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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic18悲劇の幕引き、未来への幕開け~JudgemenT~

 
前書き
Judgement/審判の正位置/最後の転機。次の段階へ進もう。今ならば、これまでの曖昧で混沌としていた状況に決着をつけることが出来る。あなたの中に目覚めた新しい意識を受け入れる事で、あなたの世界は一変するだろう。

????戦イメージBGM
CRISIS CORE -FINAL FANTASY VII「自由の代償」
https://youtu.be/0gcL1wAyMG0 

 
†††Sideルシリオン†††

随分と私の想定から逸脱してしまったが、やることは大して変わらない。グランフェリアとプレシアが手を組んでいたことには驚いたが、捜す手間が省けるというもの、かえって好都合。ま、フェイトを護るためにジュエルシードを奪われ、瀕死にまで追い込まれてしまったが。

(しかし記憶を失うのも久しぶりだな)

気が付けばはやての家だったことから、おそらくマリアが助けてくれたんだろう。血塗れの私を見て、はやては泣いた。死んでほしくない、自分の前から居なくならないで、と。その悲痛な想いと泣き顔に胸を痛めた私は、すぐに一気にダメージを治してはやてを安心させたいがためにコード・エイルを発動、グランフェリアに開けられた傷を治した。
そのエイルを発動したことで記憶を失ってしまった。どの契約先での記憶かは判らないが・・・。とにかくはやてをそれ以上泣かせたくない一心だった。それに、先の次元世界での記憶じゃないため、問題ない。

(フェイト・・・なのは・・・)

そしてなのはとフェイトの決闘。グランフェリアの洗脳を受け、感情を殺されたフェイト。2人の決闘に干渉するつもりは無かったが、洗脳術式だけは潰さなければならない。だから局に見つかる危険を冒してでもなのはと接触。なのはと“レイジングハート”に障壁破壊と精神操作解除の魔術を施した。結果、なのははフェイトに勝ち、洗脳を解除した。

(プレシア・・・!)

なのはに負けたフェイトを、もう用済みだとでも言うように始末しようとしたプレシア。彼女の雷撃が転送を終えるか否かのなのは達に迫り、私は、伏せろ、となのはに念話を送った。フェイトを護るかのように覆い被さったなのはを確認し、複製術式を発動して雷撃を防いだ。
そうしてなのは達は無事で転送を終え、その直後に雷撃は火炎の渦を突破した。決戦の舞台はこれより時の庭園。はやての家の方角へ体を向けて「ちょっと行ってくるよ」と告げる。

「待っていろプレシア。ジュエルシードは返してもらう。待っていろグランフェリア。今日、お前を救ってやる」

私は海鳴市より転移する。目指すは・・・・

†††Sideルシリオン⇒フェイト†††

私は母さんにとってただの道具だった。アリシアを蘇らせる為に必要な物を集めさせるだけの。母さんが求めていたのは、アリシアだけだった。母さんは私に微笑んでくれなかった、私のことなんか一度も見てはくれなかった。当然だ。私は、失敗作なんだから。それなのに。もう要らないって拒絶されても、私の存在を否定されても、私は・・・。

(母さんのことが好きだ・・・)

グランフェリアに私を洗脳させてまでジュエルシードを求めた母さん。完全に道具として扱われて、ハッキリ捨てられた今でも、そう思う。私が横になってるベッドの側に居て、私の手を握ってくれてるアルフを見る。アルフは壁に展開されてるモニターを見ていた。
映し出されているのは、ジュエルシードを巡って戦ってきたあの子たち。いつでも真っ直ぐに私に向き合って、向かって来てくれた子たち。時には助けてくれた。酷いことをしたのに、それでも私と友達になりたいって言ってくれた。何度も私の名前を呼んでくれて・・・良い名前だねって褒めてくれた。今でも胸が温かくなる。

「ちょっ、なんであなたがここに居るわけ!?」

「戦える人が居ない中でそれはないんじゃない!」

廊下の方が騒がしい。アルフが「なんだい・・?」って扉に向かったその時、扉が開いた。入って来たのは「テスタメント!?」アルフが叫んだ通り、紅い髪を揺らしたあの子だった。私を庇ってジュエルシードを母さんに渡して、グランフェリアに殺されかけた・・・。
遅れて男の子が慌てて入って来た。廊下に居る双子の子に誰かに連絡して、とか言ってる。男の子はバインドでテスタメントを捕えようとするけど、仕掛けた瞬間にはもう破壊される。

「な・・っ!?」

「元気してる? フェイト・テスタロッサ。ま、見る分には悪いって感じみたいだね。仕方ないかな。あなたは自分の真実を知った。アリシア・テスタロッサのクローンだって」

「テスタメント、あんた!!」

アルフがテスタメントに掴みかかって壁に押し付けた。

「ぅぐ。ねえ、フェイト・テスタロッサ。今、あなたは何を思って、何を考えてる? 母親だと思ってたプレシアに拒絶されて、生まれて来ちゃ、生きていちゃダメだって? もう生きる意味が無いって? プレシアのこと、もうどうでもよくなっ――」

「黙りな! それ以上言うと、あたしがあんたを潰す!!」

「私は・・・」

私は「母さんに認めてほしかった」今思うことを声に出すと、アルフが私を見て、テスタメントの首に掛けてる手を放した。

「どんなに酷いことをされても、母さんに認めてほしくて、頑張ったねって褒めてほしくて、そして笑ってほしかった。そのために私は生きてきた。そうでなきゃ私に生きる意味なんてないって思ってた」

「フェイト・・・」

「でも今はただ、たとえ母さんに拒絶されても、認めて、褒めて、笑ってくれることが無くても、私は生きたい。ここで諦めちゃ、心を捨てちゃ、私はそれでこそ何も無い人形になっちゃうと思うから。私は私だって、アリシアじゃないけど母さんの娘だって胸を張りたい。それが、今の私が生きる目的、だと思う」

上手く言えないけど、それが今の私。あの子たちとの時間がそういう気持ちにさせてくれたような気がする。そう思うと涙が溢れてきて、「フェイト!」アルフが私を抱きしめてくれた。

「アルフにも酷いことしちゃったね。私、アルフの言うこと全然聴かなくて、それでアルフを悲しませたり、苦しませたりしたよね・・・」

「ううん! 良いんだよそんなこと! あたしはただ、フェイトが笑っててくれさえいれば、それだけで・・・!」

いつも一緒に居てくれた優しいアルフ。私の胸にしがみ付いて泣くアルフの頭を撫でる。ここでテスタメントが「そっか。だったらいつまでもここで眠ってるわけにはいかないね」って言って、踵を返してここから去ろうとした。

「思うままに生きると良いよ、フェイト・テスタロッサ。あなたは人形じゃない。たくさんの事を学び、思い、考え、悩んで、苦しんで、喜び、楽しんで生きていく。生まれ方は特別だったけど、1人の人間だよ。さぁ、母親にあなたの想いをぶつけておいで。そうして自分を始めるんだ。始まってもいない、あなたの本当の物語を」

「想いをぶつけに・・・自分を始めるために・・・」

一度立ち止まって私を見ることなくそう言うと、また歩き出した。扉へ向かうけどその前に「どこへ行くつもりだ!」って男の子が立ち塞がる。テスタメントは最後に私とアルフに振り向いて「さようなら」って今まで一度も使わなかった別れの挨拶をして、足元に魔法陣を展開。そしてこの場から転移して消えた。

