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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第37話 願い事ってのは大概気がついたら叶っている

 狭い路地裏の中を、私は一人走っていた。
 私に名などない。今の私には名前など不要だったからだ。薄暗い路地裏の中を、私はただひたすらに走り続けていた。
 何故そんな場所を走り続けているかだって? それは、私の本能がそうさせているとだけ言っておこう。
 私の本能がそう告げているのだ。この路地裏を走り続けろと。
 辺りに気配は感じられない。恐らくこの路地裏で走っているのは私だけだろう。まぁ、こんな薄暗くて薄汚い路地裏を走り続ける輩など、江戸広しと言えども私位な物だろう。
 腹部に苦しみを感じた。その苦しみに耐えられず私は足を止めた。そろそろ限界だろう。
 此処いらで済ますとしよう。私は立ち止まった位置から周囲を見回した。流石は路地裏だ。辺りにゴミが散乱している。その種類も様々だ。
 空き缶、何かの包装紙、弁当の箱にジャスタウェイ、等など、多種多様なゴミが散乱している。
 だが、私が探していたのはそんな類じゃない。もっと別の類だったのだ。
 ふと、私の目に止まった。青くて巨大に聳える堅牢な砦。何人の侵入を許さぬ鉄壁の守りを誇るその青き巨塔。それこそ、私の捜し求めていた物だった。
 私は腹の苦しみを堪えて走った。あそこに私の求めている物がある。あそこにある物があれば、私のこの腹の苦しみから解放される。そう信じて、私は塔をよじ登った。流行る気持ちを抑えつつ、私はよじ登った。
 その塔の天辺に辿り着くと、私は天辺で体を左右に激しく揺らした。私の揺れに反応し、塔もまた激しく左右に揺れる。
 遂に塔は倒れた。私は目的を成し遂げたのだ。
 塔が崩れ落ち、私は横倒しになった塔の中を見る。
 塔の中に、それはあった。まだ新しい、これこそ私の求めていた物だった。
 そう、弁当の残り物である焼き鮭。しかも全然手をつけていない状態の物だ。
 私は思わず舌なめずりをした。久しぶりのご馳走だ。それにありつこうと青い塔から鮭を取り出す。
 地面に無造作に放り捨て、この獲物を横取りする輩が居ない事を確認し、私は口を開いた。

「おい!」

 声がした。馬鹿な! 私の他にこれを狙う輩が居ると言うのか?
 私は声のした方へ視線を向けた。其処には私と同じように路地裏を歩く者が居た。
 大きい。私よりも遥かにそれは大きかった。まるで巨人だ。
 赤茶色の毛皮を纏い、その下は痩せこけた体をしている。私に比べて毛並みは薄めだった。その巨人が、私を睨んでいたのだ。
 その目はうつろでいて、生気が感じられない。まるで、死人のように。

「その鮭寄越せええええええええええ!」

 フギャーーーーー!
 私は一目散に逃げ出した。情けない話だ。この江戸の町で、私みたいな野良猫はとても生き難い町となってしまったようだ。
 私は折角のご馳走にありつけなかった事を半ば残念に思いつつ、次の獲物を捜す為に再び路地裏へと姿を消した。




     ***




 沈黙が辺りを覆った。予想だにしない事態が目の前で突如起こったからだ。
 新八の目の前で突如起こった不足の事態。それは、突然現れた四人の変態疑惑を持った男女がいきなり銀時に対し蹴りを叩き込んだ事から始まる。
 そして、今その四人は倒れた銀時に対し激しいストンピングの嵐を見舞っていた。

 引っ込めこの腐れ天パー! 誰がそんなSMプレイなんて望んでるんだゴラァ! ○○○縛りって、近くにあんな子供が居る前でよく言えるもんだわ恥ずかしげもなく! 我等の主は貴様じゃないすっこんでろ!

