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魔法少女リリカルなのは ViVid ―The White wing―

作者:鳩麦
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第二章
  十三話 夜深けて

 
前書き
大学もようやく夏休み
第十三話 

 
「うっひゃー!すっげぇなこれ!!」
「あははは……ルールー、張りきったんだなぁ……」
「…………」
その日の夜。
大人チームに混じった訓練の時間はあっという間に過ぎて行き、夕飯前に全員でお風呂ト言う事になったメンバーは一路、大浴場へとやって来ていた。

さて、実を言うとクラナはこの合宿が男女比率が3対11(12)と言う苛めかと言いたくなるようなあり得ない比率になっているため、まさか男風呂が無かったりしやしないかと軽く心配だったのだが、そんな事は無かった。

三人の前には飛んでもなく広い大露天浴場が広がっており、湯気がもわもわと立ち上っている。ちなみにこの大浴場。一部を除いて全てルーテシアが「掘ったら出て来た」と言う温泉発掘家達が聞いたら“ふざけんな!”と叫びそうな天然温泉だと言うから圧巻だ。

驚きつつ三人の其々の漏らした感想が、大浴場に響く。ちなみにクラナの「……」は、“憮然”としたものではなくどちらかと言うと“唖然”だ。

と、エリオの発言に、ライノが気が付いたように聞いた。

「って、エリオは前来た事有るんだろ?」
「いや、明らかに前よりパワーアップしてるよ。前は僕だけだったから広く感じたけど、今は三人なのにもっと広く感じるから」
「っはは!そりゃすげぇや。どれ……」
ライノは浴場を見渡すと、「おっ!」と行って奥へと進んで行く。残されたクラナとエリオはとりあえず身体を流そうと、シャワーに向かって、隣り合って座った。

「……クラナ、さ」
「ん?」
エリオが呟くように言った言葉に、クラナが反応する。

「いや、直接会うの、久しぶりだよね。……久しぶり」
「……あぁ」
クラナとエリオは、六課がまだ存在していた頃から、とても仲が良かった。
わんぱく気味なクラナと、少し真面目気味なエリオが上手い具合に合っていて、お互いあの頃は良い友人同士だったと思っている。
そして……

『悪かった。ごめん、あんま連絡しなくて』
「っ。あはは、いいよそんなの。気にしてないから」
それは、今もまたそうだ。
エリオは、ライノと同じく、四年前からクラナが心を赦している、唯一の友人である。元々仲が良かった事もあって、ちょくちょく、フェイトに気が付かれない程度に、連絡も取り合っているのだ。

ちなみにエリオ個人としてはキャロやルーテシア……そして特にフェイトとはもっと仲良くして欲しい。という気持ちもあるには有るのだが、其処はクラナの意思を尊重している。

『しかし……なんだかんだで来てみたけど……はぁ……』
「やっぱり、来た時の事、気にしてるの?」
『まぁ……さ、ごめん』
「僕に謝っても仕様が無いよ」
紛らわすようにエリオに謝ったクラナに、エリオがたしなめるような口調で言った。
クラナは頬を掻くと……苦笑したような顔で頭を泡立てて念話で言う。

『……だよな』
「うん……」
そういって、会話は収束した。頭を洗い終えると、クラナは軽くタオルでそれを吹いて言う。

『合宿中には……少しは、マシになるようにします』
「……無理は、しなくていいからね」
『サンキュ』
本当は無理にでも上手くやらせたいだろうに逆の事を言ったエリオの優しさを有難く思いつつ、口の端で少し微笑んでクラナは立ち上がる。

「……湯船いってる」
「うん」
そのまま湯船まで歩いて行くと……

「むむむ……」
「……何してんの」
何故か設置された滝湯のしたで、両手を印の形で組み合わせて座っているライノを見て、クラナは呆れたように言った。
と言うか滝湯って……下手なホテルよりよっぽどこった造りの風呂場である。軽く呆れるレベルだ。

「ん?おぉ!クラナ、いや、滝あったら普通やるだろ?」
「何を?」
「修行」
「…………」
呆れ気味に息を吐きつつクラナは黙り込む。
と言うか普通は身体を流してから湯船に……そんな事を行っても無駄だと居間になって気が付き、クラナは辟易とした気分になってぬるめのお湯につかる。
と、修行とやらに飽きたらしいライノが前に来た。

