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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―理由―

 1対1でデュエルを始めかねないヨハンを、追い出すように俺の部屋から出してから、俺は【機械戦士】デッキを机の上に置いていた。俺と明日香は目の前のソファーに座り、ヨハンが来る前の態勢へと戻る。

「遊矢。あなたをカードケースをどこへ?」

「ああ、デッキの調整の前に……やっておきたいことがあるんだ」

 今はデッキの調整より前に、やらなくてはならないことが出来た。ヨハンの【宝玉獣】デッキと戦って、俺が考えたことを自己完結する。

 そのためには。

「なんで俺は、機械戦士を使ってるのか。それを思い出したいんだ」

 思い出すとは言っても記憶喪失という訳ではなく、ただ新たなデッキを作る前に思い返しておきあたいだけだ。誰にだってあるだろう、今使っているデッキを組んだ理由が。

 誰か大切な人に貰ったでも、ただパックで当たっただけでも、イラストが気に入ったでも……カードの精霊に選ばれたでも。デュエリストとそのデッキの数だけ、そこには必ずしも一つの物語があるものだ。

「明日香には……聞いていて欲しい」

「分かったわ。そうね、紅茶でも飲みながら」

 そう言ってソファーから立ち上がり、二人分の紅茶を用意しようとする明日香に感謝しつつ、一声かけずにはいられなかった。

「……俺は緑茶で」

 確実にどうでも良いことではあるが、俺は紅茶より緑茶派だった。……そして驚きだったのが、俺が言う前に明日香が緑茶を用意していたことだ。

 二種類のお茶と、話し手となる俺に聞き手の明日香の準備が完了し、俺は【機械戦士】と関わった記憶をたどり始める。

「中学生ぐらいの頃まで、俺はデュエルモンスターズに触れてなかった」

 正確には触れてなかった訳ではないが、デュエリストでは無かったというべきか。友人たちに貸してもらったデッキで、ルールも知らずに幾度か遊んでいた程度だ。

 実家の機械工場を手伝っていた俺だったが、そこである噂を聞いた。……こんな片田舎に引っ越して来た、物好きなお金持ちがアンティデュエルを行っていると。

 俺が住んでいた田舎は大したカードもなく、そのお金持ちの息子から見れば現地のデュエリストは、まさしくカモだったことだろう。友人たちはみんなそのお金持ちに敗れて、自分のデッキを失っていった。

 偶然その現場を見つけて止めに入ったんだが、デッキを持ってないと相手にされず、そのアンティデュエルの現場を止めることは出来なかった。だったら俺も、そのデッキとやらを用意してやる……って、子供らしい正義感が働いた。

 だけどカードショップもまともにない田舎で、ただの子供が簡単にデッキを手に入れることは出来ない。どうしようかと思いながら、実家の手伝いをしていた時。

 ……家の近くにあったジャンク品の山で、捨てられていたカードを見つけた。どれもこれもステータスが低く、初心者の俺にも弱いと解るカード群たち。

「それが……」

「ああ、【機械戦士】だ」

 友人たちのおかげで簡単なルール具合は知ってたし、適当に40枚集めて実家の手伝い放り出して、俺はそのまま町に出かけた。

 そこで見つけたのは、またもやアンティデュエルの現場だった。今から思い返すと、何とも運が良い話だが。

 アンティデュエルに負けてデッキを取られていたのは、当時面識は無かった、現在の妹分の早乙女レイ。彼女も《恋する乙女》デッキを、アンティデュエルで失うところだった。
 そこで、俺が勝ったらみんなのデッキを返して、俺が負けたら家にあるデッキを全部やるって条件で、そのお金持ちとアンティデュエルをした。……もちろん、俺に家にはもうほとんどカードは無かったけど。

 そこにいたレイからデュエルディスクを借りて、そのお金持ち……名前は何だったかな、覚えてない。……準ってことにしておこう。

「それって、万丈目くんじゃないわよね……」

「……もしかしたら、そうかもしれないな」

 恐らくは人違い――というか中学生の時、万丈目は既にデュエル・アカデミアにいる――だが、準(仮)ということにしておく。そこで、俺と準(仮)とのデュエルが始まった。

 それが、俺と早乙女レイと【機械戦士】との出会いで、俺のデュエリストとしての初デュエルだった。レイから、相手のデッキは《悪魔族》と《ドラゴン族》の、混合【ハイビート】デッキって聞いたが、当時の俺にはさっぱりだ。

「そのデュエルの内容、覚えてるの?」

「まあ、一応。細かいところは間違ってるかも知れないし、あまり気が乗らないが……」

 とは言っても、これは【機械戦士】の改良の為に自ら始めたもので、明日香には付き合ってもらっている立場だ。【機械戦士】の為にも明日香の為にも、正直に思い返すしか無いだろう。