「アイツ・・・」

「アルフ。バルディッシュも。一緒に始めよう、私たちを」

「うん!」≪Yes, Sir≫

ベッド脇のナイトテーブルに置かれてある“バルディッシュ”を手に取って起動、バリアジャケットに変身する。母さんの元へ行こう。始まってすらいなかった私たちを始める為、そしてこれまでの私を終わらせる為に。転移するための魔法を発動。足元に魔法陣が展開。と、男の子と目が合った。

「あの、えっと、ごめん。私、行かないと」

「・・・うん。ここの人たちには僕が話しておくから」

「あ、ありがとう」

男の子にお礼を言うと同時に転移完了。場所はあの子たちが戦っていた塔の吹き抜け。私のことをずっと心配してくれていたあの子たちにも、今の私を伝えないといけない気がしたから。転移してすぐ。あの子たちが母さんの傀儡兵に包囲され始めているのが判った。

「バルディッシュ・・・!」

≪Thunder Rage≫

てっとり早く殲滅するために広域魔法のサンダーレイジの発動準備。放射される直前、白い子が危機に陥ったのが見えた。壁を破壊しながら飛び出して来た巨大な斧。白い子に直撃するより早く、「サンダーレイジ!」雷撃を放射して、斧を迎撃、そして集まり出していた傀儡兵を破壊する。

「危なかったねぇ、あの子たち」

「うん」

アルフと一緒に降下し始めると、「フェイトちゃん!」あの白い子が私の名前を呼んでくれた。それに赤い子や紫色の子も「フェイト!」「フェイトちゃん!」私を呼んでくれる。私という存在を認めてくれてる。あの子たちの居る高度にまで降りて、私の今を伝えようとしたけど声が出ない。

「っ・・・!」

そんな私の手にあの子たちがそれぞれ手に添えてきた。そして向けて来るのは笑顔で。戸惑いがあるけど、それ以上に温かさがある。今なら言える。「私は――」言いかけたところで、ドンッ!と大きな音と一緒に壁が破壊された。

「ああもう。せっかく良いところだったのにさ。空気読め!」

アルフが不機嫌そうに怒鳴る。崩落する瓦礫の中、壁に開いた穴から特大の巨人の上半身だけが姿を現した。うん、上半身だけで下半身――足は無い。下半身は円盤状で、上半身には両腕と背中から伸びる砲身がいくつも有る。

「うげっ! 今までの中で一番デカいわよ!」

「大型の傀儡兵。防御力がかなり高い」

「そっか。じゃあ私たちみんなでやれば問題ないよね」

「うん。私たちが力を合わせれば、どんなのが相手でもきっと・・・!」

私に集まる視線に「合わせよう、私たちの力を」って応じると、3人は本当に嬉しそうに微笑んでくれた。アルフもまた「うんうん」ってちょっぴり涙を零しながら頷いて、「あたしゃ邪魔になるだろうから」って離れて行った。そんな私たちに向けられて砲撃が6本と放たれきた。一斉に散開して、断続的に放たれてくる砲撃をかわす。

「まずは厄介な砲身を潰す」

「「「うんっ!」」」

“バルディッシュ”をサイズフォームにして、「ハッ!」魔力刃――アークセイバーを一番大きな右腕の砲身へ放つ。それと同時、「フレイムウィップ!」赤い子が炎の鞭を払って、私とは逆の左腕の砲身に当てた。だけどなかなか断ち切れない。そこに、「シューット!」白い子と紫色の子の掛け声と一緒に、

――ディバインシューター――

――フローズンバレット――

計12の魔力弾が両腕に着弾。私と赤い子の攻撃と合わせたことで両腕のバリアが砕け爆発、両腕は崩壊した。だけどそれで終わりじゃない。まだ4本の砲身が残ってる。それらがチャージを始めた。発射される前に潰さないと。私たちは横一列に並んで・・・

「ディバイィィン・・・」

「サンダー・・・」

「バスタァァ・・・」

「フレイム・・・」

砲撃が同時に4本と放たれた瞬間、

「バスタァァァーーーーッ!」

「スマッシャァァァーーーッ!」

「ラァァーーーッシュ!!」

「ウィーーーップ!!」

3本の砲撃と炎の鞭が真っ向から砲撃と衝突。これだけの魔力と威力なのに、拮抗せざるを得ないなんて。

「「「「せぇーーーっの!」」」」

でも負けない。さらに魔力を籠めて、攻撃の勢いを後押しする。砲撃を押し返すようにして私たちの攻撃は巨人へ到達してバリアに着弾。少しの拮抗の後、炎の鞭がバリアを裂いて、続けて3本の砲撃が巨人を呑み込んでそのまま突き進んで行った。砲線が途切れると同時、巨人が幾つもの破片となって落下。その光景を確認したあの子たちは「やった!」ってハイタッチを交わして、

「ほら、フェイトちゃん」

「喜びは分かち合うもんでしょうが」

「最初は私からだよ」

「え、あ、うん・・・」

最初に紫色の子と、次に赤い子、最後に白い子とパチン!とハイタッチを交わした。ハイタッチし終えた私は自分の左手を見詰める。なんて言うか・・・すごい嬉しい。そこに「いやぁ、感動したよあたしゃ」アルフが目元を指で擦りながら私たちの所へ飛んできた。

「あの・・・」

「「「ん?」」」

「私は、その・・・大丈夫。今、自分がやるべきことも解ったし、決めたから」

今はそれだけしか言えなかった。整理しないままで伝えてしまったし。でも3人は安心したように小さく頷いて、頑張って、って応援してくれた。うん、って頷こうとした時、

『こちらアースラ! 緊急です! テスタメントちゃんが庭園内に侵入! どうやったか判らないけど駆動炉の魔力を完全に消滅させて、階層をぶち抜きながら一直線に最下層を目指しちゃってる! 狙いはおそらくプレシア・テスタロッサの持ってるジュエルシード! みんな気を付けて!』

そんな通信が流れて来た。驚くことじゃなかった。元よりあの子の狙いはそうだったから。あの子が自分の分だけを取り返すために、きっと母さんとぶつかることになるって。

「フェイトちゃん! 行こう!」

「急ぐわよフェイト!」

「フェイトちゃん!」

「フェイト・・・」

「・・・うん!」

私たちは母さんが居て、テスタメントが目指している最下層へと向かうことになった。最下層へと続く廊下をみんなで進んでしばらく。ようやく最下層へ通じる縦穴へ辿り着く。スピードを落とすことなく突入。最下層の中を飛んでいると、すぐに母さんを見つけることが出来た。
母さんの側にはアリシアの収められた生体ポット、少し距離を開けたところに管理局の執務官と騎士の子がすでに居た。けど、テスタメントは居ない。母さんの近くへ降り立って「母さん!」呼ぶ。他の子も同様に降り立って、私の後ろに控えた。

「あなた。何をしに来たの? 私は言ったはずよ。もう顔も見たくないし声も聴きたくないって。今すぐ消えなさい」

改めて拒絶されると、胸が痛い。でもここで折れたりしたらいけないって奮い立たせる。後ろからアルフやあの子たちが私の両手を握ってくれた。私はそれに頷き応えて、母さんに伝える。

「母さん。私はあなたに伝えたいことがあって、ここまで来ました。私は、フェイト・テスタロッサです。アリシア・テスタロッサじゃありません。確かに私はあなたが造った人形で、偽者かもしれません。そう言われてもおかしくないです。
だけど私はそれでも私はあなたの娘でありたいって思っています。そして娘として、母であるあなたに笑ってほしいって願います、幸せを望みます。あなたが望んでくれるなら、世界中の誰からも、どんな出来事からも私はあなたを守ります。
でもやっぱり居なくなれって言うなら、あなたの側から居なくなります。だけどこれだけは忘れないでほしい、憶えていてほしいです。私は、母さんのことが大好きです!!」