「ふー、やれやれ疲れたな今日は」
「お疲れ様」
息を突きながらそう言ったライノに、苦笑気味に言ってから、クラナはふと思い出したように聞いた。

「って……ライノ、今日なんかしてたっけ?」
「ん?移動?」
「…………」
さっき言ったお疲れ様を返せ。と言わんばかりにライノを睨むクラナに向けて苦笑して……不意に、少し悲しげな笑顔をその顔に浮かべて、ライノは言った。

「……やっぱり消えねーんだな。それ」
「え?……あぁ」
ライノの視線の先には、クラナの左肩が有った。
その方に、何かで抉ったような、大きな古傷の後が有る。クラナはそれを押さえながら自嘲気味に微笑んで言った。

「……まぁ、ね。医療上都合が悪すぎる。って話だし……多分、一生このままなんだと思う」
「さよか……相変わらず、ヴィヴィオ、その傷しらねーの?」
「…………」
ライノの言葉に、クラナは無言だったが、確かにコクリと一つ頷いた。

────

陸戦場前の丘に、なのはとフェイトが並んで立っていた。

「それ、明日の陸戦試合のチーム分け?」
「うん、ノーヴェが作ってくれたんだ」
なのはの持った一枚の紙を、フェイトが横から覗き込む。その中に、ギザギザの戦で分けられ、それぞれの写真と名前、ポジション別に掻かれた、チーム形態が書かれていた。

「へー、綺麗に割り振ってあるけど……やっぱり二人が曲者、って感じの配置だねぇ」
「うん。面白いと思う」
興味深そうに言ったフェイトに、なのはは頷きながら同意した。
しかし……

「なのは、やっぱり、まだ気になるかな?」
「え……?」
目を見開いたなのはの前には、少し心配そうな顔のフェイトが居た。なのはの顔が少しだけ、憂いを帯びているように見えたからだ。
正面からフェイトに見つめられ……なのはは観念したように苦笑気味に頷いた。

「にゃははは……うん。ちょっと」
「……」
心配そうに自分の事を見るフェイトに、なのはは安心させるように笑いかけた。

「大丈夫だよ。ノーヴェの事も、ヴィヴィオの事も、クラナの事も……ちゃんと信じてる。この前だって、信じて大丈夫だった。だから……今度も、信じられるよ」
「……そっか」
少し安心したようにフェイトは微笑んだ。
ただ、そう言ったなのはの笑顔の奥に、まだほんの少しの懸念のような表情が残っている事も、彼女は確かに感じていた。

────

「…………」
なのはは、陸戦場の景色を見ながら、一つの事を思い出していた。

今頃、皆が入っているだろう風呂。
其処で晒されているだろう、クラナの左肩には、大きな古傷が有る。
普段は袖のある服のみを着ることで隠しているそれは、なのはにとって忘れてはならない、自らへの深い戒めの象徴だ。

そして同時に……それは娘、ヴィヴィオにとっては、なのはが彼女にまだ思い起こす事無く居て欲しい、大きな罪の象徴でもある。

「…………」
なのはは、クラナの事も、ヴィヴィオの事も、確かに、間違いなく信じている。それは絶対であり、揺るぎはしない。
だが、その信頼の裏で、明日、何かが起こるような、そんな懸念が渦を巻いて居る事も……また事実だった。

────

所で、その後の風呂であった出来事である。

「そういやクラナ!合宿で露天風呂と言ったらする事有るよな!!」
「……は?」
「覗きだよ覗き!!お前この風呂の隣女子の風呂だぜ!?今頃は向こうはパラダイス!!テンプレートが訴えかけてる!!今こそ行動の時だ!!」
「……ごめん、ちょっと何言ってるか分からない」
本気で意味不明な物を見る目でそう言ったクラナの肩を、ライノは掴んでゆさゆさとゆすった。

「おーい!頼むぜ!!此処で覗かなくて何時除くっ「絶招!!炎雷砲!!!!!!」て?」
突如、ライノの後ろ、女風呂との境界になっている高めの策の向こうで技名が弾け、


ズガァァァァァンッ!!!!!

という落雷と爆発が一片に起きたような音がして……

「「…………」」
誰か、いや正確にはクラナにはうっすらと誰だか分かったが、人影が天空へと舞いあがり、くるくると三回転ほどして……

「「…………」」
ばっしゃぁぁぁんっ!!!

