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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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番外ネタ その1 苦労して得た物はどんな下らない物でも素晴らしい

 空は快晴、晴れ渡る青空の下、真選組屯所内では、今正に緊張の空気がひしめき合っていた。
 歴戦の勇士達が皆、固唾を飲み込んで結果を今か今かと待ち焦がれている。
 そんな中、沖田が答えを携えて読みを進め始めた。

「評議の結果を発表します。賛成多数、反対1。以上を持ちまして、今回の法案を可決する事にします」

 どうやら答えが出てきたようである。しかしかなり偏った評議だったようだ。
 一体その反対とは誰だったのだろうか? 
 それは、顔を見れば一目瞭然であった。そう、鬼の副長こと土方十四郎その人だったのだ。

「真選組屯所は、只今を以って、全域禁煙と致します」
「ちょ、ちょっと待てよ!」

 早速異議を唱え出す土方。彼にとって喫煙とは切っても切れないものだ。それを無理やり切らされては彼にとって生きる気力を失わされる羽目となってしまう。何としてもこの法案を可決させる訳にはいかない。

「そ、其処はもう少し喫煙者に配慮すべきじゃないのか? 俺の他にももしかしたら喫煙者は居るだろう?」
「いいえ、土方さん以外に喫煙者は居ませんぜぃ」

 沖田の言う通りであった。法案の結果でも見ての通り、土方以外は全員が禁煙に賛同している。現在この屯所に土方の味方は一人も居ないのだ。

「じゃ、じゃぁ……じゃぁ俺みたいな喫煙家はどうすりゃ良いんだ? 一体これからどう生活すりゃ良いってんだ? その法案を出した以上答えも出してるんだろ?」
「当然でさぁ。喫煙家は今日を以って直ちに煙草を辞めて貰いまさぁ。それが出来ないってんなら局中法度で即切腹して貰いまさぁ」
「殆ど俺に死ねって言ってんじゃねぇか! ふざけんじゃねぇ!」

 その後も、必死に土方は抵抗を試みたのだが、結局一度可決した法案を覆す事は出来ず、結局土方は自由に煙草を吸う場所を失う羽目となってしまったのであった。




 その頃、万事屋の下にあるスナックお登勢では、夜の仕事に備えての仕込み作業に入っていた。
 つまみの支度や酒類の用意。店内の掃除や模様替えなどなど、スナックは夜営業するとは言え昼間でもやる事は沢山ある。
 そして、その仕込みの手伝いをなのははしていたのであった。
 そんな普段からやってるお手伝いをしていたある日の事であった。

「オラァコノクソガキ! 煙草キレタカラチョット買ッテ来イヤァ!」

 そう、今回の番外編にて初登場の猫耳萌え(?)キャラであるキャサリンである。
 猫耳が生えてるって所に高いポイントを期待する読者も多いだろうが、このキャラ、かなり顔が濃いのだ。故に好みの差があると思われる。
 そして、そんなキャサリンがなのはにおつかいを要求してきたのである。
 それが今回のお話の発端でもあった。

「えぇ? 私今おつまみの仕込みやってるんだけど。欲しいんだったら自分で買って来てよ。キャサリンさん暇でしょ今」
「ザケンナヨゴラァ! テメェノヤッテル仕事位私ニダッテ出来ンダヨゴラァ!」
「えぇ~、だってキャサリンさん以前これ教えたけど全然出来なかったじゃん。返って面倒臭いからキャサリンさんが自分で買って来てよ」

 案外気付かないと思うのだが此処の店での働いてる経歴は実はなのはの方が案外長いのだ。
 生憎まだお子様な為に夜の仕事はさせて貰えてないのだが、その分昼の仕事は一通りこなせるのである。
 それに比べて、キャサリンは夜の仕事は出来るのだが如何せんこう言った仕込みの類が下手ならしい。
 その上年上と言う事もあってか時折なのはをこうしてパシリに使おうとしているのである。

「良イカラ行ッテ来イッツッテンダロウガコノ小娘! ホラ、釣リハ全部ヤルカラサッサト買ッテ来イヨゴラァ!」
「え、お釣り貰って良いの? じゃ行って来る!」

 其処は子供ならしい。小銭だけで後輩に使われる哀れな先輩の風景でもあった。
 右手に千円札を握り締めたまま、なのははスナックを飛び出し広いかぶき町の中で煙草を手に入れる長い長い旅が始まったのであった。

「長い長いって言ってもどうせそこら辺で煙草買えば良いし、でも最近煙草高いしなぁ……普通に買ったんじゃお釣り全然貰えないし……」

 なのはの幼い思考がフル稼働しだす。どうすれば如何に沢山お釣りを手に入れられるのか?
 どうすれば格安で煙草を手に入れられるのか?
 そして、その答えは案外すぐに浮かび上がった。誰も思いつかないような方法で。

「そうだ! 土方さんに1箱分けて貰おう。そうすれば煙草買う必要もないから千円丸まる私の物になるし!」

 自分自身ナイスアイディアだと思っているだろうが、その土方からして見れば溜まった物じゃない。
 だが、今のなのはにとって土方がどうなるかと言うよりも手元にある千円札の方が遥かに大事なようだ。
 
