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銀の呪い

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第一章

                    銀の呪い
 スペインが中南米に進出し多くの国を滅ぼして暫くしてだった、そのスペイン人達の間に不気味な噂が広まっていた。
「インカ皇帝の黄金を見つけると呪われる?」
「そうなる?」
「あの幻の黄金を見つけたら」
「呪われるのか」
 インカ皇帝は彼等に異端として殺された、その際彼等は多くの黄金を奪っていた。
 しかしこの時皇帝はとうもろこしが並々と入った盃をひっくり返してこう言ったのだ。
「貴方達が手に入れた黄金はこの中にあるとうもろこしの数粒に過ぎない」
 この言葉はスペイン人達の心に残り彼等は黄金を探し続けていた、その中で彼等はこうした噂を聞いたのだ。
「その莫大な黄金を手に入れてもか」
「呪われるのか?」
「インカ皇帝の呪いか?」
「我々が殺した皇帝の」
「そしてインカ人達の」
 彼等の呪いではないかというのだ。
 だが彼等は黄金を探し続けていた、その中で。
 中南米での植民地を拡大しそしてそこの原住民を奴隷にしていった、逆らう者は次々と殺戮していった。
 そして銀山を見つけるとだ。
 原住民達を奴隷にしたのだ、彼等を酷使してなのだ。
 銀を次々と生み出した、だがそれと共に原住民達は酷使と虐待、それにスペイン人達が持ち込んだ疫病で次々と倒れていった。
 彼等は痩せ衰え死んでいく中でこう呟いていた。
「スペイン、呪われろ」
「俺達を殺し奪った呪いを受けろ」
「御前達に報いがあれ」
「俺達の恨みを受け取れ」
 こう呟きながら死んでいった、しかし彼等への酷使と虐待は止まらない。
 銀は次々と掘り出される、そしてその銀達がスペインに入り。
 スペインを豊かにした、これにはスペイン人達も驚いた。
「銀が次々と出て来る」
「これだけの銀は見たことがない」
「中南米は黄金だけではないぞ」
「無尽蔵の銀を生むではないか」
「これだけの銀があれはスペインは安泰だ」
「我々は日の沈まぬ国になるぞ」
「うむ、間違いなくな」
 彼等はそう確信していた、その銀の山を見て。
 銀は確かにスペインを豊かにした、それにより無敵艦隊を建造し宮廷を飾った、その中において原住民達の呪いのことは忘れられていた。
 しかしある時に。
 スペインの内政状況を見て国王フェリペ二世は憂いを以てこう言った。
「国内の産業の生産力が落ちているではないか」
「えっ、そうなのですか」
「我がスペイン内のですか」
「それがですか」
「そうだ、近頃中南米からばかりものを入れている」
 そして船を出しているというのだ。
「そればかりでだ。
「国内産業がですか」
「落ちていると」
「しかもこれといった産業も育っていない」
 王は貴族達にこのことも言った。
「これはまずいぞ」
「ですが王よ」
 貴族の一人がここで言った。
「あの、それですが」
「どうした」
「ものは全て植民地から手に入ります」
 銀やそうしたものがだというのだ。
「あらゆるものが」
「だから生産をすることはか」
「ないかと」
 こう王に言ったのである。
「お気になさることは」
「だといいがな」
 王は厳しい顔で応えた。 
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