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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第二章
  十四話 陸戦試合スタート!

 
前書き
夏休みだから……十四話 

 
「ふっふっふっ……」
朝早く。クラナは相変わらず、日課のランニングをこなしていた。朝の空気が、カルナージはひときわ美味しい。山々と木々のお陰で空気が澄み渡っているからであるのは、疑いあるまい。
清らかな小川の流れる音はは耳に心地よく、所々の起伏は体に程良い負荷を掛けてくれる。

[これだけでも、此方に来たかいが有りましたねぇ]
「そうかもね。さて、もうちょい頑張ろうかな」
クラナは現在、陸戦場からは少し離れた場所を走っていた。陸戦場には今なのはやスバルがおり、朝練ついでに今日の陸戦試合のミーティングをしているらしい。

[陸戦試合ですか~チーム戦なんて本当に久しぶりですね!]
「そうだね……」
[……相棒?何か心配事でも?]
「え?あ、いや……」
心配したようなアルの声に、クラナは少し迷ったような表情を見せた。

「まあ、ちょっとね。誰とどう言う戦闘になるか分からないからさ、少し……」
[相棒]
「え?」
溜息交じりのような(まぁ付かないが)声で言ったアルに、クラナは首を傾げる。

[そもそも初めから誰とどう言う戦闘になるか分かっている試合等私には覚えが有りません]
「ぷっ……」
アルのその言葉に、クラナは思わず。と言った様子で吹きだした。それはそうだ。と言うかそんな試合も戦闘もこの世界には存在するまい。
勿論クラナが気に掛けているのはそんな所では無い。もう少し込み言った部分。自分とヴィヴィオやなのはが戦闘になる事で、起きずとも良い無用な混乱や、あるいは誰かが傷ついたり悲しんだりするのではないか。と言う点だ。

たかだか訓練なのにも関わらず、心配のし過ぎだと思うだろうか?
しかし、ほんの小さなきっかけがあらゆることを駄目してしまう例などこの世には道端の石のように其処らじゅうに転がっている話だ。たとえその小さなきっかけがなんであるか分からないにしろ、人と関わらなければ起こらなかったはずのそれが、関わってしまったために起こってしまう。その可能性は、関わる限り決して0にはならない。

まぁ、しかし……

「それもそうだね」
そればかり気にしているのは、交通事故を恐れながら歩道を歩くような物だ。懸念はあっても、そればかり気にしていては何もできない。
それを気にして何もしなかったのがついこの前までの自分ならば、何事かが起こるとしてもすこしずつ、手探りでも進む事にしたのが今の自分だ。
とにかく、やってみるしかない。そう自分を納得させて、クラナは再び走り出した。

────

さて、それから数時間。朝食を食べて少し腹ごなしに運動したり食休みをした後で、メンバー全員がトレーニングウェアやジャージ姿で陸戦場に集まっていた。無論、昨日はサボ……もとい、出ていなかったライノもだ。

「はい、全員そろったね。それじゃあ試合プロデューサーのノーヴェさんから!」
「あ、アタシですか!?」
フェイトが突然自分を示したことで、ノーヴェは慌てたように顔を赤くする。

「よっ!プロデューサー!!」
「うるせぇぞライノ!!えーっと……」
ライノの煽りに更に赤面しつつも、ノーヴェは頬を掻きつつ説明を始める。

「ルールは昨日伝えた通り、青組と赤組、七人ずつのチームに分かれたフィールドマッチです」
言うと、ノーヴェは懐から青色のタグを取り出して全員に見せる。既にメンバーに配られているそれは、DSAA(公式魔法戦競技会)という組織に置いて、魔法戦技による競技のライフ計算に使われるライフ計算用タグで、競技者が受けた衝撃やダメージ、損傷を数値化して戦闘不能値を定めて計算してくれる、所謂ライフ管理システムだ。
と言う訳で……

「ライフポイントは今回もDSAA公式試合用タグで管理します」
そして最後に、一番重要な事。

「後は皆さん、怪我の無いように頑張りましょう」
「「「「「「「「「「「「「はーいっ!!」」」」」」」」」」」」」
全員が元気に返事をして、それぞれのチームに分かれる。

「それじゃあ赤組、元気に行くよ!」
フェイトが言って、

「青組も、せーのっ!!」
なのはが言うと……

「「「「「「「「「「「「「「セーット・アーップ!」」」」」」」」」」」」」」
全員が武装(セット・アップ)まぁ一部武装形態出会ったりやたら静かな奴がいるのだが、それはこの際描写しない。
それでは此処で、青組赤組、それぞれのメンバー構成を説明しておこう。

