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LIAR

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第三章

「本当にね」
「じゃあそれでいいよね」
「モーゼルでね」
「それに一緒に食べるのは」
「チーズはどうかな」
 これも同じだった、しかもそのチーズは。
「カマンベールでね」
「それともう一つ欲しいけれど」
「モツァレラでどうかな」
 こう来た、このことまで一緒だった。
 私はこのことに内心驚きを隠せないまま彼に答えた。
「じゃあそれをお願いするわ」
「夜は長いし飲もうか」
 彼の口癖だった。ワインの時はいつも言っていた。
 見ればその仕草も服装も何もかもが同じだ、その全く同じ彼の導きを受けて私はこの日二人でいることを楽しんだ。
 このことからはじめて私は彼と付き合おうかと考えた。けれど。
 その私に友達の彼女がこう言ってきた。
「何かまた付き合ってるって?」
「聞いたのね」
「少しね。その相手があの彼そっくりだっていうけれど」
「そうよ」
 その通りだと私も答える。
「本当に何もかもがね」
「そっくりなのね」
「最初見て驚いたわ。けれど名前もお仕事も違うから」
「今度は彼のお仕事は何なの?」
「プログラマーよ」
 前の彼は証券会社の営業だった、明らかに別人だ。
「しかも生まれも違うから」
「前の彼は神奈川だったけれど」
「あの人は埼玉よ」
 同じ関東でも違っていた、神奈川と埼玉ではまた違う。
「そこの生まれなのよ」
「じゃあ明らかに別人ね」
「そうね。けれどね」
「そっくりなのね」
「何もかもがね」
 私はこう彼女に答えた。
「声までね」
「それもなの」
「仕草だけでなくね」
「本当に何もかもなのね」
「そうなのよ。それでね」
「それで?」
「どうしようかしら」
 私は彼女に相談することにした、暫くそうしたことはしないつもりだったけれど彼があの彼にあまりにも似ていたから。
 どうしても頭の中で一つになってそれで尋ねた。
「今回は」
「前に言ったと思うけれど」
 彼女は私に少し考える顔になって言ってきた。
「暫くはね」
「そうしたことは離れてよね」
「一人でいるのがいいかもって言ったけれど」
「じゃあ今もなの」
「いえ、そこまでそっくりなら」
 その考える顔で私に言ってくる。
「あんた自身が考えてみたらいいわ」
「私自身が」
「そう、あんた自身がね」
 こう私に言ってくる。
「どうするか決めたらいいわ」
「そうなのね」
「ええ。ただ」
「ただ?」
「その彼と前の彼は違う人よ」
 私の目を見て言ってきた、迷い悩んでいる私の目を見て。
「そのことはわかったうえで付き合わないまた同じよ」
「嘘を言っていることになって」
「嘘は言葉だけじゃないからね」 
 態度でも吐く、そういうものだから。 
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