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鋼殻のレギオス 三人目の赤ん坊になりま……ゑ?

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第二章 ヨルテム編
初めての都市
  子供先生シキ

 
前書き
夏はキツイですね、勉強で筆が進まないよ、たえちゃん。
さくら荘はもうちょい待ってください、まずはこっちを更新。

ではどうぞ! 

 
 ドン!! と凄まじい音が響き渡る。
 音の発生源は、右手を突き出しているシキだった。
 周りには呻きながら倒れている三十人ほどの武芸者がいた。皆、苦しげに息を吐いているが立ち上がる者はいない。
 さらにシキに殴られて倒れた武芸者が加わり、三十一人。
 シキはそれらを気にせずに、まだ錬金鋼を構えて唖然としている残りの武芸者を見て、ため息混じりに言った。
「……だから手加減抜きで来い。殴るだけだったらサンドバックの方がマシだ」
 そういうと、顔を真っ赤にした武芸者たちが錬金鋼を掲げながら、シキに向かって突撃を開始した。
 シキはため息をつきながら、剄を奔らせてそれを撃ち込んだ。
 なぜシキがこうなったのか? それは三時間ほど遡る。


「きた……えっ?」
「言葉のとおりじゃ。君に教えを請いたいのじゃよ」
 シキは目を大きく開けて驚く。
 今まで、シキに修行してもらおうと来た大人もいたが、それはグレンダンでシキの実力を知っている人だけだったし、大抵の大人は子供に教えられるなどの理由からしていない。
 なぜ、他都市で最高戦力のはずのバンクルトが、シキに教えを請うのか。
 そんなシキの様子に苦笑しながら、バンクルトはすぐに種明かしをした。
「一応、ここは放浪バスの終着点であり発着点、自然と情報は集まるのじゃよ。例えば、他都市の強力な武芸者の話とか」
「マジかよ」
 シキは目の前の老人がボケてないか心配になった。
 確かにシキは噂通りに強い武芸者だ。しかし、まだ十歳のシキの情報を風の噂、最悪、誇張されている話をバンクルトは聞いて、なおかつそれを信じたと言っているのだ。
 疑うのは無理もないし、それだけの情報で自分は襲われたのかと、シキは怒鳴りそうになったが喉元で止める。怒鳴っても意味がないし、この程度だったらグレンダンで日常茶飯事だった……強襲してくる相手が段違いに強いのだが。
「君の反応はもっともじゃな。……まぁ、もしもの場合も考えて試させてもらったが、その必要はなかったようじゃな」
 このジジィ!! とシキは即座に錬金鋼を復元しようとしたが、これも止める。
 この一ヶ月、ドミニオと会話したおかげか、前よりもこらえ性が付いた気がする……あくまでも、気がする程度だ。
「グレンダンには以前行ったことがあっての。天剣授受者だったかの? その武芸者の戦いを見る機会があったのじゃよ」
 誰だろうと、シキは天剣の面々を思い出す。
「凄まじい、の一言だけじゃった。あの汚染獣をたった一人で簡単に屠る姿は寒気を覚えたわい」
 通常の汚染獣に天剣が相手するのは、蟻が象になんの対抗手段も持たずに戦うのに等しいほどの無力さがある。
 しかし、欠点もある。
「……基本的に連携が出来ないからなぁ」
 シキもそうだが、基本的に天剣たちは連携をせずに個人で戦う傾向がある。力が強すぎるがゆえ、協調性という言葉をどこかに置いてきたのか、はたまためんどくさいだけなのか。シキ的には、後者が有力だと思っている。
