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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百五十五話 ヴァンフリート星域会戦 その4

 
前書き
お待たせしました。

 

 
宇宙暦794年 帝国暦485年 4月1日

■自由惑星同盟 ヴァンフリート4=2 同盟軍後方基地 ローゼンリッター連隊長室

ヴァーンシャッフェ大佐が苦悶の表情をしながら、今後のことをローゼンリッター連隊員に話しをしたが、何も得る物が無いまま解散を命じた、くだらない事に貴重な時間が費やされたことになった。

若手の隊員以外のベテラン達は今更慌てても仕方ない成るように成るという考えで、防具、武器の整備に余念が無い、彼等はどうせ嬲り殺されるなら一矢報いて散るかという考えであった。

その頃、連隊長室に閉じこもったヴァーンシャッフェ大佐は、自分だけ可愛さに何とか助かる方法を考えていたが、その部屋に数年前に帝国から亡命した後、陸戦専門の軍専科学校に入校し、卒業後に武勲を上げ第16幹部候補生養成所を卒業しローゼンリッターに配属された若手少尉が訪ねて来た。ヴァーンシャッフェ大佐にしてみれば、取るに足らない下級仕官であったが、帝国軍の報復を受けないで行けると言う事で話を聞くことにした。

「で、どういうことか?」
「連隊長殿、このまま我々はローゼンリッターのままですと、帝国軍の報復を受ける恐れがあります」
少尉の言葉を聞いてヴァーンシャッフェ大佐は何を今更という顔をしながら怒鳴る。

「ゾルゲ少尉、貴官の言う事などとっくに判って居る、もっと建設的な考えを言えんのか!」
その言葉に、少尉はよくぞ聞いてくれたと言うが如く胸を張って答える。

「連隊長殿、恐らく司令部では今頃、重要データーの消去が進められているでしょう」
「それがどうしたと言うのだ!」
「其処で、この基地にいる兵員のパーソナルデーターも一緒に破棄すれば、我々がローゼンリッターであることを知られることはないでしょう」

少尉の言葉を聞いたヴァーンシャッフェ大佐は、アイデア的には素晴らしと少尉を見る。
「成る程、良い考えだが、基地の者達は皆我々がローゼンリッターであることを知っているぞ、其処から漏れるのではないか?」

大佐は当然の疑念を少尉にぶつける。
「その場合は、そう言った連中がローゼンリッターだと言い張れば堂々めぐりになるでしょう」
「うむーその様な物か」

少々慌てている大佐は判断力が鈍っている。
「如何でしょうか?」
「よし、少尉その様にしよう。御苦労だった」

そう言うと、TV電話で司令室に連絡を始める。
しかしこんな時に司令室に連絡を入れる事事態非常識であり、中々繋がらないイライラする中、やっと司令室と繋がると、出た相手にまくしまくる。

「ローゼンリッター連隊長のヴァーンシャッフェ大佐だ、セレブレッゼ中将にお話がある」しかし電話の向こうのオペレーターは『司令官は茫然自失でお話は無理です』と答える。それを聞き、“誰でも良いから話の出来る物を出せと!”怒鳴ると相手はムッとした表情で電話を誰かに繋いだ。

『ヴァーンシャッフェ大佐、小官は副官のサンバーク少佐ですが、何か用でしょうか?』
司令官が役に立たない為に、僅かな時間で機密情報などを消去させ、忙しい中、仕方なしにTV電話に出た少佐は些か大佐の非常識さに険悪感を得ているようであった。

「コンピュータからローゼンリッター連隊員の兵員名簿を消し去って欲しい」
少佐の顔色さえ気づかずに、大佐は一方的に話す。

サンバーク少佐は直ぐに、このローゼンリッター連隊長が保身に走っていると感じたが、それを顔に出さずに、忙しいので一言ですました。
『既に進行済みです』

そのまま敬礼をするとTV電話が切られた。

ヴァーンシャッフェ大佐は上官を敬わない少佐の態度に頭に来たが、取りあえず何とかする算段が立ってホッとしたが、続いて制服のローゼンリッター連隊章を剥ぎ取りゴミ箱へ投げ捨てた。




■自由惑星同盟 ヴァンフリート4=2 同盟軍後方基地  基地司令室

基地司令室では茫然自失状態のセレブレッゼ中将に代わり副官のサンバーク少佐がテキパキと命令を出していた。司令部要員も今後のことを考えないように一心不乱に仕事を行う。

