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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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コラボ
  コラボ『剣製の魔法少女戦記&F/mg』第一話 魔法使いがやってきた!?前編

 
前書き
炎の剣製様の剣製の魔法少女戦記とコラボ作品になります。

物語の時間設定はA's完結後になっています。

 

 
 朝、プレシアを送り出して、俺も出掛ける準備をする。

 少し早い気もするがなのはの家に一旦皆で集まってからの出発だからいいだろう。

 黒のズボンにシャツに赤のジャケットを着る。
 まだ二月だが晴れているし暖かいから丁度いいだろう。

 ちなみにこの赤いジャケットだが、桃子さんが俺に似合いそうと買ってくれたものでお気に入りなのだ。

「お邪魔します」

 もはや通い慣れてしまった高町家に上がると既に皆勢揃いしていた。

「俺が最後か?」
「皆で買い物なんてすごい久しぶりだもんね」
「そうよ。なのは達も色々あるってわかってるけど最近なかなか集まれなかったしね」

 なのはもフェイト、はやても本格的に管理局に関わり始めて学生ながら、活躍しているからな。

 確かにこうして全員で集まって出掛けるなんて久しぶりだな。

 そんな時になる呼び鈴。

「あれ? 誰だろう?
 はーい!」

 玄関に向かうなのは。

「ちょうどええし、このままで出よか」
「そうだな」

 なのはは上着もないようだし、このまま出られるだろう。

「唯一の男でなんだししっかりと付き合いなさいよ?」 
「ああ、わかっているとも。だからそう耳元で叫ぶな、アリサ」
「アリサちゃん。士郎君も困っていることだし……」
「でも、みんなでお買い物は久しぶりだし楽しみだね」
「そやね」

 俺達の声に反応したのだろう。
 丁度、帰ろうとしていた朱銀色の長い髪をした女性が振り返った。

 どこかイリヤの面影を感じさせる女性。
 その女性の口から

「え、衛宮士郎……?」

 なぜか俺の名前が零れ落ちた。

「な、なぜ俺の名前を?」

 俺の名前を知るイリヤの面影を持つ女性。

 一体何者なのかは、何が目的でここに来た?
 僅かに警戒しつつ、すぐに動けるように足を軽く開き、僅かに腰を落とす。

 だが次の瞬間、その女性が取った行動は

「士郎君、会いたかったわ……」
「え? な……?」
「「「「「なぁっ!?」」」」」

 親しい人間に向けるような笑顔で近づき手を握ってきた。
 あまりの予想外の行動に反応が遅れる。

 握られた手と共に感じる馴染み深い魔力。

 リンカーコアとは違う魔術回路の魔力。
 魔術師!?

「私のこと、忘れちゃったのかしら? あなたの親戚のシホよ」
「ッ! きさ、いや……………そ、そうだな、久しぶりだ。シホさん……」

 少なくともここで一戦交える気はないようだ。
 だが何者だ?

「うん、よかったわ。覚えていてくれて。
 そこの子達、ちょっと士郎君を借りていくわね?」
「なのは達は少し待っていてくれ。
 なに、すぐに済む」

 なのは達の視線が痛いが、今は従うしかあるまい。

 幸いにも周りに気配も、視線も感じない。
 伏兵はいないと考えていいだろう。

 シホと名乗る女性に手をひかれて、なのは達の視覚から消えた事を確認する。
 それと同時に手を振り払い、間合いをあける。

 魔術回路を数本起動させながら、干将・莫耶とさらに無銘の魔剣の設計図を三十本ほど用意する。

「………貴様、何者だ?
 いつ、どうやってこの結界に感知されることなく町に入ってきた? 魔術師」
「質問攻めね……。ま、仕方がないか。
 さて、それじゃ私の自己紹介と行きましょうか。
 私は“シホ・エミヤ・シュバインオーグ・高町”。
 高町性がバレるとまずいからこの世界ではシホ・E・シュバインオーグで構わないわ。
 そして、平行世界のあなたとはおそらく違う道を辿った衛宮士郎の成れの果てよ」
「なっ!?」

 俺とは違う別の並行世界の成れの果てだと?
 この女性が?

