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Magical Girl Lyrical NANOHA- 復元する者 -

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第7話 BLUE-LIGHT








ーー夢を見た。

ーーゆっくり緩やかに……。

ーー誰かが、僕を抱えて歩いていく。

ーー抱えられた僕の体躯は小さく。

ーーそう……赤ん坊の様だ。

ーー抱えてるのは母だろうか?

ーー瞼はまだ閉じられ、光が瞳に射し込むの拒んでいる。

ーー見えない誰かに抱えられ、僕はゆらゆらと微睡みの中に落ちていく。

ーーもう眠りに付く寸前で、僕を抱えている人物が声を掛けてくる。


"・・・・■■■……ゴメンね・・・・。"


ーー……知らない女性の声。

ーーでも、何処か懐かしく……安らぐ声音。

ーー・・・・■■■とは誰だ?

ーー僕の名前は、高町 葛葉だ……。

ーー……貴女は誰だ?


"『復元』を司る我が息子……原初の『召還せし者』よ。貴女の歩む道に後悔が亡き事を祈ります"


ーー復元?……原初?……『復元する原初の世界(ダ・カーポ・ゼロ)』の事か?

ーー何故、知っている……息子って何だ。


"何れ、訪れる災厄を祓い……総ての魔導師を導く者となりなさい。それが貴方の定め………そして、これは私的なお願い……どうか、あの人とあの娘を救って上げて・・・『運命(フェイト)』"と、プロジェクトの名前を付けられた可哀想な子を……。


ーー災厄……?なんだそれは?……それに『フェイト』?アイツがどうした?……僕と何の関係がある。

ーーアンタは僕の何なんだ?


"眠りなさい、■■■……。次に目覚めた時が貴方の始まり……どうか、身勝手な母親を許して"


ーー違う……アンタは僕の母親はじゃない。

ーー僕の母親は、高町 桃子だ。

ーーお前じゃない・・・・。

ーーお前の様なーーーー。










第7話 [BLUE-LIGHT]









ーー・・・・っきて!
ーー・・・・っきてよ!葛葉!

誰かが呼ぶ声。
徐々に微睡みから覚めていく。
瞑られた瞼を開く、暖かな陽光が瞳を射してくる。
開かれた目に最初に入ってきたのは、妹の顔。
なのはが僕を起こそうと身体を揺すっている。
起きたの気付いたのか揺するのを止めて、挨拶をしてくる。


「おはよう、葛葉!朝だよ」

「見れば分かる……なんで僕の部屋に入るんだ?」


起き抜けで頭が寝ぼけている。
思考がハッキリとしない。
夢を見ていた気がするが……む、思い出せない。


「どうしたの?難しい顔して……」

「・・・何でもない。それより、着替えたいから部屋から出ろ。急いで支度する」

「?……そんなに急がなくても良いと思うけどーーー」

「時計・・・・」


葛葉の指摘になのはが部屋に置かれた時計に目を向ける。
示された時刻は、0720。
ここから飯を抜きにしてバス停まで走っても、凡そ10分は掛かる。
それを踏まえると時間的に余裕はない。
時間を見て、なのはの表情が固まる。
間をおいて、なのはの口から大声が上がる。


「ふ、ふぇぇぇぇぇ~~!?な、何で、もうこんな時間!?」


絶叫に近い声が葛葉の私室にこだまする。
余りの煩さに耳を塞ぐ。
朝っぱら騒がしい奴だ。


「良いから、さっさと部屋を出ろ。着替えられん」

「う、うん……じゃあ、待ってるね」

「気を使わんでいい。先に行け。お前の歩行速度ならギリギリだろうが」

「そ、そこまで遅くないよ」


「良いから行け」と無理矢理、先に登校するように促す。
渋々といった様子で、部屋を出ていく。
なのはを部屋から出ていくのを見届けると、クローゼットに近付き、着替え始める。
着替えながら、眠っている間、見ていたであろう夢について考える。
内容は思い出せないが、心に何か引っ掛かるモノがある。
想いだそうとして、脳裏に浮かぶのは、会った事もない黒髪の女性……そして。


(『フェイト』……アイツの名前が何故出てくる?)


