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遊戯王GX ~Unknown・Our Heresy~

作者:狂愛花
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第5話 月一テスト 女帝からの挑戦

 
前書き
今回の話はタッグフォースキャラとのデュエルです。

主人公のデッキなどは実際私と友人が使っているデッキを参考に考えたデッキを使用しています。

なので、ガチデッキを使用する方々から批判やダメ出しをいただくかもしれません。 

 
side 三人称

ゼラートの攻撃を受けた殺姫は、そのままゆっくりとボートに倒れ込んだ。

その衝撃でボートが大きく揺れた。

「殺姫!」

我に返った雪鷹は、倒れた殺姫を心配し、ボートを近づけようとオールを漕いだ。

その様子を見ていた直哉たちもオールを漕いだ。

殺姫のボートに近づいた雪鷹は、ボートの中を覗き込んだ。

そこには、気絶してしまった殺姫が横たわっていた。

身を案じた雪鷹はボートに乗り移り殺姫の身体を揺すりながら名前を呼んだ。

「殺姫! 殺姫! 殺姫!」

雪鷹の呼びかけと身体に伝わる大きな揺れに殺姫の表情が歪む。

「うぅ・・・」

小さな唸り声を上げ、殺姫の瞼がゆっくりと開いた。

「大丈夫か?」

目を覚ました殺姫を見て雪鷹はホッと安堵の息をつき、そう訊ねた。

すると、目を覚ました殺姫は目の前の雪鷹を見て、顔を紅潮させ慌てただした。

「ッ!? ゆ、雪鷹さん?! わ、私何故、あ、貴方に、抱きかかえられているんですか!?」

目の前に雪鷹の顔がある事に殺姫、基アヤメはパニックを起こしアタフタしだした。

その姿を見た雪鷹は再び安堵の息をついた。

「ハァ~(殺姫は中に引っ込んだのか・・・・。まぁ、無事ならそれでいいか)」

そんな事を思っていると雪鷹の視界に直哉たちの姿が映った。

未だに心配そうな面持ちの直哉たちに、雪鷹はアヤメが無事だと伝えるために苦笑いを浮かべながら手を振った。

それを見た直哉たちの顔にも安堵の表情が浮かんだ。

直哉たちから視線を外し、雪鷹はアヤメに視線を戻した。

「影光、何があったか覚えているか?」

アヤメのパニックが落ち着いたのを見計らって雪鷹は訊ねた。

「は、はい、私がドローしようとした所までは・・・・・・」

雪鷹の質問にアヤメは首を縦に振った。

どうやらアヤメは2ターン目のドローの所までしか覚えていないようだ。

「じゃ、殺姫という名に聞き覚えは?」

雪鷹がその名を出した瞬間、アヤメの体がビクンッと大きく跳ね上がった。

その反応に雪鷹は目を細めた。

「有るんだな」

雪鷹の言葉にアヤメは無言でゆっくりと首を縦に振った。

頷くアヤメの身体が微かに震えている。

その姿に雪鷹は三度目の溜息をつき、PADに表示されている時間を見た。

時刻は既に11時を回った所だった。

「(これ以上長居すると面倒な事になりそうだ)色々聞きたいが、それは明日にする」

そう言って雪鷹は自分のボートに再び飛び移った。

雪鷹がオールに手を伸ばした時だった。

「あ、あの!」

「ん?」

アヤメの呼びかけに雪鷹は動きを止めた。

雪鷹がアヤメの方に顔を向けると、アヤメがPDAを雪鷹に差し出していた。

その姿に雪鷹はアヤメの意図を理解した。

「? もしかして、アドレス交換?」

雪鷹の言葉にアヤメは頷いた。

そんなアヤメの頬は微かに紅く染まっていた。

雪鷹はその事に気付いていたが、その事には触れず自分のPDAを取り出した。

そして、雪鷹はアヤメのPDAを奪うように取りあげた。

PADを取りあげられたアヤメは小さな声をあげるが、雪鷹はそんなこと気にせずリズミカルな指使いでアヤメのPDAのボタンを押し、そのまま奪ったPDAをアヤメに投げ返した。