『デュエル!』

遊矢LP4000
準(仮)LP4000



 ――目の前には倒すべき相手と、後ろには守るべき少女、そして負けられない戦い。遊矢少年は、そのプレッシャーを楽しんですらいた。

「後攻か……」

 基本的にこのゲームは先攻が有利ということを知ってか知らずか、デュエルディスクに表示された後攻の文字に少し残念そうな声を漏らした。

「先攻はくれてやるよ、初心者!」

 だが、準は経験者故の驕りからその権利をあっさりと手放し、遊矢少年へと先攻を譲った。当然その心には負ける気などなく、ただの過剰な自信でしかない。

「オレのターン、ドロー!」

 気合いを入れてカードをドローするものの、所詮はただ拾い集めただけのデッキであり、思うようには回らない。結果としてどうすれば良いか戸惑い、遊矢少年は悪手を打ってしまうことになる。

「オレは《ワンショット・ブースター》を守備表示!」

ワンショット・ブースター
ATK0
DEF0

 対戦相手の準は遠慮なく噴き出し、見学していたレイは驚愕してワンショット・ブースターを見る。効果も壁モンスターに相応しい効果ではなく、ただの弱小モンスターにしか過ぎなかったからだ。

「ええと……ターンエンドだ!」

「素人が! 俺のターン! ドロー!」

 今までデュエルして勝ってきた相手以下と見るや否や、勝ったも当然とばかりに準はカードをドローし、まずは小手調べのモンスターを出した。

「まずは《サイクロプス》、攻撃力1200!」

サイクロプス
ATK1200
DEF1000

 おどろおどろしく初陣を飾ったのは一つ目の巨人、《サイクロプス》と呼ばれるモンスターで、その一つ目でワンショット・ブースターと遊矢少年を睨みつけた。

「さらに《ビッグバン・シュート》を発動し、攻撃力を400ポイントアップ!」

 サイクロプスの強靭な腕が炎に包まれていき、さらに攻撃力を400ポイントアップするが、遊矢少年にはその意味は解らなかった。ワンショット・ブースターは守備表示だし、攻撃力1200ならサイクロプスの方が、上昇するまでもなく上回っているからだ。

「攻撃力を上げても、守備表示モンスターには……」

「ビッグバン・シュートの効果は――」

「おっと!」

 《ビッグバン・シュート》を知らなかった遊矢少年に、自身のデュエルにおいても使用されたレイから助言が飛ぶが、準はそれを片手で制した。

「デュエル中の助言はルール違反だ! サイクロプス、ワンショット・ブースターに攻撃!」

 サイクロプスの腕がワンショット・ブースターに突かれると、ワンショット・ブースターは粉々になってしまい、その破片が遊矢少年へと飛んできた。初めて体感する、ソリットビジョンのダメージは少し身体に堪えたが、そんなことよりダメージを受けた疑問の方が先だ。

遊矢LP4000→2400

「な、なんでダメージが……!」

「ビッグバン・シュートを装備したら、守備表示モンスター相手でもダメージを与えられるの!」

 不思議がる遊矢少年にレイからのアドバイスが飛んだが、準からはレイにカード手裏剣が飛んでいき、レイを威嚇した。そしてそのカード手裏剣にしたカードはもちろん、レイのデッキのカードである。

「キャッ!」

「デュエル中のアドバイスは禁止だと言ったはずだ! 次にやったら反則負けにするぞ! ターンエンドだ!」

「わざわざありがとう、大丈夫だ。オレのターン、ドロー!」

 レイに感謝の言葉を告げながらカードをドローしたが、やはりどうにも攻勢に出れるカードは来ない。だが、準の理不尽な行動を見た遊矢少年は、むしろ落ち着いてカードをセットした。

「俺は《マッシブ・ウォリアー》を守備表示!」

マッシブ・ウォリアー
ATK600
DEF1200

 ワンショット・ブースターとは違い、守備向けのモンスター効果を持っている要塞の機械戦士を召喚し、さらにフィールドを整える。

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「守備一辺倒か? 俺のターン! ドロー!」

 力強くカードを引き、そのままドローしたカードをデュエルディスクに叩きつけるように、準はそのモンスターを召喚する。その行為にレイと遊矢少年は眉をひそめるが、準には特に悪い意識などない。

「粉砕しろ、《ミノタウロス》!」

ミノタウロス
ATK1700
DEF1000

 巨大な斧を持ち、真紅の鎧を着込んだ牛の化け物が現れ、先にいたサイクロプスの横に並んだ。カードは乱暴に扱ってはいるが、準にカードたちへの思い入れがないわけではなく、むしろカードたちを信用していると言っても良い。