「ど、どこにそんな証拠があると―――」
「この宝石剣と、投影開始(トレース・オン)

 自然と行われる投影魔術。
 自分が最も使い慣れている干将・莫耶。
 そして、自分の師でも宝石翁が持ちし宝石剣を見間違えるはずがない。

「この二つが証拠よ」
「なっ……ぐっ!」

 確かに異端の投影魔術。
 さらに宝石剣とシュバインオーグの姓。

 証拠としては十分だろうが、この女性が自分という事をどうしても認められていないようだ。

「それが本当ならこの世界に何しにきたんだ?」

 仮に俺として並行世界に来て戦いに来るとは考えにくいが、何が目的かわからないため最低限の警戒はしておく。

「宝石剣の起動実験をうっかり失敗しちゃってこの世界に来てしまったのよ。
 ちなみにだけど今って新暦何年?」
「新暦? ミッドチルダの事か? なら今は確か66年の年越しの冬だが……」
「ということは約十年前というわけね」
「……なに? お前は十年も先の未来の平行世界から来たというのか?」
「ええ。そうなるわね。
 大師父の助けを待つのもありだけど、できるだけ自力で元の世界に……私の世界のなのは達の下に帰りたいからね」
「なるほど。まだ完全に信用できないが理解した」
「ありがと、士郎」

 私の世界のなのは達の下に帰りたいか。
 その時の瞳を見る限り嘘は言っていないようだ。

 しかし、うっかりって……並行世界の俺は遠坂の呪いまで受け継いだのか?

 この調子だと昔の凛みたいについ、うっかりでとんでもない事を起こしたりしてるんじゃないか心配になる。

「それとだけど、ちょっとこの格好をどうにかしたいのよ。
 この制服って管理局の陸士部隊のものだから、もしうっかりリンディさん達の前に出たらバレちゃうから」
「それならちょうどいい。これからなのは達と買い物に行く予定だからその時に一緒に買えばいいだろう」
「そうさせてもらうわね。あ、それと今のうちに自己紹介しておく人がいるわ。
 アルトリア、ネロ、出てきて」
「はい」
「うむ」

 突如として現れる二人の女性。

「なっ!? セイバー! それもなんかもう一人似たような人がいるが、まさかサーヴァントか?」

 だけど俺の知っているセイバーの方はサーヴァントの実体化とは違う現れ方だ。
 サーヴァントというよりデバイスのような感覚だ。

「うむ! セイバーのサーヴァントだ」
「うん。私の世界でも色々あってね。そこらへんのあれこれはまた後ほど話すわ」
「……わ、わかった」

 並行世界でも巻き込まれた体質というのは同じなのだろうか。

「しかし、シロウでいいのですか? あなたは随分とナノハ達に慕われているのですね」
「うっ……セイバー、そのだな」

 セイバーの呆れたような視線が痛い。

 元いた世界でも何度か向けられた事があるが、慣れる事はないな。

「まぁ、いいでしょう。それと今はまだ私達は姿を現すのは得策ではありません。
 ネロ、まだ待機していましょうか」
「そうだな。奏者よ。なにかあったらすぐに実体化して守るからな!」
「ええ、お願いね。ネロ」

 シホの言葉に頷き、姿を消す二人のセイバー。

 やはり俺の知っているセイバーはサーヴァントとは違う感じだ。

「……赤い方はともかくセイバーはサーヴァントなのか? なにかデバイスから出てきたように感じたが」
「ええ。アルトリアも少し込み入った事情があってユニゾンデバイスになっているのよ」
「なっ!」

 サーヴァントがユニゾンデバイス?
 ……本当に何があったらサーヴァントを召喚して、セイバーがユニゾンデバイスになるんだよ。

「それじゃ戻りましょうか。なのは……いえ、彼女等にとっては私は初対面だからなのはちゃん達に挨拶をしないといけないからね」
「わかった」

 これ以上なのは達を待たせるのも悪いし、敵ではないようだから大丈夫だろう。

 そして、シホと共になのは達に戻るやいなや囲まれる俺。

「士郎君! なにか変なことされていない!?」
「士郎! あの女性は誰なの!?」
「いつからこんな綺麗な人とも交流があったの」
「士郎! どんな関係か白状してもらうわよ!」
「すみにおけんなぁ、士郎君は」