投げ返されたPDAをアヤメは慌ててキャッチした。

そのまま雪鷹は無言でボートを漕ぎ進め、女子寮を去って行った。

そんな雪鷹の行動にアヤメたちはポカーンという表情を浮かべ、雪鷹が去って行くのをただ見ていた。

その時、アヤメのPDAが振動した。

それに驚いたアヤメが慌ててPDAに目を向けると、画面にメールが一件と表示されていた。

届いたメールを表示すると、そのメールに雪鷹の名前が表示されていた。

「(雪鷹さん!)」

その名を見た途端、アヤメは急いでメールを開き内容を確認した。


from 雪鷹

件名 登録完了

アンタのPDAに俺のアドレスと電話番号を登録しておいた。

アドレス帳を開けば俺の名前があるから、何かあれば俺に連絡してくれ。

それと、話の続きは明日、女子寮の反対側にある森で。

来る際に水瀬も連れてきてくれ。

P.S.貴女に良い夢を・・・・



「雪鷹さん・・・・・・」

メールの内容を呼んでアヤメは頬を赤く染めた。

そしてアヤメはPDAを抱きしめ、雪鷹が去って行った方を見詰めた。

「どうしました?」

「はい?!」

自分の世界に浸っていたアヤメは、突然理子に話しかけられて驚き声が裏返ってしまった。

気がつけば既に十代たちの姿は何処にも無く、明日香たちも戻る準備をしていた。

「大丈夫ですか? 顔が赤いですよ?」

アヤメを心配した理子が顔を覗き込む。

「だ、大丈夫です! さぁ! 早く戻らないと鮎川先生に怒られてしまいますよ!」

そう言ってアヤメは理子から顔を背け急いでオールを漕ぎボートを進めた。

突然ボートを動かした所為で理子はバランスを崩し尻餅をついてしまった。

そんな理子の状態にも気付かず、アヤメはぎこちない笑顔を浮かべたままオールを漕ぎ続けた。

アヤメたちのボートを追うように明日香たちのボートも急いでオールを漕ぎだした。

この後、寮に着いた明日香たちは寮長に見つかり大目玉をくらったと、後に十代たちに愚痴っていた。

side out


side 直哉

女子寮でのデュエルから一夜が開けた。

俺と雪鷹は今、女子寮の近くの森に居る。

あの夜、水上で出会った2人の女生徒、水瀬理子と影光アヤメの2人をジッと見つめた状態で。

俺たち以外の転生者。

今俺たちの前に居る2人は、俺たちと同じようにこの世界に送り込まれてきた別の世界の人間。

そんな俺たちの視線に理子とアヤメが戸惑った様子を窺わせていた。

「さて、単刀直入に聞くけど、君たちは転生者?」

俺の言葉に二人は素直に首を縦に振った。

「はい、その通りです。そういう直哉さんたちも転生者でしょ?」

俺の言葉に理子が答え、そう訊ね返してきた。

俺と雪鷹は理子の言葉に頷いた。

「観世音」

「ッ!」

突然雪鷹がその名前を口に出した。

俺たちをこの世界に送り込んだ張本人の名を。

自然と俺は拳を握りしめた。

「何ですかそれ?」

雪鷹の呟きに理子とアヤメは首を傾げた。

そんな理子の言葉に俺は耳を疑った。

奴から名を聞かされなかっただけかもしれない。

しかし、あの状況に直面したのなら、この世界に送り込んだ奴の名前だと直ぐに察しがつくはずだ。

しかし、2人は心当たりがないようだ。

まさか推測できないのかと俺は2人を見つめた。

「アンタたちはどうやってこの世界に来たんだ?」

雪鷹が核心をついた。

無駄に遠まわしに聞くより、ストレートに聞いた方が早いと雪鷹は考えたらしい。

そんな雪鷹の質問に2人は顔を見合わせて困ったような表情を浮かべた。

そんな2人に俺たちは怪訝な表情を浮かべた。

「実は、私たちには転生した時の記憶が無いんです」

理子の言葉に俺たちは目を見開いた。

「どういうことだ?」

訳が分からず俺は理子に訊ねた。

しかし、理子はさっきと同じように困った表情のまま答えた。

「私たちは、フィクションなどである神様や閻魔様の力で転生するという体験をしていないんです。勿論、転生する前の世界での生活などは覚えています。でも、私たちがどういった状況からどういう状況になって転生したのか、記憶にないんです」

理子の言葉を聞いて、俺は確認するようにアヤメの方に視線を向けた。

俺の視線に気付いたアヤメは、理子同様に困惑の表情を浮かべ首を左右に振った。

それを見て俺は隣の雪鷹に目を向けた。

雪鷹は何か考え込んでいた。

恐らく観世音の仕業か何かだろう。

そう思うと俺は拳にさらに力を籠めた。

すると、さきほどまで考え事をしていた雪鷹が俺の肩にポンと手を置いた。

なんだと思い俺は雪鷹に視線を向けた。

そんな俺に雪鷹は顔を近づけ、耳元で囁いた。

「落ちつけ。まだこれも観世音の仕業だと決まったわけじゃない」

そう言って雪鷹は目だけを理子たちに向けた。

雪鷹に諭され、俺は腹の底から溜息を外に吐きだした。

「そうだな」

そう言って俺は握り拳をゆっくりと解いた。

密かに話す俺たちを理子たちが怪訝な表情で見つめる。

「2人がこの世界に来る前、最後に覚えている記憶は?」

俺から視線を外し、雪鷹はそう言った。

その言葉に2人は考える素振りを見せた。

そして、先に理子が口を開いた。

「私は、自宅で寛いでいました」

「わ、私も、同じです」

2人とも同じ事を言った。

そんな2人の言葉に雪鷹は何かを再び考え始めた。

俺は雪鷹の耳元で小声で話した。

「何か分かったのか?」

俺の言葉に雪鷹は答えない。

顎に手を置き、何かを考え込み、自分の世界に入り込んでしまっている。

すると、突然雪鷹は考えるのを止め、大きな溜息を吐いた。

「まさかな・・・・」

そう言って雪鷹は頭を掻いた。

俺は雪鷹の言った言葉の意味が分からず首を傾げた。

「何か分かったのか?」

「嫌、なにも」

そう言って雪鷹は言葉を濁し、一歩前に出てアヤメの前に立った。

突然の事にアヤメが戸惑った。

「転生の事は一先ず置いといて、殺姫の事を教えてくれないか?」

そう言った瞬間、アヤメの身体が大きく跳ね上がった。

何かに怯えて身体が震えている。

アヤメは力一杯自分の身体を抱きしめる。

そんなアヤメの心情を俺と理子は容易く読み取った。

殺姫を恐れている。

あの夜、水面のデュエルに姿を現した少女の姿を借りた羅刹。

殺す事を最大の快楽としている狂人。

思い出すだけで胃の中の物が逆流してきそうだ。

理子もあの夜の事を思い出しているのか、表情を歪ませ身体を抱きしめていた。

「殺姫は、所謂、私の裏人格です」

アヤメは絞り出すように呟いた。

その言葉に雪鷹はやっぱりというような表情を浮かべていた。

そして、俺の頭にある名前が浮かび上がってきた。

解離性同一性障害。

解離性障害のひとつで、多重人格とも云われる。

「解離」には誰にでもある正常な範囲から治療が必要な障害とみなされている段階までがある。

不幸に見舞われた人が目眩を起こし気を失ったりするがこれは正常な範囲での「解離」である。

更に大きな精神的苦痛で、かつ子供のように心の耐性が低いとき、限界を超える苦痛や感情を体外離脱体験や記憶喪失という形で切り離し、自分の心を守ろうとするが、それも人間の防衛本能であり日常的ではないが障害ではない。

しかし防衛的適応も慢性的な場合は反作用や後遺症を伴い、複雑な症状を呈することがある。

解離性障害は本人にとって堪えられない状況を、離人症のようにそれは自分のことではないと感じたり、あるいは解離性健忘などのようにその時期の感情や記憶を切り離して、それを思い出せなくすることで心のダメージを回避しようとすることから引き起こされる障害である。

が、解離性同一性障害は、その中でもっとも重く、切り離した感情や記憶が成長して、別の人格となって表に現れるものである。

昨夜、雪鷹がパソコンでその事を調べていたのを偶然見てしまい、俺も調べているうちに覚えてしまった知識だ。

恐らく、アヤメは転生前の世界で肉体的にも精神的にも大きなダメージを受け、この障害になったのだろう。

通常では、主人格は切り離した別人格の存在は知り得ない。

だが、アヤメは殺姫の存在を知っていた。

それほど殺姫の存在が表立っていたということだろうか。

「アヤメ、殺姫が怖いか?」

そんなことを考えていると、雪鷹がアヤメに訊ねた。

俺は雪鷹の意図が分からず疑問符を浮かべた。

「・・・・はい、怖いです。いつか殺姫に体乗っ取られるんじゃないかと思ったら、怖くて・・・・」

アヤメの体が小刻みに震え、眼元には薄らと涙が溜まっていた。

理子はアヤメの心情を察し、表情を歪める。

そんな中、雪鷹が口を開いた。

「大丈夫。殺姫はお前の体を奪いはしない」

「え?」

雪鷹の言葉にアヤメは涙声で素っ頓狂な反応をした。

雪鷹は微笑みながら言葉を続けた。

「アイツとのデュエルでわかった事だが、奴に殺意や凶気は確かにあった。しかし、奴の殺意は常に相手だった俺に向いていた。気休めにしかならないかもしれないが、奴はお前を吞み込もうとしてるのではなく、お前を守ろうとしてるんじゃないのか?」