赤組
FA(フロントアタッカー)LIFE 3000
ノーヴェ
アインハルト
クラナ
WB(ウィングバック)LIFE 2500
コロナ
GW(ガードウィング)LIFE 2800
フェイト
CG(センターガード)LIFE 2500
ティアナ
FB(フルバック)LIFE 2200
キャロ

青組
FA
スバル
ヴィヴィオ
GW
エリオ
リオ
ライノ
CG
なのは
FB
ルーテシア

赤組は前衛重視
青組は中衛重視パーティだ。

バランスの偏りが有るようにも思えるが、其々の専門上まぁ仕方がない。

軽く全員で戦術を確認すると、各チームの前ホロウィンドウが現れる。其処に、メガーヌと何故か登場した銅鑼の前に居るガリューが表示された。

「それじゃあ皆元気に」
ガリューが撥を引いて……

「試合開始~!!」
ジャァァァァァァン!!!

それにしてもこの母上、ノリノリである。

「ウイングロード!!」
「エアライナー!!」
戦闘開始と同時に、FAの二人が空中に足場を展開する彼女達の固有魔法を発動する。ちなみにこの魔法、名前は違うが基本的は効果は同一だ。

「行くよ!リオ!」
「オッケーヴィヴィオ!」
リオとヴィヴィオが立て並びに走り出す。と、少し離れた所から

「さてさて……んじゃ行くか?」
[Yes sir]
ライノの言葉にウォーロックが返す。

「コロナさん、私は、ヴィヴィオさんの方に向かいたいのですが……」
「はい!リオの方は任せてください!」
かたや反対側ではコロナとアインハルトがこんな話をしていて……

『それじゃ、行くよ!アル!』
[Roger]
クラナも、中心地に向けて走り出す。

さて、其々のチームの前衛二名が、初めに自身の持つ固有魔法、ウイングロードとエアライナーを使った事には二つの意味が有る。一つは自分達の得意戦術。ローラーと足場を使った陸上と同レベルの高速軌道を空中でも行うため。
そしてもう一つは、激戦区になる事が確定な中央部で、陸戦型のメンバーにも立体的な軌道を行わせ、戦闘の幅を広げるためだ。

そんな中央部で、前線メンバーは次々に接敵してく。

『エリオとの一対一なんて久しぶりだなぁ……油断したら落とされちゃうかも……』
「行くよ、ストラーダ!今日こそフェイトさんを撃ち落とす!」
[ja bou!!]
青組GW エリオ
赤組 GW フェイト
接敵(エンゲージ)

と、エリオとフェイトが接敵している少し離れた更に中心部では……

ノーヴェとスバルが行き成り大激突していた。
ノーヴェが牽制に連続して放った魔法弾を、スバルはプロテクションとナックルで次から次へと叩き落としていく。そのままウイングロードとエアライナー上でローラーをフル稼働させ、一気に一気に接近すると……スバルのガードの上に、ノーヴェの脚鋼が叩きつけられる。
肘でスバルは受け止めているように見えるが当然そんな訳はない。きっちり、彼女の腕とノーヴェの脚の間には青色のプロテクションが展開されているからだ。

「流石にやるね!ノーヴェ」
「ッたりめーよ!!」
快活な笑顔でそんな事を言ったスバルに、強気な笑顔でノーヴェが返す。
一度大きく足を振ったノーヴェの力に逆らう事無くバックステップしたスバルはしかし、即座にローラーを最大出力で回転させてノーヴェに向けて突進する。
対するノーヴェも、はじいた体勢から床を蹴り飛ばして一気に接近し……

「とは言え私もお姉ちゃんだから……!」
[Cliber shot]
「仕事じゃともかく格闘戦技(ストライクアーツ)じゃ……!」
[Revolver spike]
互いのデバイスがマスターに魔力を送り、次の一撃の威力を高め……

「負けないッッ!!」
「負けねーッッ!!」
激突する!!

