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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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五十五 図南鵬翼

何時からいたのか。
彼は誰にも知られず、誰にも気づかれず、その場に立っていた。

全てを見透かすような蒼い双眸。
空気に溶け込むほどの透明感と水際立つ存在感。

矛盾したそれらを併せ持つ彼は、ただ静かに佇んでいた。
一尾と九尾の狭間で。


「その身体はお前のものじゃない。波風ナルのものだ」
穏やかな声音の反面、冷徹な眼差しで言い放つ。
突如現れたうずまきナルトに九尾―『九喇嘛』は思わず寒気を覚えた。

《なぜ貴様が、クシナの鎖を使える…ッ!?》
今一度、問い掛ける。

警戒を露に睨む九喇嘛を、ナルトは無言で眺めた。一瞬、沈痛な面持ちで俯く。ややあって顔を上げた彼は小さく微笑んだ。
「今やるべき事は一つ。そうじゃないか?」

九喇嘛の質疑には応じず、ナルトは空を仰いだ。その視線の先を見遣った九喇嘛が眉を顰める。
そこには九喇嘛同様、鎖に縛られた守鶴の姿があった。

地中から伸びた幾筋もの鎖。それらはまるで蜘蛛の糸のように、ニ体の尾獣の力を抑え込んでいる。
姿形は少女である九喇嘛はともかく、完全体となった守鶴が身動き出来ぬ様は目を疑う光景だった。

「な、なんだァ!?」
驚いた守鶴が力任せに引き千切ろうと試みる。しかし鎖はその馬鹿力を物ともせず、むしろ先ほど以上にピンッと張り詰めていた。

「守鶴の力を制する方法は知っているはずだ」
《…なぜ自分でやらん?》
「ナルが…いや、君達がやらなければ意味がないからだよ」
淡々と話すナルトを、ナルの姿をした九喇嘛が訝しげに睨んだ。剣呑な紅い瞳を細める。

《…わからん。貴様は誰の味方なんだ?誰の為に動いている?》
「俺は何処にも属さない。誰の味方もしない。強いて言うならば、」
九喇嘛との議論を断ち切って、ナルトは瞳を閉じた。口角を皮肉げに吊り上げる。

「自分自身の為だよ」
言い切る。しかしながらその面差しは、確かに愁いを帯びていた。


沈黙が落ちる。【風遁・練空弾】によって円形に窪んだその場では守鶴の怒鳴り声だけが轟いていた。
九喇嘛は暫しナルトを探るように見つめていたが、やがて自らの殺気を抑えた。ナルトを睨みつつも、思案に沈む。

如何に不意を衝かれたとは言え、一尾と九尾――尾獣二体を同時に抑えたのだ。
自らの力を封じるクシナの鎖を操り、その上気配を悟らせずに捕縛する。そのような芸当が出来る相手を前に、迂闊な行動は慎むべきだと九喇嘛は瞬時に判断した。

波風ナルを完全に乗っ取り、本来の力を出したとしても、目の前の少年には通用するか定かではない。なぜならば彼の力は未知数で、加えてその行動理由も目的も心意でさえも全く読み取れないからだ。一尾と九尾を目前にして聊かも物怖じしないその態度も気に掛かる。
更にはとても信じられない事に、尾獣の強大な力でさえも無力と化す恐ろしいほどの束縛力。


上から響く怒鳴り声に顔を顰める。頭を冷やした九喇嘛は鬱陶しそうに守鶴を仰いだ。金の髪が風に靡く。
九喇嘛は自らを封じる鎖を忌々しげに見下ろした。未だ喚いている守鶴を抑え込むやり方は確かに知っている。ナルトに従うのは癪だが、それ以上に守鶴の耳障りな声を止めるほうが九喇嘛にとっては先決だった。


