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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第二十九話「……インストール♪ アンインストール♪ ――え、だめこれ?」

 
前書き

つぶやきの方のアンケートにも是非、ご協力ください!
 

 


「あ、あれ? おれ――」


 途切れた意識が繋がる。鮮明な視界に映り込むのは蒼穹の瞳を涙で濡らす金髪の美少女の姿だった。


「イッセーさん!」


【無事か相棒。今回は流石にひやひやしたぞ】


 大粒の涙を浮かべながら俺に抱きつくアーシア。


 俺って確か死んだはずじゃ……。なんか身体が元通りになってるし。


 安堵の吐息を零すドライグに状況説明を求めた。


【ああ、確かに相棒は一度死んだはずだ。そのはずなんだが……相棒の中にあった何かが相棒を蘇生したらしい。詳しい情報は俺もわからんが】


 俺の中にあった何か? ドライグでもわからないのか?


【ああ、さっきから情報収集しているが、まったく該当するものが見当たらん。しかもその影響か、神器も変質したようだ】


 変質……って、なんだこりゃぁぁぁ!?


 ドライグの言葉に右手を見下ろすと、そこには見知らぬ籠手が。いや、見覚えはあるんだけどね!


 俺の神器は前腕を覆うタイプの籠手だったのだが、それが今では前腕どころか上腕まで籠手が覆っている。肩の所にはYの字型の小さな楯のようなものが設置されていて、その中心には拳大ほどの大きさの歯車が取り付けられていた。


 なんだかすげぇ大仰なんだけどこれ……いや、格好いいし強そうではあるけどね。


「って、そんなことより部長たちに加勢しないと!」


 未だ部長たちはケルベロスと戦っていた。見たところ意識を失ってからそんなに時間が経過していないようだ。俺が復活したのを知らないのか目に涙を浮かべながら攻撃している。


「お体の方は大丈夫ですか?」


「ああ。なにがなんだか分からんけど、すっかり全快してるよ」


 その場で屈伸してなんの問題もないことをアピールする。側転までしてようやく安心してくれた。


 直ちに部長たちの元へ駆ける俺にドライグが声を掛ける。


【相棒。何だかわからんが、神器に新たな力が加わったぞ。こんな力は俺も初めてだ】


 ドライグの説明とともに神器からその力とやらの情報が送られてくる。なるほど、そういう風にして使うのか。じゃあ早速使ってみるかな!


 ケルベロスは部長たちが引き付けてくれているから隙だらけ。今なら不意打ちが出来るぜ!


「やってやろうぜドライグ! さっきの意趣返しだっ!」


【応っ! 百倍にして返してやろう!】


『Dragon booster subspecific evolution!!』


 籠手から新たな音声が流れる。


『Dragon install!!』


 籠手の宝玉が光り輝くとそれに呼応して楯に取り付けられた歯車が回転し始めた。緩慢に回転していた歯車はやがて速度を上げて高速回転し、キィィィ―――ンッ、という甲高い音を響かせながら火花を散らした。


 俺の気配に気が付いたケルベロスがこちらを振り向こうとするが、もう遅い。


「さっきのお返しじゃぁぁぁ!」


 大きく振りかぶった拳を思いっきりその横腹に叩きつけた。高速回転していた歯車が楯の上を滑り降ち、ガチンッと重い音を立てる。


『Over drive!!』


 拳から無形の波動が犬っころに伝わり――黒い毛並みを持つ巨体が爆ぜた。


「うぉっ!」


 効果は知っていたがまさか爆散すると思わなかった俺は思わず跳び退く。


 急にケルベロスが爆散して驚いていた部長たちは俺の姿を認めると目を見開いた。


「イッセー! 無事なの!?」


「え、ええ……なんとか生きてます」


「そう、よかったわ……。ところで、今のはイッセーが?」


「はい。ここに来て新たな力が目覚めたようで」


 ブーステッドギアの第三の力は『振動』。歯車の回転によって発生する振動を溜めて増幅させ、相手に叩きつけると同時に振動そのものを倍加させる。


 今回、ケルベロスが爆散したのは体内の水分が振動によって蒸発したためのようだ。急激に蒸発したため膨大な容積に耐えきれず身体が四散したとのことだ。


 原理は分かったけど……危なっかしくて使えないよコレ! レーティングゲームでも封印指定ものの技でしょ!