「ちょっ、待てって! マジでヤバイから、これ以上やられたらパンツ見えるから! マジでサービスショットとか勘弁ってぐあぁ……がふっ!」

 哀れ、銀時は散々ストンピングの嵐に見舞われた挙句飽きられた恋人の様に無造作に捨てられてしまったのだ。
 後ろで蹲っている姿がとても痛々しい。そんな銀時を俄然無視し、再度四人は跪いた。

「お見苦しい場面を晒してしまい申し訳有りませんでした。この上はあの輩を処断致して参りますので暫しお待ちを」
「いや、其処までしなくても良いですよ。流石に銀さんはちょっとやりすぎた感があるのは僕達も理解してますし」

 確かに銀時の悪ノリにはほとほと困っている。だが、だからと言って殺すと言うのはやりすぎだ。
 流石に其処までやられるとこちらとしても黙ってる訳にはいかない。

「と、とにかくさぁ。その主って言い方をまずは止めて貰えると嬉しいんだけど―――」
「黙れ眼鏡。その眼鏡叩き割って只の少年Aにしてやろうかぁ?」

 いきなり近くに居た少女にメンチ切られてしまった。しかも何故か眼鏡に執着してるとか、明らかに新八の存在=眼鏡と言う図式が海鳴市でも広がっている模様だ。

「何それ! 君ら一体何がしたいの? 僕達の事散々主とか言っておきながらその主に蹴りを叩き込むは罵声と飛ばすとか、全く以って訳が分からないよ!」
「何を言う。我等の主は其処に居るお方只一人だ」

 男性がそう言い指し示した人物。それはなんと八神はやてであった。いきなり四人の主に抜擢されてしまったはやては訳が分からず目を点にしている始末であった。

「へ? 私が……ご主人様?」
「その通りに御座います。我が主よ」
「ちょちょちょ、ちょい待ち! 私別にデリヘルとか雇った覚えとかないでぇ。それに私そんなプレイとかまだ無理や。私まだ未成年やし。そりゃ、ちょっとだけ興味はあるかも知れへんけど、でも今は健全なままで居たいんや。健全なエロスを楽しみたいんや!」
「……言ってる事がさっぱり分からないのですが」

 はやての言い分に四人は首を傾げだす。全く話が噛み合わない。このままだと話が一向に進まない危険性もありうるようだ。

「要するにあれだろ? 此処に居るその四人はお前の下僕だから。何でも命令して欲しいって言ってんだろうが。とんだ変態集団だぜお前等」
「何だと貴様!」

 額に青筋を浮かべつつ、ピンクのポニーテールの女性が立ち上がり銀時を睨みつける。って言うか、何時の間に復活したのだろう銀時。先ほどあんなに蹲っていたのに、相変わらず回復の早さには驚きである。

「おいおい、そんな怖い顔でメンチ切ってると、折角の美人が台無しだぜぇ。後皺とか出来るから止めた方が身の為だと思うぜ」
「ほざけ下郎! 貴様如き輩が主の視界に居ること事態が罪なのだ。この烈火の将シグナムが直々に貴様を煉獄へ導いてくれる!」
「上等だぁゴラァ! 煉獄だろうが何所だろうが連れてって貰おうじゃねぇか! 因みに旅費は全部てめぇ持ちだからな!」
「ふん、片道分くらいなら出してやろう。表に出ろ! 此処では迷惑になる」

 シグナムの誘いを受けて銀時もまた工房の外へと躍り出る。それに吊られて他のメンバー達も続々と工房から出てきた。
 町の大通りで今、二人の侍が睨み合っていた。忽ち大通りは人でごったかいになってしまう。
 それもそうだろう。見知らぬ女性が白昼で喧嘩をすると言うのだから。火事と喧嘩は江戸の華とは良く言った物だ。

「貴様を屠る前に、名前を聞いておこう。せめてもの情けだ」
「坂田銀時だ。情けなんざ人に掛けるもんじゃねぇぜ。そう言うのは薬味に使うもんだ」
「言い残すことはそれだけのようだな。では……行くぞ!」

