| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

幕間
  Trick-03_だから 今は私に甘えなさい




「院長さん、これで全部運び終わりました」

僕は両親が死んでから孤児院に預けられた。

家にあった荷物は役所の人がまとめて段ボールに入れてくれた。
それが届いたので、孤児院で割り振られた僕の部屋に運び終わったところだ。

その報告は院長室に入って伝えた。院長は70歳ほどのおじいちゃん。

「・・・・ああ、ごくろうさま。私も手伝いたかったんだが」

「大丈夫ですよ。院長さんも御歳ですし、自分のことは自分でできますから」

「・・・・そうか」

「それでは失礼します」

僕は院長室から出て行った。

院長さんが終始、悲しい気持ちを必死で隠したような顔をしていた。

まぁしかたない。孤児院にくるということは両親がいないということだ。
しかも僕は途中からこの院に来た。つまり両親が死んだことを意味している。

両親が死んだことに同情して悲しい気持ちに院長はなっているのだろう。

僕の方は大丈夫だ。両親が死んで何も思わなかったわけではないけど、
今を頑張って生きようと思う。



「美雪、ご飯の時間だから食堂に来てってさ」

「・・・」

美雪も同じく両親を亡くした。ここに来てからもずっとしゃがみこんで
なにも言わず反応せずにいた。

僕は美雪の手を取って無理矢理立たせる。

「ほら、行こう」

「・・・・」

やっぱり何も言わなかったが、そのまま手を引いて食堂に連れて行った。





そんなこんなで2週間ほどが過ぎた。

孤児院にいるみんなは優しくしてくれたので、すぐに仲良くなった。

美雪も2週間もたてば少しは落ち着いたみたいで、少しは僕としゃべるようになった。

しかし人見知りスキルを発動したせいで他の人とはあまり話さない。

いつも僕の隣にいるけど、誰かがいるときはずっと黙っていた。

この孤児院には、大人になるまでお世話になるだろうから
色々なことに協力したいと思って、
院長や面倒を見てくれる院内の先生の手伝いを率先してやった。
荷物を運んだり、僕よりも小さな子供の面倒を見たり。

小学校も孤児院の近くの新しい学校に行くことになった。

うん、これから一生懸命生きていかないといけないよね。




「信乃、ちょっと来て」

ある日、僕は美雪に連れて行かれた。といっても僕の部屋に。

孤児院の部屋は6人で1部屋を使う。僕と同じ部屋の人は偶然にも誰もいなかった。

美雪は僕が部屋に入ると入り口のカギを閉めて部屋の中央に座る。
僕も美雪の正面に座った。

「どうした?」

「信乃、泣かないの?」

心配そうに美雪は聞いてきたが、聞いた本人が泣きそうな顔をしている。

「大丈夫だよ。今はそんな暇はないって」

「暇とかそんな話をしてるんじゃない。信乃はお父さん達が死んだ事から目を
 背けている、そんな風にしか見えない」

「・・・何言ってんだ?」

「目を背けている」

それいじょうなにもいうな

「お父さんが死んだのは悲しいよ。でも、信乃が泣いたのは一度も見たことがない。
 公園で死んだ猫のために泣いてくれる信乃がお父さんのために泣かないなんて
 ありえない」

いうなやめろ

「葬式のときだって、信乃は黙っていただけ。泣くのも悲しい顔もしなかった。
 ただの無表情。感情を押し込め過ぎて何も出てなかった」

おれのからをとるなはぐなおれはだいじょうぶなんだだいじょうぶにきまっている

「ここに来てからも信乃はいつも通りを“演じていた”。
 お父さんが死んでもう2週間たった。私も落ち着いた。
 だから信乃は無理をしないでいいんだよ」

……ゃ…………ぃ………っ……………

「信乃は悲しくないの? 泣かないの?」

「泣きたいよ! 泣きたいに決まってんだろ!!
 けどそんな風に泣いていたら父上たちは心配して成仏しないし美雪だって僕が
 支えないといけないしこれから孤児院で頑張らないといけないし僕は色々やらないと
 行けないことがあるからそんな暇はないから泣くの「もういい」 ・・・」