「え?」

雪鷹の言ってる意味が理解できず、アヤメと理子が首を傾げる。

俺は雪鷹のその言葉の意味を理解した。

「俺が独自に調べた結果だが、そういう人格の大抵が精神的に弱い主人格を守るために、攻撃的な言動を執るそうなんだ。まぁ、殺姫みたいな性格は稀にみるケースだけどな」

なるほど、生前で心に傷を負った彼女が、この世界でも同じ目に遭わせないために殺姫は殺気や凶気を振りまいてアヤメを守ってるのか。

不器用な人なりの思いやりということか。

「だから、殺姫の事を嫌わないでやってほしい。好きになってくれとは言わない。ただ、彼女を君の中に居させてほしい。もし、奴が君の体を乗っ取ろうとした時、その時は・・・・・・」

そこで区切る雪鷹。

そして瞑った目をゆっくりと開いた。

それと同時に森の中を一陣の風が駆け抜けていった。

「俺が殺姫を殺す」

吹き抜ける風と共に告げられる雪鷹の言葉に、俺たち3人は固唾を飲んだ。

風に吹かれ葉が宙を舞う。

アヤメは返す言葉を見つける事が出来ず茫然と雪鷹を見ていた。

緊迫した雰囲気が場を支配している。

しかし、その雰囲気は直ぐに打ち壊された。

アヤメの顔が突然トマトの様に真っ赤に染まった。

そして、アヤメはそのまま後ろに倒れ込み、気絶してしまった。

「影光さん!?」

「アヤメ!?」

「影光!?」

倒れたアヤメに駆け寄る俺たち。

side out


side 雪鷹

しまった、少し遣り過ぎた。

俺は自分自身を叱責した。

兎に角、影光を保健室に連れていかないとと思い、俺は影光の体を横抱きに抱きかかえた。

「俺、影光を保健室に連れて行くよ」

「え!? もうすぐ授業始まるぞ?」

俺の言葉に直哉が時計を見ながら言った。

「今日は月一テストの日だ。筆記に出なくても、実技に出れば問題はない。じゃ、頼んだぞ!」

そう言って俺は急いで森を抜け、校舎に向かって走った。

後ろで直哉の呼ぶ声が聞こえる。

しかし、俺は走る脚を止めずそのまま走り去った。

それにしても、影光軽いな。

ちゃんと食べてるんだろうか?

俺は軽い影光の身体の事を心配した。

そんな事を考えているとあっと言う間に保健室に到着した。

俺は勢いよく保健室の扉を(足で)開けた。

「失礼します! 鮎川先生居ますか?」

入口から俺は保健室担当の教師の名を呼んだ。

「どうしました?」

すると、保健室の奥から赤みがかった髪にピンクの服、その上からブルーの教員服を着た女性、鮎川恵美が姿を現した。

「この子が気絶してしまい、連れてきました」

「わかりました。その子をそこに寝かせてください」

「はい」

鮎川先生に促され、俺は影光を保健室のベッドに寝かせた。

「後は私が見ておきますので、貴方は早く教室に戻りなさい」

「しかし、彼女が気絶したのは俺に非があります。出来れば、彼女が目覚めるまでここにいたいのですが・・・・」

「気持ちはわかるけど、今日は月一テストの日よ? 教師として、生徒をテストに出席させる義務があります」

鮎川先生は断固として俺の意見を受け入れてはくれないようだ。

「確かに教師にはその義務はあります。しかし、昇級するかしないかは生徒の自由です。それに、筆記は出ませんが、実技にはちゃんと出ますので、安心してください」

「しかし・・・・」

俺の言葉に鮎川先生は尚も反論しようとする。

「それに加え、俺は今までの授業には殆ど出席していますので、筆記試験だけをサボっても俺の成績には響きません」

その頃場に鮎川先生は口籠る。

そしてようやく許可が下りた。

「・・・・わかりました。今回は特別に許可します」

「ありがとうございます」

折れた鮎川先生より許可を頂き、俺は鮎川先生に感謝し頭を下げる。

困った表情を浮かべたまま鮎川先生は奥のデスクに戻って行った。

鮎川先生が奥に行ったのを確認し、俺は頭を上げ影光が眠っているベッドの隣の椅子に腰を下した。

「さて、上手い事言ったけど、試験終了までどうするかな」

そう言って俺は天井を仰いだ。

看病を口実に筆記テストをパスしたが、それから先の事を俺は全く考えていなかった。

筆記テストの時間は大体45分。

その間、なにもしないで居られるほど俺は大人しくない。

「よくもまぁ、あんな恥ずかしいセリフが言えるね」

そんな事を考えていると、目の前で眠っている影光の口が動いた。

「なんだ、聞いていたのか殺姫」

俺は別段驚く様子を見せず、殺姫に対応した。

俺の言葉に殺姫は閉じていた右側の瞼だけを半分開いて俺の事を見た。

「うん。僕はアヤメと違って、内に居ても外の会話が聞こえるんだよ」

「そうか。なら話が早い。俺があの時言った言葉は、嘘でも冗談でもないぜ? お前が影光を乗っ取ろうとすれば、俺は迷いなくお前を殺す」

俺は殺気を籠めた眼差しを殺姫に向ける。

そんな俺の殺気に、殺姫は両目を見開いた。

そして、鋭い眼差しで俺を睨み返した。

保健室の中、俺たち二人の周りだけがあの時の雰囲気で覆われた。

「殺れるものなら、殺ってみなよ」

口元に笑みを浮かべ悪態をつく殺姫。

そんな殺姫の態度を見て、俺は会ってまだ間もないのに彼女らしいと思えた。

俺はフッと笑みを浮かべた。

「なんてね」

「へ?」

俺の言葉に殺姫は素っ頓狂な声をあげた。

「殺しはしないさ。ただ、影光の体から出て行ってもらうだけさ」

「? 同じ事でしょ?」

俺の言葉の意味が分からず殺姫は首を傾げる。

「いや、全然違う」

そんな殺姫の言葉を俺は否定した。

「何が?」

言っている意味が分からないと、殺姫は額に皺を寄せる。

「殺すっていうのは、殺姫という存在を消し去る事。俺が言っているのは、アヤメと殺姫を分離させるって事」

「!?」

俺の言葉を聞いた殺姫が驚愕の表情を浮かべた。

それもそのはずだ。

この自論は、殺姫の存在を己の身体に住まわせる事を承諾してくれる人物がいなければ成立しない。

しかし、誰が好き好んで凶気と殺意の塊である彼女を受け入れるだろうか?