伝えたいことを全部伝えた。母さんの返事を待つ。そしてようやく「私は、大嫌いよ」母さんから聞かされた返事は・・・変わらなかった。後ろから「どうして・・・?」ってあの子たちが悲しそうに漏らした。それが支えになるなんて。折れそうだった膝は折れることなく、私は真っ直ぐ母さんを見詰める。

――轟火之砲光――

それはあまりに突然、そして一瞬だった。天井が光ったと思ったら爆発、炎の砲撃が降って来て、母さんを呑み込んだ。遅れて大爆発。「母さん! アリシア!」爆炎と爆風に煽られて吹き飛ばされながらも叫ぶ。勢いよく床に叩き付けられて「げほっげほっ」咽る。至近距離で爆発の衝撃を受けた所為で耳鳴りが酷い。

「母さん! アリシア!」

すぐに立ち上がって、黒煙に包まれてる母さんの側に行こうとしたけど、腕を取られて邪魔された。振り返ってみればアルフやあの子たちが居て、何か言ってる。でも耳鳴りの所為で聞こえない。前へ向き直って振り解こうにもアルフの力が強くて逃れられない。

「『私が奪われたジュエルシード12個と、フェイト・テスタロッサの11個。計23個。確かに返してもらった』」

頭の直接流れ込んできた声。その声の主が誰だかすぐに判った。黒煙が何かの力で以って急速に晴れていって、倒れてる母さんとポッド、そして「テスタ・・・メント・・!」が視界に入った。テスタメントの周囲には休眠状態のジュエルシードが浮いていて、それらが全部光となってテスタメントの胸の中に吸い込まれていった。

†††Sideフェイト⇒イリス†††

ジュエルシードを体の中に取り込んだテスタメントがなのはを真っ直ぐ見、なのははビクッと肩が跳ねさせた。ていうか、どうやって体に取り込んだの!? あんなことをしたら、普通は拒絶反応で死ぬか2度と魔法は使えないはずなのに。

「さてと。あとは・・・。ねぇ、高町なのは。あなたの有してるジュエルシード7つ、私にちょうだい」

平然と、何事も無いと言うように告げたテスタメント。今、一際強く思う。あの子、普通じゃない。

VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は紅蓮の炎を纏いし少女テスタメント
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS

「母さん! アリシア!」

フェイトがなのはとアルフの手を振り解いて、プレシアとアリシアの元へ走る。テスタメントが向かって来るフェイトを目で追っているのが判った。ダラリと下げてる遅れて右手をゆっくりと動かし始めると、「フェイトちゃん!」なのはが注意するように呼びかけるけど、まるで聞こえてないって風に無視。

――スティンガーレイ――

「動くな!」

クロノの制止の声と同時に放たれた牽制の魔力弾が、フェイトとテスタメントの間に着弾する。テスタメントは手を止めて、「別に傷つけるつもりはないよ」って少し離れた、階段状に並んだ円柱に立つクロノの方へ顔を向けた。

――デュアルクリスタルケージ――

「え・・・!?」

確かにあの子の言う通り二重の四角錐型の捕縛結界でプレシアとアリシアを閉じ込めただけだった。それを見たフェイトが結界に駆け寄って「母さん!」結界を両拳でガンガン叩く。

「私の目的はあくまでジュエルシード。下手に傷つけるつもりはない。ただ、向かって来るのなら・・・容赦はしない」

――烈渦――

テスタメントの足元に展開された銀色の魔法陣から炎が噴き上がり、炎の中に佇む構図を作った。

「テスタメント! 母さんを放して!」

フェイトがテスタメントを睨み付けて怒鳴った。

「悪いけど却下。本音を言うとさ、ちょっとイラついてるんだよね。プレシアに。だってそうでしょ? この私を殺そうとしたんだからさ!!」

――煉弾――

テスタメントを覆っていた炎が無数の火炎弾となって結界を襲撃、フェイトとは反対の面に着弾させて爆発を起こさせる。それはプレシアへ向けた怒りの一撃。フェイトがその衝撃で吹き飛ばされると、「フェイト!」アルフが駆け出して、床に滑ったフェイトを抱き起す。

「テスタメント! あんた、何してんのよ!」

「フェイトちゃんと仲間だったんじゃないの!」

アリサとすずかが怒鳴る。なのははフェイトの様子に声が出ないようだ。さすがにこれ以上は黙っていられないか。わたしはなのはの側に寄って「どういうつもり?」って“キルシュブリューテ”をテスタメントに向けた。

「ジュエルシード同盟は回収し終えるまでのモノだよ、仲間になった憶えなんてない。それに元よりフェイト・テスタロッサからもジュエルシードを奪う予定だった。まぁ、グランフェリアに殺されかけ、プレシアに奪われたのだけは予定外だったけど。そう。少し狂ったけど、やることは変わらなかった。プレシアから奪い返し、高町なのはからも奪う」

(まぁ、そんなところだと思ってたけど。でもフェイトはその様子からしてちょっとは信じてたみたいだし。キツイなぁ、プレシアに拒絶された後にテスタメントの裏切りか)

テスタメントが無傷な結界、ショックに瞳を揺るがせてるフェイト、最後にまたなのはを見てそこまで言ったところで、「テスタメントぉぉぉぉッ!」アルフが殴りかかった。だけど直前に張られたバリアの前にアルフの拳打は防がれて、さらにバリアが爆発してアルフも吹き飛ばされた。

「向かって来るなら容赦はしないって言ったよアルフ。で、どうする? 高町なのは。渡す? 渡さない?」

改めて訪ねてきたテスタメントに「渡せないよ。どうしても欲しいなら、本当に目的を教えて」ってなのはが“レイジングハート”を向けながら答えた。

「前にも言ったでしょ。人ひとりの命を救う。そのためのジュエルシード。どんな医療技術でも、どんな医療魔法でも救えない・・・!」

テスタメントの目に確かな、強い感情が宿るのが解った。本当のことを言ってる。問題は、それがテスタメント部隊の総意か、あの子自身だけの意思か。普通に考えれば前者だろうけど。でもそれならどうして複数人で来ないのか。疑問は尽きないけど、それを知るのはとっ捕まえてからでも遅くないか。

「これ以上は何を言っても理解してくれない。だから・・・」

――サイズスラッシュ――

「テスタメント!!」

今度はフェイトが、何かを言いかけてたテスタメントに襲い掛かった。テスタメントは振り下ろされた魔力刃を半歩下がることで避けて、フェイトの結われた髪を一房掴み取った。そして「――あとは力づくしかない」って、フェイトのお腹に膝蹴りを入れた。

「ぐふっ・・!?」

「「フェイトちゃん!」」「「フェイト!!」」

「イリス! テスタメントを力づくで押さえる!」

「指示が遅いよクロノ!」

「交渉は決裂。いいよ、かかっておいで」

テスタメントが凶悪な笑みを浮かべて、フェイトをアルフに向けて放り投げた。なのはとアリサとすずかはお腹を蹴られたことで咽てるフェイトと、フェイトを抱き止めたアルフの元へ駆け寄る。そしてわたしとクロノは、テスタメントの身柄確保の為に遅めの戦闘行動を開始。

――スティンガーレイ――

――光牙閃衝刃――

クロノが高速の魔力弾を6発放ち、私は“キルシュブリューテ”の刺突から発生する魔力の槍を放って、テスタメントに仕掛ける。テスタメントは「第四聖典、起動」右手に十字架――第四聖典を携えて、

「足りないよ、それだけじゃね!!」

――魔王炎撃波――

炎を纏わせた第四聖典を振り上げたことで生まれた炎の斬撃によって2つの攻撃を防いだ。互いに速度を特化させた低威力な魔法だったけど、こうもアッサリと防がれるなんてさ。

――閃駆――

(ならちょっとギアを上げちゃうよ!)