────

さて、そんなこんなで始まった試合、他の所でもCG対決のなのはVSティアナや、FB対決のルーテシアVSキャロ。もう一つのFA対決である、ヴィヴィオVSアインハルト等、興味深い対決が目白押しなのだが……其処を敢えて見ることなく、此処で二つほどのカードをピックアップしてみるとしよう。それでは、此方である。

────

中央部より少し青組側、足場が無くなり始める辺りまで、クラナは入りこんでいた。

『そろそろ接敵してもいい頃だけど……』
『そうですね……ッ!相棒、九時より熱源、数五!雷撃弾です!』
「(ライノか!?)アル!」
[Acceleration]
報告とほぼ同時に回避動作を取る。思考と行動の速度が跳ね上がり……

「ふっ!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン!と風切り音と共に、クラナが細かいステップを繰り返して、それらを最小限の動きで躱す。

『更に熱源、数四!……!?炎熱弾です!』
「(炎熱変換!?……成程!)」
跳んで来た紅蓮と弾丸を、今度は少し大きめの動作で躱す。雷撃弾と違い、着弾の際に爆発によって炎がまき散らされるからだ。

クラナ DAMAGE 0 LIFE 3000

「たーっ!!」
「(リオか!)」
突如、ビルの上から人影が飛び出した。少し薄めの紅を基調とした民族武道着風のバリアジャケットに、普段の彼女よりも少し高い背と長い藍色がかった黒い紙。セットアップした、リオ・ウェズリーの姿に間違い無かった。

「てぇぇっ!!」
「フッ!」
空中から魔力破裂により勢いよく迫って来るリオを、クラナはバック宙で躱す。

「まだまだっ!!」
しかし終らぬとばかりにリオは両の拳に炎を纏わせ……

「!」
「虎砲!(エン)!!」
一気にクラナに肉薄。両拳を突き出した。
それを……

「(甘いよ!)」
しかしクラナは加速した状態の為即座に体制を修正。既にバックステップで下がっている。既に間合いには居ない。

「(よし、一旦距離を……)」
『!?相棒!まだですっ!!』
「!?」
「逃がしません!!」
言われて初めてクラナは気が付く。リオの両手の炎が消えていない。いやそれどころか……

「(収束して……!?)」
「紅蓮拳!!」
収束した火炎が、一気に打ち出されてクラナを呑みこんだ。

────

「はぁっ……や、やった……!」
クラナを呑みこんだ炎を見て、リオは歓声を上げた。引き付けて、不意打ちからの大技のラッシュである。それなりに魔力を使うし、それだけ集中する必要もあった。
しかし、上手く行った。これで撃破ならずとも、少なくとも初撃で大ダメージを与える事には成功しただろう。

クラナが強い事は聞いて居た。まだ油断はできないが、それを考えれば十分な成果だ。そう思えた。しかし……

「…………」
「……え、えぇ!?」
炎の中から再び現れたクラナは……

クラナ DAMAGE 50 LIFE 2950

殆ど全くと言っていいほどの、無傷だった。

「(そ、そんな!間違いなく直撃したのに、あの規模の炎熱砲撃で殆どダメージが無いって、ど、どう言う事!?と言うかあたしの隠し技最大出力だったのに!)」
「……今の砲撃」
色々な意味でショックを受けて混乱しているリオに、不意にクラナが声を掛けた。いやまぁ正確には本人がそのつもりなだけで傍から見ればそうとも思えないような呟くような言葉だが。
しかし目の前に居たリオにはしっかり届いたらしい。驚いたようにびくぅッ!?と反応する。

「は、はいっ!?」
「……いや、元々、両手で撃つのか?」
「え!?あ、いえその……」
クラナの言葉は、ぎもんだった。と言うのもクラナにしてみると、先程の砲撃は、彼がみた通りに両手で撃つよりも、片手に収束させてからの砲撃と言う方が、一般的な物のように思えたからだ。
収束魔法と言うのは本来、魔力をを一点に凝縮させることでその密度と圧力を高め、それによって威力を上げる魔法である。
さて、それを考えた時、実は先程のようにリオが両手で収束魔法を放つのには違和感が有る。

詰まる所、身体の一部に魔力を集めて射砲撃を放つ場合、両手を使うのは、どちらかと言うと両手に充填した魔力を放つか、魔力の制御が片手では上手く出来ない場合に限られるのだ。何故なら収束魔法の場合、凝縮する点は小さい方が良いのだから、必然、片手でやる方が威力は上がりやすくなるからである。
つまり前述した理由のどちらかがリオに当てはまると思ったのだが……

「その……はい。あたし、まだ上手く魔力の収束が出来なくて……それで、両手で……」
「……ふーん」
そう言うと、クラナは考えるように黙りこむ。指摘されたせいか、リオも黙りこむ……が、

「(って、違う違う!)」
いや何をしているのだ。今は試合中であってトレーニングをしている訳ではないのだ。明らかにクラナのペースに乗せられているではなか。
そう思い、次の攻撃に移ろうと構えを取って……気が付いた。

