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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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外伝
外伝1:フェイト編
  第4話:ヤクト・レーベン


「ゲオルグ。 準備はいい?」

「うん。大丈夫」

訓練スペースの中で互いの防護服を身にまとい、ゲオルグとフェイトは
向かい合っていた。
フェイトの手にはアサルトフォームのバルディッシュ。
ゲオルグの手には刀剣型のアームドデバイスが握られている。

「行くよ、バルディッシュ」

《Yes sir》

インテリジェント・デバイスであるバルディッシュとフェイトの会話を見ながら
ゲオルグは己の手にあるデバイスをまじまじと見る。
それは士官学校在学中に手当を貯めて購入した斬撃に特化した刀剣型の
アームドデバイスで、それ以来ミッド式魔法への対応のための基本ソフトウェアの
入れ替えやカートリッジシステムの搭載など、専門家の手を借りつつも
基本的にはゲオルグ自身の手によってアップデートがなされてきたものである。

「始めようか、フェイトさん」

「うん。そうだね」

2人は最後に短い会話を交わすと、それぞれに構えをとった。

(こっちから行くっ!)

ゲオルグはギリっと奥歯ををかみしめると、フェイトに向かって床を蹴った。
弱い飛行魔法で跳躍距離を伸ばし、1回跳躍一気にフェイトの懐へ飛び込む算段だ。
思い切って背をそらし、頭上に大きく振りかぶると、そのままフェイトの脳天を
めがけて一気に振りおろそうとする。

だが、フェイトはこの斬撃をゲオルグから見て左側に飛んでかわす。

(くっ・・・、これじゃ追撃ができない!)

右利きのゲオルグが左側にいる相手に斬撃を加えるには、一旦身体全体を
そちらに向ける必要がある。
その分次の攻撃へは余分な動作が必要になるため、追撃は遅れる。

(やっぱりデキる人だな、フェイトさんは)

回避のための最低限の動きによって、相手から行動の選択肢を奪い有利に運ぶ。
ゲオルグはこの瞬間にフェイトがかなりの実力者であることを理解した。

(でもっ!)

着地したゲオルグは、刃を横に倒し右回りに3/4回転してフェイトの
お腹のあたりをなぎ払うように刃を向ける。

(えっ!?)

フェイトはゲオルグの動きが意外だったのか、一瞬目を見開いてその動きを止める。
しかし自失の時間はごくわずかで、ゲオルグの斬撃を身を屈めて回避すると、
空振りによってガラ空きになったゲオルグの懐へと入りこみ、バルディッシュで
斬り上げる。

(やばっ、防ぎきれない!)

刃を振りぬいた直後のゲオルグにはそれを受け止める術がない。
回避するにはフェイトの攻撃はあまりにも速すぎた。
慌てて張ったバリアも自動発動のプロテクションも突き破り、
金色の刃がゲオルグに突き刺さった。

「ぐうっ・・・」

フェイトの攻撃によって弾き飛ばされたゲオルグは、空中で姿勢を立て直して
着地すると勢いで床を滑っていく。
ようやく止まったところで顔を上げると、すでにフェイトが目の前に迫っていた。

(なっ! 速い!)

振り下ろされる刃をゲオルグは自分のデバイスで受け止める。

(くぅっ・・・、なんて重い攻撃なんだ)

歯を食いしばってなんとか耐えるゲオルグに、フェイトが声をかける。

「やるね、ゲオルグ」

「フェイトさんこそ」

ゲオルグは鍔迫り合いの中で勝機を見出そうと頭をフル回転させる。

(スピードはフェイトさんの方が上だから単純に下がってもダメだし、
 このまま鍔迫り合いを続けたところで押し負けちゃいそうだよね。
 やっぱり、イチかバチかアレでいくしかないか・・・ヨシッ!)

ゲオルグは覚悟を決め、両腕に力を込めてフェイトを押し返すと、
距離を取るべく後に飛び下がる。
そして着地した瞬間に自らの希少技能を発動させると、フェイトの視界から
その姿を消した。

(えっ、消えた!?)