《ふん…まあいい。さっさとこの戒めを解け。あの霊媒を起こせばいいのだろう》
「理解が早くて助かるよ」
口許に微笑を湛えたナルトがパチンと指を鳴らす。途端、いくら暴れてもビクともしなかった頑丈な鎖が簡単に外れた。

瞬く間に自由の身となった九喇嘛。ナルトに目をやると、彼は涼しげな無表情でこちらを見つめている。
されどその目の奥には尾獣でさえも圧倒する威圧感が秘められていた。

ナルトから目を逸らす。守鶴に視線を投げた九喇嘛は億劫そうに溜息を吐いた。未だ鎖で縛られている巨躯の上へ飛び移る。

敏捷な動きで頭上へ登りつめた九喇嘛が下を覗くと、ナルトの姿は既に無かった。けれど確かに、突き刺さるような視線を感じる。

見られているのを察して、九喇嘛はチッと舌打ちした。紅き双眸を閉じる。
《おい…起きろ!》




「…ハッ!?」
パチリ。
青き双眸を見開く。

大きく肩を跳ねて、波風ナルは何度か瞬きを繰り返した。目の前に我愛羅がいる光景に首を傾げる。何時の間に守鶴の上へ飛び移ったのだろうか。

九喇嘛の意識と入れ替わったなどと知らぬナルは不可思議な展開に戸惑いつつも、我愛羅の顔を覗き込んだ。呼び掛ける。

「おい…」
ぶらんと腕をぶら下げている我愛羅。似た境遇同士、話し合えるかもしれないと直感したナルは彼の肩を揺さぶった。
「起きろってばよ!」
術の影響で眠り込んでいる我愛羅へ必死で呼び掛ける。けれど何度呼んでも揺さぶっても起きない彼にナルは痺れを切らした。拳を握り締める。

「目を覚ませ!!」

そして彼女は、もう一人の自分へと拳を振り上げた。















どうやら決着がついたらしい。
守鶴の姿が砂となって崩れゆく様を、ナルトは見上げた。秘かに印を結ぶ。

瞬間、目に見えぬやわらかな風が墜落するナルと我愛羅を包みこんだ。地面に激突する衝撃を和らげる。

人知れず二人を無事に地上へ降ろしたナルトは、【念華微笑の術】で香燐と君麻呂に連絡をとった。サスケとサクラをナルの許へ向かわせるよう指示する。
次いでナルと我愛羅の様子を見る。双方ともチャクラの使い過ぎで身体は暫く動かないようだが、大した怪我もないように見受けられた。

地に倒れ伏す二人の無事な姿を遠目で確認し、そこでようやくナルトは安堵の息を落とした。



波風ナルを木ノ葉の里人に認めさせる。これはその為の第一歩だ。

だがその為には、彼女一人の力で我愛羅を止めてもらわねばならなかった。そこでナルトは君麻呂と香燐に頼んだのだ。うちはサスケと春野サクラが彼女の闘いに介入しないようにと。

仮に三人で我愛羅を止めたとすれば、どうなるだろう。他の下忍より抜きんでいる優等生と憎き九尾を宿す落ちこぼれを比べたら、人々はどちらに目を向けるだろうか。

当然、うちはサスケだ。

口々に「流石うちは」と声を揃えてサスケを褒め称え、他の二人の存在が薄れてしまう。そんな光景が容易に描かれる。だが、それでは駄目なのだ。
波風ナルが自分の力のみで里を救わなければいけない。且つ我愛羅と同じ境遇であった彼女だからこそ、ナルトは二人の戦闘をただ見守っていた。
『九喇嘛』が出てくるまでは。