夢で告げられた、会ったばかりの金色の少女の名前。
マンションまで彼女を送り届けたのは、記憶に新しい。
だからといって、夢に見るまで深い付き合いではない。

どうも、おかしい夢を見たせいで気分が優れない。
このまま、学校をサボってしまおうかと思い始める。


(まぁ……たまには良いかな。どうせ授業内容なんて全部知ってる事だし)


心の中で結論付け、リビングにいるであろう母に会う為、部屋を出る。
存分に具合の悪い演技をして、母から休んでいいとの許可をもらい、部屋に戻ろうと二階に上がっていく。
そんな息子の姿を、しょうがない子ね……と少し呆れた様な声を漏らしながら、普段手の掛からない、聞き分けの良い我が子の珍しい不良な行動におかしさを感じながらも、何処か楽しげな顔で見送った。

その後…優れない気分をクリーンにするため
ベッドに横になり、ふて寝をする事にした葛葉であった。









ーー放課後・・・・。

聖祥小の校門前にて。
四人の少女が門を通り、下校しようとしている。
その中の1人、金髪で快活そうな少女は不機嫌そうな顔付きでズカズカ歩いている。
その後ろから、紫髪の少女が茶髪の少女を気遣うように声を掛けている。
その更に後ろでその光景をハラハラしながら見るプラチナブロンドの少女。


「じゃあ、なのはちゃん、今日も来れないの?」

「うん、ゴメンね?」

「別に良いわよ!大事な用事なんでしょう」

「ゴメン」

「謝るくらいなら事情くらい聞かせて欲しいわよ!」


振り返り、理由を問いただすアリサ。
なのはに詰め寄るアリサをすずかが宥める。
ふん、と鼻息を荒くし、そっぽを向いて歩いていく。


「行くわよ、すずか!」

「あ、うん…ゴメンね、なのはちゃん」

「うん……ゴメンね」


やんわりと断りを入れて、アリサに付いていくすずかに謝るなのは。
二人の後ろ姿をぼんやりと眺め、立ち尽くす。
そんな、なのはに後ろで控えていたサクラが慰める。


「大丈夫だよ、なのはちゃん。ジュエルシードが集め終われば、また元通りに過ごせるんだよ」

「うん……そうだね…。ありがとう、サクラちゃん」

「どういたしまして♪…さぁ、今日もはりきってジュエルシードを探しに行くんだよ~!」


サクラはなのはの手を引きながら歩いていく。
己のマスターとは違い、まだ精神が幼い少女の心情を気遣いながら。
一度、着替えて準備する為に帰路に着く。

二人で下校し、家に帰ってくると、真っ直ぐに二人は二階の部屋に戻ろうとリビングの横の階段を上がろうとする。
その時、チラッとリビングに視線を向けると備え付けられたソファーに人影が見えた。
兄の恭也は大学。
姉の美由希は高校。
母と父は翠屋で働いているはず。

となれば、家に残るは唯1人。

なのははそぉーとリビングに入っていく。
サクラがなのはの行動に首を傾げながら、彼女の後についていく。
もう少しでソファーに行き着くその手前で。


「おかえり……なのは、サクラ」

「「!?」」


ソファーに横になって、此方を見もせずに挨拶をしてくる。
驚きのあまり固まる二人。
何故、分かったのだろうか。


「着替えたらジュエルシード探しか?」

「う、うん」

「そ、そうなんだよ」


此方が居ることが前提に話始める。
本当に何で分かるのだろうか。
不思議で首を傾げる。


「気を付けてな~……皆には適当に誤魔化しといてやる」

「あ、ありがとう」

「ま、マスターも一緒にどうかな……」

「気が向いたらな~」


ソファーから手をヒラヒラと振り、気のない返事を返す。
予想通りの回答にサクラは肩を落として二階の部屋に向かう。
一方のなのはは、何やら何時もと様子の違う葛葉が気になり、問い掛けた。


「葛葉、何で今日、学校休んだの?」

「具合悪かった」

「朝は何でもないって」

「我慢してたけど、ダメだったんだよ……僕の事は良いから、さっさとジュエルシードを探しに行けよ」


手のひらを上下に動かし、あっち行けの仕草をする。
心配して聞いたのに邪険に扱われ、頬を膨らませてなのはも部屋に戻っていく。
二人が部屋に戻ったの軽く身を起こして確認すると、再びソファーに横たわり目を瞑る。

朝から夢に関して考察し続け、ずっとこの調子の葛葉。
思いだそうとしても思い出せないのが、"夢"
あまりにも気になる内容にずっと頭を悩ませる。
きっと鍵になるのは、あの少女。
綺麗な金髪をした可愛らしい女の子。
夢の中の人物も呼んでいた。
彼女と自分に何の繋がりがあるのだろうか。

更に、夢の中で語りかけてきた女性。
彼女も何者だろうか。
不愉快な事を言われた様な気がするが、どうしてだか心が落ち着く。


(はぁ~……夢ごときでこんなに悩むとは……)


少し憂鬱な気分になる。
感情の行き場がなく、思考が狂う。
今までの人生でなかった事だ。


(う~ん……アイツと話せば、多少は結論は出るかな?)