 なのはとフェイトは心配してくれていたようだが、すずかとアリサは心配というより尋問するかのように詰め寄って来る。

 アリサの凛やルヴィアのような悪魔気質は元々感じていたが、最近はすずかが桜のように黒くなるのが物凄く怖い。
 はやてに限ってはこの状況を楽しむつもりなのが丸わかりだ。

 このまま囲まれてても話が進まないのでシホに視線を向けると察してくれたようで頷いてくれる。

「挨拶をさせて貰っていいかしら。
 私の名前は“シホ・エミヤ・シュバインオーグ”。士郎君の親戚よ」
「えっ? エミヤ?
 それじゃもしかしてあなたは士郎と同じ魔じゅ―――…」
「……それ以上はここでは詮索はやめてね? 私も無闇矢鱈にみんなの記憶をいじりたくないから……」
「「「「「っ!?」」」」」

 フェイトの言葉に視線を強くして威圧するシホ。

 詮索されたくない気持ちはわかるが何を脅しているんか。

 もっともこの程度の威圧で動きを止めてしまうのも問題だよな。
 威圧や殺気等に対する耐性もつけさせないとな。

 近いうちになのは達の訓練プランに組み込むとしよう。

「……シホさん。子供相手になにやっているんですか?」

 内心ため息を吐きつつ、シホを止める。

「ごめんね、士郎君。
 でも私達にとって秘匿の話をこんな人がよく通るところで話そうとしたから口止めは必要でしょ?」

 気持ちはわからなくもないが、この秘密主義は魔術師として習慣みたいなものか。

 自分自身でも思うところがあるのでこれ以上は口は出さないでおく。

「それでだけど、士郎君のお誘いで私もショッピングに付き合わせさせてもらうわ。
 普段着を購入したいしね。
 あ、そうだわ。あなた達の名前をまだ聞いていなかったわね。よかったら教えてくれる?」
「え、えっと、高町なのはです」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
「八神はやてです」
「月村すずかです」
「アリサ・バニングスです」
「そう、なのはちゃんにフェイトちゃんにはやてちゃんにすずかちゃん、アリサちゃんね。よろしくね」
「「「「「はい!」」」」」


 シホが加わりショッピングに出かけたが、特にギクシャクしたところもなくすぐに馴染んでいる。

 俺はというとなのは達から数歩遅れるような形で買い物に付き合っている。

 男性一人で女性六人の相手だとこれぐらいがちょうどいいのだ。

 そんな時シホとなのはの 

「どうして普段着を買うんですか? 持ってきていないんですか?」
「ちょっとワケありでね。今は着ている服しか持っていないのよ。
 この制服も少しバレるとマズい格好なんで隠しておきたいの」

 などという会話が聞こえた。

 服ぐらいなら投影でどうにかできる気もする。
 だが何かの拍子に破けでもしたら霧散しかねない。
 女性としてはそれを回避したいのか?

 元は男性でも女性と生活しているのだがら感覚が共有できないところはあるかと納得しておく。

 そんな中でなのは達が顔を赤くし、小声でこちらをチラチラ見ながらシホと話し始めた。

 この距離、耳を澄ませば聞こえそうだが、女性の秘密の会話を聞こうとは思わないので意識を逸らしておく。
 そんな中でジト目を向けてくるシホ。

「……シホさん。
 その……ケダモノを見るような眼差しはやめてくれないか?」
「どうしようかしらねー」
「シホさん! 今はまだいいんです!」
「そうです! 今は停戦協定を結んでいますから!」

 停戦協定?

 物騒な話でなく、なのは達が頷いているから友達同士の約束なのだろうが一体何の事だ?

「そう、ならもういいかしらね。
 いい思いをしているわね、士郎君」
「……なんのことだ?」

 俺の問いのは答えず、またなのは達と談笑を始めるシホ。

 一度死んでも女性には敵わないが、こうして女性となった自分にも敵わないとは。

 しかし、意外だな。
 シホはミッドから来たと言っていたが日本のお金も持参していた。
 活動拠点を完全にミッドにしているわけでもないのか?

