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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-5 第20話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-5
勇者ロト
第20話

昨夜見た不思議で、素敵な夢。
勇者ハルカは、勇者ロト――勇者レイル――の血を引き、ローラ姫は、勇者ロトの妻――僧侶プラチナ――の血を引くものであった。
勇者ハルカとローラ姫は、ご先祖と同様、お互い結ばれる運命だったのだ。
夢から覚めたハルカとローラ姫は起きた時から胸が高まっていた。
「僕達の持っている“王女の愛”はロト様とロト様の奥さんとの愛の証なんですね」
「ええ。刻まれた文字は勇者ロト様とその奥様の名前だったんですね。それを私達が持つなんて。素敵ですね」
ベッドはサイドテーブルを挟んで並んでおり、中央にあった二つの王女の愛をそれぞれ手にして胸に当てる。
「そうですね。……ロト様たちも、幸せそうでした。僕達も……」
「はい、ハルカ様」
夢で出会った、勇者レイルと僧侶プラチナはとても優しい人たちで、守護者(武闘家ナギサ、賢者トウカ)に護られながら、幸せな夫婦生活を送っていた。勇者ロトと仲間達はとても素敵な人たちだった。
ハルカとローラ姫も自分達のご先祖達の姿を見られて、そしてその姿に感激した。
「夢とはいえ、憧れの存在にあえるとは思いませんでした。いえ、僕達にとっては……夢ではないのかもしれないですね」
夢とは思えないほどはっきりと、鮮明に勇者レイルたちの記憶がハルカとローラ姫の脳に焼きついている。
そして、僕達は繋がっている……!その事実が二人の気持ちを明るくさせる。
ハルカとローラ姫は顔を見合わせ、笑いあう。
二人は顔を赤らめて、こっそり、軽く口付けをした。
そして、笑いあって、心地よい空気の中、お互い見ないようにカーテンで隠しながら着替えた。
(レイル様、プラチナさん、僕は、頑張ります。貴方達の為にも、ローラ姫のためにも)

朝食の時間。大広間に、国王ラルス16世、大臣、高ランクの兵士と戦士団隊長、勇者ハルカとローラ姫が広いテーブルの前に座る。
白いテーブルの上に、銀色のトレイに乗せられた朝食が並ぶ。パン、コーンスープ、サラダ、リカント肉のベーコンが並ぶ。
「何故、私もここで食べてよいのですか?」
勇者ハルカがラルス王に話しかける。普段はこういう場所で食べるわけがないのだ。
「そなたがローラ姫を連れて、特別な旅をするからだ。ここで食事をして、士気を高めていただきたい。ローラ姫もそなたと食事をしたほうがいいだろう?これからもその機会も増えるだろうしな」
「お父様……」ローラ姫は頬を染めて笑う。
「では、頂こうとするか」

朝食の時間は静かに進む。と言っても、気まずいわけではもちろんない。
ただ、ラルス王は幸せそうに話すハルカとローラ姫をじっと見ていた。
「勇者ハルカはここを離れるだろうか」
「……その可能性は高いでしょうね。恐らく、ローラ姫も勇者ハルカ殿について行くでしょう……。まさか、王様、それを予期して……?」
ラルス王の隣にいる大臣が、王を見ていった。驚きの表情に見えた。
「今はそれ以上言うな。まだ決まったわけではない。確かにいい感じで進んではいるが。今は、勇者ハルカとローラの様子を見守ろうと私は思う」
ラルス王は表情を変えずに淡々と話す。ハルカとローラ姫の交際を全く反対しない。昔の自分なら考えられなかった事だ。以前の自分なら猛反対をしていたであろう。しかし、今はそんなことは全くない。勇者ハルカがローラ姫を連れてきたときから、反対の気はなかった。娘と離れ離れになった期間が自分を変えたのか、それは解らない。もしかしたら、亡くなった王妃が『娘の幸せは、素直に受け入れて』と忠告しているのかもしれない。
それか、いままでうじうじとしていた自分が、勇者ハルカと関わる事により変わっていったのかもしれない。
ラルス王はしっかり食事を取りながら、様々なことを考えていた。