目の前からゲオルグの姿が突然消えたことにフェイトは狼狽し、
前後・上下・左右の全方向をキョロキョロと見回す。

「居ない・・・。いったいどこに・・・。っきゃっ!」

フェイトは何者かに背後から弾き飛ばされ、訓練スペースの床に倒れてしまう。
しかし、すぐに飛び上がると自分を攻撃したであろうゲオルグが居るはずの方向に
顔を向ける。が・・・

「いない? そんな・・・」

やはりゲオルグの姿はなく、フェイトは混乱し始める。

《Sir. He is behind you!》

「えっ?バルディッシュ?」

フェイトは疑問を抱きながらも振り返ってバルディッシュを振りおろした。

「どわっ!」

何かに当たった手ごたえとともにゲオルグの声が響き、
床に倒れ伏した状態で気絶したゲオルグの姿が現れた。

「これで終わりだね、ゲオルグ」

《Maybe, he cannot reply, sir...》





「ホントに強いね、フェイトさんは。 全く歯が立たなかったよ」

「そんなことないよ。 もう少しでやられるところだったし」

模擬戦のあとシャワーで汗を流した2人は、通路を並んで歩いていた。
ひとしきり模擬戦の内容について話したところで、フェイトが真剣な表情になる。

「ねえ、ゲオルグ。 模擬戦の感じだとAランクぐらいの実力はありそうに
 感じたんだけど、なんでBランクなの?」

「Aランクだなんてそんな・・・。僕はそんな器じゃないよ」

「いや、俺もハラオウンに賛成だな」

ゲオルグとフェイトは背後から聞こえてきた別の声に驚き、振り返った。
そこには、ミュンツァーが立っていた。

「ミュンツァー隊長?」

ゲオルグが声を上げると、ミュンツァーはゆっくりと歩いてゲオルグの側まで
来ると、ゲオルグの肩に手を置く。

「お前、士官学校に入学するときの魔導師能力テストでBランクに認定されてから
 ランク試験を受けてないな」

「ええ、まあ」

ゲオルグはバツ悪げにミュンツァーから目をそらす。

「え!? そうなの? もったいないよ、そんなの」

「ハラオウンもそう思うだろ? 去年だってあれだけAランク試験を受けろって
 言ったのに無視するしな」

「いや・・・まあ、面倒だったので」

「面倒だからってランク試験を受験しないヤツがあるかよ。 魔導師手当にだって
 影響するんだから、取れるなら高ランクを取っとくほうがいいぞ。ほら!」

ミュンツァーはそう言うと、1枚の紙をゲオルグに向かって突き出した。

「なんですか・・・これって」

「今度のAランク試験の受験書類だ。 俺が申し込んでおいたから確実に
 受験するように。いいな」

「ですけど・・・」

「いいな!」

「はい・・・」

ゲオルグはミュンツァーの剣幕に押されて頷く。

「それともう一つ話しておきたいことがあるんだが、
 お前はなぜAIを搭載したデバイスを使わない?」

「あっ、私もそれは不思議に思いました。 なんでなの?」

「えっと・・・、効果がイメージできないのと近くにいいデバイスマイスターが
 居なかったので」

ゲオルグがそう答えると、ミュンツァーは渋い顔をする。

「お前は近代ベルカとミッドのハイブリッドだから、AIで思考を
 補助してやることで効率がよくなるはずだ。
 俺の知ってる技術者を紹介してやるから、明日にでも行って来い」

ミュンツァーはそう言うと、ゲオルグに1枚のメモを渡す。

「運用部の・・・ハミルトンさんですか?」

「ああ、変わり者だが技術は最高級だ」

「わかりました。明日、ハミルトンさんを尋ねてみます。ありがとうございます」

ゲオルグはそう言ってミュンツァーに向かって頭を下げた。





その夜・・・
パジャマに着替えたフェイトは、自室で通信を繋ごうとしていた。
しばらくしてウィンドウが目の前に開き、その中に彼女の親友の顔が映る。

『あっ、フェイトちゃん。 どうしたの?』

「うん、ちょっとなのはと話したくて。それより、身体の調子はどう?」

『全然平気だよ。 お医者さんも、もうそろそろ復帰してもいいだろうって』

「そっか。よかったね、なのは」

『うん。ありがと、フェイトちゃん』

そう言ってウィンドウの中のなのはがにっこりとほほ笑む。

『そういえば、フェイトちゃんのほうはどう? 新しい赴任先は』

「まだ2日目だけど、みんな親切だし楽しくやってるよ。
 あと、私たちより2つ年上の男の子がいて、その子といろいろお話したり、
 模擬戦やったりしたんだ」

『へえ、2つ年上ってことは14歳だよね』

「うん。でも結構強いし、しっかりしてる子だったよ。
 今度、機会があったらなのはにも紹介するよ」

その後、1時間ほどなのはと会話をしてフェイトは眠りについた。





翌日・・・
ゲオルグの姿は本局にあった。
シャングリラから転送によって本局へと出かけたゲオルグは、
3尉任官以来数えるほどしか来たことのない本局で迷子になっていた。

