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イドメネオ

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第一幕その三


第一幕その三

「ですからもう悲しむことはありません」
「何という有り難い御言葉」
「これでもう私達は」
「ですが」
 しかしここでイダマンテの言葉が変わった。
「一人だけそうではない者がいます」
「といいますと」
「私です」
「イダマンテ様が!?」
「私は囚われてしまいました」
 じっとイーリアを見て述べる。
「貴女に」
「私に!?」
「そうです」
 また言うのだった。
「貴女の美しさに、重い足枷をつけられたのです」
「まさか」
「いえ、そのまさかです」
 また言うイダマンテだった。
「私はもう」
「まさか、そんな」
「私は嘘は言いません」
 これはイーリアもよく知っていた。彼の心は。
「ですから」
「しかし私は」
 イーリアはイダマンテの言葉から顔を背けた。
「その様なことは。トロイアはもう滅び」
「終わったのです」
 イダマンテは彼女にまたこのことを告げた。
「それはもう」
「終わったと」
「その通りです」
 イーリアをじっと見ている。自分から顔を背けているイーリアを。
「アフロディーテは我々を罰し勝ち誇っています」
「アフロディーテ!?」
 これはイーリアにはわからない言葉だった。
「アフロディーテはトロイアにおいては我々の守護神でしたが」
「違います。彼女は私の心臓を鷲摑みにしたのです」
「貴方の心臓を!?」
「そうです」
 そしてまた言うのだった。
「アフロディーテの息子であるあのエオースが。私を捉えてやみません」
「それはつまり」
「そうです、私は貴女のことが」
「お止め下さい」
 己の心を押し殺してこう返すイーリアだった。
「貴方の父上がどなたか。それをお考え下さい」
「私は父上とは違うこれは神の罪なのですから」
「神の罪!?」
「そうです。非情な神々よ、私は苦しみに苛まれ今死のうとしています」
 天を仰ぎ見ての言葉だった。
「私が犯したのではない過ちの為に。若し貴方達が望まれるのなら私はその仰せに従い己の胸を貫きましょう。貴方達がそう思っておられるのですね?」
「一体何を仰っているのですか?」
「私の苦しみです。若しこの苦しみから解き放たれないならば」
 その言葉は続けられていく。
「私は慈悲を求めません。死以外の慈悲を受けません」
「それは」
「まずは出ましょう」
 ここでイーリアを誘ってきた。
「この部屋から。宜しいですね」
「はい」
「それでは」
 イーリアはこの言葉には素直に従い部屋を後にした。宮殿の外ではトロイアの者達が集められている。彼女は同胞達を悲しい目で見た。
「皆が」
「さあ我が愛するギリシアの者達よ」
 イダマンテはイーリアの横で宣言するように告げた。
「ヘレネはギリシアとトロイアに武器を持たせたが今それにかわり二つの世界を和睦させる素晴らしい女性が我々の下に舞い降りたのだ」
「王子よ、それは一体」
「どなたなのですか?」
 ギリシア人、正確に言うならばイダマンテの国であるクレタ人達が彼に問うた。
 
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