 そのカードたちを信用するだけの『理由』が、彼にはあるのだから。

「バトルだ! サイクロプスでマッシブ・ウォリアーに攻撃!」

 その理由から、彼はリバースカードなどお構いなしに攻撃を選択する。強靭な腕でマッシブ・ウォリアーに殴りかかったが、マッシブ・ウォリアーの盾は貫かれない。

「マッシブ・ウォリアーは一度だけ攻撃が効かない」

 効果の理解が微妙に違うものの、マッシブ・ウォリアーはその言葉通りにサイクロプスの攻撃を防ぎきったが、さらにミノタウロスの攻撃が迫り来る。

「ならミノタウロスで粉砕だ! アックス・クラッシャー!」

「伏せてある《くず鉄のかかし》を発動! ミノタウロスの攻撃を無効にする!」

 ミノタウロスの豪腕から振るわれる巨大な斧だったが、マッシブ・ウォリアーの前に現れたくず鉄のかかしに阻まれ、その攻撃はマッシブ・ウォリアーに届かない。さらに、《くず鉄のかかし》はその攻撃では破壊されず、そのまま遊矢少年のフィールドに戻っていく。

「《くず鉄のかかし》は再び伏せられる」

 合計三回の攻撃を敵に強制する布陣に、遊矢少年は少し気を良くしながらニヤリと笑う。

「チッ、くず鉄どもめ……! ターンエンド!」

「オレのターン、ドロー!」

 しかし、次のターンに準のフィールドに新たなモンスターが召喚されれば、この布陣を準は突破出来る。遊矢少年もそれは良く解っているので、攻勢に出れるカードを引くように祈りながらドローした。

「よし! 《マックス・ウォリアー》を召喚!」

マックス・ウォリアー
ATK1800
DEF800

 その祈りが通じたのかは定かではないが、三つ叉の槍を持った機械戦士をドロー出来る。今では信じがたいことではあるが、遊矢少年のデッキの中で、効果も併せてこのモンスターが最も攻撃力が高かった。

「さらに《ドミノ》を発動し、バトル! マックス・ウォリアーでサイクロプスを攻撃! スイフト・ラッシュ!」

 マックス・ウォリアーは、攻撃時にその攻撃力を400ポイントアップする。偶然にもサイクロプスも、《ビッグバン・シュート》によって同等のポイントがアップしているが、一方的にサイクロプスが破壊された。

「これぐらい……」

準LP4000→3400

 準のライフポイントを始めて削ることに成功し、遊矢少年はさらに嬉々として永続魔法の発動を宣言した。

「《ドミノ》の効果を発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、こっちのモンスターとそっちのモンスターを破壊する! オレは……マッシブ・ウォリアー》と《ミノタウロス》を破壊!」

 またもや微妙にカードの効果が間違っていたものの、問題なくマッシブ・ウォリアーとミノタウロスはドミノ倒しのように倒れ、二体とも墓地に送られた。これでフィールドにいるモンスターは、マックス・ウォリアー一体だけとなる。

「マックス・ウォリアーは戦闘で相手を破壊したら、攻撃力が半分になる。ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! ……思い出したぞ、お前のデッキを!」

 《くず鉄のかかし》があるから一度の攻撃は防げるな、などと考えていた遊矢少年に、いきなり声を荒げた準の声が木霊した。思い出したも何も、今日拾ったカードで作ったデッキに、何を思いだしたというのだろうか。

「そのデッキは【機械戦士】とかいう最弱のファンデッキ! お前にお似合いのデッキだ……そして俺のデッキは!」

 遊矢少年やレイにとっては何やら喚きながら、準は高々とデュエルディスクを掲げていた。その自らのデッキを象徴するかのように。

「俺のデッキは伝説のデュエリスト、海馬瀬人のデッキだ!」

「海馬、瀬人……」

 デュエリストであればその名を知らぬ者はいない、伝説のデュエリストの名前にレイは息を飲んだ。世界に三枚しか現存しない、《青眼の白龍》をキーカードにした彼のデッキは、どうやっても再現出来ない筈なのに。

