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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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A's編 その想いを力に変えて
  26話:再開は病室にて

 
前書き
 
意外と時間がかかった二十六話です。
やっぱり戦闘描写ないと長くなるな……
  

 
 

意識が徐々に覚醒していき、重いまぶたをゆっくり開く。

「…また、ここかよ」

一番最初に見えたのは、半年前となんら変わらない天井だった。ただ前回と違うのは、医務室とかによくある薬品の独特のにおいが、前より若干強いぐらいか。

「んっ……また両腕に包帯か…」

少し締め付けられる感覚があったので、両手を動かしてみると、しっかりと両腕に包帯が巻かれていた。

〈体の各部に、打撲や多少の出血がありました。戦闘データを見た医者やクロノさんからは、よく骨が一本も折れていなかったなと感心していましたよ〉
「……トリスか」

そこへ聞こえる我が相棒の声。顔だけそちらに向けると、宝石部分を点滅させ、自分はここだと言わんばかりにアピールする腕輪―――待機状態のトリックスターの姿があった。

「戦闘データってのは?」
〈私が毎回、マスターの戦闘を記録にとっているんです。今回はあの怪人との戦いの映像を提供しました〉
「因に今回以前のデータは?」
〈破棄しています。必要ないと思ったので〉

まぁそれならいいか…、と思いながら両足を外に出して、ベットに腰掛ける形になる。

(今度はなのはの奴がいないみたいだな)

と、ここまでで前回と違う点を気にかける。
今回はここに運ばれてからそう時間が経っていない所為か、と思っていると、部屋の扉が開き、二つの人影が映る。

「士!?起きてたの!?」
「ん?フェイトか。あぁ、ついさっきな」

入ってきたのは昔懐かしの金髪の少女―――フェイトと、意識を失う前に最後に見た顔―――クロノだった。

……ちょっと後半は考えてる途中で吐き気がしたが。

「士、今失礼なこと考えただろ」
「…さぁな」

的を得たクロノの発言に一瞬ドキッとするが、すぐに平静を取り戻し、顔には出さずに曖昧な返事をする。
ナイス俺、ナイスポーカーフェイス!

ま、ふざけるのはこれぐらいにして……

「よっこいしょ」

と両手で腰を浮かせ、立ち上がる。

「―――お?」

だがベットの上に長時間寝ていたせいか、前のめりにバランスを崩す。

「っ、士!」

それを見たフェイトはすぐ俺に向かって駆け出してくる。
しかし俺は足を出して踏ん張り、フェイトを手で制す。

「大丈夫、この程度で倒れる程俺は柔じゃねぇよ」
「でも…」
「いいから、いいから。それよりも…」

何か言いたげなフェイトを遮るようにして言い、視線をクロノへ移す。

「なのはのやつはどうした?」
「あぁ、彼女なら君とは別の部屋で看てもらっている」

む、あいつ怪我でもしたのか?

「命に別状はないから、安心したまえ」
「なんだその言い方は」
「心配だって顔に出ているからな」

少し自慢げな表情で言ってくるクロノ。
まったく、さっきのポーカーフェイスはどこへやら、って話だな。

「それについさっき目を覚ましたという報告があってね。そっちに行くついでにここに立ち寄った訳だ」
「俺はついでかよ」
「なんだその言い草は。仮にも僕は君の命の恩人なんだからな?」
「は?なんでそうなる」
「あのとき僕が助けに来なかったら君は死んでいたかもしれないんだぞ?」
「へいへい、アリガトウゴザイマシタ」
「礼を言うならもっと気持ちを込めたらどうなんだ?」

クロノは呆れた口調で言ってくる。表情からも、不機嫌だということが丸解りだ。
まったく、こいつに助けられるなんてとんだ計算外だ。男に助けられるなんて描写、味気ないにも程がある。ましてやこいつにだなんて……

