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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
転章・約束
  黎明

 
前書き
ついに……!? 

 
27層ボス攻略から3日後の1月11日。学校が終わった後、明日奈は自宅の玄関先で人を待っていた。中で待っていない理由はまだ母親との関係があまりよろしく無いのと、わずかばかりの緊張があるからだ。
やがて、家の前に待ち人がバイクでやって来て、バイザーを右手で押し開けた。

「……寒くなかったか?」
「今は家の中の方が寒いのよ」
「……大変だな」

微妙な表情をした螢はタンデムシートの下からもう1つヘルメットを取り出すと明日奈に手渡した。
和人のバイクには何回か乗せて貰っているので、慣れた手付きでハーネスを留め、タンデムシートに跨がる。

「……いいなあ。私も免許取ろうかな」
「……車のにしとけよ?」

軽く返事をしながら螢の腰に手を回す。明日奈がしっかりと掴まったのを確認すると、螢は静かにバイクを発進させた。



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神奈川県横浜市都筑区。新緑の丘に囲まれ、辺りには首都圏とは思えないほどのどかな佇まいだ。

螢は【横浜港北総合病院】という建物の駐車場にバイクを乗り入れると、ライダージャケットの裏から半分に折った紙を取りだし、明日奈に渡した。

「それを受付に出して待っていてくれ。木綿季の担当医の人が来てくれる」
「……分かった」

土地に余裕があるせいか、駐車場は都心のものに比べると段違いに広い。
1分程歩いて建物に入ると、明日奈は正面の面会受付カウンターに向かった。

「あの……」
「はい。面会ですか?それでしたらこちらの用紙に名前と住所を書いてください」
「えっと、後から来る人の付き添いで、これを渡せば分かるって……」

半分に折った紙を渡し、担当の看護師は用紙と明日奈の顔を暫く交互に見ていたが、やがて奥に居た年配の看護師にそれを渡すと、銀色のパスカードを2枚差し出した。
丁度その時、螢が二重扉を潜って受付にやって来た。明日奈が手に持ったパスカードを見て頷くと、明日奈を促して4階にまで昇る。
螢は4階の受付にカードを渡し、何ごとが受付の看護師に言った。看護師は神妙な顔つきで立ち上がると、奥の内線を取って何かを話している。それから10分程で待ち人はやって来た。

「やあ、お待たせしました」

やって来たのは小柄で少し肉付きのいい男性医師だった。まずは明日奈に会釈し、それから螢に向き直った。

「螢君も、久しぶりだね」
「ご無沙汰してました」

いつに無く緊張した螢の声は大分強張っている。恐らく、本人も相手も気がついていないほど僅かな差。
明日奈でさえ、違和感を感じ取れたのは最近よく話す機会があったからだろう。

「明日奈、こちらはユウキ―――紺野木綿季の担当医の方で、倉橋先生だ」
「始めまして。倉橋と申します。結城さん、よく訪ねて来てくれました」
「は、始めまして。こちらこそ急に無理を言ってすいませんでした」
「いえいえ。丁度今日は主治医の方が見えているから、今日の午後は非番なんですよ」

主治医と担当医の違いに気がつかなかった明日奈はチラリと螢の方を見た。
そこには何故か青ざめて、頬をピクつかせる螢が居た。

「主治医……木綿季の、ですか……?」
「何を言っているんだい螢君。当たり前じゃないか。雪螺先生以外に誰が居ると言うんだい?」
「……どうしよう。帰りたくなってきた」
「な、何で?」

突如にしてぞわぁ、と黒いネガティブオーラを出し始めた螢に慌てて問いかけると、彼は心底嫌そうに答えた。

「木綿季の主治医のフルネームは『水城雪螺』。俺の、母親だ」






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水城雪螺。某T大学医学部を首席卒業後、外国へ留学。各地で医療を学び、帰国後、結婚し一子をもうける。
以後、国内のあちこちでゼロコンマ以下の成功率の難手術、治療を成功させ、『神医』と言われるようになった。
現在は治療不可能とされる感染症『AIDS』の研究を行い、少しずつ結果を出している。

