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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第21話 馬鹿な上司ほど部下が集まりやすい

 自然の生い茂る一帯。其処に明らかに似つかわしくない物が居た。全身ヌルヌルな体表で覆われたヌルヌルした鳥の様な生き物であった。
 恐らく、これもロストロギア、ジュエルシードの暴走による産物と思われる。しかも、このロストロギアかなり匂うのだ。どれ位匂うかと言うと三日前に牛乳を拭いた雑巾のおよそ100倍位の臭いが漂っているのである。
 もうめっさ臭いのである。はっきり言って近くに居ると余りの臭気に発狂しそうになってしまう事請け合いであった。
 そんな悪趣味な敵を相手に銀時達は今、必死に交戦をしていた。

「くっせぇ! 何だよこいつ。今までの奴等みたいにベラボウに強いの出せってんだよ! 何だよこいつ、力で勝てないからって今度はこっちの戦法で来たってかぁ? くそっ、鼻が曲がる。余りの臭さで涙が出て来やがった」

 鼻を抑えながら訴える銀時。幾ら匂わないと願掛けしても匂う物は匂うのだ。しかもかなり高レベルの匂いが。
 その余りの臭さを耐える為にその場に居る一同は皆片手で鼻を摘みながら闘う羽目になる。つまり、必然的に片手を封じられる形となってしまったのである。
 敵の巧みな戦術でもあった。

「ぎ、銀さん! 余りの臭さに僕の意識がもうやばいんですけど」
「バカヤロー! 折角前回の話で俺達がようやく戦えるって事になったんだぞ。諦めんな新八ぃ!」

 そうは言うが、実際に銀時自身もかなりやばめである。もう余りの臭さに頭がフラフラしだしてきた。匂いで頭がやられるなんて生まれて初めての経験でもある。
 それに、このままでは奴の匂いが服や体に染み付いてしまいそうだ。そうなる前に決着をつけねばならない。

「銀さん、此処は僕が押さえつけますからその隙に仕留めて下さい!」
「ユーノ、お前やれんのか? 間違っても奴の体液なんかこっちに飛ばすなよ! 飛ばしたらお前デコピンだからなぁ!」
「そんな凡ミスしませんよ」

 念を押しながらもユーノは前に歩み出る。そしてヌルヌルの鳥の前に立つと両手を翳す。

「チェーンバインド!」

 翳した両手から鎖状のそれが飛び出しヌルヌルしている鳥の周囲を雁字搦めに拘束していく。突然身動きがとれなくなってしまった事に驚いた鳥がばたつき始めるが、既に遅しであった。ヌルヌル鳥の体にユーノの放ったバインドが絡みつききつく締め上げる。

「銀さん、今です! 今の内に奴をしとめて下さい!」

 動けない今が絶好の好機。そう踏んだユーノは銀時達に向かい声を張り上げる。その声を聞き、銀時を筆頭として、神楽、新八の三名は一斉にヌルヌルした鳥へと攻撃を行うべく近づいていく。
 だが、近づけば近づく程匂いがきつくなりだし、ついには激しい目眩の為にヌルヌル鳥からおよそ20メートル手前で近づけなくなってしまった。

「ど、どうしたんですか銀さん! 早く攻撃して下さいよ!」
「駄目だ、無理! 俺には出来ない。余りに臭過ぎて近づけない! 新八、神楽、お前等のどっちかが頼むわ」
「む、無理です……流石に僕でも無理!」
「臭すぎるアル! これ以上近づいたら私、ヒロイン史上最悪の暴挙に出てしまうかも知れない……ウップッ!」
(どいつもこいつも使えねえええ―――!)

 心の声であった。折角ユーノが初の活躍を見せたと言うのに、肝心な時に至ってこいつらが使い物にならないと言う場面に心底ガッカリしてしまう次第である。
 しかも、その間にもヌルヌル鳥は激しく暴れまくっている。このままではバインドも限界になる。その前に何とかして仕留めないと流石にヤバイ。

「良いから早く攻撃して下さいよ! それでも主人公ですか? 情けない事海の如しですよこの駄目人間!」
「んだとゴラアアアアア! 上等じゃねぇか、てめぇに其処まで言われた以上黙ってられねぇ! 見てろやコノヤロー! 主人公の実力ってもんをよおおお―――!」

 流石にユーノに其処まで言われたら黙ってられなかったのだろうか。鼻にツンと来る猛烈な臭気に必死に耐えながらも銀時は飛翔する。そして、ヌルヌル鳥の脳天から尻尾の先まで一直線に木刀の縦一閃が刻まれる。
 縦一文字に切り裂かれたヌルヌル鳥はそのまま真っ二つになり、左右に分かれて地面に激突した。二つに分かれたヌルヌル鳥は、そのまま眩い光となりその姿を変貌させていき、遂には青い宝玉と小さな鳩がその場に姿を残す結果となった。

「や、やりましたねぇ銀さん」
「おう、しかし流石は魔法の力って奴だな……今まで戦えなかったロストロギアがまるで豆腐みたいにすっぱり切れるぜ」

 銀時は呟きながらも自分自身の愛刀である洞爺湖を見た。実は銀時達は此処に戦闘に訪れる前に各々の武器にある程度の魔力コーティングを施しておいた。これによりある程度ではだがロストロギアと闘う事が出来るようになったのである。
 しかし、それでも闘う事が出来た、と言うだけであり銀時達だけでロストロギアを仕留めるのは難しい為、やはりこの世界の戦力の援助は必要になる。
 しかし、それでも今までよりは闘えるようになったと言うのはかなり有り難い話でもある。