答えはNOだ。

誰もそんな奴となど一緒にいたいと思わない。

しかし、それは一般人ならばの話だ。

俺の考えは違う。

殺姫は、アヤメを守るために殺意を振りまいていた。

アヤメへ向けられていた恨み、妬み、嫉妬など負の感情を殺姫はその身で全て受け止めていた。

アヤメの身代わりとして。

そう思い俺は一瞬表情を曇らせた。

未だに驚愕の表情を浮かべたまま固まっている殺姫は、ハッと我に返った。

「そんな絵空事、出来るわけないよ」

殺姫はそう言って俺から顔を背けた。

そんな時だった。

《出来るよ?》

突然、空中から声がした。

俺たちは声のした方に視線を向けた。

すると、空中に光の球体が現れた。

その球体は徐々に形を成して行き、光が散布すると、人の形を成した半透明の者がこちらを見て笑っていた。

その姿は、ブロンドの髪に猫の様な鋭い瞳。

犬歯が光を反射しギラリと輝く。

そして、人のものではない下半身がとぐろを巻いていた。

その姿は、神話に登場する魔物であり、俺が好んでいたモンスター。

レプティレス・ナージャの精霊だった。

「ナージャ・・・・本当なの?」 

ナージャの言葉に殺姫の瞳が揺らぐ。

そんな殺姫にナージャは無言で頷いて見せた。

《この世界じゃ無理だけど、精霊界に行けば、殺姫という存在をアヤメの中から別の対象の体へと移し替えることができるわ》

「そう、ナージャの言う通り。精霊界に行けば、お前をアヤメの体から俺の体に移し替える事ができる」

そう言った瞬間、殺姫は怪訝な表情を浮かべた。

「今の・・・・どういう意味?」

「ん? だから、お前の存在をアヤメの中から、俺の中に移し替えるんだよ」

そう言うと殺気は目を見開いた。

傍らで見ているナージャも驚いている様子だった。

そして殺姫は鋭い眼差しで俺を睨みつけた。

「自分が言っている事理解している?」

そんな彼女の眼差しにも俺は動じることなく頷いた。

「あぁ、理解しているよ」

張り詰める空気の中、楽天的な言葉を述べる俺に、殺姫は痺れを切らしたように横たわっている自分の身体を起こし俺の胸倉を鷲掴みにした。

「ふざけないでよ」

殺気の籠った視線で俺を睨む殺姫。

視線だけで人が殺せるのなら、この視線に何人の人間が犠牲になるのだろうか。

女の子に胸倉を掴まれている状況下で、俺は心の中でふざけた事を考えていた。

「ふざけてなんかないさ。俺は本気だ」

そう言って俺は殺姫の瞳を見つめた。

髪の色と同じ漆黒の瞳。

その瞳の奥で妖しく蠢いている深紅の光。

この瞳は今まで色々な物を映して来たんだな。

嫉妬、妬み、恨み、恐怖、迫害、苦痛、それらの感情が彼女の瞳に浮かび上がる。

彼女が今まで受けてきた事だと思うと、俺は彼女を憐れむような感情を抱いた。

しかし、そんな感情を抱く半面、俺はそんな彼女に魅了されていた。

そう思うと、未だに睨みつけてくる彼女の表情がなんだか可愛く見えてしまい、俺は失笑した。

「フフッ」

突然の俺の笑いに彼女は怪訝な表情を浮かべ、さらに睨みを鋭くさせた。

「悪い、気を悪くしないでくれ。ちょっと思い出し笑いをね」

そう言って俺は殺姫に笑って見せた。

そんな悪ぶれていない俺の態度に、殺姫の眼差しがさらに鋭くなる。

傍から見れば彼女の表情は鬼神なのだろうが、俺の目にはそんな彼女さへ幼子に見えてしまった。

「もう一度言うけど、自分が言っている意味分かっている? 私みたいな厄介者を内に宿すって事は、私の凶気をその身に宿すってことだよ?」

その覚悟があるのかと言いたげな眼差しで、殺姫は俺を睨みつけた。

「今さらだよ。女子寮で見ただろ? 俺の“凶気”」

そう言って俺は殺気を殺姫に向けて放った。

常人ならこの殺気に身震いを起こすだろう。

しかし、そこは殺姫だ。

その殺気に口元を歪め笑みを浮かべている。

「それもそうだね。あの時の君の殺気、とても心地良かったからね。君になら、この身を任せる事が出来そうだよ」

そう言って殺姫の眼差しが鋭いものから優しいものに変わった。

起こしていた身体をベッドに沈め、瞼をゆっくりと閉じる。

その姿勢はまるで自分の存在が消える事が決定しているかのようだった。

ナージャもそんな殺姫を悲しそうな表情で見ていた。

この2人は先走り過ぎている。

「まぁ、お前がアヤメの身体を奪おうとする事は普通に考えてありえないから、この案は保留ということだね」

「え?」

《え?》

不意に言った俺の言葉に、2人は素っ頓狂な声を上げた。

「だって、殺姫がアヤメの身体を奪おうとしたわけじゃないんだから、殺姫の存在を移し替える必要はないだろ?」

「それは、そうだけど・・・・」

「それに、俺は信じてるからな」

「え?」

俺の零した言葉に殺姫は目を見開いた。

「俺はお前がアヤメの身体を奪わないと信じているからな」

そう言って俺は微笑んだ。

そんな俺の表情を見て殺姫は見開いていた目をさらに大きく開かせた。

その表情はまるで絶望の淵に立たされた状況で、自分を救うために天より舞い降りた天使を見たような、希望を得た人間のような表情だった。

「それに、俺はお前が気にいっているんだ。もしお前がアヤメの身体を奪おうとしても、俺はお前の事を喜んで受け入れるつもりだ」

その言葉に、希望に満ちていた殺姫の顔が夕日に照らされたように赤く染まっていた。

性格に似合わず照れている。

今日は殺姫の事が沢山知れてよかった。

そう思い俺は心の中で微笑んだ。

「フ、フン! 後悔しても知らないんだからね!」

そう言って殺姫は意識を精神の奥底に引っ込めた。

殺姫が主導を離れたことで、その身体は静かに眠りに着いた。

そんな彼女を俺は微笑みながら見送った。

《貴方も大変ね》

腕組をして呆れた表情をするナージャはそう言った。

「そうでもないさ」

そんなナージャに俺は苦笑いを浮かべ返答した。

《それにしても、殺姫が照れてる所、始めてみたわ》

眠る身体を見下ろしながら、ナージャが驚いたように呟いた。

それは俺も同感だった。

俺の“あの”性格と彼女の性格は殆どが似ている。

俺の性格で考えれば、俺はさっき彼女がしたような顔は出来ない。

だからだろうか。

彼女の事が無性に羨ましく思える。

俺が失った顔を持つ彼女が、とても・・・・・・。

そう思い、俺の表情が影を帯びた。

《ねぇ、貴方のデッキにも精霊が居るんでしょ? 会わせてよ》

今の俺の心情を知る由もないナージャが無邪気に訊ねてきた。

俺は表情から影を消し去り、笑顔でナージャに答えた。

「ごめんな、今は無理なんだ。でも、近いうちに会わせてあげるよ」

《え~、うぅ~、わかった》

俺の言葉に目に見えて落胆するナージャだが、直ぐに聞き分けてくれた。

そんなナージャの頭を俺は撫でた。

水の様に透き通る身体。

その感触の無い頭の撫でると、ナージャは擽ったそうに笑った。

