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やはり俺達の青春ラブコメは間違っている。

作者:殻野空穂
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第四章
  説教をしてみても内心彼はどうでもいい。

 とりあえず二人が落ち着いて呼吸が整ってきたこの頃合いをみて、俺はぐだぐだと告げる。
「まずこの程度の会話で暴力が行われるのは見苦しい。……それじゃあ俺という部外者から見て、先程の状況を説明させていただく」
「……」
「何様のつもりなのよ……」
 ……俺としてはご主人様を所望する。
「まず、あーしとでも呼ぼうか。無論そこの縦ロールのことだが、確認したいことがある。『……お前の言う友達ってなんだ?』」
「……はぁっ?」
 価値観の違うもの同士の一方が無理やり価値観を押し付けると、実に見苦しく、幼稚に見えるのか、あーしはそれを知らないのだろうか?

「なら由比ヶ浜さんに聞こう。君の言う友達ってなに?……例えば、お金で買えるもの?」
 俺がとぼけた顔で尋ねると、由比ヶ浜さんはぶんぶんと必死に首をふって答える。
「……決してお金で買えない特別なものだよ」
「だろうね。……じゃあ、あーしさん、君はどうかな?俺が見た限りじゃあ、一緒にアイスを食べにいって、頼めばジュースを買ってきてくれるとかそういう存在?」
「……っ!そ、そうだけど。当然じゃね?」
「ああ、君には当然なんだろうね。それはきっと皆知ってることだ。周知の事実だよ。……そうそう、君の友達はあれなんだよ。――自分が目の敵にしてる人物を『可愛い』って言えば『あんなの可愛くないよ』って言ってくれて優越感に浸らせてくれて、安堵させてくれて……。あまつさえソイツの悪口でも言ってくれればもくろみ通り。頼めば従って自分に安心を与える。君にとっての友達はそんな自慰行為の道具だ。――つまりバイブだ(笑)……ああ、ごめん。結局猥談になってしまったね」
「………ちがう」
『何が?残念ながら今の君は少なくともさっき言ったそれとは違わないんだ。普段の君は友達思いかもしれないけれども、俺は今の出来事だけを言ってる。そして君がこんな公開オナニーを披露していた理由も、周知の事実であり、羞恥の事実だ。雪ノ下雪乃という容姿端麗、成績優秀な女子生徒への「敵対心」「ライバル視」そして薄々勘づいている「劣等感」だよ。由比ヶ浜さんだって気づいてる』
「ふざけんなっ!」
 俺がそうヘラヘラ笑うと、あーしは顔を真っ赤にし、怒りの形相で掴みかかってくる。
 あーあ、また手を出す……。

「安心していい。僕は君のことも雪ノ下のことも平等に嫌いだ。……よし、話を戻す。とりあえず由比ヶ浜さんの立場になって考えろ」
「……ユイの?」
 あーしが手を離したので、俺は口を開く。

「ああそうだ。今さっきの出来事で一番面倒くさい役を担っていたのは由比ヶ浜結衣だ。結論から言うと由比ヶ浜さんは雪ノ下雪乃と仲良くしたいと思っている。しかし、それは同じく友達の関係にあるお前には教えたくない。それまでの会話や、何となく普段の雪ノ下の台詞で雪ノ下雪乃をお前が嫌っているのは薄々気づくからな。わざわざ嫌われたくはないだろう。……由比ヶ浜さんに気を遣わせんな。さっきの彼女の言葉は聞いただろ。彼女にとって友達(おまえ)は『お金じゃ買えない特別』らしい。……せっかく友達がそう言ってるんだ。『金で買えそうな友情育んでんじゃねぇよksが。』あともうちょっと静かにしろよな」
 説教なんて柄じゃない。結局のところ、こいつはただの説明だ……。
 本当、由比ヶ浜さんは苦労人で、それでもって優しい、愛すべきアホの子だ。雪ノ下の方が少なくともあーしより容姿もよくて学力もあって、あーしが雪ノ下に勝るものなどないと言う周知の事実があってしても、それを別け隔てなく接する。見上げた価値観だ。
 ……みんな友達ってね。めんどくさそー。俺なら多分棄てる。

