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ソードアートオンライン〜魔術士と呼ばれた破錠者〜

作者:フォズ
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3 勇者よ逃げ出すとはなさけないbyシラ


「さあキリト、キリキリ働いてください!」
「君が働くの!」

場所は74層、迷宮内。
シラはローブをはためかせ、キリトの影に隠れながらポップしたモンスターを指差す。キリトが何ともいえない表情で戦闘体制を整え、シラはやる気の無い声援を送る。完全に我関せず。
が、直後アスナに前へ押し出された。

「団長からの依頼はなんだったっけ?」
「魔術師に接近戦は臨むところではないですよ?」

何せ迷宮ですから、とシラは続ける。
迷宮はフィールドと違い狭い。曲がり角も多い。確かに距離を取りにくい迷宮を得意と出来はしないのは納得できる。
だがそうなるとアスナの頭には疑問が浮かぶ。

「じゃあどうやって迷宮攻略してるの?」
「してませんよ」
「えっ?」
「迷宮には普段は入りません。ボス戦は別ですが」
「……えぇ!?」

アスナは驚く。
かつて迷宮に立ち入らない攻略組が存在したかと。攻略組が迷宮をマッピングするのは至極当然ではないのかと。

「じゃあ普段は何処で何してるの!?」
「普通にフィールドで狩ってますよ。前線のフィールドは少し歩けば誰もいないので独り占め出来ます。時折イベントで良い武器も手に入るので困りません」

それはそうだ。攻略組はせっせと迷宮攻略に励んでいるのだから。それ以外はもっと下の層にいるのだから。
はっきり言って最前線フィールドを探索するなど馬鹿のやることだ。
いや馬鹿というよりは他力本願、はたまたクリアする気が無いのか。
さらに問い詰めようとするアスナ。しかしそれはシラが腕をあげることによって制される。

「キリト、こっちに流さないでくださいよ」
「え、あっキリト君!」

そういえば戦闘中だったと今更ながら思い出し慌てて構えを取る彼女。
それを守るような形でシラはモンスターに立ちはだかる。
モンスターの名はエレメンタルナイト。煌びやかな剣と重装甲の盾鎧を難なく操り、軽やかに動き回る人型モンスターだ。人に近い分学習AIも賢く、攻略組でも出来れば出会いたくない部類に当たる。

「人型ですか。キリトと同じことでもやってみましょうか」
「ふざけてないで!」
「はい」

シラは手始めにピックを構える。身体が光に包まれ、スキルが発動することを示す。投剣初級スキル「ピアシングダガー」
貫通力に優れたスキルだ。
素早い動きから放たれたピックが一直線にエレメントナイトに向かう。しかし構えられた盾にあえなく弾かれ終わる。

「流石に無理ですか」

もう敵は目の前。その距離も一瞬で詰められる。「フェル・クレセント」四メートルを0,4秒で抜ける優秀な突進技だ。

「シラ君!」
「大丈夫です」

スキル硬直からの僅かに時間。ギリギリのところでシラの短剣が剣の腹を打ち、突き出されたスキルの進路を微妙にずらす。
平行し身を屈めたシラの皮膚を擦るように剣が通り過ぎ、最小限の被害のみに留められる。
ピンチから一転。攻撃のチャンスだ。