《じゃ、アタシも消えるね? じゃあねぇ~》

そう言ってナージャは空中からその姿を消した。

俺の周りに沈黙が戻った。

しかし、困った状態だ。

PADの時計を見ると、実技試験までかなり時間がある。

どうやって時間を潰そう。

実技試験までの時間、どう過ごすか俺は悩んだ。

すると、俺の頭にある事が浮かび上がった。

それは、俺が常備している本の存在だった。

俺は空いた時間、暇にならないように本と音楽プレーヤーを常に持ち歩いている。

その事を思い出した俺は、ポケットから一冊の本を取り出した。

本屋のブックカバーで覆われた表紙を開き、俺は文字の羅列に目を落とした。

side out



side 三人称

雪鷹が本を読み進めてから早四十分が経った。

「うっ」

小さな唸り声を上げアヤメが目を覚ました。

「ここは・・・・」

見知らぬ天井を、アヤメはぼんやりと見上げた。

ペラッ

不意に自分の顔の真横から紙を捲る音が聞こえた。

ゆっくりとした動作でそちらに目を向けると、自分が横になっているベッドのすぐ近くの椅子に座って静かに本を読み進めている雪鷹の姿が目に入った。

「雪鷹、さん?」

信じられない物でも見たような衝撃に襲われ、アヤメは思わず雪鷹の名を呟いた。

その声に、雪鷹は呼んでいた本から目線を外し、アヤメの方を見た。

「ん? あぁ、目が覚めたか?」

雪鷹の言葉にアヤメはぎこちなく頷いた。

読んでいた本を閉じ、ポケットから取り出したPADの時計に目を向ける雪鷹。

「そろそろ、実技試験の時間だな」

「え!?」

雪鷹の言葉にアヤメは勢いよくベッドから飛び起きた。

「あら? 目が覚めたのね。それだけの元気があればもう大丈夫ね」

そう言ってにこやかに微笑む鮎川先生。

「雪鷹君に感謝するのよ? 貴方が起きるまでずっと看病していたんだから」

「え?」

鮎川先生の言葉に、アヤメの身体が硬直した。

筆記試験を抜け、雪鷹は自分の傍に付き添ってくれていた。

そんな事を考えると、アヤメの顔が再び赤く染まって行った。

体が慣れたのか、再び気絶する事は無かった。

「ッ!!」

紅くなった顔を隠すように布団に顔を埋めるアヤメ。

「あらあら♪」

そんなアヤメの様子を見て、鮎川先生は楽しそうに微笑んだ。

「・・・・それじゃ、鮎川先生。俺はそろそろ実技試験を受けに行ってきます」

そんな事を無視して雪鷹は鮎川先生に頭を下げ、保健室を出て行った。

「あ! ま、待ってください!!」

アヤメは保健室を出て行った雪鷹の背を追ってベッドから飛び降り保健室を勢いよく出て行こうとした。

しかし、寸前で足を止め、鮎川先生に頭を下げてから保健室を出て行った。





「フェザーマンでダイレクトアタック!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

十代と万丈目のデュエルが丁度終わった時に会場に入って来た雪鷹とアヤメ。

他のフィールドでも―――。

「Zeroでダイレクトアタック!! 瞬間凍結(freezing at moment)!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「サイバー・ブレイダーでダイレクトアタック!! グリッサード・スラッシュ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「ジャンク・ウォリアーでダイレクトアタック!! スクラップ・フィスト!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

直哉、明日香、理子の三人も試験相手に勝った様だ。

雪鷹はそう心の中で呟いた。

「残るは、俺とアヤメのデュエルか・・・・」

《ラーイエロー、相原雪鷹君!! 1番フィールドに上がってください!!》

《オベリスクブルー、影光アヤメさん!! 3番フィールドへ上がってください!!》

アナウンスが二人の名を呼ぶ。

「俺たちの番だな」

「そ、そうですね」

「じゃ、俺はこっちだからまた後で」

「はい!!」

そう言って二人はそれぞれ決められたデュエルフィールドに向かって行った。

side out



side 雪鷹

「ん?」

デュエルフィールドに着いた俺は、先にフィールドに付いていた対戦相手の姿を見て目を見開いた。

「何故、お前がいる。“雪乃”」

俺の目の前には桃色のツインテールが特徴のアカデミアの女帝、藤原雪乃が腕を上品に組んで立っていた。

「私がクロノス教諭に言って貴方と当てさせて貰ったの」

「なんでそんな事・・・・とは言わない。どうせ、あの事だろ?」

そう言って俺の中で万丈目と取り巻き二人のデュエルが走馬灯のように流れる。

「察しが良いわね。流石だわ。そうよ、その通りよ」

そう言って雪乃はディスクを展開する。

あの時の俺の発言が原因か・・・・・・。

俺には勝てない。

面倒な事を引き起こす原因を作った過去の俺を今すぐ殴りたい衝動に俺は駆られた。

しかし、そう思っても後の祭り。

覚悟を決め俺はディスクを展開した。


「「デュエル!!」」


俺 LP4000

手札 5枚

場 無し


雪乃 LP4000

手札 5枚

場 無し


ターンランプが雪乃のデュエルディスクに灯った。

「フフフッ、楽しませてよね? 坊や。私のターン、ドロー!」

デッキから勢いよくカードを引く雪乃。

「私は、《マンジュ・ゴッド》を攻撃表示で召喚!!」

雪乃はそう言ってカードをディスクに叩きつけるようにセットした。

すると光と共に、銀色に輝く万の腕を持つ赤い瞳を持つ仏、マンジュ・ゴッドが雄叫びを上げながら現れた。




効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1400/守1000
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分のデッキから儀式モンスターまたは
儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。




「マンジュ・ゴッドの効果発動!! デッキから儀式モンスターもしくは儀式魔法カードを手札に加える! 私は、エンド・オブ・ザ・ワールドを手札に加えるわ。そして、カードを一枚セットしてターンエンドよ。さぁ、坊やのターンよ?」



雪乃 LP4000

手札5枚

場 モンスター マンジュ・ゴット
魔法・罠 セット1



雪乃が安い挑発をしてくる。

しかし、そんな挑発に乗る程、俺は愚かではない。

「俺のターン、ドロー! 俺は、魔法カード、《テラ・フォーミング》を発動!! デッキからフィールド魔法を手札に加える! 俺はフューチャー・ヴィジョンを手札に加える!」