「もういいから。そんなに気を張らなくていいから」

美雪が抱き寄せるように僕の背中に手を伸ばした。
温かい。本当に温かい。僕が閉じ込めていた気持ちを、思いを融かすように・・・

「信乃は頑張った。私が2週間でこう言えるようになったのも信乃のおかげ。

 だから 今は私に甘えなさい」

気付いたら僕は泣いていた。声を殺して泣いていたつもりだけど
溢れだした感情が止まらなくていつの間にか大声で泣いていた。

僕も美雪の背中に手を伸ばして抱きしめた。今では唯一の家族を手放さないために。

「あれ? そういえば私も最近泣いていなかったからかな・・・グスッ」

美雪の瞳から涙がこぼれ始めた。いや、こぼれたというよりも流れたという方がいい。
涙は止まる気配はない。次々と下に流れていく。

「ごめ、ん・・・わたしもいっしょに泣く」

この後2人して大声で泣き叫んだ。

偶然にもその日は僕の九歳の、(きゅう)歳の誕生日だった。


・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




後で知ったことだが、孤児院の部屋は全て防音仕様になっている。
ここにきた子供は大声で泣くのが当たり前だからだ。

防音のおかげで僕たちの大泣きはだれにも聞こえなかったらしい。
よかった。かなりのマジ泣きだったから聞こえていたら恥ずかしい。


そうやって僕はやっと両親の死から区切りを付けられた。

孤児院に来てから今まで通りに過ごしていたつもりだったが、泣いた次の日に
院長から「やっと区切りがついたかい?」と言われた。

院長だけじゃない。院内の先生にも、孤児院の友達にも「何かあったの?」と
ほぼ全員に言われた。

う~ん、やっぱりどこかで無理してたんだな、みんながわかるくらいに。

それから僕たちは一生懸命に生きた。
勉強も頑張って、院内の先生も手伝って、天国の父上たちが心配しないように。

それに父上の形見、総合格闘術を絶やさないために。

気付かなかったけど父上が死んでから一度も朝の訓練をしてなかった。
あんなに毎日していた日課だったのにまったく気付かなかった。
葬儀の間も、孤児院に来てからもずっと訓練はしていなかった。

きっと無意識に避けていたんだと思う。訓練をすれば父上の事も思い出すから。

それともう一つ変わったことがあった。
大泣きした日、僕は一族代々の力、前世の記憶を完全に見えるようになった。

毎日のように見ていた夢が、訓練と同じように父上が死んだ日から
一度として見てなかった。

ショックのあまり見えなかったのかもしれないが、大泣きした日に2人して
泣き疲れてそのまま眠ってしまった。そこで完全な前世の記憶を見た。

父上が玖歳になったら完全に見えると言ったが、まさにドンピシャ。
大泣きして区切りを付けられなかったら、この夢を見ることは二度となかった
かもしれない。

ほんと、あいつにはいくら感謝しても足りないな。


そんな感じで、僕は完全に立ち直ることができた。

美雪はたまに泣くこともあるけど(その時は僕の胸の中で泣く。たまに一緒に貰い泣き)
あいつも大丈夫みたいだ。

どれぐらい大丈夫かと言うと、人見知りが少し良くなった。

その事実に僕はかなりびっくりした。学校が終わって教室に迎えに言ったら
女の子同士で「好きな人は?」とかガールズトークをしてるし。

そのタイミングで僕が入ってきたから「私の夫です♪」とか言って腕に抱きついてきた。
周りは驚いたけど、次の日には学年中に話が広まって僕に挑戦する男子が出てきた。

美雪ってこの学校でもモテたのね・・・・

ていうか挑戦って何ですか? あんた達いつの時代の人間ですか?
「俺が勝ったから女は俺のものだ」って考えしかないのかよ?
つか美雪は物じゃねーだろ! 本人に決めさせろゴミ屑ども!

まあ、挑んでくる馬鹿をサッカーとか100m走とかで勝負して全部勝ったけど。

一番ひどかったのは10名ぐらいでけんかを挑んできた時だな。
前の学校では戦う覚悟が中途半端で、父上の言葉を思い出して躊躇したけど、
こんな暴力を振るう奴に家族を渡せない。

そう思うと簡単に覚悟を決められて馬鹿共を撃退した。あっさりと。
暴力じゃなくて、美雪を守るために戦った。そう思ったから簡単に勝てたんだと思う。
暴力には違いないから出来るだけ自重しますがね。


そして僕はいつの間にか学年を通り越して学校の番長(死語)になっていた。
勝ち続けた中で最上級生の番長(自称)がいたせいで、その人や仲間の人と
廊下ですれ違うたびにあいさつされる。
そのせいで周りの人たちもそういう認識をし始めた。
ダレカタスケテクダサイ・・・・