「また失礼なこと考えただろ」
「んにゃ、命の恩人に失礼なことなんか考えられませんよ」
「………」

今度は冷たい目で俺を睨みつけてくるクロノ。そんなクロノの横を通り抜け、部屋の外に出る。

「うわっ……なんじゃここは…?」

最初に目に入った光景は、近未来的な雰囲気を感じさせる、海鳴とは違った風景だった。

「ここは時空管理局本局。今アースラの整備の為にここまで来ているんだ」
「へ~ほ~。ま、今はそれはいいや」

俺の疑問にクロノは簡潔に答えてくれた。なんだ、てっきりアースラの中かと。
そう思いながら振り返ると、クロノとフェイトは共に部屋から出ていた。

「よし、行くなら早く行こうぜ」
「え?行くってどこに…?」
「なのはのところに行くんじゃねぇの?そこに行くついでに俺のところに寄ったんだろ?」
「まぁ、そうだが…」
「なら早ぇとこ行くぞ」

そう言って歩いていこうとすると、すぐ誰かにそれを掴まれた。

「だ、ダメだよ士!まだ体の方が…!」

袖を掴んで止めたのはフェイトだった。どうやら、俺の体の事を気遣ってくれているようだ。

「大丈夫だって言ってるだろ?俺の体のことは、俺が一番よく知ってるんだから」
「でも、一回は医者に看てもらった方が……クロノも何か言ってよ!」

フェイトはクロノに応援要請を出した!

「士、本当に大丈夫なのか?」
「何度も言わせるなよ。この間のよりはよっぽどマシだ」
「…なら、いいんだ」
「クロノ!?」

が、クロノはその申し出を受けず、俺が外に出ることをあっさりと認めた。

「意外だな。お硬いお前のことだから安静にしてろ、ぐらいは覚悟していたんだがな」
「それならベットから出る時点でバインドでもかけて、無理矢理寝かしている。それに……僕が言ったところで聞かないだろう?」

おっしゃる通りで……

「でも…!」
「あ~もう!いいから行くぞ!」

それでもまだ納得しないフェイトを押しやり、俺は廊下を歩き始める。

「士!」

そんな俺の背中に叫ぶフェイト。
そのとき、俺は大切なことをしてないのを思い出した。

「そういえば、まだ言ってなかったな…」
「え…?」


「久しぶりだな、フェイト」


顔だけ振り向かせてそう言うと、フェイトは顔を赤くして俯きながら、

「……うん、ありがとう」

と呟いた。

「それじゃ、いくか」

顔が赤いのは気にはなったが、俺はそれを指摘はせず、先を急ぐ。

だが―――


「士……そっち、道逆だよ」


……それを早く言って欲しかった。


















なのはが寝ている部屋に行ってみると、そこには白衣を着た中年の人と、俺と同じ病人(?)用の服を着て体を起こしているなのはがいた。

「あぁ、ハラオウン執務官。ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう」

入るとすぐクロノは外に連れて行かれ、部屋には俺達三人だけになった。

……なったんだが。
中々二人とも口を開かない。ちょっとした沈黙が続く。……ちょっと気まずい…。

「フェイトちゃん……」
「なのは……」

最初に口を開いたのはなのはだ。二人してお互いの名前を呼び合うと、二人の表情から暗さが少し消えた。

「あ、あの…ごめんね、折角の再会がこんなんで。怪我、大丈夫?」
「あ、ううん。こんなの、全然…それより、なのはは?」
「私も平気。フェイトちゃん達のおかげだよ。元気元気!」

なのははそう言って笑うが、フェイトは少し顔を俯かせた。後ろからは解らないが、おそらく……

「フェイトちゃん?フェイト、ちゃん…」

するとなのははベットから出て、フェイトのところへ行こうとする。
だがまだ万全ではないからか、なのははバランスを崩す。

「っ!?」
「なのは!?」

それを見た俺は、すぐに支える為に前に出ようとするが、それよりも早くフェイトがなのはを支える。

「あはは、ごめんね。まだちょっとふらふら…」

万全でないことは、なのはも解っているらしい。フェイトも心配そうになのはを見ている。

「助けてくれてありがとう、フェイトちゃん。それから…また会えてすごくうれしいよ」
「……うん、私も。なのはに会えて、うれしい」

そしてその気持ちを体現するように、二人はそっと抱きしめ合う。




(…俺、空気だなぁ……)

