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ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜

作者:カエサル
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GGO編ーファントム・バレット編ー
  55.恐怖の黒銃

 
前書き
第55話投稿!!

死銃を追う、キリト、シュウ、シノン。
その正体へと一歩、また一歩と近づく時、シノンに死の弾丸が襲いかかる。 

 


「シノン、今だ!」

ボロマントを追う最中に現れたプレイヤー、夏侯惇(カコウトン)の銃弾を叩き落したキリトが叫び、右手人差し指でへカートのトリガーを絞る。

放たれた銃弾が夏侯惇のど真ん中を貫き、HPを全損させる。BoBの大会では、特殊ルールで死体はその場に残る。赤い【Dead】の文字が浮かび上がる。

「今の戦闘音で、もっと集まってくる。どこかに移動しないと」

「ああ」

キリトは頷くと、するどく視線をすぐ近くの川面に向けた。

「《死銃》は川沿いに北に向かったはずだ。いったんどこかに身を潜めて、九時の《サテライト・スキャン》で次のターゲットを決める気だろう。これ以上の死.......被弾者が出る前に奴を止めたい。アイデアを貸してくれ、シノン」

思いがけず頼られ、慌てて頭を開店させる。

「......いくら妙な力があると言っても、《死銃》は基本的にはスナイパーだわ。カバーの少ないオープン・スペースは苦手のはず。でも、ここから北に行くと、川向こうの盛りもすぐに途切れる。その先は、島中央の都市廃墟まで、ずっと見通しのいい野原よ」

「つまり、奴は次の狩り場に、あの廃墟を選ぶ可能性が高い......ってことか」

呟き、キリトは地平線に霞むビル群のシルエットを見やる。

「よし。俺たちも街を目指そう。川岸を走れば、左右からは見えないはずだ」

「.......わかった」

キリトの言葉に頷き、背後をふりかえる。
そこには、動かなくなったダインの《死体》が転がっており、普通ならいたはずの《ペイルライダー》は影も形も残さず消えている。

いよいよ、この島の主戦場たる都市廃墟に侵入した。

「追いつかなかったね」

足を緩めたキリトに、そう囁く。

「......まさか、どこかで追い抜いちゃったとか......」

そう続けると、振り向いたキリトは、難しい顔で背後の川面も見ながら答える。

「いや、それはないよ。走りながらずっと水中をチェックしてたから」

「そ、そう......」

そもそも、アクアラングを背負っていない限り、一分以上水に潜ってることはできないはず。L115などという大型ライフルを持つ死銃に余裕があるとは思えない。

「なら、もうこの街のどこかに潜伏してるはずだね。川はあそこで行き止まりだし」

入り口には頑丈な鉄格子でプレイヤーの侵入を阻止しており、例え、プラズマグレネードを百発投げ込んでも破壊は不可能だろう。

「そうだな.......。九時のスキャンまで、あと三分か。この廃墟の中にいる限り、衛星の眼をごまかす手段はないってことだよな?」

「うん。前の大会じゃ、たとえ高層ビルの一階にいてもマップに映ったから。隠れるのに大きなリスクがある水中か洞窟、それ以上にスキャンを避けられる場所はないはず」

「OK。なら、次のスキャンで死銃の場所を特定したら、奴が誰かを撃つ前に強襲しよう。俺が突っ込むから。シノンは掩護を頼む」

「......それはいいけど......」

シノンは肩をすくる。

「一つ問題があるよ。《死銃》はあいつの正式なキャラネームじゃないこと、忘れてんしでしょうね?名前が判らないと、レーダー上で位置を突き止められない」

「う........そ、そうか」

光剣使いは眉をひそめ、考え込む。

「確か.......出場者三十人の中で、シノンが知らない奴は四人だったよな?そのうち、俺が追い掛けてた《ペイルライダー》は死銃じゃなかった。てことは、残りの三人......《銃士X》か《スティーブン》、《リューゲ》のどれかが奴だ......。街にいるのが片方だけならそいつで決まりだけど......」

「もし全員いたら、迷ってる余裕はないわよ。どれを攻撃するか今決めておかないと。.......あのさ、今ふと思ったんだけどさ.....」

こほん、と咳払いして続ける。

「......《ジュウシ》をひっくり返して《シジュウ》。《X》は《クロス》、あいつがやってた十字のこと......ってのは、さんがに安易すぎ.....よね」

「う、うーん.......いやまあ、VRMMOのキャラネームなんて基本みんな安易だと思うけどな。俺は本名のモジリだし.....君は?」

「.........私も」

互いに微妙な視線を交わしてから、同時に一度咳払いをし、一拍おき、キリトが意を決したように告げる。

「よし、廃墟に全員いた場合は《銃士X》に行こう。もし俺が、ペイルライダーと同じようにスタン弾に撃たれて麻痺しても、慌てずその場で狙撃体勢に入ってくれ。死銃は必ず出てきて、あの黒い拳銃で止めを刺そうとするはずだ。そこを撃つんだ」

「え........」

その言葉を聞いた瞬間、残り時間も忘れ黒い瞳を見つめ、問いかける。

「......なんで、そこまで.......」

(私を信じれるの?)