「ふっ!お返しです!」

シラのスキルが発動。短剣スキル「フェル・ホライゾン」
手数で攻める短剣には珍しい一撃強打系スキルだ。一瞬の硬直を狙うにはこれ以上ない程ベストな選択。
しかし所詮は短剣。鎧や盾を貫く威力は持たない。だからこそ。
古来より伝わる暗殺術に学ぼう。狙うは鎧と兜の隙間、首だ。
エレメンタルナイトの瞳に焦りが走る。シラがニコリと笑う。
吸い込まれるように小さな隙間に刃が食い込み、派手なクリティカルエフェクトが薄暗い迷宮を照らす。
エレメンタルナイトのHPが一気に削れる。緑の安全域から黄色、そして赤。バーがもう無くなろうかという時、減少がピタリと止まった。
硬直の解けたエレメンタルナイトが最後の一撃とばかりにスキルを発動させる。四連撃スキル「バーチカル・スクエア」
俊敏値重視の軽装の中でも最も防御力のないローブ系を装備するシラのHPを消し飛ばしかねない威力を秘めた上位スキルだ。
勝利を確信したエレメンタルナイトの瞳に狂喜が宿る。瞬間、間に旋風が駆け抜けた。エレメンタルナイトの僅かなHPが削られ幾千万のポリゴンの欠片となり爆散する。

「助けられてしまいましたね」

ポリゴンの雨を浴びながらシラは苦笑する。その表情からは真意はどうも読み取れそうにはない。

「しっかりしてよね」
「申し訳ない」

白銀に輝く愛剣を納め、アスナがジト目でシラを見る。彼女の中でシラの株が下がったことは明らかだった。

「それはいいからこっちを手伝ってくれよ!」

離れた場所でキリト声をあげた。モンスター三体を相手に切り結んでいる。本来なら有利な場所へ移動したりするのだろうが如何せん今彼らはパーティーだ。
二人が遊んでいる今、必然的にキリトが防波堤とならざるを得ない。彼が重装備なタンクであったならもう少し持つかも知れないが彼はダメージディーラーとしてのステ振り、装備だ。

「ごめん、キリト君今行くから!」

キリトの要請を受けてアスナが顔を青くして飛び込んでいく。
それから決着が付くのに時間はかからないだろう。シラは判断する。
先のエレメンタルナイトの攻撃でHPが2%ほど減っている。SAO以外でなら気にすることもないダメージだがここでは命そのもの。大事をとるに越したことはない。
アイテム欄を操作して最も安いポーションを取り出す。口当たりの甘いそれをチビチビと口にしながらシラは自分の装備フィギュアを開く。
そこにはアスナに手渡された新しい武器の名があった。
断罪の嘘吐き(ジャッジメント・ライヤー)
特殊効果で麻痺毒が付与される。

「偶然か、はたまた故意かどちらなんでしょうね、ヒースクリフさん」

青いスキル光が迷宮を暗く照らした。
彼の問いに応えたのは消え行くモンスターの悲鳴だけだった。


――――――――――――


無事にモンスターを排除した一行は未攻略部分へと到達していた。辺りの敵を粗方排除してしまったのかモンスターに出会うこともなく進む。
そんな中でまず迷宮の壁が変わった。それから凝った悪魔の像やらがだんだんと数を増していく。
そして現れたのは身長の二倍はあろうかという巨大な扉だ。

「これはいますね」
「ボスの部屋だな」

空気さえ一気圧以上の重力補正が掛かっているように重苦しい。
確実に奥に強敵がいることを如実に示している。
ここで彼らには三つの選択肢ガ与えられる。
一つ、マッピングは完了したのだから引き返す。
二つ、今後の対策のためにも無理せずボスに相対する。
三つ、ドロップアイテムと経験値の独占を狙って死に物狂いでボスを倒しに掛かる。

「さあどうします?」
「少なくとも三はないぞ。デスゲームじゃなければやってみるけどな」
「ごもっとも。三をやるのは自殺志願者か死んでも仕方の無い馬鹿だけですね」

シラは肩をすくめて冗談だとアピールする。
アスナは雰囲気に呑まれているらしくキリトの腕にしがみついて離れない。「それでどうしますか?私としては自分の目で確認しておきたいんですが」