 戦闘開始と同時にシグナムは天高く飛翔した。恐らく空中から攻めようと考えたのだろう。
 銀時の脳裏に嫌な記憶が蘇る。かつて海鳴市でフェイトと戦った際の記憶だ。
 あの時は自分が飛べないと言う事を看破され、其処を攻められ苦戦を強いられたものだ。
 それと同じ戦法を使おうとしているのだ。銀時は身構えた。
 そして、身構えた銀時の目の前に、シグナムは落ちてきた。無様に顔面から地面に激突する形で。
 
 「ぶはっ!」

 顔面砂まみれになりながらシグナムは身を起こす。かなり無様な姿だった。あんなに格好良い事を言いながら結局この醜態である。周囲の人々も若干冷めた目線を送っている。

「何してんだ? お前」
「お、おかしい? 何故、飛べないんだ?」

 どうやら飛行魔法を用いようとしたようだ。だが、彼女の思惑とは裏腹に飛べないようでもある。

「くそっ、もう一度!」

 再チャレンジと言うかの如く。シグナムはまたジャンプした。そして、また同じように地面に向けて落下した。
 その光景を見ていた誰もが、余りにも残念な風に見えてしまっていた。

「おい、もう良いから。いい加減止めろ。見てて痛いだけだ」
「ふ、ふざけるな! こうなれば飛べるまで何度も挑戦するだけだ! 騎士の誇りに掛けて、必ずや飛んでみせる!」
「気持ちは分かるが回りを見ろ。お前の事冷たい視線で見てる事に気づけっての!」

 銀時の言葉にシグナムは改めて回りを見回す。何時の間にか回りの人々の冷めた視線が自分に集中しているのに気付き、シグナムは穴があったら入りたい心境に変化している事に気付いた。
 最早、今の彼女に出来る事は、その場に蹲り黙り込む事しかなかったりする。

「おぉい、大丈夫アルかぁ?」
「関わらないでくれ。烈火の将と言われたこの私がこれほどまでに無様な醜態を晒してしまうとは。これでは守護騎士失格だ。いっそこの場で腹を切るしかこの恥を帳消しにする方法はない!」

 そう言い、持っていた刀を鞘から抜き放つ。どうやらそれで本当に腹を切るつもりなのだろう。

「待てシグナム! 早まるな」
「そうよシグナム! 貴方が死んだら私達も困るわ!」

 男性と金髪の女性が必死に止める。が、それでもシグナムが諦める気配は見受けられない。

「離せ! 同胞のよしみだ、此処は黙ってみててくれ! これ以上の醜態を晒すのは耐えられん。それよりも、潔く此処で死を選ぶのが騎士の道であろうが!」

 押さえ込む二人を振り払おうと必死になるシグナム。だが、そんなシグナムの頬に突如乾いた一撃が放たれた。俗に言う平手打ちである。
 それを食らったシグナムは自分を叩いた人物を見た。シグナムの目の前に居たのは、手を振り切っているなのはであった。その顔は少しばかり不機嫌そうであった。

「そうやって死に急ぐのは良くない事だよ。死んだら他の人が悲しむって事位分かる筈だよ!」
「子供の貴様に何が分かると言うのだ? 美しく最後を飾る。これこそが騎士として生きてきた者の勤めなのだ!」
「それは屁理屈だよ。美しく最後を飾る暇があるなら、最後まで美しく生きる。その方が断然言いに決まってるじゃない」
「最後まで、美しく生きる……」

 なのはの言葉に何故かシグナムは反応した。子供の戯言と吐き捨てれば済む話だろうが、何故かそれが出来なかったのだ。
 死ぬのは確かに簡単だろう。だが、それは困難な生から逃げる事に繋がる。騎士が目の前の困難に対して逃げ腰で良いのか? 嫌、良くない。
 そう悟ると、シグナムは刀を鞘に納め、ゆっくりと立ち上がった。

「感謝するぞ娘よ。私の過ちを正してくれた事に」
「お礼なんて良いよ。只私はお父さんから教わった事をそのまま言っただけだし」
「ふっ、父親か。よほど立派な武人なのだろう。いずれ手合わせしてみたいものだ」

