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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第十三話

 
前書き
 最近マジで指が進まない。 

 
 海鳴ロックフェス二日目がいよいよスタートした。オープニングアクトはONE OK ROCKの「完全感覚Dreamer」で飾り、最初から観客をいじめるつもり満々である。その後もマキシマムザホルモン、Dir en grey、Acid Brack Cherry、ゴールデンボンバーと続き、ノンストップで拳を突き上げっぱなしであった竜二達は、流石に疲れたのかその後腕を揉みながら売店のスペースで一服していた。

「のっけから派手にやるのうおい」
「そういや、お前の弟分もこのステージ出るんだろ?何やるのか聞いてないのか?」
「知らん。俺もあいつには言うてないし、お互い本番までのお楽しみって奴や」
「ふーん」

 翠屋のスペースから離れ、ステージに近いところでドリンク片手にのんびりする四人。今演奏されているのは、flumpoolの「星に願いを」。ちなみに昨日と同じように演者も一般客に混じって楽しんでいいというかなりリスキーなシステムなのは、インディーズまたはアマチュアバンドだけのフェスだからだろうか。

「ま、いいけどね。その方が俺も楽しみが増える」
「そういうことや」
「よう、元気か?昨日いきなり離脱しやがったけど」

 から揚げやたこ焼きなどをつまみながら談笑していると、そこにウォッカを瓶でラッパ飲みしながらフレディがやってきた。竜二が一瞬苦そうな顔を見せるも取り繕う。

「あ……あ、ああ、なんとかな」
「そいつはよかった。あのままじゃ俺も寝覚めが悪い。何もしてねぇのに泡吹いて倒れられたのは長年生きてる俺も流石に経験してなかったから新鮮っちゃ新鮮だったけどな」
「ああ、そうかい……」
「ところで兄ちゃん、ちょっと付き合えよ。話がある」
「また余計な事をするつもりじゃないでしょうね?」

 フレディに横槍を入れたのはアスカだった。先日フレディとのやりとりで突然体調を崩した竜二を知っているし、この男からは決して隠し切れない血腥さがある。

「何もしねぇし昨日だって何もしてねぇよ……って言っても信じやしねぇだろうから、お嬢さんもついてくるといい」
「俺を気絶させて食い散らかそうもんなら……」
「クカカカ、すっかり信用なくしたな俺も。ま、当然か」

 空気を鳴らす笑う彼特有の笑み。あまり経験のない他二名はかなり身を引いている。

「まぁ安心しろ。そんな事をするつもりならお前さんとの初対面の時にしてるさ」
「……その目が信用ならんが、そらそうか。まぁええわ」

 彼との力の差は歴然。逆らうと何をされるかわからない以上従うしかないと竜二は判断した。



 それを物陰から見ていた数人の男達がささやきあう。

「例の八神竜二って男ですが、時空管理局員との接触が確認されました」
『よし。引き続き奴等の監視に当たれ。アースラ内部のことは他の隊員に任せるといい』
「はっ。全ては新しき世界と秩序のために」
『うむ。頼むぞ』

 通信を切断して機械を仕舞うと、リーダー格の男がそこにいた数人に小さく命令を告げる。。

「いいか。これからしばらく先も先程までと同じく、八神家の監視だ。勝手な行動は慎め」
「しかしリーダー、場所も相手もわかってるなら早仕掛けの方がいいのでは?」
「まだ襲撃に必要な武装が届いていない。奴等の戦力を甘く見るな。八神兄妹はともかく、他は仮にも幾億の時を戦い続けた生粋の戦士達が相手となるのだからな」
「まぁ、それは確かに怖いですわな……」

 気弱そうな細身の男が返すと、リーダーはうなずいて続ける。

「慎重に慎重を重ね、万事整うまで待つほうがよい。襲撃は、闇の書完成時だ。変更は無い」
「それまでに部隊をそろえておけってことですよね?」
「ああ。少しずつ本部からも増援がきている。まずは彼らと合流するのが先だ」
「今で何人いるのかしら」

 男だけかと思われたが、服装でわかりにくかったようで、女も混じっていた。見た目は他の男達と見分けがつかない。

「把握しているだけで200人はいる。決戦兵器を相手取ると考えればこれでも足りないほどだがな」
「無駄に兵隊増やしてどうすんのって気もするけど」
「無駄口を叩くな。各自調査に戻れ。それと、『奴』にそろそろ動けと伝えておけ」
「「了解」」