「さて、そうと決まったら急いで真選組屯所に向わないとね」

 急いで買い物を終えて仕込みに戻らねばならない。でないとキャサリンでは仕込み出来ない上にろくでもない代物を作ってしまいそうに思える。
 その前にとっとと煙草を買って帰って仕事に戻らねばならないのである。
 そんな時であった。道中の何の変哲もない電柱。普段なら其処に目などやる事はない筈なのだが。
 その電柱にふと目が行ってしまった。
 何故なら、その電柱に向かい、これから会いに行こうと思っていた土方が必死にヘッドバットをかましていたからなのだ。
 額から血を噴出し、血眼になってまでも必死にそれを行っているのだ。

「あ、土方さんだ!」
「け、煙ぃぃぃぃ! 煙を吸わせろぉぉぉぉぉ!」

 名を呼んだなのはの事などガン無視し、そう叫んでいる土方。相当恐ろしい光景なのだろう。回りを歩いている人達が気味悪がっている。

「ねぇ、土方さん!」
「あぁ? 何だ、万事屋のガキか」

 振り返れば其処になのはが居たので土方はそんな風に答えた。相変わらず愛想の欠片も感じられない。
 まぁ、この男にそれを求める事事態無駄なのだが。

「こんな所で何してるの?」
「見りゃ分かるだろうが」
「電柱に愛の告白?」
「何所をどう見たらそうなるんだああああああ!」

 何所をどう見たってそう思えてしまうのは世の理でもある。まぁ、他にも見方はあるだろうがこの場面ではそう見えたと言っておくしかないのだ。

「屯所が全域禁煙になっちまって、煙草が吸えなくなっちまったんだよ!」
「他の所で吸えば良いじゃない」
「それが駄目だったんだよ。路上、ファミレス、コンビニ、駅、その他諸々……全部禁煙禁煙……喫煙者にとっちゃ生き難い町になっちまったんだよ!」

 どうやら運の悪い事に今日は江戸全域で行う禁煙日だったようだ。そして、その時を同じくして屯所内で禁煙令が出されたもんだから土方は何所でも吸えなくなってしまったのだ。

「ふぅん、大変だねぇ」
「ものすっごい他人言だなぁ、その言い方」
「だって、他人だもん」
「良い性格してるよてめぇは」

 二人して路上を歩きながらの会話であった。土方は喫煙所を探しており、なのははその土方が持っている煙草を貰う為にである。

「ねぇ、煙草が吸えないんだったら煙草要らないでしょ? だったら頂戴」
「何でそう言う結論に行き着くんだ? ってかテメェ未成年だろうが! ガキが煙草吸おうってのか?」
「違うよ。キャサリンさんがお使いで買って来いって言って来たんだけど、最近煙草高いし、それにお釣りは全部くれるって言うから、それで一番安上がりで済みそうな土方さんに貰いに来たって訳」
「要するにたかりに来たって訳だな」

 冗談ではなかった。確かに今は吸えない状況だが、別に吸いたくないと言う訳ではない。
 喫煙所を見つけたら即座に一服と洒落込むつもりなのだ。それなのにその大事な時にこの煙草を渡してしまっては貴重なニコチン摂取が行えなくなってしまうのだ。
 渡す訳にはいかない。

「悪いがてめぇにやる煙草はねぇ。お子様はペロペロキャンディーでも食ってろ」
「子供扱いしないでよ。私はもう立派なレディーなんだから!」
「つり銭で目を光らせる時点でまだまだガキだよ……ん?」

 ふと、土方の視線が一点に止まった。其処に見えたのは何か。
 無数の人ごみの中に只一つ、燦然と輝くその凛々しき姿。
 四角い箱、天辺には鉄製の網。その箱の意味を示す札。隣にある自販機。
 間違いない。あれこそ、あれこそ土方が捜し求めていたオアシス。
 その名も《喫煙所》であったのだ。
 土方の足取りが軽くなる。長い灼熱地獄の砂漠地帯を歩き回り、ようやく見つけた天国。湧き上がる水と雄大な自然が見受けられるオアシス。
 それに匹敵する光景が土方の目の前に映りだしていたのである。
 が、別に喫煙者ではないなのはには只のうす汚い箱に過ぎないのだが。
 そんな丁度その時、町中にある大型テレビでは、丁度先ほど行われていた環境関係の話題に触れていた。
 そして、大型テレビにデカデカとある人物が映っていたのだ。

「あ、松平のおじさんだ」

 そう、其処に映っていたのはご存知、警察庁長官でもある松平片栗虎その人であった。
 相変わらず間延びした口調で難しい単語を沢山並べてべらべらと喋っている。
 幼いなのはには何を言っているのかさっぱり分からなかったが、只一つ分かる単語があった。
 ……今日から一週間、江戸全域に渡り禁煙令を遂行しますぅ……
 と。
 その言葉が出た直後、喫煙所の方で凄まじい轟音と爆音が響いた。
 見ると、喫煙所が自販機ごと綺麗になくなっており、その傍らには血塗れになって倒れてる土方の姿があった。

「た、煙草……た、煙草をぉぉ……」
「もう黒こげだよ。煙草」

 なのはの目の前で灰となり消え去っていく煙草。これでは土方に頼る意味がなくなってしまった。
 しかし、先ほどの光景から察するに江戸で煙草を買うのはどうやら危険な事だと言うのが、幼いなのはでも理解出来ていた。
 下手に自販機や出店で買おうとすれば土方の二の舞になる。
 だが、お釣りは欲しい。
 一体どうすれば良いのか?