 一言そう言い、シグナムは回りを見た。既に回りに人は居ない。とっくに方々に散ってしまったようだ。
 何食わぬ顔でシグナムは体についた土汚れを払い落とす。いずれはこの娘の父親とも戦ってみたい。そうシグナムは思っていた。
 だが、それは同時にシグナムの中で一種の絶望を生む事になる。何故なら、そのなのはの父と言うのが銀時なのだから。




     ***




「ほな、改めて自己紹介するな。私は八神はやて。よろしゅうな」
「私はなのはだよ。多分姓は坂田だと思うんだ」

 なのはとはやてが互いに自己紹介を行っていた。そのすぐ隣で銀時達もまた互いに自己紹介を行っている。

「僕は志村新八って言います」
「私はかぶき町の女王神楽ちゃんネ」
「そんで、俺が此処に居る馬鹿三人を纏め上げてる坂田銀時だ。金さえ払えばなんでもやる万事屋ってのをやってるからよ。何かあれば気軽に頼みな。金さえ払えばなんでもやってやるからよ」

 さりげなく宣伝をする銀時。流石は長年万事屋で食いつないできただけの事はある。
 そんな訳で今度は守護騎士側の自己紹介となった。

「私の自己紹介は今更だと思うが、シグナムだ」
「湖の騎士シャマルです。怪我したら言って下さいね」
「鉄槌の騎士ヴィータだ。一応背は小さいが年はこいつらと同じだからガキ扱いすんなよな」
「盾の守護獣ザフィーラだ」

 四人の自己紹介が終わる。それが終わったのとほぼ同時にそれは起こった。

「おぉい、銀の字。これお前のか?」

 工房から源外が出てきた。その手には一冊の分厚い本が握られている。
 黒い表札に銀色の十字架の装飾を施された結構高そうな本だ。

「んだぁ? その本は」
「転移装置の中に落ちてたんだよ。俺はあんまり本は読まねぇから多分お前等のだろ?」
「俺ぁ基本ジャンプ派だ。それにこんな難しい聖書みたいな物読まねぇよ」

 そう言いつつも銀時はそれを受け取る。その本を見た時、守護騎士達は顔面蒼白の思いに駆られたと言う。

(あ、あれは闇の書! まさか、気絶している間に落としてしまったのか?)
(不味い、不味いわよ! ここの人たちがあれを知ったら何に使うか分かった物じゃないわ!)

 どうやらこの本は相当危険な代物らしい。だが、そんな事露知らずとばかりに銀時は新八達の元へ本を持って戻って来た。

「銀さん、その本って一体何ですか?」
「知らね」
「何でしょうかね。タイトルは書いてないし、西洋の聖書か何かかなぁ」

 本には何所にもタイトルが記載されていない。形からして聖書を思わせる。
 まぁ、何はともあれ中身を見れば一目瞭然なのは明らかだが。

「とりあえず中見てみようや。そうすりゃ分かる筈だしよ」
「おぉ! ずぅっと読めへんかったその本のベールが遂に剥がされるんやなぁ!」

 どうやらはやてはずっとその本を読みたかったようだ。期待に胸を膨らませる思いで、本を捲る銀時に視線が集中する。
 分厚い表札ごと何ページが纏めて捲ってみた。だが、其処に映し出されたのは一面白紙のページであった。
 何も書かれていない。文字も、絵も、何も書かれてないのだ。

「なんだこりゃ? 何も書いてねぇじゃねぇか」
「真っ白アル」

 期待していた分これにはガッカリせざるを得ない。だが、其処へ新八の閃きが冴え渡る。

「これ、もしかして炙り出しで見れるんじゃないんですか?」
「炙り出し?」
「火とかに近づけるとページに文字が浮かび上がるって言う方法だよ」
「へぇ、なんだか面白そうだねぇ」

 5人で話が進んでいく。だが、側から聞いてる守護騎士達は居た堪れない気持ちであった。
 このままだとあの本を炙り出しする拍子に燃やされる危険性が高い。
 何とかしなければならない。