 そして男達は散らばっていく。

「闇の書、そして主たる八神はやて……あれだけの犠牲者を出しておきながら貴様ら自身はのうのうと暮らすなど、許せるはずがない。さぁ、そろそろ死ぬ覚悟を決めてもらおうか」

 そんな中、リーダー格の男が一人たたずんでいる。

「八神はやて本人に恨みはないが、あの守護騎士とは名ばかりの殺戮兵器を野放しにしている時点で笑止千万、言語道断。殺す理由はそれだけで充分だ。我等が同胞を犠牲にしてでも、その首貰い浮ける」

 そしてその男も、姿を闇へと変えて消えた。白昼堂々だが、誰も気づくことはなかった。



 竜二とアスカはフレディに連れられ、とある広場にやってきた。先日フレディがビスカイトと戦った場所だが、竜二達はそんなことなど知りもしない。割れた地面の場所からは離れているため、彼らの居場所からは見えない。

「何やいったい、こんなところで」
「お前さんなりの戦う決意ってのを聞かせてもらいたくてな」
「戦う決意……?」

 突然何の話をしようとしているのか竜二にはわからなかったが、フレディは続ける。

「先日お前さんに見せたな。俺が人を殺すところ。あの時倒れたのはそのフラッシュバック。違うか?」
「……ああ」
「まさかそれでああなって潰れちまうとは俺も思ってなかっが、それはお前さんの中で『知識と覚悟』が足りないからだ」
「何やねんいきなり?」

 これまでの態度からは想像もつかないほどの真剣な話題だった。そして外道とも呼ばれるこの男が、関わってきた期間も短く、また会うかどうかもわからない人間相手に戦う覚悟を問うなど、竜二からすれば理解が追いつかずに思考停止寸前である。

「戦いを続けていく限り訪れるぞ、あんな場面は。俺たちと同じ土俵で戦うってのは、ああいうことは起こりうるどころか日常茶飯事からな」
「何言ってるのかさっぱりなんやが……アンタらが使う魔法は普通非殺傷なんやないん?クロノ辺りは確かそう言ってたんやけどな」
「ああ。犯罪者とはいえ民間人だ。俺たちのいる時空管理局ってのははあくまで治安維持組織であって軍隊じゃねぇから、そうホイホイ殺していいわけじゃない」

 フレディはズボンのポケットからタバコを取り出してジッポライターで火をつける。武装も本格的に戦闘用のものを使ったり、本格的な実戦訓練をカリキュラムとして取り入れているため勘違いされてしまいがちだが、あくまで武装局員は殺すために戦うのではなく、次元犯罪者を無力化して捕らえるためなのだ。その結果殺してしまうことが多々あるだけで。

「だが、普通じゃない奴らだって世の中にはいるさ。俺みたいにな」
「……そういう奴らと会ったときに、俺に相手が殺せるのかって聞きたいんか?」
「それも含めて、お前さんが出した答えを聞きたい。まさか何も考えてない、なんてことはないよな?それだけの力をお前さんは持ってるわけで、戦う力を持つってことは人の命を懸けることや選ばなきゃならないことなんていくらでもあるぞ」
「……」

 竜二は何一つ答えられなかった。普段は軽い雰囲気を持つこの男だが、彼から今発せられているプレッシャーは相当のもの。また竜二も何も考えていないわけではないが、そんなことを考えて話ができるような余裕がないとも言えた。そこで彼が捻り出したのは、この会話を投げかけてきた当初からの疑問。

「……なんでアンタはそこまで俺を気にかける?」
「ん?まぁ……俺がこの町にいるのは今日で最後だっていうのもあるし、お前さんのことは結構気になってはいたからな。老婆心みたいなもんだと思ってくれや」
「ってことは、受けてた仕事が終わったのか」
「まぁ、そうだな。明日には帰ることになった。残ったこっちの金は……まぁ、お前さんらのうちの誰かにくれてやらんでもないわ。お前らで決めとけ」

 フレディは空に向けて紫煙を吐き出す。あっさりととんでもないことをいったが、その前にぶつけられた問いへの答えを探す竜二は気付けない。

「……今はまだ、答えは出ねぇか」
「……ああ」
「そうか。まぁ、今までお前さんは何も知らなかったんだ。仕方ねぇさ。歴戦の戦士だってこれは悩む問題だ。だが……」

 それだけ返すと、フレディはあっという間に吸いきったタバコを自らの右拳で握って火を消した。そのまま竜二に接近すると、その握った拳でいきなりボディブローを叩き込む。

「がはっ……?」
「主!?」
「お前さんの力は中に向けるのか外に向けるのか、それくらいは決めておけよ」

 それは人間の弱点である鳩尾に突き刺さった。わずかな間だが呼吸ができなくなり、倒れそうになる竜二を支えるアスカは当然、いきなりそんな真似をしたフレディに食って掛かる。

