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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic17非情なる真実~5 of PentacleS~

 
前書き
5 of Pentacles/ペンタクルの5の正位置/苦難の時。生活・健康・精神、いずれの問題であっても、基本的な部分を支えるモノを失う。非常に厳しく、辛く苦しい現実を、当てもなく彷徨う。それでも生きていかなければならない。過酷な状況だが、どうか、自分なりの光を探してみてほしい。

 

 
†††Sideイリス†††

なのはとフェイトの決闘は、なのはの勝利で終わった。少し危なげだったけど、ちゃんと勝ってくれた。しかも集束砲なんて、いつ覚えたかも知れない魔法によって。何か隠れて魔法を組んでいるなぁって思ってたけど、まさか集束砲とはね。
モニターで観戦してたわたし達アースラスタッフや協力者のアリサ達はホッと安堵の息を吐く。だけど、なのはの勝利を祝う時間すらわたし達には無かった。ブリッジ内に警報が鳴り響く。

「なのは。雲行きが怪しい。すぐにフェイトを連れて帰艦して」

『う、うん。判った』

モニターに映るなのは達の上空。ものすごい勢いで雷雲が生まれて、渦を巻いて広がって行く。

「来たっ! 高次魔力を確認。魔力パターンは・・・プレシア・テスタロッサのモノと一致! 戦闘区域に次元跳躍攻撃・・・! 急いでなのはちゃんとフェイトちゃんを収容しないと!」

エイミィの切羽詰まった報告がブリッジに木霊する。と、なのは達の転送が始める。だけどそれよりも早く紫電が降り注ぎ始めた。なのは達を包囲、徐々に距離を縮めていく。転送完了が先か着弾が先か。モニターに映るなのは達を見ているしか出来ないことに歯噛み。あと数mでなのは達に直撃すると言うところで、なのはがフェイトに覆い被さるように身を屈めた。

――渦炎之煉圏――

直後、なのは達の頭上スレスレに炎の渦が発生した。そしてプレシアの雷撃が炎の渦に着弾。だけど撃ち抜けない。いくつもの雷撃が集中的に降り注いで、ようやく炎の渦を削った。

「なのはちゃんとフェイトちゃんの転送完了!」

でも遅かった。エイミィが嬉しそうにそう報告。ブリッジに改めて安堵の空気が満ちる。わたしも「よしっ!」2人の無事を喜んでアリサ達とハイタッチを交わす。そんな中、アルフはそわそわとわたし達の居るブリッジ高台のトランスポーターに目をやってる。
フェイトを迎えに行きたいんだろうけど、局員の同行がないと自由に動けない。そして今は第一戦闘配置中。クロノかリンディ艦長の許可無しじゃわたしもブリッジから出られないため、我慢してもらおう。

「エイミィ! 魔力発射地点は確認できて!?」

「あ、はいっ。空間座標を・・・確認しました!」

「転移座標を固定! いつでも出動できます!」

待っていた。プレシアの居る時の庭園の居場所を突き止める、この時を。次元空間に存在している時の庭園の正確な座標のことをアルフは知らなかった。だから必要だった。時の庭園の座標をわたし達に知らせるプレシアの次元跳躍魔法が。

「突入部隊はトランスポーターから出動! 任務は、プレシア・テスタロッサの身柄確保です!」

リンディ艦長が艦内放送で時の庭園に突入する武装隊にそう言い渡した。プレシア確保に動く武装隊が映し出されているモニターから目を逸らさないまま「エイミィ。今の炎の魔法、まさかとは思うが・・・」エイミィの側に居るクロノが確認した。そう。それはわたしも考えてた。プレシアの強力な雷撃を防ぎきれるだけの魔法を扱える炎熱変換持ちの魔導師は、わたしが知る中じゃただ1人。

「ちょっと待って・・・うんっ、テスタメントちゃんの魔力パターンで間違いないよ!」

テスタメントが死んだって思っていたわたしやクロノ、リンディ艦長にエイミィ、そしてアルフは驚愕した。アリサ達はさほど驚いてない。なのは達にショックを与えないように、テスタメントは逃げたって嘘を伝えていたんだし。
にしてもアルフの話じゃ両肩・両太もも、胸にお腹を槍で貫かれたってことだったよね。咄嗟に砲撃を避けようにもそれだけで死んでもおかしくないのに。一体どうやって・・?