「フューチャー・ヴィジョン? 聞いた事のないカードね・・・・」

聞き覚えのないカード名に雪乃は首を傾げた。

「そして、俺は手札に加えた《フューチャー・ヴィジョン》を発動!!」

俺がディスクにカードをセットすると、会場を包み込む宇宙空間が現れた。

そして、その空間を漂う海、山、森、火山、雪山等の景色が映ったガラス板のような物体。

「そして俺は手札から《フォーチュンレディ・ライティー》を攻撃表示で召喚!!」

俺の場に現れたのは、露出度の高い黄色の衣服に身を包み、刃の付いた杖を手にしたスレンダーな女性型モンスター、フォーチュンレディ・ライティー。




フォーチュンレディ・ライティー
効果モンスター
星1/光属性/魔法使い族/攻 ?/守 ?
このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×200ポイントになる。
また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。
このカードがカードの効果によってフィールド上から離れた時、
デッキから「フォーチュンレディ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。




「この瞬間! フューチャー・ヴィジョンの効果発動! 通常召喚されたモンスターをゲームから除外する!」

「なんですって!?」

俺の言葉に雪乃は驚愕した。

それもそうだ。

せっかく召喚したモンスターを自ら除外するなど、ただのプレイングミスだ。

そしてライティーは、空間を漂っていた風景に吸い込まれフィールドから姿を消した。

俺のプレイングに会場がざわめく。

わざわざ召喚したモンスターを除外した事を馬鹿にする者や、プレイングセンスが未熟だと指摘する者たちの声が俺の耳に入る。

そんな言葉を言った奴らを俺は嘲笑うように笑った。

除外したことに意味がある事を証明してやるよ。

「そして、フィールドを離れた事でライティーの効果発動する! このカードがカード効果によってフィールドを離れた時、デッキからこのカード以外のフォーチュンレディと名のついたモンスターを特殊召喚する! 俺は、《フォーチュンレディ・ダルキー》を攻撃表示で召喚!!」

俺のフィールドに今度は黒みがかった紫の衣服を着た魔女、ダルキーが姿を現した。




フォーチュンレディ・ダルキー
効果モンスター
星5/闇属性/魔法使い族/攻 ?/守 ?
このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×400ポイントになる。
また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分フィールド上の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスターが
戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
自分の墓地の「フォーチュンレディ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。




「・・・・ねぇ、さっきのモンスターもそうだったけど、そのモンスターたちの攻撃力が決まって無いのは何故?」

ライティーとダルキーの攻守が不確定なのを不審に思った雪乃が俺に訊ねた。

いい所に気がついたと、俺は雪乃の着眼点に感心した。

「フォーチュンレディと名のつくモンスターの攻撃力は、そのモンスター自身のレベルの数によって攻撃力が決まる。ダルキーの場合レベルの数×400ポイントがダルキーの攻撃力となる」

「ダルキーのレベルは5・・・・・・という事は!?」

俺の解説を聞いて結論に至った雪乃は目を見開いた。

その様に俺はニヤリと口元に笑みを浮かべた。

「その通り! ダルキーの攻撃力は2000! バトル! ダルキーでマンジュ・ゴッドに攻撃!! ダークネス・マジック!!」

ダルキーは杖を両手で横に持ち、瞼を閉じ詠唱を唱え始めた。

すると、ダルキーの周りに文字が渦を巻きながら現れた。

それと同時に杖の先端に付いている紫色の結晶が黒紫色に輝き始めた。

詠唱を言い終えたダルキーは、杖の先端をマンジュ・ゴッドに向けた。

すると、先端の結晶から黒紫の炎が蛇のようにうねりながら飛び出し、マンジュ・ゴッドを視界に捉えると、咆哮を轟かせながら銀色の身体に食らいつこうとした。

「この瞬間! 罠(トラップ)発動《攻撃の無力化》!! 相手モンスターの攻撃を無効にしてバトルフェイズを終了させる!」

マンジュ・ゴッドに届こうとしていた黒紫炎蛇の牙は時空の歪みに阻まれた。

「チッ! なら俺はカードをセットしターン終了」



俺 LP4000

手札3枚

場 モンスター 《フォーチュンレディ・ダルキー》
魔法・罠 《フューチャー・ヴィジョン》《セット1》



「私のターン、ドロー!! 私は、手札から魔法カード《天使の施し》を発動!! デッキからカードを3枚ドローし、その後手札を2枚捨てる」

出たか禁止カード。

俺は心の中で忌々しげに呟いた。

「そして、私は手札から魔法カード発動! 《エンド・オブ・ザ・ワールド》!! 手札の《甲虫装甲騎士(インセクト・ナイト)》2体を墓地に送り、手札から《終焉の王デミス》を召喚するわ!!」

フィールドを包み込むかのように青白い炎が走る。

そして轟音を轟かせ、大地を裂き、雪乃のフィールドに終焉を齎す王、デミスがその姿を現した。



終焉の王デミス
儀式・効果モンスター
星8/闇属性/悪魔族/攻2400/守2000
「エンド・オブ・ザ・ワールド」により降臨。
フィールドか手札から、レベルの合計が8になるよう
カードを生け贄に捧げなければならない。
2000ライフポイントを払う事で、
このカードを除くフィールド上のカードを全て破壊する。




威圧感のある風貌に、会場が息をのむ。

その禍々しい巨体を俺は鋭く睨みつけた。

「デミスの効果発動! ライフを2000払い、デミスを除くフィールド上のカードを全て破壊する!」


LP4000→2000


雪乃は高らかに叫ぶ。

その声にデミスは右手を天に掲げる。

暗雲が俺たちの真上で渦巻き、雲の中で紫雷が蠢く。

渦巻く闇にマンジュ・ゴットとダルキーの表情が歪む。

そんな暗雲が濁流の様に暴れ出し、フィールド上に存在する全てのものを飲み込み消し去って行った。

暗雲に呑まれ、フューチャー・ヴィジョンが消え去り、試験を行っているデュエル会場が再び現れた。

消え去る2体モンスターの悲痛な叫びを爆音が掻き消さった。

「チッ!!」

爆風が俺たち2人に襲い来る。

「まだよ! 私は墓地の《甲虫装甲騎士》2体をゲームから除外し、最後の手札! 《デビル・ドーザー》を召喚!!」

爆煙を振り払い、彼女は叫んだ。

すると、フィールドが再び大きく震えだした。

大地を鳴動させ、耳障りな金切り声がフィールドに木霊する。

大地に切れ目が走る。

その下から、何かが這い上るような、生き物が蠢く音が聞こえる。

そして、光の元、巨大な蜈蚣のモンスター《デビル・ドーザー》がその姿を現した。




効果モンスター
星8/地属性/昆虫族/攻2800/守2600
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地の昆虫族モンスター2体を
ゲームから除外した場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、
相手のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。