分からなくて半ば自棄になり始めていた。
そもそもの問題の争点は、黒髪の女性とフェイトだ。
夢でうろ覚えながら焼き付いているこの二つが頭を悩ます原因と云える。
となれば、黒髪の女性に関しては何も情報がないが、フェイトとは顔見知りである。
あの金髪の少女と黒髪の女性が述べていたプロジェクトとやらの子供が同一人物かどうかは分からないが。
『フェイト』なんて珍しい名前はそうそうないはず。


(夜にでも会いにいくかな~……家は知ってるし)


……憂鬱な気分を晴らすために。
ちょっと癒しを求めに行こう。
ポンコツ精霊と妹様では癒されないのです。









★★★★★




ーー夜でありながら、昼間の如く。

ーー闇夜を照らす街の光。

ーー街の中には多くの人々。

ーー己の居場所に帰る者。

ーー此れから、活動を始める者


多種多様な人々が街の中を行き交っていた。
そんな中で、ビルの頂上からそれを見下ろす二人の人影。


黒衣を纏った綺麗な金髪の少女。
傍らに控える様に立つオレンジ髪の使い魔。
少女はデバイスを携えて眼下にある街を見詰めていた。
二言三言話すと少女は斧の形態をしたデバイスを掲げる。
その瞬間……彼女を起点に魔力の柱が上がり、雲一つ無かった夜空が雷雲に覆われる。
雷雲から雷が迸り始めた。



その様子をなのはやユーノ、サクラは市内から確認。
ユーノは慌てて、周囲に広域結界を敷く。
結界に包まれた市内で雷が降り注ぐ。
降り注がれた雷の魔力流に反応して市内の一部の箇所から蒼い光が立ち上る。

……ジュエルシードの強制発動。

急いでなのはと念話で連絡を取り、合流すべくサクラと共に結界内を走る。
走っていると二つの閃光が一点の場所で激突するのが見えた。
その地点から桜色と黄色の光とは別の蒼い閃光が空に向かって上がり、やがて収束していた。

どうやら、封印は成功したみたいだとサクラはユーノと二人安堵する。
然れど、まだ、油断は出来ず、急いでなのはの元へ向かおうと足を更に速める。
だが……。


「させないよ!!」

「「っ!?」」


上空から降りかかる怒号と闘気。
拳を構えながらオレンジ髪の女性が勢い良く落ちてきた。
ユーノが上を見上げ、咄嗟にサクラを覆うようにフィールド系の防御壁を張る。
怒号と共に降り下ろされた拳と障壁がせめぎあう。
結局、拳は障壁を破れず、女性……アルフはユーノ達から距離を取り、体勢を整え立ち上がる。