 そんな事を思いつつ、のんびりと色々なお店を見ながら食材を買ったり、洋服店でシホの服を買ったりとショッピングを楽しむ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎるものでそろそろいい時間だな。
 
「さて、それじゃみんなもそろそろ帰る時間だろう?
 よかったら送っていくぞ」

 俺の言葉に頷いたなのは達を送り、シホと二人で俺の家に向かって歩く。

 そういえば

「シホはこれからどうするんだ?」
「すぐに戻れるかわからないから、寝床を確保したいところね。
 生憎とこちらの世界では証明するものがないのだけど」
「なんならうちに来るか?
 部屋は十分あるしな」
「それじゃお願いできる?」
「ああ、帰る手段が見つかるまでの間、ゆっくりとしていくといい。
 同居人がいるが彼女なら問題ないだろう」
「ありがとね、士郎。
 ところで彼女って誰なの?」

 視線が痛い。
 なんだか変な勘違いをされているな。

「変な勘繰りをしないでくれ。
 同居人は“プレシア”なんだから」
「えっ……?」

 驚きの表情で歩みを止めるシホ。

「大丈夫か、シホ。落ち込んだ表情をしているが」
「ええ。少し考え事をしていたのよ。事情については士郎の家に到着したら話すわ」

 言いにくそうなシホの反応に

「……もしや、シホの世界のプレシアは……」
「……こういうことに関してはやっぱり鋭いのね。ええ、士郎の思っている通りよ」
「そうか」

 プレシアの一件。
 俺自身の時でさえ、一歩間違えばプレシアを救えなかったのかもしれないのだ。

 これ以上の事はシホから話さなければ聞く事はないだろう。 

 そして、辿りついた我が家。
 その外観にどこか懐かしそうな表情をしているシホ。

「なんかリンの家に似ているわね」
「シホもそう思うか。我ながら色々と犯罪めいたことをしてこの家を購入したからな」
「なに……? 暗示でも使ったの?」
「まぁな」
「それに解析の目で見てわかった事だけど認知阻害の魔術がかけられている。
 一般人はなかなか近寄れないものね」

 ずいぶんとあっさりと解析したな。

「わかるのか……?」
「ええ。これでもアインツベルンの千年の魔術の知識を持っているからね」
「アインツベルンの知識……だと? やはりイリヤに似た姿をしているのは何か関係しているのか?」
「それも家の中で話すわ。
 私、いろいろな偶然とめぐり合わせで自分で言うのもなんだけどちょっとしたチート体だから」
「ふむ、詳しく聞きたいところだ。寒いし中に入って話すとしよう」

 女になったことに加えて、アインツベルンの知識ね。

 俺も大概だと思っていたが、シホも大概だな。

 玄関を開けて、リビングに入る。

「ただいま、プレシア」
「あら、おかえりなさい。士郎」

 管理局から持ち帰った仕事なのだろう。
 空間投影されたディスプレイでなにやら、作業をしていた。

「後ろの方は?」
「シホ・エミヤ・シュバインオーグさんだ
 なのは達には親戚の人という事で説明してる」
「エミヤ?……それにしてはやけに雰囲気が似ているわね」

 ……さすがプレシアだな。
 なかなかに鋭い

「一言で言えば俺と同じような……」
「ちょっと待ちなさい!?」

 プレシアに説明しようとした俺を止めて、小声で耳打ちをしてくる。

「何いきなり明かそうとしてるのよ」
「俺の事はプレシアやなのは達、近しい人には俺の事は教えている。
 一緒に生活するなら教えておいた方が気にしなくていいだろう」
「それはそうだけど、私の世界の事を話すとなるとややこしいのよ。
 アリシアもいないようだし……」

 アリシアがいないか。
 向こうの世界ではアリシアは生きているのか。

 俺ではアリシアを生き返らせてやることは出来なかった。
 出来たのはただ亡骸を葬ってやることだけ。

「……あなた、どうしてアリシアの事を知っているのかしら?」
「えっと……どう説明すればいいのか」

 だがアリシアの事になると俺よりも反応が顕著なのはプレシアの方だった。
 まあ、アリシアと世界を天秤にかけてアリシアを取ったのだから当然といえば当然なのだが。

「プレシア少し落ち着け。こんな殺伐とした雰囲気になるところではないだろう」
「……そうね。謝るわ」
「こちらも勝手にアリシアの名前を出してすみません」

 プレシアが落ち付いたのをみて、紅茶を用意して改めて話を始める。

「まずは話をする前に、近しい人には俺の事は教えているって言ってたけど」
「なのは、フェイト、はやて、すずか、アリサ、プレシア、高町家と月村家のメンバーにもある程度は教えている。
 管理局だとリンディさん、クロノ、エイミィさん、レティさん、グレアムさんとその使い魔。
 それぐらいか」
「なるほど……。私よりは秘密にしているのね」
「なんだ? そっちではばれてしまっているのか?」
「えぇ、管理局にもばれちゃっているから結構ギリギリなところね」
「そちらは何があったか知らないが苦労していそうだな」
「まぁね」