デビル・ドーザーはフィールドに出た事を喜ぶように歯軋りする。

デミスは俺の場のがら空きを見てご満悦といったような表情で嘲笑った。

目の前に立ちはだかる2体の巨体。

そして、俺のフィールドはがら空き。

俺の額に汗が滲む。

「行くわよ? デミスでダイレクトアタック!! 終焉の波動、バッドエンド!!」

妖艶な笑みを浮かべ、雪乃は俺を指差した。

デミスは手に持つ大きな死刑用の大斧を横薙ぎに振り払う。

振り払われた大斧から暗黒の波動が放たれ、その波動はまるで剣の様に横薙ぎの状態で俺に向かってきた。

「グァァァ!!」

波動の斬撃を受け、俺は悲鳴を上げた。


俺 LP4000⇒1600


俺の場はがら空き。

雪乃の場にはまだ攻撃できるデビル・ドーザーがいる。

奴の攻撃が決まれば俺は負ける。

観客席から十代たちの焦った歓声が耳に入る。

俺は、まだ負けたわけじゃないぜ。

「この瞬間! 手札より《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚する!」

「なんですって!?」

俺の背後から黒い霧がフィールドに漂い出す。

霧は嘲笑うかのように雪乃の周りを漂う。

霧は徐々に形を成し、俺の場に黒衣を纏い、黒の大剣を担いだ冥府の使者が姿を現した。




冥府の使者ゴーズ
効果モンスター(制限カード)
星7/闇属性/悪魔族/攻2700/守2500
自分フィールド上にカードが存在しない場合、
相手がコントロールするカードによってダメージを受けた時、
このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この方法で特殊召喚に成功した時、受けたダメージの種類により以下の効果を発動する。
●戦闘ダメージの場合、自分フィールド上に「冥府の使者カイエントークン」
(天使族・光・星7・攻/守?)を1体特殊召喚する。
このトークンの攻撃力・守備力は、この時受けた戦闘ダメージと同じ数値になる。
●カードの効果によるダメージの場合、
受けたダメージと同じダメージを相手ライフに与える。




ゴーズの登場に会場がざわめく。

それもそのはず。

この世界では、ゴーズはデュエルキング、武藤遊戯しか持っていないと言われている超レアカード。

それを俺が当たり前のように召喚したのだから、ざわめくのは仕方がないことだ。

「ゴーズは自分フィールド上にカードが存在しない時、相手のコントロールするカードによってダメージを受けた時、手札から特殊召喚する事が出来る! そして、その受けたダメージが戦闘でダメージの場合、自分の場に《カイエントークン》1体を特殊召喚する! 現れろ! カイエン!!」

俺の叫びでフィールドに再び霧が漂い出す。

その霧もゴーズ同様に形を成して行く。

形を成した霧は、黒紫の鎧を身に付けた美しい女性へと姿を変え、ゴーズの傍らに佇んだ。

「クッ! ゴーズの登場には驚いたけど、私の有利に変わりはないわ! 確か、カイエントークンは受けたダメージが攻撃力となるはず。なら、デビル・ドーザーでカイエントークンにアタック!」

デビル・ドーザーが咆哮を轟かせる。

虫らしい嫌な音が俺の耳に木霊する。

デビル・ドーザーはその巨体をくねらせ、鋭利な牙が並ぶ口を開け、カイエンへと突っ込んで行った。

《あぁぁぁぁぁ!!》

「クッ!」


俺 LP1600→1200


カイエンの悲痛な叫びが轟く。

カイエンの散りゆく様を傍で目撃したゴーズの表情に怒りの色が浮かんだように見えたが、気のせいだろうか。

「この瞬間、デビル・ドーザーの効果発動! このモンスターが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えた時、相手のデッキの上からカードを1枚墓地に送る! さぁ、捨ててもらいましょうか?」

そう言って雪乃は余裕の笑みを浮かべた。

俺は表情を微かに歪め、渋々デッキトップに置いてあるカード1枚を墓地に送った。

「私はこのままターンエンド。どう? 坊や。これが私の切り札(デミス・ドーザー)よ。この2体に勝てるかしら?」



雪乃 LP2000

手札2枚

場 モンスター 《終焉の王デミス》《デビル・ドーザー》
魔法・罠 無し



勝ち誇った表情で雪乃は俺に言い放った。

その挑発に、俺は柄にも無く熱くなった。

「嗚呼、勝てるさ。俺のターン! ドロー!!」

俺の言葉に雪乃は怪訝な表情を浮かべ、鋭い目つきで俺を睨みつけきた。

「俺は、魔法カード《フォーチュンフューチャー》を発動! ゲームから除外されている自分のフォーチュンレディと名のついたモンスター1体を墓地に戻す。そして、デッキからカードを2枚ドローする!」

俺はゲームから除外されていたライティーのカードをポケットから取り出し、墓地に送った。

「さらに、俺は魔法カード《成金ゴブリン》を発動! このカードは、相手のライフポイントを1000回復させ、自分はカードを1枚ドローする! そして俺は再び《フューチャー・ヴィジョン》を発動!」


雪乃 LP2000→3000


俺はデッキからカードを1枚ドローする

それと引き換えに、雪乃のライフが1000ポイント回復する。

そして、俺たちを再び宇宙空間が包み込んだ。

フューチャー・ヴィジョンの再来に雪乃の表情が曇る。

「そして、俺は“ライティー”を召喚!」

「なっ!?」

俺の場に、再びライティーが現れた。

ライティーの登場に、展開を理解した雪乃が目を見開いた。

「フューチャー・ヴィジョンの効果発動! 召喚されたライティーをゲームから除外する! そしてフィールドを離れたライティーの効果発動! デッキからフォーチュンレディを特殊召喚する! 俺は《フォーチュンレディ・ファイリー》を召喚する!」

空中を漂うガラス板から赤い閃光が弾丸のように飛び出してきた。

赤い閃光は空中を颯爽と駆けて行き、稲妻のように俺の場に舞い降りた

赤い光が振り払われ、閃光の下から赤い瞳に赤い髪、そしてライティー同様の赤い衣に身を包み、刃のついた杖をその手に携え、鋭い眼差しで雪乃を睨みつける赤い魔女がその姿を現した。




フォーチュンレディ・ファイリー
効果モンスター
星2/炎属性/魔法使い族/攻 ?/守 ?
このカードの攻撃力・守備力は、このカードのレベル×200ポイントになる。
また、自分のスタンバイフェイズ時、このカードのレベルを1つ上げる(最大レベル12まで)。
このカードが「フォーチュンレディ」と名のついた
カードの効果によって表側攻撃表示で特殊召喚に成功した時、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊し、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。




