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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第二話

 清文が通されたのは広い部屋。天蓋付きのベッドが置かれ、豪奢な装飾がなされている。

「それでは、夕食のご用意ができるまでお待ちください」
「ああ。ありがとう」

 大門が部屋を出ると、清文は部屋を見回した。

「……久しぶりだな、この部屋に来るのも」

 この部屋はもともと、清文が暮らしていた部屋だった。日本に行くときにこの部屋にあったものの多くはもって行ってしまった。向こうで処分してしまったものもある。

 けれど、まだここに残っているものもある。

「なつかしいなぁ、この本」

 清文が手に取ったのは一冊の本だった。

 それは、幼少の頃の清文が読むにはふさわしくないほど分厚く、荘厳な本。

 
 伝説に伝え聞く、《六門神》の物語。

 これはその一節で、題名は《青と黒の悲壮曲》という。

 
 汚されることを許されぬ水の神と、黒い騎士の悲壮の恋を描いた作品。

 なぜこの本を、幼い清文が読んだのかはよく覚えていない。

 本を棚に戻す。
 
 その隣にあるのは、打って変わって比較的薄い本だ。

 六門神話の一節、《イフリート》。

 
 黄金の鎧をまとった英雄神の物語だ。幼い清文はこの英雄が気に入っていたのを覚えている。


 清文が《イフリート》を本棚に戻した直後。こんこんこん、と、ドアが控えめに叩かれた。

「……?もう夕飯の支度ができたのか?……入っていいぞ」

 ドアが開けられて、そこから入ってきたのは大門ではなかった。

 清文はその人間に見覚えがなかった。

 
 水色に近い色の長い髪。頭頂のアホ毛。髪と同じく水色の瞳に、頬は照れたように赤い。そして巫女服の様な服を押し上げる圧倒的な胸部ボリューム。

「……あんたは……?」
「ひ、ひうっ!?ご、ごめんなさい、清文お兄様……」
「《清文お兄様》?……その呼び方をするってことは……おまえ、まさかハクナ!?」
「はい……お、お久しぶりです……」

 鈴ヶ原ハクナ。

 清文の遠縁に当たる少女で、小波のお気に入りだったはずだ。

 いつもおどおどして、大人や《兄》の後ろに隠れていた。

 それがこんな色んな意味で立派な少女になるとは……。

「なつかしいなぁ……ハクガは元気してるか?」
「はい!……あの、か、()()()ましょうか?」
「いや、いいよ。たぶんそう遠くないうちに会えるから」
「はい。あ、あの……入っていいですか」

 清文が首肯すると、ハクナは失礼します、と呟き、恐る恐る部屋に入ってきた。

「本当にお久しぶりです。お元気でしたか、清文お兄様」
「ああ。ハクナも立派になったな。昔とは大違いだ」

 するとハクナは顔を真っ赤にして叫んだ。

「さ、小波お姉さまがこうするようにと言ったのですっ!だ、だからこの格好は別に私の趣味とかそういうのでは……」
「へ?あ、いや……格好の話をしたのではなくね……?」
「へ?……はっはわわわわ……ご、ごめんなさい……」

 彼女はけっこう希少なドジっ娘だ。ほかにも恥ずかしがり屋なところ等、おおきいおともだちが飛びつきそうな萌え要素を体現した存在ともいえる。

「ハクガはどうしてる?」
「最近は()に出れなくなってきて不機嫌です。小波お姉さまのVRワールドが完成したらもう少し改善されると思うのですが……」
「そうか。……あいつ、まだあんなものを……」

 
 小波のVRワールド。

 それは、恐らく、彼女が清文をわざわざロンドンまで引っ張ってきた理由だ。

 彼女と共に《ボルボロ》を抜けた初期メンバー数人が巣食う時計塔の一画には、巨大な研究スペースがある。

 小波はあそこに自分たちで巨大なVRワールドを想像しようと考えているのだ。

 清文は恐らく、そのテストプレイを任されるのだろう。そして、ハクナの兄、ハクガも。


 再びドアがノックされた。夕食の用意ができた、という大門のくぐもった声が聞こえる。

「わかった。……いこう、ハクナ」
「はい」


                    *


 夕食会上は非常に広かった。長大なテーブルの最も奥の当主席には今は父ではなく小波が座り、清文はかつてと同じ、小波の右側の列の前から二つ目の席に。その右斜め前――――左列三席目にはハクナが座る。それ以外の十数の席は全て空席だ。

「じゃあまずは――――清文の帰宅を祝ってかんぱ―――――い!」

 相変わらずの崩壊テンションで小波がグラスを突き上げる。しかし清文は無反応、ハクアもグラスをちょっと持ち上げただけだった。

「ん?相変わらずテンション低いね二人とも」
「当然だ。お前のテンションについてけるやつなんていねぇよ」
「ふ~ん。そうかな?みんなもっと楽しもうよ」

 小波はグラスの中の飲み物(何かはよくわからないが)を飲み干すと、嬉々として食事(豪勢なステーキがメインディッシュだ)にありつき始めた。

 どうやら清文の最近の好物までも調べたらしく、清文の好きなモノばかりが並んでいた。しかしどうにも清文には食欲がわかなかった。

「…………」
「どうしたんだい、清文。なんか嫌いなの混じってた?だったらコックを抹殺するから遠慮なくいってよ」
「なんか怖いなそれ!……違うよ。けど、半分はあってるかもしれない」

 清文は、一流のコックがつくったと思われるこの料理達を、どうしても好きになれそうになかった。

 こんな完璧な、《完成された料理》よりも、琥珀の作ってくれた《完璧じゃない料理》の方がずっとずっとおいしく感じられた。

「……そうか。清文は帰りたいんだね。けどね。駄目だよ。――――大門!」
「はっ。小波様」

 小波が呼ぶと大門が彼女の後ろに立つ。

「車を用意しておけ。清文を《ラウンズ》に連れて行く」
「かしこまりました」

 小波は今度はハクナに向かって言った。

「すまないね、ハクナ。まだおなか一杯になってないだろ?」
「は、はい……。でも、いつものことですから」

 ハクナは外見に似合わず意外に大食いだということを清文は知っている。
 
 それよりも気になるのは、先ほどのワード……

「なぁ姉貴。《ラウンズ》ってのは――――」
「見ればわかるよ。本当は今日は清文におなかいっぱい食べてもらって、備えてもらいたかったんだけどね――――」
「備える?何に?」

 準備が整いました、と大門が再び入室。小波はにやりと笑うと、セモンにも同じ笑いを向けて答えた。

「決まってるじゃん。行くんだよ。《VRワールド》に」  
 

 
後書き
 やっと話が動き出します。

 次回もお楽しみに! 
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