「君は!?」

「いきなり危ないんだよ!!」


空から舞い降りてきたアルフに驚き、警戒する二人。


「悪いけど……フェイトの邪魔は……させないよ!!」


驚く二人を無視し、アルフが人間の姿から強靭な体躯のオレンジの毛並みの狼へと変じる。
雄叫びを上げ、二人に向かって襲い掛かってくる。


「サクラ!」

「うん、ユーノくん。サボートは任せたんだよ!」


ユーノの声に言葉を返すと、サクラはアルフに向かって片手を伸ばし、掌から桜色の光弾を撃ち放つ。


「ちっ」


舌打ちをしながら光弾の射線上から横に避ける。
互いに一定の間合いを開け、にらみあう。


「ユーノくん、なのはちゃんは?」

「今、あの使い魔の主と交戦中みたいだ」


注意深く、サクラはアルフを視界に捉えながら、ビル街の奥を見る。
遠目から分かる程の魔力の衝突と爆発音が聞こえる。
ビルや他の建物から粉塵が上がっている。


「ちょっと急ごうか、ユーノくん」

「そうだね」

「行かせると思うかい」


にらみ合いながら互いに身構える。
唸りながら此方を威嚇してくる狼にサクラは普段はしない不敵な笑みを浮かべて言い放つ。


「最強の『人型戦略破壊魔術兵器(マホウ)』を嘗めないで欲しいんだよ」


彼女は己の主を思わせる笑みを保ったまま。
自分の行く手を阻む獣を打倒するため、駆け出した。









サクラ達とアルフが地上にて交戦している最中。
市街地、ビルの密集する区画の中空でも激戦が繰り広げられていた。

市街地の中で交じり合う二つの光。

桜色と黄色の閃光が尾を引いて、ぶつかり合う。


黒衣を纏いし、金色の少女はその両手で掴んだ、鎌の形態に変形したデバイスを振るう。

白き魔導師の少女は、桜光の魔力弾を自分の周囲に控えさせ、巧みに操り、金色の少女を撃ち抜かんと狙う。

攻防は現在の所、互角。

金色の少女に以前の余裕は垣間見れない。


(この子、前よりも強くなってる…… )


交わしながらフェイトは思う。
魔力弾の誘導操作一つ見ても、前回と比べるまでもなく。
回避も砲撃のタイミングも以前より上手い。
さっき放たれた4つの魔力弾も前より早く、操作性も上がっていて紙一重でかわしてしまった。
急激な成長といえる。


「同じ物を求めて……競い合うのは仕方の無いことかもしれない」


白き少女と黒き少女。
なのははレイジング・ハートを砲撃形態の『Canon-mode』に。
フェイトもバルディシュを同じく形態を変え『Grave-form』に。
互いに砲身の先を向けあい、牽制し合う。
そんな中で、なのははフェイトに静かに語りかける。

「でも、理由も分からずにぶつかり合うのは嫌だ!」

「ーーーー」


フェイトもまた真っ直ぐに彼女を見詰め、話を聞いている。


「私も言うよ、だから、教えて!貴女がジュエルシードを求める理由を!」

「っーーー」


フェイトの表情が微かに揺らいだ。
その瞳に浮かぶ感情は戸惑い。
真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる白い少女の言葉に心が揺らぎ出す。
「私は……」と呟くように口を開こうとしたその時。
彼女達の下、地上から爆発音と粉塵が舞い出した。


「フェイト!話さなくて良い!」

「っ!?」


声のした方に視線を向ける。
そこには爆発音と粉塵から抜け出てきたアルフの姿。
そして・・・・。


「なのはちゃんがお話中なんだよ!邪魔したら駄目なんだよーーー!」

「っーーーこの馬鹿力!?アンタ、その身体の何処にそんなパワーがあるんだい!?」

「企業秘密なんだよ~~!!」

「ちっ!?」


プラチナブロンドの髪を風に靡かせて疾走する小柄の少女、
地上ではサクラが『魔術(ルーン)』で身体能力を最大限に高め、力任せにアルフにインファイトを仕掛けている。
サクラの振るう拳の一撃にビルの外壁も道路のコンクリートも粉々に粉砕されている。
余りにも単純な暴力にアルフも回避するしかない。
カウンターで魔力弾を打ち込んでも、纏うバリアジャケットに似た服が防御力が高いのか。
放つ魔力弾を弾いて、突進してくるため対抗出来ない。
掴み掛かられたら、それこそ終わりであった。


「厄介な奴だね……フェイト!早くジュエルシードを!」

「なのはちゃん!こっちは任せて!」


桜の精霊とオレンジの使い魔は、各々の現在の主に向かって言い放つと再び戦闘を開始する。
橙色の魔力弾と桜色の魔力弾を撃ち合いながら、フェイト達から離れていく。
サクラとアルフという二つの嵐が過ぎ去るのを見届けると、フェイトが動いた。
地上数㎝に浮かんでいるジュエルシードに向かって高速で飛翔する。
なのはは彼女の後を追って追随していく。
互いに先にジュエルシードを確保せんとビル街を駆け抜ける。

到着は同時。

互いのデバイスの先端が交差する。
ジュエルシードを奪われない様に遮る。
二人の魔力が先端でぶつかり合い、火花を散らす。

それが原因だろうか……。

中心の封印されたジュエルシードから魔力が漏れ出す。
二人の魔力に干渉を受け、封印が解け掛けている。
漏れ出す魔力の圧力が高まり、胎動する。
二人は取られない様にと熱くなり、気付かない。