そんな光景を見ながら、俺は場違いな事を考えるのであった。

「士君?その腕の包帯は…?」
「んぁ?あぁ、これか。ちょっと怪人相手に手こずってな」

いつの間にか離れたなのはが、俺の腕に巻かれた包帯に気づいた。
俺は軽く腕を振って、影響がないという事を見せつける。

「……また、無茶しちゃったんだね…」

それを見たなのはは、少し硬い表情をする。全くこいつは……
そう思いながら手を伸ばし、なのはの頭に乗せる。

「お前が暗くなってどうする。今回は俺のミス。お前が悩む必要はないの」
「でも……」
「口答えするやつにはこうだ」

あまり素直な返事を出してくれないので、俺は両手でなのはの髪をぐしゃぐしゃと荒っぽくかき回す。

「わわっ、ちょ、士君!ちょっと痛いよ~!」
「痛くなるようにやってるんだ。当然だ」
「にゃ~!」
「つ、士もその辺で…」

結局、この悪戯……基お仕置きはクロノが戻ってくるまで続いた。


















いつもの服に着替え、次に向かった場所は……

「あっ」
「なのは、士、フェイト!」
「ユーノ君、アルフさん!」

なのはとフェイトのデバイス、レイジングハートとバルディッシュの修復を行っている場所。正確には「デバイスルーム」と呼ばれる場所らしい。
そこにいたのは、これまた会うのも半年ぶりのアルフと、クロノに無理矢理連れて行かれたユーノの姿だった。

「なのは、久しぶり!士も」
「なんで俺はいつもついでなのかね…」
「まぁまぁ、落ち込むところじゃないよ、士」
「黙れ、淫獣フェレットもどき」
「ひ、ひどい!クロノにもそこまで言われた事ないのに!」

とまぁ、再会のムードをぶち壊したユーノであった。

「壊したの士だよね!?」
「地の文を読むんじゃねぇよ、この淫獣フェレ―――」
「それまだ言うの!?」

さすがに泣き出しそうなので止めた。ユーノは耐久性に欠けるな……
そんな中、クロノの横にいたフェイトが、なんかの機械の上に浮いている待機状態の相棒の元へ歩いていく。

「バルディッシュ……ごめんね、私の力不足で」
「破損状況は?」
「……正直言って、あんまりよくない。今は自動修復をかけてるけど、基礎構造の修復が終わったら、一度再起動して部品交換とかしないと」
「つまり長い時間がかかるって訳か」
「そうだね」

ふむ…しかし二人がここまでやられるとはな……

「ねぇそういえばさぁ、あの連中の魔法って、なんか変じゃなかった?」
「あの連中?」

尻尾を振りながら、唐突にアルフが口を開いた。俺はその言葉の気になった部分を疑問形で聞いてみる。

「なのはを襲った奴らのことだよ。なのはがやられそうになって、私達が助けたんだけど、さらに二人の仲間がきて……」
「うん、話長そうだから後で聞く」
「聞いてきたのはそっちだろう!?」
「そうだな。彼等の使っている魔法は、おそらくベルカ式の魔法だ」
「「ベルカ式?」」

アルフの疑問にクロノが答えてくれるが、その意味が理解できずアルフと二人で聞き返す。

「その昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系だよ」
「遠距離や広範囲魔法を、ある程度度外視して、対人戦闘に特化した魔法で、優れた魔導師は、「騎士」と呼ばれる」
「そういえばあの人、“ベルカの騎士”って言ってた」
「確かに、俺が戦った相手もそう言ってたな」
「「「「「え?」」」」」

フェイトの言葉に同意するように俺も呟くと、皆が驚いた表情になる。

「……あり?言ってなかったっけ?」
「ううん、そんなの聞いてないよ!?」

俺の言葉に答えたのはなのは。他の皆もなのはの言葉に同意するようにうんうん、と頷いている。

「おい、トリス。これはどういう事だ?」
〈知らなくて当然ですよ〉
「それは何故?」
〈私がそんな事一言も話していないからです〉
「何故だ!?何故言わなかった!?」
〈必要ないと思ったので〉