「どこだよ・・・ここ」

辺りを行く人々は、途方に暮れるゲオルグには目もくれず、足早に歩いて行く。
しばらく歩きまわって目的地にたどりつけるめどを得られなかったゲオルグは
自力でたどり着くことをあきらめ、近くに居る人に尋ねることにした。

「すいません、運用部にはどうやって行けばいいんですか?」

「運用部? 私もこれから行くところだから案内しようか?」

ゲオルグは声をかけた女性局員の言葉に甘えることにして、そのあとについていく。

「で? 君はなんでこんなところにいるのかな? 親御さんに届け物?」

「ある人と約束があって会いに来たんです」

「そうなんだ。 誰に会いに来たの?」

「ステラ・ハミルトンという方です」

ゲオルグがそう言うと、女性の顔が目に見えて強張った。

「ステラさん・・・かぁ」

「ご存知なんですか?」

「う、うん。ご存知というか・・・結構有名人だからね、あの人」

「そうなんですか。 どういう方なんですか?」

ゲオルグが尋ねると、女性は答えづらそうに苦笑する。

「優秀な人なのは間違いないんだけど、ちょっと変わっててね」

「はぁ、変わってる・・・ですか?」

「うん。会えば判ると思うけどね」

それからエレベータに乗り、長い廊下を5分ほど歩いて行くと、
目の前を歩く女性の足が止まった。

「この部屋にステラさんがいるからね。じゃあ、私はこれで」

「あ、はい。ありがとうございました。 遅くなりましたが、僕は
 次元航行艦シャングリラの魔導師隊分隊長をしている、
 ゲオルグ・シュミット3尉です」

「それはそれはご丁寧にどうも・・・って3尉!?」

「じゃあ、失礼しますね」

にっこり笑ってから部屋に入っていくゲオルグの姿がドアの向こうに消えるのを
女性局員は茫然と見送り、最後に一言 ”えっ、上官?”とつぶやいた。





ゲオルグが入った部屋の中には、白衣を着た人男女が5人ほど座っていた。

「あの・・・、ゲオルグ・シュミットといいますが、ハミルトンさんは
 いらっしゃいますか?」

ゲオルグがそう声を上げると、近くに座っていた20代前半くらいに見える男性が
顔を向ける。

「はぁ? ハミルトン・・・って、ステラさんか。ちょっと待ってね」

男性は椅子から立ち上がると部屋の奥へと歩いて行く。
男性が屈むと、ゲオルグの視界から男性の姿が消える。
しばらくすると、男性に続いて一人の女性がぼさぼさのショートカットの頭を
掻きながら立ち上がった。
女性はゲオルグの方をぎろりと睨むと、パタパタという足音を立てながら
ゲオルグの方に向かって歩いていく。
そして、ゲオルグの目の前で立ち止まり、白衣のポケットに手を突っ込んで
ゲオルグを見下ろした。

「お前がミュンツァーの言っていたヤツか?」

「はい。ミュンツァー1尉の部下でゲオルグ・シュミットといいます」

「ゲオルグか。 で、今日はデバイス制作についてだったな。ついて来い」

ステラはくるりとゲオルグに背を向けるとすたすたと部屋の奥へと歩いて行く。
ゲオルグはあわてて彼女について行くのだが、周囲から同情の目を向けられていた。

ステラが部屋の一番奥にあるドアを開けてその中に入り、ゲオルグはそれに続く。
そこは大型の機器がいくつも並ぶ作業場のような部屋だった。

「ここは・・・?」

「うちの作業場だ。 いいからお前が今使っているデバイスを出せ。見てやる」

ステラの強い口調に押されるようにして、ゲオルグはデバイスを差し出した。
ステラはそれを受け取ると、部屋の中に機械の上に置き、いくつかのウィンドウを
目の前に開いてそれをじっと眺め始める。

それから1時間、ステラは時折何かをブツブツ言いながら、また時折何かを
メモしながら、たくさん開いたウィンドウの中にあるデータを見比べていた。
ゲオルグはその間特にすることもなく立ちっぱなしで待っており、
さすがに足が疲れてきたと感じたころに、ふとステラが大きく息を吐きながら
顔をゲオルグの方に向けた。