「すごい威力ね……」


「でも使い道が難しいですわね」


「……要検討」


 取りあえず俺が無事だったのに対し安堵の吐息を零す三人。


「ほう、このくらいは退ける力を持つか。だが、私のペットはまだまだいるぞ?」


 上空で足を組みながら観戦していたコカビエルが指を鳴らすと、再び虚空に穴が開いた。


「まで出てくんのかよ!」


 再び現れる犬っころ。その数は二匹。


 こいつはちょっと厳しいぞ……気合入れて行かないと!


 咆哮を上げて飛び掛かってくる犬っころ。しかし、刹那のうちにそのそっ首が斬り落とされた。


 誰だ……木場か――?


 しかし、切り落とした本人はイケメン野郎ではなく、長剣を携えた少女――ゼノヴィアだった。


「加勢しに来たぞ」


 首をはねられ絶叫しているケルベロスの残った首を分断するゼノヴィア。


「無へ還れ、地獄の魔犬」


 返す刀で胴体を分断した。あんな巨体をいとも容易く……聖剣の効果か。


 だが、これで犬っころは後一匹。またまた新技でキメるぜ!


【活き込んでいるところ水を差すようで悪いんだが相棒、アレを使うには五分のインターバルを挟む必要があるぞ】


 なんですと!


 むぅ……あれほどの大技だと流石にバンバン使えるって訳にはいかないか。なんか良い攻撃手段とかないかな?


【譲渡は一度に二つまで可能だ。今現在の倍加した力をリアス譲と朱乃譲に譲渡すればケルベロス如き余裕だろう。ただし、倍加分の七割か八割しか譲渡できないがな】


 ナイスだドライグ! 早速、部長たちにその旨を伝えると心強い頷きが帰って来た!


「よっしゃあ! ブーステッド・ギア、ギフト!」


『Transfer!!』


 俺の籠手から力の波動が部長たちに流れていくのが分かる。


 刹那、二人の中から凄まじい魔力が漂う。両者とも自分の掌を見下ろしながら驚いている様子だった。


「すごい、ここまでだなんて……これならいけるわ!」


 部長の言葉に朱乃さんも頷く。


「朱乃!」


「はい! 光魔の雷よ、彼の者を貫け!」


 朱乃さんの掲げた掌から極太の雷光が迸り、ケルベロスへと向かう。


 ケルベロスは攻撃の気配を察したのか数瞬早くその場を跳び退こうとしたが、突如地面から生えた剣に四肢を貫かれた。


 この地面から生えた無数の剣――、まさかあいつか!?


「悪いけど逃がさないよ」


 やっぱり木場か! くぅ~、なんつうタイミングでやって来るんだよ、我らがナイト様は!


 魔剣によって身動きが取れなくなったケルベロスに雷光が貫く。


 光の奔流は犬っころの咆哮を掻き消し、その巨体を無に帰した。


「くらえ、コカビエル!」


 犬っころが消滅した瞬間、間を置かず部長が掌から巨大な魔力弾を打ち出す。


 デカいッ! これならいくら堕天使の幹部でも多少は――。


「ふん……」


 片手を突き出した。


 たったそれだけの所作なのに、部長の魔力弾と拮抗してる……ッ!?


 部長の一撃を片手で抑えるとか……ウソだろ? 呆気にとられていると、奴は部長の魔力弾の軌道を反らす。


 部長の滅びの魔力弾は闇夜の彼方へと消えて行った。


「ふむ、赤龍帝の力があればここまでリアス・グレモリーの力が跳ね上がるか。余興としては悪くないな」


 クックックッ、と一人面白そうに掌から立ち昇る煙を見て笑うコカビエル。


 その時、校庭の一角から眩い光が放たれる。四本のエクスカリバーが今まで以上の輝きを放ち始めていた。


「完成だ。四本のエクスカリバーが一つになる」


 あまりの眩しさに手で顔を覆う。見ると四本の聖剣が重なっていくのがわかる。


 眩い光が治まったとき、校庭の中央には青白い重厚なオーラを放つ一本の聖剣が浮遊していた。


「エクスカリバーが一本になったことで下の術式も完成した。クックック、早くコカビエルを倒さないと街が吹き飛ぶぞ? 起動まで二十分といったところだな」


「なっ……!」


 衝撃的な事実を口にするハルパー。あと二十分で、この街が吹き飛ぶ!?