「……成程」
クラナの右手に、魔力が収束していた。それは火花が花弁のように舞う、オレンジ色の炎の魔力。

「え、え!?」
「それじゃあ……」
それをみて、リオは戸惑った。何故ならそれに、その魔力に“見覚えがあった”からだ。そうして、リオを更に混乱させる自体が起こる。

『お手本って奴を見せてやるよ!』
「!?」
一瞬、誰の声だから分からなかった、その快活な少年の声には聞き覚えが有る。有るが、しかし……!?
それを理解しきるより前に……

「!!」
[Discharge]
「“紅蓮拳”!!」
凄まじい量と密度の爆炎が、指向性を持ってリオへと放たれた。

「くぅっ……!?」
回避など間に合う訳もなく、必死の思いで防護魔法を展開して防ぐ。しかし止まらない、止められないのだ。収束され、密度によって破壊力を増した魔力の波を正面切って受け止めようとしても、いくら防御は得意とは言え無理がある。しかもそれは間違いなく自分と同じ……否、自分以上に完成された……

「くぅ、ぁぁぁぁぁぁっ!!!?」
ついに防護魔法が貫かれ、業炎の波が彼女を呑みこんだ。

リオ DAMAGE 2065 LIFE 735

「く、ぅ……」
自らの物より規模の大きい炎に全身を焼かれ、バリアジャケットによってカットされたとは言っても強烈な衝撃と熱さがリオの身を襲う。故に、此処で彼女が怯んでしまうのは仕方がないと言う物だ。しかし……

炎の向こうから、影が飛び出す。

「!?」
「ふっ……!」
クラナだった。炎を目晦ましにして、既にリオとの距離を詰めていたのである。
既にその距離は3メートル。両の拳を腰だめに構えて、クラナは一気に突っ込んでくる。

「しまっ!?」
「(遅いっ!)」
反応して防御しようと腕をかざした瞬間、その腕を突き出されたクラナ拳が弾き……

「セェェぁっ!!」
裂帛の気合と共に、一気に三連の拳が突き出された。

「かっ……!?」
ドドドンッ!!!とそれら全てが腹部と胸部にヒットしたリオは息が詰まったような声を出して、そのまま後方に吹っ飛び……

リオ DAMAGE 710 LIFE 25 戦闘不能。

地面に背中から着地して、そのままバリアジャケットが解け、通常の少女の姿へと戻った。
完全に、気絶していた。



────

さて、少し時間を戻すとしよう。

クラナとリオの戦闘が起こるよりも少し前。中央部よりやや赤組側の市街地で、コロナは追って来る追跡者からの逃亡戦を行っていた。

「……っ!」
跳びすさった場所に、次から次へと電撃弾が着弾する。
コロナは接敵からこの方、防戦一方、と言うよりひたすらに逃げ続けていた。
これには、実は二つほど理由が有る。一つは、彼女の使う魔法の特性上、どうしても少し相手から距離を取る必要があったからだ。そして、もう一つは……

「まぁ~~てぇぇ~~」
「ひっ!?」
追いかけて来ている男が、やたらと変な言い方で襲うように追いかけて来たからだ。
その男と言うのは……勿論。

「ふっふっふ……ついに止まったな。追いつめたぞコォロナァ」
「あ、あう……」
この男。ライノスティード・ドルクである。
接敵してからと言う物、コロナが逃げ続けだったのは、この男の眼が怖かったからというのが大きい。
何と言うのか、変な威圧感と言うか、雰囲気と言うのか、別に何をされたとか言う訳でもないしその目線も体を舐めまわすように見てるとかそういう変態的な物ではないのだが……“捕まったらナニをされるか分からない”と言う妙な威圧感が、ライノからは発されていた。

「さぁ、往生するんだなぁ、大人しく、捕まるがいい!」
「……(ブンブン!)」
妙な溜めと妙な言い回しで放たれた言葉を、コロナは必死で否定するように首を横に振る。それをみて、余計にライノは怪しくニヤリと笑った。

「ならばいたしかたない。お仕置きを[気持ち悪いです変態です最低です死んでください何で生きてるんですか貴方はこの世から抹消された方が世の為ですマスター]もはや敬意的な言葉“マスター”のみですかウォーロックさん!?」
更に恐ろしげな事を言おうとしたライノに身を震わせるコロナに、救世主が現れた。彼のデバイス。ウォーロックだ。

