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ロックマンX1st魔法少女と蒼き英雄

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第一話「ロックマン/ROCKMAN」

 
前書き
第一話です。主人公が極度の対人恐怖症でイライラするかもしれないのであらかじめご了承ください。

OPテーマ「ハートウェーブ」
EDテーマ「太陽は何時も君のそばに」 

 
もしこの世に「ヒーロー」というものが存在したら、それは子供たちが夢に思い浮かぶようなヒーローじゃないかもしれない。
仮に居たとしても、それは戦争によって大勢の人を殺しておいては祖国で英雄呼ばれされた軍人でしかないだろう?
漫画やアニメのように絶え間なく奇跡を起こして犠牲を無にし。最後は悪の組織を打ち倒してハッピーエンド、誰もが笑顔をこぼして笑う綺麗な終わり方を迎えるのとは訳が違う。けど、僕の世界では強者が常に弱者を踏みにじみ、強い者同士がまた新たな弱者へと襲い掛かる。だれも見てみぬ振りをして手をさし伸ばそうとはしない。そう、誰一人も……
逆に自分でもなく誰かが助けを求めていても、弱者の僕は恐くて強者に抗う勇気は持ち合わせていない。何も出来ずにただ痛めつけられている弱者を見守るだけしか出来ない。
僕の世界にヒーローなんて善人は存在しない。居るとしたら弱者をいたぶる強者くらいだ。
だから、僕はこの世界における英雄、ヒーローという存在は求めないし認めない。
しかし、昨日までそう思っていたのに、僕は現にヒーローとして選ばれてしまった。その力は自分次第で破滅や創造にもできる。そんな力を僕は身に得てしまったのだ。全ては当時11歳の頃に起きた出来事。
信じられないかもしれないが聞いてくれ。友、恋愛、複雑な人間模様、これら僕が経験した戦いの物語を……