高速歩法・閃駆を使って、一瞬にしてテスタメントの背後に回り込んだ。そしてクロノがテスタメントの正面から「ブレイズキャノン!」砲線の短い砲撃を撃った。前に掲げて盾とした第四聖典で防いだテスタメントの背後から「せいっ!」わたしは斬りかかる。

――烈渦――

だけど、わたし達の攻撃が当たる前に第四聖典が床に打ち付けられて、また噴き上がった炎がテスタメントを護る。火の粉が頬に触れたから「熱ちち!」慌てて払いつつ後退。もし火傷の痕が残ったら訴えてやる。

「(大した火力だけど・・・)絶つッ!」

≪Explosion≫

――光牙裂境刃――

カートリッジを2発ロード。刀身に障壁・結界破壊特化の魔力を纏わせて縦一線に振り降ろし、魔力の刃を放つ。その魔力刃がテスタメントを護る炎の渦を斬り裂いて、霧散させた。驚きに目を見開くテスタメント。

――閃駆――

この好機を逃さないためにまた閃駆で接近を試みる。クロノも負けじと、「スティンガースナイプ!」1発の魔力弾を発射。操作性能ランクSの、1発で複数の標的を殲滅する魔法だ。ものすごい速さで螺旋を描きながらテスタメントを襲撃し続け、「うっとおしい!」翻弄する。
その間にもわたしは“キルシュブリューテ”の連撃で、テスタメントを押し続ける。ほぼ完璧に剣閃を見切られて第四聖典で捌かれちゃうけど、クロノの援護のおかげで反撃の隙を与えずに済んでる。

「(そうだ。この際だから・・・)テスタメント部隊のこと、ちょっと教えてよ」

「教えるわけないじゃない・・・!」

うっとおしそうにクロノの魔力弾を避けながらもわたしの斬撃に対処するテスタメント。

「じゃあ、レーゼフェアとシュヴァリエル、って知ってる・・・?」

「・・・知らない」

今の間は何を意味する? 思い出すために費やした間か、それとも動揺から生まれた間か。表情や動きからじゃ判り辛い。この子、結構表情が豊かなのにポーカーフェイスのレベルが高すぎ。

「スナイプショット!」

クロノが弾速上昇のキーワードを告げた。さらにテスタメントの周囲を高速で飛び回って、フッとあの子の目の前を横切った。ナイスだよ、クロノ。ホントに一瞬だけど、テスタメントの視界を奪った。これぞ最大の好機。

()ッ!」

刺突を繰り出す。テスタメントは左手に持ち替えた第四聖典でわたしから見て向かって右へ逸らして対処。間髪入れずにわたしは跳び上がって、テスタメントの頭部、その左側へ跳び蹴りを繰り出す。わたしの蹴りを右腕で受け止めたテスタメントだけど、これで両腕は塞がった。空いてるわたしの右足でテスタメントの顔面に向けて踏み蹴り。

「っと・・・!」

テスタメントは後ろに倒れ込むように反り返って避けた。全部見切られて避けられるってかなりショックだけど、ま、ここまでやったんだから・・・

「当ててよクロノ!」

「ああ!」

頭上から力強い返事が。クロノは宙に居て、ストレージデバイス“S2U”を反り返った体勢のままのテスタメントに向けてた。足元に足の裏サイズの魔法陣を展開して足場にして、それを蹴ってテスタメントから離れた直後、

「ブレイズキャノン!」

クロノの砲撃がテスタメントに着弾。宙で一回転して着地、煙幕の中のテスタメントを見据える。今のうちにカートリッジを装弾しておこう。腰のポシェットから5発のカートリッジを取出す。

「キルシュブリューテ。カートリッジを装弾する」

≪了解です≫

峰側の刀身の付け根にある供給口が刀身に沿って上にスライド。装弾数5発の回転式シリンダーが姿を現す。さっきの2発とここに来るまでに使った3発のカートリッジを全部排莢。すぐに装弾する。チラッとクリスタルケージの方を見る。なのは達が破壊しようと試みてるけど、よほど堅いのか上手くいってないみたい。

「次元震が止まったのは幸いだが、それ以上にテスタメントが厄介だな・・・!」

「っ!・・・だね」

テスタメントが煙幕の中から歩き出て来た。神父服型のバリアジャケットの所々が破れてるけど、本人にはダメージが無いみたい。歩く度に足元から炎が噴き上がって、歩いて付けた足跡には火が燻ってる。

「プレシアの願いとは違って私の願いは誰も困らないでしょ? 次元震は起きない、誰も死なない。だから・・・邪魔すんなッ!」

テスタメントが前傾姿勢で突進して来た。周囲には炎のスフィアが6基。接近戦は望むところ。テスタメントを真正面から迎撃するために駆けだす。

――煉弾――

――スティンガーレイ――

テスタメントの放った火炎弾と、わたしの背後からクロノの放った魔力弾6発が、わたしとテスタメントの間で衝突。遅れて互いの間合いに入ったことで、「光牙月閃刃!!」わたしの振り降ろした“キルシュブリューテ”と、振り上げたあの子の第四聖典が激しい火花を散らして衝突。

「うえ!?」

今まで以上に力強いその一撃に、強制的に“キルシュブリューテ”を持つ両腕を上に弾かれた。そのままテスタメントのショルダータックルを受けて「ぐっ・・・!」体が浮いてしまうほどの衝撃を受けた。僅かにテスタメントとの間に空きが生まれた。その空きに、魔法陣が展開された。

――轟火之砲光――

魔法陣の放射面から炎熱砲撃が発射された。咄嗟に弾かれていた“キルシュブリューテ”を振り下ろして斬り裂いてやろうかと思ったけど・・・・

(あ・・・ダメだ、コレ・・・)

その圧倒的な勢いに抗うのは無理だと思い知らされて、わたしはその砲撃を甘んじて受けることにした。

†††Sideイリス⇒なのは†††

プレシアさんとアリシアちゃんを捕えてる結界をみんなで攻撃して壊そうと頑張っていた。そんな時、ドォン!!って爆発音が聞こえ、遅れて振動が私たちを襲った。少し離れたところから黒煙が上がっていて、黒煙の中からクロノ君とテスタメントちゃんが飛び出して来た。そして「終わりだよ、クロノ執務官」って、宙に居るクロノ君を包囲する火炎弾。その数はざっと40発くらい。

――火獄乃弾牢――

一斉にクロノ君を襲撃、着弾を証明する爆発が連続で起こった。さらにテスタメントちゃんは爆発を続ける方へ第四聖典を向けて、

「ブレイク!」

――轟火之砲光――

容赦なく、まるでトドメと言わんばかりの炎の砲撃を撃った。さっきまで以上の大爆発。その熱波は私たちの所まで届いて、「きゃぁぁぁっ!」私たちは悲鳴を上げてしまう。転ばないように身を屈めていると、『高町なのは。ジュエルシード、ちょうだい』ってテスタメントちゃんからの念話が届いた。クロノ君とテスタメントちゃんを覆う黒煙が渦を巻いたかと思えば一瞬で消えて・・・・