「まぁ、そうじゃろうな。そこがワシらの考え方とは違う」
 バンクルトはそう言う。
 汚染獣戦は、熟練の武芸者が束になって立ち向かうのが普通だ。それはグレンダンでも、ヨルテムでも同じである。
 シキの戦い方は、はっきり言えば自殺願望者の戦い方で決して褒められるようなものではない。
「さて、無駄話はこれぐらいにして、先ほどの話の返事を聞こうかの。ワシらを師事してくれるか?」
 シキは、即座にこういった。
「断る」
「ほぉ? 理由を聞こうか」
 バンクルトは柔和な表情を崩さず、表面上は落ち着きながらシキの問いに質問した。
 シキは舌打ちをしそうになりながらも答える。
「最大の理由は……俺は子供だ」
 子供、それがシキの弱点とも言えるものだった。
 今だって、周りからの視線にはどこかシキを舐めている雰囲気がある。あれだけの戦闘をしても、『子供だから』の一言で済まされてしまうのだ。まぁ、無理もないとは思う。
「子供だから、といった理由で片付けられるほど、お前さんの実力は甘くはないと思うが」
「それでもだよ。……それに、その子供に負けた人からすれば教わりたくないだろ」
 人にはプライドというものがある。特に、武芸者は強さに対してはプライドが高い。
 もしもシキがもう少し大きく、青年くらいの年齢だったのならまだ納得できただろうが、年端もいかない子供になす術が無かったなんて、武芸者のプライドが傷つくのは当然の結果であろう。
 と、建前はそれくらいにして、シキの本音を言おう。
めんどくさいから早く帰って寝たいというのがシキの考えだ。
 突然襲われたけど、手加減して戦ったのに化け物呼ばわりだ。悪いのは手を出してきた方だし、シキの行いは正当防衛だ。
 本来なら、この建物が更地と化しても文句は言われないはずだ。さすがに、それをすると都市を敵に回すことになるのでしない。
「強い武芸者がいるのなら、教えを請いたくなるのは当然だ。それが子供であろうと老人であろうともな」
「……プライドがないのかよ、ジイさん」
「ほっほっほ! 年寄りを舐めないほうがいい。この歳まで生きていると、大抵のことは信じられるのぉ……天剣授受者選定式での戦いは見事じゃった」
「は?」
 シキの動きが止まり、バンクルトはいい笑顔でシキを見る。
 ゆっくりとバンクルトの言葉を理解したとき、シキはため息をついた。
 つまるところ、最初からバンクルトはシキのことを知っていたのだ。もちろん、噂も聞いていただろうが、実際にあの戦いを見たのならシキの実力を疑うことなどできない。
「見てたのかよ」
「すまんのぉ、頭の硬い者たちを説得するには実際に戦うしか方法がないと思っての。報酬は払うし、こちらから君を勧誘することもしない」
 シキは、勧誘をしないという言葉を聞いて驚いた。
 どの都市でも強い武芸者というのは喉から手が出るほど欲しい。天剣クラスとなれば大抵の都市が喜んで交渉するだろう。
 だが、バンクルトはそれをしないと言ったのだ。
「リヴァース。その名を持つ武芸者を知っておるな?」
「あぁ、そういえばリヴァースさん、ヨルテムが故郷とか言ってたっけな」
 だいぶ前に、金剛剄を習う際、リヴァースから身の上話をされたことがあった。当時は興味がなかったので聞き流していたが、出身都市が外部だったのでよく覚えていた。そういえば、武芸団に所属していたとか聞いた覚えがある。