(やべぇよ。あのままじゃあの馬鹿達闇の書燃やしちまうぞ! 何とかして取り返さねぇと)
(だが、主が近くに居る。下手な行為に出る訳にはいかんぞ)

 本来なら万事屋メンバーをやっつけて闇の書を奪い返す筈なのだが、その近くには彼等が主と定めているはやてが居る。しかも、このはやてが妙に万事屋メンバーを気に入ってしまっているのだ。
 迂闊に手出しが出来ない状況でもある。

「とりあえず、火を近づけてみましょうか」

 そう言い、新八は懐からマッチを取り出し近づけてみる。何故マッチを持っていたかはこの際突っ込まないで貰いたい。
 分厚い表札に火を近づける。
 だが、一向に変化は見られない。

「あれ? おかしいなぁ」
「全然浮かび上がらないね」
「どうでも良いよんなこたぁよぉ。それよりこんだけ分厚いんだ。ちり紙交換に出せばそれなりにトイレットペーパーと交換してくれんじゃね?」

 本で肩を叩きながら銀時が言う。確かにこれだけの分厚さだ。それなりの交換は期待できそうに思える。

(何考えてるんだあいつらはああああああああああ!)

 よりによもって危険な代物でもあると言われている闇の書をちり紙交換に出そうなどと言っているのだ。これはかなり不味い展開になってきた。何とかしなければならない。
 だが、どうする。どうすれば良い。

(皆、此処は私に任せて)
(シャマル、手があるのか?)
(要するにあれが危険な代物って事を分からせれば良いのよ。そうすればきっとあれを手放してくれる筈よ)

 そう、無理に奪い返そうという考えがそもそもナンセンスだったのだ。要は彼等があの書を手放すように促せば良い話だ。
 そう判断し、シャマルは五人に近づいていく。

「あの、ちょっと良いかしら?」
「あん?」
「実はね、その書はとても危険な代物なの」
「危険? あぁ、確かにこりゃ危険な代物だな」

 流石は銀時だ。この書物の危険性を理解していると見受けられる。

「こんだけ分厚けりゃ軽く人殺せるぜ。良い鈍器になるしな」
「いや、そうじゃなくて……もっと別の危険性があるのよ」
「もっと別の? 紙を一枚一枚千切ってティッシュの変わりに使うとか?」
「もう良いわ。貴方達にとっての危険性の概念が分かったから」

 このままでは埒が空かない。しかたないとばかりにシャマルは溜息をついた後に真剣な面持ちで話し始めた。

「それは闇の書と言って、魔力を捧げる事で起動するロストロギアの一種なの」
「ふぅん、魔法ねぇ……で、魔力を捧げるって具体的にどうやるんだよ」
「大概の人間には魔力の源であるリンカーコアと言うのがあるわ。それを取り出して捧げれば良いの。そして、ある一定量の魔力を捧げた際には恐ろしい事が起こるのよ」
「恐ろしい事?」

 首を傾げる銀時達。どうやらそれだけだとピンとこないようだ。普通ならこの時点で手放す筈なのだが、どうやらこの世界の住人は余りにも魔法に無頓着なようである。
 仕方ないとばかりにシャマルは一呼吸置いた。

「つまり、他者の命を捧げて、自分の願いをかなえるという恐ろしい代物なのよ」
「マジでか!?」
「そう、だからそんな危険な代物を貴方達に預けておく訳にはいかないわ。私達が厳重に管理するからこちらに渡して―――」

 話し終えていざ、闇の書を受け取ろうとしたシャマルの目の前に映っていたのは、先ほどの話を聞いて歓喜に打ち震える銀時達の姿であった。

「すっげぇよ、マジですげぇ! この本にそんな凄い効果があるなんてよぉ」
「やりましたねぇ銀さん! これってあれですか? 七つ集めたら願いが叶うボールみたいな奴ですかねぇ?」
「キャッホォイ! 銀魂改め【神楽魂】の始まりネェ!」

 どうやらおおまかな話を無視し、単に願いを叶えると言う部分だけ耳にしてしまったようだ。
 そして、それを聞いた銀時達にとっては当然それを手放す事などまずありえなくなってしまったのは言う間でもない。

