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MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~

作者:小狗丸
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011

 ハジメがエイストから決闘状……模擬戦の指令書を受け取った次の日。基地にある模擬戦場の一つで二体の鋼鉄の巨人が睨みあっていた。

 片方は背中に巨大な翼を背負った濃緑の巨人、ハジメが乗るマスターギア「サイクロプス」。

 もう片方は背中に巨大な二振りの実体剣を背負った濃紺の巨人、シヤン・エイスト大尉が乗るアンダーギア「オルトロス」。

 模擬戦場の周りには戦闘の様子を観察するための観客席があり、観客席には軍の上層部にファム達を初めとするハジメに救われた艦の士官達の姿があった。

『ハッハッハーッ! よく逃げずにきたな、偽者野郎! 確かハジメとか言ったか? その度胸だけは誉めてやるぜ』

『はあ……それはどうも……』

『……………!』

 オルトロスから聞こえてくるエイストの声にサイクロプスに乗るハジメが戸惑いながら答え、観客席からざわめきが生まれる。

 ベット・オレイユの軍人でサイクロプスという機体と、その機体を動かせるという意味を知らない者はいない。稼働状態にあるサイクロプスを前にして一を偽者呼ばわりするエイストに、観客席にいる全員が顔を強ばらせたり蒼くしたりして、特にファム達を始めとするハジメに助けられた士官達は嫌悪の表情でエイストが乗るオルトロスに視線を向ける。

「うっわ~。あのバカ犬大尉ってばよくあんな暴言を言えますね? ハジメさんが乗っている機体が見えていないんですかね?」

「シヤン大尉はサイクロプスのことも偽物だと疑っているんでしょうね……」

「どうかな。あのシヤン大尉のことだ。単にマスターギアのことを知らないだけかもしれないぞ?」

 怒りや嫌悪を通り越して呆れた顔になったファムに、僅かに不機嫌そうなフィーユが答え、明らかに不機嫌な顔のソルダが吐き捨てるように言う。

「ん~。相手がバカ犬大尉ですからでしょうか? フィーユちゃんの意見よりもソルダの方が説得力がありますね。……って、あそこにいるのはコロネル大佐ですか?」

 見れば模擬戦場の端の方で、この模擬戦の審判役であるコロネル大佐がハジメとエイストに試合内容を説明していた。

 今回の模擬戦は時間無制限の一本試合方式で、基本的なルールは次の三つだけ。

 武装は機体に装備されているものなら何を使ってもいいが、相手のコックピットへの直撃は避けること。

 機体を空に飛ばしてもいいが、制限高度を超えたり模擬戦のフィールドから即座に敗北とする。

 パイロットが降参するか、機体が戦闘不能な状態になるまで模擬戦は行われる。

「このルール……シヤン大尉の方が有利ですよね」

「ええ」

「ああ」

 ファムの言葉にソルダとフィーユが苦い顔で頷く。

 ハジメのサイクロプスは射撃武器のみしか装備していない遠距離戦特化型の機体であるのに対して、エイストのオルトロスは背中の実体剣を主武装とする白兵戦特化型の機体。

 隠れられる障害物が一切なく、しかも活動できる範囲が限られる戦場での一対一の戦い。相手との距離をつめてから真価を発揮する白兵戦特化型と、相手と距離をとってから真価を発揮する遠距離戦特化型、一体どちらが有利なのかは誰から見ても明らかだった。

「上層部のジジイ共……どうあってもハジメさんに負けてほしいみたいですね」

「でもサイクロプスを動かしたのだから、ここにいる全員がハジメさんをイレブン・ブレット少将だと認めてくれますよね」

「そうだな。それにハジメ殿ならこの程度のハンデ、なんともしないだろうさ」

 ファム、フィーユ、ソルダが口々に言っていた頃、ハジメはサイクロプスのコックピットの中で複雑な顔でオルトロスを見ていた。

「なんだか変なことになったな……」

 実際の機体に乗っての戦闘はこれで三度目。しかし一度目と二度目の戦闘は相手がゴーレムであったのに対して、今度は生身の人間が乗ったアンダーギアが相手だ。

 ハジメが戸惑いを隠せないでいると、審判役であるコロネル大佐が拡声器を使ってこの場にいる全員に聞こえるように戦闘開始の合図をだす。

『それでは……試合、始め!』

『よっしゃあ!』

 ジャキン!

 コロネル大佐の合図と同時に、オルトロスが背中にある二振りの実体剣を手に取って構える。

『どうした? ビビっているのか? 安心しろよ、これは模擬戦だからな。ゲームみたいなものだと思えよ。といってもお前にとっては俺様に切り刻まれるだけのクソゲーだろうがな』

「ゲーム……?」

 オルトロスから聞こえてくるエイストの言葉に、ハジメは何かに気づいたかのように顔を上げる。

(そうだ……。これは模擬戦なんだ。ゲームのマスターギアのインターネット対戦だと思えば……)

『オラァ! 行く……ぜぇ!?』

 ドガァ!

 サイクロプスに向かって突撃しようとしたオルトロスだったが、突然機体の右手に爆発が起こり、その衝撃で機体が地面に倒れしまう。

『ぐ……。一体何が……って! 俺様のオルトロスの右手が!?』

 よろめきながらオルトロスが立ち上がると、オルトロスの右手は完全に破壊されていた。

 そしてサイクロプスは、指が鉤爪となっている左手を指鉄砲の形にして人差し指をオルトロスに向けており、人差し指の先端部にはビーム銃の銃口と思われるものがあった。

 サイクロプスの左手。五本の指の先端部にあるエネルギーの放出口からビームの刃を作り出して放つ武装「ギガースクロー」。近距離の射撃にも使うことができるサイクロプス唯一の格闘用武装である。

 サイクロプスはこの左手、ギガースクローの人差し指からビームの刃を飛ばしてオルトロスの右手を破壊したのだった。

『テメェ、よくもやりやがったなぁ! ……え?』

「遅すぎるよ」

 残った左手に持つ剣を構え直そうとエイストだったが、そんな時間などハジメは与えるつもりはなかった。

 ガガガガガッ!

 ギガースクローの五本の指全てから放たれるビームの刃の連射攻撃。サイクロプスの左手から生まれる光の雨が、オルトロスのコックピットがある胴体を除く頭部と四肢に次々と当たって完全に破壊していく。

 頭、右腕、左腕、腰、右足、左足。サイクロプスの攻撃が当たる度にオルトロスの機体に向こう側が覗ける風穴があき、操り手に振り回される操り人形のような無様なダンスが披露される。

『う、うわ! うわわっ!? ちょ、ちょっと待て、待てって! まだ俺様、一回も、攻撃してな…………ギャイン!?』

 頭部と四肢を失ったオルトロスの胴体が重力に従って地面に激突すると、コックピットにいたエイストは何やら犬みたいな悲鳴を上げてあっさりと気絶してしまった。

「攻撃が当たったら、体勢を立て直す時間を与えずひたすらにコンボを繋げる。対戦プレイの基本だよね」

 あまりにも一方的すぎる試合内容に静まりかえった模擬戦場に、ハジメの場違いなコメントが響きわたった。 
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