「良いか、機密情報は確実に消去するんだ。復元可能な状態では残さないようにな」
「少佐、航路データーも消去しますか?」
オペレーターの一人が聞いてくる。
「うむ、敵に渡す訳にはいかん、確実に消去するんだ」

「はっ」
そんな中でヴァーンシャッフェ大佐からの連絡が有った訳である。
連絡後に、その話を聞いた司令部の面々は呆れていた。

「なんだい、一騎当千のローゼンリッターが自己保身とは」
「仕方ないだろう、奴等は帝国からすれば裏切り者なんだからな」
「経歴を抹消してでも生き延びたい訳か」
「だらしねーな」

口々にローゼンリッターの悪口を言い始めるが手は遊んで居ない。彼等は後方勤務本部所属とはいえ軍人としての職責を最後まで全うしようとしていた。その姿は茫然自失の司令官や自己保身に走る連隊長と全く違う漢の姿であった。

「さあ、あと二十分しかないぞ」
サンバーク少佐の言葉に皆が真剣な表情になり全てのデーターを一片残らず消し去る為に手を動かし続けるのである。




■自由惑星同盟 ヴァンフリート4=2 同盟軍後方基地 ローゼンリッター連隊長室

司令部に連絡後もヴァーンシャッフェ大佐は不安で堪らなかった。冷静に考えてみれば、水掛論であっても徹底的に調べられれば、自分がローゼンリッター連隊長とばれるのではないかと、又他の軍人達が人身御供に自分達を売る可能性が高いと言う事であった。

「どうするか、例え隠れても基地の総員は僅か3万強だ、どうするか……」
そう独り言を言っていたヴァーンシャッフェ大佐の元へ再度ゾルゲ少尉が訪ねて来た。
「ゾルゲ少尉です、連隊長殿宜しいでしょうか?」

人望のない今となっては、尋ねてくるゾルゲ少尉に一縷の望みを掛けて再度話を聞くことにした。
「入りたまえ」

敬礼するゾルゲ少尉に何の用かと聞く。
「少尉、今度は何の話しかね?」
「はっ、我々の中でもシェーンコップ中佐達は連隊長殿を嫌っております。その為に降伏時に連隊長を人身御供に差し出して命乞いをする密議をしているようです。又先ほどから密かに集まって武器の支度をしているのです。その為に万が一を考えまして、お知らせに参りました」

ゾルゲ少尉を信用していたヴァーンシャッフェ大佐はその言葉を信じてどうしようかと考え始めるが、時間が後10数分しか無い為にどうしようも無い。そこで再度ゾルゲ少尉がアイデアを出す。

「連隊長殿、私の小隊の者が武器庫で火災を起こさせる準備をしています」
ゾルゲ少尉の言葉に大佐は驚く。
「少尉、それでどうするんだ?」

「はっ、降伏時に武器庫で火災を起こさせ、基地に混乱を起こします。さすれば、帝国も其方の爆発に意識がいってしまうでしょう」
「それで」

「其処で、我々は密かに脱出します」
「それは、敵前逃亡になるのではないか」
「いえ、敵に降伏する司令官こそ利敵行為に過ぎません。我々は基地を捨てますが、味方が来るまで4=2でゲリラ戦をすれば良いのです」

ヴァーンシャッフェ大佐もゾルゲ少尉の言葉に頷き自分達だけで逃げることにした。
ヴァーンシャッフェ大佐はまさかゾルゲ少尉がローゼンリッターからヴァーンシャッフェ連隊長を切り離し同盟側へ残す為の謀略だとは思いも因らなかった。

実はゾルゲ少尉は数年前から用意されていたアンダーカバーである。彼に命じられたことは只一つ“ローゼンリッター連隊長をローゼンリッターから引き離せ”だけであった。それ以外の報告や諜報などを全く命じられていなかった為、同盟軍諜報部からもノーマークだった。




宇宙暦794年 帝国暦485年 4月1日 1:30

■自由惑星同盟ヴァンフリート4=2 ケスラー艦隊旗艦エリュテイア

エリュテイア艦橋は、今までの帝国艦と違い、会議卓が設けられ其処に各種モニターやキーボードなどが設置され司令官ケスラー中将、参謀長メックリンガー少将、参謀ベルゲングリューン大佐、ビューロー大佐、ジンツァー大佐、その他の参謀達が椅子に座っていた。会議卓を設けた結果、帝国艦に必ずあるギリシャ風の柱は装備されておらずスッキリとた艦橋になっていた。