「あぁ、変わらないようで安心したわい……あの子は心優しいからの。向こうでやっていけていてるか心配じゃった」
 どうやらバンクルトはリヴァースと親交が深かったらしい。シキは懐かしむような視線を向けてくるバンクルトに対して、そう察した。
「元気にしてるよ、彼女だっているし」
「はっはっは、えらく別嬪な子じゃったなぁ」
 カウンティアは確かに綺麗だが、一筋縄ではいかない。
 あれでも落ち着いていたらしく、グレンダンに来た当時は暴走した剄で危なく都市の足を壊されそうになったことがある。それを止めるために来た、リヴァースと戦い、恋に落ちた……と、それはもう嬉しそうな顔で何十回と聞かされたのをシキは思い出し、青くなる。
 最長で十時間耐久リヴァース話をされた際は、何故か壁を殴りたくなる衝動に駆られたのをよく覚えている。
 残念美人、それがカウンティアの印象だ。基本的に姉御肌なので、相談事をすると親身になってくれるのでそこまででもないが、天剣常人組と比べると十分狂人である。あと、胸のサイズに触れたらナマス切りに合ったのもいい思い出だ。
「ワシらは、あの子に期待しすぎた。その結果、あの子を追い詰めてしまった」
 あの忍耐強いリヴァースを、追い詰めるなんて何をやったんだろうとシキは思うが口には出さない。
 結果的に、グレンダンには最高の武芸者が来た、それだけでいいのだ。
「その戒めとして、ワシらは無理を言って強い武芸者を引き止めるようなことはせん。その点は安心してくれ」
「はぁ」
 シキは息を吐く。
 おそらく、本当に勧誘はしないのだろう。バンクルトからはそう言った野心は感じない。そういう類の人間は、もっと嫌らしく搦手で追い込んでいく。
 まだ会って数分だが、シキはバンクルトは信用に値する人間だと判断した。
「確か、鍛えてくれって頼んだよな? 具体的にどうすればいいんだ?」
「おぉ! 引き受けてくれるのか!?」
「まぁ、ハンガーとか色々してくれたし……鍛える場所に困ってたからなぁ」
 別に、今のシキなら外に出れば広大な大地に遠慮もなく剄技を放てるのだが、さすがにそうするとシキの特異体質がバレてしまう。
 だが、バンクルトの提案を受ければ、とりあえず当面の資金に困ることはないだろう。出来るだけ、自分の金は持っておいて損はないだろう。いつ、エルミたちと分からない今、金は大事だ。
 子供というハンデもあるが、そこらへんはバンクルトが擁護してくれるはずだ。仮にも最高戦力である彼の意見を無下にできる者はいない……と信じたい。
「そうじゃったら暇な時間、空いてる訓練場を使ってくれて構わん」
「じゃあ、具体的な訓練内容や契約書とか予算とかその他もろもろ話し合うか」
 そう言うシキの目は、一流の商人の目つきへと変貌する。
 バンクルトは何故か嫌な予感がしたのだが、この時はあまり心配をしていなかった……が、契約書の内容を事細かに決めていくシキに対応できずに涙目になるのであった。
 結局、バンクルトではなく予算関係の団員を交えた交渉を一時間ほど行い。事務をしていた団員を涙目にさせながら、シキはとりあえず五ヶ月という期限、常識範囲の報酬、対人と対汚染獣用の訓練などを決めて契約をした。
 余談だが、交叉騎士団の一部団員が、経営の勉強に精を出し始めた。その結果、予算関係が改善され、資金が増えたのであった。