夢の中、少女は不思議な夢を目にした。不思議な夢である。
暗く、不気味な森に蒼い鎧をまとう少年が目の前に立ち、巨大な闇と戦う光景。少年は幾度無く傷を負おうがそれでも立ち上がり立ち向かっていく。そして、もう一人の紅い鎧を纏った少年も現れ、彼と戦う姿も。
蒼い鎧の少年は自分と共に、そしてもう片方敵視する紅い鎧の少年は自分と同い年の金髪の少女と共に……
そして、二人の少年が激しくぶつかり合い。そこで、夢から覚めたのだった。
「……夢、なの?」
不思議な夢から目覚めた少女、高町なのははまだ眠気の残る目でベッドから離れて、一階の食卓へと向かった。
ごく普通の小学生、高町なのはは喫茶店を営む家庭に生まれこれまでに何の不自由なく育てられた。心優しく正義感の強く、おまけに成績も良い。
「おはよう?なのは」
台所で母桃子が鼻歌を口ずさんで朝食を作っていた。
「おはよう!お母さん」
すると、なのはは上機嫌で食卓の席へとついた。今日は何か特別な日があるのか、頬杖をついて微笑んでいる。
「楽しみだね?お母さん」
と、なのはは桃子へそう尋ねると、彼女も振り向いて笑みを浮かべる。
「そうね?今日、士郎さんの御親戚の子が来るっていうもの、どんな子かしら?」
「お父さんの話からすると男の子らしいよ?」
「ふうん?男の子か……」
今なのはの頭の中はこの家に新しく住む親戚の子のことで夢中であった。それと同時に不安と期待もある。その子の性格や、友達になれるだろうか?年は何歳だろうか?と。今日は休日のためその子といっぱい話せたり、遊ぶことができるかもしれないというので家に来るのが待ち遠しかった。
「……でも、遅いな?」
しかし、予定の時間を二時間もオーバーしており、期待から不安へと変わった。
「そうね?どうしたのかしら?」
「電話してみる?」
「もう少し待ってみましょう?」
と、その刹那。玄関からインターホンが流れた。
「あ、来たの?」
待ちに待った親戚の来客と思い、なのはは桃子よりも真っ先に玄関へ向った。しかし、ドアを開けたとき、目の前に立っていたのは大柄で白い髪と髭を生やした老人が一人立っていた。それも、見た限り外人である。
「あれ?男の子……なの?」
男の子というより対象年齢を大きく越して、それは老人であった。
「おやおや?」
ポカーンとなるなのはに老人は優しく微笑んで彼女へ話しかけた。
「こんにちは?お嬢さん」
なれた日本語で彼女に話しかけ、なのはもそんな老人の優しげな言葉にハッと我へ帰った。
「ハハハ、親戚の子かと思ったのかい?それは失敬……でも大丈夫、ちゃんと私の後ろへ居るよ?」
すると、老人の大きな腹の背後に恥ずかしがるように隠れる少年の姿が見えた。背にリュックを背負い、帽子を深く被った身形でこちらをチラチラと除いている。
「これこれ、タケルや?恥ずかしがらずにお前さんも顔を出してお嬢さんに挨拶しなさい?」
「う、うん……」
老人の背後から恐る恐るして出てきたのは彼女と年の近い少年であり、何やら恐がったり警戒したりする仕草を見せている。
「あら!ようこそ?ライト博士」
すると、なのはの後から桃子も姿を見せ、知り合いである老人こと、ライトへ挨拶をする。
「いやあ、ミセス桃子。相変わらずお美しいですな?」
「まぁ!嬉しいお世辞ですこと……あら?そちらの子がそうですか?」
「ええ、ほらタケル?こちらがしばらくお前のお母さんになる人だよ?ほら、挨拶しなさい」
「……」
しかし、少年はライトにしがみ付いて桃子と視線を向けたりはしなかったが、
「こんにちは!」
「!?」
そんな少年タケルに向けてなのはが手をさし伸ばした。笑顔で触れ合おうとする彼女にタケルは少し驚いて恐がってしまった。
「私、高町なのは!あなたのお名前は?」
「……」
しかし、タケルは口を閉ざしたままだった。
「ほら?タケル?」
ライトにも言われ、少年は口をわずかに動かして自分の名前を口にした。
「……タケル」
「……?」
「……タケル…蒼霧タケルです」
「よろしくね?タケル君!」
なのはは握手を求めた。タケルもそんな彼女の行為に答えようと手を近づけるが、
(嘘付き!)
彼の頭の中を見知らぬ少女の一言が横切った。過去の回想となのはの行為を重ねてしまい、彼女の握手をためらい、近づけようとした手は引っ込んだ。
「……」
そして、タケルはなのはから目を逸らし、表情を曇らせてしまった。
「あれ?どうしたの?」
首をかしげるなのはにライトは慌ててタケルの事情を説明した。
「ごめんね?タケルは人見知りの激しい子なんだ。だけど、根は優しい子だから仲良くしてあげてね?」
それだけ言うとライトは桃子へ、
「では、私はこれで失礼します。タケルのことをよろしく頼みますね?」
「はい!ライト博士も研究を頑張ってください?」
「ではタケル?私はこれで行くね?何かあったら電話をするんだよ?」
そう言ってライトは彼へ背を向けて玄関から出て行った。タケルはそれを引き止めるかのように手を伸ばしたが、それも叶わずライトの姿は居なくなった。
「あ……!」
タケルはしゅんとなって自分は一人取り残されてしまったかのような虚しさを感じた。しかし、そんな彼の方に桃子が租って手を添えて柔らかに微笑んでくれた。
「大丈夫よ?ここはもうあなたの家なんだから遠慮しないで暮らしてね?」
「うっ…!?」
しかし、桃子の存在に気づいたタケルは驚いて彼女との間合いから離れて怯えだした。と、言うよりも警戒している。
「……!」
タケルは帽子の唾で素顔を隠して、近づこうとはしなかったが、
「少し恥ずかしいのね?いらっしゃい、あなたの部屋へ案内するわ?」
桃子はいつものように優しいまなざしを向けてタケルを連れて二階へ上がった。そこは使っていない個室であり、昔なのはの兄の恭也が使っていた小学生の頃の机やそのときのベッドと家具が並んでいた。
「どうぞ?息子の恭也がタケル君ぐらいの時に使っていた家具類なの」
「……?」
タケルは部屋をもらえると聞いて少し期待していた。しかし、そこは暗くて寂しい部屋でそこで一人過ごすのかと思っていたが、家具などが充実しておりとても快適な部屋になっていた。
「何か必要なものがあったら遠慮なく言ってね?私はお店に居るから」
「……」
すると、タケルは桃子の背をヒトヒト突っついて彼女を振り向かせた。
「あら?どうしたの?」
「……ん」
タケルは口では言えなかったが、帽子の唾で素顔を隠しながら深く頭を下げた。
「いいのよ?お礼だなんて、タケル君も今日から私たちの家族なんだから遠慮なく甘えてちょうだい?」
そう言って桃子は自営業の喫茶店へ出かけに行った。
「……」
一人残ったタケルはそのまま部屋の片隅にうずくまると、リュックから分厚い本を呼び出して、それを開いて読み出した。本は見るからに難しそうな本でもなければ皆がよく知る童話の各エピソードを総集させただけのもの。そして、その本には「グリム童話」というタイトル名が記名されていた。
「……」
彼は本を開くと、しおりを挟んだところから読み始める。すると、部屋の扉から数回のノックが聞こえた。