「ねぇ、煙草って他の所で買えないの?」
「もう江戸じゃ煙草は買えねぇ。あのとっつぁんが言った以上江戸全域は意地でも禁煙って事になっちまってやがる。煙草一箱手に入れるだけでも大変な事になっちまってんだよ」
「え~、それじゃ私お釣り貰えないよぉ。何とか方法ないのぉ?」
「こうなったら、方法はアレしかねぇ……」
「アレ?」

 立ち上がり、土方は意を決した。その決意の表情は硬く、そして凛々しく、更に言えばアホ臭い顔をしていたのであった。




     ***




 満天の星達が煌く漆黒の海、大宇宙。
 その広大な大海原を、一隻の旅客船が静かに航行していた。
 その中では、束の間の旅路を楽しめるように客室乗務員が配慮を行い、それを受けて客達が快適な旅行ライフを送っているのであった。

「お宅も宇宙旅行?」

 隣に居た袖振りの良さそうな恰幅な中年男が訪ねて来た。顔から見るにとても楽しそうに見える。
 良い事でもあった。

「いやぁ、良い時代になったもんだねぇ。ほしぼしを股に掛けての宇宙旅行だなんて。所で、お宅らは家族で旅行?」
「家族じゃないっすよ。ただの付き添いみたいなもんっすよ」
「へぇ、それにしちゃ随分可愛らしいお嬢ちゃんだねぇ」

 男の目に映るもの。それは黒髪の男の隣で静かに寝息を立ててる少女であった。
 どうやら、少女にとっては満天の星空は最初はインパクトは強い物の飽き易いようだ。
 すっかり飽きてしまい眠ってしまっていたのだ。

「ま、良いや。それよりお宅らは何所の星に行くつもりなんで?」
「ハメック星」
「ハメック星? あそこ何も見るのないよ。たばこ畑しかないし。一体何しに行くの?」
「そんなの決まってるだろ? 煙草吸いに行く以外に何があるってんだよ!」
「ひぃぃ!」

 男が上ずった声を挙げた。其処に居たのは半ギレ寸前の土方だったのだ。
 そして、隣で寝息を立てていたのは無論の事なのはである。
 そう、二人は煙草を手に入れる為に広大な宇宙に繰り出したのであった。
 その間、土方の口からは表紙でどうのこうのとか、高校生だこうのどうのとか色々と愚痴っているのであった。

「上等じゃねぇか! 江戸で禁煙令が出たってんならその外で吸ってやる! 煙草がないなら原産地にまで取りに行ってやる! 喫煙者舐めるんじゃねぇぞぉぉ!」
「土方さん、五月蝿い」
「あ、すみません」

 散々騒ぎ立てたせいでなのはが起きてしまったようだ。目を擦りながら怒ったなのはに申し訳なさそうに謝罪する土方。
 余りにもシュールな光景であった。




     ***




 一面焼け野原が目に映った。
 此処が例のハメック星なのだろう。確かに何もなかった。
 観光スポットになりそうな代物もなければ旅館もない。観光には適さない星とも言えた。
 だが、今の土方となのはにはそんなのどうでもよかった。
 只、たった一箱の煙草を手に入れる。それだけの為にこうしてやってきたのだ。

「そうかそうか、わしらの煙草を吸いにわざわざお越し頂けるとは、嬉しい限りですじゃ」

 緑色の肌をした老人がそう言う。どうやらこの星の住人はそんな肌をしているのだろう。
 まぁ、そんなの関係ないのだが。

「じゃが、この星は悪の帝王ブリーザの手によって、焼け野原に変えられてしまったんですじゃ」
「元々焼け野原じゃなかったんだ、此処」
「お前は黙ってろ。今良い話してる最中なんだから」

 余計な事を口走ろうとするなのはをとめる土方。良いシーンが台無しになってしまうのを防ぐ為だ。

「煙草は、もう……」

 老人が懐から取り出したのは高そうな箱に収められたそれ一本限りであった。

「これだけなのですじゃ」
「随分大切に保管してるんだね。湿気ないのそれ?」
「だからお前は黙ってろってんだよ!」

 そろそろ空気を読んで欲しい。そう思ってしまう土方であった。
 しかし、たった一本でも土方には嬉しい限りだ。それを貰い心行くまでニコチンの味を体中に充満させたい。煙の味を味わいたい。
 そう思いそれに手を伸ばす。