「あ~、臭ぇ臭ぇ。服にまで匂いが染み付いちまったよ。さっさと帰って匂い取らないと不味いなぁこりゃ」

 よほど匂いが気になるのか服に鼻をひくつかせる銀時。今回の相手はある意味で辛い相手であったと言えるだろう。なにせ、正攻法では来ずに変性球にも似た戦法で来たのだから。
 この戦法で来た事事態にジュエルシードが知識を得た事が伺える。やはり、これ以上時間は掛けられないだろう。下手に時間を置けばその分奴等は知恵を身につけて恐ろしい化け物へと変貌してしまうのだから。

「何はともあれ、無事に回収できましたね」
「何が無事だよ! この匂い取れんのか? 取れなかったらこれかなりやばいぞ」
「知りませんよ」

 無情に切り捨てる新八。流石に毎回ツッコミしている余裕もないのだろう。しかし、ツッコミが生き甲斐の新八がツッコミを面倒臭がってたら存在その物が危うくなる危険性があるのでは。

「そう言えば、別の場所に向ったクロノ君や真選組の人達は大丈夫でしょうか?」
「心配するだけ無駄だろ? 仮にも俺達の世界をそれなりに守ってた税金ドロボーだしな。それに、あいつらにはあの執務官殿がついてんだ。心配する要素事態皆無だろうな」

 その話をした後、別の方でまた同じく戦闘を行い無事にジュエルシードの回収を終えたと言う報告がこの後告げられたのは新八の記憶に新しい限りであった。




     ***




「此処も……駄目か―――」

 フェイトは、戦闘が終わった海岸を見て一人そう呟いていた。今まででは常にフェイトが先手を切る事が出来た。何せ相手である銀時達はこの世界の人間ではない為に満足に闘う事も出来ない上に魔力を持っておらず、従ってサーチも出来ない為に常にこちらが先んじて行動出来たと言う利点があった。
 だが、管理局との共闘によりその利点は崩されてしまったのだ。魔力もサーチ能力も向こうが一枚上手となってしまった。その上戦力的にも増強されてしまい、最早今までの有利さは影を潜めてしまっていた。

「もう、無理だよ。フェイト」
「アルフ―――」

 アルフの声に覇気がない。普段は元気の塊なアルフがこんなに切ない声を発する事は滅多にない。

「何時に無く弱気だね?」
「そりゃ弱気にもなるよ。あの管理局が本腰上げて来たんだよ。あたしらだけじゃどうにもならないよ」

 元々管理局との遭遇は念頭にあった。しかし、それよりも早くに回収を済ませる腹積もりでやってきていたのだ。それが銀時達との遭遇と言う思いも寄らないトラブルにより時間を食ってしまい、今回の結果に至ってしまったのである。

「それに、あいつらの世界の仲間みたいなのも居るし、完全に数じゃあたしら不利だよ」
「かもね」
「フェイト、もう止めようよ。これ以上無理したって集めきれないって」

 アルフが言うのも最もだったと言える。この世界に散らばっているジュエルシードは恐らく残り6個。その残りを何としても管理局よりも先に手に入れねばならないのだ。
 だが、そんな事は実質無理がある。魔力サーチ能力も魔力性能も向こうが上だからだ。
 管理局には高度なサーチシステムがあるし、前回刃を交えたあの執務官は本気こそ出していないだろうが恐らく実力はフェイト以上にある。
 真正面から闘ってもまず勝てないだろう。そんな相手を今フェイト達は前にしていたのだ。
 アルフが弱気になるのも頷ける気がしてきた。だが、フェイトは諦める訳にはいかないのだ。

「でもね、私は諦める訳にはいかないんだよ」
「あの鬼婆の為ってんだろ? あんたがあの時だって必死に集めたのにあいつは何したのさ? 何もしてくれなかったじゃないか! それ以上にフェイトの頼みすら聞いてくれないし、もうあんな奴の言う事聞く必要なんかないって!」


 涙目になりながらアルフは必死に説得を試みていた。もうこれ以上自分の主が傷つくのを見ていられないのだろう。これ以上無駄な抵抗をしても結果は見えている。良くて管理局に捕縛されるか、悪くて野垂れ死に。選べるとしたらそれ位しかない。
 今の二人に勝利の二文字は霞んですらないと言える。
 敗北か死か、その二択しかないのだ。

「アルフにとっては鬼婆かも知れないけど、私にとっては大切な母さんなんだよ。それに、私は母さんの為だけに集めてるわけじゃないよ」
「知ってるよ。あの子の為だろ? それはもう解決したじゃないか!」

 あの子と言うのは言わずもかななのはの事である。この世界に来て初めて出来た異世界の友。自分にとって心から信頼出来た親友と呼べる存在。命を賭けてでも守りたいと誓った少女。それがなのはだった。
 だが、彼女は今側には居ない。激戦の後マンションに戻ったとき、其処には既に姿がなかったのだ。
 どうやら戦闘を行っていた際に管理局に保護されていたそうだ。だが、それは逆に安心出来ると言える。
 管理局でならばなのはの体に起こっている異変をどうにか出来るかも知れないからだ。
 しかし、念には念を、と言う言葉がある。もしも管理局でどうしようもなかった時に備えてジュエルシードを全て集めておく必要があるのだ。