「今日は終了……って、誰も立ってないや」
 死屍累々とはこのことだろう。
 シキの周りには年齢も性別もバラバラだったが、ヨルテムでは上位に食い込む武芸者たちが倒れていた。全員、息を正すのに必死で誰一人立ち上がってこない。
 シキの下した評価は、まずまずと言ったところだった。
 全体としてのレベルは低くないが、グレンダンの武芸者と比べるとやや劣るといった具合だ。汚染獣戦であれば被害者を出しつつも勝利することができるだろう。
 バンクルトによると、ここ四十年ほど汚染獣とは戦っていないらしい。それを聞いて、多い時は数ヶ月の期間で汚染獣と戦うグレンダンの異常性が際立つ。
 だが、普通の都市ではこれが普通なのだろうとシキは思う。
 女王に、十二人の天剣授受者。明らかに戦力過多であるし、女王に関しては老生体も裸足で逃げ出すほど強いらしい。
 ……まぁ、その女王が知り合いだと思うと何故かギャグにしか感じない。帰ったら問い詰めようとシキは決意する。
 だいぶ思考にふけっていたのだろう。段々と、倒れていた武芸者たちが立ち上がり始める。身体にダメージを残さないように手加減したつもりだったが、少々強すぎたようだ。それに、油断して危ない場面もあった。
 それらを反省しつつ、シキは活剄で疲労を抜いていく。
 昔ならばもう少し消耗していたが、剄の扱いが上手くなったシキの消耗度はそこまでのものではなかった。
 武芸者たちの顔色は、信じられないと言った様子だったが、中には目の奥をギラつかせる者もいた。それを見て、シキは向上心を持つものもいると知って安心した。
「……あとはバンクルトさんから話あるだろうから、俺はこれで」
 一応、挨拶をしてシキは歩き出していく。
 時折、化け物などと言った言葉も聞こえるが、無視して進む。今回は若手の相手だったが、明日からはベテランの武芸者も交えた訓練を行うらしい。
 頼むから、敵意は少しだけ抑えてくれと願うシキだったが、嫉妬する気持ちもわからなくもないので諦め半分、期待半分で願う。
 シャワーも浴びたかったが、バスに戻ってから浴びればいいだろうとシキは判断した。
 これで嫌がらせなど受けたら堪らない。……しないと思いたいが、一度グレンダンの大会で保管していた荷物が盗まれたことがあるので心配なのだ(ちなみにデルボネに補足されていたらしく、後を追ってボコボコにした)
 受付にも挨拶をするが、ぎこちない笑顔が返ってくるだけだった。
 そんな微妙な雰囲気の中、シキは交叉騎士団の訓練場から出た。新鮮な外の空気をいっぱいに吸って、嫌な気持ちを吐き出す。
「あー、承諾するの早まったかもしれん」
 そう言いながら、歩こうとしたところ、シキを呼び止める声が聞こえた。
「やっと出てきたね、シキ」
「メイガスさん、本当に待ってたのか?」
 そこにはメイガスが立っていた。シキはてっきりもう帰っているのかと思っていたので、メイガスのことは綺麗さっぱり忘れようと思っていた。
 なのに、当の本人が律儀に待っていたとなれば話は別だ。シキは速やかに記憶の復元作業に移る。
「あぁ、君に少し相談事があってね」
「訓練はやめてくれよ?」
 シキは即座に釘を刺しておく。ただでさえ、敵意が鬱陶しいのにさらに増えたら胃が爆散するかもしれないかだ。
 だが、メイガスは首を振って、シキにこう質問してきた。
「君は今日、どこに泊まるんだい?」
「えっ? 放浪バスですけど?」
 シキは当たり前じゃん、と言った風に胸を張るが、メイガスはずっこけそうになるのを堪えていた。
「ど、どこかに泊まるとかは」
「考えてませんよ。せっかく無料で泊まれるんですからね」
 メイガスはシキの金銭感覚を嘆いていた。孤児とはこういうものかと思っているが、シキの金銭感覚は姉のリーリンによるところが大きい。リーリンは浪費を一切しないが、シキは子供達にねだられるとすぐに財布の口がゆるくなるので幾分かマシであるが、自分のことになると金を出さないことが多い。
 無料は素晴らしいものであるし、安いのはもっといいというのがシキの考えだ。
 なので、ヨルテムにいる間もなるべく浪費を避けようと思っていた。
「え、えっと、じゃあ騎士団からのお金は?」
「最低限の生活費以外は、グレンダンの孤児院に送ります」
 今度こそ、メイガスは天に手を仰いだ。
 グレンダンでは、やる気になったミンスと女王のとばっちりを受けているカナリスその他諸々が泣きながら、食糧問題やら孤児たちの補助金などを検討しているのだがそんなことシキが知る由がない。
 シキの頭の中は、自分が抜けた分の稼ぎをどうやって渡そうかということだけだった。
「……シキ、ウチに来なさい」
「へっ?」