「止めろじいちゃん!」

 其処へ、老人と同じ肌をした少年がやってきた。少年はその煙草を渡すまいと老人にすがりついたのだ。

「こ、こら! デルデ」
「それは、それは父ちゃんが残したたった一本の煙草。父ちゃんの形見なんだ!」

 どうやらその煙草はこのデルデと言う少年の父親が残した最後の一本らしい。たかが煙草を買いに来ただけだと言うのに何故こんな重苦しい展開になっているのだろうか。

「君のお父さんはそのブリーザに殺されちゃったの?」
「う、うん……おいらの父ちゃんも、母ちゃんも……皆ブリーザに殺されちまったんだ。おいら、悔しいよ!」
「あのぉ、どうでも良いんで煙草くれませんか?」

 このままだと面倒くさい話になりかねない。そう思い、土方は話を進めようとした。
 だが、場の空気は一転し、なのはがメインになってしまっている。完全に土方は蚊帳の外であった。

「おいら、仇を討ちたい! でも、おいら達じゃ全然歯が立たないんだ。このままじゃ、父ちゃんも浮かばれないよ」
「デルデ……お前の気持ちは良く分かる。じゃが、時にはどうしようもない時もあるんじゃ」
「そうそう、だから煙草くんない? 今ニコチン切れててマジイライラしてんだけど」

 横で散々喚き散らす土方。しかし俄然無視。どうやら今度は土方が空気を読まなくなってきたようだ。

「大丈夫だよデルデ君! そのブリーザって悪い奴はお姉さん達がやっつけてあげるよ」
「ほ、本当に!?」
「そんな悪い奴を野放しになんて、絶対に出来ないよ! 私達の手で成敗しないと!」
「お~い、俺煙草買いに来ただけなんだけどぉ? そんなブリーザとか関係ないんだけどぉ?」
「待っててねデルデ君。必ずお父さんの仇を取ってきてあげるからね」
「有り難う。お姉ちゃん。後空気を読まないおっさん」
「一辺切り殺したろうかてめええええええええええ!」

 と、言う訳で……煙草を買いに来ただけだと言うのに、何時しか悪の帝王ブリーザをぶちのめす事になってしまった土方となのは。
 本当に、この二人実は只単に煙草を買いに来ただけなんですよ。割とマジで。




     ***



 これまた場所は変わり、此処はどっかの星。見た事の無い珍妙な生物達がひしめき合っている奇妙な星で、二人はとうとう出会う事が出来た。
 そう、悪の帝王……ブリーザに!

「よもや、この私に挑もうとする愚か者がまだ居たとは……貴方達のお馬鹿さっぷりには感服しましたよ」

 余裕の笑みを浮かべて威圧感を出すブリーザ。しかし、二人共全く動じてない。
 覚悟を決めてきたからだ。このブリーザを倒す。
 そう覚悟を決めてきた二人に、威圧感など全く通じなかったのだ。

「ねぇ、あれ間違いなくフ○ーザの偽者だよねぇ。パチモンだよねぇ」
「しっ! 其処は黙っておいてやれ。あいつ自身も結構気にしてるんだろうしさぁ」
「え~、でもあの言動間違いなくフリ○ザを意識してるよ。でもあれから出てくる空気ってどう見ても三下位の空気にしか見えないよ。所詮これってギャグパートだしね」
「馬鹿っ! これをシリアスパートだと思って見てた読者が居たらどうすんだよ! 雰囲気ぶち壊しじゃねぇか」

 ヒソヒソと語り合う二人。はっきり言ってブリーザは蚊帳の外であった。

「フフフ、この私を無視して何の話し合いですかな? 逃げ出す算段ですか? それとも念仏でも唱えてたのですか?」
「ううん、あんまりにも君が地味だからやる気なくなっただけ」
「ふっ、怖い物知らずなお嬢さんだ。では、見せて差し上げましょう。私のフルパワーを!」

 なのはの言葉にイラッと来たのだろう。額に青筋を浮かべて構えを取るブリーザ。

「え? いきなりフルパワーに行っちゃうの? 普通其処は何回か変身して、それでフルパワーに行くべきじゃないの?」
「そんな面倒な事はしません。私は常に全力全開で行く主義なのでしてね」
「つまり、君って弱いんだ」
「つくづく癇に障るお嬢さんだ。そんなに死にたいのなら、見せてやるぞこの蛆虫共がああああああああああ!」

 怒りの雄叫びを挙げ、全身から不気味な色のオーラを放ちだす。そのオーラは辺りの空気を吹き飛ばし、大気を捻じ曲げるほどに強力だったのだ。

「どうですか? この絶大なパワーに恐れをなしましたか?」

 普通ならそうなるだろう。そうブリーザは思っていた。
 だが、それに対し、なのはは串に刺した焼き芋を近づけていた。

「ねぇ、もうちょっとパワー上がんない? これじゃ芋焼けないよ」
「わ、私のパワーを使って芋を焼くとは……貴様は何所までこのブリーザ様をコケにすれば気が済むと言うのだああああああああ!」