「私は、もう一度なのはに会いたい。そして、今度こそ私が絶対になのはを守り抜いて見せる!」
「フェイト―――」

 もう、今のフェイトに何を言っても無駄だった。フェイトの決意は固かったのだ。
 今更アルフ一人が説得した所で聞き入れてくれる筈がなかった。その現実にアルフは酷く落胆していた。

(だめだ、やっぱりあの子じゃないと、フェイトは言う事を聞いてくれない。こんな時、あの子が側に居てくれたらどんなに心強い事か―――)

 虚空の空を見上げ、居もしない存在を欲するアルフ。その思いがどれだけ無意味な物か。その意味を一番彼女が理解しているのに他ならなかった。




     ***




「あ、銀さん! お疲れ……うっ!」
「ぐぁっ!」

 アースラに帰還した銀時達の近くに居たクロノ、並びに真選組の面々は揃って鼻を摘み不快そうな顔をしていた。
 その原因は分かっての通り、銀時達万事屋とユーノの四名が先ほどヌルヌルしたとても臭い鳥と戦闘を行ったが為にその匂いが四人の体にべったりとこびり付いてしまったのだろう。
 しかもその匂いと言うのがこれまたかなり酷い異臭を放つ代物でもあった。
 具体的な臭さを述べるとしたら牛乳を拭いた雑巾の約100倍近くの臭さが銀時達の体から発せられてる。
 
「旦那ぁ、一体その匂いはどうしたんですかぃ? 肥溜めにでも落ちたんですかぃ?」
「違ぇよぉ。偶々戦ったロストロギアが滅茶苦茶臭ぇ奴でよぉ。おまけにそいつの放つ攻撃がこれまた臭いの何のって。もう溜まんなかったんだからなぁ!」
「そりゃ災難でしたねぃ。こっちは同じ鳥でしたけど全身火を纏った暑苦しい奴でしたぜぃ。まるで土方さんみたいな居るだけで嫌悪感を促すような輩でしたねぃ」

 沖田のその言い分に銀時が何故か納得しながら揃って土方を見る。
 沖田、銀時の両名にとって土方の存在は邪魔者、嫌悪感の塊以外何者でもないからであろう。
 無論、そんな眼差しを向けられてる土方自身溜まったものじゃないのだが。

「何だよてめぇら。その軽蔑の眼差しはよぉ?」
「別にぃ、只そろそろくたばってくれませんかねぃ土方糞馬鹿野郎! って思ってただけでさぁ」
「諸々言っちまったじゃねぇか! 心の声駄々漏れじゃねぇか!」

 普通ならそう言うのは心の声にして閉まって置くべきなのだが、沖田自身にそんなきようさなどなく思った事を即座に言い放ってしまったようだ。
 無論、それを言った沖田自身に反省の色は全くない。

「いやぁ、大丈夫だよぉ沖田君。こいつのこったから近い内に死亡フラグ踏むから勝手にくたばってくれるってぇ」
「てめぇもてめぇで何不吉な事言ってんだゴラァ! 言っとくがなぁ、俺はこんな辺境の地でくたばる気はさらさらねぇぞ! 江戸に帰ってやらなきゃならねぇ事が山ほどあるんだ」
「マヨネーズを啜る事か?」
「俺イコールマヨネーズと言う図式にするの止めろよ!」

 流石に此処まで弄くりまくられたのが余程気に入らなかったのか、普段なら否定しない大好きなマヨネーズにさえも怒りとして反応してしまった土方。相当病んでいる証拠である。

「土方さん、頼むから死ぬんだったら俺に副長の座を譲ってから死んで下せぃ」
「安心しろ。俺はてめぇより1秒でも長く生きるつもりだからな」

 そう言って沖田と土方が互いにメンチの切りあいを始めてしまった。
 切りあいと言っても刀で切り合うのではないのであしからず。

「おいおい、お前等その位にしておけ。折角クロノ君と協力してジュエルシードを捕獲して凱旋してきたってのに、いい気分がだいなしじゃないか」

 そんな二人を局長である近藤が諌める。が、今度は銀時が近藤の前に歩み出た。

「え? 何お前等。もしかしてクロノ君と一緒に戦ったの? ファイトしたの? パーティー組んでたの?」
「あぁ、しかし流石は執務官とか呼ばれてるだけあるな。正に鬼神の如き強さだった。この俺でさえあの強さにちょっぴり見とれてしまった程だからn――」

 言い終わる前に近藤の顔面には銀時の鉄拳が叩き付けられていた。叩き付けた本人の顔は憤怒の如くぶち切れていたのだが、殴られた近藤自身はそんな顔が見られない為残念極まりなかったりする。

「この糞ゴリラがあああ! 家の大事な金のなる木……じゃなかった、玉の輿に変な事教える気だったのかぁコノヤロー!」

 怒鳴りながら近藤の胸倉を掴み前後に激しく揺らしまくる。銀時としてはクロノが自分達と同じ変態出身でもある真選組とコンビを組んでいた事が許せないのだろう。

「ちょ、ちょっと待て万事屋ぁ! 一体何をそんなに怒ってるんだぁ? お前の怒ってる理由がさっぱり分からないんだがぁ?」
「馬鹿野郎! 家のクロノ君はなぁ、将来俺達坂田家の下に嫁ぐって決まってるんだよぉ! それをてめぇらみたいな馬鹿と変態しかない病原菌の塊んなかに放り込んでもし変なもの貰いしたらどう責任とるつもりだぁゴラァ! タマ切ってメスゴリラにでもしてやろうかぁ!」