「ちょ、ちょっと! 話聞いてた? それは危険な代物なの! すぐにこっちに渡して頂戴!」
「心配すんなよ。俺達ぁそんなへましねぇよ。それよりさっさと集めに行くぞ。そのぉ、何だっけ?リュックサック?」
「リンカーコアですよ銀さん」
「そうそうそれそれ、って、それって具体的に何なんだ?」
「金玉じゃネ?」

 鼻を穿りながら神楽が呟く。その呟きを鵜呑みにしてしまった銀時達は早速江戸の町へと繰り出していってしまった。
 残された四人の守護騎士達は全員真っ青な顔をしていたと言う。

「おい、どうすんだよシャマル。あいつら手放すどころかやる気になっちまったぞ」
「け、計算どおりよ。これで私達が苦労して集める必要はなくなるわ。彼等がある程度集めた所で奪ってしまえば良い話よ」
「そう言ってる割にはかなり焦ってるな」

 誰からの目からでも明らかに焦っているのが分かる。シャマルの顔色はかなり悪いし冷や汗もかなり流れている。先ほど彼女が言った計算どおりと言うには余りにも程遠いと思えた。

”ぎゃあああ―――――!!”

 断末魔が響いた。四人は肩を震わせてお互いを見合う。今の悲鳴は一体何だ?
 嫌な予感が四人の胸中に押し迫る。
 悲鳴のした場所へと向った。それは源外の工房からそう離れていない大通りであった。
 其処で目にしたのは、正に死屍累々と呼べる光景だった。
 
「こ、これは……」
「酷い、顔面を原型が留まらない程に殴られている」

 シグナムの目からでも分かる位に倒れている男の顔は膨らんでいた。
 まぁ、其処は元々膨らんでるのでは? と言うツッコミもありそうだが其処は遭えて突っ込まないで貰いたい。
 倒れている人々をとりあえず無視して先へ進んでいると。其処に居たのはこの屍(?)の山を気付いている元凶達の姿が其処にあった。

「おら、出せやリンカーコア! 出さねぇと今度は額に【肉】って書くぞぉゴラァ!」
「全力全開でシッペすんぞぉゴラァ!」

 主に銀時と神楽が大通りを歩く人々をボコボコにしている。と言っても、殴ってるのは大抵腰に刀を挿してる輩ばかりのようだ。
 しかし、余りにも惨たらしい光景にも見えた。

「ちょ、ちょっと貴方達! 何やってるのよ!」
「あぁ? 決まってるだろうが! リンカーコアを集めて願いを叶えるんだよ」

 最悪の光景だった。どうやらシャマルの言葉をそのまま鵜呑みにしてしまったようだ。それも最悪の形で。

「あ、貴方達話聞いてた? これは自分の願いを叶える代償として人の命を使うと言ったのよ!」
「あぁ、聞いたよ。だから殺さないように手加減してんだよ」
「そ、そうなの……」

 一応人命は尊重しているので安心は出来る。確かに、先ほど見た死屍累々の光景も、実際には死者は出ておらず、単に気絶していただけだったのだが。
 しかし、それにしても余りにも酷い光景だったのは言う間でもない。

「それで、具体的にどうやってリンカーコアを集めるつもりなの?」
「持ってそうな奴を片っ端からボコボコにして一滴残らず搾り取る!」
「確実に殺す気満々じゃない! しかも言い方が明らかに悪党じみてるわよ!」

 嫌な予想は的中していた。しかもかなり性質が悪い方向に的中している。
 こいつら、リンカーコアがどんなのか全く理解していない。

「それにしても銀さん。誰もそのリンカーコアっての持ってそうにないですよ」
「んだよぉ! これじゃ俺の【結野アナとラブラブイチャイチャになっちゃおうぜ、イエィ!】計画が成立しねぇじゃねぇか」

 不貞腐れながら呟く銀時。と言うかそんな下らない事に人の命を使おうとしているのだから尚更性質が悪い。
 だが、そんな銀時の願いを聞いた途端、回りから反感の声が上がった。