ハルカとローラ姫は二人で会話しながら、食事をとっていた。
当然ながら、口に食べ物を含んだまま話すなど、みっともないことは一切していない。
「美味しいですね、さすが王室のシェフ」
「ええ。でも、今日は一番と美味しいですわ。どうなさったのかしら?なんと言いますか、気合が入った?でしょうか」
気合が入った。まさか勇者ハルカとローラ姫の祝福の意味が込められているのだろうか?
(……まさか、ね)
ハルカはいつも自分が食べているようなパンとは違った、綺麗な黄金色と白のパンをじっと見つめていた。
「ねえ、ハルカ様」
「何でしょう?」
「私、ロトの奥様の血を引いているのに、何にも出来なくて……ハルカ様に頼ってばかりで。私も戦える力があったら、と思ってしまうことがあるのです。でも、その一方で、そうであったら、ハルカ様とこんな仲になれなかったでしょうか?と悩んでしまうのです」
「貴女は、今のままでも問題ないと僕は思います。貴女は姫として生まれ、且つ戦うために生まれたわけではないのでしょう。兵士や戦士団がいますから。上手く言えませんでしたが、大丈夫。僕が竜王を倒し、貴女の笑顔を守りますから」
そもそも、ローラ姫が勇者ロトの子孫、勇者ロトの妻の血を引く者だと判明したのはついさっきの事である。このようなことになるとは、誰も予想できなかったのだ。
ハルカはその事も伝えた。ローラ姫はそうですね、と、小さく頷いた。
「ハルカ様……ありがとうございます」
「どういたしまして」
ハルカの手とローラ姫の手が重なった。今までより熱く感じる。
二人は結ばれる運命。勇者ロトの血と勇者ロトの妻の血が、再び結ばれる。

ハルカはローラ姫を連れて、ラダトームの街を歩く。
まだ午前9時ながら、大通りは賑わっていた。
ルーラの呪文も使用するのでそれほどの長旅にはならないけれど、一応の準備として食糧を買い込んだ。
途中、散歩と称してぶらぶら歩いていたイアンに出会った。
「よう、ハルカ。最近見なくなったと思ったら、ローラ姫とデートかい?」
「あ、いえ、用事で連れて行っているんですよ」
「そうか」
「すみません、色々ありまして。……ほら、今胸にブローチのようにつけている金色の紋章……、ロトの印を手に入れたんです。その前に、ロトの鎧も……」
ハルカはローラ姫と共に、今まで起きた出来事を話した。前にイアンとあったのは、おおよそ一ヶ月前のことである。
「そうか。お前もすっかり勇者ロトだな」
イアンは少し寂しそうな表情を浮かべた。成長したハルカを見て嬉しい反面、変わっていってしまうようで。
「ええ。……今では皆信じてくれます。応援してくれます。でも、いえ、ここでは言えませんね」
「?」
まだやるべきことは残っている。しかし、ハルカは言いようのない寂しさを感じていた。理由はわからない。
「まあ、ハルカ。俺は応援してる。頑張れよ。サユリとエリカもお前と会ってないときでもずっと応援してるぞ」
「はい、解りました」
「え…と、ローラ姫、勇者ハルカをよろしくお願いします」
慣れない丁寧語にハルカは危うく笑いそうになる。何とかこらえるが。
「まあ。はい。でも私はハルカ様を支える側ですよ」
「そ、そうでしたね。……ハルカ、笑ったな」
「バレました?」
「まあ、俺には似合わないことだからな…とにかく、応援してるぜ」
「はい、イアンさん。僕は、負けません」
イアンとハルカは握手を交わした。どことなく前よりやせた気がする、とハルカは一瞬思ったが、気のせいだと言うことにしておいた。

ハルカのルーラの力を利用して、お昼過ぎには雨の祠へたどり着くことが出来た。
雨の祠に入ろうとした時、ハルカのお腹が鳴り、二人は大笑いをした。
「もう、ハルカ様ったら」
「食事にしてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
腹ごしらえとして、ハルカは中に焼いた肉の入ったパン、ローラ姫は中に緑菜が入ったパンを食べた。
「では、改めて」
「……緊張してきました」
「大丈夫ですよ」
雨の祠で何がわかるのか。それは、すぐに解る事である。