[敬意?何を仰っているのでしょう?私は幼気な少女を変態的な目で見ながら変態的な声でどうこう言っている方をマスターだと思ったこと等このデバイスとしての活動時間の中で0.0000000000001秒たりとも御座いませんが?]
「いや誤解な!?違うから!ただああした方がコロナの戦意を削いで戦いを有利に進められるかと思っただけで……」
[言い訳ですか?ますます最低ですね。最早この次元世界に置いて一ヨクトメートルたりとも貴方の居場所は有りません。早々にこの世から姿を消してはいかがですか?マスター]
実際、そんな風にまだ十歳の少女相手にやたら粘っこい話し方で変に脅すような事を言っている十五歳を想像してみると、まぁ彼女の言い分もわかる。変態だ。作者でも即座に携帯端末に110を入力するレベルである。

「存在全否定どころの話じゃなくなってる!!?」
「え、えっと……あの?」
さて、余りの言葉のラッシュにボコボコにされるライノを見ていて流石に戸惑ったコロナが、思わずライノに声を掛ける。と、ライノは頭をカリカリと掻きながら、コロナに向き直った。

「あー、いや、すまん。じゃない、すみませんでしたコロナさん。調子に乗ってました。申し訳ありません」
そう言うと、ライノは深々とコロナに頭を下げた。と、そんな彼に、逆にコロナが恐縮してしまう。

「い、いえそんな!気にして……無い訳ではないですけど……その、何もされてませんし!!」
「いや、する気無かったんだけどな。(ボソッ)しかし何と言うか……そんな怖かったか?」
「は、はい……」
「…………」
思わず。と言った様子で聞いたライノに、コロナは素直に頷いた。実際怖かった。正直、もう少し続けられていたら男性恐怖症になっていたかもしれない。

「すまん。自重します……って、そうだ。それはそうと試合中じゃん」
「あっ……!」
そうだった!とコロナは身構えた。なんとも奇妙な状況のせいで忘れかけていたが、今は試合中で、目の前の青年とは敵同士だ。

「ははは。そんな身構えんなって。いいぜ、レディファーストって事で……お先にどうぞ?」
「っ!」
二ヤッとわらってそう言うと、ライノは手に持った斧槍(ハルバード)をヒュンヒュンヒュンッ!!!と音を立てて振ってから、穂先を真っ直ぐにコロナに向けて構えた。

ライノのバリアジャケットは少し白がかった黄色を基調としたロングジャケットを上着とした少し厚手のジャケットで、最大の特徴は手に持ったそのハルバードだ。長さとしては長身のライノよりも更に長く、恐らくはそれがライノのメイン武装だと思われた。

さて、先手を譲られたコロナは、少し考えてから自分の行動を思案する。
恐らくは、侮られている。戦闘に置いて慢心は付け居る隙となるが恐らくはそれぐらいのハンデが無くては自分との戦闘は成り立たないと言いたいのだろう。
しかし……

『それは……悪手です!!』
どんな相手だろうと、侮る事は敗北につながる。そう教えてやろうと、コロナは懐から取り出したクリスタルを放り投げた。

「む!?」
創成起動(クリエイション)……」
さて、此処でコロナのちょっとした特徴を、読者諸君に伝えておこう。
実を言うと、コロナ・ティミルと言う少女は、彼女の親友であるリオやヴィヴィオと比べると、格闘技、魔法戦双方の点に置いて、一歩劣ると言ってよい。
これは彼女が、元来学業や読書等を得意とするインドアの傾向が強い少女であるためでもあり、同時に生まれ持った素質の問題でもある。

しかし、彼女には実は一つ他者と比べて、魔法戦技のカテゴリーに入る中である突出した特技が有った。
それは、“魔力によって物体を操る”技術。魔力を込めた物体は、原則術者の任意に操る事が可能だ。ある鉄槌の騎士等は、その技術を利用して召喚した鉄球を誘導弾のように相手にぶつける技術を習得している。

「創主コロナと、魔導器ブランゼルの名の下に……」
「こいつは……!?」
そして彼女のそれは、それを更に大規模にしたもの。
先ず魔力運用の起点となる端末(クリスタル)を核にして、その周囲の物体にも魔力を充填。それらを練り上げ、形を変えて自在に動かす事が出来る。
そう、例えば……