 更に怒りの言葉を述べながらいっそう激しく前後に揺らす。相当気持ち悪かったのか近藤の顔がみるみる青ざめていく。
 このままだとかなりヤバイ現象が起こりそうだ。

「ちょ、ちょっと銀さん落ち着いて下さいよ。最近銀さんどうかしてますよ! 江戸に居た時の銀さんは其処まで短気じゃなかったでしょ?」
「るせぇ! てめぇに何が分かる。弱体化したせいで思うように力が出せなくて欲求不満なんだよこっちはよぉ!」

 どうやら弱体化したせいで主人公らしい活躍が出来ないのが余程不満なようだ。確かに此処に来てからと言う物の碌な活躍をしてない。
 敵魔導師であるフェイトと遭遇した際にはボコボコにされるし、アルフとの戦いの際には三人揃ってやっと勝てる始末。
 三戦フェイトと戦ったが内白星を上げたのと言ったら一戦だけだし、その後木の化け物であるロストロギアとの戦いでは一方的な負け試合に終わった。
 此処に来てからと言うもののケチのつきっぱなしなのだ。

「銀ちゃんの言う通りアル! 早く江戸に帰って元の超絶無敵銀河最強神楽ちゃんに戻りたいヨォ!」

 神楽も同様に嘆いていた。と言うのも、神楽自身力による戦法が主流だった為にその力が出せなくなると途端に弱体化の影響が出てしまったのだ。
 恐らく、一番響いているのは神楽だと思われる。

「なんでぃチャイナ。お前どうせならその世界で骨でも埋めれば良いじゃねぇか。何なら介錯してやろうか? 但し、偶に手元が狂うかも知れねぇけど」
「上等だぁゴラァ! そん時ぁてめぇも道連れにして死んでやるよぉゴラァ!」

 今度は神楽と沖田が互いにメンチを切り合う始末。もうどうにでもなれ状態であった。

「あのぉ、そろそろ先行きません? 何時までもこんな所に居たってしょうがないと思うんですけど」
「んなこたぁ分かってるんだよ。てめぇに言われるまでもねぇんだしな」

 皆を纏め上げようとするユーノの発言に対しぶっきらぼうに銀時は返した。ふと、新八は疑問に思った。
 何故、銀時はこうもユーノに対して冷たいのだろうか?
 確かに、一連の事件に巻き込まれた原因はユーノにもあるだろう。
 だが、それだけでユーノにあそこまで冷たくする必要があるのだろうか?
 甚だ疑問であった。

「そう言えば銀さん。何で銀さんはユーノ君にだけそんなに厳しいんですか?」
「ったりめぇだろうが! 家の大事な屋台骨に変な蟲が寄り付かないようにしてんだよ。あいつがなのはの事好きになって一夜のあやまちとかにならないようにしとかねぇとな」
「なる程、要するにこれ以上なのはちゃんが異性に対して興味を持たないように防いでたって訳ですね」

 銀時の狙いとしてはなのはがクロノとくっつくのが理想と思っている。クロノは若干14歳にして管理局執務官と言う役職についた程の秀才である。
 きっともっと伸びるだろう。そう銀時は予想していたのだ。それに気配りも利くしフォローも出来る。ツッコミは後で新八に鍛えて貰えば使い物にはなるだろう。正に非の付け所がない存在だったのだ。婿として迎えるには打ってつけの人材と言えた。
 だが、それは銀時自身の話。もしなのはが他の男を好きになってしまったらどうなるのか?
 それも、全く金もない、将来性も皆無、その辺のチャラチャラしたチャラ男を何を間違ったか彼氏として家に連れてきたりしたら。
 そう考えるだけで銀時の脳裏は蒼白していくのであった。
 取り返しの付かない事態に陥る前に打てる手は打っておくべき。そう考えていた銀時は、まずクロノ以外の異性には冷たく当る事にしたのだ。
 そして、その的となったのが不幸にもユーノだったのである。

「そう言う訳だ。新八、お前も変な男をなのはに近づけるなよぉ。特に9歳から15歳位の男子! あいつらはヤバイ。なのはと年が近いから何時始めての春が訪れるか分かったもんじゃねぇ。昼ドラなんかやらなくて良いんだよ。世の中金が全てなんだ。深夜ドラマ並ので充分なんだよ」
「あんたの心が深夜並に真っ黒だよ。自分の娘を政略結婚の道具にしてる将軍並に真っ黒だよあんた」

 今更な事を言う新八であった。銀時の心が真っ黒なのは今に始まった事じゃない。
 無論、銀時がなのはをクロノと仲良くさせたいと言う思いは別に金や楽な暮らしだけの為じゃない。心の底から娘の幸せを願っての事なのだ。
 娘が不幸な人生を歩まない為にも娘には将来性のある男の下に行って欲しい。
 娘親だからこその事であったりする。
 まぁ、多少屈折していたりするのだが。

「あんだぁ? 父親が娘の心配しちゃいけねぇってのかぁ?」
「いや、あんたの場合心配の仕方が色々と屈折してるだけなんですよ」

 確かに、今の銀時なら娘の為に世界その物を滅ぼしかねないのだから新八も気が気でない。このまま行くと親子揃って間違った常識を携えて社会と言う名の大海へと危険な航海に出てしまうだろう。
 今のこの親子では騒乱の世である社会の波を乗り切れる筈がないのだ。
 大海賊時代並に荒れ狂う時代の波をあんなオンボロ常識船でやっていけるとは到底思えない。
 言うなれば、娘は船体であり、父親はマストなのだ。幾ら船体が立派でもマストが役に立たなければそれは大海に浮か棺桶となってしまう。
 そうならない為にも航海士が立派に役目を果たさねばならないのである。