雨の祠の賢者は勇者ハルカとローラ姫を歓迎した。
「おお、最後の一つを手に入れ、ロトの鎧も手に入れた。準備は整ったと言うことか」
「ええ。でも、何故、ローラ姫を連れてくることに?」
横でローラ姫が頷く。
「お前さんも気になっていただろう?緑の渦。それは許されたものしか入ることの出来ない、旅の扉じゃ。その先は、精霊ルビス様がお前さんたちを待っている。……少し話しておくと、ここは昔は“ルビスの塔”だったんじゃ。もちろん勇者ロトも訪れた」
精霊ルビス……話でしか聞いたことのない者。勇者ロトにロトの印の元となった聖なる守りを託し、勇者ロト(と仲間達)に力を貸した者。彼女に会えるというのだ!
「心の準備はよろしいかな?」
「はい」
ハルカとローラ姫は緑のたびの扉の前に立つ。
そして深呼吸をして、ゆっくり、一歩一歩、歩き出した。

扉を抜けた先は、何故か塔の頂上にいた。
青い空に、雲が見下ろせる。
目の前には藍色の椅子に座った青い髪の女性がいた。
精霊ルビスである。
「精霊ルビス様……」
ルビスは穏やかな笑顔で、美しい声で語りかけた。
「お待ちしておりました。勇者ロトの正統なる子孫、勇者ハルカ、王女ローラ。いつか会えたらと思いましたが、ようやく会えましたね」
「私も勇者ロト様の子孫ですのね」
「ええ。勇者ロト、勇者レイルとロトの妻、僧侶プラチナは上の世界に戻った後、しばらくして二人の子供をもうけました。上の男の子は勇者ロトの血が濃く、下の女の子は勇者ロトの妻の血が濃いのです。しかし、二人とも勇者ロトの子供には間違いありません。そして貴方達は勇者ロトの子孫で間違いないのです」
ルビスは表情を変えずペースを保ちながら淡々と話す。
「でも私は…」
「勇者ハルカ、王女ローラ、貴方達の親に不思議な感じを受けたことはありませんか?」
「ええ。僕は父さんが異世界出身だと」
「私はお母様が異世界出身だとおっしゃってましたわ」
なお、ハルカとローラ姫は異世界=上の世界、つまりは勇者ロトの故郷と認識していた。
ルビスは頷くと話を続ける。ハルカとローラ姫はじっと耳を傾ける。
「本来ならば、勇者ハルカの父親、王女ローラの母親が協力して、竜王を倒す予定でした。しかし、竜王軍が……」
今まで穏やかな表情を保っていたルビスの顔が険しくなる。
「……解ってます。言わなくても僕は……」
ハルカもつられてか険しい顔になる。
「私のお母様は病気で……」
ローラ姫は不安そうな顔をする。
「それも竜王軍の呪いのせいなのですよ」
竜王はローラ姫の母親の体を弱らせる呪いをかけたと言うのだ。
「!!」
つまりはハルカの父親とローラ姫の母親は竜王に殺されたということになるのだ。ハルカとローラ姫は体が凍りつくような、衝撃を覚えた。
「そんな!」
「でも、貴方達が生きてて良かった…」
「でも、でも、ルビス様!私……」
「解ってますわ。戦う力がないのですね。大丈夫。貴方は勇者ハルカのために祈っていてください。そうすれば、勇者ハルカは戦い抜くことが出来るのです」
再び、ルビスの顔に笑顔が戻り、勇者ハルカとローラ姫も笑顔を取り戻した。
「勇者ハルカ、貴方は様々な人に見守られていますよ。勇者ロトやロトの妻、ロトの守護者達、貴方の両親に」
「私もですか?」
「ええ」
勇者ハルカとローラ姫は無意識に手を繋いでいた。鼓動が聞こえる。
「ローラ姫……僕は、絶対に勝ちます」
「私も、ハルカ様の勝利をお祈りいたします」
「ああ、その顔、勇者ロトとロトの妻に似ている……。私は、勇者ハルカと王女ローラに出会えてよかった……」
「僕も出会えて光栄です」「私もですわ」
ルビスは持っていたエメラルドの杖を掲げ、勇者ハルカとローラ姫に光が降り注ぐ。
ルビスの祝福である。