 俺の現状を簡単に話す中で

「……話が見えないのだけど」

 ついて来れないプレシア。
 無理もないだろうな。

「すまん。そうだな、まずは」

 シホの視線を向けると俺の意図をすぐに理解してくれたようで

「そうね。まずは私の正体を話したほうがいいわね」

 シホが静かに語り始めた。

 元いた世界の別れ。
 イリヤの想い。
 
 そして、今度こそ後悔しないように自分の正義を変えて、複製されたイリヤの体に宿り、性転換して魔導の世界にやってきて、なのはの家族になった。

「なるほど……聖杯戦争中に第二魔法を会得した。
 そしてサーヴァントは全員消えて数年たった後にイリヤも死んでしまったのか」
「えぇ」

 それにしても元いた世界の経験はある程度似ているかと思ったが、聖杯戦争自体が俺の経験とは違うな。
 いや、そもそも吸血鬼になっている俺の経験の方がおかしいのか?

「でもこれからが驚く話になるわね」

 双子の兄妹のユーノとフィアットの出会い。
 それから始まるジュエルシード事件。
 事件の結末としてフェイトはプレシアの別れ。
 そして、魔術回路に宿っていたイリヤの意志の覚醒。

「これはプレシアの前で話すつもりはなかったのだけど、話の関係で話さざるえなかったんです。
 すみません、プレシア」
「いえ、いいわ。でもやっぱり平行世界は違うのね。
 この世界でも私は死んでいた可能性があったかもしれないという事ね」
「もしもの話なんてしないほうがいい。
 今生きている。
 ここにいて平穏に暮らしていけている。
 それでいいじゃないか」
「そうね、士郎」

 自分の選択がこれでよかったかなどわかるはずがない。
 だがこうしてここにいる事が出来る事を喜んだ方がずっといい。
 
 しかし気になる事はほかにもある。
 魔術回路に宿っていたイリヤの意志のことだ。

「……それでイリヤが宿っていると言っていたが」
《そうだよ、シロウ》
「っ! イリヤ、普通に念話で会話できるのか!?」

 俺の言葉に返事をするようにイリヤの声がシホの中から聞えた。

《えぇ、そうよ》
「イリヤもタイミングいい時に出てくるものよね」
《当たり前でしょ、シホ。こんな機会は滅多にないんだから楽しまなきゃ損よ。帰る宛もあるしゆっくりしていきましょう》
「そうね」
「……イリヤの件に関しては承知した。
 ところでさっきから思っていた素朴な疑問なんだが」
「ん? なに?」
「フィアットとは誰だ? ユーノに双子の妹がいるなど聞いたことがないんだが」
「えっ、フィアがいないの!?」
「あぁ」

 俺の言葉に考え込むシホ。

 そんな中言葉を発したのは

「それはきっと平行世界の別の可能性なのでしょうね」

 以外にもプレシアだった。

「別の可能性?」
「シホさんの世界はフィアットという子が一緒に生まれてくる可能性の世界だった。
 そして私達の世界はその可能性がなかった世界だということよ」
「なるほど……平行世界の神秘に当てはめれば納得がいくわね。
 平行世界は無限に分岐していくからフィアが生まれないという選択肢をした世界もあるという事ね。
 第二魔法の担い手としてすぐにそれに思い当たらなかったのは恥ずかしいわね」

 魔導師の研究者とはいえ、この世界で俺の次に魔術に関わりが深いだけあるな。

 しかし、別の可能性か……
 『もしもの話なんてしないほうがいい』とプレシアに言ったばかりだというのに考えてしまっていた。
 そんな自分に内心苦笑しつつ、俯くシホに声をかける。

