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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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マザーズ・ロザリオ編
転章・約束
  結城家乱入?

 
前書き
本当は色々やらかしたかった回 

 


新年2026年1月1日。


元旦のその日の目覚めは決して良いものではなかった。

「………っ」

長く、辛く、悲しい夢だった。遠い昔、周りの何にでも警戒心を持ったまま過ごしていたあの頃の夢だ。

「ったく……嫌な初夢だな」

寒さのためカチコチに固まった体の各所を伸ばし、凝りを取るとモゾモゾと床を出る。



「さては……コイツらのせいか?」

起きたのは水城家の自室ではない。無駄に広い、寺の堂のような場所だった。いや実際、寺の本堂なのだが。
どこか洗練された雰囲気を纏うその日の寝床には大小様々珍妙な仏像やらよく分からない置物が所狭しと並べてあったり、転がされてたりしている。

要は物置のような場所だ。しかし、それらの目線が全て俺に向かっているのはどうか。どんなにありがたい仏像でも見詰められまくれば、落ち着かない。

「……やれやれ」

頭をぼりぼり掻きながらこの寺の主に顔を見せるべくお堂から出ていった。






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トントントン、とリズムよくまな板を叩く音が聞こえる。

時刻はまだ5時。起きているだろうとは分かっていたが、廊下や食堂の磨かれたばりのような清潔感を見ると、一晩中起きていたのではないかという疑いを禁じ得ない。

「起きたかえ、坊」
「お早うございます。()(おん)(いん)様」
「坊よ……オババで良いと言ったであろう」
「いえ、そうも行きません。鞍馬山の天狗すら畏怖するという、かの《鏡水》華宛院様に修行をつけて頂いた挙げ句、床や食事まで……」
「阿呆。天狗なんぞ居てたまるか。あたしゃ見たこと無いよ。……まあいい、座ってなさい。直に出来る」

ここは京都市洛外のとある山奥にある《不知寺》。その場所は地図に載っておらず、人が来ることは殆んどないそうだ。
かく言う俺も祖父から詳しく場所を聞かされたにも関わらず、半日迷ってようやく着いたのだ。
裏に小さな畑があり、そこから取れる野菜と月1で下山し買い込んで来る米や麦、豆等の雑穀のみで生きているというのだからすごい。肉は一切食べず、主なたんぱく質は大豆。

そんな生活が現代人に果たしてできるのか。少なくとも俺は毎日続けたいとは思わなかった。


―閑話休題―


さて、かの《キャリバー》獲得の翌日に東京を発ち、さらにその翌日の30日から此処で修行を始めてから早いものでもう3日目だ。


ところで『水城流』の『亜式』を覚えているだろうか。水城流術という系統をマスターすると、自ら開発出来るというアレだ。

もちろん『水城流』そのものの免許皆伝たる俺は当然、開発権を持っている訳だが………如何せん俺は他の兄妹、蓮や沙良のように『得意な』系統が無い。良く言えば『何でも出来る天才型』、悪く言えば『器用貧乏』なのである。

そこで若かりし頃考案したのが、『(うつし)返し』。相手の構えや呼吸から攻撃軌道を予測、全く同じ動きをして技を相殺するという何とも無茶なものだった。
当然、すぐに破るものが出てきて廃した。しかし、発想は間違っていないはず。
さらに、やむを得ない事情が出来たのも手伝って、俺はその技を改良するために『攻撃を相殺する達人』である《鏡水》不知寺住職華宛院尼闇(にあん)という老婆に師事したのだ。


食事の片付けを終えると、俺が寝ていた本堂(?)とは別の堂に行き、準備体操を始める。この準備体操もただのものではない。
身体中のありとあらゆる筋肉、足の先から指の先までとにかく全身の筋肉を伸ばす。普段は使わないようなところまで刺激したせいか、初日から引きずっている筋肉痛の痛みがぶり返してくる。