「まさかキミ、カラーコピーを……」

「するか、そんなこと! 海馬社長が絶対に許さないことの一つだ!」

 レイの恐る恐る尋ねた質問に、準は腕を振り上げて怒りを示しながら答えた。彼にとっては、憧れの海馬社長が全てなのだろう。

「……でも、みんなのデッキを奪って……」

「うるさい! 俺は海馬社長に近づかなきゃならないんだから、武者修行みたいなもんだ!」

 武者修行がしたいならばデッキを没収する必要は無いのだが、そこはまだ子供故の考えの足りなさというべきか、ただ実力を示したいだけなのだ。

 ……その尊敬する海馬社長も、カラーコピーやらカードの強奪やらをしていたのを知らないのは、彼にとって幸いだったところだろうか。

「海馬社長のデッキに、そんな最弱のファンデッキが勝てる訳がない!」

「……あ、ごめん。聞いてなかった」

 準の宣誓をまるで聞いていなかった遊矢少年だが、わざと聞かずに相手を挑発するような性格ではない。

 彼は拾い集めた【機械戦士】デッキが、デッキという体を成していることを聞いて、少し思索に耽っていた。一人がまとめて捨てたとは思えぬ、無造作に捨てられたカードたちを拾い集めただけなのに、それでデッキとなっているらしいのだから……子供心に、運命的なモノを感じざるを得なかった。

 そして、良くは聞いていなかったが、そんな運命のデッキを『最弱』などと呼ばれれば……闘志が出るのも当然だった。

「だったら伝説のデッキに勝ってやる!」

「生意気な……魔法カード《黙する死者》! 墓地から《ミノタウロス》を守備表示で特殊召喚する!」

 デュエルが再開され、発動された魔法カードにより蘇生する《ミノタウロス》。遊矢少年は知り得ないことであるが、特殊召喚したミノタウロスは、《黙する死者》のデメリット効果で攻撃することは出来ない。

「更に《大嵐》を発動して貴様のカードを破壊! さらに《クロス・ソウル》!」

 《大嵐》によって、《ドミノ》と《くず鉄のかかし》が破壊されていくのに驚いたが、それより遊矢少年が驚いたのはマックス・ウォリアーが消えていくこと。大嵐が二枚のカードを破壊して止んだ後、何故かマックス・ウォリアーまでもが消えていくのだった。

「《クロス・ソウル》は相手モンスターをリリースし、こちらのアドバンス召喚に使える! ミノタウロスと貴様のマックス・ウォリアーをリリースし、出でよ! 海馬社長が使いし龍! ――《ダイヤモンド・ドラゴン》!」

ダイヤモンド・ドラゴン
ATK2100
DEF2800

 遂に降臨する《青眼の白龍》――ということが出来る訳もなく、現れたのは宝石龍の一体である《ダイヤモンド・ドラゴン》。レベル7で2100のステータスは、正直に言うと扱いに困るのだが、その巨体はカードの無い遊矢少年を圧倒していた。

「バトル! ……と行きたいところだが、このターンは見逃してやろう。ターンエンド」

「……オレのターン、ドロー!」

 見逃してやるとかそういうことではなく、ただ《クロス・ソウル》のデメリット効果で攻撃出来ないだけなのだが、遊矢少年はそんなことを知らずにカードをドローした。

 準の思惑が何にせよ、遊矢少年のフィールドに何もないことは確かなのだから。

「俺は……《スピード・ウォリアー》を召喚!」

スピード・ウォリアー
ATK900
DEF400

 そんな状況でフィールドに旋風とともに召喚されたのは、後のフェイバリットカードである《スピード・ウォリアー》。マイフェイバリットカードと言っていなくとも、この局面で召喚されるのはやはりこのモンスターなのだ。

「装備魔法《ファイティング・スピリッツ》を装備し、バトル! スピード・ウォリアーで、ダイヤモンド・ドラゴンに攻撃!」

 スピード・ウォリアーに装備された《ファイティング・スピリッツ》から、エネルギーが溢れ出してエネルギーを与え、スピード・ウォリアーはダイヤモンド・ドラゴンへと向かっていく。その体格差と攻撃力の差は一目瞭然であったが、それでもスピード・ウォリアーは向かっていく。

「迎撃しろ、ダイヤモンド・ブレス!」

「スピード・ウォリアーは召喚したターンのバトルフェイズのみ、攻撃力が倍になる! そして、《ファイティング・スピリッツ》によって更に300ポイントアップ! ソニック・エッジ!」

 ダイヤモンド・ドラゴンからの攻撃が放たれるが、スピード・ウォリアーはその攻撃力を効果によって上昇させ、ダイヤモンド・ブレスをまともに受けきった。スピード・ウォリアーは自身の効果によりその攻撃力を1800にし、ファイティング・スピリッツによって更に300ポイント上昇させたことで、その攻撃力はダイヤモンド・ドラゴンと同じになる。