「レベル2・・・・。攻撃力は対したことないわね」

雪乃はファイリーのレベルを見て、鼻で笑い貶した。

貶されたファイリーは睨む眼差しを更に鋭くさせ雪乃を睨みつけた。

大丈夫、ファイリーは強いよ。

そう心の中で俺は呟いた。

「ファイリーの効果発動!! フォーチュンレディの効果でファイリーが特殊召喚された時、相手モンスター1体を破壊する!!」

「なんですって!?」

俺の言葉に雪乃は驚愕した。

そんな雪乃を余所に、ファイリーはその手に持つ杖を天に掲げる。

大地から渦巻くように上る紅蓮の炎は、ファイリーの周りを螺旋する。

螺旋する炎は杖の結晶に集まり、炎が集まった結晶は赤く光輝きだす。

その瞬間、ファイリーは掲げていた杖をデビル・ドーザーに向け、ダルキーと同じように杖から飛び出した紅炎の蛇、いや、紅炎の龍がその牙でデビル・ドーザーに食らいつき爆発して行った。

その爆風が俺たちを襲う。

「さらに! この効果で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!!」

襲い来る爆風を振り払い、俺はビシッと人差し指で雪乃を指した。

「え!? きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

俺の言葉に呆気にとられた雪乃に、飛び散った火の子が雪乃に襲い掛かった。


雪乃 LP3000⇒200


忌々しい虫が消え去り、ゴーズは不意に笑みを浮かべる。

デビル・ドーザーの破壊に、雪乃は目を見開き俺の場を見た。

そう、俺はまだ戦闘を行っていない。

破壊とダメージはファイリーの効果によるもの。

ファイリーも不敵に笑うゴーズも、未だ攻撃の権限を所持している。

彼女の場には終焉の王がたった一人孤独に雪乃の前に佇んでいる。

デミスの攻撃力は2400。

ファイリーの攻撃力は現在400。

とてもじゃないがファイリーでは敵わない。

しかし、俺の場にはゴーズがいる。

ゴーズの攻撃力は2700。

デミスとの攻撃力の差は300。

そして、雪乃のライフポイントは残り200。

その現状に俺はニヤリと不気味に微笑んだ。

結末を理解した雪乃は、潔く目を閉じ、自分の敗北をただ待った。

その姿勢に俺は敬意を払おう。

「バトル! ゴーズでデミスを攻撃! 冥界へ誘え、獄冥斬!!」

ゴーズは漸くと言わんばかりにその場から飛び上がり、終焉の王へと向かって刃を振り下ろしながら落下していった。

それを迎え撃とうとデミスは大斧を勢いよくゴーズに向かって斬りかかった。

ギン!!!!

刃と刃がぶつかり、激しい衝撃がフィールドを駆け抜けた。

バチバチと刃同士が火花を上げる。

しかし、やはりパワーに差があり過ぎる。

デミスの斧に罅が走った。

その罅を合図にゴーズは勢いよく斧ごとデミスの身体を切り裂いた。

《ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!》

孤高の王が悲痛な叫びを上げ大地にその巨体を伏せる。

終焉を齎す終焉の王も、冥府よりの使者には勝てなかったようだ。

無念と言いたげな眼差しがゴーズを見つめる。

ゴーズはそんなデミスを余所に、俺の元へと戻ってきた。

大地に伏せるデミスは、光となってその姿はフィールドから消え去っていった。

「私の負けね・・・・・・」


雪乃 LP200⇒0


「そこまでナノ~ネ!! 勝者! シニョール相原ナノ~ネ!!」

クロノスの言葉に会場が一気に湧きたち会場内に歓声が轟く。

ソリッドヴィジョンが消えると、雪乃は俺の下へと歩みよって来た。

「とても良いデュエルだったわ」

そう言って俺は雪乃に右手を差し出し握手を求めてきた。

「嗚呼、此方こそ良いデュエルだった」

そう言って俺は雪乃の握手に応え右手を掴んだ。

会場から拍手喝采が俺たち2人に送られた。

「結局、貴方の言う通り私は勝てなかったわね」

フィールドを降りながら雪乃が呟いた。

「嗚呼、でも、お前なら直ぐ強くなれるさ」

雪乃には才能がある。

俺たちの世界なら、まず大会の優勝候補に入るだろうな。

「フフッ、貴方にそう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとう、“雪鷹”」

「どういたしまし・・・・て?」

俺の言葉に雪乃は微笑む。

そんな雪乃の言葉に俺は引っかかりを覚えた。

そんな事を思っていると雪乃が俺の制服のポケットからPDAを取り出し、何かを打ちこみ始めた。

「おい」

俺が呼びかけると雪乃は振り向くと同時に俺にPDAを返した。

そのまま雪乃は会場を去って行った。

訳も分からないまま俺も会場を後にした。

その時、ポケットに仕舞おうとした時、手にしていたPDAにメールが届いた。

まさか。

嫌な予感が頭を過りながらも届いたメールを開くと案の定、差出人は“雪乃”だった。

予感的が的中した。

額に汗を浮かべながら、俺はメールの内容に目を通した。

from雪乃

件名 雪鷹へ

私のアドレスを登録しておいたわ。

今回は私の負けだったけど、次にデュエルする時は、必ず貴方に勝って見せるわ!

P.S.名前の事は私に勝ったご褒美に特別に呼んであ・げ・る。チュ

で、あった。

PADをポケットにしまいながら、俺はふと思った。

俺と雪乃は何処かと似ている所がある。

相手の端末を奪い、自分のアドレスを登録する。

登録し終わると端末を相手に返し、離れた所からメールを送る。

思い返すと本当に似ていると実感してしまう。

「ハァ」

既にフィールドから去った雪乃を思いながら俺は深く溜息を吐いた。

《雪鷹、どうかしたか?》

溜息を吐く俺に話しかけてきたのは黒紫色の服を着た半透明の女性。

「ん? ダルキーか。なんでも無い。そろそろ行くか」

こいつは俺の精霊の一体、フォーチュンレディ・ダルキーだ。

言葉づかいは悪いが、根はやさしい奴だ。

《そう言えば、ナージャが私たちに会いたいって言っていたけど、いつ会わせてくれるんだ?》

歩みを続ける俺に空中を漂いながらダルキーは訊ねてくる。

「その内に会わせるさ。そろそろ姿を消せ、十代に見つかると厄介だ」

《あぁ、わかった。また後でな》

そういってダルキーは姿を消した。 

その後すぐに直哉たちと合流し、無事十代に精霊の存在を知られずに済んだ。

因みに俺のデュエルが終わったすぐ後にアヤメのデュエルも終了し、俺達全員実技に勝って今日という日は過ぎていった。


To be continued
 
 

 
後書き
いかがでしたか?

友人から勝利の仕方がないとダメ出しを食らいました。

でも、自分的にはこんな勝ち方もありではと思います。

読者の方々の意見も聞きたいので、感想などをいただけたら幸いです。 
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