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鞄の中

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第二章

「いえ、普通ですよ」
「普通の鞄ですか?」
「そうなんですか?」
「はい、至って普通の」
 こう言うのだ。
「手品師の鞄ですよ」
「いえ、貴方もです」
 その言いだしっぺのファンがここで彼自身に言った。
「そもそも手品師ですか?」
「といいますと?」
「手品師ではなく実は」
 このことを言うのだ。
「魔術師なんじゃないですか?」
「マジシャンはマジシャンでもですか」
「はい、ウィザードでは」
 こう問うたのだ。
「そうじゃないんですか?」
「ははは、どうでしょうか」
 ホンダは笑って彼に返した、手は平にして胸の高さで両方共前にしている。
「それは」
「否定されないのですか?」
「いえいえ」
 やはり言わない彼だった。
「それは何も」
「いえ、でしたら」
 それならと言う彼だった。
「貴方はやはり」
「ですから私はマジシャンでして」
「どちらのですか?」
 彼はホンダにさらに問うた。
「本当に」
「さて」
 笑ってここは誤魔化した。
「どちらでしょうか」
「否定されないってことはあれですよね」
 ファンは怪訝な顔でホンダに言い返した、それも即座に。
「貴方はやっぱり」
「こうしたことが出来るのは何かというのですね」
 早速手からいきなりトランプのカードを五枚出して来た、それもロイヤルストレートフラッシュをである。
「魔術かと」
「それは奇術では?」
「手品ですよね」
「まああれです。フーディーニが相手でも」
 トリック破りの達人だ、伝説的存在とさえなっている。
「私は相手に出来ますよ」
「その魔術をですか」
「それを」
「ははは、マジックをですよ」
 ホンダはまたあえて言った、マジックという言葉も手品と魔術の意味がある。わかって言っているのである。
「そういうことです」
「ううん、怪しいな」
「やっぱりこの人は魔術師なのか?」
「手品師じゃなくて」
「そっちなのかな」
 ファン達はわからなくなった、とにかく彼のマジックは絶妙だからだ。
 水芸をしてもそれは幻術の如くだ、そうしたものを見てだった。
「何処にタネがあるんだ?」
「本当にタネも仕掛けもないんじゃないのか?」
「鞄の中からも水を出すなんてな」
 これもしたのである。
「あれはとてもな」
「手品じゃないんじゃないのか?」
「水芸の域を超えているだろ」
「だよな、やっぱり」
「それじゃあ」
「あの人は魔術師だ」
 断言まで出た。
「間違いないな」
「手品じゃない」
「あの鞄に」
 特にだった、彼が愛用している鞄だった。
 その鞄、何でも出て来る鞄に皆注目した。これは最初からだが特にだった。 
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