もう一つ変わったこととして、美雪だけじゃなく僕もモテるようになった。
成績は学年トップクラス、スポーツ優秀、けんかも強い。
そんな僕は色々な女の子から告白されるようになった。

まあ、確かに優秀な(自分で言うな)男の子はモテると思うけど
女子の皆さん、もう少し相手を選ぼうよ。こんな男のどこがいいのやら・・・・



学校からの帰り道。

美雪(自称、妻)の前にも関わらず告白してきた子がいて、僕はそれを
いつも通り丁寧に断った。

孤児院の友達(1つ年上のモテ男)に相談したら
 「断るときに相手を傷つけないことだけは忘れちゃ駄目だ」
とアドバイスをもらった。

今回も
「ごめんなさい。気持ちは嬉しんだけど、あなたとは付き合えない理由があります」
と丁寧にお断りした。

なんで僕がモテるんだろう? 帰り道にそうぼやいていたら

「ん♪ 信乃、自覚ないからね♪ 信乃って意外とかっこいい顔してるんだよ♪
 私も最初は一目ぼれだったし♪」

美雪に言われたけど納得いかない。ってか3歳に一目ぼれってあるのか?
・・・・・僕は美雪を最初から可愛いとかと思ったけど、その事は棚にあげる。

「でも浮気は許さないよ♪」

「はいはい。って僕が浮気しそうな状況にあるのに嬉しそうだな?」

「別に心配はしてないから、信乃だもん♪ 言ったのはこのセリフを一度
 言ってみたかっただけ♪
 それに、自分の彼氏が持てるのって実はかなり嬉しんだよ♪」

「そんなもんか? それと僕はお前の彼氏じゃない」

未だに疑問が消えずに2人で帰り道を歩いていった。


・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




孤児院に来てから1年ぐらい経過した。

学校で目立った立場になった僕だが、この数カ月でそれを訂正しようと
必死で地味に生きようと頑張った。無理だったけど。

そんな僕にいきなりすごい話が舞い込んできた。


「学園都市に行かないか?」

場所は孤児院の院長室。僕は院長に呼ばれて入ってきたら、スーツを来た初老の人が
こう切り出してきた。

「学園都市って、あの超能力開発をしている学園都市ですか?」

「ああ、その学園都市だ」

学園都市については話は聞いたことあるし、年に一度のお祭りをテレビ放送していた。
最低限の知識は持っている。

「なんで僕が?」

「私は学園都市内で教授をやっている。だから優秀な助手や超能力の才能が
 ありそうな子供を捜しているんだ。

 ここの院長は私の小学校時代の恩師でね。この前、偶然会ったときに君の話を
 聞いたんだ。だから君にも一度会ってみたくてね。

 君の事も気に入ったし、どうだい? 学園都市に来てみるのは?」

「嬉しいお話ですけど僕には家族がいますし、何よりこの孤児院が気に入っています。
 できたらここを離れたくないのです」

「もちろんタダとは言わないよ。学園都市の生徒には成績に応じて奨学金が出される。
 その奨学金とは別に私個人から君へのお金を渡そう。

 私は学園都市でも少し良い地位を持っているからお金には困っていない。

 お金よりも自分の研究で成果を出すことの方が重要だからね。
 子供相手にお金、ってのはかなり問題があると自覚してるが」

「お金、ですか・・・」

「それ以外にも欲しいものがあれば言ってくれ。出来るだけ揃る」

正直、僕個人はお金が欲しいわけではない。でも・・・

「学園都市に行く条件があります。
 僕へ渡すお金の代わりに、この孤児院に援助してください。
 
 たった1年間とはいえ、傷心していた僕を支えてくれた大切な場所です。
 だからこの院に役に立ちたいんです」

「そこまでしなくても気持ちだけでもうれしいよ」

「院長、気持ちがうれしいならお金を貰ってくれると僕はもっと嬉しいですよ」

「むぅ・・・そこまで言うなら、受け取らないのは子供の意思を曲げることに
 なってしまうな。

 わかった。ありがたく受け取ろう。絶対に無理はしないこと。
 本当に少しのお金で満足だからね」

そういって院長は優しく微笑んでくれた。

この孤児院は子供のことを第一に考えてくれている。

子供が泣いてもいいように全部屋が防音になっていたり、食材は安いが栄養管理と
味を両立させた献立を毎食出すために栄養士の人と契約している。