「テスタメント・・・ちゃん・・・!」

「シャル!」

「クロノ君!」

シャルちゃんとクロノ君の襟首を掴んでズルズル引き摺って来たテスタメントちゃん。

「あんた・・・そこまでしてジュエルシードが欲しいわけ!?」

「もちろん。あなた達はこうなりたくないでしょ? だから大人しく――」

“フレイムアイズ”を構えたアリサちゃんの問いに答えて、テスタメントちゃんが2人をそっと横たわらせた。その瞬間・・・

≪Photon Lancer≫

私たちの背後からテスタメントちゃんに向けて魔力弾、フォトンランサーが放たれて行った。テスタメントちゃんはシールドを張って防御。「フェイト・テスタロッサ・・・」攻撃主のフェイトちゃんの名前を呼んだ。

「母さんとアリシアを解放して」

「嫌だと言ったら?」

「・・・君を・・・倒す・・・!」

私たちの前に出たフェイトちゃんが“バルディッシュ”を構えて、

――ブリッツアクション――

テスタメントちゃんへ向かって行った。遅れてアルフさんも駆けて行った。私はアリサちゃんとすずかちゃんと顔を見合わせて、うん、と頷く。これ以上、テスタメントちゃんを放っておいたらダメだ。どんどん罪が重くなっちゃう。

「ディバインシューター・・・、シューット!」

フェイトちゃんとアルフさんの斬撃やパンチ攻撃を、背負っていた第四聖典を携え直して迎撃してるテスタメントちゃんへ向けて6発発射。フェイトちゃん達が離れたのを見計らって、拡散させていたシューターを一斉にテスタメントちゃんに直撃する軌道に操作。

――炎壁之穹窿(きゅうりゅう)――

テスタメントちゃんを覆う半球状の炎の膜が、シューターを全弾燃え散らせた。

「フレイムウィップ!!」

アリサちゃんの炎の鞭が振り下ろされて、鞭と膜が衝突。ものすごい量の炎が周囲に拡散する。ふと、フェイトちゃんと目が合う。どうしてか解らないけど、今からやろうとしてることが判っちゃった。私はフェイトちゃんの背後へ移動。そこはテスタメントちゃんを挟んでアリサちゃんとは反対側。

『アリサちゃん! バスター行くよ。気を付けて!』

『了解!』

「アークセイバァァーーーッ!」

フェイトちゃんが魔力刃を飛ばす。高速回転しながら魔力刃は膜に着弾、炎を撒き散らせながら突き進もうとしてる。“レイジングハート”を魔力刃へと向けて、「ディバイィィン・・・」魔力のチャージを開始。チャージを終えたところでフェイトちゃんが上に飛んだ。

「バスタァァァーーーーッッ!!」

アリサちゃんは攻撃を続けたまま「押し破ってやるわ!」頭上に展開した魔法陣へ上がった。バスターは魔力刃を後押しするように炎の膜に着弾。斬撃2つと砲撃の同時攻撃。

「スノーホワイト。バインドバレット、スタンバイ!」

≪承りましたわ、スズカ≫

すずかちゃんと“スノーホワイト”のやり取りが聞こえた。テスタメントちゃんの動きを封じて、その隙にさらに私たちの攻撃・・・かな? ちょっとやり過ぎ感もあるけど、それくらいしないときっと勝つことが出来ないって解ってる。
そしてようやくドォン!という爆発と一緒に私たちの攻撃が炎の膜を突破、内に居るテスタメントちゃんに同時に直撃した、はず。テスタメントちゃんが爆炎の黒煙の真上から飛び出して来た瞬間、「シューット!」すずかちゃんから魔力弾が10発とテスタメントちゃんへと放たれた。

「おっと・・・!」

脱出直後だったこともあって、テスタメントちゃんは最初の3発を両脚に受けて、そこから残り全てが全身に着弾、バインド塗れになった。

「なのはっ、フェイトっ、すずかっ・・・行くわよッ!」

アリサちゃんが“フレイムアイズ”のカートリッジをロードしながら、私たちに呼びかけた。それに頷いて応えて、私は“レイジングハート”を、フェイトちゃんは“バルディッシュ”を向けて、すずかちゃんが前面に魔法陣を展開。アルフさんだけは「念のためにね!」さらにテスタメントちゃんをチェーンバインド3本で拘束。

「ディバインバスタァァァーーーッ!」

「サンダースマッシャァァァーーーッ!」

「バスターラッシュ!」

「もういっちょフレイムウィップ!!」

――それでも余を束縛することは叶わない――

あと少しで着弾すると言うところでバインドが一斉に砕けて、テスタメントちゃんは私たちの攻撃から逃れた。

「くっ。やっぱりテスタメントにはもうバインドは通用しないんだ・・!」

フェイトちゃんの呻きに、「どういうこと!?」私は訊いてみた。それに答えたのはフェイトちゃんじゃなく、「そのまんまの意味だよ、高町なのは」テスタメントちゃん。

――火獄乃弾牢――

テスタメントちゃんの周囲にまた、火炎弾が40発ほど展開されて、「ブレイク!」頭上から降り注いできた。

――フライアーフィン――

――ブレイズロード――

私は飛行魔法を発動、火炎弾の雨を回避しながらテスタメントちゃんより上へ。アリサちゃんは両脚に炎を噴き上がらせての高速移動魔法で、着弾範囲外へ逃げた。すずかちゃんとフェイトちゃん、アルフさんは私と同じようにテスタメントちゃんより上に逃げた。

「今の私は、全身にバインドブレイクの魔法を持続発生させてる。掛けられたと同時にすぐに効果を発生、破壊する。だから――・・・」

第四聖典の四方の先端に魔法陣が展開。テスタメントちゃんはチアリーディングのバトンのようにクルクル回し始めて・・・

――轟火之砲光――

その四方から砲撃を発射した。しかも第四聖典はクルクルと回り続けてるからほぼ無差別。

「私にはバインド魔法は通用しない」

回避に全力を注いでいるからテスタメントちゃんの話に集中できない。それでも「シューット!」私はディバインシューターを、「ファイア!」フェイトちゃんやアルフさんはフォトンランサーを放ち続ける。
すずかちゃんは自分やアリサちゃんが避けきれない砲撃をシールドで防御。かなりの魔力弾を撃ち続けているのに「1発もシールドを抜けないなんて・・!」テスタメントちゃんの全方位をカバーする、断続的に展開される炎を纏う小型のシールドを突破できない。

「きゃぁぁぁぁッ!」

そしてついに私たちの中から、テスタメントちゃんの砲撃を受けた子が出た。

「すずかっ!?」

「え・・・すずかちゃん!?」

すずかちゃんだった。ドサッと倒れ込むすずかちゃん。アリサちゃんが「すずか!」駆け寄ろうとした時、そこに1条の砲撃が迫った。助けようにもフラッシュムーブじゃ間に合わない、砲撃での妨害も間に合わない。もうダメだ。アリサちゃんまでもが倒れる姿を見る事になる。そう思うと目を逸らしたくなった。

「おらぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

――ラウンドシールド――

だけどその前に、アルフさんがアリサちゃんの前に立ちはだかってシールドを展開、護ってくれた。アリサちゃんに「行きなッ!」って告げると、アリサちゃんは「ありがとうアルフ!」砲撃の射線から離れた。直後、砲撃はシールドを粉砕して、アルフさんを呑み込んだ。

「「アルフ!」」「アルフさん!」

爆発。そして黒煙が生まれた。ここでようやくテスタメントちゃんの無差別砲撃が止んだ。見ればテスタメントちゃんは大きく肩で息をしていて、かなりの魔力を消費したんだって判る。すずかちゃんやアルフさんのことが気になるけど、今ならきっとテスタメントちゃんを押さえることが出来る。