「......だって、私が死銃じゃなく、あんたを背中から撃つかもしれないのに......」

するとキリトは、意外そうな顔をしたのちに小さく微笑んだ。

「君がそんなふうに俺を撃たないことくらい、もう解ってるさ。さあ......時間だ。頼むよ、相棒」

そして黒衣の光剣使いは、シノンの左腕をぽんと叩き、川床から市街地へ上がるための階段に向かい歩き始めた。




「う.......っ......」

霞む視界と聞こえない耳が徐々にその機能を取り戻していく。

「クッソ........あいつ....」

スタングレネードで俺を行動不能にしといて、止めを刺ささないだと.......。

脳内で何度もやつの言葉が再生される。

『お前は、何もできず、ただ俺の銃弾が、死へと誘う光景を、指を咥えて、見ているんだな.......』

「テメェの思い通りにいくと思なよ.......《死銃》!!」

地面に落下した暗剣《シンゲツ》とファイブ・セブンを拾い上げ、まだ本調子じゃない体を無理やり走らせる。

(待ってろよ......キリト、シノン!)




階段の上部、市街地からは見通せない位置にキリトと並んでうずくまり、四度目《サテライト・スキャン》を待つ。

右手に衛星端末を握り、左腕のクロノグラフを睨む。

ジャスト午後九時になり、端末のマップ上に、白と灰色の光点が幾つも浮かび上がる。

「キリト、あんたは北からチェックして!」

北側の光点の群を生死かかわらずタッチし、名前を確認していく。《No-No》、《闇風》、《huuka》、《魔鎖夜》......どれも顔見知りの有名プレイヤーたちだ。もし探している名前がこの街に存在しないなら予想が外れたことになる。

いや。

「「......いた!」」

二人の声がシンクロした。

街の中央、スタジアム風の円形建築物の外周部。絶好の狙撃ポジションに《銃士X》はいた。

キリトと一瞬視線を見交わし、クロスチェックでそれぞれ確認し、同時に頷く。

「今この街にいるのは《銃士X》だけだわ」

「ああ、《スティーブン》と《リューゲ》はいないな。つまり、《銃士X》が《死銃》だということだ。狙っているのは、多分.......」

キリトが、自分の端末を示す。中央スタジアムからやや西に離れたビル上の光点......名前は《リココ》だ。

頷く間にも、リココの光点はビルの出口に移動する。道路に踏み出した瞬間、L115ライフルのスタン弾で麻痺させ、黒い拳銃で撃つのを阻止しなければ。

「掩護頼む」

「了解」

一言だけ答え、周囲の様子を窺ってから、右手で前進のサインをキリトに出すと同時に階段を蹴り飛ばす。

ほとんど廃墟とかしたフィールドの川の上に伸びる道を、私とキリトは全速で駆ける。現在この廃墟には、二人と死銃とその標的の他に少なくとも五、六人のプレイヤーがいる。

スタジアムの外壁はビル三階ほどの高さで、東西南北に一つずつ入り口が設けられている。
衛星スキャンの時から移動していなければ、銃士Xは西の入り口の真上あたりのはず。視力強化(ホークアイ)スキルの補正でオブジェクトの遠近エフェクトが薄れ、視界の解像度が増す。

「......いた。あそこ」

ちか、と夕日に一瞬光ったのは、間違いなくライフルの銃口だ。キリトもそれを確認する。

「どうやら、まだ《リココ》が出てくるのを待っているみたいだな。........よし、今のうちに後ろからアタックする。シノンは、通りを挟んだ向かいのビルから狙撃体勢に入ってくれ」

「え......、私も一緒にスタジアムに......」

思わずそう反論しかけるが、キリトの強い視線が遮る。

「これが、シノンの能力を最大限に活かす作戦なんだ。ピンチの時は君がその銃で掩護してくれると信じてるから、俺は怖れることなくあいつと戦える。コンビって、そういうものだろ」

「........」

その言葉に、頷くこと以外何もできなかった。

「それにあいつ......」

キリトがボソボソと何かを呟き、こちらに微笑みを浮かべると、腕時計を見て続ける。

「俺は、君と別れてから三十秒後に戦闘を開始する。その時間で足りるか?」

「......うん。充分」

「よし。じゃあ、頼んだ」

そして黒髪の光剣使いは、躊躇うことなく、ほとんど足音を立てずにスタジアムの南ゲート目指して駆け始めた。

その細い背中が遠ざかるのを見つめながら、胸の奥に奇妙な感覚が生まれるのを自覚する。
緊張?不安?にているけど、違う。これは.......、そう、心細さ.....?

(何を、馬鹿な!)

私の目的は、BoBで優勝すること。今は、一時的に《死銃》を倒すためにキリトやむを得なくと協力してるだけ。

変な感情を押し殺し、走る。市街地エリアに存在する建築物のスタジアムから、広い環状路を挟んで南西に面するビルも、壁面が大きく崩れているが、三階まで登れば、スタジアムの外壁通路が見通せるはずだ。

それは唐突だった。
ビル壁面の崩壊部をくぐる寸前、背筋に強烈な寒気を感じ、振り向こうとするが、それすらできずに路面に倒れた。

(何.......どうして.......!?)