もう…この子ったら……

「…はぁ……ということなので」
「いやいやいや、ちゃんと詳しく聞かせろ、士!」
「あぁもう!うるさいなこのやろう!」

クロノに詰め寄られ、俺はアイツとの…シグナムとの戦いについて洗いざらい吐かされた。

「で、その後あの怪人が現れて、君は…」
「負けた、という訳だ。ていうか、話逸れてないか?」
「あ、あぁ…ベルカ式についてか」
「ベルカ式の最大の特徴は、デバイスに組み込まれた「カートリッジシステム」って武装なんだ」

ユーノとクロノの説明によると、魔力を込めた弾丸を使って、自分の魔力にその弾丸に込められた魔力を上乗せして攻撃を仕掛ける、という理屈らしい。

「なるほどね…」
「いっぱい頑張ってくれて、ありがとねレイジングハート。今はゆっくり休んでてね」

なのは達が使う魔法はあくまでも遠距離重視。一気に至近距離まで詰められれば、戦いにくいのは確実だ。ましてあれ程の使い手だ。ここまで手負いになるのは、当たり前か。

「フェイト、そろそろ面接の時間だ」

切りのいいところで、クロノがフェイトに声をかける。
面接?なんの?、と聞こうとすると、それより先にクロノが口を開ける。

「なのは、士。君達もちょっといいか?」
「「…?」」

俺となのはは顔を見合わせ、共に頭の上に?マークを浮べた。


















「失礼します」

クロノが礼儀よくそう言って、ある一室に入る。そこにはいかにも階級が上だという感じの制服で身を固め、見事なまでにヒゲが特徴の人物がいた。
四十代…いや、確実に五十代はいってるな。

「クロノ、久しぶりだな」
「ご無沙汰しています。グレアム提督」

提督だと?それって確かリンディさんもその階級だった筈……
そう考えているうちに紅茶まで出され、クロノ以外の俺達三人は、部屋にある大きめのソファーに腰掛ける。

「保護観察官といっても、まぁ形だけだよ。リンディ提督から先の事件や、君の人柄についても、聞かされたしね。とても優しい子だと」
「ありがとうございます」

保護観察官。俺の記憶が正しければ、罪を犯した人が出所していく時に、健全な社会生活が送れるようサポートする職業…だったか?確か公務員だった筈。
そう考えながら目の前に置かれた紅茶に手をかけ、口にする。

―――めっさうまい…

なんだこのうまい紅茶は。このオヤジ、意外にできるな。

「ん?なのは君と士君は、日本人なんだな。懐かしいなぁ、日本の風景は」
「え?」
「私も君達と同じ世界の出身だよ。イギリス人だ」
「―――っ!!?」
「えぇぇ!?そうなんですか!?」

俺達のプロフィールでも書かれたものを呼んでいたのか、グレアム提督はいきなりそんな事を言い出した。
危ない危ない、折角の紅茶を危うく吹いてしまうところだった。

「あの世界の人間のほとんどは、魔力を持たないが、稀にいるんだよ。君達や私のように、高い魔力資質を持つ者が。ははっ、魔法との出会い方まで、私とそっくりだ」

グレアム提督曰く、なのはの出会い方で、倒れていたのが人間だった、ということらしい。しかもそれが五十年以上前。つまり十代にそれがあったとして、この人は六十代ということになる。恐るべし……
ていうか、俺はなのはとひとまとめにしてあるのだろうか?後でクロノに聞いてみるか。

それにしても……

(だからこんなに紅茶がうまいのか…)

他の次元世界にも紅茶の文化はあるだろうが、グレアム提督がイギリス人だとすれば、ある程度納得できる。さすがは一日平均五~六杯は飲む国の生まれの人だ。

「フェイト君。君はこの二人の友達なんだね?」
「はい」

そう思っている間にも、会話が進んでいく。

「約束して欲しいことは一つだけだ。友達や、自分を信頼してくれる人のことは、決して裏切ってはいけない。それができるのなら、私は君の行動について、何も制限しない事を約束するよ。できるかね?」