≪Flash Move≫

「せぇぇぇーーーーいッ!」

高速移動魔法のフラッシュムーブからの連携技、「フラッシュ・・・インパクトッ!」をテスタメントちゃんへ“レイジングハート”を振り下ろす。ギリギリで第四聖典を水平に構えたことで受け止めたテスタメントちゃん。

≪Divine Shooter≫

――煉弾――

私たちの周囲に計10基のスフィアが発生。お互いに距離を取ったと同時、

「シュート!」「ブレイク!」

発射する。テスタメントちゃんの火炎弾は直射型のようで、私の操作するシューターを迎撃できずに真っ直ぐ私を通り過ぎて行った。そしてシューターは螺旋を描きつつテスタメントちゃんに次々と着弾。と、「きゃぁぁぁぁ!」背後から悲鳴が聞こえた。慌てて振り返ってみれば、アリサちゃんとフェイトちゃんが倒れていた。どうして?と思う前にハッとした。

「まさか・・・今の火炎弾・・・」

「正解だよ、高町なのは」

耳元で囁かれたように感じるほど響いてきた声。バッと振り返ったら、すぐそこにテスタメントちゃんが居て、第四聖典の先端を私に向けてた。

≪Round Shield≫

――轟火之砲光――

シールドが張られると同時、放たれる火炎砲撃。

「ぅ、ぐぅぅ・・・うぁぁぁ・・あああああああ!」

今まで受けてきた魔法の中で一番の攻撃力だ。シールド越しでもその熱量と衝撃のすごさが伝わる。少しずつバリアジャケットが焼け破けていく。特に両袖が激しい。半袖になるまで続けられた放射がやっと止まった。遅れてシールドがもう限界って言うように霧散。

「はぁはぁはぁはぁ・・・!」

――煉弾――

「あぐっ・・!?」

背中に連続して伝わる衝撃。魔力弾――ううん、熱量を持ってるからアノ火炎弾で撃たれたんだって、揺らぐ視界、そして意識の中、判った。私は宙に留まることが出来なくて、そのまま床に墜落。「ぅく・・!」高度が低かったのが幸い。叩き付けられた時の衝撃はそんなに強くなかった。

「さすがに・・はぁはぁはぁ・・キツイ・・な・・・はぁはぁ・・・」

テスタメントちゃんのブーツが目の間で止まる。体が重くて起こせないから、目だけを動かして見る。テスタメントちゃんの顔色は悪く、息遣いもすごく荒い。それでも「ジュエルシード・・ちょうだい」って告げる。私は最後まで抵抗しようと思って、“レイジングハート”を握る左手に力を込めた。けど、ガキィン!と柄に振り降ろされた第四聖典の所為で、持ち上げることが出来なかった。

≪Put Out≫

「レイ・・ジング・・・ハート・・・!?」

何を思ったのか“レイジングハート”が最後のジュエルシード7つを取り出した。

「やっぱり・・良い相棒じゃない・・・あなたの事・・・護りたいんだ、よ・・」

テスタメントちゃんがジュエルシードに手を伸ばすのが見える。ダメ。掠れる声で言う。でも手は止まることなく・・・あと少しで。というところで、「渡さないって言ってるでしょ!」シャルちゃんの声が届いた。続けて何かが飛んで来て、第四聖典を大きく弾き飛ばした。その何かが目の前に落ちて、ソレがなんなのかが判った。

「鞘・・・!」

シャルちゃんの鞘だった。それだけじゃない。「ブレイズキャノン!」クロノ君の砲撃がテスタメントちゃんを襲撃、「うわぁぁぁぁ!」そして着弾。大きく弾き飛ばされたテスタメントちゃんが見えた。

「なのは!」「なのはちゃん!」

私を抱き起してくれたのは「アリサちゃん、すずかちゃん・・・!」だった。2人もボロボロだけど、瞳にはまだやれるって言う、強い思いが見て取れる。側にはフェイトちゃんとアルフさんも居て、私を心配げに見てくれていた。私も負けてなんかいられない。自力で立ちって、“レイジングハート”を握り直す。

「レイジングハート。あとでお説教だからね」

≪申し訳ありません。私は自身とあなたを信じきることが出来ませんでした≫

「ん。今度こそは、最後まで一緒に足掻こうね。見っともなくても」

≪はい!≫

「形勢逆転だテスタメント! 大人しく武装を解除し、投降しろ!」

クロノ君が倒れ伏してるテスタメントちゃんに告げる。

「形勢逆転んん? そんなボロボロのクセして・・・あなた達はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

テスタメントちゃんはフラ付きながらも立ち上って、前方に魔法陣を展開。火炎を発生させる。少しだけど、周囲の魔力素を集束させてるのが判る。集束砲だ。私たちが行動に移る前に、

――サンライズブレイカー――

火炎を纏う集束砲が放たれた。

――ラウンドシールド――

――パンツァーシルト――

――ホイールプロテクション――

私たちの前方に展開される、アリサちゃん、すずかちゃん、クロノ君の3枚のシールド、シャルちゃんのベルカ式のシールド、アルフさんの渦を巻くバリア。

「なのは!」

「なのはちゃん!」

「なのは!」

「フェイト!」

「フェイト・テスタロッサ!」

みんなの視線が訴えかけてくる。私とフェイトちゃんで押し返せって。フェイトちゃんと頷き合う。私は“レイジングハート”を、フェイトちゃんは“バルディッシュ”を多重障壁に向けて、魔力のチャージを開始。テスタメントちゃんの集束砲がまずアリサちゃんのシールドに着弾、一瞬にしてヒビを入れて、粉砕。
続いてすずかちゃんのシールドに着弾、またすぐにヒビを入れる。けど、少し押し留める。そして粉砕続けてシャルちゃんのシールドに着弾。シャルちゃんは「連続ロード!」って叫んで、“キルシュブリューテ”のカートリッジを連続でロード。

「これで少しは保つでしょ!」

少しずつ集束砲の威力が減衰していくのがなんとなく判る。けど、抑え込みきる前にシャルちゃんのシールドが粉砕。最後にアルフさんのバリアに着弾。ここでようやくチャージが完了した。

「ディバィィン・・・!」

「サンダー・・・!」

「「「「「いっっっけぇぇぇぇぇぇーーーーーッッ!!」」」」」

みんなの期待に応えるための砲撃を・・・

「バスタァァァーーーーッッ!!」「スマッシャァァァーーーーッッ!!」

発射した。アルフさんのバリアを挟んで衝突する私とフェイトちゃん、そしてテスタメントちゃんの砲撃。一瞬にしてバリアを粉砕、直接衝突する。集束砲はそんなに集束率もチャージ時間も無く、みんなの防御魔法で威力を減衰されていたのに、それでも私たちのチャージした2本の砲撃と拮抗してる。残り少ない魔力を限界まで絞り出して、砲撃に加える。すると少しずつ押して行っているのが見て取れた。

「「届けぇぇぇぇーーーーーーッッ!!」」

「こんのぉぉぉーーーーーッッ!!」

そしてついに私たちの砲撃はテスタメントちゃんの集束砲をハッキリと押し返し始めて・・・テスタメントちゃんに着弾、大爆発を起こした。その衝撃に、私たちはその場に屈んで耐える。衝撃が過ぎ去って、ゆっくりと立ち上った。みんなと一度顔を合わせてから、濛々と上る煙幕を見る。
コツコツと足音が聞こえてきて、煙幕の中からテスタメントちゃんが出て来た。もう戦えるだけの魔力・体力が無いけど、私たちは身構えた・・そんな時、すごい揺れが私たちを襲った。悲鳴を上げながらその場に座り込む。クロノ君が「アースラ! 何が起きてる!?」って叫んだ。