「そうか。『どうやらテスタメントの動向にも注意しないといけないようだな』」

『だね。奪われたジュエルシードを取り返しに来るだろうし』

『ああ。だがこれはある意味チャンスだ。テスタメントも一緒に逮捕できるな』

勝つことが出来れば、って付くよクロノ。けどま、今度は絶対に負けてやらないけど。と、そこになのはとフェイト、その付き添いとしてティファがブリッジに到着した。フェイトは無地の囚人服に着替えさせられていて、手錠をかけられてる。

「フェイト!」

「「なのは!」」「なのはちゃん!」

アルフを先頭にアリサ達がなのは達のところへ。アルフは泣きながらフェイトに抱きつき、「よがっだよ~」嗚咽交じりにフェイトの無事を喜ぶ。アリサ達はなのはと笑みを交わすことで、決闘の勝利とフェイトの解放を喜び合ってる。

『お疲れ様、なのはさん。来て早々で申し訳ないのだけど、みんなにお願いがあります。フェイトさんを別室へ連れ出してあげて。母親が逮捕される瞬間を見せるのは酷だわ。・・・イリス。あなたが同行して』

リンディ艦長からの念話での指示に『了解です』と応える。真っ先になのはが「フェイトちゃん。良かったら私たちの部屋に行こう?」って誘った。

「そうね。一度あんたとちゃんと話がしたいわ」

「うん。私もフェイトちゃんとお話ししたいな」

「「うんうん。好きな物とか好きな物とか好きな物とか♪」」

「好きな物ばっかりじゃないか2人とも」

「そうだね。ねえ、フェイト。この子たちの言う通り行こうよ」

アリサやすずか、セレネにエオス、アルフからもそう誘われたけど、フェイトはそれに応えず、ただじっとメインモニターに映るプレシアと武装隊を眺める。玉座に座るプレシアは包囲されようとも余裕を崩さず、うっとおしそうに隊員たちを見下ろしてる。
隊員たちがプレシアに罪状を告げ、そして武装解除して投降するように呼びかけた。そんな中、別小隊が玉座の間の奥に在る扉へと突入した。モニターが分割される。1つは玉座の間、もう1つは扉奥。扉奥に突入した隊員たちから送られてくる映像に、真実を知るわたし達は、しまった、と歯噛み。

「「「「「「え・・?」」」」」」

なのは達は大きく目を見開いて、モニターに映るあるモノに釘づけだ。そこは奥行きのある部屋で、両壁には生体ポッドが十数基、ズラリと並んでいる。そして部屋の中央、ただ1基だけが屹立している。その中身こそ、なのは達が驚き、わたし達が悔いる理由。
モニターを勝手に切れるだけの権限が無いわたしは、フェイトにこれ以上話を聴かせない方法として無理やり気絶させるかどうか迷った。玉座の間の映像に動きがあった。プレシアは自分を包囲する隊員たちを雷撃で一瞬にして戦闘不能にしたあと、

『私のアリシアに近寄らないでッ!』

悲鳴じみた大声を上げて、ポットの前に居る残りの隊員たちを雷撃で戦闘不能にした。さすが条件付きとは言えSSランク。あまりに圧倒的な攻撃力に、心底驚愕した。

「アリ・・シア・・・?」

フェイトが漏らす。そう。生体ポッドの中身は裸の少女――アリシア・テスタロッサ。プレシアの実の娘にして、フェイト・テスタロッサの・・・オリジナルだ。

『欲を言えば全てのジュエルシードが欲しかったのだけど、もういいわ。23個もあれば、アルハザードへの道は開けるでしょう』

「「「アルハザード!?」」」

アリシアのポッドに寄り添ったプレシアの独白に出て来た単語に、わたしとクロノ、リンディ艦長は今日一番の驚愕。アルハザード。忘却の都、禁断の秘術が眠る地、だとかいろいろ謳われる、もはや伝説とまで言われる世界の名前だ。リンディ艦長が「一体何を目的としてアルハザードを目指すのです!?」ってプレシアを問い質した。

『何を? 決まっているでしょう? 私の愛おしい娘、アリシアを蘇らせるのよ』

それがプレシアの目的だった。ジュエルシードの魔力で、次元の狭間のどこかに今もなお眠ってるっていう何の確証もない噂を信じてアルハザードへ行き、そこに眠る秘術でプレシアを蘇らせる。なんて馬鹿馬鹿しい大博打。ジュエルシード23個を同時に発動させたりなんかしたら、一体どれほどのシャレにならない災いが起きるか、判るでしょうが。