「ん? お前は何をそんなところに突っ立っているんだ。 適当に座れ」

「あ、はい」

ゲオルグはそう言って頷くと、近くにあった椅子を引き寄せて座る。
ステラもゲオルグと向かい合うように座ると

「まず聞くが、このデバイスをチューンアップしたのは誰だ?」

「僕です。いろんな人に手伝ってもらいながら」

「なるほどな、それでこんなことになっているわけか・・・」

ゲオルグの答えにステラが納得したように頷く。

「どういうことですか?」

「デバイスっていうのはハードウェアからソフトウェアまでひとつの思想が
 貫かれていなければ、効率が悪くなるんだよ。
 こいつの場合は、ベースになったデバイスと後から追加した機能や
 変更したソフトウェアの間に齟齬がある。
 おそらくはお前が相談した何人かが、それぞれにバラバラな意見を
 言ったせいだろうな」

「はあ、そういうもんですか」

ゲオルグはイマイチピンと来ていないのか、わずかに首を傾げながら頷く。

「でだ、お前のプロフィールも見せてもらったが、結論から言えばAIを搭載して
 魔法発動の思考過程をデバイスに分担させることでお前の能力は、
 今よりもかなり向上するはずだ」

「本当ですか!?」

ステラの言葉にゲオルグはグッと身を乗り出す。

「ああ。 デバイスを作り直すことで魔法発動の効率も向上するはずだからな」

「わかりました。ぜひお願いします!」

ゲオルグは椅子から立ち上がり深く腰を折る。

「よし、では1週間後にまた来い。 最高のデバイスを用意しておいてやる」

「はいっ! ありがとうございます」





1週間後・・・
ステラからデバイスが完成したという連絡を受けたゲオルグは、
再びステラの元を訪れていた。
ステラとは違う女性の研究員に1週間前と同じ作業部屋に通されたゲオルグは
適当な椅子に座ってそわそわしながらステラを待っていた。

(AI搭載型のデバイスかぁ・・・どんなのだろ? うまくやっていけると
 いいんだけどなぁ)

期待半分・不安半分といった面持ちのゲオルグの肩に誰かが手を置いた。
驚きでビクッとなるゲオルグが後ろを振り返ると、小さな箱を手にした
ステラが立っていた。

「よく来たな、ゲオルグ。 早速だがこれがお前の新しいデバイスだ」

そう言ってステラは箱を開けた。そこにはゲオルグがもともと使っていたデバイス
と似た形状をした刀剣の飾りがついたペンダントが入っていた。

「これが・・・」

ゲオルグはそう言って恐る恐る箱の中のペンダントに手を伸ばす。
チェーンを握って持ち上げると、部屋の照明を反射して刀剣の飾りが鈍く光る。

「僕の・・・デバイス・・・」

ゲオルグはその輝きに見入られたように呆ける。

「近代ベルカとミッドのハイブリッドであるお前に合わせて、
 処理ロジックを2重化してある。形状は以前使っていたものとほぼ同じに
 してあるから振りまわすのはすぐに慣れるだろう。
 あと、前のデバイスにインストールしてあった魔法はすべて移植済みだ」
 
ステラは自慢げに語るのだが、ゲオルグの耳には届いていないのか、
その手に持ったじっと見つめていた。

「いつまでも呆けていないで、さっさと認証させんか!」

いらだった様子でステラが拳を振りおろすと、ゲオルグは殴られた頭を押さえながら
恨めしげにステラを見る。

「何するんですか!?」

「やかましい、早くしろ」

ステラの表情に恐れをなしたゲオルグは、おとなしくデバイスに自分をマスターと
認証させるための手続きを始める。

「マスター認証、ゲオルグ・シュミット。 魔法種別は近代ベルカとミッドの
 ハイブリッド。デバイス名称は ”ヤクト・レーベン”」

ゲオルグの足元に広がる魔法陣が輝きを増す。

「ヤクト・レーベン。 セットアップ!」

ゲオルグの全身が光に包まれる。
光が収まると、先ほどまで着ていた制服とはうって変わり、
紺色を主体とした騎士甲冑を身にまとったゲオルグが立っていた。
その右手にはわずかに弧を描いた刀剣が握られている。