「フレディさん、これはどういうつもりですか?」
「足手まといになるから連れて帰れってことだ」
「は?あなたがここに連れてきたのに?」

 あまりにも理不尽で自分勝手。そんな理由で主を傷つけられたのかとアスカは怒りに震えそうになるが、フレディの次の言葉で冷や水を浴びせられたかのように思考が戻る。

「あの話はいわゆるついでって奴だ。さっさと戻れ。戻れなくなる前にな」
「それはどういう……っ!?」

 それでもなお文句を叩きつけようとしたアスカが何かに気付く。フレディもその様子を見てうっすらと笑みを浮かべた。

「気付いたか?今ならまだ『連中』との距離がある。この話はあくまで連中を引き寄せるための暇つぶしと、俺はここにいるぞって言ってやっただけだ」
「貴方って人は……」
「早く行け。俺はアンタみたいないい女を持つ男は死なせたくねぇんだ。寝取る楽しみがなくなるからな」
「……覚えておきなさい、この外道」
「3秒で忘れてやるさ」

 そしてアスカは竜二を肩に担ぐと、普段見せる態度からは想像もできない恨みがましい声で一言残し、転移魔法でその場を離れた。

「さぁてクソッタレ共、この爆音で周りは気付けねぇ今のうちにドンパチやっちまおうぜ」
「フレディ・アイン=クロイツ……間違いない。この男だ。さっきの男女はどこへやった?」
「答えてやると本気で思ってるのか?それにまずは自分らが何の用でここにいるのかを答えるのが先じゃねぇのかい?」

 そこに現れたのは、十数名の黒ずくめ集団だった。全員すでに各々の得物を構えている。

「まぁ答えたところで、リリカルマジ狩るキルゼムオールってなァ!」
「一人だからと油断するな!確実に殺せ!」

 フレディは拳を握ると、集団へと突っ込んでいった。



 ちょうどその頃。翠屋のエリアではリンディとクロノがかしこまっていた。壮年の男性がスーツ姿で現れたからだ。

「グレアム提督、お久し振りです」
「ああ。久し振りだな、二人とも」

 年齢を感じさせつつ、相手に迫力すら与えるその大柄な肉体を持つ男性はギルバート・グレアム。かつて艦隊指揮官や執務官長を歴任した。現在は現場からは退き、時空管理局提督の顧問官として勤めている。またフレディの部隊の監視役もしているが、これはフレディの存在そのものがあまりおおっぴらにできないため知られていない。

「今回は一体何があったのです?」
「至急の目的としてはアレの回収だ。こっちでも好き勝手しているだろうからな」
「アレ……ああ、確かに。仕事は片付いたというのに、未だにこっちで遊び呆けているようです」
「全く彼らしいな。笑い事ではないが」

 呆れたような仕草をする三人。もはや名前ですら呼ばれていない時点で彼に対する印象が窺い知れる。

「実はもう一つあってな。八神はやてという少女か、八神竜二という青年を知らないか?なにぶん彼らの資産管理をしているのだが、顔を全く見せないというのもいささか失礼にあたるだろうと思ってな」
「竜二さんならアレに連行されて戻ってませんが、はやてちゃんは向こうの車椅子の女の子ですよ。僕から話を通しておきましょうか?」

 サーチャーか何かを飛ばしているのか、離れているはずなのにフレディの居場所を特定するクロノが指すのは、少女グループに混じって談笑しているはやて。

「いや、そこまではいいよ。ありがとう」
「わかりました。では僕達は一旦これで」
「ああ」

 そして翠屋の業務に戻る二人。クロノの態度がまるで近所のおじさんとでも話すかのように若干砕けた調子なのは、グレアムがハラオウン家と家族ぐるみの付き合いをしていたことと、公式な場所での会話ではなかったからだろう。

「お父様、周辺の調査、終了しました」
「ああ、ロッテもアリアもお疲れ様」

 すると、グレアムの前に猫耳と猫尻尾を供えた美女が二人現れた。彼に仕える双子の使い魔、リーゼ姉妹。ロングヘアで背筋がぴしっとしたのがアリア、ショートカットで若干だらしない雰囲気を見せるのがロッテである。