という盛大な水しぶきと共に策の向こうに落下した。

「…………」
「…………」
しばらくの間沈黙した二人はしかしやがて……

「それで……ライノ、何をするの?」
「あー……いや、なんでもねえ。のんびり入ろうぜ」

賢明だった。まったくもって、今日のライノは賢明だった。


────

そんなこんなで、何時の間に現れたのか、セインの作った予想外に旨い夕飯を食べ終え、暫く談笑すると自然と眠くなってくる。

満腹となり、一日丸まるの訓練と遊びに疲れた身体が休息を求めて目蓋を重く感じさせ、身体をフカフカのベッドの上へと導き、彼等、彼女等は夢の世界へと旅立った。

────

そんな夜がふけて、現在時刻午前二時二十八分頃。ロッジ内チビーズとアインハルトの四人が眠る子供部屋の扉が、ガチャリと開き、中から人影が廊下へと歩き出す。金色の髪をユラユラと揺らしつつ、眠たそうな目でむにゃむにゃ言いながら廊下を歩くのは、言うまでもなくヴィヴィオだ。

廊下の先にあるトイレへと歩くと、扉を開けて中へ。
此処で中の様子を描写しても良いが、それは流石に少女のプライバシーに関わるため止めておく。

因みに今でこそこうして自分でトイレに向かうヴィヴィオも、以前までは時折布団を濡らしてしまい、そのたびになのはやフェイトを苦笑させていたものだ。因みにそれがいつ頃までの話かと言うと……失礼、今高町ヴィヴィオと言う存在を愛するありとあらゆる存在から殺気を向けられた気がしたので、この話はこのくらいで終えておく。作者とて命は惜しいのである。ご理解とご協力を頂きたい。

さて、数分すると、扉の向こうから水の流れる音が響き、再び中からパジャマ姿のヴィヴィオがフラフラと出てきてもとの部屋の方へと向かい、途中で左に曲がった。たどり着いたのはリビング。ヴィヴィオは冷蔵庫に寄っていくと、中からお茶を取り出し、食器棚から出したグラスに注ぐ。
お茶の入っていた硝子瓶を冷蔵庫に戻し、お茶の入ったコップを持ってソファの前に行き、座り込むとヴィヴィオはそれを口に含んだ。

「んっ……んっ……」
コクコクとよく冷え、透き通った薄い黄緑色の液体をのどに通すと、心地よい冷たさと香りがのどを滑り、胸の内に涼やかさを残す。

「ぷぅ……」
息を一つ吐いて飲みほしたコップを机に置く。少し休んでからコップを戻そうと考え、ソファに深めに腰掛ける。と……

『あ、あれ……?』
即座に眠気がどっと押し寄せ、ヴィヴィオは無意識の内にソファの上にコテン。と倒れ込んでしまう。

『うぅ……風邪……ひいちゃう……』
春とは言え、まだソファの上で何も掛けずに寝るには少々寒い時期である。しかしヴィヴィオの意識は問言うと、そんな彼女の考えとは反比例するように、深く深くへと沈んで行った。

────

緑色の草むらの上で、小さな少女が泣いて居た。
うずくまってわんわん泣くその子の髪は、綺麗な金色で、今は涙を湛えているせいで歪んだ瞳は、綺麗な紅《ロート》と翠《グリューン》。

『……私?』
それが自分であると気が付く。と、ヴィヴィオはいつの間にかその少女になっていた。

『あ……あれ……』
見ると、膝にあざが出来ていて、自分は其処から立ち上ってくる痛みにわんわんと泣いて居た。
普段の自分ならばケロリとしていられる程度の傷とも言えないほどの肉体の損傷と痛みであるはずなのに、今はそれがたまらないほど痛く感じて、耐えられないほど悲しくて、涙が瞳から後から後から溢れだす。

『誰か、助けて……痛いよ……悲しいよ……ママ……』
いつの間にか自分自身すらそんな事を思い出した頃、不意に、頭上から声がかかった。

「あ、やっぱりいた!ヴィヴィオ、だいじょうぶか?」
「ふぇ……」
顔を上げると、其処に自分の大好きな人が立っていた。青い髪を揺らしたその人はヴィヴィオを見ると、心配そうな声で語りかけて来る。