「水城先生の研究によるAIDS治療法は理論上もう確立しています。……ただ、まだ正式な認可が下りていないために治療は始まっていません」

倉橋医師はもどかしそうに明日奈に告げた。場所は移って病院最上階【第一特殊計測機器室】


―――《絶剣》ユウキ、紺野木綿季の『病室』前だ。


螢の家に押し掛けたその夜。彼が語った2人の昔話は決して綺麗なものばかりではなかった。

水城螢を灰色の世界から救い、生きる意味を与えたのは、木綿季だった。今の彼は木綿季から貰い、彼女の言葉が彼を『日常』に繋いだ。
そして今日、明日奈は最後のピース、木綿季と螢の『秘密』を知った。皆の為に強くあらんとする少女、そして彼女の為に日常を捨てて、影に生きた少年。2人は漸く再会を果たした。

「………………」

木綿季はベットから起き上がり、ガラス越しに螢と見詰め合っていた。

本来だったならば、木綿季は様々な感染症で起き上がるのも儘ならないはずだったが、目の前の彼女はその愛らしい顔を綻ばせ、螢を見ていた。
木綿季は免疫力が落ちたところを肺炎にかかり、そのまま入院した。AIDSの恐ろしいところは1つの病が完治しても体内の菌から次々と感染症に掛かってしまうことだ。おまけに木綿季のウイルスは《薬剤耐性型》、対AIDS用の抑制剤が効きにくい厄介なものだった。
しかしそんな時、驚くべきとこから助けの手が伸びた。時の厚生労働大臣直々の援助の申し出で、内容は医療費関係費の全額請け負い。

ただし、対価として当時試作機段階だった《医療用ナーヴギア・メディキュボイド》及び、今後の後続機のテスターを引き受ける事。木綿季は当時はまだ生きていた家族と相談し、その条件を飲んだ。
そして、メディキュボイドはデリケート故、通常の環境では運用が難しいため、木綿季は機械と一緒に無菌室に入った。

「つい1年ほど前までは体内の細菌による日和見感染やAIDSそのものを原因とする脳症が深刻でしたが、これも水城先生の処置のお陰で大事には至ってません」
「じゃあ……?」
「ええ私も、実を言うと諦めていたのかもしれません。メディキュボイドのテスターを引き受けさせ、他の治療の機会を狭めてしまったのですから……」

倉橋医師は穏和な目付きを少し険しく―――何かを畏怖するようなものに変えて呟いた。

「それをくつがえしたのが『神医』水城雪螺先生でした。……螢君が彼女の息子と知った時は流石に驚きましたよ」

その言葉を最後に場に沈黙が降りた。明日奈は視線の先にある2人の姿を見て、言葉を失っていた。そこに居るのはただ互いを想い合い、長い長い時間を掛けてようやく巡り会えた2人の姿。

何より、初めて見るかもしれない、螢の本当に幸せそうな笑みはつい明日奈までつられて微笑んでしまうほど綺麗なものだった。

と、その時

「邪魔するよ、倉橋先生」

入ってきたのは長身白衣の女性。化粧の類いは一切せずに、顔の不健康そうな隈を隠そうともしていない。

それでも明日奈はその人物から滲み出る独特のカリスマ性――――血盟騎士団団長ヒースクリフと同質のそれを感じ取っていた。

「やあ、不良息子。元気してるかい?」
「……あんたが今日来てるって聞く前まではすこぶる元気だったよ」
「ふむ。それは気の毒だね。まあいい、少し話して行くかい?隣の部屋にフルダイブ機が何台かあるが」

螢は雪螺の差し出したパスカードを受けとると、明日奈と連れ立って隣の部屋に移動した。






___________________________





Sideレイ


22層の自分のプレイヤーホームで目覚めた俺は起き上がると同時に飛び上がり、そのまま天窓(ALOにはリフォームオプションがある)から外へ出る。
アルヴヘイムの時刻はまだ朝のようだった。

そのまま空中で待機していると木々の合間からアスナが飛んできた。

「随分と早かったな」
「目が覚めたらすぐ飛び起きて窓から出てきたんだもん。まだ一歩も歩いてないよ」
「……そうかい」

何故かドヤ顔。突っ込みたいのを抑え、主街区の方に体の向きを変え、やや急いで飛んでいった。



24層主街区パナレーゼ


少し前までユウキが辻デュエルをしていた湖の畔に到着すると、アスナはそこに留まった。俺はそのままゆっくりと飛んでいき、デュエルのフィールドだった小島に降り立って巨大な樹に向かって歩き出す。霧のかかった朝の空気の中、静かにたたずむ濃紺の髪の少女。