「なのはだよ?入っていい?」
「……?」
先ほど握手を求めてきた少女と知り、タケルは一瞬戸惑ったが彼女が入ってきても自分は読書に熱中していればいずれ暇と感じて部屋から出て行くだろうと思い、彼女を部屋へ入れた。
「……どうぞ?」
静かな声であったが、それでもなのはは笑顔を見せて彼の部屋に入ってきた。
「あ!本を読んでいるの?」
読書をしていたタケルを見たなのはは彼の元へ駆け寄ると、彼に寄り添って座り込んだ。
「……!」
いきなり寄り添ってきたなのはに動揺するも、出来るだけ本のほうへ目を傾けていたため、それほど気にしなかったが、
「ねぇ?何の本を読んでるの?」
「……」
タケルは本の表紙を彼女へ見せた。
「グリム童話?どういう話なの?」
タイトルを読み、なのはは好奇心からタケルに尋ねた。
「……本当の、童話……」
「童話?」
「……」
タケルは頷くと、なのははいつも自分達が知るシンデレラや白雪姫といった童話の原作と知って更に気になってしまう。
「シンデレラとかある?」
彼女は自分が一番気に入っている童話を挙げると、タケルは頷きで答えた。
「お願い!呼んでくれる?」
「え……!?」
読み聞かせしてくれといわれてタケルは本当に困ってしまう。第一、つも黙って読み続けている自分に音読なんて出来るはずがない。
「シンデレラのお話を聞かせて?」
「……」
タケルは、なのはに返答する様でもなく黙り込んだ。
「どうしたの?」
「そ、その……」
「じゃあ、なのはとお話しようよ?」
「……」
だが、タケルは会話さえも今では苦手で初対面のなのはと言葉を交わすことは出来なかった。相手とどう触れ合えばいいのか戸惑い、迷っている。しかし、そんなタケルを気遣うようになのはは自分から話を進めた。
「…じゃあ、なのはの話を聞いてくれるだけでいいから?」
口で答えなかったがなかったが、タケルは聞くだけならと頷いて答え、なのははさっそく自己紹介から始めてそれから家族の事、学校の事、自分の友人の事、さらには趣味の事までも話した。タケルも、ただ聞くだけではなくせっかく話してくれるのだから本を閉じて彼女の話に集中していた。
「……でね?アリサちゃんったらおかしいんだよ?タケル君」
タケルの顔を見つめながらなのはは会話を続けていると、タケルはいつの間にか優しげな表情を浮かべてなのはの話を聞いていた。
「タケル君?」
「……?」
会話のネタが尽きると、なのははそろそろタケルにも喋ってもらいたいと、彼へ質問する。
「タケル君は読書が好きなの?」
「……うん」
と、タケルは小さく呟いて頷いた。
「なのはもね?本を読むことが好きなの!そのグリム童話って面白い?」
「……」
タケルは首を斜めにかしげた。わからないと言っているのだろうか?
「面白くないの?」
と、なのはが尋ねるとタケル頷いて面白くないと答える。
「面白くないのにどうして読むの?」
「……現実だから」
「え?」
「タケル君?なのはちゃん?ご飯よ?」
そのとき、二人は桃子に呼び出されて食卓へと向った。本当は行きたくなかった。出来ればずっと一人で部屋の片隅でうずくまっているほうが良かったが、逆に心配させるわけにも行かず、仕方がなく彼は階段を降りて食卓へ顔を出した。
「紹介するわね?こちらが夫の士郎さんと、なのはの隣に座っている二人が兄の恭也と姉の美由紀よ」
「……」
タケルは大勢の見知らぬ人間に見られて急に恐くなり顔を帽子で隠した。
「どうも、君のことはご両親から聞いているよ?これでも私は若い頃エージェントで君のご両親の護衛をしていたことがあるんだよ?」
そう笑顔で話しかけてくれたはなのはの父親、士郎だ。
「ん?なぁ、帽子を脱いで顔を見せてくれないかい?それに食べづらいだろ?」
と、愛称よくなのはの兄で高町家の長男恭也がそう言うが、タケルは黙り続けたまま帽子を深く被り、唾で目を隠した。
「まぁ、いいじゃないか?一様タケル君のご両親から事情は聞いている。あまり言い進めたりするのは止しなさい」
そう士郎の忠告に皆はタケルにそれほど強く言い進めたりせず、優しい掛け声で接した。「ねぇねぇ?お父さん」
茶碗を持ち、なのはが興味を持った目で士郎へ尋ねる。
「どうしたんだい?なのは」
と、士郎はなのはの話に耳を傾けると、
「お父さん、グリム童話って知ってる?」
「グリム童話?」
「タケル君がね?部屋でグリム童話っていう本を読んでいたから気になっての」
「……!?」
そのとき、タケルはなのはに不愉快な思いをさせてしまったのかと思い、彼はこの後何を言われるのか、何をされるのかと考えると背筋が震えてしまった。
「ぼ、僕は……」
悪気はなかったと言おうとしたとき、士郎は感心する目でタケルを見た。
「へぇ?グリム童話……結構大人な本を読むね?」
士郎は懐かしげにグリム童話との思い出を回想する。
「お父さんもなのはぐらいの頃に図書室で読んだことがあるよ?「赤ずきん」の話が今も忘れないな?」
「そうなの?」
「ああ、グリム童話というのは皆がよく知るシンデレラや白雪姫、赤ずきんなどの元となった原作のことだよ?よく知られている話ではハッピーエンドが多いといわれているけど、実際はどの話も残酷で悲惨な終わり方で幕を閉じるのさ?」
「そうなんだ……」
「だから、グリム童話はどちらかっていうと現実的な大人の童話って感じだね?」
そして士郎はなのはと話し終えると今度はタケルのほうへ振り向いた。目と目が合った瞬間、タケルは少し怯えたが、
「グリム童話が読めるなんてタケル君は大人だね?」
と、士郎は微笑んだだけだった。
「あ……」
とりあえずはホッとするものの、高町家はグリム童話で持ちきりになり食卓に笑いが広まった。しかし、そんな家族からありもしない台詞が次々とタケルの脳内へ飛び込んできた。
(気持ち悪い……)
(よく読めるな?)
(気味が悪いわね?)
(預かるんじゃなかった……)
(恐い……)
「……!?」
無数に飛び交う声に耳を塞ぎ、そしてガタッとタケルは椅子から立ち上がった。
「……!!」
「どうしんたんだい?タケル君!」
士郎がこちらへ歩み寄り、両手で必死に耳を塞ぐタケルへ手を差し伸ばそうとするものの、タケルはそれを否定して二階の部屋へと逃げ込んでしまった。
「な、何なの?今の……」
始めてみる態度に美由紀はキョトンとし、隣の恭也も首をかしげている。
「タケル君……」
自分の行為が正しくなかったのかと落ち込む士郎に桃子は、
「士郎さん、タケル君の様子を見に行ってくるわね?」
桃子は席を外して二階の階段を上がって、タケルの部屋の戸をノックした。
「タケル君?どうしたの?」
しかし、室内はまるで居ないかのようにシンと静まり返っていたが。しばらくして、タケルがなきながらブツブツと呟いているのがわかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「タケル君……」
これほど極度な対人恐怖症とは知らず。桃子は今の不安定なタケルをそっとしておいた。

