部隊を感知した。

3個艦隊約40000隻で侵攻してきた銀河帝国軍に対して、迎撃に出たロアキア軍オリアス艦隊の数はおよそ20000隻。

2倍の戦力差である。

圧倒的戦力差から勝利を確信した銀河帝国軍は3個艦隊による包囲殲滅を企図したが、彼らの予想に反し、オリアス艦隊は急進して中央のクラフスト艦隊へと襲いかかった。

「敵艦隊急襲!」

「やられた、我が方の13000隻に対しオリアス艦隊は20000隻。これでは勝負にならん!!」

「司令官閣下……」

「とにかく応戦だ。全艦、砲撃を開始せよ!」

まるでアスターテ会戦の再現のようだが、銀河帝国軍の司令官たちは旧同盟軍の司令官たちより優秀であった。
クラフスト大将は戦死するその瞬間までオリアス艦隊に可能な限りの出血を敷き、ウィンディルム大将とブルーナ大将もクラフスト艦隊の壊滅は免れぬと判断して最短距離で合流し、オリアス艦隊に対することにした。

「旗艦バウストリクスの撃沈により敵は潰走しております。追撃はどうなさいますか?」

「不要だ。それより、他の2個艦隊の動きはどうなっているか?」

「どうやら、こちらの後方の宙域にて最短距離で合流を図る模様」

それを聞いたオリアスや参謀たちは顔をしかめる。

「これは、不味いですな……」

「ああ、各個撃破には失敗したな」

クラフスト艦隊は壊滅したものの、銀河帝国軍はまだウィンディルム艦隊とブルーナ艦隊の2個艦隊が健在であり、これを合わせるとその数は26000隻。
対するオリアス艦隊は先の戦闘で2000隻を失って18000隻である。

被弾した艦艇に無理をさせず後ろに回したことで損失艦は2000隻に抑えることが出来たものの、やはり8000隻の兵力差は厳しい。

「せめてアルダムス艦隊だけでも間に合えば良いのだが……」

アルダムス艦隊2500隻が到着すれば、先の損害を補って余る。
だが、それでも尚戦力的には劣勢だ。

「敵軍、こちらへ向かってきます」

「全艦、戦闘用意」

レイスナティア星域会戦の第二幕が始まった。


* * *


両軍が接敵してから1時間が経過した。
戦況は今のところ数で勝る銀河帝国軍が優勢であり、8000隻の戦力差から来る圧力に、オリアス艦隊はじりじりと後退を余儀なくされている。

こうなると、優勢な方では調子に乗って無駄に突出する者が現れるものであり、今回も例に漏れなかった。

「今だ、押し返せ!」

オリアスの号令と共に、ロアキア軍は攻勢に転じる。

この動きに突出していた艦艇は対応できず、瞬く間に数を減らす。

が、それでも銀河帝国軍の全体としての優勢は動かない。
まともに撃ち合えば数に劣る方の消耗が多くなるのは必然であり、オリアスが勝つためには何らかのリアクションをとる必要があった。

無論、それはオリアスとて分かっているが、敵将たるウィンディルムやブルーナも理解しているだろうことは想像に難くない。
故に、彼は動かなかった。

・・・・・

劣勢にあるにも関わらず何の動きも見せず粘り強く応戦するオリアス艦隊に、ウィンディルムとブルーナは逆に焦りを募らせていく。

両名はオリアスが劣勢を挽回するため何らかの手を打って来るのを予測し、後の先を取るつもりであった。

ところが、蓋を空けてみればオリアス艦隊は一向に動かない。
本来なら、それは喜ばしいことであるが、どこか釈然としない……。

艦隊指揮官としての実力はオリアスの方が上であるというのも、彼らの不安を増大させた要因の一つだろう。

結果、ウィンディルムとブルーナの両名はそれぞれの艦隊にオリアス艦隊中央への砲撃密度を上げる命令を下した。
オリアスが中央の指揮に専念せざるを得ない状況を作り出すことで、両翼に効果的な指示を与えられなくなることを狙ったのである。

「あのまま順当に推移していればこちらが不利だったが、どうやら上手くいったようだな」

そうオリアスはほくそ笑み、新たな命令を下す。

「第二段階へ移行しろ」

「はっ、第二段階へ」

銀河帝国軍の攻撃に耐えかねたのかオリアス艦隊の中央が崩れ出し後退していく。

「敵が崩れました」

「よし、今が好機だ。全艦突撃!」

この気を逃すまいとブルーナ艦隊副司令官であるカルタス中将の部隊3000隻が追撃を掛ける。

だが、これはオリアスの仕掛けた罠であった。

オリアスは意図的に後退することで被害を軽減させると共に、カルタス分艦隊を凹陣に引き込んで集中砲火を浴びせ掛けたのである。

「戦艦モントリオット撃沈。副司令官カルタス中将戦死!」

「してやられた……これがオリアスの狙いか! だが、依然兵力では此方の方が上だ。このまま押し切る」

「十時方向に新たな敵、数2500!」

「何? 敵の別動隊か!?」

それは、ロアキア軍の増援として駆け付けたアルダムス艦隊であった。

「殿下、ご無事ですか?」

「ああ、よく来てくれた。これで対等に戦える」

この時点で、オリアス艦隊は約15500隻。
銀河帝国軍は約21000隻。

アルダムス艦隊が加わったことでロアキア軍は18000隻となり、兵力差は3000へと縮まった。

「ここまでだな……ウィンディルム、卿はどう思う?」

『私も同感だ。あのオリアス相手に僅か3000隻程度の優位でぶつかろうとは思わんよ』

「卿もそう思うか。損害こそ甚大だったが、オリアス軍の主力を引きつけるという戦略目標は達している。これ以上の戦闘は無用だな……全軍に撤退を命じろ」


宇宙暦807年/帝国暦498年7月19日午後2時10分。
銀河帝国軍の撤退を以ってレイスナティア星域の会戦は終結した。

ロアキア軍の方も戦力的に優位に立っているわけでは無いのでこれを見送り、追撃などは行わなかった。

銀河帝国軍の損失艦艇17000隻に対し、ロアキア軍の損失艦艇は4500隻。
だが、後の歴史には、ロアキア軍の戦術的勝利・銀河帝国軍の戦略的勝利と刻まれることになる。





==今日のアドルフ==

「よお、アッテンフェルト。元気だったか?」

「オイ、なんだそりゃ? 俺をあの猪とごちゃ混ぜにすんな!!」

「あん? お前の名前ってミミック・アッテンフェルトじゃなかったっけ?」

「俺の名字はアッテンボローだ! しかも名前に関しちゃ1文字すら合ってねぇよ! つーかミミックって……俺はトラップの宝箱型モンスターじゃねぇつーの!」

「はいはい、ワロスワロス」

「…………」

今日もフェザーンは平和であった。
 
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