「とにかく、このままじゃ僕等ブリッジに行けませんし、一旦この匂い落としましょうよ」
「落とすってどうやって? 三人揃って洗濯機にでも入れってか?」
「おい、何時までもユーノ君を邪険に扱ってんじゃねぇよ。終いにゃしばくぞこのロリコン親父」
「誰がロリコンだぁゴラァ! 俺ぁなぁ。只単に大事な一人娘に寄り付く害虫の駆除をしてただけなんだよ! セレブな男と幸先不安な駄目男。どっちを取るかなんざぁ普通誰でも分かる事だろうが!」
「あんたに人生の云々語られたくないわぁ! ってか、何勝手にユーノ君の将来を暗くしてんのあんたは! ユーノ君だってきっと頑張って将来良い職に就くかも知れないじゃん! 大出世するかも知れないじゃん!」

 新八の言う通り、銀時の言い分は若干早合点が過ぎると言える。
 確かに、今のユーノは今一パッとしないだろう。が、それも今だけの話。
 蝶は最初芋虫と言うパッとしない状態からスタートし、それからさなぎを経て、やがて可憐な蝶へと変身を遂げるのである。
 ユーノの場合、言ってしまえば芋虫の状態でもある。そして、クロノの場合はさなぎと言える。
 若干クロノの方が早いだけの話だ。まだ誰も蝶になってない。物事を決めるのは双方が蝶になってからでも遅くはない筈なのだ。

「とにかく、僕達四人でこの匂いを落としましょうよ。そうしないとなのはちゃんに会えないでしょ?」
「そ、それもそうだな。体臭のきついお父さんって結構娘に嫌われる可能性高いしな」

 以外と小心者だったりする。
 まぁ、それが銀時と言う男の人柄だったりするのだが。

「どうでも良いけど私をお前等と一緒にすんなよ。私は一応レディなんだからそれ相応に扱えよこの駄眼鏡」
「神楽ちゃん、お願いだから雰囲気壊さないでくれない? 今良いシーンだった筈だしさぁ。きっとこれアニメ化したら感動系のBGM流れてるはずだからさぁ」
「何言ってるネ。こんなのどうせ作者の欲望と妄想が織り交じった二次小説ね。何処にも公表出来ず、せめて人目に晒したいと思う一心で投稿した悲しき独りよがりの青春の恥じらいの1ページネ」
「謝れえええええええええええ! 今すぐ全国に居るであろう素人小説家さん達に謝れええええええええええええ!」

 そんなこんなで四人は騒がしく騒ぎながらも体に染み付いた匂いを何とか落としきることに成功したのであった。
 え? 落とすシーンとかはないのかって?
 別に書いても良かったのですがそんなシーン見たって誰得? と思われたのでカットさせていただきました。

「ふぃ~、仕事の後のひとっ風呂は最高だね~」
「そうですね、それに体に染み付いた匂いもどうにか取れましたし。これならなのはちゃんに会えますね」
「そうですね。それにしても銀さん達……その格好似合いますよ」

 二人の後ろで必死に笑いを堪えるユーノが居た。仕方の無いことだ。
 今銀時と新八の二人が着ているのは管理局の制服なのだから。
 しかも青色。
 後ろでクスクス笑われてるのに対し銀時は明らかに不機嫌そうな顔をしているのであった。

「何で俺笑われてるの? 殴って良い? あの金髪坊や殴り倒して良い?」
「駄目に決まってるでしょうが! 誰のお陰でこの服借りられたと思ってるんですか? 下手な事したら僕達フルチンで艦内をうろつく事になるんですよ!」
「バカヤロー! 其処んとこはあれだよ。アニメとかでも良くやってるモザイク処理とか、肝心な所にだけ可愛いアップリケとかして誤魔化してくれるって」
「いや無理だから! 大体これアニメじゃなくて小説だから。そもそも大事な部分隠しただけじゃ意味ないですから!」

 等と、二人して激しい言い会いをしているのであった。実際に言うとユーノが艦内の局員に頼み込んで二人に合ったサイズの制服を借りてくれたのだ。
 もしユーノが居なかったら確実に二人は全裸で歩き回る羽目になってた筈である。

「おぉ、二人共制服姿が似合ってるアルなぁ。まるで就任したてのピカピカ一年生みたいアルよぉ」

 そう言ってる神楽もまた、管理局の制服を着こなしているのであった。しかも神楽のはスカートタイプだ。
 勿論こちらも青色だったりする。

「うるせーよ! 俺達と同じピカピカの1年生が何抜かしてんだゴラァ!」
「分かりましたから。とにかくブリッジに向いましょうよ。話進みませんってば」

 さすがに毎回喧嘩ばかりしていては話が全く進まない。それはそれでやばいなと判断した新八の的確な対応により、一同は迷わず艦内の心臓部と思われるブリッジにやってきたのであった。

「うぃいっす! 万事屋銀ちゃんご一行只今帰還しましたぞコノヤロー!」
「ロストロギアフルボッコにしてきましたぞコノヤロー!」

 銀時と神楽の二人が揃って敬礼のポーズを取りながら叫ぶ。が、ブリッジの中は一同の帰還を祝うムードではなかった。
 寧ろかなり騒然としている。もう皆かなりテンパりまくってるのだ。