「相討ちか……!」

 準の歯噛みした言葉とは裏腹に、スピード・ウォリアーの蹴りの一閃によって、ダイヤモンド・ドラゴンは破壊された。ダイヤモンド・ブレスは、《ファイティング・スピリッツ》によるエネルギーを削るのみに終わったのだ。

「《ファイティング・スピリッツ》は装備モンスターの身代わりになる! スピード・ウォリアーは破壊されない!」

 よってダイヤモンド・ドラゴンは破壊されたものの、スピード・ウォリアーは無傷で遊矢少年のフィールドに舞い戻る。ファイティング・スピリッツは失ってしまったが、準の切り札の《ダイヤモンド・ドラゴン》を倒したのだから、安いものだと考えた。

「ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー! 《強欲な壺》を発動し、更に二枚ドロー!」

 一方の準は落ち着いて《強欲な壺》で手札を補充する。もちろん切り札が破壊されてショックではあるが、海馬社長は怒りながらも次なる手を仕込むのだと考えたからだ。

「俺は《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を召喚し、《ドラゴンを呼ぶ笛》発動!」

ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-
ATK1100
DEF1200

 ドラゴンの骨を被った魔法使いが召喚され、さらにその存在意義ともされる魔法カードを準は発動する。遊矢少年はデュエルに詳しくなく、故にそのことは知らなかったのだろう。

 海馬瀬人のデッキには、海馬瀬人自身の切り札たるドラゴンが三枚投入されていて、一体倒しただけではまだまだだということを……!

「このカードは、手札のドラゴン族モンスターを二体特殊召喚出来る! 来い、二体の《ダイヤモンド・ドラゴン》!」


 先程スピード・ウォリアーが破壊した準の切り札、ダイヤモンド・ドラゴンが更に二体現れる。《くず鉄のかかし》が破壊されてしまった今、スピード・ウォリアーを守るリバースカードはない。

「バトル! ダイヤモンド・ドラゴンでスピード・ウォリアーに攻撃! ダイヤモンド・ブレス!」

「うわああっ!」

遊矢LP2400→1200

 ダイヤモンド・ドラゴンの攻撃に、ファイティング・スピリッツがないスピード・ウォリアーでは耐えることは出来ず、遊矢少年のライフの半分と共に墓地に送られた。

「トドメだ! ダイヤモンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「手札から《速攻のかかし》を捨てることで、バトルフェイズを終了する!」

 手札から巨大化して飛び出した《速攻のかかし》が、あわやというところでダイヤモンド・ブレスを防いだことで、何とか遊矢少年のライフは守りきられた。トドメだとばかり思っていた準は、露骨に舌打ちをしてターンを終了させた。

「ターンエンドだ!」

「オレのターン、ドロー!」

 準のフィールドにはダイヤモンド・ドラゴンが二体に、ドラゴン族モンスターに耐性を与えるロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-がいて、ライフポイントは3400。

 対する遊矢少年のフィールドには何もなく、そのライフポイントも1200と心許ない数値である。

 そんな絶望的な状況でドローしたカードは、起死回生のカード……という訳にもいかないが、準のフィールドに多大な影響を与えるカードだった。

「オレは《光の護封剣》を発動!」

 準のドラゴンたちとドラゴンを統べる魔法使いが、突如として上空から降下してきた光の剣に閉じ込められた。ロード・オブ・ドラゴンがドラゴンに耐性を与えると言っても、その耐性は所詮対象に取る効果のみ、光の護封剣に対しては無力だ。

「……《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚し、ターンエンドだ」

 だが、遊矢少年の手札では《光の護封剣》による足止めと、ガントレット・ウォリアーを壁として召喚する事しか出来なかった。耐性を持ったダイヤモンド・ドラゴンたちを、倒す術は無かったのである。

「防戦一方か! 俺のターン、ドロー!」

 《光の護封剣》を破壊するカードを引けば勝てる、そう思いながら準はカードをドローしたが、引いたカードはモンスターカード。先程《大嵐》を使ってしまった準としては、《巨竜の羽ばたき》をドローするほか無い。

「命拾いしたな……《サイクロプス》を召喚」

 最初のターンに切り込み隊長として召喚された、一つ目の巨人が再び召喚された。もうそのステータス等は判明しているため、特に警戒はしなかったが。

「ターンエンドだ」

「オレのターン、ドロー! カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 準のダイヤモンド・ドラゴンを閉じ込める《光の護封剣》が一本消えたが、遊矢少年はリバースカードを伏せたのみでターンを終了する。《光の護封剣》が完全に消える前に、あのダイヤモンド・ドラゴンを突破できるか。