薄暗く、不気味な森の中を一人の少年が何かに追われていた。
息を切らし、逃げ続ける少年の背後からは巨大な黒い物体が風のように追いかけてくる。そして、少年に深手を負わせていた。影は少年を迷わず襲う覚悟であった。しかし、少年の素早い身のこなしに影はこの森の中で彼を見失ってしまった。
「くぅ……!」
どうにか逃げ延びた少年は影の足音が遠ざかっていくのを確認した後に、彼が懐から青年らしき声が聞こえた。
『ユーノ、奴の狙いは僕だ。僕だけでもこの場に捨てて君はレイジングハートを持って逃げ延びるんだ!』
「で、出来ません!ライブメタルである貴方をこのような危険な場所に……」
『しかし、これでは君に……』
「貴方の適合者と接触するまでは……」
少年ことユーノはその場で横たわったまま、気を失ってしまった。
『ユーノ?ユーノ!?』
ライブメタルと呼ばれるその声は必死に彼を呼び起こそうとするが、深手の上に不眠のため力が尽きてしまった。
同時刻、ライト博士の研究所にて、
「……ワイリーめ、奴もライブメタルを作っておったとは」
ライトはユーノという少年と自分が生み出した金属物質「ライブメタル」、その初号機モデルXの無事を祈り、そして自分の旧友であり今は悪しき宿敵となったアルバート・W・ワイリーの企みを探っていた。
「ワイリーよ……何故お前はあの時道を踏み外した?」
思い起こせば大学生時代、二人は優秀な科学者であり、ロボット工学に優れた天才であったが、ワイリーはライトのように温和ではなく頑固であり、人間よりもロボットを愛したという欠点と自己の強大な傲慢によって彼は世界制服という野望を掲げた。
「早く適合者を探さなくては……!」