次の瞬間・・・・。

二人のデバイスの先端に亀裂が生じ、ジュエルシードから膨大な魔力が解き放たれた。
蒼き魔力が天を穿つ様に立ち上る。
余りの衝撃に二人の少女は吹き飛ばされた。


「くっ……!?」

「きゃああああ~~!?」


反対方向に吹き飛ばされ、フェイトは何とか空中で体勢を立て直す。
片やなのはは、そんな器用な真似は出来ず、衝撃も緩和が甘く、地面に叩きつけられていた。
小さなクレーターの中心で呻く。
レイジング・ハートも半壊し、満身創痍という有り様。
ユーノが慌てて駆け寄り、サクラもアルフへの攻撃を止め、心配そうに駆け寄っていく。
フェイトの方は、バルディシュもまた、所々に亀裂が生じ、コアたるクリスタル体が明滅していた。
その状態を唇を噛みしめ、悲しそうに見詰めるフェイト。


「ゴメンね……戻って、バルディシュ」

『Yes…………sir…………』


音声も途切れ途切れ。
主たる少女の命に従い、彼女のするグローブの手の甲に取り付けれている装飾部に形をほどき、待機状態に戻る。
愛機が待機状態に戻るのを確認すると、フェイトはそのまま地上に降り立つ。
クラウチグスタートの体勢を取ると、未だに半暴走状態にあるジュエルシードに向かって一気に駆け出した。
真っ直ぐに手を伸ばし、ジュエルシードを掴み取る。
両手でジュエルシードを包み込み、胸の前に持ってくる。
圧倒的な魔力の圧力が少女の身体を蝕む。


「駄目だ、フェイト!危ないよ、離れて!!」


アルフの悲鳴に近い叫びが周囲に響く。
アルフの静止も聞かず、フェイトは両膝をついて圧力に屈指ながらも暴走したジュエルシードを止めようと魔力を解き放つ。
黄色の魔方陣が展開される。


「止まれ……止まれ……止まれ」


祈るようにジュエルシードを包み込む彼女の手から鮮血が飛ぶ。
魔力で押さえきれない漏れ出でる力が彼女を傷つける。
世界の一つを滅ぼす力を秘めた宝石を止めるには少女一人では力が足りない。


「駄目だ、フェイト!逃げて!!」

「っーーー」


もう……フェイト自身の抑えも限界に近付いてきた。
意識が朦朧とし、彼女の魔力が途切れかける。


「フェイト~~!!」


アルフの叫びが木霊する。
助けに行きたくとも、ジュエルシードの魔力波で近付く事も出来ない。
叫びながら、心の中で助けを求める。
だが、誰一人……彼女に近付ける者はいない。
この場にいる者では、助ける事は叶わない。
そう唯一人、当初、この戦闘に参加せずに傍観者に徹していたある少年を除いては……。
魔導師の常識を嘲笑うこの世で唯一人の存在。




「ーー『復元する原初の世界(ダ・カーポ・ゼロ)』ーー」




風に乗って、穏やかな声が周囲に流れた
運ばれてきた言霊。
夜闇を照らすジュエルシードとは違う蒼き光。


「えっ……」


何処からともなく聞こえてきた声にアルフは驚き、周囲を見渡す。
声と同時にアルフの横を小柄な人影が通りすぎていった。
それは風の如く……真っ直ぐと荒れ狂う魔力の波をものともせず。
中心であるジュエルシードを掴む少女の下へと疾走していく。

一息にフェイトの近くにはたどり着いたその人物は倒れそうな彼女の身体を後ろから包み込むように支えながら、ジュエルシードを持つ両手に自身の両手を重ねる。


「手伝ってやる。だからもうちょっと頑張れ」

「…………クズハ…………?」


顔のすぐ横には、見知った顔立ちがあった。
余りにも近く、普段の免疫のない彼女では赤面ものだろう。
そこにいたのは彼女が最近出会った黒髪の少年。


ーー『召還せし者(マホウツカイ)』を名乗る男の子だった。










★★★★★






「このまま、僕の『能力』で暴走する前の安定した状態まで戻す。しっかり持っておけよ?」

「う、うん……」


突然現れた彼の言葉に従って頷く。
彼は笑顔で私に微笑みかけながら、私の両手を優しく包む。
暖かくて優しい手。
いつの間にか、両手の痛みが無くなっていた。


「ーー『復元する原初の世界(ダ・カーポ・ゼロ)』ーー」


再び紡がれる言霊。
私の魔方陣に葛葉の見たことのない幾何学模様の魔方陣が重なりあう。
魔方陣から蒼光の魔力が解き放たれ、それは手の中のジュエルシードへと干渉していく。
溢れ出していた魔力が巻き戻されていく。
一体、これは・・・・?
私達の知る魔法ではあり得ない不可思議な光景に横目でそれを行っている少年を見る。