 部長たちもあまりのないように絶句しているようだった。


 マジかよ! サーゼクス様たちが来るまで持ちこたえるとか悠長なこと言ってられないじゃんか! 魔王様が化成しに来たときにはこの街吹き飛んでるって!


 なんとしても、早急にコカビエルを倒さないと!


「イングリッド」


「……?」


「陣の聖剣を使え。最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで戦ってみせろ」


 こくんと頷くフードを被った男。


 人の中央まで歩み寄った男は浮遊する聖剣の柄を掴んだ。


「リアス・グレモリーの『騎士(ナイト)』、共同戦線がまだ生きているのならば、あのエクスカリバーを共に破壊しないか?」


 ゼノヴィアが木場に話しかける。


「いいのかい?」


「こちらは問題ない。最悪、エクスカリバーの核を回収さえ出来ればそれでいい。もはやあれは聖剣ではない。異形の剣だ」


「異形か。クックックッ……いい得て妙だな」


 二人のやり取りを笑いながら見ているハルパー。


「ハルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺された身だ。悪魔に転生したことで生き長らえた」


「ほう、あの計画の生き残りか。これは数奇なものだ。こんな極東の島で出会うとは運命を感じるな。クックックッ」


 相変わらずの小ばかにしたような笑い方。瞳に憎悪の炎をともしている木場のこめかみに青筋が浮かぶぞ。


「私はな、聖剣が好きなのだよ。自分に適性がないと知ってなお、聖剣の探求にすべてを費やすほどにな。聖剣が扱えない身だからこそ、扱える者に惹かれた。その思いが高まった今、こうして人工的に聖剣を扱える者を創りした。そして、研究はついに完成を迎えた」


「完成? 僕たちを失敗作と断じて処分したじゃないか」


 眉を上げて怪訝な顔でハルパーを見やる木場。部長の話では木場たちの研究は失敗だと言い渡され問答無用で処分を受けたと聞いていた。用済みだから処分したんじゃないのか?


「そう。失敗作の君たちがいたからこそ成功したのだ。失敗は成功の元とはよく言ったものだ。君たちのおかげで『因子だけを抽出し集めることはできないか?』という画期的な案を考案するに至ったのだからな」


「なるほど、読めたぞ……聖賢使いが祝福を受けるとき、体に入れるのは――」


 ゼノヴィアが真相に至ったようで忌々しそうに顔を顰めた。


「そうだ、聖剣の少女よ。因子を持っているものから因子だけを抽出し、収集して結晶化したのだ。こんな風にな」


 ハルパーが懐から取り出したのは、光り輝く球体。淡い光が聖なるオーラとなって周囲を漂っている。


「これにより聖剣に関する研究は飛躍的に向上した。これもすべて君たち被験者のおかげだ。礼を言うよ」


 ――っ! こいつ……!


 思わず殴りかかりそうになるが、木場の押し殺した殺気に思い留まった。


「同士たちを殺して、聖剣適正の因子を抜いたのか……?」


「そうだ。この球体はその時のものだぞ。三つほどイングリッドたちに使ったがね。まあイングリット以外は因子に体がついて来れず死んでしまったが。ちなみにこれが最後の一つだ」