「オレのターン、ドロー! ……カードを一枚伏せてターンエンド」

 準のターンにはなったがリバースカード以外に特に動くことはせず、これで光の護封剣による剣は残り一つとなった。もはや準は、魔法カードを破壊するカードを引かずとも、時間経過でも遊矢少年を倒せると考えていた。

「オレのターン、ドロー!」

 そんなことは露知らず遊矢少年はカードをドローしたが、《光の護封剣》が消えても問題のない布陣を敷けるカードをドロー出来ない。

「……カードを一枚伏せ、ターンを終了」

 ここからは両者ともに特に動くことはなく、遊矢少年が《ガントレット・ウォリアー》にリバースカードが二枚、準は《サイクロプス》とリバースカードが一枚新たに伏せられた。

 そして効果が適用される最後のターンで《光の護封剣》の効力が切れ、待ちかねていたとばかりに《ダイヤモンド・ドラゴン》達が嘶きを上げると、準のターンへと回って来た。

「オレのターン、ドロー!」

 遊矢少年のフィールドにいるのは、ただの壁モンスターでしかない《ガントレット・ウォリアー》。どっちみち、ダイヤモンド・ドラゴンたちの敵ではないと考えたが、準は念には念を入れて魔法カードを発動した。

「魔法カード《守備封じ》を発動! ガントレット・ウォリアーを攻撃表示にする!」

「なっ!?」

 ガントレット・ウォリアーはその守備の態勢を封印されてしまい、ダイヤモンド・ドラゴン達に対して攻撃の意を示す。

「バトル! ダイヤモンド・ドラゴンでガントレット・ウォリアーに攻撃! ダイヤモンド・ブレス!」

 ダメージを通さない守備表示から変更され、ガントレット・ウォリアーはダイヤモンド・ドラゴンと対峙する。準は遊矢少年の伏せてあるリバースカードは、当然こちらの攻撃を防御するものだろうと考えていたが……

 確かに遊矢少年がリバースカードを発動する、というのは準の読み通りではあったものの、攻撃を防ぐ気などさらさら無かった。

「リバースカード、オープン! 《反転世界》!」

 デュエルフィールド一帯の世界が反転していき、敵味方構わずにその反転世界へと巻き込んでいく。フィールドごと変えるというその影響力に、ロード・オブ・ドラゴンでは抗うことが出来なかった。

「《反転世界》は、フィールドのモンスター全ての攻撃力・守備力を入れ替える!」

 その効果によって守備力の高いガントレット・ウォリアーは、低い攻撃力を守備力に回して攻撃力を上げる。だが、発動されたリバースカードに準は我慢ならずに高笑いをした。

「そんなものは無駄どころか、お前の首を絞めるだけだ! ダイヤモンド・ドラゴンの守備力は2800! よって、その攻撃力は2800となる!」

 ガントレット・ウォリアーが力を増すと共に、ダイヤモンド・ドラゴンの攻撃力もまた上がる。2800の攻撃力となったダイヤモンド・ブレスが、ガントレット・ウォリアーに殺到した。

 だがそれを、ガントレット・ウォリアーの前に現れたガーディアンが防ぎきった。

「手札から《牙城のガーディアン》を発動していた! このカードは手札から捨てることで、守備力を1500ポイントアップする……よって、ガントレット・ウォリアーの攻撃力はその効果も併せて3100!」

「3100だと!?」

 《牙城のガーディアン》の力を借りてダイヤモンド・ブレスを弾き、ガントレット・ウォリアーはその腕甲を持った腕で、ダイヤモンド・ドラゴンを破壊した。

準LP3400→3100

 切り札の一体がガントレット・ウォリアーに迎撃され、他のモンスターはそのステータスよりも低い。そんな状況でありながら、準はふてぶてしく不敵に笑っていた。

「ダイヤモンド・ドラゴンは破壊されたが……《反転世界》は、やはり俺に利することになる! リバースカード、オープン! 《死のデッキ破壊ウイルス》!」

 満を持して発動されたリバースカードは、海馬瀬人の象徴たるカードの一枚である《死のデッキ破壊ウイルス》。その発動には、攻撃力1000・闇属性のモンスターを触媒にする必要があるが、サイクロプスの攻撃力は……《反転世界》の影響で800だ。

 《死のデッキ破壊ウイルス》は、サイクロプスを触媒に遊矢少年のフィールドへと感染していくと、攻撃力が3100を誇るガントレット・ウォリアーが溶かされていく。遊矢少年の攻撃力1500ポイント以上のモンスターは、全て死滅する運命となってしまうのだ。

「ガントレット・ウォリアー……!」

 ガントレット・ウォリアーは溶けてしまい、遊矢少年はその一枚しかない手札――速攻魔法《手札断殺》――を準に晒した。ガントレット・ウォリアーのことを悲しんでいる暇もなく、まだ準のフィールドには攻撃が可能なモンスターがいるのだ。