「余所見すんな。まだ終わってないぞ」

「ご、ごめん」


彼の顔色を伺っていると怒られてしまった。
葛葉は真剣な面持ちでジュエルシードを包む自分達の手を見詰めている。
彼の魔法による干渉も佳境に差し掛かったのだろうか。
光輝く蒼色の魔力が徐々に収まっていく。
ジュエルシードも暴走が収まり、安定状態になる。

凄い……私が必死に抑えていた魔力を意図も簡単に……。
彼は私の手から両手を離すと一息を付く。
私も暴走が止まったのを確認すると胸を撫で下ろす。
緊張の糸が切れてしまい、それを最後に私は意識を手放した。


「おっと……!」


フェイトが意識を失うと、その華奢な身体を葛葉は優しく抱き止めた。
後ろから抱き締める形で支える。
それを見て、アルフが慌てて二人駆け寄ってくる。


「フェイト!?」

「喚くな、駄犬。気絶してるだけだ」


近付いてきたアルフに不機嫌そうな顔付きで言う。
アルフを一瞥すると、葛葉はフェイトの背中と膝の後ろに腕を入れ、抱き抱えた。
所謂、お姫様抱っこの体勢。
以前、なのはも同じく抱き抱えていたが、今の彼の表情はその時のものとは違う。
優しく慈しむような顔立ちをしている。


「帰るぞ」

「へ?」

「フェイトの消耗が激しい。何処か落ち着いた場所で休ませないといけないだろう?」

「そりゃそうだけど……」

「ジュエルシードも確保したんだ。もう此処に用はない」


葛葉がフェイトを抱えながら歩き出す。
その後を慌ててアルフが付いていく。


「こら、アンタ!フェイトを何処に連れてくんだい!

「お前らの隠れ家にだ。ほら、さっさと行くぞ~」

「なんで知ってんだい!?」


返ってきた返答に混乱する。
強力な阻害結界を敷いて居場所を分からなくしているのに。
何故、この少年はそれを知っているんだ?


「この前、コイツを家まで送ってたんだよ。暗い夜道を1人で歩かせる訳にはいかんだろう?」


何かと物騒な世の中だ。
治安が良いとはいえ、油断は禁物なのだ。
一般的な価値観として好意で送ったに過ぎない。
アルフは葛葉の返答を聞き、愕然とする。
ジュエルシードを2個渡してくれた少年とはいえ、自分の主が目の前の敵か味方が分からない相手に自分達の居場所を晒してしまった事が信じられなかった。


「フェイトは悪くないからな?僕が強引に送っただけだ。誰にもお前らの拠点はバラしてないから安心しろ」

「……そうかい」


此方の心情と不安材料を察してか。
葛葉がアルフをぶっきらぼうな口調だが、安心させるように話す。
それを聞いて、アルフが安堵する。
本当かどうか分からないが。
この少年は嘘を付いてない様に思えた。
短く返事を返してきたアルフに、信用ないね~、と苦笑いをして改めて歩き始める。
アルフも後をついていく。
そんな二人を呼び止めるように彼らの後方から声を掛けられた。


「マスター!?何処にいくの!?」


サクラがなのはを介抱しながら葛葉に向かって大声で問い掛けた。
葛葉はサクラに視線を向けると……


「サクラ……暫く、僕は家に帰らない。なのはを頼んだぞ?」

「ほぇ!?」

「じゃあな~~」

「ちょ、ちょっと、マスター!?」


葛葉はサクラの静止の声を無視し、瞬、なのはを一瞥すると踵を返して去っていく。
魔力で身体強化を行い、ビルの屋上へと跳躍する。
アルフもそれに追随し、二人はビルの雑踏に紛れ、夜の闇に消えていく。
急な家出?宣言をして行方を眩ます己が主の去っていった方向を、サクラとユーノは呆然と眺めていった。