「たてるか?ヴィヴィオ」
「……(ふるふる)」
「しょーがないなー」
現在の自分で有れば即座に立ちあがったであろうが、しかし幼い自分は首を横に振った。足が痛くて、泣き疲れていて、立つ所では無かったからだ。
するとその人はヴィヴィオの前で屈んで、その背中をヴィヴィオに向けた。

「はい。おんぶしてやるよ!」
「……!」
目の前に出されたその人の背中に、ヴィヴィオはよじ登って捕まると、下から持ちあげられる感覚がして、視界が一気に高くなった。

「わぁ……!」
「よっし!」
歓声を上げるヴィヴィオを乗せて、その人は嬉しげに声を上げて歩きだす。ユラユラと彼女の身体を揺らしながら、少年は軽々と歩き続ける。

「……うにゅ……」
「?ヴィヴィオ?」
初めの内こそ何時もより高い景色に興奮していたヴィヴィオだったが、やがてその背の暖かさと、ユラユラと優しく揺れる振動に泣き続けた事による突かれが重なり、瞼が重くなって行く。
うたた寝加減で肩に頭を乗せて、温かさと共にまどろみが深くなっていく。

ユラユラ……ユラユラ……

『……あ、れ……?』
何時の間にか、温かさが増しているような気がする。
誰かの肩に頭を乗せてユラユラとおぶさられている感覚。

脱力した身体が支えられて、ゆられている感触。これは……

『……ゆ、め?』
それとも……

────

「ん……あれ?」
ヴィヴィオが目を開ける。ついさっきまでとは違って気持ちよく目が覚め……

「朝……」
たと思っているのは、どうやら自分だけらしかった。既に窓の外からは陽光が差し込み部屋を明るく照らしている。

足元には昨日読みかけで寝てしまった歴史書が散らかっており、横にはまだリオとアインハルトがすぅすぅ、かぁかぁと寝息を立てている。

『夢……だったのかな?』
正直な所、あの後ソファの上からこの部屋に戻ってきた記憶は無い。だから、誰かが運んでくれたのは確かなのだろうが……いや、あるいはトイレに行こうと部屋を出た所から、自分の夢だったのかもしれない。

「…………」
不意に、ヴィヴィオはあの夢の中で自分をおぶってくれた人物を思い出す。
自分の中で、あんな記憶を思い出したのは、これが初めてだ。しかしあれがいったい誰なのかは……何となく、分かっている気がした。

「……いいなぁ、昔の私」
不謹慎だと分かって居ながらも、思わずそんな事を呟いてしまって、ヴィヴィオは小さく。少し悲しげに笑う。
とりあえず目覚めに一杯ジュースでも飲もうかと思い、ベッドから降りるとリビングへむかう。

廊下に出て、リビングに入った時、不意にシンクのうえの、洗いかごが彼女の眼に入った。

「……あ」
洗いかごの中では、一つだけちょこん。と逆さに置かれた小さなガラスコップが、朝の陽光を反射してキラキラと輝いて居た。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか?

と言うわけで今回は二巻、夜のシーンにおけるお話でした。

新しい鍵要素として登場いたします、“古傷”。
使い古されてはいますが、“痕”と言うのは何事かを忘れないためには本当に効果のあるものではないかな。と思っております。

心理描写についてはこれからさらに上げ下げ繰り返す予定なのに腕に自信がないですw
て言うか次回からは戦闘描写の連続になるはずなのに戦闘描写にも自信がないですw

どうすればいい……!どうすれば……!!

が、頑張りますw

では予告です。

ア「アルです!今回はなんか……色々起こりそうなお話でしたね!

ク「パタパタ……!(ま、また何か悲しい事が!?)」

ア「うーん、これまでのパターンを鑑みると……否定は出来ないですね」

ク「フラフラ……(そ、そんな……どうすれば……どうすれば……)」

ア「まぁ、そう言う関係ですから、と割り切ってしまえば良いんですが……クリスは優しいですからねぇ……」

ク「ピッ!(な、何とかならないですか!?)」

ア「さて……どうでしょう……それはともかくクリス、そっちばっかり気にしていて大丈夫ですか?」

ク「コテンッ?(と、言いますと?)」

ア「いえ。次回から模擬戦です。たぶん敵チームのデバイスの皆さんも容赦してくれませんよ?」

ク「パタパタ……ピッ!(そ、そうでした……!頑張ります!)」

ア「クリスはかわいーですねー……では次回!《陸戦試合スタート!》です!」

ク「ピッ!(是非見て下さい!!)」



 
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