「トドメだ! ダイヤモンド・ドラゴンでダイレクトアタック! ダイヤモンド・ブレス!」

「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドローする!」

 ダイヤモンド・ブレスをカードの束が防ぎ、何とかその攻撃を防ぎきりながら、カードを一枚ドローする。引いたカードは攻撃力1000の《ソニック・ウォリアー》であり、《死のデッキ破壊ウイルス》によって消滅しないものの、今はあまり役に立たないモンスターだった。

「チッ……ロード・オブ・ドラゴンでダイレクトアタック! 竜魂招来!」

「ぐぁ……!」

遊矢LP1200→100

 《反転世界》の影響でダイヤモンド・ドラゴンを倒せたが、同じく影響で《死のデッキ破壊ウイルス》を発動させてしまい、更に影響でロード・オブ・ドラゴンのダイレクトアタックをギリギリ持ちこたえた。

 リバースカード一枚でこうも二転三転する、デュエルモンスターズの醍醐味とも言える展開に、遊矢少年はこの時に心を奪われたのかもしれない。

「ターンエンドだ!」

「オレのターン……ドロー!」

 敵は強大であり、ライフポイントもまだまだ残っている。ロード・オブ・ドラゴンに護られた、ダイヤモンド・ドラゴンを倒す手段など、遊矢少年の現段階の【機械戦士】には存在しない。

 だが、せっかくその楽しさが解ったというのに、負けてしまえば準にデッキが奪われてしまう。そんなことは嫌だという子供らしい気持ちが、遊矢少年にカードをドローさせた。

「オレが引いたのは《貪欲な壺》! そのまま発動して二枚ドローする!」

 《死のデッキ破壊ウイルス》の効力はまだ続いており、遊矢少年はカードを晒すと共に発動する。墓地の機械戦士たちを五体デッキに戻し、デッキから二枚カードを引いて準に見せる――罠カード《リミッター・ブレイク》が二枚。

 そして遊矢少年の手札に残る魔法カードは、先のターンに晒された通りに《手札断殺》である。

「速攻魔法《手札断殺》を発動! お互いに二枚捨てて二枚ドロー!」

 可能性をデッキに残るカードに託す更なるドローだったが、そのドローはそれだけではない。墓地に送った二枚のカードが光り出し、フィールドに旋風を巻き起こした。

「なに!?」

「墓地に送られた二枚《リミッター・ブレイク》の効果を発動! デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚出来る! ――来い、スピード・ウォリアー!」

『トアアアアッ!』

 威風堂々とした雄叫びがフィールドへと響き渡り、二体のスピード・ウォリアーがダイヤモンド・ドラゴンと対峙する。そのコンボと光景に準はしばし驚愕したものの、たかだか一度破壊した下級モンスターだと気持ちを新たにし、遊矢少年のデッキに感染しているウイルスの発動を宣言する。

「《死のデッキ破壊ウイルス》の効果だ! ドローしたカードを見せろ!」

 まだ遊矢少年のデッキに《死のデッキ破壊ウイルス》は感染しているため、最上級モンスターが来ようとも、ただ墓地に送られるのみだ。……準には二体のスピード・ウォリアーを、何らかのコストやアドバンス召喚に使うことしか頭に無かった。

 しかし遊矢少年が見せたカードは、二枚の魔法カードであってモンスターですらない。一枚はダイレクトアタックを可能とする通常魔法カード《クロス・アタック》であり、もう一枚は速攻魔法――

「俺は《クロス・アタック》を発動し、バトル! スピード・ウォリアーでダイレクトアタックだ! ソニック・エッジ!」

 ――遊矢少年が見せた魔法カードに準は硬直したが、リバースカードが無い彼に止める術はもう無い。同じ攻撃力のモンスターがいる時、片方のダイレクトアタックを可能とする《クロス・アタック》により、スピード・ウォリアーは準へのダイレクトアタックを成功させた。

準LP3100→2200

 だが準のライフポイントからすれば微々たるダメージで、次のターンでダイヤモンド・ドラゴンでスピード・ウォリアーを破壊すれば、準の勝利でこのデュエルは終結する。しかし遊矢少年は、準が恐れていたもう一枚の魔法カードをデュエルディスクに置いた。