「結構きな臭くなってますよ、このあたり。闇の書の影響でしょうか?」
「奴の魔力がちらほらと残っているのが気がかりだな……ただ遊んでいるだけにしては随分と濃い。何かが起こっているのは間違いないだろう」
「あの野郎に任せたら、間違いなくぶっ壊して終わらせますからね……せっかくこんな平和で楽しそうな雰囲気なのに」

 この二人からもとげとげしい言葉をぶつけられているフレディ。時空管理局の悪役であり、どぶさらいであるからにして仕方ないのかもしれないが、本人の性質もまた多分に含んでいると思われる。

「ああ。それだけは阻止せねばならない。正直なところ、闇の書程度なら奴と奴のデバイスでどうにかしようと思えばできる」
「それをしようとしないのは、クライドさんの弔い合戦だから、ですか?」

 クライド。その言葉を聞いたときにグレアムの表情が暗くなる。

「……ここで彼の話を出すな。どこで彼女が聞いているかわからんぞ」
「はいはい。早くクロスケに甘えたいなぁ」
「仕事が終われば思う存分甘えてきたらいいじゃない」

 アリアにたしなめられて、若干機嫌を損ねているロッテであった。



「山口直人だな?」
「……いきなりこんなところ引っ張ってきやがって、何の真似じゃワレ」
「答える必要はない」

 仕事の休憩中、いきなりバインドで縛り上げられ転移魔法で人気のない公園のような場所へと連行された直人。そこには十数名の管理局員の制服を着た魔導士がいた。

「お前が語ることができるのはただ一つ、プレシア・テスタロッサの居場所だけだ」
「はぁ?知らんわそんなもん。お前らが勝手に調べたらええやん」
「無駄な時間は嫌いでな。さっさと答えぬとこのままでいてもらうぞ?」
「それは困るなぁ……俺もうすぐしたらステージに行かなアカンし、店の仕事かて残ってるんや」

 彼は詰問をかわしつつ隙をうかがう。すでにこのバインドがどれほどのものなのかは調べがついており、自分の力だけで十分破壊と脱出が可能との判断を下している。魔力結合を解除する類の能力は付与されていないし、バインドにこめられた魔力そのものも彼からしたらお粗末なものだからだ。

「ならばさっさと吐け」
「アンタらアホか?そもそも俺みたいな、管理局員ですらない人間に誰がわざわざそんなこと教えんねんな」
「無駄な時間も無駄口も嫌いだと言ったはずだが」
「ほなら俺をこうして捕まえてる時間こそが無駄やでな」
「貴様!」

 男の一人が直人を殴ると、その瞬間にバインドに魔力を通し、力づくで破壊した。

「行くでジューダス、セットアップ!」
「Yes,sir.Selected "Hunter Style".」

 そしてバリアジャケットをまとい、二挺拳銃を腰の両側に、大剣を背中に差したスタイルとなる。

「それがあの魔女の作った新型デバイス、ということか。ミッドとベルカの技術を融合させた、近代ベルカの試作機を間近で見るのは初めてだ」
「なんでお前らがそんなこと知ってるんのかは知らんが、俺にこいつを起こさせたってことはお前ら腹はくくってるんやろうなぁ?」

 笑顔で右手を差し出すと、煽る仕草で挑発する直人。

「セットアップする時間くらいくれたるわ。準備できたらいつでもかかってこいボンクラ共!」
「貴様……我らを舐めてかかったこと、後悔するなよ小僧ッ!」

 局員が数名がかりで隔離結界を展開し、戦闘状態に入った。直人は結界を維持する装置または術式を壊さないように戦う必要がある。なぜなら、それだけの大型魔法を彼は放てるからだ。

「ちっ、いきなり弾幕の雨かいな……先輩みたいにバリア張れたら楽なんやろうなぁ」
「Are you OK?」
「心配無用!すぐにでも全員沈めたるわいや!」

 大小も形もさまざまな魔力弾が彼を襲う。最小限の動きでかわそうとするも、数発は食らってしまう。特に一人が放つ弾幕ではないため、いつどこからどんな軌道で飛んでくるのかわからないのが厄介な点といえるだろう。

「せやけどなぁ……どれもこれも軽い!軽すぎるんじゃい!」

 そう。なのはやクロノなどの場合、けん制であろうとそれなりの魔力を込めてくるのだが、彼らの場合弾数を増やすことに集中している為か、一発の威力がとても小さい。

「それに、後ろから追っかけてくる弾丸は遅い!せやから弾同士ぶつけて相殺できる!」
「構うな!撃ちまくれ!」
「こりひん奴らやな。ほないっちょ魅せましょってか!?」