「あ、お父さん! 大変な事が起きちゃったよぉ!」
「どうしたんだぁ? ゴリラがまた脱糞したのか?」
「違うよ。確かにあのふにゃちんゴリラが脱糞したら大騒ぎだけど、それ以上に大変な事が起こったんだってばぁ!」

 銀時の目の前でなのはが幼い体を必死に大きく見せるような仕草をして今の騒ぎの規模をアピールしている。体が小さい故か、はたまた子供であるが故か、その仕草が何処となく可愛いと思えてしまうユーノがいたが、それは遭えて無視させて貰う。

「んで、ゴリラの脱糞じゃないとしたら、一体何が起こったってんだよ」
「銀さん、あれ……あれぇ!」
「あん?」

 驚きながら新八が目の前を指差す。それに従い皆が新八の指差す方を見た。それは艦内に表示された巨大モニターに映る光景であった。
 場所は見た所大海原と思われる。床一面が青い海しかない。
 そして、曇天の空と海の狭間に見られるのは天を突く程の巨大な竜巻であった。

「な、何じゃぁありゃぁ!」
「残ったジュエルシードが一斉に起動したんだと思われます。今でこそあれだけの規模で済んでますが、このまま放っておいたら大変な事になりますよ」

 後ろに居たユーノがしっかりと説明してくれた。ジュエルシードはたった一つでも暴走し、暴発したらとんでもない被害になる。それこそ星一つなど軽く吹き飛ばせる程の威力を持っているのだ。
 そして、それが6個も同時に起動してしまった。かなりやばい事態でもあった。

「ちっ、厄介な時に厄介な事になりやがったな」
「何てこった。陸地なら俺達真選組が行ってどうにか出来たんだが、海の上じゃどうにもならん」

 舌打ちをする土方に続き、近藤も悔しそうに手を叩いていた。江戸から来た者達に共通する事。それは空を飛べない事だ。
 刀を振るい己の肉体を頼りに戦う侍達には空を統べる方法がないのである。
 そして、場所は大地のない海。此処では侍には荷が重過ぎる結果となっていた。

「僕が行って来ます」
「クロノ、お前!」
「このままでは他の世界にまで被害が拡大してしまいます。僕が行って何とか防いでみます」
「出来るのか? あれだけ激しく唸ってるのをお前一人で出来るのか? あれだぞ。竜巻だぞ! ハリケーンだぞ! 洗濯機の中みたいな状態になっちまうぞ! 下手したらお前全身綺麗綺麗になった上に脱水されてパリッとノリの利いた感じにされちまうんだぞぉ!」

 大声で長々と言いながらクロノの両肩を掴み必死になって叫ぶ銀時の姿が何ともであった。
 それは果たしてクロノを心配しているのか、それともなのはの将来を心配しているのか、それとも自分の将来を憂いているのか微妙な所でもあった。

「だ、大丈夫ですよ。これ位なら僕でも何とかできると思いますし、それにあのまま放って置く訳にも行きませんし。今の所動けるの僕だけですし」
「あぁ、だったら其処に居る金髪坊やも連れて行け。何の役にも立たないだろうけどせいぜい弾除けにはなるだろうしさ」

 後ろの方に居るユーノを後ろ指で指差しつつ銀時はそう言った。しかもその言い方が明らかに酷すぎたりする。

「銀さん。僕がそんなに憎いですか? 少なくとも弾除け以上は役に立って見せますよ!」

 豪語するが意外と目標の小さい事でもあった。まぁ、同行してくれるのだから文句は言うまい。
 そう思って置く事にするクロノであった。

「あれ? 嘘、何で!」
「どうした?」
「竜巻の発生地点のすぐ近くに人の反応があるんです!」
「何だって!?」

 エイミィの発言に一同は騒然となった。あれだけの巨大竜巻だ。生身の人間が巻き込まれたら一溜まりもない。

「すぐに助けないと! エイミィ、モニター出来る?」
「やってみます」

 竜巻のすぐ横に別のモニターが現れた。其処に映し出されたのは、巨大な竜巻に敢然と戦いを挑むフェイトの姿と、それを遠巻きから援護するアルフの姿であった。

「あいつら……まさか、あれを発生させたのってあいつ等だったのか?」
「でも、何で? 何であんな無茶をしたの? 自分ひとりで封印出来ないって分かりきってるはずなのに何で?」

 モニターから察するにジュエルシードを同時に暴走させたのは恐らく彼女だろう。だが、フェイトとてそれなりに腕の立つ魔導師だ。あれだけ大量のジュエルシードが起動すればどれ程の被害になるか分からない程馬鹿ではない。
 では、何故この様な無謀な手段に走ったのか?
 恐らくそれは、残りのジュエルシードを全て手に入れる為なのだろう。
 無謀、その一言で言い包められてしまう現状が其処にあった。

「すぐに助けないと! このままじゃフェイトちゃんが、フェイトちゃんが……」
「……」

 今にも泣き出しそうな顔をしているなのはをクロノは見た。そして、再びモニターに映る苦しそうなフェイトを見る。
 少年は苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。己の中にある理性と職務の狭間に苦しんでいたのだ。
 本来なら今すぐに飛んで行ってでも助けに行くべきだろう。だが、相手は犯罪者として認定されている存在。
 全ての次元世界を管理する大任を受けている自分達が犯罪者に加担する訳にはいかないのだ。

