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アイーダ

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第一幕その五


第一幕その五

「有り難き幸せ」
(何ということ)
 アイーダはラダメスの姿を見て青い顔をしていた。
(ラダメスがエチオピアを、そしてお父様を)
 アモナスロという言葉に顔を青くさせていたのだ。何と言っていいのかわからなかった。
「これでいいわ」
 アムネリスは一人ラダメスを見て満足そうに笑っていた。
「これでエチオピアは。そして私も」
「さあ、後で行くのだ」
 ファラオはまたラダメスに声をかけてきた。
「我等が神ラーの神殿へ。よいな」
「はっ」
 太陽を司る神である。エジプトにおいては主と呼べる神である。
「さあ、異邦の敵達を倒せ」
 ファラオは厳かに告げる。
「そして聖なるナイルの岸辺を守るのだ。よいな」
「はっ」
「ファラオよ」
 ランフィスが口を開いてきた。
「我がエジプトの勇者ラダメスならば勝利は間違いありません」
「うむ」
 ファラオは彼の言葉にこくりと頷く。
「その通りだ」
「戦士の運命と勝利は神々によって定められている。最早我がエジプトの勝利は疑いない」
「そうだ」
 大臣達も他の神官達も頷いてきた。
「神々が勝利を約束してくれている。だからこそ」
「そうだ、敗北はない。勝利だけが」
(けれどエジプトの勝利は)
 アイーダだけは違っていた。彼女にとってエジプトの勝利は祖国エチオピアの敗北なのだ。それは到底受け入れられるものではなかった。
(どうして。どうしてこんなことに)
「エジプトに勝利を」
 ラダメスはまた言った。
「今ここに神々とファラオに約束します」
「うむ。それでは」
 ファラオは今度は別の将校を呼んだ。
「あれを持て」
「はっ」
 その将校は畏まって答えファラオの前から一旦姿を消した。そして暫くして軍旗を持って戻ってきた。
 それをアムネリスに手渡す。するとアムネリスはそれを手にラダメスの前にやって来た。
「ラダメスよ、立つがいい」
 ファラオは彼に言った。
「そして軍旗を手にするのだ。勇者として」
「わかりました」
 ラダメスはその言葉に頷く。そして今その旗を手に取った。
(誰の為に泣き、誰の為に祈ればいいの?)
 アイーダはラダメスがアムネリスから軍旗を手渡させるのを見ながら一人呟いていた。
(私はあの方を愛さずにはいられない。けれどあの方は敵であり異邦人である。それなのにどうして。どうして愛さずにいられないの)
 その答えはない。それがさらに彼女を苦しませる。だがどうしようもなかった。
 ファラオは玉座から立った。そしてまた告げた。
「行くのだ。戦場へ」
「はっ」
 ラダメスはそれに頷く。
「それでは陛下に勝利を」
「うむ、待っているぞ」
「ラダメス、誇り高き勇者よ」
 神官や大臣達が彼に言う。まるで合唱のように。
 
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