翌朝、タケルは早朝に起床して学校へ行く身形へ整えるとなのはよりも先に家を出て行った。ちなみに学校へは専用の制服を着て登校するのだが、越してきたばかりなので制服の発注の間もあるのでしばらくは私服で登校する事になった。そして部屋を出る途中、机に置手紙をおいて出て行った。
「タケル君?」
なのは達が起きてきた後も桃子はタケルがまだ寝ていると思い、彼の部屋の戸をノックしていた。
「タケル君?朝よ?起きなさい」
何度ノックしても反応がないため、彼には申し訳ないが戸を開けて揺すり起こすことにしたが、
「あら?居ない……」
ベッドからは脱ぎ捨てたパジャマ、学校用の鞄も机から消えていた。そして、その机の上には一通の置手手紙があり、「学校へ行ってきます」という一言が書かれていた。
「……」
時を同じくして、帽子を深く被り自転車で通学するタケルの姿が見られた。そんな彼の隣を一台のスクールバスが通り過ぎる。
「あれ?タケルくん?」
「ん?どうしたの、なのは?」
窓から自転車をこぐタケルの姿を見たなのはに、彼女の隣へ座る親友の一人、アリサが窓側を見るなのはへ尋ねた。
「あの自転車に乗っている子、タケル君っていうの」
「へぇ?帽子被っていて顔が見えづらいけど、何だかイケメンだね?」
「でしょ?帽子をとって素顔を見せてくれないかな……?」
一方、タケルは転入した学校でも帽子を被り続けていた。自己紹介早々、クラスメイト達に囲まれたが、タケルは一言も質問に答えることなくそのまま授業へとついた。
「……」
午前の授業を終え、昼休みの最中にて、
「すこしよろしくて?」
「……?」
グリム童話を読んでいるタケルに上品な口調で話しかけてきたのは一人の女子だった。ツインテールをした少女、確かこのクラスの委員長らしい。
「室内で帽子を被って授業を行うのは無作法でしてよ?さ、その帽子をお取りなさい?」
「え……?」
「早く!私のクラスは皆パーフェクトが決め手なの、服装も左方も完璧で無いと駄目なの!こうして日々清潔整頓に勤めたクラスが続けば先生方による私への人気度も上昇!ですから私のため、クラスのため、その帽子を取りなさい?」
「……!」
しかし、タケルは帽子を深く被って抵抗する姿勢を取った。
「あら、逆らいますの?仕方ない、ゴン太!おやりさない?」
「はい、委員長……」
「!?」
すると、委員長の背後から大柄な男子生徒がズシズシと歩み寄り、タケルの元へと歩み寄ってきた。
「おら!チビ野朗?委員長が直々に注意してくださっているんだぞ!?さっさとその帽子を取らねぇか!?」
(その子犬ぶっ殺さねぇと、テメェからぶっ殺すぞ!?)
「っ……!?」
再び過去の回想が、このゴン太という男子と重なってしまい、タケルはトラブって席から飛び出して教室から逃げ出す。
「あっ!捕まえなさいゴン太!!」
「はい!」
ゴン太も続いてタケルを追いかける。