 怒りにより更にパワーが増大していく。もうこのパワーだけで干し一つを崩壊出来る程にも思えた。
 が、それに対して全く動じない二人が其処に居た。

「あちっ、あちっ! わ~い、焼けた焼けたぁ」

 しかも、なのはに至っては増大したパワーのお陰で焼けた焼き芋を美味しそうに食べてる始末であった。その光景が更にブリーザの怒りを増大させていく羽目になるとは、彼女自身思いもしていないだろう。

「この私を此処までコケにしたのは、この宇宙が始まって以来、貴方だけですよ。その無謀さに免じて……貴方を先に殺してさしあげましょおおおおおおおおお!」

 狙いをなのはに絞り、そのパワーを拳に込めて叩きつけようと迫ってきた。
 星一つをぶち壊すほどの威力の篭った一撃だ。人間などひとたまりもない。

 ブスリ! 

 そんな音が響いた。見れば、ブリーザの手には先ほどなのはが焼き芋を焼く際に使っていた串が深く突き刺さっていたのだ。

「いってええええええええええええ!」

 刺さった箇所から血を噴出し、涙目になりながら手を押さえるブリーザ。そんなブリーザの前には、焼き芋を食べながら串を手に持つなのはの姿があった。

「星一つ壊せる力を持ちながら、たった一本の串は殺せないみたいだね」
「そ、その言葉……まさか、貴様あの伝説のスーパー地球人!?」

 ブリーザの脳内に浮かぶ光景。それはかつて自分に挑んだあのスーパー地球人の姿が浮かび上がった。
 だが、所詮はブリーザの脳内なのでなのは達には見えないのだが。

「そう、私こそ、穏やかな心を持ちながら激しい怒りにより目覚めた伝説のスーパー地球人!」
「おい、ちょっと待ててめぇら」
「「ん?」」

 ふと、土方が呼び止める。それに反応し振り向くブリーザとなのは。

「何お前等某メガヒット漫画のぱくりやってんだよ。しかも完成度低いし。もうちっとマシな真似出来ねぇのかよ?」
「あれ? 違ったっけ? 確かこの後、【スーパーサ○ヤ人、孫○空だああああ!】って言って激しいバトルに入るんだったよねぇ」
「そうそう、私もあれ見てたから分かる。あれメッチャ面白かったからね。私全巻持ってたし」
「おい、悪の帝王口調が変わってるぞ。もう雰囲気ぶち壊しだぞ」

 既に悪の帝王の貫禄ゼロであったのは確実である。もう色んな意味で雰囲気ぶち壊しであった。

「まぁ良いや。それより煙草頂戴。ハメック星滅ぼしたんだから持ってるんでしょ?」
「な、何の事かな? 私にはさっぱり分からないが」
「急にキャラ作り出したよ。本当今更だよお前」

 突然キャラを作り出し貫禄を出してみせるブリーザ。しかし、そんなブリーザの額に容赦なく串が突き刺さった。

「あふぅっ!」
「惚けたってだめだよ。早く出してよ煙草」
「こ、このブリーザ様に手を出して、只で済むと思うなよエテ公が!」

 再び刺される串。今度は足の裏にブッスリと突き刺さった。

「ひぎぃっ!」
「御託は良いよ。それより早く煙草だして煙草! 早くしないとゴールデンタイムのアニメ見れなくなっちゃうよ」
「ま、待て! 話せば分かる。そ、そうだ! 貴様に私の持っている支配地の半分をやろう! だから、だからそれで手を打って―――」

 またしても串が突き刺さる。今度は胸板に突き刺さられた。

「いやぁん!」
「星なんて要らないよ。それより煙草頂戴煙草!」
「お、お願いだ! 見逃してくれ。頼む、命だけは……命だけはぁ!」

 逃げ腰になるブリーザ。そんなブリーザの背中に今度は滅茶苦茶に串を突き刺しまくる。ブスブスと音が辺りに響き渡って行った。

「あだだだだだあああああああああ!」
「ね~ぇ、煙草~~。無いのぉ? 有るのか無いのかはっきりしてよぉ?」
「す、すいません。マジで煙草ないんですぅ。本当にもう勘弁して下さい。いやマジで勘弁して下さい。お願いですからこれ以上ブッ刺さないで下さい!」

 仕舞いにはなのはに向かい深く深く土下座してしまう悪の帝王。本当に帝王の貫禄台無しであった。

「持ってないの? だったら悪の帝王って言う位なんだから部下要るんでしょ? 部下に買ってこさせればいいじゃない」
「いや、部下も全員居なくなっちゃって。私一人なんです」
「それってもう悪の帝王じゃないよね。只の裸の王様だよね。もう悪の帝王撤回したら?」
「申し訳有りません。撤回します!」

 更に深く土下座するブリーザ。もう見てられなかった。

「おい、もう良いだろ? 煙草がないなら変わりの物で良いからよぉ」
「え~、まぁ良いや。それじゃ何か頂戴」
「わ、分かりました……こ、この悪の帝王ブリーザに勝った事を称えてこれをくれてやろう。受け取るが良い」