「シホ、気にしないほうがいいぞ。気休めかもしれないが」
「ありがとう、士郎」

 大きく息を吐き、意識を切り替えるシホ。
 さすに切り替えははやい。

「はやてに会ったけど念のため聞くけど、この世界は闇の書事件はもう解決しているの?」
「あぁ。ちゃんと解決したよ」
「そうね。それじゃ……リインフォースは、どうなった?」
「何とか救えたよ。今日、明日は本局で留守にしているが元気にしている」
「なら、よかったわ」

 少しの間、どう話すべきか考えてからシホがこれまでの事を話し始めた。

「まずはやての話から始めた方がいいかしら。
 私がなのは達の世界に来たと同時に私と訳あって分裂した士郎が記憶喪失で使い魔状態ではやてのもとにやってきたのよ」
「分裂!?」

 なんだか初めからとんでもない事になってないか……

「まぁ、理由としては私の体には私とイリヤ、そしてアインツベルンの始まりの祖であるシルビア・アインツベルンの魂が宿っていたのよ。
 さすがに三つに魂が一つの体に納まらなかったから私の魂を分裂することでなんとか納まりを得たのよ」
「なるほど……なんとなくだが理解した」
「私も理解したわ」
「ならよかったわ。
 それじゃ少し話を飛ばしていくとヴォルケンリッターとの戦闘が起こり、なのははリンカーコアをシャマルさんに抜き取られて、
 そして私は仮面の男に扮したリーゼ姉妹の手によって死ぬギリギリの重傷を受けることになった」
「やはり、あの猫共か……」
「もう過ぎた事とはいえ許せないわね」

 あっちでもあの猫姉妹は色々やっていたらしい。
 まあ、こっちはこっちで痛い目を見ているので並行世界の事は眼をつぶろう。
 あんまり思いだすとプレシアがまた暴れで出しかねないので、話を進めてもらおう。

 俺のアイコンタクトを理解してくれて、若干首を傾げながらも話を進めるシホ。

「まぁ、進めるわよ?
 それで本来なら即入院の傷だったんだけどこのアンリミテッド・エアが起動。
 そして、過去にシルビアの手によって創造物質化の魔法でサーヴァントからユニゾンデバイスに物質化してもらったアルトリアが現界して、アヴァロンを介して私の傷を治療したというわけ」
「待ってくれ。
 そのシルビアという人はアインツベルンの始祖なのだろう?
 どうやってセイバーは会ったんだ?
 それと、創造物質化とはなんだ?」
「まぁ気になるのはわかるわ。
 まずシルビアは実は古代ベルカの聖なる錬金術師と呼ばれていたらしいの。
 でもその力が災いを呼ぶと予言されてある方の力によって異世界、つまり私達の世界の千年前に飛ばされたのよ。
 次にアルトリアは現界ギリギリの状態で大師父に連れられて世界を飛ばされる前のシルビアと出会い、私の話を聞いてユニゾンデバイスになる決意をしたのよ」

 そんなシホの言葉を引き継ぐようにアルトリアが姿を現し

「はい。私はシホの力になりたいためにその決断をしました」

 想いを語ってくれた。

「……そうか」

 シホのユニゾンデバイスにしろ、俺の赤竜布にしろ並行世界に渡ってからもセイバーに守られるとはな。

 本当に俺には出来過ぎたサーヴァントだな。

「そして最後に創造物質化の魔法。
 これは魂の物質化のもとになった魔法で、どんなものでも任意に物質化できたりできた。
 たとえばさっきの例でサーヴァントをユニゾンデバイスにしたり、ただの人工AIを人間にしたり、体を作り出すこともできた。
 魂の物質化もこの魔法の一つだったのよ」
「確かにチートだな」
「そうね」

 シホがチートと言っていた意味がよくわかる。

「それから話は再開するけど、私は魔導師として動いていけるようになって、シグナム達とも密会をしたり、士郎の記憶を戻したりしてはやてを裏から助ける計画を立てていった。
 グレアム提督達ともなんとか説得して協力してもらい計画を立てて、闇の書に捕われたはやての意識を起こすために使い魔状態の士郎を憑依させて闇の書を完成させた」
「シグナム達は納得したのか?」
「えぇ。なんとか協力してもらったわ。
 そして後ははやての意識を呼び戻すだけだったんだけど、ポカミスして闇の書の中の夢の世界にフェイトと一緒に捕われてしまったのよ」

 ……ポカミス。
 シホの奴、性別変わって遠坂の呪いが顕著になってないか?