 そうやって、あれよあれよという間に、シキはメイガスの家に着いていた。
 途中、メイガスが息を巻いてドミニオを説得しようとしたのだが……。
『そのガキを泊めたい? あぁ、好きにしろ』
 と言った風に、あっさりと承諾され、シキはエルミを睨むが猫は顔を掻いていた。当然、エルミが喋れるはずもなく、あっという間にシキがメイガスの家にお世話になることになったのだった。
 あのオッサンと猫は泣かす、いつか泣かすと心に誓うシキだった。
「小さな家ですまないね」
「……あぁ、うん」
 これが小さい家なら、さぞかしもっと大きな家はたくさんあるだろうが、トリンデン家は結構大きかった。シキが住んでいた孤児院と同じくらいか、それ以上である。
 ちょっと泣きたくなったのは、気のせいではないとシキは思う。きっと、今流れているのは汗だ、うん、そうに違いない。
「さぁ、遠慮なく上がってくれ」
「えっと、ご家族の許可は……」
「取ってないが、君なら妻も子も気に入ってくれるだろう!」
 それでいいのか、とシキは思う。
 知識だけだが、家族間では母親の方が権力が強いという傾向があるらしい。シキは親というのがイマイチ理解できないが、レイフォンとリーリンのような関係だろうと納得する。
「ただいま」
「……おじゃまします」
 家に入った瞬間、銃弾や衝剄が飛んでこないのに少し違和感を感じつつもシキはメイガスの家に入った。
「あら? あなたお帰りなさい。……その子は?」
 ふと、玄関からまっすぐ行ったところのドアが開き、エプロンを着た主婦風な女性が出てきた。
 シキはなんとなく頭を下げてると、メイガスは頬かきながら説明を始めた。
「あぁ、アイナ、ただいま。ちょっとね、ここではなくリビングで話そうか……メイシェンは?」
「友達と遊びに出かけてるわよ? じゃあ、上がって頂戴、ええっと」
 アイナがごもっていると、シキは口を開き自己紹介を始める。
「シキ、シキ・マーフェスです」


