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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第39話 What can I do for you?(1)

 
前書き
一カ月以上放置してしまい、申し訳ありませんでした。相も変わらず遅々として進みませんが、投稿します。 

 
 最初にその場を引いたのは、フェイト達からだった。
 倒れる純吾、その上に覆いかぶさるようにして慟哭するリリーに視線を送っていた彼女達はふいにそれを逸らし、立ち去ろうと歩き始めた。

「あ、あの…」

「私達は、何もする事がない」

 なのはが遠くのフェイト達に手を伸ばすが、フェイトはその声に立ち止まり、振り返らないままそう答える。

「元々、私達はジュエルシードという唯一点で関わりあっていた他人だった。なら、彼らの事はあなたがするものだ」

 その言葉に、なのははレイジングハートを握りしめ、ユーノも怒りで地を踏みしめる足に自然、力が篭もった。
 一体、誰のせいでこんな事になったのか。誰がかばったから、今以上の傷を負わずに済んだというのか。この時ばかりは彼女の事を知りたいだとか、どうしてジュエルシードを集めるかなど関係なく、沸騰した怒りをぶちまけようと口を開く。

「…けど」

 まさに激した感情を声に出そうとした瞬間、フェイトが振り返った。視線は蹲るリリーと、依然気絶したままの純吾へ向けられていた。
 振り向きざまのフェイト達の瞳が揺れている事になのは達は気づく。困惑と思慮、そして感謝とが混在するそれを見せつけられ、急速に怒りが冷めるのを感じた。

「その人…。ジュンゴ( ・ ・ ・ ・ )が目覚めたら、ありがとう、と伝えてほしい。あなたのお陰で、この街に迷惑をかけずにすんだ、と」

 そう言うと、今度は歩みを止めることなくフェイトは去っていく。

「あたしからも、次は容赦しないって伝えといとくれ。
……それと、フェイトのこと、身を挺して守ってくれた事、感謝するよ」

 それまで黙っていた狼状態のアルフもそう言い残すと、身を翻してフェイトのもとへ駆け去る。そのままフェイト達主従は光の尾を引いて、夜の闇に消えていった。





「…ええ、なのはちゃんもユーノ君も、すっかり疲れ切ってるみたいで。……はい、今日はもう遅いですし、こちらに泊ってもらうという事で。……大丈夫ですよ、むしろ、準備はもうノエル達にしてもらってますので。
…分かりました。それでは明日の7時ごろ、なのはちゃんを迎えに来てもらうという事でお願いします。はい、それではおやすみなさい、桃子さん」

 高町家と連絡を取り終えた忍が、がちゃりと受話器を置く。それから大きくため息をついてから、振り返って問いかけた。

「これでいいかしら、なのはちゃん? ユーノ君?」

「えぇ」

「…はい、ありがとうございます。忍さん」

 後ろにいたのは悄然としたなのはとユーノだった。魔導師としての姿ではなく、普段着に戻っているなのは達の顔は浮かないが、顔をしかめるような笑みをどうにか作り答えた。それに忍は肩をすくめ、なんでもないと態度で示した。

「別に、大したことじゃないから良いわよ。むしろユーノ君の言葉に乗っかるみたいで悪いんだけど、私達としても早めに今日の事は知っておきたかったしね」

「そう、ですか。…うん、そうですよね。ちゃんと、お話ししないと」

「えぇ、疲れてる所本当にごめんなさいね? もう他の皆はリビングに集まってると思うから、ちゃっちゃとすませて、早めに寝ちゃいましょう」

 忍の言葉に、分かりましたとなのはは答え、ユーノと共にリビングへと向かっていった。
その背を見ながら、忍は何度目になるか分からないため息をつく。

「最近の子はませてるっていうけど、あれはそんなもんじゃないわよねぇ……」

思い出されるのは、電話をかける前になのはとかわした言葉だ。

 

『今日は泊めてほしいって…。恭也達に迎えに来てもらえば、十分帰れる時間よ?』

 受話器を取り上げた忍が眉をしかめてそう尋ねた。しかし要望を言ったなのははそれには答えず、唇をぎゅと噛みしめるだけだ。慌ててユーノが訳を話した。

『だって、ジュンゴ君も、リリーさんもどうしてああなっちゃったか、訳を説明しないといけないと思うんです。本当に、今日は大変な事が起こったので』

『それはそうだけど、だったら余計に恭也達と一緒に話を聞くべきだと思うんだけど』

 忍の言葉に、ようやくなのはは答えた。

『……こんな顔、お父さんたちに見せたくないの』

 それは、喋るのも酷く疲れるといわんばかりの、無理矢理に絞り出した声だった。そこにいつもの周りを引っ張る、生気に溢れた様子は全く見受けられなかった。

『見せちゃったら、ただでさえ心配させちゃってるのに、もっと不安にさせちゃう。…だから今日は、家に帰りたくないんです』



「――あんな顔して、あんな事言われたら、黙って言うとおりにするしかないじゃないの、全く」

 はじめに肩、次に首とぐるぐると体をほぐすように回す。
 自称( ・ ・ )19歳の純吾はともかく、どうして自分の周りにはああも精神年齢の高い子どもが集まるのだろうか。嘘なんてすぐ見抜く分、そっちの方がフォロー難しいっていうのに。なのは達が去って行った廊下を恨めしそうに睨みながら忍はそう思うが、当然、その思いに答えてくれる人はいない。