「ねぇ?今度なのはの家に住んでいるタケル君っていう子と会ってみたいな?」
「う~ん……私は別にいいけど、タケル君は大丈夫かな?」
三年生の教室ではなのはは親友の二人に新しく家族になったタケルのことを紹介していた。機会があれば友人二人をタケルに合わせて彼の恐怖症を軽症させようと考えているが、
「でもさ?タケルって子は極度な対人恐怖症っていうんじゃないの?行ったら逆に恐がって、むしろ逆効果じゃない?」
と、アリサはそう告げた。確かに、なのはの友人だからといってタケルにとってはまったくの他人だ。まだ、自分の家族にも馴染めていないのに友人という他人をタケルへ接触させるにはいささか無理である。
「でも、タケル君には友達が必要だと思うの!だから、一人でも多く友達が出来ればきっとタケル君も自信を付けてくれると思うよ?」
と、なのはがいうが、そんな彼女に対してアリサは、
「でもさ、普通女友達が多い男子って少しからかわれるもんだし、男の子だったらやっぱり最初は男友達じゃないと……」
「そうかな?私はそういうの関係ないよ?今度タケル君と会わせてね?なのはちゃん」
消極的なアリサとは違ってすずかはタケルを友人として受け入れることに賛成だった。
「うん!今度紹介するね?」
だが、その時。
「おら!待てよ!?」
上級生と思われる声が叫んで届き、なのは達は教室へと出て廊下を見渡すと、そこには大柄な上級生が自分よりも背の低い、男子の肩を掴んで廊下の壁へと押し付けていた。
「ほら?帽子取れよ!」
「……!!」
嫌がってジタバタするタケルだが、
「ちょっと!やめなさいよ!?」
と、虐めと見てアリサが勇敢にも大柄な男子へやめるよう怒った。
「そうだよ!乱暴はやめて!?」
と、なのはも彼女に加わる。
「うるせぇ!下級生のチビ達は黙ってろ!?」
と、ゴン太はタケルの被っていた帽子を取り上げた。
「あっ……!」
そのとき、タケルは目を大きく見開いて次第に恐怖感が襲い掛かってきた。自分を見ている人間全てが敵意を抱いている、自分を虐めようとしている、自分を軽蔑していると、そういう妄想が彼の頭の中で幾つも浮かび上がってきた。そして、
「うわああぁ!!」
パニックに陥ったタケルは狂ったあまりに体の大きさとは裏肌の怪力を出してゴン太を大きく突き飛ばしたのだ。
「うわぁ!?」
一瞬の出来事で理解できないままゴン太はおよそ、五メートルは飛んだだろう。
そして、タケルは帽子を拾い上げてこの場から失踪していった。その姿を見てなのは達は呆然としているより他ない。
「な、何なの?今の……」
突然目の前で自分よりも巨体な男子を思いっきり押し飛ばしてしまった男子を目にアリサは驚くしかなかった。
「た、タケル君……?」
と、なのはが呟いた。

「ハァ…!ハァ…!」
タケルは学校を抜け出して海沿いの歩道を走り続けていた。しかし、息切れを起して立ち止まると、自分は見知らぬ場所まで逃げ続けて、どうやって戻ればいいのかが知らなかった。いや、学校へ戻ろうなんてことは考えていない。帰りたいのだがなのはの自宅には行きたくない。唯一の親友であるライト博士の自宅へ行きたいが、そこへの道筋も知るはずも無く、仮に行けたとしても博士はよく出張へ出かけているので留守が多いだろう。
「どうしよう……」
戻るところを失って、タケルは途方にくれながら歩き続けた。
見知らぬ道をさ迷い続けて、とある森の道へたどり着いたのは丁度午後の三時頃、今頃なのは達は下校している頃だろうな?帰れる家を持って羨ましがるタケルは一人森へと入っていった。
「森……」
まるで孤独な場所のように思えた。今の自分の心のようである。静で風にざわめく木々が揺れるだけで。
「……」
しばらく彼は森を歩き続けていくと、その風景はまるで彼が過去に呼んだグリム童話の一説を思い出させた。「赤ずきん」である。
「森……」
赤ずきんと呼ばれる少女は森で一匹の狼とであったことから全ての惨劇が始まった。
タケルは自分以外誰も居ない事を見ると、とある木の根元へ座って空を見上げた。
『助けて……!』
そのとき、何処からともなく頭の中から何者かの声が日々いいてきた。
「……?」
タケルは立ち上がり、辺りを見回すが人らしき気配は感じられない。
『この声を聞きし者よ、僕の元へ来てくれ……』
「だ、誰……?」