「その必要はないわ、なのはちゃん。このまま放っておけば、時期にお互い衰退していく。私達が動くのはその後でも構わない事よ」
「そんな……」
「辛いかも知れないけど、私達は常に最良の選択をしなければならないのよ」

 そうだ、艦長の言う通りだ。黙ってクロノは頷いた。
 自分達が守るもの。それは多くの次元世界と其処に住む人々だ。全次元世界の人々と一人の少女。その双方を等分の天秤に掛ける訳にはいかない。
 そんな事、分かりきった事だったのだ。

「そりゃ良いや。ぜひともそうしてくれや艦長さんよぉ」
「なっ!」

 その時であった。突如として銀時がそんな言葉を放ってきたのだ。見れば、銀時の顔は晴れやかに笑っていたのだ。とても清清しい程に。

「万事屋、お前!」
「正直俺あのガキ嫌いなんだよ。毎回毎回俺のタマ狙いに来てよぉ。おまけに家の娘に付き纏いやがってうざいったらねぇぜ全く」
「し、しかし……犯罪を犯しているとは言え、相手は子供だぞ!」
「ガキだろうが女だろうが、罪を犯した時点でそいつぁ罪人なんだよ。それ位分かってるだろうがゴリラ」

 何とも厳しい発言であった。回りの者達も皆、銀時のその発言には驚きの顔を隠せないで居た。

「酷いよお父さん! フェイトちゃんはずっと私の事守ってくれたんだよ! それを犯罪者だなんて酷すぎるよ!」
「馬鹿野郎。人生ってのは非情なんだよ。何時までも綺麗事でやっていける程甘くはねぇんだよ。激辛なんだよ! お前ももうそれ位分かる年だろうが」
「で、でも!」
「折角だからこの際二度と立ち上がれない位ボロボロになってくれると有り難いんだけどなぁ。何ならいっその事くたばっちまっても俺は一向に構わ―――」

 言葉は其処で途切れた。かと思うと、銀時の体が宙に浮いていたのだ。
 頬に歪みが見えた。誰かが殴ったのだろう。
 だが、誰が?
 吹き飛ぶ銀時とは反対の方向を見る。其処に居たのはクロノだった。
 硬く握り締めた右拳を携えたクロノが其処に居たのだ。

「ってて、何しやがるんだ! この糞ガキ!」
「あんた、それでも父親か? 自分の娘と同じ年の子が、今にも死にそうになってるのに、良くそんな無責任な事が言えるなぁ!」

 普段のクロノならば絶対有り得ない事だった。あのクロノが激情しているのだ。
 感情の示すままにクロノが怒りをぶつけていたのだ。
 それに対し、銀時は立ち上がる。口元にこびりついた血の跡を拭い取りながら立ち上がり、そのままクロノの前へと歩み寄る。

「言いてぇ事はそれだけか?」
「……」

 問い掛けてきた時、クロノは答えられなかった。その直後、今度はクロノが吹き飛ばされた。
 先ほどのクロノと同じように、今度は銀時が殴り飛ばしたのだ。

「生意気言ってんじゃねぇぞ糞ガキ! 下の方に毛も生えてねぇような青びょうたんが父親の事をとやかく言うんじゃねぇ!」

 殴り倒した銀時がクロノを睨んで豪語していた。重い拳だった。普段の軽いノリの銀時のとは思えないとても重い拳であった。
 これが、父親の拳なのだろうか?
 そう感じ取りながらも、クロノは立ち上がった。同様に口元の血を手の甲で拭い取りながらも、その視線は銀時の目を見ていた。

「確かに僕はあんたから見たらまだ未熟者の青びょうたんかも知れないさ! まだ下の方に毛も生えてないし! だけどそれが何だ! 生えてりゃ偉いのか? 何を言っても、何をしても許されるのか?」
「少なくともてめぇでてめぇのすべき事を決められねぇてめぇよりはマシだよ!」
「なっ!」
「悔しかったらてめぇのする事をてめぇで決めやがれ! 誰の意見も聞かず、てめぇの思ったとおりに動いて見やがれ糞ガキ! 理屈こねんのはその後だゴラァ!」
「自分の……思ったとおりに……」

 銀時の言葉はクロノの胸に深く突き刺さっていた。自分は一体何に迷っていたのだろうか?
 犯罪者と言うレッテルを持つが、目の前に映っているフェイトはまだ自分よりも幼い少女だ。
 その少女を、犯罪者と言うレッテルだけで見殺しにして良いのか?
 嫌、出来ない。例えそれが管理局の掟に背く行為だったとしても。
 例え、それが多くの人々を不幸にする行いだったとしても、クロノにとってその行いこそが最良の選択でもあったのだ。

「分かりました、銀さん……貴方のお陰で、胸がスッとしました」
「そうかよ。それじゃ、行って来い。今のお前なら迷う事ぁねぇ筈さ」

 気がつけば、銀時の顔がとても穏やかになっていた。先ほどまでの怒りに満ちた顔から凄まじいまでの豹変ぶりである。
 
「クロノ、貴方まさか!」
「すみません艦長。命令違反を犯してしまう事になりそうです」
「貴方、正気なの? そんな事をして、只じゃ済まないかも知れないのよ!」
「覚悟は出来てます。それに、今行かないと、きっと僕は後悔する。そう思えるんです」
「クロノ……」