『もうたくさんなのよ。アリシアの代わりとしてフェイトを――全く役に立たない真っ赤な偽者を娘扱いするのは』

「偽者・・・?」

『そこに居るのね。いい機会だわ。ええ、そうよ。あなたのことよ、フェイト。せっかくアリシアの記憶を与えたと言うのに、見た目だけしか似ていない、正にお人形」

フェイトの呟きを聴いてそう答えたプレシア。もうダメだ。ここまで来たら、フェイトに聴かせないって選択肢はもうない。だからわたしは告げる。プレシアがムチャクチャなことを言いだす前に、わたしの口から・・・教える。

「プレシアが放逐された原因の魔導炉暴走事故の時、難しい話は省くけど、それに巻き込まれたプレシアの実の娘、アリシアは亡くなったの。その後、プレシアはある技術の研究を行い始めた。使い魔を超えた人造生命の生成、そして死者蘇生の技術。記憶転写型特殊クローン技術・・・プロジェクトF. A. T. Eっていう技術を。その研究の成果が・・・」

フェイト・テスタロッサ。彼女の真実。プロジェクトF. A. T. E。稀代の天才、プライソンが提唱・研究した技術。プライソンは性別・年齢・容姿・出身世界、現在の行方と言った個人情報を一切不明とする人物だ。わたしが説明を終えると、プレシアは『ええ。その通りよ』と認めた。
そしてプレシアはアリシアの思い出を語り出す。アリシアとフェイトを差別するために。フェイトと違ってアリシアは優しく笑う、フェイトと違って我が儘は言うけど、自分の言うことはちゃんとよく聴いてくれる、フェイトと違ってもっと優しい・・・。そのどれもがフェイトを拒絶して否定する、悪意に満ちた言葉。

「うるさい・・・!」

「もうやめてよ・・・!」

これ以上は本当にダメだ。プレシアの悪意でフェイトの心が壊れてしまう。それが判るから、わたしは、そしてなのはは止めに入る。それ以上、フェイトを苦しめるなって。

「けど所詮作り物の命は作り物よね。喪ったものの代わりになんてならなかった。いいフェイト? あなたは私の娘じゃない。ただの失敗作。もう顔を見るのも声を聴くのも嫌だわ」

「やめなさいよ・・・!」

「お願いだからやめて・・・!」

「もうやめろ・・!」

「「やめろって言ってるでしょ・・!」」

「プレシア・・・!」

アリサもすずかも、ユーノもセレネもエオスも、アルフもだ。怒りでどうにかなりそうだった時、ふと、「哀れね」口からそんな台詞が勝手に出た。プレシアが『なんですって?』と訊き返してきた。わたしは口が動くそのまま続ける。

「ジュエルシードを使ってアルハザードへ行く? 馬鹿言わないでよ。実の娘を喪った悲しみは、まぁ、子供のわたしにはまだ理解できないけど、でも何か大切な人を喪った悲しみはわたしにも解る」

1年ほど前、わたしは姉のように慕っていたシスターを病気で喪った。今でも悲しいけど、「でもね、失った命はもう取り戻せないんだ・・・!」って理解してる。立ち止まって、亡くなった人のことで自分を縛るとロクなことにはならない。プレシアっていう事例を見れば解る。忘れなくていい、悲しんだっていい。それが当たり前だ。でも死を認めずに、故人に執着するのはダメだ。亡くなった人の分まで歩いて、生きていかないと・・・ダメなんだ。

「それに。20年以上って時間が経ち過ぎてる。どれだけの秘術や技術でアリシアを蘇らそうとしても上手くいくわけない!」

『断言するじゃない。管理局の騎士がどんな高説を垂れるか、聴かせてもらうわ』

「フェイトがアリシアに似ないのは当たり前。個人がその個人足らしめるのは記憶じゃない、魂だもん。人格は、記憶じゃなくて魂の色にして精神の形。その両方がすでに存在していない、体だけの人間のクローンを生み出したところで同一人物にはならない」

そこで一度区切ってフェイトをチラッと見、プレシアに言ってやる。

「生まれるのは、どうしたって記憶を共有しただけの歳の離れた双子の妹だ!」

『妹・・・!?』

プレシアはなんか驚いたように目を見開いて、何かを思い出そうとしてるのか眉を寄せた。でもすぐに首を横に振って、キッとわたしとフェイトを睨んできた。結構な敵意を籠めて。

「だからプレシア。あなたがこれから何をしようともアリシアは帰らない! それこそ神様の奇跡くらいしか蘇らせる方法はない。でもそんなものは存在しない! もう自分を赦して、アリシアを解放してあげて! そしてフェイトを認めてあげて!」

次から次へとわたしの知らない知識が溢れて来た。気味悪がる前にそれをそのまま伝えたんだけど。プレシアは黙ったままわたし達を睨み付けている。嵐の前の静けさか、それとも解ってくれたのか・・・さぁ、どっち?