「それからどうなったんだ?」
「えぇ、夢の世界で私は衛宮の武家屋敷でもとの姿で目を覚ました。
 そこにはかつての眩しいみんなとの暮らしが広がっていた。
 でも所詮これは夢の世界だとして私はアルトリアとイリヤの誘惑の言葉を断り出る決意をした。
 でも脱出した後もまた夢は続いていたの。
 そこではシルビアのかつての記憶が再現されていた。
 そしてある想いを私に託して私と魂を融合して一つの人間となり、そして根源に触れるイメージが沸いて私は第三魔法。
 劣化して一度きりの創造物質化の魔法。
 シルビアの記憶。
 アインツベルンの千年の知識を会得した」
「……なんというか、聞いていて思ったがかなりシホはチートな力を会得したんだな。
 第二と第三の魔法を両方使えるとは……」

 並行世界で性別が変わったとはいえ、自分が魔法使いの仲間入りを果たしているとは変な感じだ。

「私もそれは思うけど、もう今となっては今更って感じだしね」
「そ、そうか。ここは呆れるところか驚くところなのか……」
「どちらでも構わないわ。
 それで後は闇の書の闇を倒した後、消えようとしていたリインフォースを士郎と一緒に説得して創造物質化の魔法でリインフォースの意志に魂と人間の体を。
 使い魔状態の士郎にも新たに体を与えて全員助かって闇の書事件は終決した」
「そちらはそんな終わり方をしたのだな」

 同じ闇の書事件でも魔法を使ったりとずいぶんと派手にやったものだ。

 話が一段落し、紅茶にシホが口をつけて一瞬固まった。

 何かミスがあっただろうか。
 自分も口をつけるがいつも通りだ。

 シホの反応に首を傾げながら一息つく。

 ゴホンッ! と咳払いをしてシホの話が再開する。

「そして次の事件は多分この世界では起こらないと思うから話させてもらうわ」
「なんだ? また海鳴で事件が起きたのか」
「えぇ。きっかけはとある平行世界で言峰綺礼が世界を聖杯の泥で滅ぼした事が発端だった」
「なんだと!?」

 予想もしない男の名前に反射的に立ち上がる。

「落ち着いて士郎。もう終わったことだから……」
「……わかった」

 大きく息を吐き、落ち着き、再び座る。

 それにしても予想もしないところで聞きたくない男の名前が出てきたな。

「それがきっかけでその世界の死んでいった魔術師の因子がすべて私達の世界に移ってきて、次々と私達の次元世界に魔術師が誕生していった。
 そしてなのは、フェイト、はやて、すずか、アリサも魔術回路が宿り、同時に令呪まで宿ってしまった」
「令呪までが……」

 魔術回路に令呪までなのは達に現れるとは。
 少なくともこっちのなのは達には魔術回路の形跡は見られなかった。

「言峰綺礼は私達の世界に小聖杯を宿したホムンクルス、大聖杯を宝物庫にいれて改造したギルガメッシュ、黒化したセイバー三人を連れてやってきた。
 そして、自分を含めた七人のマスターを集めて聖杯大戦を起こした。
 私達は言峰綺礼の野望を阻止するためにサーヴァントを召喚して対抗して七対七の対抗戦を起こしたのよ。
 そして私が召喚したのがセイバー…ネロ・クラウディウスよ」
「うむ」

 シホの言葉に頷く様に霊体化を解除するセイバー。

 ネロ・クラウディウス。
 歴史上は男性の皇帝だったが、セイバー、アルトリアと同じように性別を隠した王ということか。

「そして聖杯大戦の最中、盗まれていたアリシアの体に無理やり魂を呼び戻してサーヴァントの魔力タンクに使っていた魔術師がいたのよ」
「なんですって!?」

 シホの言葉にプレシアが怒りの表情をして立ち上がった。

 リンカーコアから魔力が溢れ、目の前に敵がいれば消し炭にしかねない勢いだ。

「その魔術師の名前を教えなさい。今から殺しに行くわ!」
「落ち着いてプレシア。
 大丈夫、もうその魔術師は自害してアリシアも第三魔法で救って今はフェイトと楽しくやっているわ」
「そうなの。シホさん、アリシアを救ってくれてありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです。
 話を再開しますけど敵のサーヴァントをほとんど倒したのはいいんだけど言峰綺礼が小聖杯のホムンクルスの心臓を抜き取り自分に移植して私達に最後の戦いを挑んできた。
 そしてなんとかギルガメッシュともども倒すことができて後に聖杯大戦事件と呼ばれた事件は終決したのよ」
「なかなかに破天荒な世界になったんだな」
「えぇ、これ以上は未来の話になってくるから禁則事項で言えないけど退屈しない毎日を送っているわ」