 止めても無駄だろう。そうリンディは察した。彼を一番良く知っている彼女だからこそ、彼がこう言い出したら聞かない事を良く知っていたのだ。

「その判断をする様じゃ……お前は執務官失格だな」

 だが、そんな中でクロノにこんな言葉を投げ掛ける者が居た。
 土方だった。土方が冷たい目線でクロノにそう言っていたのだ。

「目の前の大局が見えず、目先の命を助ける為に真っ先に突っ走る馬鹿。てめぇはそんな人間だ」
「ひ、土方さん……」
「てめぇみてぇな馬鹿じゃ上に上るのなんざ無理だ。せいぜい前線指揮官位がお似合いだろうよ」

 何とも厳しい言葉であった。自分の判断を根っから否定し、更には自分の未熟さ、無能さを指摘された気分であった。
 その余りの厳しい指摘にクロノは何一つ言い返せなかった。
 そんなクロノを見た後、土方は口の中から白煙を噴出し、再び口を開いた。

「だが、そんな馬鹿が上司なら。俺は安心して背中を任せられる」
「僕に、背中を?」
「確かに上の連中から見たらお前はどうしようもない馬鹿だ。だが、上にとっちゃ大馬鹿野郎かも知れねぇが、俺達にとっちゃ大事な大将だ。上でふんぞり返ってる連中のお顔伺いしてるような大将なんざ、こっちから願い下げだ。俺達の大将は馬鹿が丁度良いんだよ」
「土方さんの言う通りでさぁ」

 今度は沖田が続けて出てきた。今まで会話に参加しなかったのは恐らくこの為だったのであろう。

「俺達に必要なのは出世する大将じゃねぇ。俺達が安心して背中を任せられる頼り甲斐のあるバカ大将でさぁ。此処に居る近藤さんだって、見た目通りのバカなんでさぁぜぃ」
「え? 俺バカなの?」
「近藤さんってなぁつくづくお人好しな人でねぇ。他人の良い所を見つけるのは上手い癖に、悪い所を見つけるのは滅茶苦茶下手な人だ。その上情に脆くて大局よりも目の前で助けを求めてる命の為に突っ走っちまう。最大級の大バカ野郎でさぁ」
「ちょっ、止めてくんない? 俺の事罵倒すんのさぁ」

 どうやら近藤自身からして見れば罵倒されてるように聞こえるのだろう。不憫と言えば不憫としか言い様がない。

「だけど、そんなバカだからこそ、俺達はこの人が後ろに居るから、安心して戦えるんでさぁ。俺達にとって、このバカは必要な存在なんでさぁ」
「そう言う訳だ。俺達は別に有能な上官なんて求めちゃいねぇ。無能だろうとバカだろうと、俺達の事や目の前の命の為に一心不乱に走れる奴が、俺達の一番求めてる大将なんだよ」

 先ほどの厳しい言葉から一転し、土方も沖田も笑いながらクロノを見ていた。その表情は、自分の選択に対する二人の答えが詰まっていた。

「目先の大局ばかり追いかけて、上の事ばかり見てるような腰抜けなんざこっちから願い下げだ。俺達にとっちゃ、お前は充分背中を預けられる価値のあるバカだぜ」
「そう言う訳でさぁ。もっと胸を張って行って来なせぃ。このバカ野郎が!」
「土方さん、沖田さん」

 思わず胸が熱くなるのを感じた。こんな感情は何時振りだろうか。長い間執務官として冷静に職務をこなしていた間には全く無かった感情であった。

「そう言うこった。早く行って来いこのバカ!」
「ただいま、って言うまで油断しちゃ駄目あるよこのバカ!」
「気をつけて行って来てね。このバカ!」
「頑張ってね、おバカさん」

 万事屋ご一行もまた、クロノにそう言ってくれた。今まで、バカは罵倒文句と思っていたが、今此処にそれは改正された。
 クロノにとって、バカとは罵倒文句じゃない。立派な褒め言葉だったのだ。

「分かりました。これより、クロノ・ハラオウン……いや、バカ執務官、現場へと急行します!」

 感情の波を何とか堪えつつ、クロノは転送装置の中へと入った。その後に続きユーノも入っていく。
 転送の光が二人を包み込み、やがて二人をその場から転送させていった。
 それと同時に光は消え去り、辺りはまた元の薄暗さを取り戻す。

「有り難う、銀さん」
「あ? 何がだよ」

 唐突に声を掛けてきたリンディに銀時は尋ねる。

「わざと汚れ役を買ってくれたんでしょ? クロノを迷い無く行かせる為に」
「え? そうだったの!?」

 全く理解してなかったなのはが素っ頓狂な声をあげている。そんな答えに、銀時は思わず笑みを浮かべてしまった。

「ま、しょうがねぇだろうが。バカを元気付ける為にゃ俺達バカ先輩がひと肌脱がにゃならねぇ。面倒臭ぇがそれがバカの特権って奴さ」

 そう言いながら銀時はモニターに視線を送った。間も無くあのモニターに転移したクロノとユーノが映るだろう。
 目の前には巨大になった竜巻がある。だが、問題などない。
 何故なら、あの二人は既に銀時達と同じ、立派なバカなのだから。

「見せてみろ、お前のバカっぷり。俺達がしっかりと見届けてやる!」

 バカの戦いを全て見守ろうと、決意を胸に、銀時はモニターに向かい、叫ぶのであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回【竜巻対バカ】お楽しみに 
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