「騎士甲冑は変わらないんですね。 なんか、変わった気がしませんよ」

《それは、マスターが以前使われていたデバイスから移植したからです》

「なるほど、そういうことですか・・・って、誰ですか!?」

聞きなれない声にゲオルグはキョロキョロと部屋の中を見回す。

「バカかお前は。お前のデバイスに決まってるだろうが」

「えっ、じゃあさっきの声が」

《はい、私の声ですね》

「そうなんだ。 よろしく、レーベン」

《はい、よろしくお願いします。マスター》

ゲオルグはレーベンの言葉に笑顔で頷いた。






本局からシャングリラへ戻ったゲオルグは、レーベンに一刻も早く慣れるべく
早速艦内の訓練スペースへと足を向ける。

「あ、分隊長。 帰ってたんですか」

背後から声を掛けられて振り返ると、そこにはクリーグが立っていた。

「クリーグ士長だったんですか。 ええ、たった今戻ったところです」

「そうなんですか。 それで、新しいデバイスは・・・」

「しっかり受け取ってきましたよ。これです」

ゲオルグはそう言うと胸元から待機状態のレーベンを取り出す。

「へえ、分隊長がもともと使ってたヤツと形はほとんど同じなんですね」

「ええ。レーベンを作ってくださった方がすぐ慣れられるようにと」

「レーベン?」

クリーグは聞きなれない名に首を傾げる。

《私の名前です。 ヤクト・レーベン。略称がレーベンです》

レーベンがそう言うと、クリーグはゲオルグの胸元にあるレーベンに目をやる。

「・・・よく話すデバイスですね」

「そうですね。でも、おかげでお互いのことをよく知れましたから」

「そうですか。 ところで、分隊長はどこに向かってたんですか?
 分隊長の部屋とは逆方向ですよね」

「訓練スペースです。 レーベンに早く慣れておきたくて」

ゲオルグはそう言うと、少し何かを考えるような仕草を見せてから、
あっと声を上げてクリーグの方を見る。

「時間があったら、ちょっと付き合ってもらえませんか?」

「あ、模擬戦ですね。いいですよ」

「ありがとうございます。では行きましょうか」

ゲオルグとクリーグの2人は並んで通路を歩いていく。
訓練スペースに着くと、2人は10メートルほどの距離を置いて向かい合う。

「それじゃあ、行くよ。レーベン」

《はい、マスター》

ゲオルグはレーベンをセットアップし、騎士甲冑を身に纏う。
対するクリーグも彼自身のデバイスを構えていた。

「まずは軽く打ち合いをお願いします」

「わかりました。いつでもどうぞ」

ゲオルグは自分の魔力を纏わせたレーベンを構えて腰を落とす。
そして、クリーグの方に向けて跳ぶと空中で腰をひねってレーベンを後ろに引く。
床に着地しそのエネルギーを吸収するべく膝を曲げたあと、
その全身に貯め込んだポテンシャルを解放するように、レーベンを振りぬいた。

”ギィン”という甲高い音が訓練スペースの中に響く。
その残響の中でゲオルグとクリーグは鍔迫り合いの体勢で互いの目線を合わせる。

「なにが軽く打ち合いですか。 初撃から本気じゃないですか」

「すいません。 少し力がこもってしまいました」

2人は口元に笑みを浮かべながら言うのだが、目は真剣そのもので
額にはわずかに血管が浮いている。早い話、本気なのである。
お互いに一旦力を緩め元の位置に帰ると、揃ってほっと一息つく。

「一撃で決めに来ちゃ意味ないですよ。テストなんですから」

「そうですよね。ミッド式の魔法も使ってみないといけませんし」

「じゃあ、中距離戦でいきますか? 俺は防ぐだけになってしまいますけど」

「悪いですけど、そうしましょう。 じゃあ、行きますよ」

「了解です」

クリーグが頷くと、ゲオルグはレーベンに声をかける。

「レーベン、メッサーレーゲンだよ」

《はい、マスター》

レーベンが返事をするとその身にゲオルグの魔力を纏う。
ゲオルグはその場でレーベンを振り上げるとそのまま振り下ろし、
レーベンが纏っていた魔力はいくつもの刃となってクリーグへと襲いかかった。

(わっ、やりすぎちゃった!)

思っていたよりも多くの刃が飛んでしまい、ゲオルグは慌てる。
クリーグは必死で刃の雨をかわそうとするがかわしきれずに被弾し、
訓練スペースの硬い床に膝をつく。
ゲオルグはクリーグの側に駆け寄ると、その肩を掴んで揺さぶった。

「大丈夫ですか!?」

「非殺傷設定なんだから大丈夫ですよ。 安心してください」

「よかった・・・。でも、すいません。加減を失敗してしまいました」

ゲオルグはそう言うと肩を落としてうなだれる。
その肩に何かが触れる感覚でゲオルグはパッと顔を上げた。
その目には優しげに微笑むクリーグの顔が映った。

「そう落ち込まないでください。 俺はなんともないんですからそれで
 いいじゃないですか」

「・・・わかりました。 でも、しばらくは一人で練習します。
 ちゃんと使いこなせるようになったら、また付き合ってくださいね」
 
「もちろん!」

2人はお互いの肩に手を置いて笑い合った。

 
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