「……ハルパー・ガリレイ。自分の欲望、自分の研究のためにどれだけの命を弄んだんだ」


 木場の握る拳から血が流れる。漲る殺気に呼応して魔力のオーラが木場の全身を包み込んだ。


「ふん。それだけいうのならば、この因子は貴様にくれてやる。環境が整えば量産できる段階まで進んでいるのだ。この因子の使い道はない」


 ハルパーは興味が失せたかのように結晶を放り投げた。地面を転がった結晶は木場の足元に辿り着く。


「みんな……」


 木場は静かに屈んでそれを手に取った。


 慈愛に満ちた顔で、しかしどこか悲しそうな、昔を懐かしむような表情で結晶を優しく撫でる。


 木場の頬を一筋の涙が零れ落ちる。零れ落ちた涙は結晶に当たり散って行った。刹那――。


 木場の持つ結晶が淡い光を放ち始める。


 光は徐々に拡大して校庭全体を包み込むと、地面の各所からポツポツと光が現れ形を成していった。


 やがて人の形を取った光は木場を囲む。


 もしかして、彼らは――


 木場は懐かしそうに目を細め、彼らを見つめた。


「みんな……僕は、僕は……!」


 木場の慈しむような、それでいて慟哭のような悲しみに満ちた声が上がる。やはり、彼らは聖剣計画に身を投じた人たちなんだ。


「本当はずっと思ってたんだ……。僕だけがここにいていいのだろうかって。僕が、僕だけが生きていていいのかって……。僕より大きな夢を持った子がいた。僕より生きたかった子がいた。それなのに、僕だけが平和な暮らしを送っていて……それが、みんなに申し訳なくて……っ」


 ――っ! ……あいつ、ずっとそんなことを思ってたのかよ。


 木場の抱えている苦しみは俺には理解できないし共有することもできない。だけど、それがすごく苦しく辛いというのは理解できた。


 霊魂の少年の一人が微笑みながら何かを囁く。


 俺には読唇術なんて使えないから彼が何を言っているのかわからないが、その雰囲気からなんとなく慰めの言葉なのだと分かった。


 隣にいた朱乃さんが通訳してくれる。


「……『自分たちのことはいいから、君だけでも幸せに生きてくれ』。彼らはそう言っています」


「……っ」


 朱乃さんの言葉に泣き崩れる木場。


 あいつは今この時、重い十字架から解放されて救われたのだろう。


 魂だけの少年少女が胸の前で手を組み、口をリズミカルにパクパクさせ始めた。


 歌ってる?


「聖歌……」


 ぽつりとアーシアが呟いた。


 彼らは聖歌を歌っている……。木場も涙を流しながら同じく手を組み、聖歌を歌う。


 俺たち悪魔にとって聖歌は天を象徴する歌であり、歌うのはもちろん聞くだけでもダメージを受ける。


 しかし、彼らの声なき歌には、心をやさしく包み込んでくれる温かな何かに満ちていた。


 自然と少年少女たちと木場の顔が笑顔になる。それは、まるで幼い子供が浮かべるような純粋な笑みだった。


 アーシアも手を組み聖歌を口ずさむ。俺もいつの間にか彼らの歌に同調していた。


 ――っ!


 彼らの魂が青白い光を放つ。それらは木場を中心に光が包んでいく。


『僕らは一人ではダメだった』


『私たちは聖剣を操る因子が足りなかった。けど――』


『みんながいればだいじょうぶ。ぼくらはいつもいっしょ』


 俺にも彼らの声が聞こえる……。


『聖剣を受け入れるんだ』


『怖くなんてない』


『たとえ神がいなくても』


『たとえ神が見ていなくても』


『ぼくらはずっといっしょだよ』


「ああ、そうだね……僕らはずっと、一緒だ」


 彼らの魂がラセンを描きながら天へと上り、一つの大きな光の塊となって木場のもとへと降りてくる。


 やさしい光が木場を包むなか、ドライグの声が聞こえた。


 なんだよ、こんな感動的な場面に。


【奴は至った】


 至った?


【ああ。神器は所有者の思いを糧に真価を発揮する。だが、それとは別に所有者の思いが、願いが、世界の流転を凌駕する劇的な変化を生じたとき、神器は至る】


 だから何にだよ。


【――禁手だ】


 ドライグの面白いものを見た時のような抑えた笑い声が、やけに耳に残った。

 
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