「銀ちゃん、それは違うネ! 私の【銀魂はもう終わり。これからは神楽魂の時代だコノヤロー】計画を実行すべきネ!」
「何言ってるんだよ神楽ちゃん。僕の【寺門通ちゃんの生ライブを特等席で拝むゼノギアスは面白かったよ~ん】計画を実行するんじゃなかったんですかぁ?」

 神楽と新八の二人もどうやら自分の欲望と言う名の願いを叶えようとしていたようだ。しかも二人共しょぼい願いだったりする。

「え~~、私【不思議魔女っ子とと子ちゃん変身セット】が欲しいよぉ」
「私は【D~Fカップ巨乳グラビア雑誌】が欲しいわぁ」

 なのはとはやてもまたそんな下らない願いを持っていたようだ。しかも二人の願いはわざわざ闇の書を使って叶えるような願いですらなかったりする。
 つまり、金さえ払えば手に入る代物をロストロギアで手に入れようとしているようだ。
 それぞれの願いごとを公開した後、五人は皆目元を暗くしてそれぞれ睨み合っている。
 正に一触即発な空気を放ちだしていた。本来ならさっさと止めて闇の書を奪回したい筈の守護騎士達でさえ、その雰囲気を放っている銀時達に近づくのがかなり困難になっていた。
 そんな銀時達を止めたのは、一台のパトカーであった。物凄いスピードでパトカーがこちらに接近してくる。
 あ、パトカーが銀時達に向かい突っ込んできた。

「ぎゃあああーーー!!」

 銀時の断末魔を筆頭に五人全員がパトカーに跳ねられて弧を描くようにジャンプし、そのまま地面へと叩きつけられる。
 幸いにも銀時が一番したに落下し、その上に新八、神楽、なのは、はやての順で落下した為に上に居た人間は大して傷を負わなかったのは幸いだったが。

「おいてめぇら! 白昼から堂々と何暴走行為に走ってんだぁゴラァ! 殺人未遂、傷害罪で現行犯逮捕もんだぞゴラァ!」
「土方さん、それを言ったらあんたも傷害罪と殺人未遂+道路交通法違反で即刻逮捕出来ますぜぃ」

 パトカーから降りてきたのはご存知土方と沖田の二人だった。
 二人共パトカーで轢き逃げをした事を一切反省する様子などなく、何時も通りの様子で倒れた銀時達の前に立っていた。

「て、てめぇ……新節始まって早々人を引き逃げたぁどう言うつもりだゴラァ!」
「てめぇこそ新節始まって早々大通りでこんな大立ち回りするたぁどう言う了見だぁゴラァ! その上……」

 土方の視線が銀時から移り変わる。それははやて、そしてそのすぐ脇に居た四人の守護騎士達へと移り変わる。

「罪状追加だなぁこりゃ。殺人未遂、傷害罪、それに加えて幼女誘拐に婦女誘惑。これだけ罪状を並べりゃ確実に務所で半生を過ごすことは確実だなぁこりゃ」
「あ~りゃりゃ、こりゃ今回でこの小説も終わりですねぃ。次回から【新撰組 風雲禄】が始まるかも知れやせんねぃ」

 スラスラとメモ帳で罪状を書き続ける土方、その横でニヤリと笑みを浮かべて見る沖田。その笑みはとても嬉しそうだった。

「なぁなぁ銀ちゃん。この危ない目をしたあんちゃん達って一体誰?」
「あぁ、只の税金泥棒だよ」

 はやての問いに銀時が簡潔に答える。その言い分に土方が睨んできたが銀時自身全く意に返さない。
 本人その通りだと思っていたからだ。

「時に旦那。一体何でまたこんなトチ狂った事をしたんですかぃ?」
「大方酔っ払った勢いとかだろ? とにかくてめぇら全員連行だ。今すぐパトカーに乗れ」
「えぇ! ぼ、僕達もぉ!?」
「私やはやてちゃんは未成年だから関係ないよ!」
「保証人だ。其処に居るてめぇら纏めて屯所にしょっ引くぞ。総梧、もう一台車用意しろ! こいつらと其処に居る四人も纏めて屯所に連れてくぞ!」
「へぃへぃ」