即座に起き上がろうとしてみるが、体が言うことを全く聞かない。どうにか動かせる両眼で痛みのあった左腕を確かめる。
ジャケットの袖を貫き、腕に刺さっているのは、弾ではない.......銀色の針。直径五ミリ、長さ五十ミリ程度。

これは.......

電磁スタン弾。

こんな特殊弾を使用可能で、発射音がほとんど聞こえない大型ライフルを装備しているプレイヤーなんて《あいつ》しかいない。

(......でも、どこから)

その答えは、思考する前に自身の両眼で捉えた。
明らかに今まで何もなかった空間、南に約二十メートル離れたところにその空間を切り裂いたかのように、何者かが出現する。

ーーメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)!!

装甲表面で光そのものを滑らせ、自身を不可視化するいわば究極の迷彩能力。しかしあれは、一部の超高レベルネームMobだけが持つ技だったはず。

ばさり。

と風を翻るダークグレーの布地が、混乱極まる思考を遮った。
表面がボロボロに毛羽だった長いマント。頭部を完全に覆う同色のフード。光歪曲迷彩を解き、完全に姿を現した襲撃者.......そこに存在するはずのない、あの《ボロマント》

ーー《死銃》

ペイルライダーを消し去り、前大会優勝者《ゼクシード》、大スコードロン主催者《薄塩たらこ》を殺したかもしれない、沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)。

つまりこのボロマント、《死銃》は、《銃士X》ではない.....?

.......キリト

ボロマントは、滑るように音もなくこちらに近づき、地面に倒れる私のすぐ前、二メートルほどの位置で停止。

しゅうしゅうと軋むような囁きが、フードの奥の闇から流れ出る。

「......キリト、お前が、本物か、偽物か、これではっきりする」

どうやらボロマントは、スタジアムにキリトがいることを知っており、私ではなく彼に話しかけているようだ。

「あの時、猛り狂ったお前の姿を、憶えているぞ。この女を.......、仲間を殺されて、同じように狂えば、お前は本物だ、キリト。さあ......、見せてみろ。お前の怒りを、殺意を、狂気の剣を、もう一度、見せてみろ」

意味が全くわからない。

まだ、スタン弾で体が動かないが、命中したのが左腕だからか、右手は頑張れば動かせそうだ。幸い、すぐ近くに副武装として腰に下げたMP7短機関銃のグリップがある。握り、上を向け、トリガーを引けば、この近距離なら倒せるかもしれない。

(動け!動け!)

指先がグリップに触れる。

ほぼ同時に、死銃もマントから空の左手を持ち上げ、ペイルライダーの時のように十字ジェスチャーを行う。

今まで気づかなかったが、【●REC】という文字列が赤く点滅しており、この光景は、この世界と外の世界に中継されている。

十字を切り終わった死銃が、右手をマントの内側に差し込む。スタン状態が続くがMP7を懸命に持ち上げようとする。

ーーだが。

死銃がマントから引き抜いた右手、そこに握られた黒い自動拳銃が視界に入った瞬間、全身が凍り付いた。

あの銃は......ペイルライダーを目の前で消滅させた黒い自動拳銃。

それでも撃たれる前に撃つまで。そう自分に言い聞かせ、再度右腕を動かそうとするが......

その、寸前。

銃の左側面に小さな刻印。

円の中に、星。
黒い星。
黒星(ヘイシン)。五四式。ーーあの銃。

(なん........で。なんで、いま。ここに、あの銃が)

力を失った右手から、最後の望みのSMGさえも滑り落ちる。

(あの男)

五年前、北の街の小さな郵便局に拳銃ーー五四式を持って押し入り、詩乃の母親を撃とうとしたあの男。幼い詩乃が無我夢中で銃に飛びかかり、奪い、引き金を引いて殺したーーあの男の眼。

(いたんだ。ここにいたんだ。この世界に潜み、隠れて、私に復讐する時を待ってたんだ)

全身の感覚が失われていく。
もはや、脳の命令を拒むかのように体が動かなくなっていく。
眼を黒い銃から離すことすら出来ず、ただただ、シノン/詩乃の心臓を撃ち抜き、止め、殺すのを見ることしか。

瞼を閉じ、自分が死ぬ音が轟くのを待とうとしていた。

カァン!!

その音は、銃声としてはあまりに甲高く、まるで金属同士がぶつかり合ったような音に瞼を開けるとそこには、私と死銃の間に黒い人影のようなものがいた。

黒いコートが風でなびき、左手のファイブセブンを死銃に向けて構えている人影。

「テメェの好きにはさせねぇって言っただろ......死銃!!」

(助けに来てくれたの?)

言葉を出そうにも声が出ない。

「悪りぃ。いろいろあってちょっと遅れちまった」

私の方を向き、微笑みかける、私のもう一人のライバル視していた少年.......シュウがそこには。 
 

 
後書き
次回、シノンのピンチに駆けつけた、シュウ。

死銃との戦闘を避け、難を逃れた先で明かされる、シノンの過去。
 
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