『こちらエイミィ! 駆動炉が停止したことで時の庭園が墜落し始めていってる! このままじゃ虚数空間に呑み込まれちゃう! 急いで脱出を!』

エイミィさんから切羽詰まった通信が私たちに届いて、それを証明するように時の庭園が大きく傾き始めた。それに、地響きの所為でここ最下層の至る所に張り巡らされてる樹の根っこ状の岩が崩落し始めた。

「まずい! テスタメント! プレシア・テスタロッサを捕えている結界を解け!」

テスタメントちゃんが頷いて、結界を解除。フェイトちゃんが「母さん!」って駆け寄ってく。シャルちゃんはテスタメントちゃんの身柄を確保するために歩き出し、クロノ君はフェイトちゃんに続いてプレシアさんの元へ行こうとした。

――サンダーレイジ――

そんな中、最下層に降り注ぐ紫色の雷撃。ハッとプレシアさんの方を見る。プレシアさんは杖を支えに立ち上っていて、足元に魔法陣を展開していた。そして駆け寄ろうとしていたフェイトちゃんは雷撃を受けて、倒れ込みそうになりながらも“バルディッシュ”を支えに立って、「母さん・・?」呻いた。

「フェイト!!」

「ジュエルシードを渡しなさいッ!」

「なのは、いや誰でもいい! ジュエルシードを確保しろッ!」

私が一番近いこともあってジュエルシードを確保に動く。アリサちゃんとすずかちゃんも手伝ってくれるようでそれぞれデバイスを掲げた。テスタメントちゃんの妨害も無く、私が3つ、アリサさんとすずかちゃんが2つずつ回収。プレシアさんの方を向くと、視線で人を殺せそうなほどの怒りを顔に浮かべていた。

「もう諦めなさいプレシア」

シャルちゃんがそう言った時、今まで以上の振動が私たちを襲って、床の至る所が崩落。その崩落の中に、プレシアさんとアリシアちゃんのポッドが含まれていて、床と一緒に落ちた。

「母さん! アリシア!」

「フェイトちゃん!?」「フェイト!」

信じられないことが目の前で起きた。崩落に巻き込まれたプレシアさん達を追うように、フェイトちゃんが虚数空間の待つ穴に飛び降りた。虚数空間。シャルちゃんの話じゃどんな魔法でも発動しない、一度落ちたら2度と上がって来れない次元空間に空いた穴。その穴に、フェイトちゃんが落ちた。それはつまり2度とフェイトちゃんと会えないことを意味していて・・・。

「うそ・・だよね・・・」

アルフさんが「フェイトぉぉぉ!」泣き叫んで、後を追おうとするけど、クロノ君に押さえ込まれた。私は、アリサちゃんやすずかちゃんも茫然となって、その場にへたり込んだ。

「ふざけるなッ!! こんな結末があって堪るか!!」

――タブリスの鎖――

テスタメントちゃんが黄金に輝く3本の鎖をどこからともなく具現させて、フェイトちゃん達の落ちた穴へ向かわせた。

「無理だテスタメント! 魔法は全てキャンセルされ――」

「うるさい! フェイト達は必ず引き上げる! 転移でも退避ルートでも準備しておけ!」

ものすごい荒い口調になってるテスタメントちゃん。それでクロノ君も呆けていたけど、「エイミィ! ルートの確保を!」ってすぐに指示を出した。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

虚数空間を真っ逆さまに落下するプレシアと、彼女の娘、アリシアの収められた生体ポット。プレシアはこれから死ぬというのに、慌てることなく、焦ることなく、ただ静かにポッドに寄り添っていた。
ふと、落下が落ち着いたことを感じたプレシアに疑問が生まれた。重力の底に到着する前に死ぬのに、意識があまりにもハッキリとしているからだ。閉じていた目を開ける。そこは虚数空間であるにも拘らず、確かに落下が止まっていることが判った。

「これは一体どういうこと・・・?」

ポツリと漏らし、辺りを見回す。魔導師として理解できない状況に困惑している。とそこに「待ってましたよ」という少女の声が、彼女の耳に届いた。プレシアの目の前に現れる1人の少女。スカートがフワリと大きく広がったプリンセスタイプの桃色のドレスを着た、美しい金髪を有している。

「あなたは・・・!?」

現実離れした光景にプレシアはふと、こう思った。気付かないうちに自分は死んだのではないか、と。彼女は不治の病を患っていた。日に日に増える吐血。医者に掛かっていないため病名は不明だが、プレシアは自分の死期が近いことを知っていた。だからこそアリシア復活を急いた。自分が死ぬ前にアリシアとの僅かな時間を過ごすために。

「私は神さまです」

少女の神さま発言に、プレシアは「はっ」と鼻で笑った。

「神様だったら奇跡を起こしなさい。私の娘、プレシアを蘇らせて」

「いいですよ」

自称神さまは即答し、両手をプレシアの前まで持って行き、何かを救い上げるような形にした。両手の平に現れる、リンカーコアのような光球。神さまは「アリシア・テスタロッサの魂です」と告げた。プレシアの脳裏に、イリスとのやり取りが鮮明に蘇った。

――個人がその個人足らしめるのは記憶じゃない、魂だもん――

――それこそ神様の奇跡くらいしか蘇らせる方法はない――

プレシアはハッとして、神さまと、彼女の言うアリシアの魂を見る。わなわなと震える口で「本当にアリシアは蘇るの・・・!?」と確認を取るプレシアに、「その代わり貴女が死にます」と返した神さま。

「え・・・?」

「貴女の運命はここで途切れる。それは絶対で、覆すことはこの私にも出来ない。でもアリシアは違う。彼女の有する可能性の中には、死なずに済んだ世界もある。だから私は彼女の魂を確保することが出来、こうして貴女の死に際に会いに来れた。
そんな私に出来ることは、ここで尽きる貴女の命の力を使ってアリシアの魂を肉体へ帰し、そして繋げる橋とすること。どうします? このまま一緒に亡くなりますか? それとも貴女の命で、アリシアを蘇らせますか?」

「・・・私の命を使うということは、私の魂はこれからもアリシアと共に居られる、ということかしら?」

「そうですね。もちろん自我は残りませんし、記憶も引き継がれません。ですがアリシアの魂と寄り添って、彼女の生きる支えにはなります」

プレシアはポッドの中に漂うアリシアを見た。そして「判ったわ。私の命を、アリシアにあげる」そう決断した。本音を言えば、僅かとは言え一緒の時間を生きたかった。だがそれは叶わない幻想。それでもプレシアは、自分の自我が残らずともアリシアの魂と共に存在できることに満足した。

「私の命がアリシアの命となるなら、それで十分よ。元々私は直に死ぬのだし。最期の最期に有効活用が出来て満足だわ」

「後悔は、しませんね?」

「ええ」

プレシアはもう一度アリシアのポッドに寄り添い、そっと撫でながらアリシアとの思い出を振り返った。様々な思い出が蘇る中、プレシアの脳裏にあるシーンが浮かび上がった。それは数少ない休暇を利用して、アリシアとピクニックへ出かけた時のこと。

――アリシア。お誕生日のプレゼント、何が欲しい物、ある?――

――それじゃあ・・・あっ、わたし、妹が欲しい! 妹が居れば、お留守番も寂しくないし、ママのお手伝いもいーっぱい出来るもん♪――

(妹・・・)

――生まれるのは、どうしたって記憶を共有しただけの歳の離れた双子の妹だ!――

イリスの台詞を再び思い出したプレシアは「本当に私はダメね。私は、気づくのがいつも遅すぎる」と呟いた。今さらになってアリシアとの約束を思い出し、プレシアの中に後悔が生まれる。そんな時、「母さーーーん!」聞こえるはずの無い声が届き、プレシアは閉じていた目を開けて頭上を見上げた。