そんなことをしていたら当然ながらお金がかかる。

子供には心配をかけないようにしているが、院内の先生方の手伝いを良くしている
僕はたまに帳簿を付けて悩んでいる先生を見ている。

どこの孤児院も同じかもしれないが、やっぱりお金が足りていないのだ。

院長の個人的なお金で今はなんとか持っているけど、院長も歳だし。
それにお金がいつまでもあるわけがない。

だから孤児院から早く一人立ちして仕送りをしたいといつも考えていた。

「お願いします、教授さん」

「ふふふ、君の事をますます気に言ったよ。その条件を呑もう」

「ありがとうございます」

うん。よかった。これで恩返しができる。

だけど、一つだけ気がかりというか、孤児院から離れることに大反対しそうな奴が
一人いるんだよね。どう説得しよう。

「院長先生、失礼します」

説得方法を考えていたら、入口の扉が急に開かれた。

ノックもなしに誰かと思ったが、ちょうど、その大反対しそうな奴の美雪が
入ってきた。

「美雪? どうしたんだ?」

「すみませんが話を盗み聞きしていました。そのことは謝ります。
 ごめんなさい。

 ですが教授さん、お願いがあります」

美雪は僕を無視して教授に話し始めた。いつになく真剣な表情で。

「私も学園都市に連れて行ってください」

「美雪!?」

「ほう、どうしてだい?」

「信乃が行くからです。
 少し前であれば、唯一の家族だからついて行く、と答えました。

 でも、今は孤児院のみんなが家族です。

 だから、好きな人について行きたいから!!
 
 それが理由です! お願いします!!」

「///////お前!! ストレートすぎるだろ!!!」

うわ! 確かに何度も美雪に好きだって言われたけど、
僕に向かってじゃなく、他の人に堂々と言ってるとこを見ると
すっげ~恥ずかしい! 絶対僕の顔、真っ赤になっている!

ほら! 教授も院長も『キョトン』って顔になってるよ!!

うっわー・・・・ここから逃げ出したい・・・・

「・・・ふ・・ふ・・ふふふ、ふははははは!

 面白い! 面白いね、美雪ちゃん!
 なるほど、好きな人について行きたいから、ね。
 実にシンプルで良い答えだ。

 さて、信乃くん。君はどうする?」

いきなり大声で笑ったと思ったら、僕に返すの?

美雪の事も気に入ってるし、それなら教授さんは学園都市行きを許可しているはずだし。

なんで僕? あれ? もしかして試されている?

美雪がついてくるのは嬉しいけど、僕がどうするかって何?

教授さんにお願い? でもそれだけって雰囲気じゃないし・・・

・・・ああ、そういうことね。

「教授さん。条件を一つ追加します。美雪も一緒に学園都市に行くこと。
 美雪の学力も、学校では僕の次に良いですから優秀だと言えます。
 お願いします」

「うむ。その条件も受け入れるよ」

意外とあっさり返された。やっぱり受け入れることは許可していたけど、
僕がどう返すか試していたんだね。

「では、よろしく頼むよ。

 信乃くん、美雪ちゃん」

「はい」「はい♪」

こうして、僕たちは学園都市に行くことになった。


・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




だがいきなり僕はつまづいた。

うん、僕って人生の転機が不幸になる体質みたい。

不幸だ~~~! と言っていこう。

なんと、僕の能力のレベルが0だった。

つまり僕は無能力者。

能力検査の結果を、今は検査場近くのファミレスで教授に報告している。

「うむ、統計的に見て学業が元々優秀な生徒であればレベル1からの場合が
 多いのだがな。

 でも気にすることはない。全体的にみるとレベル0の生徒も多いよ」

「すみません、教授。施設への援助の話、なかったことにしてください。
 教授からのお誘いは嬉しいですが、僕はレベルが上がりそうにないです」

そう言って僕は先程貰った能力測定の結果を渡した。

能力開発を受けた生徒であれば、レベル0であっても絶対に検出されるはずの
AIM拡散力場っていうのが、僕には全くない。

「偶然聞こえたんですけど、AIM拡散力場が一切検出されなかったことは
 今までにないみたいです。絶対に出るはずのAIM拡散力場、出ないことは
 これからも出ないと測定していた人たちは漏らしていましたよ」