「ユウキ」
「螢……っと、こっちではレイだったよね」
「今はいいよ。俺は螢として木綿季に会いに来たから」
「……うん」

一歩ずつ彼女に近づき、1メートル程の距離を空けて立ち止まる。

そして、ようやく向き合う覚悟が出来た相手、ユウキに俺は長い間心に溜め込んでいた言葉を口にした。

「ごめん。約束、全部は守れなかった」


たった一言。
されどそこに込められた彼の懺悔、後悔、謝意は何よりも重く、意味の深いものだ。
そして、さといユウキは分かっていた。

彼が、どんなに頑張っていたかを。

世の中は結果を伴ってこそその過程を評価される故に、木綿季は螢を糾弾する権利があった。
何故最初から彼女の両親を助けようとしてくれなかったのか。同じ待遇だったはずの姉だけ、何故先に逝ってしまったのか……。

彼には彼の事情があり、そもそも当時の彼は精神的に幼く、その均衡の限界が近かった。
しかし責任を負った以上、それは果たされるべき人としての責任だった。


螢は長い間、この時を待っていた。


何よりも大切で、自分の全てを投げ打ってでも助けたいと願った少女から拒絶され、断罪の言葉を言われる事を。

―――それで全てが終わる。哀れで中途半端な『水城螢』は消え去り、暗闇に生きる人間の『水城螢』が生まれる。
もう『日常』には戻らず、逆らわず、ただ襲い来る敵を打ち破り、何度目か知れぬ戦いの中で死に、忘れられていく。そんな存在になることを彼は望んだ。だから―――、

「……ぃ……螢っ!!」


小さな体が目にも留まらない速さで彼に飛び付き―――、


「なんで……何で、謝るの?螢は何にも悪いことしてない。……ボクの方が、螢の事を縛ってるとおもってたのに!!……謝らなきゃいけないのは、ボクだよ!!」

彼にとって、思ってもいなかった言葉を聞いて、絶句する。
バランスを失った体は地面に倒れ、仰向けの体の上には小柄なユウキの体が乗っていた。
訳が分からなかった。どうして木綿季が謝るのか。木綿季が俺を縛っていた?


違う、俺が自分で自分を縛ったのだ。しかも緩めに……僅かばかりの自由すら自分に許して―――、


「……俺は、ランを、お母さんとお父さんを、助けなかった。木綿季の家族を、殺したんだぞ?俺が悪くない?……どうしたら、そんな風になるんだよ!?」
「違うよ!姉ちゃん達が死んだのはウイルスのせいだよ!……螢は殺してない。……螢は悪くないんだ。ボクが……ボクが謝りたいのは、過剰に期待して、螢を追い詰めた、ボク自身の事。だから―――、」


聞きたくなかった。自分が赦される言葉など。そんなものを聞かされても生き地獄なだけだ。しかし、木綿季の言葉は容赦なく耳に入ってくる。

「ごめんなさい。もう、無理しなくていいよ」



――ああ



「苦しまないで」



――やめてくれ



「これからは―――」



――どうして



「―――ずっと、一緒に居よう?」



――君はそこまで優しいんだ



木綿季の心が伝わってくる。暖かな、落ち着く、心地のいいものだ。

「ボクは、生きてるよ」

「…………………」

「螢は会いに来てくれたね」

「…………………」





「……約束。―――助けて」

「……ああ。もちろんだ」

仰向けのまま、木綿季を抱き締める。あの時より強く、確かな想いを込めて。
この小さな少女は赦してくれた。
生き地獄だと思わせすらせずに、暖かく、迎え入れてくれた―――、


「螢……」
「……うん?」


「―――――」


―――彼が思いもよらなかった、驚きの言葉と……行動と共に。

体を硬直させ、必死に頭を働かせようとする。言われた言葉の意味と、口許に残る、仄かな温かみの意味を理解しようとして。
木綿季はスッ、と顔を上げると、僅かに頬を染めながら呟いた。




「……あの時の仕返しと、ボクの気持ちだから」


 
 

 
後書き
イチャイチャシーンなんて書けるかぁぁぁぁぁっ!!

……取り乱しました。すいませんorz

特に書くこともないので、次回予告。
ユウキがプローブで学校に来ます。以上(オイ)

ノシ 
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