と、下の階に通じる階段からルビスに使えるエルフが駆けつけた。
「緊急事態なのですか?」
「あ、と言うか、この者達に話して欲しいことがありまして」
エルフはルビスに耳打ちをする。ルビスは首を縦に振る。
「いいでしょう。勇者ハルカに教えると言うことですね」
エルフは用件だけ伝えると、ハルカ達に会釈してから足早に去っていった。
「僕に?」
「ええ。勇者ハルカ、貴方に本当のことを教えておきましょう。貴方の本名です」
「え?僕の本名はハルカ=R=ドランスフィールドですよ?」
すると、ルビスは首を横に振る。ハルカは唖然とその様子を見ていた。……違うと言うことか?
「それは、貴方の父親がアレフガルドに召喚された時に名乗った偽名なのです。本名はハルカ=R=フェアフィールドなのですよ」
フェアフィールド!ハルカには聞き覚えのある姓だった。それはあの夢で出会った、勇者ロト、レイルの本名、レイル=フェアフィールドであった。
「僕は……ロト様と同じ苗字なのですか!」
「ええ」
ローラ姫も当然初耳で驚いていた。
「でも、勇者ロト様は……レイル様は“ロト”と言う称号と鎧や印を残して、上の世界に戻っていったんですよね?何故僕の父さんはアレフガルドで偽名を使う必要が?」
「上の世界で『どこかで生きている』と思わせる為ですよ。あの二人は私が“こっそり”呼び出したものですからね」
「なるほど……」
ルビスは一呼吸して話を続けた。
「そして、勇者ロトは剣も残しているのです。しかし、何者かによって、行方は私もわからないのです…」
ロトの剣。初めて聞いた言葉ではなかった。書物等で何かしらは知っていた。ただ、ルビスと同様、場所はわからないままで、この世界から消えたとさえ言われている。
「……何とかして、僕が見つけ出してみせます。あれがあれば、竜王を倒す為に有用なのでしょう?」
「ええ。鎧と印を見つけ出した貴方なら、きっと剣も見つけることが出来るでしょう」
「解りました。……ルビス様、一ついいですか?僕はこれから“ハルカ=R=フェアフィールド”と名乗らなければならないのですか?」
「いいえ。“ドランスフィールド”姓のままでいいのです。勇者ハルカ、王女ローラ。これからも仲良く……私は貴方達を見守っていますよ」
「ありがとう、ルビス様」
「貴方達をわざわざここに呼んでしまってすみませんね。でもまだ時間があったから。竜王軍もまだ本格的に動くまで時間がかかる。アレフガルドにいる賢者の情報です」
「いえいえ。新しい情報も知れてよかったです……なるほど」
ルビスはハルカとローラ姫に握手と抱擁をそれぞれした。そして、閉じていた扉を再び開かせる。
「では、行きなさい。竜王軍を倒し、アレフガルド、いえ、世界に“光”を取り戻すのです」
「はい!!」
勇者ハルカとローラ姫は精霊ルビスに大きな礼を言い、緑色の渦巻く、旅の扉を潜り抜けた。


再びラダトーム城に戻った。
淡々と時は刻まれていく。辺に静かではあったが、危機感は漂ってはいなかった。
ハルカは体を鍛える為、メルキド周辺で鍛えつつ、ラダトームに戻る言うことを数回繰り返していた(イアン一家にも再びお世話になった)。
ローラ姫はそんなハルカを迎え、癒していた。
トルコ石の月が来て、ローラ姫が15歳の誕生日を迎えた。誕生日パーティはラダトームの人たちで盛大にお祝いをした。
ラルス16世はとある女性と話が進んでいた。15歳になったローラ姫にはもう不安はなかった。それは、勇者ハルカと共に生きていくことを完全に許されたことが分かったからだ。

途中、ハルカは、亡霊となった竜王軍幹部のドラゴン・セサヴァーとスターキメラ・ルヴァシドに出会った。
彼らはまたハルカを殺そうと襲ってきたが、ハルカのベギラマによって返り討ちにされた。
次々とハルカに竜王軍の刺客が来るようにはなったが、すべてハルカの敵ではなかった。

そんなこんなで、新たな年を迎え、ガーネットの月へと動く。 
 

 
後書き
最後が駆け足になってしまいました。実は予定より時期と話の進行が合わなかったのでこうなってしまったのです(苦笑)。この設定で、いつかローラ姫の誕生日(設定では12月2日)、クリスマスのお話も書きたいなあ……。 
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