能力者として教授に協力するために来たのに、これだと全くの役立たずだ。
その状況で孤児院への援助をお願いするほどの根性は僕にはない。

「なら信乃くん。私の研究を手伝ってくれ」

「無能力者に何を手伝えるんですか?」

「そんな悲観的に言わないでくれ。“学力だけ”を見ると、君より優秀な学生は
 今までに何人も見てきた。私が君を誘うと決めた理由は君の書いた設計図にある」

「設計図? ・・・・まさか見たんですか!?」

「すまない。初めて君に会った日、会う前に君の部屋を見せてもらった。
 どんな勉強方法をしているのか気になってね。それでノートに書かれていた
 設計図を見た」

教授が言っている設計図とは、A・T(エア・トレック)の設計図だ。

夢で前世の記憶が完全に見れるようになった僕は、空気を掴む特訓と共に
A・Tを作るために設計図を書いた。

この時代にはA・TのAの字も存在しない(ってのはあくまで比喩)。
もしA・Tを使いたければ自分で作るしかないのだ。

僕の前世は、A・Tのデータベースみたいなものにもアクセス出来た。
その中でA・Tを整備製造する閃律の道(リィーン・ロード)の情報もあった。

だからA・Tの設計図を直接識っている。
だけど、それを活かす知識が無いので、まずは学校の勉強をって感じで頑張っていた。

それでも早くA・Tを作りたいという欲望で、僕は設計図をノートに手書きした。

教授、それを勝手に見るのはプライバシーの侵害ですよ?

「さらに君は物理学を独学しているみたいだ。小学生の机に物理の参考書はおかしい。
 どうせなら私の元で物理を頑張ってみないか?」

うん、確かにA・Tを作るために物理学を中心に勉強しているけど、
教授の元で?

「それはどういうことですか?」

「私の専門は能力開発よりも物理学の方なんだ。
 能力開発で成果を上げそうな子供を探しているのは、あくまで学園都市の
 一員としての義務なだけだ。

 ただ、君はそれを抜きにして気に入っている。
 
 現在、僕は超音速飛行機の開発に携わっている。
 私の元で学び、そして将来的にはその完成に協力してほしんだ」

教授の話を聞いて、僕はうつむいた。

どうしよう。泣きそうだ。

孤児院のみんなと院長に役に立てると意気込んで学園都市に来たのに
無能力者で、ダメだと言われた気がして気が滅入っていた。

顔には出していなかったけど、本当に落ち込んでいた。

そんな僕を教授は必要としてくれている。

本当にうれしい。

「ん~♪ 信乃♪ 能力検査終わったよ♪ 私はレベル1だって♪
 信乃は?」

僕がうつむいているときに美雪がレストランに入ってきた。
入ってきて早々大声で僕たちの席に来たのは非常識だと思ったけど、
今はそんなことどうでもいい。

「どうしたの、信乃?」

僕の隣の席に座って美雪が僕の顔を覗き込んできた。

僕は泣きそうな気持ちを誤魔化すために、美雪を抱きしめた。

「ん~~!?」

「おやおや」

教授が驚きながらも微笑んでいる。

美雪は突然のことでされるがままで、なにも抵抗なかった。

美雪に泣き顔を見せたくないのと、慰めてもらいたいために抱きしめたけど、
レストランにいる人全員に見られている。

「教授、そのお話受けさせてください。孤児院の援助の話は今話にしても
 構いません。

 ですが、物理学で絶対に教授の役に立って見せます!
 だから、お願いします!!」

美雪を抱きしめたまま、締まらない状況だけど、お願いした。

「うむ。よろしく頼むよ」

ここからようやく、僕の本当の学園都市が始まった。



つづく 
 

 
後書き
信乃の孤児院行きについて少し補足をします。
といっても、説明の内容もわざと隠している部分があるので分かる人にはわかる、
と言う説明でごめんなさい。

信乃の母親が前に住んでいたアパートの住人。その人たちは優しいので
本当なら信乃達を引き取ると思います。

ですが“役人”の隠ぺい工作で信乃達の消息を辿る事が出来なくなっていました。
それは母親が“師匠”と呼んでいた人も同じ。母親を育てた人も同じく。

美雪の両親も親戚関係がありません。信乃の父親の弟子たちは自分の子供が
亡くなったことで精一杯ですし、たかが息子の師匠の子供で引き取ろうとする人は
いない、と言うことにしてください。

先述の通り、わざと隠している部分があるのでこの説明が限界です。
お許しくださいませ。

※我がままを呟かせて下さい。一言レベルで良いので、そろそろ感想がほしいな~と・・・。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