「母さーーーーん!」

フェイトだ。神さまの姿がフッと消える。それに何かを言う前に、プレシアの元にフェイトが降り立った。

「母さん! 私は・・・」

悲しげな表情で自分を見上げるフェイトに、プレシアはスッと目を逸らした。今さら何と言えばいいのか判らないから。今まで散々痛めつけ、苦しめ、否定し、拒絶した。それなのに自分を母と呼び、大好きと慕う。そんなフェイトの顔をまともに見られない。

「母さん」

フェイトが恐る恐るプレシアの手に触れた。ビクッと肩を震わせるプレシア。だが振り払わない。拒絶をしなかった。フェイトはそれだけで嬉しく、小さく微笑んだ。

「母さん。私・・・私も一緒に・・・」

「帰りなさい。あなたまで死ぬことはないわ」

「え? でも虚数空間に落ちた以上はもう・・・」

フェイトがそこまで言いかけたところで、プレシアがフェイトと目を合わせた。そしてそっと右手でフェイトの頬に触れ、「生きなさい。アリシアと一緒に」と告げた。意味が解らず、それに優しく触れてもらっていることについてもフェイトは困惑する。あまりにも態度が違うからだ。

「私はもう生きられない。それが運命だから。でも、アリシアはまだ蘇ることが出来て、これからも生きられる」

「母さん・・・? 何を言ってるの・・・?」

「フェイト。あなたはこれからアリシアと――お姉ちゃんと生きていくの。あなたは妹なのだから、ちゃんとお姉ちゃんの言うことを聴くのよ? でも、アリシアが間違っているのなら、ちゃんと正すの」

「意味が解らないよ母さん。アリシアはもう・・・」

「行きなさい。そして生きなさい。フェイト。私の・・・2人目の娘・・・!」

「かあ・・・さん・・・!?」

プレシアがフェイトを抱きしめた。フェイトの瞳からどんどん溢れ出る大粒の涙。プレシアの瞳からも一筋の涙が流れた。

「さぁ、自称神よ! アリシアを蘇らせて!」

フェイトを放したプレシアの胸から真っ白に輝く光球、彼女の魂が現れた。途端にプレシアは死を感じる。意識が揺らぎ、涙に滲む視界に映るフェイトを正しく認識できない。だが彼女に恐怖は無い。何せこれからも愛おしい娘たちと共に生きていくのだから。
ただ、彼女は願う。アリシアとフェイトが仲良く生きていられる未来があるように、と。完全に自分と言う存在を失う前にプレシアは、「母さん!」必死に自分を呼ぶ声を聴いた。

†††Sideなのは†††

崩壊が続く中、テスタメントちゃんが「捉えた!」って言って、3本の鎖を思いっきり引っ張り上げた。そして穴から飛び出すのはフェイトちゃんとプレシアさん、そして裸の女の子アリシアちゃん。穴の中で何があったのか判らないけど、アリシアちゃんはポッドの中じゃなく、外に出てる状態だ。

「受け止めて!」

崩壊が届いていない場所に居る私たちの頭上にまで引っ張り上げられたフェイトちゃん達。私とアリサちゃんとすずかちゃんで気を失ってるフェイトちゃんを、アルフさんがプレシアさんを、シャルちゃんがアリシアちゃんを抱き止めた。
あとは「テスタメントちゃんも早く!」虚数空間の穴の側に居るテスタメントちゃんに呼びかける。テスタメントちゃんがこちらに向かって駆け出したその時、一際強い揺れが最下層を襲った。そしてそれは起きてしまった。崩落した岩の柱が「テスタメントちゃん!」の上に倒れ込んだ。ものすごい砂煙が巻き起こって、テスタメントちゃんの姿を完全に隠した。

「テスタメントちゃん!」

助けに行こうとしたけど、私たちとテスタメントちゃんの居る場所の間が崩落したことで虚数空間が大きく口を開けたから「ダメ!」シャルちゃんに止められた。砂煙が晴れて、テスタメントちゃんの様子を視認できるようになった。岩の柱にテスタメントちゃんの下半身が隠れてる。

「ふふ。悪党の最期、か。優しいあなた達を痛めつけた罰かな」

テスタメントちゃんが自嘲気味にそう言ったのが聞こえた。

「諦めちゃダメだよ!」

「そうよ! あんた、勝ち逃げなんて絶対に許さないだから!」

「最後まで頑張ってテスタメントちゃん!」

「足掻いて! 諦めるなテスタメント!」

もう脱出を諦めてるテスタメントちゃんを叱咤する。

「無理を言わないでよ。足の感覚が無い。たぶん潰されてる。脱出したところで失血で死ぬ。結果は変わらない」

「そんなことない! アースラにはティファレトさんっていう、すごいお医者さんが居るから!」

涙が溢れてくる。テスタメントちゃんとは本当にいろいろあったけど、でもフェイトちゃんと同じように絶対に良い子なんだ。だから諦めたくないし、諦めてほしくなかった。だけど無情にもテスタメントちゃんの居る場所が大きく傾いて、虚数空間へ滑り落ちようとしていた。

「「テスタメントちゃん!」」「「「テスタメント!」」」

「・・・高町なのは。アリサ・バニングス。月村すずか。そしてフェイト・テスタロッサにも伝えて。私の死を、背負わないでいい。こうなったのはあなた達の所為じゃないし、誰の所為でもない。だから、苦しまないで」

テスタメントちゃんが笑った。もう涙で滲んでよく見えない。

「・・・テスタメント。君が救おうとしていた者の名前と居場所を教えてほしい。君の代わりに、僕が、管理局が救って見せる」

クロノ君はもう完全にテスタメントちゃんの救出を諦めていた。だからそう訊いた。テスタメントちゃんは小さく笑った後、「私だよ。私を救いたかった」って答えた。え?と訊き返す私たちに、「ほら、これが私を悩ますタネだよ」ってテスタメントちゃんが袖を捲った右腕の素肌を掲げて見せた。所々がヒビ割れていて、砕けていて、霧散していて、薄らと消えかけてる腕。

「「「「「「っ!?」」」」」」

「ある罪を犯し、その罰によってこんな体になった。でも・・・死にたくなかった。生きる為に、魔力を確保する為に、ジュエルシードを知る前には色々な悪事を働いたよ。そして私はジュエルシードを知って、求めた。もう生きているのも許されないような罪を犯しておきながら、ね。
だからもう一度言うよ。大悪人な私の終焉に、あなた達が苦しむ必要も悲しむ必要もない。ふふ。言ったとおりでしょ? 高町なのは。私のことを友達にしたいなんてもう思わなくな――」

「そんなことない! 今でも私はテスタメントちゃんと友達になりたいって思ってる!」

「あたしもよ!」

「私も!」

「アリサ・バニングス。月村すずか・・・。あなた達は本当に・・・お人好しだなぁ」

それが、テスタメントちゃんの最期の言葉だった。テスタメントちゃんの居る場所に天井から崩れてきた瓦礫が落ちてきて、一緒に虚数空間に落ちて行った。
 
 

 
後書き
フジャムボ。
申し訳ありません。詰め込み過ぎて2万文字を突破してしまいました。
えー、皆さま、今話を呼んで仰りたいことが山ほどある事かと思います。
私自身、かなり悩みましたが、こういった結末へ落ち着かせることを決断しました。
とりあえず魔導師側のラスボス戦が終わり、そして次回が魔術師側のラスボス戦となります。

 
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