『フフ、フフフ。ハハ、アハハハ・・・アハハハハハハハッ!』

どうやら前者のようだったみたい。狂ったかのように大声で笑いだすプレシア。

『面白い、実に面白い話だったわ! だったら私は神の奇跡を起こして見せるわっ! いいえ! 私が神になって、アリシアの魂を呼び戻し、この綺麗な体に入れ直す! そうよ! アルハザードに眠る秘術の中になら、神へ至る儀式があるかもしれない!』

本格的におかしくなってしまった。神の奇跡、なんて言うんじゃなかった。

『だからフェイト。あなたはもう要らないわ。さっさと私の前から消え失せなさい!』

しまった。ここでフェイトの心への攻撃が再開されてしまった。食い止めようにもプレシアはそれを許さないとばかりに大声で攻撃を続ける。

『最後に良いことを教えてあげるわフェイト。あなたを作り出してから今日、この瞬間までずっと・・・大嫌いだったのよ!』

完全にフェイトの心を砕く一言を、フェイトが母親だとずっと慕ってきたプレシア本人が告げた。フェイトは手から待機形態の“バルディッシュ”を落とし、力なくその場で崩れ落ちた。咄嗟になのはとアルフが支えたけど、俯くフェイトからはもはや気力なんてものが根こそぎ無くなっていた。

「ちょっ、うそ、なにこれ! 庭園内に魔力反応が次々と発生!」

「魔力反応、いずれもAクラス!」

「その総数、60!? 80! まだ増えます!」

エイミィ達からそんな報告が入ると、アースラが大きく振動し始める。ううん、アースラじゃなくて空間そのものが振動してる。その原因は「次元震です!」だ。ジュエルシードが発動したことで、空間が揺らぎ始めた。

「このままでは次元断層クラスにまで行ってしまいます!」

「イリス! 出るぞ! プレシアの身柄を確保する!」

クロノが駆け出す。わたしも「了解!」応じてクロノを追って駆け出し、途中で騎士甲冑へと変身した。トランスポーターを目指して通路を走る中、「さっきのはなんだったんだ?」ってクロノが訊いてきた。さっきの。わたしが言っていた魂云々のことだろう。

「ん~と、なんかね、フワッて脳裏に過ぎったの。知っていたわけじゃないのに。けどまぁ、ちょうどいい知識だったから。使ってみた」

「例の発作か」

「発作言うな。それじゃ病気を抱えたイタイ子みたいじゃん」

わたしが時折感じてるデジャヴのことを、クロノは発作って言う。改めるようにお願いするんだけど聴いてくれない。

「まぁ、結果的に説得できなかったが、良いことは言ったと思う」

「・・・ありがと」

とりあえず褒められたと思ってお礼を言う。と、後ろから「シャルちゃん、クロノ君!」なのはとアリサ、すずかが追いかけて来た。

†††Sideイリス⇒なのは†††

迷ったけど、フェイトちゃんをユーノ君とセレネちゃん、エオスちゃん、そしてアルフさんに任せて、私とアリサちゃんとすずかちゃんは、クロノ君とシャルちゃんと一緒に時の庭園へと赴いた。通路に至る所に開いてる虚数空間っていう説明をシャルちゃんから受けながら走る。私はフェイトちゃんの力になりたい。

「テスタメントちゃんの言う通りだった・・・」

通路を走る中、私がそうポツリと漏らすと、「詳しく!」前を走るクロノ君がそう言ってきたから、フェイトちゃんとの戦いの最中にテスタメントちゃんが現れて、グランフェリアさんの洗脳を解く手助けとか、フェイトちゃんの真実で私たち全員がショックを受けることとか、それでもフェイトちゃんの友達でありたいと思い続けてほしいとか、を話した。