参謀達は普通の艦では司令官以外は戦闘中ずっと立っているのであるが、この様に座っていることは初めての事であるからか、落ち着かないようであった。

オペレーターが振り返りる。
「閣下、時間です」
「そうか、再度叛乱軍基地に通信を送れ」
「はっ」

オペレーターは直ぐさまヴァンフリート4=2後方基地に連絡を行う、暫くしてモニターに窶れ尽くしたセレブレッゼ中将と落ち着いた表情のサンバーク少佐が映り、双方で敬礼を行う。

「セレブレッゼ中将、時間ですが降伏を受け入れてくれますか?」
ケスラーが丁重な口調と落ち着いた表情で降伏を勧告する。
窶れたセレブレッゼ中将がノロノロと答える。

『了解した。降伏勧告を受諾する』
その言葉に、エリュテイア艦橋で歓声が上がるが、遮音力場で基地側には聞こえない。
基地が降伏勧告を受けいれた為、ケスラーがテレーゼに頼まれた事を行う。

「中将、其方の基地にいるローゼンリッター連隊と話がしたいのですが、繋いで頂けませんか?」
ローゼンリッターが基地にいることが敵に判っている事にセレブレッゼ中将もサンバーク少佐も驚きの顔をするが、負けた身である以上受諾する。

『了解した』




■自由惑星同盟 ヴァンフリート4=2 同盟軍後方基地  

ケスラー中将の頼みにサンバーク少佐がオペレーターに命じ、ヴァーンシャッフェ大佐に連絡を行ったが何処に居るのか判らず仕舞い、その為仕方なしに、副連隊長のシェーンコップ中佐に連絡を行う。

シェーンコップはこの時、最後の晩餐かと皆とワインを飲みながら、詰め所で愛用の炭素クリスタルの戦斧を磨いていた。そこへ連絡が入る。

『シェーンコップ中佐』
「何か有りましたか、司令官閣下」
その皮肉にセレブレッゼ中将はムッとするが、サンバーク少佐が代わって話す。
 
『中佐、帝国艦隊司令官のケスラー中将がローゼンリッターと話したそうです』
「そんな話は、連隊長殿に廻して頂きたい物ですな」
シェーンコップが斜に構える。

『ヴァーンシャッフェ大佐は行方が判らない状態なのです』
その言葉に、話を聞いていた多くの隊員から疑問の声が上がる。

そんな声を聞きながら、シェーンコップが話を承諾する。
「了解した」

そう言うと、モニターが変わり、三十代程の少壮の弁護士風の将官が敬礼してきた。
『銀河帝国宇宙艦隊所属、艦隊司令官ウルリッヒ・ケスラー中将です』
「自由惑星同盟軍ローゼンリッター連隊副連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ中佐」

シェーンコップはこの男が何を考えているか考える。
『中佐は副連隊長と言う事だが、連隊長はどうしたのかね?』
ケスラーの言葉に、ブルームハルトがチャチャを入れるように話す。

「連隊長殿は帝国軍が怖いらしく、何処かへ隠れてしまいましたぜ」
そのチャチャにもケスラーは怒りもせずに、ニヤリと笑うだけだった。
『なるほど、どの世界にも我が身が可愛い者がいる訳だな』

この言葉で、シェーンコップはケスラーが一筋縄ではいかない男だが信用できそうだと感じた。

「フッ、真に持って、しかし態々帝国軍中将閣下が何の御用でございましょうか。まさか今から撤退するので宜しくと言う訳ですかな」

シェーンコップは全く動じる事無く皮肉を言う、普通であればこの言葉で激高するはずの相手が笑い出した。

『ハハハハ、流石はローゼンリッターだ』
「そりゃどうも」
シェーンコップもそう言うしかない。

ケスラーは真面目な顔になり話し始める。
『帝国は卿等ローゼンリッターに対して報復等の行為を行わない事を皇帝陛下と大神オーデインに誓う』

「それは、剛毅な事で」
『卿等が自暴自棄に成らぬように、皇帝陛下御自ら小官にお命じに成られたのだ。頼む陛下の御心を信じて貰いたい』
ケスラーがローゼンリッターに頭を下げる姿にさしものシェーンコップも驚き承諾してしまった。

「判った、俺はどうなっても良いが、部下達には寛大な処置を願う」
『安心して貰いたい』


その時、基地全体を揺るがすような爆発が起こった。 
 

 
後書き
ゾルゲはあのゾルゲから名前を取りました。 
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