「……こんな、もんか」

座った状態から立ち上がり、丁度入ってきた師匠に一礼する。

「坊よ」
「はい」
「お主のその技はあたしの見たてではほぼ完成したと見た。後は自分でやれるだろう」
「……はい」

正直疑わしい。しかし、ほぼ完成したというなら、そうなのだろう。

「今からあたしが様々な技を掛ける。最初はゆっくりやるので慌てるでないぞ。―――いざ」

一瞬にして臨戦態勢に入った相手に臆する事なく、こちらも身構える。何処かで葉が落ちた音と同時に両者は同時に飛び出した。





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夕刻。

「……着いたか」

道無き山道を延々と下り、時に登りながら3時間かけてようやく京都の東端、伏目稲荷神社付近に着いた。
久々の人里は正月という事もあり、中々に賑やかで疲れはててヨボヨボしている自分が何処か場違いに思えた。

取り合えず早めの夕食を適当にコンビニで済まそうと歩き出した瞬間、電波が通った事で復活した携帯端末がメールの着信を知らせた。
数件、和人達や知り合いからのあけおめメール、事務連絡、そして呼び出しのメール。

差出人は蓮だ。

「ん……京都来てんのか」

水城家には昔から懇意にしている寺だの神社だの名家だのがあって、それらの殆んどが京都にある。蓮兄は次期当主筆頭のため、それらへの挨拶廻りに来たのだろう。ご苦労な事だ。

それに合流せよ、との呼び出しだった。

「……って、京都駅かよ。微妙に遠いなコラ」

螢は頭をぼりぼり掻きつつ文句を言い、雑踏の中を歩き出した。






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蓮華王院を経由し、洛中京都駅前に到着すると、水城家の家紋が入った羽織を召し、道のど真ん中に堂々と陣取っている蓮を見つけた。

「よお、来たぜ。あけおめ」
「ごくろーさん。あけおめ」

ぞんざいに謹賀の挨拶を済ますと、蓮は辺りをキョロキョロと見回し、俺がやって来たのと反対方向に向かって手招きした。やって来たのは沙良、そして彼女の執事(?)仙道だった。
こちらとも挨拶を交わし、俺は蓮兄に向き直った。

「んで、どっから行くんだ?」
「西陣だ」
「西陣?そんなとこ、何で……?」

西陣というのはその昔、応仁の乱の時分に西軍大将山名宗全がその地に陣を張ったことに由来する。
古来からの機業地であるが、戦いで四散した後、復興して西陣織という高級織物の産地となった。


「いや実はな、挨拶廻りはもう終わってるんだ。でだな、北野天神(北野天満宮)に行った時、彰三さんに会ったんよ。その時は忙しくてな。後で会いに行くって御実家の場所を聞いたんだ。親戚一同そこに会してるらしい」
「ほぉー……」

その場にお呼ばれしたため、未だにその厨二チックな羽織を着てるのか。よくみれば沙良は地味めな振袖、仙道さんも蓮兄と似たデザインの着物と羽織(家紋は入ってないが)――これは防寒具だろう――を着ている。

とすると、明日奈やその親戚である海斗もいるのだろう。

「ん、そうゆう事なら了解した。……しかし、俺はそんなキチンとした服装、持ってないぜ?」
「抜かりはない!」

ビシッと音がしそうな勢いで蓮が指差した先に居た仙道さんがどこからともなく、紺色の生地をベースに赤い装飾が施された立派な着物を取り出した。続けて沙良が――こちらもどこからともなく――家紋の入った羽織を取り出す。

蓮のものと一ヵ所意匠が違うのが道辺りにくる部分に『弐』と白字で書かれている事だ。勿論、蓮のものには『壱』、沙良のものには『肆』と書かれている。

「壮観だな……」

水城家次世代の事実上トップスリーが顔を揃えて訪問するのだ。行き先が行き先なら、相手方は恐怖のあまり泡吹いて気絶するに違いない。

「ははは。1人足りないけどなー。……どうしてるかなぁ?」
「……蓮兄様はこの間会ったでしょうに」
「……今は、やめろ。思い出したくもない」
「悪い悪い」

苦笑いしながら謝る兄にやれやれと首を振る。しかし、彼はどこか寂しげな顔をしていた。








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京都駅から西陣へはそう遠くはない。徒歩数十分の内に目的の巨大屋敷に到着した一行はその想像以上の大きさに暫し沈黙した。