「あの子、どうやったそんな情報を仕入れたわけ?」

「判らないな。ただ、今言えることは・・・他のテスタメントが動き出しているかもしれないと言うことだ」

「どういうこと?」

「君たちには嘘を吐いた。テスタメントは逃げたんじゃなく、グランフェリアによって殺された、はずだった」

「「「え!?」」」

アリサちゃんの問いにそう答えたクロノ君。突飛すぎる話に驚く私たち。クロノ君は続けた。アルフさんがクロノ君たちに話して、私には隠していた事実を。テスタメントちゃんは、フェイトちゃんを人質に取られたことでジュエルシードをプレシアさんに全部渡して、そしてグランフェリアさんの、人を傷つけることの出来る物理破壊設定の魔法によって殺されたっていうのが、私たちに隠していた話。
けど生きていた。普通なら死んでもおかしくない怪我をしたのに、どうやって復活したのか。それにフェイトちゃんの真実を得た情報力。それらから他のテスタメントが動いているんじゃないかって、クロノ君は考えたみたい。

「どちらにしろテスタメントは動くはずだ。いま僕たちがこうしている間も何かを企んでいるかもしれない」

「うん。だからさっさとプレシアを捕まえる。あの子より早くジュエルシードを確保する!」

「「「うんっ!」」」

シャルちゃんの言葉に私たちは強く頷いて応える。走り続けて少し。通路とその先の空間を仕切る扉をシャルちゃんが「おらぁぁっ!」豪快なフルスイングで破砕した。

「お出ましだよ!」

扉の先、甲冑姿の巨人が部屋いっぱいにひしめき合っていた。部屋の奥、上階・下階に続く階段が見える。地下に行けば、プレシアさんの所へ着くはずだ。全部倒すのには骨が折れそうだけど、ここで足止めを受けてる場合じゃないのは判る。“レイジングハート”を握り直しているところに「うじゃうじゃと出て来ちゃってさ。ホント面倒」シャルちゃんが一歩二歩と前に躍り出て行った。

「ちょっと暴れてやりましょうかね。わたしが道を拓く。別に全部倒す必要ないしさ。みんなはわたしの後をついて来て」

「アレをやる気か。ま、下手に魔力も消費しないし、それで行こう」

シャルちゃんとクロノ君の会話について行けず、私たちは黙って見守る。シャルちゃんは「よしっ!」と気合を入れて、“キルシュブリューテ”を正眼に構えた。ゾワッと体が震えた。どうしてか判らないけど、シャルちゃんの纏う空気が変わった。

「剣神モード・・!」

――閃駆――

そう呟いたかと思えば、シャルちゃんの姿が残像を残して掻き消えた。遅れてキン、キン、キン、って金属音が目の前から連続で聞こえてきた。何事かと思えば、甲冑の巨人が次々と縦に横に斜めに真っ二つに斬り裂かれて崩れていく。

「イリスにはある能力が生まれつきあるんだ。絶対切断アプゾルーテ・フェヒター。魔力を使わずして彼女が手に持つ武装――刃物に限るが、その切断力を極限にまで上げる。魔法はもちろんアースラなどの次元航行船にも使われている特殊合金すらも紙のように切り裂くことが出来る」

「それってほとんど無敵じゃない!」

「うん。初めからその能力を使ってれば、テスタメントちゃんの強力な魔法にも対処できてたよね」

アリサちゃんとすずかちゃんの言う通りだ。魔法でも簡単に斬れちゃうんなら、まさしくシャルちゃんは最強かも。でもクロノ君は「そうとも言えないんだ」って言って、遠ざかって行くシャルちゃんの背中を追いかけるために駆け出して、私たちも続く。

「あの能力は加減が出来ないから、対人で使わないよう管理局から言い渡されている。当然と言えば当然だけど、一撃で致命傷を与えることが出来るからね」

「クロノ! 駆動炉はどうする!? ジュエルシードの魔力に当てられて暴走、誘爆したらシャレにならないよ!」

シャルちゃんが階段前で立ち止まって、クロノ君にそう訊ねた。クロノ君は少し考えて、「二手に分かれよう。プレシア逮捕組と駆動炉封印組に」って答えを出した。シャルちゃんとクロノ君の目が私たちに向けられる。チーム分けを考える為に。そして口を開きかけたところに、