 これでシホの話はおしまい。

 だがシホもずいぶんな経験を積んでるな。

「それじゃ今度は士郎の話を聞きたいところだけど、プレシアがいる以外はほとんど変わらないみたいだし別にいいかしらね。
 でも一つ最初から気になっていたんだけど……士郎、あなたってもしかして死徒だったりする?」
「よくわかったな。
 さすが魔法使いといったところか」
「まあね。まぁそれなりに気配は読めるからね。士郎からは人の気配があまりしなかったのも理由の一つかしらね」

 気配だけで気がつく辺り、根源に至ったは伊達ではないという事か。

「それにしても隠してるみたいだけどかなりの魔力を秘めてるみたいね。
 二十七祖ともいい勝負なんじゃない」
「……………うれしくない事だが、聖堂教会からは第十位を与えられてはいた」
「十位って二十七祖の第十位?」
「ああ」
「あのネロ・カオスの後継者ってどうやったらそんな事になるのよ。
 ……まさか死徒の親も二十七祖とか言わないわよね」

 いい勘をしている。

「その顔、当たりみたいね。
 誰なの?」
「アルトルージュ・ブリュンスタッド」
「………黒の姫君。
 こっちの世界に来て私も大概だと思ったけど、貴方は元の世界で一体何をしてるのよ」

 シホの言葉はもっともだ。

 シホが大きく変わるきっかけになったのはこちらの世界。
 俺の場合、こちらに来る前から英霊エミヤともかけ離れている。

 ……そう考えると俺の方が特殊なのか?

「まあ、その話は今度にしましょうか。
 時間も遅いし、私がなにか作るわ?」
「いいのか?」
「えぇ。せっかくお世話になるんだからこれくらいさせて」
「わかった」

 キッチンに向かうシホが歩みを止めて振り返った。

「……ところで死徒って料理の味わかるの?」
「ああ。普通の死徒はどうかは知らないが、俺や周り皆もわかるぞ」
「そう、なら安心ね」

 一安心といった感じに再びキッチンに向かおうとしたシホの後ろ姿を見て、自然と訊ねていた。

「お前は、今……幸せか?」
「………!」

 俺の問いかけに一瞬驚きながらも何かを思い出すかのように眼を閉じる。

「……ええ。私は今、幸せよ」

 満面の笑みを浮かべて真っ直ぐと俺を見つめる。

 その表情と言葉だけで十分だった。

 ようやく始まった誰かとの歩み。

 未来で俺自身もシホのように笑っている事が出来るのだろうか。

「そうか。
 ……俺も掴めるだろうか?」

 誰かに問いかけるには小さく、まるで自分に言い聞かせるように漏れた言葉

「つかめるわよ。きっとね」

 その言葉に応えてくれるプレシア。

「士郎、私は貴方に救われたわ。だからあなたの幸せのためならいくらでも協力させてもらうわ」
「プレシア……」

 アルトリア達にも当然聞えており

「シロウ、やり直しはできませんが再出発はできます。
 ですから頑張ってください」
「奏者と同じ存在なのだからうまくいくだろう!」
《シロウ、頑張ってね》
「ああ」

 アルトリア、ネロ、イリヤの頷く俺。
 その姿を見ながら、どこか嬉しそうにキッチンぬ今度こそ向かうシホ。

 それから短い時間で簡単ながら満足のいく料理を味わうのであった。 
 

 
後書き
というわけで前書きにも書きましたが炎の剣製様の剣製の魔法少女戦記とコラボ作品になります。

その関係で今週と来週はA's編はお休みです。

物語の時間設定はA's完結後、闇の書事件の後になってます。

それではまた来週にお会いしましょう。 
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