「ゴーレム創成(クリエイト)!?」
「叩いて砕け!ゴライアス!!」
人型に変えて、操る事も、出来るのだ。

────

「行きます!ライノ先輩!」
「こりゃ驚いたね……」
目の前に屹立する、体長五メートルは有ろう岩の巨人を前にして、ライノは苦笑しながら一人ごちた。

ゴーレム創成(クリエイト)
極めれば、規模と破壊力の面で他の追従を赦さない、物体操作系上級魔法の一つだ。
その能力は見ての通り、大地の岩や泥そのものを任意の形に変えて操り、物量によって相手を粉砕する。本来流動的である魔力を、より物質に寄り添わせた上になりたつ魔法である。

発動時、運用魔力の多さと操作の繊細さから詠唱を必要とするため其処に関しては隙の大きい魔法だが、一度ゴーレムを作り出してしまってからの破壊力は──

「ゴライアス!」
岩の巨人が拳を大きく振りあげる

「っ!」
「ギガント・ナックル!!」
──想像を絶する!!

「っとぉ!?」
恥も外聞もなく全力で後方に飛んだライノの居た地面を、打ち付けられたゴーレムの拳が舗装ごと粉々に砕いた。

「殺す気じゃね!?」
[まぁ貴方は基本的に……]
「ストップな!それ以上はマジでへこむからぁあッ!?」
話しながらも次の一撃を左に飛んで躱す。後ろに有ったビルの外壁が粉砕された。現時点でこの試合で使用されている魔法の中で、間違いなく破壊力ではダントツだ。

「ちっ!フォトン・ランサー!」
[Photon Lancer]
連続して地面を蹴り、ゴーレムの斜め後方に回りこんでから七発の雷撃の槍をコロナに向けて発射する。
ゴーレムの拳が地面にめり込んでいるので、素人でこの規模を操って居るなら反応できずに肩に乗っているコロナを叩き落とせるはずだ。だが……

「ゴライアス!!」
ゴライアスの拳が……バァンっ!と音を立ててめり込んだ地面をえぐり取りながら後方までを薙ぎ払い、雷撃の槍は岩の巨人の拳を貫通出来ずに四散する。

「にゃろう!」
[Plasma saw]
振り切られた腕をバックステップで避けて距離を取ってから、次弾を打つ。
ライノの左右に、丸いのこぎりのようなギザギザのついた……所謂丸鋸のような形の光弾が出現し……

「いけっ!!」
高速で回転しつつ、それが左右に向けて発射された。空中で軌道を変えたそれは、コロナめがけて両方向から挟み込むように迫る。これは元々相手の防御魔法などを“削り斬る”と言う特性を持った魔法だ。大質量のゴーレムも、これで斬ってしまえば、そう思い、ライノはニヤリと笑う。しかし……

「させません!」
コロナの対応は迅速だった。
先ずゴライアスが先程破壊した地面から岩を持ち上げると、片方の光弾に向けて投げつけた。狙いたがわず直撃し、先ずは光弾が一つ消滅する。其処から更に、向かって来る光弾に対してコロナは正面からゴーレムを構えさせ、縦に回転するそれを、ゴライアスの片腕で受け止める。
ギュィィィィィンッ!!と耳障りな音がして、ゴライアスと光弾の接触面から火花が散る。ゴライアスの腕に、光弾が徐々に食い込んでいくのが見えた。しかし、その腕を……

「えぇーい!」
「!」
コロナは思い切り、光弾を食いこませたままで脇のビルに叩きつけさせた。打ち付けられたことで、がれきにぶち当たった腕に食い込む光弾ががれきから次から次へと衝撃を受けて、ついに消滅する。
その様子をバックステップの勢いを地面に手をついて殺しつつ着地していたライノは困ったような顔で眺めていた。

「ったく、頭いい子はこれだから困るよな……判断早い。実行も速い。おまけにあんだけの質量のゴーレムを、なんつー精度とスピードで操作(コントロール)しやがるかね」
[完全に、格好付けたのがあだになって居ますね。無様です。マスター]
ウォーロックの一言にライノは返す言葉もない。と言った様子で苦笑する。

「突き刺さる一言一言どうも……まぁけどよ、此処で負けてもお笑い草だしな。先輩の威厳を保つためにも、もうちょい頑張ってみますかね!」
[既に先程の行動で粉々に砕け散っているかと]
「いや乗ろうよそこは!?」
あくまでマスターに悪態を吐くのをやめないウォーロックに突っ込んでいる内に、コロナのゴライアスが構えなおした。

「このまま決めます!」
「そりゃ困るな!」
言うが早いが、ゴライアスがコロナを肩に乗せたまま、一気にライノに向けて突進を始める。そのまま殴るにしろ潰すにしろ、破壊力としては十分すぎる一撃だろう。たいしてライノはと言うと……