「じゃああたしとすずかが行くわ。すずか、いいわよね?」

「そうだね。うん、私のスノーホワイトなら封印作業もきっと簡単だよ」

「それまではあたしがすずかを護るわ」

アリサちゃんとすずかちゃんがそう決めて、上階へ続く階段へ歩き出した。そんな2人に「じゃあ私も!」って追いかけようとしたけど、アリサちゃんが「あんたはダメ」って止めてきた。

「なのはちゃんはシャルちゃん達と一緒に行って。きっとすごい戦いになる。それにもしテスタメントちゃんが来るとしたら、きっとジュエルシードの在る場所、玉座の間だから」

すずかちゃんの言うことはもっともだ。でもだからってアリサちゃんとすずかちゃんの2人だけで行かせるなんて。別に2人の実力に不安っていうのは無いんだけど、でもどうしてか胸騒ぎがするんだ。迷っていると、「ダメだ。なのはも一緒に魔導炉封印組だ」ってクロノ君が反論することを許さないような声色で告げた。

「危険度で言えばそっちも高い。庭園の心臓である駆動炉だからな。防衛力で言えば最高クラスだろう。なのはの大火力も必要になるはずだ」

「そうね。プレシアはわたしとクロノに任せて。大丈夫。わたし達、強いから♪ テスタメントが来たとしても、絶対勝つッ!」

笑顔を向けて来るシャルちゃん。安心できる笑顔だ。だから私は「行こう、アリサちゃん、すずかちゃん」3人一緒に上階へ続く階段へ駆けだす。後ろから「よしっ、行こうクロノ!」ってシャルちゃん達が下階へ続く階段を駆け下りる音が聞こえた。階段を上がり切るとすごく大きな空間に出て、甲冑の巨人がズラリと並んでいるのが視界に入った。

「そんじゃいきますか!」

アリサちゃんが“フレイムアイズ”のカートリッジをロードして、刀身に炎を纏わせる。

「私たち3人だけで戦うのって、なんかすごく久しぶりに感じるね」

すずかちゃんは足元に藤紫色の魔法陣を展開、魔法発動の準備に入った。

「最後に3人だけで一緒に戦ったのって夜の学校で、だったっけ・・・? あれからまだそんなに経ってないのにね」

ディバインシューターのスフィアを6基と展開して、臨戦態勢に入る。でもそっか。まだ最近のことなのに、うん、やっぱり久しぶりな感じがするよ。思い出話もここまでにして、私たちに気付いて剣とか斧とか、武器を一斉に構える巨人に意識を集中。

「すずか、サポートをお願い。あたしとなのはで潰すわ。なのはもそれでいい?」

「うん、いいよ。ティファさんの治癒魔法のおかげで全快、絶好調だし」

ティファさんは私だけじゃなくてフェイトちゃんの負ったダメージも一瞬で治した、すごい女医さんだった。

「私とスノーホワイトのアイスバインドで先制するから、すかさず追撃をお願い!」

「「了解!」」

「なのはちゃん、アリサちゃん・・・跳んで!」

すずかちゃんのいきなりの指示に応えて、その場で大きくジャンプ。

「アイスバインド・・・!」

――氷の歌――

冷気の波がすずかちゃんを中心にして周囲へ勢いよく広がって、冷気の波を受けた巨人たちが一斉に凍り付いていく。宙でアリサちゃんと頷き合って、「いっっっけぇぇぇぇぇッ!」アリサちゃんと一緒に攻撃開始。

――ディバインシューター――

――フレイムウィップ――

その初撃で一気に5体倒す。そのまま攻撃の手を緩めることなく、次の部屋の扉へ続く道を開けるために、アリサちゃんは床に降り立って直接巨人たちに斬り伏せていく。私は宙に留まったままシューターでアリサちゃんを援護したり高速砲で巨人を叩く。すずかちゃんには攻撃に参加してもらわず、補助だけに専念してもらう。

「なのは、すずか! 全滅させる必要はないわ! ある程度減らしたら、すぐに上に行きましょ!」

「「うんっ!」」

アリサちゃんが6体目の巨人を裂き、私が10体目の巨人を撃ち抜いたところで道は開け、すぐさま扉へと突撃。扉を蹴破るように開けて、すぐさま閉める。すずかちゃんが「念のために」って扉に結界を張って、こっちへ巨人たちが追いかけて来ないようにロックした。でも、「あんまし意味ないみたい」私は今居る場所の状況を確認して、未だ扉に体を向けてるアリサちゃんとすずかちゃんに告げた。