 すると直人は飛び上がり、二挺拳銃を腰から抜く。すると。

「だららららららららららららららららららららららららららららららららららァッ!」

 魔力カートリッジを両方とも一発消費し、薬莢を吐き出した。すると銃口の前に巨大な魔力弾ができあがると、そこから分散した凄まじい数の魔力弾が数名がかりで襲い掛かってくるそれと相殺している。

「バカな、これがベルカの力!?」
「うろたえるな!接近させなければ負けはない!」
「ふーん、このままやったらジリ貧かいな。ほなしゃあないか……抜刀!」

 カートリッジ分の魔力を消費すると拳銃をしまいこみ、剣を抜いた。鍔の部分に装備されているカートリッジリボルバーから薬莢を一発吐き出すと、地面に突き刺して剣の持ち手をまるでバイクのアクセルスロットルのように片手で捻る。

「こいつを防げたら褒めたるわ。行くで、フルスロットル!」
「"Heat Booster"ignited.Let's rock it my master!」
「受け取れ、狂った贈りモンじゃ!クレイジー……ヘルファイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 すると、突き刺さった剣の先からまるで龍のようにうねる炎が地面を割って噴出してきた。

「な、な、な、なんじゃこりゃァァァァアアアアアッ!?」
「退避、総員退避ィィィィィィィイイイイ!」
「逃がすと思ってるんならお前らの頭相当めでたいで。ジューダス、炎の制御任せた!」
「Yes,sir.」
「ヒートブースター、オン!スラァァァァァァッシュ!」

 今度はカートリッジを消費せずに、直人自身の魔力で剣に炎をまとわせた。直人のデバイスであるジューダスとは、彼が炎熱変換の素質を持っていることに気づいたプレシアがそれを最大限生かすために作ったワンオフものだ。とはいえベースはきちんと存在していて、監理局が押収していたベルカ式デバイスにミッド式の装備を追加したもの。また冒頭に男が述べた、ベルカ式とミッド式を融合した魔法式に向けて、プレシアが挑戦し弾き出した一つの答えの形でもある。

「うわぁぁぁああっ、こっちくんなぁぁぁぁぁっ!?」
「どいつもこいつも焼き払ってくれるわ!ハァァァァッハッハッハッハッ!」

 しかし彼に渡されたのはプレシアが入院する直前であり、そこから半年も経っていないのにここまで使いこなしている。それは単に事前知識を生かせるスタイルだからなのか、あるいは元々彼が魔法について全く知らなかったからなのかは定かではない。驚いている敵陣の深い場所へと切り込んでいくが、戦場において油断は命取り。彼の背後に斧状のデバイスが迫る。

「Master!Caution!Please look back!」
「わかっとるわ!」
「バカな、何故これに気付ける!?」

 しかしジューダスに言われるまでもなくわかっていたらしい直人はすぐに剣を振り戻してそれをはじき返し、隙ができたところを飛び膝蹴りで沈める。

「ゴフッ!?」
「舐めんなよコラ。背中とられるのに注意するのは集団戦の常識やろが」

 そして剣を構えなおすと、敵の集団に向かって吼えた。

「さぁ次はどいつじゃい!一匹残らず灰にしてくれるわァッ!」
「殺せ!」



 同じ頃、フレディの方は片がついた様子。

「ば、化け物ォッ……」
「否定はしねぇ。非殺傷でも衝撃は殺せねぇからな。クカカッ」

 既に立っているのは彼一人で、その足元には腰を抜かし、仮面を剥ぎ取られたた男が一人。周囲の人間は傷一つなく気絶している。何人かは死んでいるのかもしれない。

「お前らがどういう理屈でこんなところにいるのかだとか何で俺を襲ってきたのかなんて俺にとってはどうでもいい。お前を生かした理由は、この場所の後片付けをやらせるためだ」
「は、はいぃぃぃ……」
「じゃ、しっかり頼むぜ。俺はこれからもう一仕事あるからよ。クククッ」

 そういって笑い、しゃがんで肩を叩いたフレディが、彼には悪魔の手招きに見えた。彼が去っていった後、青年は震えながら言葉を漏らす。

「あんなのが、あんなのが管理局にいるなんて、先輩達は何も……局員は人殺しなんてできないんじゃなかったのかよ……」

 若き青年の言葉は虚空へと掻き消えて言った。 
 

 
後書き
 マジ狩るは誤字にあらず。8000くらいでも読んでくれるよね……(震え声 
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