「だから由比ヶ浜さんの話くらい落ち着いて聞いてやれ。俺が皆を別け隔てなく嫌っているなら、彼女はきっと皆を心から好意的に思ってくれるんだから。……俺だったら爪弾きして捨て去るだろう、口うるさくて昼食のパンを不味くする、そして化粧の濃い、性格の悪い女でもね。誰とは言わないが少しでも自分の事とかぶったら改めるべきだ」
「……」
「由比ヶ浜さんは優しいよ。……じゃあ雪ノ下さん。さっさと退場しましょうよ。我々はお邪魔なようだ」
 特に俺は、地球にとっても。
 クヒッ、と気味悪い笑みを浮かべてみてから、自分の首に掛かっているプレートを外そうと、手をかける。すると後ろから女の声がした。……あーしだ。

「勢いにのまれて流されたけど、あんた誰。うちの生徒?つーか、さらさら人の悪口いうとかヤバくね?」
「あんたに言われたくはない。そういや君の名前ってなんだい。……俺は桐山。この学校の生徒かはいまいち分からん。悪口を言ったのは俺の性格が悪いからだとでも、涙目の君を見るのが快感になる変態だったとでも好きに思ってみてくれ。どれでも正解って答えるから」 
「へー、死ねば?」
「えー、それはまた今度ね。じゃあ、バイにゃら♪」
 俺は完全にプレートを首からスルリと外すと雪ノ下を連れて廊下へと出た。
 じゃあ、由比ヶ浜さんたちの話が終わるまで俺はとりあえず比企谷と一緒になって雪ノ下さんに色々猥談を――。ナイフ所持の件も含めて、殴られましたっ☆グハァッ……。

              ×      ×      ×

 目を覚ますと由比ヶ浜さんが比企谷にお礼を言っているところだった。
 何この既視感(デジャヴ)。家庭科室で見覚えが……?うらやま禿げる。
 一方で俺は廊下の隅っこに横倒しのまま放置されている。誰も気づかないからってその辺に転がしておくとかコイツらひでぇ……。
 ……それにしてもだいぶ無茶したなぁ、俺。
 そう呻いた俺はチラと横目で由比ヶ浜さんの方を見た。ちょうど、比企谷と話が終わったところのようだ。
「お帰り、由比ヶ浜さん……」
「……うん」
「話は終わったみたいだね。面倒なことはもう無いだろう」
「うん、ありがとう。……でも、ちょっと無理矢理じゃなかった?それに自分のこと、完全に棚に上げてたし……。あれ、全部いい加減な考えでものを言ったでしょ!さすがに気づくんだから……」
 確かに適当なご託をだらだらと羅列しただけだったな……うん。

「あ、そうだ。クッキー食べるでしょ!えっと、食べるよね?」
「……あ、うん。一枚もらえるかい?おかげで昼食を満足に摂れてないんだ」
「……はい。このちっちゃいやつ!」
 由比ヶ浜さんは一口サイズのクッキーを袋から取り出すと、俺に渡してくる。
「どうも。……うん、おいしいね。ああ、何だか気が抜けるよ。いやー、それにしても由比ヶ浜さんには個性的なお友だちがいらっしゃるんですねー。……全く、金で買えそうな友情でしたこと♪」
「優美子とはちゃんと友達してるから!今日はたまたま――」
「あくまでも否定するか……。じゃあさ、百万円あげるから、俺と付き合ってよ、由比ヶ浜さん」
 俺は由比ヶ浜さんに軽々しく言い放つ。……まあ、何て返されるかは分かっているけどね。
 由比ヶ浜さんは優しげに微笑みながら、可愛らしく頬を赤く染めていった。

