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SecretBeast(シークレットビースト)

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本編 第一部
一章 「出会いはいつも唐突に」
  第三話「悪夢」

 俺は、夢うつつに妙に鮮明な風景の前にいた。闇があった。暗黒が広がっていた。影で埋め尽くされていた。黒しかない。だけど、その闇はうごめいていた。うごめいているからなにかが暗闇をゆらしているのが分かる。あたりのすべてが暗闇をうごめいてゆらすくらいだから、そいつは自由に空中を遊泳しているのだ。ものすごく巨大だ。目の前の暗黒がずっと下方にも上方にも左方にも右方にもあらゆる方位に広がっている、そうだ、闇があったのではなかった。自分が巨大な闇の中にいるのだ。そしてそいつは闇の中からふとこちらに気づいたようにズズズとうごめきながら徐々にこちらに近づいてくる。
 おれはそいつがまるで真っ青な海で立つこともできない深い海域で、ずっと潜水していてそのどこまでも真っ青な空間に巨大なサメがゆらゆらと遊泳して迫ってくるのに近い恐怖を感じた。
そいつは、予想以上にはるかにでかい。いままで闇が広すぎてそいつの遠近感を捉えられなかっただけだった。
 やつはそれにものすごい速い。今おれの左方を通ったとおもったらまったく違う方角から気配を感じた。この闇の広がりはやつの水槽なのだ。こいつはここで縦横無尽に泳ぎまくりそしてそれによってどんどん体を強く巨大にしていっているのだ。この闇の広がりには永遠にも近い時が流れている、こいつは古の怪物だ、有史以前から神に産み落とされて深い闇の中を泳ぎまわり果てしなく大きくなっていくのだ。
 そしてそいつはついに俺の前に現れた。ものすごい威厳と力感にあふれた頭をしている。顔だけで俺が芥子粒のように見える。龍のような目と獅子のような鼻、すべてを悟った老人のような髭が蓄えられた高貴な顎からは大山のような牙が二本。目も鼻も顎もなにもかも巨大だ。
おれは張り裂けんばかりの叫び声を上げて恐怖のあまり失神した。だがそいつは、めまぐるしく速く泳ぎまわっているが三日も気を失った俺のそばをまだ通り越している最中だった。そしてその途方もない巨大さに驚嘆しながら俺は完全に目を覚ました。
 ジリリリリリ!時計の音が頭の中を突き抜ける、俺は顔や手や背中にどっと汗をかいていた。ものすごく憔悴しきっていた。夢がまだ鮮明な恐怖をもっている。なんだあのものすごい長い永遠のように感じた感覚。そしてとてもじゃないが人間の神経ではあれをそのまま、見続けるのは不可能だと感じた。あの闇のなかにいただけでもおそらくおれは、しばらくしてパニックに陥っているのに気づいたろう。そしてあいつが顔を出したときの恐怖。
 おれはそういうのを知っている。父がクリスチャンで確か聖書かなにかを読んでもらったとき同じような話があった。
 おれは震えている手で学ランを引っ張り出しボクサーパンツに赤いTシャツという組み合わせでYシャツに袖を通し、クリーニングしたての黒ズボンとジャケットを羽織る。
つい、雨の中を傘を忘れて走って帰ったので、母がクリーニングに出していたのだ。だが雨の中を走ってたのは俺だけじゃなかったあいつもだ。豊村伊佐やつも傘を忘れたらしくうれしそうに雨に打たれながら帰っていた。んで偶然同じ帰宅路だということに気づいた俺たちは一緒に雨の中を走ってた。あいつのYシャツがぬれてブラが見えてたりしたが。 
 まったく気にしないのでこっちはだまって目の保養にしていた。
 雨にぬれた前髪が顔にたれていて頬は、みずみずしく水滴をしたたらせていた。
 でもあいつはぜんぜん気にしてなくていつものようにからっとしているのでその笑顔がまぶしかった。
 あいつは笑ったときが一番いい。こっちの気分まで明るくなる。
 さて服を着た俺はふと、時計を見る。6;09だ。
 我ながら馬鹿に早く目が覚めた。俺は夢のことをまだ恐怖してたが必死であれはなんだったのか考えてた。まあ、夢なんだからなんだったのか考えたってしょうがないのだがそこはまあ寝ぼけていたのだ。
そして珍しく父と朝ごはんを食べる。
