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アイーダ

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第四幕その五


第四幕その五

「私は命を捨てていた。だから」
「私もです」
 アイーダはまたラダメスに告げる。
「貴方と共に」
「ではいいのか」
「御聞きになって下さい」
 上を見上げてラダメスに声をかける。
「声が。聴こえてきます」
「うむ」
 ラダメスはそれに頷く。確かに上から清らかな声が聴こえてきた。
「この声は。私への歌だ」
「貴方への」
「広大無辺なる神よ」
 巫女達の声が聴こえてくる。
「この世に命を与える神々よ」
「エジプトの神々の言葉だ」
「エジプトの」
「だが。同時に私達の天国を祈ってくれる神々だ」
 そうアイーダに告げる。
「天国の平和へ」
「私達の天国へ」
「いいのだな?」
 またアイーダに顔を向けた。そのうえで問う。
「私と共に」
「決意は変わりません」
 アイーダはこくりと頷いて述べる。その巫女達の声を後ろにラダメスに告げる。
「ですから共に」
「わかった。それでは」
 ラダメスは遂に最後の決意をした。もう言うことはなかった。
「共に行こう、いいな」
「はい」
「さらば大地よ」
「さらば涙の谷よ」
 二人は顔を見合わせる。そして最後の祈りを二人で行った。
「共に死後の幸福へ」
「そこで永遠の幸せを」
 アイーダはそう言いながら懐から何かを取り出してきた。それは小さな瓶であった。
「これに毒があります。私はこれで」
「私はこれを」
 ラダメスは剣を出してきた。
「これでそなたと共に」
「参りましょう」
「天国の平和にな」
「ええ。永遠の平和に」
「共に」
 今死へと向かう二人。その上ではアムネリスが巫女達と共にいた。
 喪服を着て下を見詰めている。じっとそこから目を離しはしない。
「永遠にさようなら」
 最後にラダメスに告げた。
「貴方とは。何時か幾度も生まれ変わってきって」
「王女様」
 巫女の一人が彼女に声をかけてきた。
「何?」
「宜しいのですね」
 怪訝な顔で彼女に問う。気遣う声で。
「エチオピアの王女が中へ」
「構いません」
 アムネリスは彼女に答えて述べる。じっと下を見ながら。
「あの方への想いが。だから」
「そうですか」
「報われなくても。実らなくても」
 唇を噛み締めて言う。全てに耐えながら。
「それが愛だから。ですから」
「そうなのですか」
「皆歌って」
 そのうえで巫女達に告げる。
「あの方の為に。何時までも」
「わかりました」
「これで。さようなら」
 涙がこぼれる。それは石の床の上に落ち下の世界へと滲み込んでいく。まるで天国へと旅立つ二人を清めるかのように。何処までも澄んだ、それでいて悲しい涙であった。


アイーダ   完

  
                    2007・4・12
 
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