「そんじゃまぁ……其処で止まろうか!!」
[Attraction]
突如、持っていたハルバードの石突を、地面に向けてダンッ!と叩きつけた。瞬間……

「え!?」
突然、コロナが驚きの声を上げた。見ると、ゴライアスの真下に巨大な濃黄色の魔法陣が表れている。そして同時に……

「っ!ゴライアス!?」
突然、ゴライアスの前進が止まった。まるでライノの命令に従うかのように、コロナが前進の命令を出しているのにもかかわらずその場から動かなくなる。……否

「……く!?これって……!?」
動かないのではない。“動かせない”のだ。ゴライアスの体が突如として急激に重くなったような感覚。地面に向けて引き付けられる力が強すぎて、その巨体を動かす事が出来ない。それどころか……!

「う、うぅ……!」
コロナ自身も、体が突然重くなり、ゴライアスの肩の上にしゃがみこんでしまった。まるで自分自身の体が地面に向けて見えない力で直接引き付けられているようなそれは、徐々に力を増して……

「(ゴライアスが……維持、出来ない……!)」
上からのしかかるようなその力についにゴライアスがコロナの操れる重量を超えたらしく、コントロールを失って崩れ落ちる。

コロナ DAMAGE 125 LIFE 2375

落下によるダメージがコロナに加算され、そのまま地面から動けずに膝を付く。

「うく……」
立ち上がる事もままならないために、地面に手を付いたままでコロナはうめいた。一体自分が何の魔法を掛けられているのかが分からなかった。
重力操作?しかしそんな魔法は聞いた事がない。物体移動?しかしゴライアスほどの質量を強制的に下へ、下へと遠隔操作で移動させるには、否。重力操作だとしても相応の魔力が必要な筈だ。今回大人チームや高等部メンバーには初等部のメンバーと同様の条件で純粋に戦技のみで勝負が成り立つようにとリミッターが付けられている。その上でこれだけの規模の魔力を使うなど……

「魔力変換資質」
「……え?」
思考の途中に、ライノの声が挟み込まれた。

「考え込んでる顔だし、ネタばらしすっとな?これ、俺の魔力変換でやってるんだわ」
「それっ……て……」
電気の事か。と、コロナは聞いた。先程までの戦闘から、ライノに電撃の魔力変換資質が有るのは分かっている事だ。
しかしライノはそれに、苦笑して首を横に振った

「惜しいけど違う。俺の魔力変換資質は電気じゃなく、“電磁力”なんだな」
「電、磁力?」
「そ、正確には、電力と、磁力。略して電磁力。俺は魔力を電気に変換できるのと同時に、自分の魔力と魔力の間にのみ働く磁力に変換できる。ってか、引力と、斥力を相互間に発生させるフィールドに変換できる。って事らしい」
ライノは自分の手をグーとパーに開いたり結んだりしながら言った。

「だからフィールドに変換する。ってのでもよかったんだが……やろうと思えば普通の磁力よろしく鉄を引き寄せたりも出来るんで、この能力名で登録してる訳。ま、普段は使わねーけどな」
ちなみに何故やらないかと言うと、これを生物相手にやったりすると……非殺傷設定云々に関係なく、相手を殺す羽目になるからだ。
強力な磁力を直接人間に纏わせるのだから、仕方がない。

「で、俺は物体を介してそれに接触してる物体とか、あるいは他人に直接自分の魔力を薄ーく纏わせられる。魔力が薄くても発動する引力の量は変わらないんで……」
今のお前にしてるような事も出来る訳だ。そう言ってライノは肩をすくめた。
成程、とコロナは納得する。確かにそれならば今の自分のこの状態にも、ゴライアスが急に重くなった事にも納得だ。しかしそれならば、コロナには別の疑問が有った。

「何時……私達に魔力を……」
「ん?おぉ、勉強家だな。んじゃ教えとこう。さっきバックステップで着地した時、地面に手、付いたろ?あんとき、地面を伝って地面と、ゴライアス、ついでにコロナにも掛けた」
そんな一瞬で。と、コロナは素直に感心してしまう。明らかに戦闘慣れしている者のやり方だ。実はライノ先輩って凄い人?と予想して……しかし、今の状況に気が付いた。
気が付くと、ライノが目の前に立っていて、自分は動けないままだ。

「え、えと……」
「さて、ゴーレム創成は見事だったが紙一重俺の勝ちだな。では早速……」
「え、あ……」
ゆっくりと、ライノが迫って来る。目の前に立った男が、此方に向けてゆらりと手を伸ばして──