 リビングに移動したあと、メイガスはシキの諸々の事情と、保護者から宿泊許可をとっていることを話した。
「そう、グレンダンから」
「勝手なことだとは分かっている。シキをウチで預かれないだろうか?」
 シキは、微妙な雰囲気の中、落ち着かない気持ちで二人の話を聞いていた。
 手持ち無沙汰でもあるので、剣帯に吊ってある錬金鋼を弄りながら、一段落するまで口を出さないように努めていた。
「なるほど、理由はわかったわ。その子が物凄い武芸者だってことは信じられないけど」
 まぁ、そうだなとシキは心の中で返答する。
「私も半信半疑なんだが、あのバンクルトさんお墨付きだからね」
「あら、それは凄いわね」
 帰りたい、とシキは猛烈に思っていた。
 今まで、猛烈に個性がある人物たちと接してきたせいか、メイガスやアイナの一般人ぶりはシキには眩しく見えた。
「さて、あなたの話は聞いた。じゃあ、シキちゃん」
「……ちゃん?」
 錬金鋼を弄っていた手を止めて、シキはアイナを見る。
 アイナは、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「だって、あなた女の子でしょう?」
「……メイガスさん、俺の性別って言ってたか?」
 ふい、とメイガスが物凄い勢いで顔を逸らすので、シキはため息を吐きながら勘違いしているアンナの考えを訂正する。
「俺は男です」
「……えっと? ごめんなさい、もう一度言って」
「お と こ で す」
 分かり易いように間隔を開けて言った。
 その言葉を理解したアイナは一回動きを止めると、勢いよくシキに飛びつき全身で抱擁を始めた。
「嘘!? あっ、ホントだ! 実在したのね、男の娘って! あらまー、こんな可愛い顔しちゃって! 髪もいい匂いするし、肌も柔らかいわね!! でも筋肉はしっかりしていて凄いわねー」
 全身をまさぐられるシキは目を白黒させながら、アイナにされるがままとなる。
 実際、振りほどこうとすればできるのだが、それをするとアイナに怪我をさせる方法もあるし、シノーラに比べたら可愛らしい抱きつき方だ。
 メイガスはその様子を見て、微笑んでいた。微笑んでいないで止めて欲しいが、まったく言い出さないので、シキはアイナの腕を叩きながら離してくれと合図する。が、依然として離さない。
「なにこの服? あっ、戦闘着ってやつ? 腰にジャラジャラと錬金鋼もつけてるし……もしかしてこれはファッションなの?」
 戦闘用です、とシキは言いたいが、段々と首が締まってきて苦しくなってくる。
 ちょっと、目の前が白くなったとき、アイナは首から手を外してくれた。咳き込みながら、息を吸い込むシキ。
「ごめんなさいね、少しテンション上がっちゃって……いいわよ、泊まっても」
「おお、やったね、シキ!」
「はぁ」
 それだけしか言えない、あまりにも唐突過ぎてシキの頭がパンクしそうになっているせいかもしれない。
 とりあえず、シキはメイガスの家に泊まれることになったらしい。
「いや、でもいいんですか? 見ず知らずの孤児なんかを泊めて」
「いいのよ、遠路はるばるまで来たあなたが、ウチの人と出会えたのは何かの緑。まっ、本音はあなたみたいな可愛い子ならドンと来い!」
 どっかで偽名使ってる女王様を思い出すハイテンションぶりだったが、シキは裏表がなさそうなアイナの言葉を信じることにした。
「それに敬語なんて使わないで! もっと気楽でいいのよ、少なくともあなたがこの都市を出るまで、ここがあなたの家よ」
「物凄い気に入ったみたいだね、アイナ」
 バッと手を広げるアイナを見て、シキは苦笑する。
 出るまでは、多分テンションのせいだろうが、今日くらいは泊まっていこうとシキは思った。それに、一般家庭が実際、どんな感じなのか見てみたい。
 と、そんなことを思っていると玄関が開く音がした。
 そして、すぐにリビングの扉が開かれると三人の少女が立っていた。
「おばさーん、ご飯もらいに……あれ? 誰?」
「どうしたミィ……誰だ」
「……ッ!?」
 最初に見えたのは金髪のツインテールが特徴的な少女、次にこちらを警戒している色黒で少し背が高い赤毛の少女、最後にその赤毛の少女の後ろに隠れている黒髪の少女。
「お前、おばさんたちに何をしているんだ」
 今日は敵意を向けられる日だな、とシキはため息をつきながら思った。
 傍から見れば、アイナが手を挙げているのは降参のポーズに見えるし、シキの手は腰の剣帯に伸びているのが行けなかった。
 勘違いした少女は、シキに目掛けて突進してくる。シキ以外は反応できておらず、皆目を白黒させていた。
「はっ!」
 頭部目掛けて蹴りを放たれるが、シキは右手でそれを抑えて、喉元に待機状態の錬金鋼を突きつける。
「はい、一本。中々だけど、無謀すぎるぞ?」
 赤毛の少女は自分の攻撃が受け止められたのが意外なのか、驚いて動きを止めていた。
 そして喉元に当てられた錬金鋼に気づき、顔を青くする。
 その様子を見て、シキは苦笑しながら錬金鋼を収める。
 直後、再起動したメイガスが慌てて、子供たちに事情を説明した。
 
 

 
後書き
うん、ヨルテム書きづらい。けど三人娘を出せて、僕満足。
さて、ナルキ魔改造計画を発動させますか。まっ、その前にヨルテムさんには苦労してもらいます。


Q、ぶっちゃけヨルテムってそんな弱くないと思う。
A、今回は若手だけなので、熟練の武芸者もいたらさすがのシキも手こずります。

Q、リヴァースって、なんでヨルテムから去ったんだろうね。
A、マジでわかりません。リンテンスみたいに強さを求めたわけじゃないし……どうなんでしょうね。

Q、孤児救ったのはいいけど、食料とか大丈夫?
A、ミンス(覚醒)やカナリスたちが泣きながら調整してます。えっ? 女王? 無理無理。

Q、作者、三人娘の中で誰が好き?
A、メイシェンと思わせて、ナルキ。

シキ「平和だな、この都市。汚染獣も来ないだろ」
リーリン「シキ、それ言っちゃうと来るよ?」
 
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