流石に一尾に加えて九尾までが姿を現したとなると、状況は一転する。守鶴と共に木ノ葉の里を九尾が襲来しに来たのだと勘違いする里人がいないとも限らない。

だから終始戦闘を見守るはずだった態勢を、ナルトは崩した。怒りで我を忘れかけた『九喇嘛』を鎮めるために。





今一度、ナルと我愛羅の姿を瞳に映して、ナルトは微笑んだ。しかしすぐさま顔を引き締める。

『ナルト!すぐに来てくれ!!大蛇丸様が…ッ』
切羽詰まった声が脳裏で響く。

【念華微笑の術】で助けを求めてきた多由也の言葉に、ナルトは眉を顰めた。了承を返し、地を蹴る。
背後の木へ飛び移った彼は、視線を前方に向けたまま口を開いた。
自分達を監視していた存在へと。

「伝えろ」

葉陰に紛れ、僅かに蠢く木の幹。
ナルに向けていた穏やかな眼差しとは程遠い、冷やかな視線でナルトは告げた。

「一尾・九尾、共に回収は失敗した。次の機会は今から三年後だ…」


最後に一言言い捨て、彼は幹を蹴った。さわさわと揺れる深緑が木と同化していた者の存在を醸し出す。






「折り入って連絡する――――マダラ」


















中忍試験会場。
紫の色を成す結界奥では戦線が膠着状態となっていた。

片や魂を半分抜き取られ、片や全身を刀で突き刺され。

身動き一つすら満足にとれぬ状況下、三代目火影――猿飛ヒルゼンは己の死期を悟った。最後の力を振り絞る。

ズゾゾ…と悪寒と共に引き摺りだされてゆく自身の魂を、大蛇丸は悄然たる顔で見下ろした。ヒルゼンを見る。何処にこのような力があるのか、と彼はヒルゼンの老いた身体を愕然と眺めた。

「共に逝こう、大蛇丸……」

再び死を宣告され、大蛇丸はギリリと奥歯を噛み締めた。否が応にも目に入る死神の存在に改めて恐怖を覚える。同時に身体の力が抜けてゆくのを感じ、大蛇丸は焦って声を張り上げた。
「この老いぼれが…!死ぬのは貴様のほうだ…ッ!!」

蛇に視線を向ける。途端、更に深く刺さってくる小刀にヒルゼンが苦悶の声を漏らした。その声ににやりと笑う大蛇丸。だが直後、笑みを象ったその唇が歪んだ。

〈猿飛ッ!!〉
数多の蛇から身を捩る。自らの身体に絡む蛇はそのままに、閻魔が渾身の力でヒルゼンの身体中の蛇を払い落としたのだ。その上、その場にいる蛇全てをむんずと掴んで煙と化す。【口寄せの術】を自ら解く事で蛇達が二度とヒルゼンに近寄らぬようにしたのである。


蛇を道連れに消えた閻魔を目の端に捉え、ヒルゼンは心の内で謝礼を告げた。すぐさま大蛇丸に視線を戻す。いきなりの展開に一瞬呆けていた大蛇丸が徐々に目つきを険しくさせた。
焦り始めた大蛇丸が必死の形相で怒声を浴びせてくる。

今まで憎たらしいほど図太かった愛弟子の顔色がはっきりと変わる様を、師は穏やかな面差しで見つめた。目を細める。

「お前の野望はここで潰える…!!」


閻魔の助力により眼に力を宿したヒルゼンは、大蛇丸の魂を抜き取ろうと力を入れた。足掻こうにも意識が遠退くのを感じた大蛇丸が死の恐怖に顔を引き攣らせる。同様に術の効果で、ヒルゼンもまた視界が翳んでゆくのを感じていた。

「まだだ…!まだ私の野望は止まらぬ…ッ!!」
「木ノ葉崩し、破れたり…ッ!!」

風前の灯火。死ぬ寸前、翳む視界の中で澄んだ声が響いた。





「貸し一だ、大蛇丸」


刹那、木ノ葉の里長―猿飛ヒルゼンと音の里長―大蛇丸の間に、ひとつの人影が突如割り込んだ。
 
 

 
後書き
ナルトが誰の味方なのかわかりにくいと思いますが、最後の最後でわかりますのでご了承願います。
そろそろ『木ノ葉崩し』、終わらせます!! 
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