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宝石物語╋煌めく白と黒のコントラスト╋

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第1章
  第1話 とどのつまり

《精霊浄化師》────。

誰にでも知られている訳ではないその名称は、不思議な力を持つ者たちの呼称だ。彼らの仕事は、《石》にまつわる不可解な現象や事件を解決すること。それは時に道端の石ころであったり、宝石であったりと形は様々だが、《石》というくくりに当てはめるとどれも該当するものばかり。






扉に掛けられたベルが、来客を意味する鈴の音を響かせた。

「ようこそ、宝石店《ミストラル》へ」












「ふぁ……」

いつにも増して間抜けなあくびが自分の口から出ると、真っ先に反応するのは人をからかうのが大好きなラウだ。

「おーおー、女とは思えねぇアホ面だな、マスター?そんなんだから客が来ねぇんだよ」
「いつもいつも悪態をご苦労さま。突っかかるほど子どもじゃないんでね、私は」

私の店は、店内の中央に丸テーブルと椅子を置き、それを囲むように壁際に宝石や指輪、ネックレスの類が展示されている。四つある椅子のうち三つは占領されており、ラウはその一つに腰かけていた。

「ラウも飽きないね。いくら噛み付いてもマスターが折れないことはもう身に染みただろ?」

向かいに座っていたアズリが口を開く。ラウとは正反対、いつも冷静で人柄も良い彼は私たちの頭脳だ。

「それでも子どもっぽい悪戯を続けるのがラウですから」

唯一、椅子に座らず店内を掃除していたナフサが箒で床をはきながら、おっとりしている敬語でボソッと言った。

「お前らマスターの味方すぎんだろ〜……たまには一緒にふざけようぜ」
「嫌だね」
「嫌ですよ」

この三人は黙るということを知らないらしい。暇さえあれば喋りだす彼らを見ていて飽きはしないし、むしろ微笑ましいが………あまり喜べないのが現状だ。

とどのつまり、彼らは人間ではない。全員、宝石に宿る精霊を私の力で擬人化させているのだ。

ラウ・ナ・ルベウス───我が家に伝わる三大宝石の一つ、ルビーに宿る精霊。180センチある身長は戦闘の際に引きつけ役に適している。ツンツンと逆立った赤髪が目立つが、それはルビー所以なのだろう。

アズリ・ラ・コランダム───我が家に伝わる三大宝石の一つ、サファイアに宿る精霊。こちらも同じく180センチあるが、その頭脳ゆえ戦闘の際は作戦立案などの指揮役を買ってくれている。

ナフサ・ア・ベリル───我が家に伝わる三大宝石の一つ、エメラルドに宿る精霊。他二人に比べ170センチと小さいほうだが、いつも自分を乱さず冷静なのでピンチの時にはバックアップを入れてくれる。

古ぼけた新聞を読みながら三人の戯言に耳を傾けていると、不意に入り口の扉が開いた。取り付けられたベルがちりんと軽やかな音を響かせ来客を知らせる。途端、三人は口を噤(つぐ)み、店の奥へと引っ込んだ。私も新聞を置きながら立ち上がり、相手を向かいの椅子へと促す。

「ようこそ、宝石店《ミストラル》へ」
「……あ、えと、どうも」

店に入ってきたのは20代後半といった男性だった。

「商品をお求めでしょうか?………それとも《ご依頼》で?」
「…!………依頼、です」
「分かりました。とりあえずお座りください」

依頼、となると噂を聞いてやって来た初心者だろう。これは一から説明しなければなるまい。相手方が座り、私も腰を下ろしたところでナフサがお茶を出してくれた。二人分の紅茶が乗ったお盆を抱え、ティーカップを机に置くとすぐさま奥へ戻って行った。

「依頼のことはごく少数の情報屋しか知らないので、貴方にはこれからお話しなければならないことがあるのですが、お時間は大丈夫ですか?」
「はい。……そうなると聞かされていたので予定は空けてきました」
「ちなみにどの情報屋をご利用になりました?」
「えーと、……確か《リーフレット》と名乗る少女に……」
「なるほど」

くっそあのガキか。こりゃ紹介料取られるな……。

「ではまず自己紹介から。私は第16代《戦闘精霊浄化師》リルマムリラ・フィネローザクトと申します。主に悪霊と化した石に宿る精霊たちを戦闘によって浄化・還元することを業(ぎょう)としています。貴方の名前も伺っても?」

もはや慣れてしまった台詞をゆったりと並べ、乾いた微笑みを客に向けた。男は少しドギマギしつつも口を開いた。

「ガムラザル通りで宝石屋をやっています。ビアージ・オルガムと言います」

ガムラザル通りと言えばここからそう遠くはない商店街のことだ。月に一度、朝市などが開かれ旅商人も多いので賑やかさで言えばここら一帯で最上位だろう。宝石屋、という単語にいささか引っかかりはしたが、それは頭の隅に追いやり一つ頷いておいた。