「……まぁ、それでも子どものする事の手助けをするのが、大人の仕事なんでしょうね」

 これから話される今日起こった事について聞くための心構えと、高町の家にどうなのはのフォローを頼んだものか、その二つを考えながら、忍もリビングへ向かうのだった。





 忍がリビングの扉を開けた時には、もう館にいる殆どの人間が集まっていた。入口の一番近くに座っているすずかをはじめ、ここに集うだろう人数分の飲み物などを慌ただしく用意するノエルとファリン。それに気を遣われたのだろう、すでに目の前に湯気の立っているカップが置かれているなのはと、フェレットのユーノ。

「やっぱり、純吾君とリリーさんは来ていない、と」

 いつもの自分の席に座りながら、忍はそう言った。帰って来た時の様子を見たら、それは当然のことだった。目立った傷は治療済みなのだろうが、服は焦げ、流れた血がそのままな純吾と、それを背負う、常とは違った脆く危うい雰囲気のリリー。そんな様子の彼らが、こんな短い時間で回復する訳が無いし、むしろ、こっちから今日は休めと言いたい。

「はい。一応、様子見としてシャムスさんに部屋まで行ってもらいはしたのですが」

 忍が座ったのを見計らって、ノエルが紅茶の入ったカップを置いた。ナイトキャップティーには少し早いですが、そう言うノエルに苦笑を返して忍は優雅に差し出されたカップを持ちあげ、口をつける。

「んにゃぁぁ~……。ひ、酷い目にあったにゃあ」

 丁度その時、トッタトッタと軽快さを欠く足音と共に、入口からシャムスの声が聞こえてきた。
 酷い目という言葉に疑問を覚えつつも、忍は視線をやり

「うへっほ! げほ、げっほ!!」

…下品だが、紅茶を口から噴射してしまった。

 気管に入って若干涙目になりながら、ノエルが拭くのに任せて忍は訳を尋ねる。何故なら、シャムスの全身の毛という毛が、綺麗なカーブを描く紫の前髪すらも逆立ち、歩く毛だるまといった様相だったからだ。すずかは慌てて口元を隠し、ファリン隠しもせずに爆笑。ついさっきまで沈んでいたなのはとユーノですら、唖然といった様子でシャムスを凝視していた。

「ファリンには明日、猫という猫に引っ掻かれる呪いをかけてやるにゃ」

「えぇっ! なんで私だけっ!?」

 恨めしげにシャムスはそう言うと、トンっと机の上に飛び乗った。今ここにいない二人の様子を伝えるためだ。

「ジュンゴにゃんとリリーだけど、部屋に閉じこもって出てきそうにないにゃ。入れろって言っても『いやっ!』とか『あっちいって!』とか入室拒否。あげく、それでも入ろうとしてドアノブに触れたらまぁ、電撃流されてご覧の通りにゃ。
正直、子猫抱えた母猫だって、あれだけ周囲に警戒はしないにゃ」

 どうやら説明のためだけにワザとそうしていたらしい。話し終えたシャムスは一言「ディアラマ」と唱える。毛玉の中から一匹の美しい橙色の猫が現れ、身を震わせた。

「中に入るのでしたら、シャムスさんの力でなかったでしょうか? 確か、相手と自分の位置を入れ替える事ができるとか」

 ようやく噴出された紅茶の後始末が終わったノエルが、顔をあげて質問をする。露骨に表情を変え、シャムスは答えた。

「…初めは勿論、それも考えてたにゃ。あのバカ、ジュンゴにゃんを傷つけただけでなく独り占めにするなんてって。
 けど、声を聞いてすぐにダメだって分かったにゃ。今のリリーは本当に母猫より不安定、ジュンゴにゃんっていう子どもと引き離されたら、何しでかすか分かったものじゃないにゃ」

 母猫は外敵から守るために子猫を殺すっていうけど、リリーの場合は――
 そこまで言って悪い予感をふるい落とす様に、シャムスは身を震わせる。聞いたノエルも、その場にいた他の人も一様に表情を曇らせた。

「えっとつまり、純吾君が自然に回復して、リリーさんを説得するまでは、話を聞くどころか会う事もできない。シャムスさん、こう言う事でいいんですか?」

 すずかが身を乗り出して問いかけ、シャムスは頷いて答えた。すずかの表情が失望と、諦めに似た感情に一層深く沈んだ。

「そう、ですか…」

 とすん、と糸の切れた人形のようにすずかは椅子に座りなおす。机の下の両手は、強く握りしめられていた。

 そんな妹を見て、純吾君も随分と罪な男の子ね、と場違いな感想が思い浮かぶ。こんなに心配してくれる子を、どうして毎回不安にさせるような事をして帰ってくるのだろうか、とも。
 そこで思考の泥沼から這い出し、忍は長い髪を振るう。そして、目の前の問題を解決するために動き出した。

「まぁ、はじめから分かってた事ではあるし、あの二人には本当に休んでいて欲しいと思っていたからこれで良いわ。
……じゃあ、集まれる人は揃ったし、夜も遅くなるから手早く終わらせましょう。なのはちゃん、ユーノ君。今日、何があったのか、どうして、純吾君が気絶してリリーさんの様子がおかしいのか、教えてもらえないかしら?」
 
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