・・・・サクラ達と別れて、葛葉はアルフを伴って彼女達の部屋に入る。
フェイトを抱えながら、玄関を通ると、広いリビングに出た。
リビングに備え付けられたソファーを確認すると、フェイトを起こさないように、静かにソファーへと身体を横たえる。


「バルディッシュだったか?……バリアジャケットを解除しろ。自分の主を、ずっとその格好で寝かせておくつもりか?」

『Jack……et ……off……』


葛葉の指摘に彼女の愛機はバリアジャケットを解除する。
私服姿になったフェイトの手の中で待機状態に戻る。
待機形態である三角形の形をしたブローチは、所々に細かい亀裂が見てとれた。
バルディッシを持つ手に葛葉が片手を置き……


「ーー『復元する原初の世界(ダ・カーポ・ゼロ)』ーー」


重ねられた手の隙間から蒼い光が淡く漏れる。
徐々に光が収まり、消えていく。
重ねていた手を退けると、そこには先程まで亀裂の生じていた筈のバルディッシュが元のままの状態に復元さろていた。
それを見てアルフが葛葉に問い掛けた。


「アンタ、何したんだい?」

「ただ損傷する前の状態に戻しただけだ」

「"戻す"?」


葛葉の返答にアルフが首を傾げる。
まぁ、コイツらの魔法にこういった魔法は恐らくないだろうしな。
分類としては時間逆行……か?


「ようするに壊れる前の状態まで物体の"時間"を"巻き戻した"」

「はぁ!?」


余りにも自分の常識外の回答い驚愕する。
そんな魔法見たことも聞いたこともない。
時間を巻き戻すなんて最早、奇跡に等しい。


「一体、何者だい?アンタ……」

「前にも言ったろ?只の『マホウツカイ』だよ」


そもそも、その『マホウツカイ』という存在がアルフには理解出来ない。
魔導師と何が違うのだろうか?


「ちょっと珍しい稀少技能(レアスキル)を持った魔導師程度の認識で良い。存在自体が稀少だからな」

「そうなのかい?」

「この世界では僕以外いない筈だ」


転生者として生まれ変わった際に神から頂いた力に過ぎない。
他にも『マホウツカイ』がこの世界に居ないとも限らない。
僕と同じ転生者が居て、似た力を持つ者がいる可能性は大いにある。
でも、それは今の所、どうでも良い。


「僕の事は一度、脇においておくとして……問題はコイツだ。明日1日くらいは休ませろ」

「分かったよ」

「絶~~対に休ませろよ?怪我は治してやったが、体力は戻してないからな」


魔力反応を感知して、行った頃にはあの状況だった。
咄嗟に『復元する原初の世界(ダ・カーポ・ゼロ)』・『術式固定(アインハルト)』で、自分の身を守り、彼女の場所まで突撃した。
ジュエルシードを安定状態まで巻き戻すついでに怪我をした両手もそれを負う前まで戻した。
しかし、これはあの状況下での最低限の対応。

消費した魔力と体力までは戻していない。
だから、彼女は暴走が収まったのに倒れたのだ。
それが今の葛葉の限界だった。
というか、周囲を震わせていた魔力に驚き、テンパった。


「ジュエルシードを集めたいなら明日は絶対休ませる事。休まなかった場合は力ずくで眠らせるぞ?」

「了解だよ。心配性な奴だね」


アルフに何度も言い、念を押す。
本当は体力、魔力共に回復させる事は可能だが、明日になってまた無茶をされたら堪ったもんじゃない。
暫くは安静にしてもらうためにわざとしない。


「あ…それと今晩泊めてくれ」

「はぁ?どうしてだい?」

「ちょっとな?コイツに聞きたい事があるんだ」


アルフと合っていた視線を眠るフェイトに向ける。
コイツには色々と話してみたい事がある。
愚妹(なのは)と一緒では聞けない。


「フェイトに変な事すんじゃないよ!」

「しねぇよ」


アルフにぶっきらぼうに言い返すとフローリングの床に腰を卸し、フェイトを起こさない様にソファーにもたれ掛かり目をつむる。
何処か腑に落ちない様子のアルフだが、フェイトを助けてもらった手前、強く言えない。
渋々ながら、アルフは狼形態に戻り、葛葉と同じくソファーの側で身体を横たえる。

二人と一匹は静かな室内で先程の喧騒が嘘のように。
穏やかな寝息を立てながら眠りに付いた。









 
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