一方、なのははアリサとすずかと共にタケルを探していた。彼女はあの後、疾走したタケルが教室においてきた「グリム童話」の本を抱えていた。
「何処へ言ったんだろう?」
「鳴海市は結構広いから……」
「この町に来たばっかりでしょ?やっぱり迷子になったのかな?」
「すずかちゃん、アリサちゃん、私あっちのほうを探してみるから二人は駅前のほうをお願い」
「わかった!またここで会おう?」
なのはの指示の元、二人は駅へとタケルを探しに向った。
「タケル君……」
廊下での出来事が今でも頭から離れず、そして彼が持っていたグリム童話の本を小脇に抱えていた。
「グリム童話なの……」
彼女は好奇心からその場で立ち止まると、グリム童話を開いてある一説の話に目を通した。
「赤ずきん」とである。
「赤ずきん……?」
小さい頃絵本で読んだ覚えがある。自分の知っている話だろうか?なのはは呟くようにその話を、「赤ずきん」を読み上げた。
「……その昔、赤ずきんと呼ばれる小さな女の子がいました。彼女は、病気のおばあさんの元へお見舞に行く途中、森で一匹の狼と出会いました。狼は赤ずきんに行き先を尋ねると、赤ずきんは戸惑いもせず答えてしまい、狼は一足先におばあさんの家を襲い、おばあさんを食べてしまいました。狼はおばあさんに成りすまし、後から来た赤ずきんを騙して、彼女も食べてしまったのです。その後、そこを通りすがった猟師に狼は撃たれました。大きな腹を抱えた狼を見て猟師はナイフで狼の腹を裂いて中身を見ると、そこには無残にも散らばった数本の骨と、血と肉にまみれたボロボロの赤いずきんが紛れてしました……」
音読し終えると、なのははパタンと本を閉じた。彼女は表情を曇らせてこの悲惨な最後が頭から離れなくなる。
「……どうして、助からなかったんだろ?」
そう何度も心の中で呟いているとき、彼女の頭の中に何者かの声が聞こえた。
『助けて……!』
「え……?」
『助けて……』
「だ、誰なの!?」
辺りを見回しても助けを求めていそうな人間はいない。それに、この声は通りかかろうとしていた森の道から聞こえてくる。
「……急がないと!」
なのはは森の道へと走り出し、その声のする方向へと向って走り出すが、
ドンッ……
走っている最中、横から歩いてきた人物とぶつかってしまい、双方は尻餅をつくが、そのぶつかった相手とは、
「た、タケル君!?」
「あ……」
探そうとしていたタケルであった。
「何処へ行っていたの?なのは達心配したんだよ?」
「……」
「あ、それよりも誰か助けを求めていなかった?」
「え……?」
「誰かが助けを求めているの!多分この森の中だと思う」
「君も……?」
奇遇だとタケルはそう言った。
「え、じゃあタケル君も?なら一緒に探そう?」
「う、うん……」
なのははタケルの状態を気にせず、彼の手を引いて探し出した。
「あ……!?」
いきなり手を握られて一緒に走らされるとはタケルも驚いて廊下での出来事を起してしまうのではないかと思ったが、相手がなのはだと妙に怯える事もなく恐怖を感じる事はなかった。そして、タケルも平然と彼女と共に行動することが出来る。
「あ、あれは……!?」
なのはが見つけたのは目の前で小さいフェレットのような生き物が傷を負って横たわっている光景であった。
「大変!怪我してる!?」
なのははフェレットを掌に載せて急いで近くの病院へ運ぼうとした。
「なのはちゃん……!」
タケルも彼女に続こうとしたとき、ふと足元に何かが当たる感覚がした。
「……?」
足元には奇妙な金属物質があり、掌に乗るサイズで顔のようなデザインを象った物質であった。
「こ、これは……?」
「タケル君!急いで?」
と、なのはに呼ばれて、タケルは慌ててそれをズボンのポケットへと入れてなのはの後へ急いだ。
森の道を出たとき、丁度すずかとアリサが待っていた。
「あ、なのは!」
アリサが彼女を見て大きく手を振り、
「なのはちゃん!タケル君見つかったの?」
すずかは、なのはの後ろにつく少年を目にそう訪ねた。
「うん、それよりもこの子を早く病院へ連れて行かないと!」
彼女は両手に抱えるフェレットを見せた。
「本当だ!弱っている!?はやく病院へ行かないと」
四人は近くの動物病院へと駆け込み、医者に様態をみてもらうことにした。そのときは夕暮れで病院も閉院間近だったが、診察を受け入れてくれた。
「傷はそんなに浅くはないけど、ずいぶん衰弱しているみたいね?きっと、ずっと一人ぼっちじゃなかったんじゃないかな?」
と、フェレットを手当てした獣医の女性がなのは達に話した。
「李院長先生!本当にありがとうございました」
なのは達は優しくフェレットを手当てしてくれた事に礼を言い、タケルも静に頭を下げた。
「いいえ、どういたしまして。それよりもこの小動物はフェレットかしら?結構珍しい種類だけど……それにこの子、首に宝石を付けているから飼い主がいるのかしらね?」
と、李院長はフェレットらしき動物を眺めると、そこへ横たわっていたフェレットが目を覚まし、自分を書こうなのは達を見た。フェレットは見渡し、なのはへ歩み寄っていく。彼女へ懐いたのだろうか?すると、それをみてタケルが、
「あの、先生?これ……」
と、タケルは鞄から財布を取り出しそこからカードを差し出した。
「あら?これは……」
カードを受け取ると、それはクレジットカードであった。
「……お金の支払い…カードで……」
と、タケルが言うので委員長は笑って彼にカードを返した。
「いいわよ?だって君達のフェレットじゃないんだし、私だってお金を稼ぐために獣医をやっていないんだもの?」
その後、なのは達は病院を出て彼女はタケルに自分の友人の二人を紹介した。
「そうだ!タケル君、こっちの金髪の女の子がアリサちゃんでこっちがすずかちゃん、私の友達だよ?」
「……」
タケルは静に頭を下げた。
「よろしくね?タケル君」
と、すずかは上品にお辞儀をし、
「よろしく!それにしても、診察のお金出そうとしてくれるなんてしっかりしているね?」
アリサは自分らしく明るく挨拶をするが、友人二人はフェレットの事で今日の用事を忘れていた事に気づく。
「いけない!私きょう塾だった」
「あ、私も……」
「それじゃあ明日また皆でフェレットの様子を見に行こう?」
友人二人を別れ、タケルはなのはと共に帰宅した。
「……」
だが、タケルは不安だった。今日自分は学校を相対して、更になのは達に迷惑をかけてしまった。帰ったらなんていわれるんだろう……?きっと、起こられて非難されるんだろうな?そう悲観的に予想していると、
「タケル君、そういえばあの森でフェレットを拾ったときタケル君の手を引っ張って走っちゃったよね?ごめんね、驚いた?」
と、なのはがあの時のことを思い出して軽くわびるが、
「……別に、いいよ」
「え、大丈夫なの?」
「……なのはちゃんなら、平気…かも……」
「そうなんだ……そうなんだ!」
自分を受け入れてくれたかのようになのはは歓喜になってはしゃいだ。
「じゃあ、お友達になれるね!?」
なのははタケルの両手を握ってそう笑い、
「友達……?」
タケルはその一言に首をかしげていた。
その後、二人は家に帰ってきたが、タケルは迷惑をかけたことに反省し、起こられることは覚悟していたが、
「あら、二人ともお帰りなさい?ご飯の用意が出来ているから手を洗って来なさい?」
と、優しく桃子が台所から振り向き、
「お、二人ともお帰り?タケル君、初めての学校はどうだい?」
士郎も相変わらず優しげな雰囲気だった。なのはの兄の恭也も姉の美由紀もいつものように穏やかで明るい。タケルは不安な気持ちが少し和らぎ、手洗いを済ませて苦手な食卓の席へとついた。
食卓でなのはは今日の帰りにフェレットを助けた事を家族へ話し、飼ってもいいかを士郎や桃子にお願いしていた。
「……と、いうわけでそのフェレットさんをしばらく家であずかるわけにはいかないかなぁって?」
「う~ん……フェレットか?」
と、士郎は腕を組んだ考え込み、なのはは熱心に士郎を見つめると、
「……ところで何だ?フェレットって?」
と、知らずに首をかしげて士郎が尋ねるので、なのはは少しガクッとした。
「イタチの仲間だよ?父さん」
そうなのはの代わりに恭也が説明し、
「ずいぶん前にペットとして人気なんだよ?」
そう美由紀も説明した。
「フェレットって小さい動物でしょ?」
「知っているのか?」
と、士郎の隣に桃子が座り、