短剣諸々の確認をしながらキリトとアスナを見る。
二人が話し合い始めたのでしばらく放置して確認に集中することにする。

主な武器は短剣「ジャッジメントライヤー」、同じく「クリティカルミューズ」。ピック「ビートチェイサー」、大槍「クレイジールアー」
普通のプレイヤーと比べれば彼のアイテム欄は武器の締める割合が多い。何せ彼は武器スキルを数多く取っているから。
彼のスキル構成は異様と言ってもいい。短剣、投剣、槍。投剣と槍を一定以上上げることで修得可能となるエキストラスキル、投槍。
デスゲームの中で四つも武器スキルを取るものは彼以外に存在しない。そもそも槍と投剣などという組み合わせをするものなど尚更だ。
投剣はそもそも補助用。槍はスピアならば同じく補助、大槍は壁仕様タンクが使うので投剣は必要ないのだから。
いわば彼の唯一無二のスキル――ユニークスキル――といっても良いだろう。

「さて、いかがわしい仲のお二人は考えがまとまりましたか?」
「「誰がいかがわしいって?」」
「仲いいですね」

シラは苦笑する。それから少しだけ淋しそうな瞳を向けた。

「様子を見るということでよろしいですか?」
「ああ」
「では行きましょう。これ以上見せ付けられると嫉妬してしまいそうですから。キリトのように女気はないもので」

ずんと空気が重くなったような気がした。

「ど、どういい意味だよ。……じゃあ開けるぞ」


アスナの突き刺さるような視線をひしひしと感じながらもキリトが扉に手をかける。
これ以上空気に物理的圧力が加わるような幻覚は味わいたくないし、何より緊張感が削がれてしまいそうだ。


扉がゆっくりと開いていく。重そうなデザインの割にその動きは滑らかだ。
中は真っ暗で何も見えないがかなり広そうだ。そこへ徐々に灯りが灯っていくことで全容が明らかになってくる。
重い壁、そして緑色に輝く一対の何か。

「ぅ」
「あれって……」

キリトとアスナが揃って声をあげた。原始的恐怖を感じさせるそれ。
また一つ火が灯る。二本の太い足が見えた。
また一つ火が灯る。全てを斬ろうといわんばかりの巨大な剣が二本、気味の悪い色の胴体が見えた。
最後の火が灯る。悪魔的な顔立ち、悪魔的な角、悪魔的な全身が露となる。

「悪魔……ですね」

そこに立つのは初めての悪魔型のボスモンスターだ。名称はグリムアイズ――直訳で輝く瞳――
定番中の定番ともいえる恐怖の象徴。
シラは見る。アスナとキリトが顔を引きつらせるのを。ついでまた見る。叫び声をあげて全力で逃げ出す様を。
ドップラー効果で声がずいぶん違って聞こえる点からどれだけ彼らが必死なのかよくよく伝わるというものだ。

「全く、臆病ですね二人とも」

一人で立っていても仕方がない。シラも後を追って扉を潜った。
直後一階層にまで響きそうな轟音と衝撃がシラの背後で発生した。悪魔が全速力で壁へと突進してきたのだ。
扉が空いているのにボスは部屋から出られない。憎々し気に剣を振り回しシラを真っ二つにしようとするが見えない障壁に阻まれてシラには届かない。
それでも恐怖を抱かせる光景としては十分だ。シラのようなどこか破錠してしまっている変人でなければの話だが。

「すみませんね。本当は相手をしてあげたいんですけど生憎連れが逃げてしまったもので」

シラは丁寧に頭を下げて悪魔に謝る。

「そのうちまた来ますからその時はきちんと葬ってあげますから」

良い終えたシラは踵を返し歩きだす。パーティーの場所を表示させれば絶賛高速移動中だ。安全ポイントまで走り続ける気なのかとシラは推測する。
後方ではプレイヤーがいなくなったボス部屋と扉が勝手にしまっていく。
それを一瞥しシラはキリト達をゆっくりと追う。

「73階層のボスよりは楽しめそうですね」

爛々と瞳を輝かせて。


 
 

 
後書き
軍がはぶられましたね……
 
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