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アイーダ

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第一幕その一


第一幕その一

                 第一幕  勝利と愛と
 古代エジプト。エジプトは長い間エチオピアと争ってきた。古くからある国同士でありその争いの歴史も長かった。その戦いはこの時も行われていた。
 石造りの神殿の中だった。白い壮麗な石が神殿を造っていた。今そこに厳しい顔の大柄な男がエジプトの貴族の服を着た逞しい男を前にして語っていた。
「いよいよだ」
 その大柄な男は髪のかなりの部分を剃っていた。当時のエジプトの風習に従ってのことである。それから彼が神官であることがわかる。エジプト社会においてファラオを補佐し大きな力を持っていた神官であった。
「信託が下った」
「遂にですか、ランフィス様」
「うむ」
 その神官ランフィスが応えた若者は雄々しく彫のある顔をしていた。背は高く黒い髪に髭のない顔が実に端整であった。黒い目は強い光を放ちその上半身は実に逞しい。誰もがうっとりとするような美男子であった。周りの石の柱にも負けてはいない力強さがそこにはあった。
「エチオピアが来た」
「またしても」
「ラダメス将軍」
 ランフィスは彼の名を呼んできた。
「はい」
 ラダメスのそれに応える。その力強い目で彼を見ていた。
「エチオピア軍が目指しているのはこのメンフィス」
「またしてもですか」
 一度や二度ではない。エチオピア軍は何度もテーベを目指して攻め上がってきているのだ。この時のエチオピアの首都はテメンフィスであった。彼等はそこを常に狙っていたのだ。
「そうだ、懲りずにな」
「では懲罰を与えてやりましょう」
 ラダメスは強い声で述べてきた。
「我等がメンフィスを汚さんとする者達に」
「イシスは命じられた」
「エジプトを守る将を」
「そうだ、それもまた伝えられる」
 ランフィスはラダメスをじっと見据えて述べてきた。
「名誉を与えられた者の名が」
「その者は幸せであります」
「確かに」
 ランフィスはその言葉に笑みを浮かべた。そのうえでまたラダメスを見てきた。
「将軍」
 そのうえでまた彼に声をかける。
「その者は若く、勇ましい者」
「勇者ですか」
「エジプトが誇る勇者だ。太陽であるラーを守るセトやトトのように」
 セトは邪神であるとされることも多いが本来は太陽神ラーを守りコウノトリの頭を持つ神トトと共に闇の大蛇アピプと戦う存在であったのだ。その頭は奇妙な動物であるがジャッカルではないかと言われることもある。ランフィスはその強力の神々の名を出してきた。それにもある意味を含んでいた。
「まさに勇者だ」
「その勇者がエジプトを、ファラオを守る」
「では私はこれでな」
「ファラオの下にですね」
「そうだ」
 きっぱりと彼に告げた。
「神の御意志をお知らせに行く。それではな」
「はい」
 ランフィスは去りラダメスは一人になった。ここで彼は一人呟くのであった。
「若し私がその戦士であったならば私の夢を適えることができる」
 そう言った。
「勇者達を率いるさらなる勇者となり勝利を得れば栄光は思いのままだ」
 だが彼はここで栄光を見てはいなかた。他のものを見ていたのだ。
「そしてアイーダ」
 一人の女の名を呟いた。
「そなたに告げたい。そなたの為に勝ったのだと」
 想っている者の名を呟くとその姿が思い浮かぶ。それは彼にとっては女神のようであった。
 
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