「しばらくの間だったらカゴに入れておけて、なのはがちゃんとお世話できるのだったらいいけど?恭也、美由紀、タケル君、三人は?」
桃子は二人に問うと、
「俺は特に依存はないよ?」
「私もっ」
二人から賛成を得て、のこるはタケルだが……?
「タケル君は?」
「……」
するとタケルも帽子越しに頷いて許可したが、そのとき彼はズボンのポケットからあの物質を入れてしまっていることに気づいた。
「あ……」
ポケットを撫でると、あの物質のふくらみを感じた。
こうして三人の同意も得てしばらくの間フェレットを預かることになり、なのはは大喜びで、タケルは知らない間に持ち帰ってしまった物質の事で頭がいっぱいになり、フェレットのことは気にしていなかった。
その夜、タケルは寝室で横たわり、例の物質を手にとって眺めていた。
「一体何だろ……コレ?」
『僕はライブメタル、名はモデルX……』
「!?」
また、森で聞いた例の声が頭の中を駆け巡った。
「だ、誰……?」
『僕は君が持っている物質だよ?』
「……?」
タケルは目を凝らし、目を近づかせてそのライブメタルを見た。
「君…なの……?」
『そう、僕さ?君は僕の声が聞こえるんだね?』
「もしかして、助けを呼んだ声って……君?」
『ああ、あの時僕とその仲間を助けてくれたことに感謝するよ。ありがとう……』
「……仲間って、あのフェレットのこと?」
『彼の名はユーノ、今は病院で手当を受けているようで安心はしているが……あ、これは!?』
すると、モデルXは光の枠に包まれるとタケルの掌から浮かび上がったのだ。
「……ど、どうしたの!?」
『この反応……ジュエルシードがイレギュラー化している!?』
「な、何言ってるの……?」
『ユーノが危ない!頼む、僕をユーノがいる病院まで連れて行ってくれ!?』
「……」
『僕を病院まで連れて行ってくれるだけでいい!だから……』
「……わ、わかった!わかったよ……」
そのままタケルは着替える暇もなく家から飛び出すと、
「た、タケル君!?」
「なのはちゃん……!?」
玄関からは共になのはが私服で飛び出していた。
「タケル君にも声が聞こえたの?」
「うん……!」
「早く行こう?」
二人はあの病院までたどり着くと、なにやら異様な気配を感じ取った。
『タケル!ユーノが見つかった』
モデルXの声にタケルは病院を訪ねようとしたが、その刹那。
シュッ……
病院の影から小さな影と、それを追いかける巨大な影が見えた。
「あ、あれは!?」
なのはが見たのは何者かに追いかけられているフェレットの姿であり、名のはの手の下へフェレットが飛び込んできた。
「来て、くれたの……?」
その声はなのはの手の中から聞こえた。フェレットからである。
「しゃ、喋った!?」
しかし、驚くのもつかの間、なのは達の目の前には巨大な影が赤い両目を光らしている。とにかく、なのはとタケルはフェレットを連れて市街地を逃げ回っていた。
「な、何が……何がどうなっているの!?いったいあれはなに!?」
走っているなのはに、彼女の手に抱えられるフェレットは、
「君には資質がある……お願い、僕に協力して?」
「し、資質!?」
「僕は……ある探し物と、「適合者」を探すためにここではない世界から来ました。でも、僕の力では思いを遂げられないかもしれない。だから……迷惑だとはわかっているんですが、資質を持った人に協力して欲しくて!」
そういうと、フェレットはなのはの手から降りて、
「御礼はします……必ずします!僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです。僕の力を……魔法の力を!」
「ま、魔法……?」
「なのはちゃん!上……!?」
タケルが上を見上げると、そこには巨大な影が竜のように飛来して襲い掛かってきた。
「お礼は必ずしますから……!?」
フェレットは必死になのはへ願いを言うが、
「お、お礼とはそういうこと言っている場合じゃないでしょ!?」
一方、巨大な影は地面にめり込んで暴れている。また起き上がって攻撃してきたら今度こそ危うい。
「ど、どうすればいいの!?」
「これを……!?」
フェレットは首に下げている赤い宝石をなのはに渡した。
「温かい……」
「それを手に目を閉じて心を澄まして?それを何度も繰り返して……行くよ?」
「うん!」
フェレットの指示に従い、なのはは宝石を握り閉め、強く集中させる。そしてフェレットは静に唱え始める。
「……我、使命を受けし者也」
フェレットに続いて、なのはも唱え始める。
「我、氏名を受けし者也……」
「契約の元、その力を解き放て!」
「えっと……契約の元、その力を解き放て」
「風は空に、星は天に……」
「風は空に、星は天に……」
すると、なのはが握る宝石は静に鼓動を鳴らす。
「そして、不屈の心は……」
「そして、不屈の心は……」
「「この天に!この手に魔法を……レイジングハート・セットアップ!!」」
すると、宝石より発した眩い光になのはは包まれ、その光が閃光となり夜空を覆う雲を貫いた。
「な、なのはちゃん……!?」
それを見て驚くタケルは彼女の様子を見守った。
「何て魔力だ……」
その光景にフェレットは目を丸くし、引き続きなのはをサポートする。
「おちついてイメージして?君の魔法を制御する魔法の杖の姿を!そして君の身を守る強い衣服の姿を!」
「そんな……急に言われても……え、えぇっと、えっと……」
なのはの頭の中にとある杖の姿が現れ、そして衣服のシルエットが浮かんだ。
「と、とりあえずこれで!」
すると、彼女の身体は再び光に包まれ、そして光が止むとそこには彼女が想像した衣服と片手には杖を握っていた。
「な、なのはちゃん……?」
タケルは姿を変えたなのはを目の前に呆然とするだけだった。
「え、な、なに!なに!?何なの!?」
しかし、戸惑う彼女を待つことなく巨大な影の化物はなのはを襲おうとする。
『大変だ!イレギュラー化したあのジュエルシードが更に興奮を始めている!?』
と、モデルXはそう叫んだ。
「え、どういうこと!?」
それにタケルが問うと、
『魔法に包まれた彼女の力に興奮して奴の攻撃力が凄い勢いで上昇ている!』
「ど、どうすればいいの!?」
『タケル……君に僕の声が聞こえるのであれば君は「適合者」だ、巻き込んでしまったことは本当に申し訳ないと思っている。けど、今は彼女と共に戦わないと、あの少女は苦戦を強いられる。頼む、僕と融合して「ロックマン」へ変身してくれ!?』
「ろ、ロックマン!?」
『頼む!君にも十分な報酬を支払うから、だから……お願いだ!僕に協力してくれ!?』
「……」
タケルはなのはと、彼女と対峙する化物を見た。状況を見れば不慣れななのはのほうが苦戦を強いられる事はわかっている。勿論タケルだって戦うのは恐い。だけど、彼女の戦いを見守るほど臆病ではなかった。
(なのはは……僕にとても優しくしてくれた。こんな僕を嫌わないで仲良く接してくれた。初めて出来た友達を僕は見捨てたくない!!)
「……よしっ、僕も戦う!戦うよ?だから、僕に……僕に、君の力を!戦うための力を貸してくれ!?」
その思いに答え、モデルXのボディーは更に光を発する。
『……わかった、君の思いは伝わったよ。僕を握り締め、強く念じて叫ぶんだ。守りたい者を守るための意思を掲げて「ロックオン」って!』
「……!」
タケルは化物へ近寄り、そしてモデルXを握り締めてそれを上空へかざし、叫んだ。
「ロック…オーンッ……!!」
『適合者確認、ROCKシステム解除……』
その叫びにモデルXが反応し、タケルの身体は光に飲み込まれ、そしてそれが止むと、今のタケルは、先ほどまでのタケルとはしがい、そこには青いアーマーを纏った新たなタケルの姿で居た。
「た、タケル君!?」
なのはもタケルのその姿を目に驚いていた。
「よ、よーし……ど、どこからでも来い!」
このとき僕の、ロックマンとしての最初の戦いが始まろうとしていた……

 
 

 
後書き
次回予告

突如、僕となのはの元へ現れた謎のフェレットと金属生命体モデルX、彼らとの遭遇によって僕たちは魔法との戦いに巻き込まれていく……

次回、ロックマンX1st第二話「マジック/MAGIC」

 僕は、ヒーローなんて信じない…… 
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