「速攻魔法《狂戦士の魂》を発動!」

 最後の《手札断殺》で引いていたカードは、《クロス・アタック》とこの速攻魔法《狂戦士の魂》。まさに起死回生のカードと言えた、もはや伝説にもなったカードである。

 そんなことを遊矢少年が知る由も無いけれど、落ちていたカードたちで唯一のレアカードだったため、そのデッキに投入されていた。

「攻撃力1500以下のモンスターがダイレクトアタックに成功した時、カードを一枚ドローする。そのカードがモンスターだった場合、何度でも! 何度でも! 何度でも攻撃が出来る! ドロー!」

 準のライフポイントの残りは2200、二回連続でモンスターカードを引けば、あるいは逆転が出来るというあり得ない可能性。その可能性に遊矢少年は賭けるほかなく、スピード・ウォリアーとデッキを信じてカードを引いた。

「一枚目は《レスキュー・ウォリアー》! このカードを墓地に送り、ソニック・エッジ!」

 
「ぐふっ……!」

準LP2200→800

 墓地で発動する《ソニック・ウォリアー》の効果によって、モンスターカードを連続で引かなくてはならない回数は一度減っている。遊矢少年は、決着を付けるべく更にもう一枚カードをドローすると、準とレイの元へとそのカードを晒した。

「二枚目のカードは……《ワンショット・ブースター》!」

 ……二枚目にドローされたのは、先攻一ターン目に破壊されてしまっていた機械族、《ワンショット・ブースター》。遊矢少年が《貪欲な壺》によりデッキに戻したカードだが、準にとって最初に破壊した雑魚モンスターによって、自らの敗北が確定したようなものだった。

「スピード・ウォリアー、三度目の攻撃! ソニック・エッジ!」

「うわああああっ……!」

準LP800→0

 準のライフポイントは0を刻んだものの、《狂戦士の魂》はその名前の通り自分では止めることが出来ず、魔法・罠カードが来るまで攻撃は続く。

「三枚目は……《奇跡の残照》だ」

 三枚目に引いたカードは罠カード《奇跡の残照》であり、少し残念がっていながらも、遊矢少年は初デュエルにて勝利したのだった。



「……とまあ、こんな感じだったかな」

 このデュエルから本格的にデュエリストになったり、デッキを真っ先に取り替えしたレイに懐かれたり、友人とデュエルしたりなど色々なことをした。やはり思い返してみると、あのデュエルが俺の転換期だったのだろう。

「……レイちゃんとの馴れ初めは後で聞くとして」

 若干黒い笑みを見せた明日香が、俺のデュエルディスクから取り外していた【機械戦士】を取り出した。新たな機械戦士やシンクロ召喚により、一線から退いた機械戦士はいるものの、そのデッキのモンスターたちは長年愛用してきたモンスターたちが占めている。

「私も……ね」

 明日香もデュエルディスクから【サイバー・ガール】を取り出すと、そのデッキを愛おしそうに見つめた。

「強いデッキじゃなくて楽しいデッキ……兄さんにそれを教わって、このデッキを作ったのよね……」

 誰にだって自分が使っているデッキには思い入れがある筈で、好きなカードで勝ちたいという気持ちがある筈だ。俺はそれをいつも、デュエルをする前にいつも口に出しているじゃないか。

 『楽しんで勝たせてもらうぜ』――俺の信条でありデュエルする理由を、俺は勝利にこだわるあまり少し忘れていたのかもしれない。【機械戦士】をデッキケースにしまい込むと、飲んでいなかった緑茶を一気飲みした。

「手伝ってもらって悪いが、明日香。【機械戦士】の大幅な改造は……無しだ」

「そうね……その方が、良いかもしれないわね」

 俺は【機械戦士】とともに強くなっていく、そう決意していた初デュエルのことを思い出した今、他のカテゴリーを入れる気にはなれなかった。

 この頃感じていた、俺はこのままで勝てるのかという迷いは晴れていく。そして、俺は【機械戦士】とともに楽しんで勝たせてもらう、ということを改めて誓ったのだった。

「それで遊矢、レイちゃんの話なんだけど……」

「……帰れ、明日香」

 
 

 
後書き
という訳でフラグクラッシュ!

 ……すいません。そもそも【機械戦士】強化フラグは、自分がデュエル展開を思いつかなくなったから、つまり自分の実力不足からカードプールを増やして、デュエル展開の選択肢を増やそうとした訳です。

TGが第一候補でしたが、ここで強化してしまえばファンデッキではない! という内なるツッコミにより、フラグクラッシュと相成りました。

期待してくれた方、すいません。遊矢のデッキは【機械戦士】のままになります。

感想・アドバイス待ってます。

※《反転世界》は効果モンスターに効かない、ということを忘れていました……《ダイヤモンド・ドラゴン》や《サイクロプス》にまで効果が適応されていて、修正不可能です……すいません。 
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