「ほい。捕獲」
「……ふぇ?」
「……え?いや何で滅茶苦茶目閉じてんの?つかなんで涙目!?」
気が付くと、コロナは濃黄色のバインドに捕獲されていて、目の前には焦ったような顔のライノの姿が有った。

「そ、その……何か、怖かったので」
「怖かったってお前……俺を鬼か何かと思ってんのか?ま、良いや。それ、念入りに付けたから動けんぞ。んで……」
と、不意に、コロナのバリアジャケットが解けた。

「え!?」
[マスタ~]
「あっ!ブランゼル!」
「ほい。武装解除っと。んじゃ、メガーヌさんおねがいしまーす」
[はーい♪]
そう声が聞こえると、コロナはメガーヌの声と共に転移魔法陣に包まれて消えた。

────

陸戦場すぐ脇の、丘の上で、観戦者達は陸戦場を見ていた。
ちなみに観戦しているのはメガーヌ、セイン、ガリューと一戦目は使わない事にしたらしいフリード。それと……

「っわ」
「はい。お帰り」
「あ、えっと此処は……」
「観客席、飲み物飲む?」
そう言うと、転送されて来たコロナの横に立ったセインが水筒を差し出して、コロナはそれを受け取る。

「コロナ~」
「あ、リオ!リオも負けちゃったの?」
「うん。クラナ先輩にドカッと」
「私もライノ先輩に……」
ちなみにコロナは精神的にいろいろな意味で疲れたが、それは敢えて言わないでおく。
さて、そんなこんなで、自分とライノ、クラナがどんな戦いをしたのかを話しだす二人を傍目に、傍観二人は話しだす。

「やっぱ、高等部組強いんですね」
「そうね……クラナ君もライノ君も、魔法戦技では折り紙つきの実力者だから、ちょっと今のリオちゃんコロナちゃんじゃ難しかったかもしれないわね」
そう言いつつ、しかしメガーヌは嬉しそうだ。何故かと言うと……

「それでね、なんでか分かんないけどバーッてクラナ先輩私の紅蓮拳を……」
「ライノ先輩もね!ほんのちょっとの時間で……」
「でも、すっかり憧れの先輩って言う感じだと思わない?」
「ですね」
くくく。とセインも笑って、二人は画面に目を戻した。

────

[クラナ!次の仕事よ!ルーが何か企んでるわ、多分要はなのはさんを全力で止めて!]
「っ……!はい!」
[これは……大仕事ですね]
『だね……行くよ!アル!』
[All right buddy]
クラナはそう言うと再び走り出す。

「さて、次は……」
[ライノ、予想より早く前衛二人が抜かれちゃったから、アインハルトの方を確実に止めてくれる?]
「お、了解。んじゃ行きますか、ウォーロックさん?」
[Yes sir]
ライノも、次なる相手の下へと向かう。

それでは、この二人を中心に、今回の試合を見て行くとしよう。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?

今回書いていて特に面倒だったのが……ライフ管理ですw
あれ、どのくらいならどの程度ダメージを受けるのか凄く不明瞭なんですよねw

とりあえずこんな感じかな程度にやってみましたが……いかがでしょう?どこかおかしくなかったでしょうか?

では予告です。

ア「アルです!今回から陸戦試合!頑張って参りますよ!」

ソ「負けまシタ~~」

ア「おや、ソル。ははは、勝ちました」

ソ「あれ、なんだたデスか!?紅蓮拳受けて無傷テ……おかしデスよ!」

ア「すみません。そう言うスキルなので……多分次回あたり分かりますよ」

ウ「疲れました……」

ア「おや、ウォーロック、お疲れ気味ですね?」

ウ「えぇ。ウチのマスターがあそこまで変態だったとは……コロナさんにはしっかり誤らせないといけませんね……」

ブ「気にしないでください~。マスタ~も冗談だと分かっていますから~」

ア「おや、あなたは……」

ブ「はい~ブランゼルです~よろしくお願いします~」

ソ「なんだか、とてもおっとりシテますネ」

ブ「はい~のんびりするのが~好きなんです~」

ウ「彼女とはそこで。本当に申し訳ありませんでした」

ブ「いえいえ~とても面白いマスタ~さんですね~」

ウ「いえ、あれは頭が悪いだけですから」

ア「あははは……さて、では次回!

ソ「《激戦、熱戦、大激突!》デス!!」

ウ「お楽しみに」

ブ「ぜひ~見て下さい~」

 
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