 そう言ってブリーザが取り出したのはズルズルするボールであった。
 しかも其処には感じのニとか、数字の2にも取れる模様が描かれていた。

「何コレ?」

 それを手に取り、なのはは尋ねた。どうやら本人ズルズルとかそう言うのあんまり気にしないようだ。
 相当図太い神経をお持ちのようで。

「これはズルズルボール。七つ集めるとズルズルした龍、その名もズルズ龍が現れてどんな願いでもズルズルに叶えてくれるのだ」
「殆ど嫌がらせじゃねぇか」

 確かに、願いを叶えてくれるのは嬉しいがズルズルにされるのは勘弁願いたい。

「ねぇ、これって七つ集めなきゃ意味ないんでしょ? それじゃ残りの六つ何所?」
「ふっ、さぁな……それは貴様等の手で探すが良い」

 悪の貫禄を出し始めるブリーザ。そんなブリーザに向い彼の血液がベッタリ染み込んだ串を掲げてみせる。

「今度は何所刺されたい?」
「御免なさい! それしか持ってないんです! マジ勘弁して下さい!」
「え~、これしか持ってないのぉ? 何が宇宙の帝王なのぉ。全然使えないじゃん。名前だけの張りぼてと同じだよぉそれ」
「グスン……この、この悪の帝王である私の心を打ち砕いたのは貴方が始めてですよ。もう良いですから、さっさと行って下さい。私もう悪の帝王止めて二次元の帝王になります」
「要するにヒッキーになるんだね。まぁどうでも良いけど」

 そんな訳で悪の帝王を引きこもりの帝王に改ざんさせた後、なのはと土方は集まった。
 これからのことを話す為だ。

「おいおいどうすんだよ。煙草貰いに来たってのにそんなズルズルしたボール貰ったって嬉しくもなんともねぇぞ」
「でも、七つ集めたら願いが叶うって言うし、折角だから集めようよぉ」
「ふざけんな。そんな何でもズルズルにされたんじゃかなわねぇよ。ってか、ズルズルの煙草なんて吸いたくもねぇし! そんな面倒な事する位ならその辺の自販機で煙草買った方が早いだろうっての!」
「え~、それしたらお金掛かっちゃうじゃない。私お釣り全額欲しいもん!」
「たかだか千円の為にどんだけ面倒臭い事する気なんだよてめぇは!」

 土方にとっては千円はたかだかと言う額だろう。だが、なのはにとって千円とは物凄く価値のある値段なのだ。
 そして、そんなたかだか千円の為に乙女は命を賭して空を舞うのだ。

「何カッコいい地の分書いてんだよ! 只のおつかいじゃねぇか! そんなもんの為に一々ボール集めとか面倒なんだよ! もう良いよ。煙草代は俺が持ってやるからさっさと自販機行こうぜ。そうすりゃお前も満足だろ」
「え~、折角だからボール集めようよぉ。何か楽しそうだよ。オラワクワクしてきたぞぉ!」
「台詞パクッてんじゃねぇよ! 良いよもう、全然ワクワクしねぇよ! ん?」

 ふと、気配を感じ視線を向けた。其処に居たのはオレンジの胴着を着た二人の若者が居たのだ。
 しかし、一人は残念な事に既に事切れているようだが。

「どうしたの?」
「うぅ、グリリンが……グリリンがブリーザに殺されたんだ……くそぉ! ズルズルボールがあれば……ズルズルボールさえあれば、グリリンを生き返らせる事が出来るってのに!」
「それならあるよ」
「え?」

 黒髪の胴着を着た青年に向かい、なのはは先ほど出に入れたズルズルボールを見せる。
 それを見た青年は物凄く驚いたのは言うまでもない。

「こ、これは正しくズルズルボール! でも、一体何処でそれを?」
「ブリーザが持ってたから貰った」
「あ、あのブリーザを倒した! 君みたいな女の子が? 一体どうやって?」
「串で刺して」

 真正直にそう答える。まぁ、事実なのだししょうがないのだが。

「ま、まさか、あの伝説の魔剣【串刺しソード】を使ったのか? 確かに、あれならばブリーザを倒せるかも知れないが」
「ううん、その辺にあった棒を串にしただけだけど」
「とにかく、あんた達と一緒ならズルズルボールを集められるかも知れない。オラも一緒に連れてってくれ!」
「別に良いよ」

 二人だけで話しを進めてしまっている。このままだと面倒毎に首を
突っ込みかねない。

「おい、待ててめぇら。何勝手に話し進めてんだ。俺は絶対にいやだからな。グリリン生き返らせて何があるってんだよ!?」
「だって、もしグリリンが煙草持ってたら貰えるでしょ?」
「とことんつり銭の為に行くんだな。ってかたかだか千円の為にどんだけ面倒臭い事せにゃならんのだ!」