グレアム提督が先程までの柔らかい表情とは違い、真剣な眼差しでフェイトに語りかける。
クロノは目線だけを、俺は紅茶に口を付けながら、なのははしっかりと顔を向けてフェイトを見る。

「……はい、必ず」
「うん、いい返事だ」

フェイトも真剣な表情でそう答え、グレアム提督もそれを聞いた瞬間に、先程までの柔らかい顔に表情を戻す。

部屋を去る際、グレアム提督に一礼する。礼儀はしっかりしないとね。
最後に、クロノが外へ出る際、振り返りグレアム提督に向き直る。

「提督。もうお聞き及びかと思いますが、先程自分達がロストロギア、「闇の書」の捜索、捜査担当に決定しました」
「そうか、君がか……言えた義理ではないかもしれんが、無理はするなよ?」
「…大丈夫です。“急時にこそ、冷静さが最大の友”。提督の教え道理です」
「ん、そうだったな」
「では」

そうしてクロノもグレアム提督に一礼し、部屋を出た。
俺達全員が出た事ところを見計らってか、部屋の扉が閉まり始める。


だがその一瞬、俺はグレアム提督の目の奥に、黒い“何か”を感じた。


















場所は変わり、八神家にて

「はやてちゃん。お風呂の支度できましたよ」
「うん。ありがとう」
「ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいなさいね」
「は~い」

そこでは、以前士が出会ったこの家の主である八神はやてと…つい数時間前になのは達を襲った魔導師、ヴォルケンリッターの面々がそろっていた。

「明日は朝から病院です。あまり夜更かしされませんよう」
「は~い」

士と戦った桃色の髪の剣士―――シグナムは、読んでいた新聞をたたみながらはやてに言う。

「では…よいしょっと。シグナムは、お風呂どうします?」
「私は今夜はいい。明日の朝にするよ」

床に座ってテレビを見ていたはやてを抱きかかえる女性―――シャマルは、シグナムにそう聞く。だがシグナムはそれをやんわりと断る。

「そう…」
「お風呂好きが珍しいじゃん」

少し意外だ、という顔で聞いてくるのは、最初になのはを襲った赤毛の少女―――ヴィータだ。

「たまにはそんな日もあるさ」
「そなら、お先に」
「はい」

そのヴィータの言葉にも軽く答えるシグナム。
シャマル、はやて、ヴィータの三人が風呂場へ向けリビングを出ると、それまで静かに座っていた青い犬…もとい狼―――ザフィーラが静かに口を開く。

「今日の戦闘か…」
「……敏いな、その通りだ」

ザフィーラに見えるよう服をめくると、シグナムの腹に一筋の痣が浮かび上がっていた。

「お前の鎧を打ち抜いたか」
「澄んだ太刀筋だった。良い師に学んだのだろうな。武器の差がなければ、少々苦戦したかもしれん」

そう、その痣は自分が戦った少女―――フェイトがつけたもの。武器が振るわれたのは一瞬だったが、その一撃はシグナムの鎧―――バリアジャケットを抜け、本体の方にも影響を与えていたのだ。

「だが……それでもお前は負けないだろう」
「…そうだな」
「それにしても……奴は何ものなのだろうか」

まっすぐとシグナムを見ながらそういうザフィーラ。彼のいう“奴”のことは、言われなくてもわかる。

「―――ディケイド」

フェイトと戦う前に戦った、自らを“仮面ライダーディケイド”と名乗ったあの男。シグナムと剣を交わし、また姿を変え空で剣を交えた。

「あの男の剣、その奥に強い何かを感じた。とても強い……決意のようなものを。一撃一撃にその思いが込められていて、どれも重い一撃だった」

実際のところ彼の一撃を受けたシグナムの手は、フェイトと戦っている最中もずっと震えていたのだ。それ程に強く、重い剣だった。

「だが、我らにもやらればならない事がある。それを成すまでは、止まる訳にはいかない」
「……そうだな」

シグナムは腰をソファーから上げ、八神家の庭に繋がる窓へ歩いていく。その手には一冊の本―――闇の書があった。

「我ら、ヴォルケンリッター。騎士の誇りにかけて……必ず」

窓越しに空を見上げ、シグナムは小さくそう呟いた。

  
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