「依頼とは、石関連で何かあったのでしょう?」
「はい……。実は、数ヶ月ほど前から身の回りで変なことが起き始めて……」
「具代的に」
「店番をやっているとき、視線を感じて振り返るんですけど、当然誰も居なくて、並べられた宝石が……まるで監視するみたいに妖しく輝きながらこっちを見てるんです。見てるって言ってもそう感じるだけなんですけど………」

男は他にも怪奇らしいことをつらつらと挙げていった。
やれ、誰も居ないはずの店から声がする。
やれ、店の商品の配置が変わっている。
やれ、これは呪いだー(棒)。

最後のは私の捏造だ。気にするな。
と、まぁ明らかに宝石を使った《呪詛》です。ありがとうございました。

「ちなみに心当たりは?」
「ある訳ないでしょう……!」
「デスヨネー」

私の推理(笑)が正しければ完全にビアージが悪い。けれど呪詛を放っておく訳にもいかないので祓うくらいはしておこう。私は席を立つと、カウンターの戸棚へと向かい、そこから指で摘まむ程度の小石を二つ取り出した。それをまたテーブルへと運び、今度は別の戸棚から鋏を取り出す。さらに鋏で自分の髪の毛を切り、小石二つに巻き付けた。

「『言霊足りずとも力あれ、命(みこと)無き想いを祓え。闇なる想いに心を染めて、果たして撃は届からずや』」

私の口から出た言霊は、空気に反響するように辺りの景色を振動させ、机に置いた小石に光を集めた。光が強くなるにつれて巻き付けた髪の毛は蒸発していき、光が収まる頃には、灰色だった小石が橙色に変色していた。適当に並べた言葉でさえ浄化の言霊となってしまう自分の才能がこの頃怖くなってきたな………本職は戦闘なのに………。

再び机に転がった小石を、私はビアージに手渡した。

「お話を聞いた限りで大体のことは把握しました。なのでお守り代わりにこれをお渡しします」
「この石は………?」
「先ほど貴方は心当たりがない、と仰いましたが……そんなはずありません。あれは完璧に呪詛、何か恨まれるようなことがあったはずです。事が小さかれ大きかれ。ですからその石を、一つは肌身離さず持っていて下さい。もう一つは心当たりのある人物・場所などに置いて来て下さい。そうすればひとまずは落ち着きます」
「…ひ、ひとまず?」
「そのあいだに私が浄化を行いますので」
「は、はぁ……」
「ではまた後日、連絡させて頂きます。お代はそのときに」
「わ、わかりました……」

ビアージは石を大切そうに小包みに入れ、渋々といった感じで店を出て行った。

「リ〜〜〜マッ!」
「うわっ!」

店の扉が閉まると同時に、奥から出てきたラウが飛び付いてきた。あいにくと私の身長は162センチなので支えるのも一苦労だ。とりあえず鳩尾(みぞおち)を肘でどつきながら叫んだ。

「重い離れろそして縮め!」
「最後のは関係ねぇよな!?」

床にうずくまりながら悶えるラウを横目に、私はため息をこぼした。

「まぁた、めんどくさい依頼が来たもんだな……」
「あの小石、《呪詛反射付与》の魔法をかけましたよね?いいんですか?」

ティーカップを片付けながらナフサが問いかけてきた。というかあいつ紅茶飲まなかったな。毒なんざ入ってないのに。

「良いんだよぉ。あいつが強盗なんかするから呪われるんだ」
「あぁ。やっぱりガムラザル通りの強盗事件の犯人って彼なんだ」

やはり情報収集に長けているアズリが真っ先に反応した。そう、ビアージはガムラザル通りで起きた宝石館強盗事件の犯人なのだ。館の主は店に飾られていた剣で斬殺されていた。さらに異国の物だと思われる高価なジュエリーが全て姿を消していた。この事件が起きたのは半年前、ビアージに呪詛がかけられ怪奇が起こりだしたのは数ヶ月前。付け足すとビアージの店が繁盛し始めたのが数ヶ月前。お察しの方も多いだろう。彼は盗んだ宝石類で店を経営している。恐らく館の主は死ぬ間際にビアージを相当酷く呪ったのだ。その負の感情が回りの宝石たちに移り、ビアージの店が繁盛し始めたのを皮切りに呪詛が発動した。

「こりゃ館に行かないと解けないわな」
「「「デスヨネー」」」
「喜べお前ら、久しぶりの戦闘だ」
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」
「おいラウ、暴れすぎないでくれよ?頼むから、な?」
「………手伝いますアズリさん」

やはり飽きないな。この面子は実に楽しい。






カウンターの下、封印された《ある宝石》が箱をカタカタと揺らした。 
 

 
後書き
中二病末期患者の鬼灯が通りますよっと⊂二二( ^ω^)二⊃ブーン

誰かーお客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー?(棒)

 
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