「母さん、今日も朝ごはん、サイコーだね!」といったのは父だ。それに顔中が、にやけまくって照れる母さん。母さんはけっこう美人のほうである。意思が強い人でそれが顔にでている。この大柄でいつもスマイルなスポーツカットの外人の父がこんなふうなのは、母さんの意志の強い美人な顔がほかほかとまるくなっていい笑顔になるのをみたいがためらしい。
「オー、賢治、母さんのスマイルはいつでもサイコーだよな。賢治はそういう彼女はいないの?ネ、賢治ならもういるでしょーそーゆー人!」
「父ちゃん、朝っぱらかやめてくれよ。テンションに困るよ。こっちはものすごい夢みてぐったりなんだから」
「あら、賢治。今日は馬鹿に早いと思ったら。夢精でもしたの?」
「おう、母さん、賢治はむずかしー年頃ネ、さらっとそんなこと聞いちゃダメね。もしほんとにしてたら返す言葉に困っちゃおよ、いたたまれないよ」
「してねーよ!人の話聞け、金髪外国人!」
「おう、金髪は賢治も一緒ね、人のこといえないね」
「あーもういい!あ、そうだ、なあ父さん、あのさ」
「ん?なんだい、思春期の悩み?」
「そのテーマからさっさと離れろ!なあ、ほら昔にすっごい大きな怪物の出てくる物語読んでくれたろ、あれなんて題名だっけ、ほらインドのほうの有名な奴」
「賢治、もしかしてアラビアンナイトの事?けっこう昔だったから。賢治もう忘れてると思ってたよ」
「あーそれだそれ、でほら、女の子があまりの大きさに気絶しちゃう怪物の名前ってなんだっけ」
「賢治それ女の子と違うよ、たしかに女の子っぽい名前だけどあれはイエス様のことだよ?」
「あれ?そうだっけいや女の子の名前じゃなくて怪物のほう」
「ああ、バハムートのこと?賢治もしかしてバハムートの夢を見たの?」
「そうかバハムート、うんあの迫力に見合ういい響きだ」
「賢治、その夢をほんとに見たなら、賢治すごいラッキーだよ」
「ラッキーなもんかすっげー怖かったんだぞ」
「賢治、そんな夢を見れるのは聖人と呼ばれる人や主に選ばれた人しか見れないんだよ」
「え、そーなの、ふはは。ならば、おれは神に選ばれた人間か」
「賢治が言うとなんかうそ臭いね、ほんとに見たの?その夢」
「おう、ガチだった。夢の中で失神したからな、つらかったなー」
「でもお父さん、そういう苦しいイメージの夢ってこれから起こる試練とかの予兆だっていうの聞いたことあるけど、ほら夢占いであるでしょう。大丈夫?賢治」
「母さん、男は試練乗り越えてなんぼね、お父さんも若いころは試練なんてごろごろあtったよ」
「ほう、父さんに試練?この万年能天気の金髪中年に試練ねえ?」
「だから、賢治、金髪はお互い様ね、いいかげん子供の頃のトラウマすてるね、金髪なんてステータスいまの若者がもってるなんてめずらしいよ」
「それは日本だからだろ。父さんの国じゃめずらしくねえだろ」
「はーこれだから最近のしょうゆ国の若者はだめね、なにやってもネガティブ考える、いけないね、ウツといじめにひきこもりにニート、あげくは自殺。ああ、母さん、わたしはなげかわしいよ」
「大丈夫よ、そのうち、机からネコ型ロボットがでてくるから」
「母さん、さらっととんでもないこと言うな!」」
「はっはっは、おっとそろそろ行かないと母さん、ごちそうさま、じゃあ賢治も母さんもしっかりな、いってきまーす」
「あら、もうそんな時間、洗濯物たたまなくちゃ」
「おい、賢治先行くぞ、なんだまだ食べてないのか、いいか?残すんじゃないぞ?母さんの愛情たっぷりの朝食、残したら、父さん、賢治殺すからな」
おい、やめてくれよ、この親父は、アメリカで本場のヘビー級プロボクサーだったりする。
 父は、流暢に日本語が話せるくせにいまだにしゃべれないときのまねをする。これが初対面の日本人にうけるので、癖になってるらしい。
 くっ、相変わらずこの両親は人を食ってやがる。母さんなんてこないだとなりの山田さんに和菓子と角砂糖を間違えてだして、にっこり笑ってごまかしたらしいし、父さんは大事な取引先に暑中見舞いを間違えてなぜか、陣中見舞い送ったらしい。まあ、取引先はその時、社内のコンピューターが全てクラッシュしたらしく地獄だったらしい。んで何故か、そのお礼、お菓子が届いた。それが和菓子で母さんが間違えて山田さんにだすことなく終わったので、家族でおいしくいただいたという伝説が残っている。
 俺はなぜか世の無常について深く考えながら家を出た。朝の光が道路いっぱいにあふれている。そしてちょっといった曲がり角であいつと出会った。豊村伊佐だ。
 
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