 どんどん話がややこしくなっていくのが分かる。

「オッス、そう言えば名前言ってなかったな。オラは小林ってんだ。ワクワクすっぞ」
「全然しねぇよ!」

 そんな訳で小林と言う胡散臭そうな青年を連れて、三人パーティーによるズルズルボールを巡る旅が始まったのであった。




     ***




「うぽうぽうぽうぽ!」
「うほうほうほうほ!」
「待たんかいいいいいいいいい!」

 開始早々これであった。場所はこれまた変わりどこかの星。其処で土方がツッコミを入れたのはご存知なのはと、もう一人はこれまた初めて会う奇妙な生命体であった。
 白いダボダボのズボンを履き、上半身はピンク色とこれまた何所かで見たような存在だった。

「ってか、そいつ誰だよ?」
「魔人プゥ」
「何そのラブリーな名前! 全く怖さ感じないんだけど! ってか何でお前等初対面なのにそんなに仲良いの? お友達なの?」
「さっき友達になった」
「早ぇよ! 場面切り替わる最中に話勝手に進めてるんじゃねぇよ!」

 そう、場面が切り替わるちょっと前辺りになのはがプゥと知り合い、そのまま友達になってしまったのだ。
 お互い純粋な心の塊なような存在なのですぐに意気投合してしまったのだ。
 まぁ、側から見ると馬鹿と馬鹿の意気投合にも見えるのだが。

「んでよぉ、残りのボールは何所にあるんだ? それ探してたんだよなぁ俺達。それに、確かアニメだと此処でセロって言うこれまたあのパチモンが出てくる筈だろ? あいつはどうした?」
「それだったらあそこで倒れてるよ」

 指差す方向には水玉模様の体を持ったセロが既に力尽きていた。アニメ以上に酷い扱いであった事に土方は驚愕を隠せないで居た。

「何でだああああああああああああ! 何で既に事切れてんだよ! 一体この数行の場面チェンジの間に何があったんだあああああ!」
「いきなり出てきたからスリッパで叩いたらあぁなっちゃった」
「スリッパで倒したの? さっきのブリーザと良い今度のあれと良い、何でそうとんでもない位にどうでも良い倒し方してんだてめぇは!」

 必死に土方がツッコミを入れる。しかしまぁ、所詮はギャグ小説だから其処は弁えて欲しい。

「で、肝心の残りのズルズルボールは何所にあんだよ?」
「プゥちゃん。何所にあるか分かる?」

 なのはの問いに対し魔人プゥは意味不明な言語を並べまくった。何故書かなかったと言うと変換できない言葉ばかりだったからだ。
 決して面倒だからではない事を此処に記載しておくことにする。

「プゥちゃんが言うにはあのセロって生き物のおなかの中にあるみたいだよ」
「何であいつの言葉が分かるんだよお前は! まぁ良いや。それなら話が早い。アイツの腹掻っ捌いてボール取り出すぞ」

 スラリと刀を抜き放ちセロへと向く土方。だが、其処にはセロを頭から丸呑みにしようとしている魔人プゥが其処に居た。

「そ~れ、一気! 一気!」
「やらすなあああああああああああああああ!」

 必死にプゥの口からセロを取り出し、そのセロの体内からズルズルボールを取り出す事に成功する土方。本当に面倒くさいことの連続であった。
 因みに、その間小林と言えば。

「なぁ、これ食えっかなぁ?」

 先ほどのセロの腕を手に持って食おうとしていた。もう面倒くさいので先へ進むとします。




     ***




「出でよ、ズルズ龍! わが願い、叶え給え!」
「プゥ~~!」

 三人がズルズルボールを置き、叫ぶ。まぁ、魔人プゥだけは全く違う叫び方をしているのだが、この際気にしないで置く事にする。
 呼んではみたものの、一向に龍が現れる気配がない。一体どうしたのだろうか?

「出ないなぁ?」
「呼び方が違うんじゃない?」
「あ、これは!」

 小林が七つあるボールの内一つを手に取る。一体どうしたと言うのだろうか?

「どうした?」
「他の六つはズルズルボールなんだが、これだけはヌルヌルボールだったんだ! 道理で触った時ヌルヌルした筈だ。くそぉ! オラとした事がこんな初歩的なミスをしちまうなんて!」
「どっちも関係ねぇだろうが! 只のお前の感じ方だけだろうが!」
「プゥ~」

 魔人プゥもすっかり呆れ果ててしまっていた。その時だった、突如七つのボールが光りだす。互いに感応しあったのだ。
 どうやら全部ズルズルボールだったようだ。
 これで一安心である。

【よくぞヌメヌメボールを集めてくれた。さぁ、願いを言え! どんな願いでも一つだけヌメヌメにして答えてやろう】
「ズルズルでもヌルヌルでもなくてヌメヌメ!? 一体何種類あんだよその気持ち悪いボール!」
「でも、このお陰でグリリンを生き返らせる事が出来るよ。よかったね」

 何はともあれ目的は達成させられたのだ。後はグリリンを生き返らせて煙草を貰えば万々歳である。
 だが……

「何だ、ズルズルボールじゃないのか。じゃ、オラ良いや」
「おいいいいいいいいい! なんでズルズルにそんなこだわりがあんだよ! どんだけグリリンをズルズルにしたいんだ!」