 土方の命を受け、沖田は無線を手に取る。その間、土方が銀時達の相手をする事となった。

「ちょ、ちょっと待て! 私達も一緒に来いと言うのか?」
「ったりめぇだろうが! お前等自分の格好を見ろ。昼間っからそんなハレンチな格好しやがって。てめぇら全員猥褻罪だ!」
「わ、猥褻罪って、私達のこれは一応普段着なんだけど……」
「頭が変態な奴等は大抵そう言うもんだよ。文句言ってる暇があんならとっとと車に乗れこの変態共!」

 守護騎士達の言い訳など土方には全く以って意に返さずであった。
 騎士達にとっての普段着も土方達にとってはハレンチな服装である事に他ならないようだ。

「おら立て、この腐れ天パー! 眼鏡とチャイナ、そんで其処の栗毛二人もだ!」
「どないする、なのはちゃん?」
「しょうがないか、この人に逆らうと後々面倒だから、此処は言う通りにしよ」

 なのはがそう言う。まぁ、彼女がそう言うのならば問題ないなと、はやては納得するように首を縦に振る。

「あ、主! 本当にこんな奴等の下にいくのですか?」
「まぁ、別にええやん。このまま此処に居んのも退屈だし、折角だから乗っけてって貰おやないか!」

 なんとも楽天的な主だ。守護騎士達の誰もがそう思った。そんなこんなで、万事屋ご一行とはやて、そして守護騎士達は揃って真選組屯所まで連行される羽目になったのであった。
 その道中のパトカーの中といったら、終始騒がしいのなんのであった。

「おい、このニコチンマヨラー中毒! さっさとこの手錠外せゴラァ!」
「うるせぇ! てめぇはそれくらいしないと暴れだすだろうが!」
「てんめぇこのドSゥ! しっかりハンドル握れやゴラァ! 私の身に何かあったら只じゃ済まねぇからなぁゴラァ!」
「うるせぇチャイナだ。このまま壁に激突してやろうかなぁ~」
「ちょっとちょっとぉ! 皆さん落ち着いて下さいよぉ! 事故起こしたら元も子もないんですからねぇ!」

 ヤイノヤイノ。
 ガヤガヤ。

 そんな感じでパトカー内では終始馬鹿騒ぎで賑わっていた。そんな馬鹿騒ぎの光景を、なのはとはやては見ていた。

「賑やかやなぁ」
「ん?」
「何か、私が居た所と違って毎日がお祭り騒ぎみたいで、何か一日中笑いっぱなしや」

 はやてはふと思い出した。自分が生まれ育った町で、自分は4歳の頃から車椅子生活を余儀なくされ、学校にも満足に行けず、毎日が退屈な日々であった。
 だが、それがこの江戸と呼ばれる町に来てからどうだ?
 突然動かなかった足が動くようになり、その上銀時や新八、神楽、それになのはや守護騎士達と言った楽しい面々と出会えた。
 更に他にもまだまだ楽しいことは沢山有りそうに思える。
 下手したら一生掛かっても終わらないような楽しい日々がこの地には待っているのかも知れない。
 そう思っていたのだ。

「何かさぁ、私の願いが、叶っちゃったみたいやなぁ」
「そうなんだ。それじゃ、これから毎日ずっと楽しい日々が送れるね」
「うん、楽しみやなぁ。毎日がお祭り騒ぎみたいな日常」

 そう呟きながら、はやては窓から映る空を眺めた。青い空がはやての目に飛び込んできた。
 海鳴市の空と何ら変わり無い青い空。その空の下で、一体これからどんな人生を過ごすのか。
 期待と不安で胸一杯になったはやてを乗せて、パトカーは走るのであった。




     つづく      
 

 
後書き
次回【住みたきゃ働け! 働きたきゃ服を着ろ!】お楽しみに 
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