「「うわぁ・・・」」

2人も振り返って、ここの状況を視認。今居る場所は、円柱形の大きな吹き抜け。その吹き抜けには飛行する甲冑の巨人が何体も居た。吹き抜け内を飛んだら一気に駆動炉に行けるなぁ。アリサちゃんも同じことを考えたようで「ブッ倒すわよ。近道近道♪」って手摺に足を掛けて跳び出した。
一番近くに居た巨人の頭の上に着地して、「タイラントフレア!」燃え盛る“フレイムアイズ”を頭に突き刺した。そしてまた跳んで、魔法陣を足場とする魔法フローターフィールドを展開してそこに着地。

「私も負けてられない・・・!」

――フライヤーフィン――

飛行魔法を発動して飛び立つ。と、一斉に攻撃してきた。それらを回避しながら高速砲、ショートバスターで迎撃。今まで倒してきた巨人たちと違ってかなり防御力が高くて、一撃だけじゃ撃墜できない。3発目でようやく破壊。1体に対して時間と魔力を無駄に掛け過ぎちゃう。だったら「ディバインシューター・・・シューット!」砲撃より魔力消費の少ないシューターで防御を削っておいて、すかさず高速砲でトドメ。

「やるじゃない、なのは♪」

「アリサちゃんこそ♪」

アリサちゃんは廊下や壁や魔法陣、巨人の体と、次々といろんな場所を跳び移りながら巨人たちを翻弄。すずかちゃんのバインドバレットで拘束された巨人の隙を突いて炎の剣や鞭で倒していってる。本当に負けてられない。一応、魔法使いの先輩だし。シューターからの高速砲って連続技で、私も巨人たちを3体倒す。

「2人とも! 上からも来ちゃうよ!」

すずかちゃんの声に反応して上を見上げる。腕自体が剣になってる巨人や、腕が数本ある巨人も降下してきた。とにかく降下の勢いを乗せた突進攻撃だけは受けれないから、回避限界距離にまで引きつけておいて避ける。そしてアリサちゃんは、すずかちゃんの居る場所とは反対側の廊下へ跳んで回避。私たちとすれ違って下層にまで落ちて行った巨人たちに向けて、砲撃を放つ。

「ディバイン・・・バスタァァァーーーーッ!」

だけど私が狙った緑色の巨人は動きは素早くて、紙一重で回避された。今度は急上昇してくるその巨人に向かって高速砲をお見舞いするけど、今度は装甲に弾かれた。機動力と防御力が高い。剣と化してる両腕の薙ぎ払いや振り下ろしを避けていると、

――バインドバレット――

すずかちゃんから魔力弾が5発と放たれてきた。その巨人は私のシューターのように受けても問題ないって判断したのか抵抗せず受け入れた。でもそれが致命的なミス。着弾した両腕と両足、腰にバインドが掛けられた。
すずかちゃんの「今だよなのはちゃん!」に頷いて応えて、「ディバインバスターッ!」至近距離からのバスターを食らわせる。今度こそ巨人はバラバラに砕け散って、その破片が下の方で戦ってるアリサちゃんと緑色の巨人に降り注ぐ。

「アリサちゃん!」

「っとと。大丈夫よ、なのは!」

アリサちゃんは破片と巨人の攻撃をなんとか回避。その様子に私は安堵。だけどそれがいけなかった。今は戦闘中。何が起こるか判らないのに。右側すぐの手摺の奥、壁を破壊する大きな音と一緒に巨大な斧が回転しながら私に迫って来た。

「なのはっ!」「なのはちゃん!」

頭に浮かぶのは防御一点集中。でも間に合うかどうか。と、その時。

――サンダーレイジ――

雷撃が降り注いできて、私に迫っていた斧を粉砕。それだけじゃなくて他の巨人たちも破壊した。私は頭上を見上げる。黄金に輝く雷撃。それを放つことが出来るのはたった1人。

「フェイトちゃん!!」

遥か頭上。そこにはフェイトちゃんとアルフさんが居た。

 
 

 
後書き
サルウス・シス。
ようやく時の庭園での決戦まで来れました。が、なんと前回のあとがきで予告したラスボス戦まで行けてない!
何故!? それは戦闘に突入する前に文字数が1万文字を突破したからです!。
ですのでラスボス戦は次回に持ち越しです。これは本当です!
今話の作中でいろいろと新設定が出て来ましたが、それは追々と言うことで。
 
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