 どうやら小林個人には相当なまでのズルズルへのこだわりがあるようだ。しかし、そんな事土方にはどうでも良いのだが。

「プゥ~!」
「ん、プゥちゃんが何か言ってるよ」
「何て言ってるんだ?」
「ちょっと待ってね」




     ***




 二人残ったデルデと老人はせっせと町の復興を行っていた。
 かつての美しい星に戻す為に。しかし、土地や建物は戻せても、死んでいった人達を戻す事は出来ないのだ。

「よぉ」
「あ、あんた達は!」

 そんな二人の元に、土方となのはは戻って来た。デルデの顔に輝きが戻る。

「も、もしかして!」
「あぁ、ブリーザは倒したよ。あいつなら今頃部屋で引きこもって膝抱えて泣いてるだろうよ。それより……」

 真剣な面持ちで土方がデルデを見る。仇を討った。となれば、もう彼と会う事はないのだ。

「お前、さっきの煙草を親父の形見って言ってたな」
「うん」
「それ、もう必要ないぜ。何故なら、あれはもう形見じゃなくなるんだからな」
「そ、それって……もしかして、父ちゃ……」

 そう言い掛けたデルデの目の前に現れた者。それは確かにデルデの父であった。
 但し、全身ヌメヌメの状態ではあったが。
 そんな父を見て、デルデと老人は凝固した後、激しく激怒した。

 何所が父ちゃんだぁこのズルズルゥゥ! いや、ズルズルじゃなくてヌメヌメェ!? 死者を冒涜するとは貴様何所まで罰当たりなんじゃぁ! いや、こっちも結構命がけだったんだけどぉ! ねぇ、この煙草もう形見じゃないから貰ってって良い~? お前は煙草より俺の心配しろおおおおおおお!




     ***




 すっかり日も沈み、夜になった江戸の町。昼の顔があれば夜の顔もある。
 そんな訳で、遥か遠い宇宙からようやく一本の煙草を携えてスナックに凱旋したなのはである。

「ただいま~、キャサリンさん煙草買ってきたよぉ……あれ?」
「あれま、一足違いだったねぇ。キャサリンだったらあんまり遅いってんで自分で買いに行っちまったよ」

 店内に居たのはお登勢と馴染みの客しかいない。どうやらキャサリンは自分で買いに行ったようだ。

「なぁんだ、折角苦労して買ってきたのに」
「そりゃ災難だったねぇ」
「うん、本当に大変だったんだよぉお登勢さん」

 カウンターに座り、苦労して手に入れた煙草の入っているケースを見せる。
 結構洒落た作りの箱だったのでお登勢もちょっぴり驚いていた。

「なんだいこりゃ? 煙草だけなのに偉く小洒落た箱じゃないのさ」
「世界に一本しかない煙草なんだって。本当はキャサリンさんにあげようと思ったんだけど、居ないからお登勢さんにあげる」
「おや、良いのかい? 世界に一本しかないのを私が吸っちまっても」
「勿論」
「そうかい、あんがとうよ」

 嬉しそうになのはからそれを受け取り早速吸おうとしたお登勢だが、何故か開いたその箱を再び閉じて、そのまま懐に仕舞いこんでしまった。

「どうしたの?」
「そんなご大層な一本を、此処で吸うには勿体無く思っちまってねぇ。とっておく事にするよ」
「ふぅん」
「何時か、あんたが大人になって、一人前になった時にでも、この一本を美味しく吸わせて貰うよ。こりゃその記念さね」
「気の遠い話だね」

 子供には確かに気の遠い話だ。だが、それは子供だからこそそう感じる物。
 大人はそうは感じない。

「子供と大人じゃ感じ方が違うのさ。私にとっちゃ、あんたが大人になるのなんざあっと言う間さね」
「そうなんだ。その時には美味しく吸ってね」
「あぁ、それよりそろそろ帰ってやんな。上の奴等心配してるだろうよ」
「うん!」

 嬉しそうにカウンターから降りて、なのはは店を出て家路にと向った。
 その光景を微笑ましく眺めるお登勢と客達でもあった。

「いやぁ、お登勢さんも立派な孝行娘を持ったねぇ。いや、娘じゃなくて孫娘ってとこかい?」
「一言余計だよ。でもま、そうかもね。私にとっちゃ、可愛い孫娘みたいなもんさね」

 そう言いながら、お登勢は懐から本来持っていた煙草を咥えて火を点ける。
 世界に一本しかない煙草は今もお登勢の懐に眠っている。なのはが大人になり、一人前になった暁には、その一本を吸おうと心に決めているのだ。
 その時は、きっと今まで吸った事のない味を楽しめるだろう。そんな淡い気持ちを胸に抱きながら。




 余談だが、キャサリンは自販機前に居たって事で警察にしょっぴかれてしまったのは言うまでもない事であったりする。




     お後が宜しいようで。 
 

 
後書き
以降もこんな感じで番外ネタを挟むと思います。 
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