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イドメネオ

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第三幕その五


第三幕その五

「参りましょう、神殿へ」
「うむ、ポセイドンの神殿に」
「何という恐ろしい悲劇・・・・・・」
「惨い運命よ」
 民衆達も彼の不幸に嘆くしかなかった。だが最早どうにもならない事態にまで至っていたのだった。
 ポセイドンの神殿前。既に入り口も柱の辺りもクレタの者達とトロイア者達で埋め尽くされている。青い海を思わせる色の神殿の周りに様々な人々が集っている。
 既に祭司達は生贄の儀式の用意をはじめている。祭壇と刃が出されている。
「王よ、それでは」
「宜しいですね」
「うむ」
 祭司達の言葉に応えるイドメネオがいた。彼は祭司長と共に祭壇の前にいる。だがるバーチェはイダマンテを呼びに行っていてここにはいない。
「いよいよだ。儀式をはじめる」
「イダマンテ様が来られたならば」
「トロイアを救う為に」
 重苦しい決意の言葉を口にする。
「やらなければならぬ」
「はい・・・・・・」
「何という惨い話だ」
「王子様が、王様の手により」
 誰もがこれからはじまることを想い悲しみに打ちひしがれている。しかしここで遠くから何か不思議な、ここには場違いな明るい声が聞こえてきた。
「やっや、やったぞ!」
「勝利の栄光は貴方に!」
「貴方によってクレタは!」
「!?あれは」
 その声に誰もが顔を向けた。
「勝利の声!?何故今」
「ここで聞こえるのだ」
「王よ、こちらでしたか」
「アルバーチェ」
 アルバーチェが祭壇の場所に来た。そうしてまずは一礼してから王に述べる。
「イダマンテ様は勝たれました」
「勝っただと!?」
「はい、そうです」
 息を切らし汗を額に流しつつ答える。どうやらここまで必死に走って来たらしい。その声と顔で王に対して語るのであった。
「あの獣に果敢に向かわれ。そして」
「勝ったというのか」
「はい、そうです」
 こうイドメネオに対して述べるのである。
「クレタは救われました、これで」
「まさか、そんな」
「あの獣を」
「いや、来られたぞ!」
「王子様だ!」
 驚く民衆の言葉が変わっていく。
「イダマンテ様だ!来られたぞ!」
「冠を被っておられるぞ!」
 それは花の冠だった。戦いに勝った英雄に授けられる冠だ。彼は兵士達に囲まれている。そして民衆達にも囲まれその中で祭壇の前に導かれたのだった。
「我が子よ」
「父上、私は」
「許してくれ」
 まずは我が子に対して詫びた。
「私は。そなたを」
「いえ、これも運命です」
 頭を垂れてイドメネオに述べる。
「どうか。ここでクレタの為に」
「命を捧げるというのか」
「そうです」
 片膝をつきまた父に対して述べる。
「どうかこの胸に。三叉の鉾を」
「だがそれは」
「王よ、ここはお慈悲を」
「御願いです」
 祭司達も兵士達も民衆も彼に懇願する。
「お止め下さい」
「どうかまた一度。ポセイドン神に」
「人の情はその創造主に従うもの」
 だがここで当のイダマンテが言うのだった。
 
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