「世が世ならウチもこんなだったのかね?」
「想像つかないぜ。……地図要るんじゃないか?」
「そ、そこまでは無いと思いますよ?」

ウチも相当大きな部類に入ると思うが、コレは別格だ。
碁盤状に整理されたその一角の大半、残りは恐らく傘下の宿屋や店で占めている。

ちなみに後方に控えている仙道さんは無表情を貫いているが、さっき口元が一瞬引きつったのを確かに見た。

蓮兄が携帯で彰三さんに電話すると、3分程で迎えが来た。暗い赤色の着物を着た如何にもな中年女性に案内され、客間に通される。昔風の家屋に相応しいその4畳半程の和室で違い棚や付書院、明障子という書院造の様子だった。

「やあ、待たせたね。いらっしゃい」
「……………」

若者3人がもの珍しげに辺りを見回していると、招待人である結城彰三と妻の京子が現れた。
彰三さんは旧知の友に会ったかのように大袈裟な身振りで歓迎してくれる。京子さんは新年の挨拶と控え目な会釈をし、彰三の隣に腰を下ろした。

「ご無沙汰してました。彰三さん」
「やあ、螢君。本当に久しぶりだね。元気だったかい?」
「ええ。昔に比べたら今は年相応の暮らしですからね」
「ははは。妙に達観しているなあ。そんな事だと、老けてしまうよ?」
「全くです。しかしこればっかりは……」

肩を竦めて見せると、2人でしばらくクスクスと笑う。彰三さんは人当たりが良く、人の中身を見て接してくれるので、特殊な境遇を持つ俺としては非常に話しやすい相手だった。
お互いの近況報告や他愛の無い世間話を京子さんや蓮兄も交えて10分ほど話しただろうか。

縁側から押し隠したような気配が涌き、注意がそちらに向く。俺の目線を辿ったのか、彰三さんもそれに気がつき、仕草で行くように促す。俺はすっと頭を下げると立ち上がり、縁側の障子を開けて外へ出た。

「よお、海斗」
「………おっす」

彼より頭1つ分上にある面をジト目で見上げ、海斗はその迫力に思わず後ずさる。

「まあ何だ……。何か用か?」

『客人』の身分たる彼のセリフにしてはおかしなものだったが、どうせ説明しなければならないだろう事を予期した螢は観念して自分から話を進める事にした。








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落ち着ける場所、という事でやって来たのは中庭の『庭園』だ。

京都名物、枯山水に始まる『和』を基調とした中に所々散見する西洋の草花。それらが不思議と調和している、まさしく現代の『花の御所』。
そこの目立たぬ隅の庵でアンニュイにため息を吐く栗毛の美少女。明るい色の振袖を見事に着こなし、その様子は文句無しの『お嬢様』、もしくは『ご令嬢』。
唯一、それを損なっているのはその憂鬱そうな表情だろう。

「……新年早々そんな鬱そうな顔するなよ」
「え!?……れ、レイ君!?」

条件反射で出てくるのがアバターネームってどーなのさ。とは勿論突っ込まない。

ここへ来る途中、海斗の愚痴を散々聞いてこの2人の境遇はおおよそ把握出来た。

「よ。あけおめ」
「おめでとう……って、何でここにいるの?」
「まあ待て。今説明する」

何度も説明するのも面倒なので、いっぺんに片付けるために明日奈と合流したのだ。京都へは蓮兄の付き添いで来たこと(流石に『修行』とは言えない)にして、ここに来ることになった概要を説明した。

「とまあ、彰三さんが晩飯を食べてけってんで、後数時間は世話になる」
「そっか……」
「なあ、螢。帰る時、俺を連れ出してくれない?モウヤダここ」
「あー、私も私も」

息ぴったりに逃亡幇助を要求してくる2人に呆れつつ言う。

「あのなあ……。分からんでもないが、1年に一度なんだろ?それぐらい我慢しろって……」




人生の『競走』から早くも離脱してしまった2人としては、『競走』のトップランナー達が集まるココに居心地の悪さを感じるのだろう。

部外者たる俺はそれを眺める立場にしか居ないわけだ。干渉する手立てはない。

「「はぁ……」」

状態(ステータス)のやつが2人になった所で蓮兄が屋敷に戻るように言いに来て、2人は嫌々。1人はやれやれと付いていくのだった。



 
 

 
後書き
当初は宴席で蓮がはっちゃけたり、アスナのお見合い妨害したりする描写があったんですが、収拾付かなくなったので、破棄しました。 
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