「やっぱり桐山くんは最低だね!……例え、一億円貰ったってダメだよ!?だって桐山くんは最高に気持ち悪いし、無責任だから!」
 思わず笑みすらこぼれる。否定されたって何だって、嬉しいと受け入れることもできるんだ。
「……ハッ。そうそう、分かってるね由比ヶ浜さん」
 由比ヶ浜結衣はとても面白い人間だった。そう、新しい価値観の誕生とは実に面白味にあふれているのだ。
 もう、決して由比ヶ浜さんは「誰かに似た誰かさん」ではなくなったのだろう。それはとても見ていて嫌な気はしないことであった。

「今日はありがと。あたし、困っちゃってて……。だって、大変だった……」
 そう言って彼女は目を瞑った。思い返しているのだろうか。泣きそうになった自分のこと、それを助けに入った比企谷のこと、追い詰められたところで颯爽と現れた雪ノ下のこと。……遅れてしゃしゃり出てきた最低な俺の登場を。

 外では雨はまだ降り続けていて、雨音は変わらず耳に残っている。遠雷はだんだんとこちらへ近づいて来る。……そんな中、俺は平塚先生のところに休日部室を使わせてもらう許可を取るという用事を思い出していた。
 なので一言告げて職員室へ向かおうとしたのだが、由比ヶ浜さんが発した予想外の言葉で俺は足を止めた。
「それにしても今日は正直、疲れたかも。……全然話とか聞いてもらえないし、そもそも何から説明すればいいか分からなかったし……。『桐山くんの言う通り、やっぱり友達とのやり取りとかってかなり面倒だったかも……。桐山くんが「棄てる」なんて言うから、ちょっと考えちゃった♪』
「……うへ?」
 彼女が絶対言わなさそうな発言は空を斬ったような衝撃と共に、俺の記憶と心に刻まれる。由比ヶ浜さんが「嘘」を吐いたんじゃないかと疑ったほどだ。……本当に嘘ではないだろうか?
 だが、次の一言がここは現実であるという事実を突きつける。

「雪ノ下さんが言ったみたいに桐山くんが移ったのかも……」
 彼女はへへへ、とはにかみながら笑って、明るく、アホみたいに笑顔を振りまいて去り際、俺の耳元に囁く。

『――全部、桐山くんのせいなんだからっ』
『……っ!』
 ま、まあ、確かにね。それは俺のせいだよ、間違いなく……。いやはや、困ったな。
 俺は頭を掻きながらトボトボと歩いた。
 何だか妙に体が軽かった。またしても笑みが浮かぶ。……何だよ、何だよ!
 少しだけだが本心から嬉しかったのは久しぶりだ。

 そうして一時の満足感で職員室に向かい、先生から部室の鍵の置き場を教えてもらった。はしゃいでみたら平塚先生に嫌悪の表情でキモがられた。酔いが醒めた気持ちになった。
 ところで明日は休日である。雪ノ下に散髪をしてもらう約束がある。……それにしても雪ノ下のやつ。俺の髪を切るためだけに奉仕部全員を呼ぶつもりなのだろうか。
 
「また気が滅入る……」
 どうやら物語はまだ始まったばかりらしい。
 俺は静かに教室へと向かい。長い長い昼休みを終えた。

 騒がしくなくなったクラスの片隅で毛布にくるまり、コーヒーを飲んで、貰ったクッキーを食べた。
 ――ただ、読書はしなくていい。ただただ雷鳴が近づき、通りすぎて行くのを聞いているだけでも今だけは、ささやかな幸せを感じられた……。
 
 

 
後書き
gdgd
書き直し要求受け付けます。
感想を頂けると嬉しいです。あと、誤字脱字などなど……。

それと243pt に達しました。ありがとうございます。この243ptを、読んでくださった皆さんの評価の総意として、認識させていただきます。……書き始めたときはここまで評価していただけるとは、微塵も思っていませんでした。
それとこういう際って、オリジナル回とかイベント回みたいなのを書くべきなんですかね?……悩む。

 
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