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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第27話 主人公補正は健在のようです



Side 造物主


私は今、『墓守人の宮殿』の最奥であった場所の更に奥に居る。

決戦で壁が全て吹き飛んでしまったから、増築したのだ。あの戦闘から、初めての会合。

100万もの魔物を退け続け、魔法世界部隊を守っていたノワール殿とアリア殿も居るのだが。


「・・・・おそと、ひさしぶり。」

「そうね~。それにしても時間が曖昧だし、この生活は流石に堪えるわ。」

「・・・また、おうち?」

「そうね~、外に出ても問題は無いのだけれど……。

シュウに頼んで、もっと時間を延ばして貰いましょうか。」

「・・・・・・・ん。」

「フフ、パパが居なくて寂しいのね~。私もよ~~、アリア~。」


こちら側では大戦から四ヶ月が既に経ったが、『家』とやらでは僅か三日しか経っていない。

三日会わないだけで、ノワール殿まであのだらけ様とは・・・・・。


「魔人殿は本当に罪作りよな……。」

「茶化すなって。……それで、進捗状況は?」

「ああ、これなのだが……。」


魔法具で窓――『でいすぷれい』だとか魔人殿は呼んでいた――を開く。


「うん、ここまでは計画通りか………。」

「むしろ、この段階で躓いていては不可能な話だろう。」

「いや、基礎が出来ていないと最後で。ここが最重要地点と思って当たってくれ。」

「ふむ、了解した。」


そして話し合いをしているのは、無論魔人殿のみ。

まぁ、私が話せる相手など魔人殿か、新たに創った『二番目(ツヴィア)』しか居ないがな。

話し合いの内容は―――私達が話す事など、この星の行く末以外無い。


「今の所はこんなモノか。ところで、姫ちゃんは何時まであのままなんだ?

ナギ達じゃ手が出せなかったみたいだが?」


と、魔人殿が後ろの結晶を指す。

中が液体で満たされ、『黄昏の姫御子』アスナ姫が浮いている。


「……この娘は、この世界の人間だ。」

「いや、知ってるが。」

「オスティア民、特に王家の人間は創った中でも純粋な魔法世界人種の一つ。

『王家の魔力』とて、私が創った力に過ぎん。故に、私を超える事は無い……筈だった。

しかしこの娘は、私の『リライト』すらも効果が無かった。」


『リライト』は、私が創った魔法世界人を私の中へと強制送還する魔法。

私の位に近い者ほどその効果は純粋なモノとなり、

幹部――『運命を冠する者(ディアーション・フェイツ)』、『可能を関する者(デューエ・ルナミス)』にもなると、

『王家の魔力』を無視して送還する事が可能だ。

魔人殿の戦った召喚魔達の『リライト』は劣化よりも酷いモノだった為、

攻撃力があったと言う事だ。


「成る程、人の進化限界であるはずのデュナミスをも超える創造体……。

確かに、手元には置いておく必要があるか。」

「相変らずの洞察。しかし、しばらくしたら解放するさ。

どれほどのイレギュラーだとしても、同胞の魂の欠片。

―――本当ならば、束縛するのも好きではないのだ。」

「心情は知らんが、理解は出来る。じゃ、俺は本体に報告してくるわ。」


そう言って立ち上がる魔人殿・・・の、分身。

私から見ても、最早違いが分からない生命体(厳密には違うらしいが)の創造。

やはり、次の段階に進むには魔人殿の手が必要だ。


「了解した、魔人殿。次回までには30%まで終わらせておく。」


・・・と、魔人殿が私を見てくる。


「如何したのだ、魔人殿?」

「なぁ、いい加減『魔人殿』って呼ぶのやめてくれないか?

お前も、友達に『造物主』なんて呼ばれんのは嫌だろう?」


―――その言葉に、過去の記憶を僅かに思いだす。


「了解した、愁磨殿。」

「うむ、よろしい。―――で、お前の名前って何?」

「おお、そう言えばこちらを名乗った事は無かったな。」


私は過去の記憶を辿り、友と対となる名前を紡ぐ。


「私の名はツェラメル。遡上、『偶然を冠する者』と言う意味だ。」


Side out



Side 元老院議員-側近A-


「あれから数ヶ月経つが、エルザ陛下の様子はどうだ?」

「はい。エルザ陛下は、用意した食事も満足に食べられておりません。

精神力は大したものですが、そろそろ限界が見えるかと。」


私は今、議員の方々に牢番兵士からの報告書を元に、提示報告をしています。

まぁ、議員長からの命令で虚偽だらけ・太鼓持ち様に変わっているのですが。

エルザ陛下が出した食事を食べられていないのは事実ですが、

どうやら白帝様が食事を用意しているようで、肉体的には全く元気だそうで。


「ふむ、折角の自白剤も無駄になっているか。新しい手段を考える必要はあるな……。」

「して、白帝さm……アーカードの様子はどうなのだ?」


・・・・・・あ、危なかった・・・・!もう少しで笑ってしまう所でした!

白帝様の話しになると、この人達は急に落ち着きが無くなったり、

オドオドしたり、辺りを見回します。

今の様に言い直すのは、最早当たり前になっています。


「…はい。白帝様は至って健康。従う気配は毛頭ありませんが反抗の意思も見られず、

牢内で魔法具磨きをしております。」

「魔法具をどうやって持ち込んだかはさておき……。こちらの方が、やはり厄介か。」

「そうですな。アーカードが居ては、陛下にお話を聞く事も出来ませんしな。」


・・・・相変らず、自分が肥える事しか考えていませんね。

そんな事より、オスティア難民の受け入れによる市民の不安増大への対処、

場所の確保、治安保守にも問題が出ているのですから、そちらに目を向けて欲しいですね。

部下にやらせるだけでは無く。私に任せるだけでは無く・・・!!


はぁ・・・。ただでさえ白帝様の敵――もとい的な上に、重労働。

命が惜しいですし・・・仕事、替えたいですねぇ。


Side out



Side ナギ


「おい!しっかりしろ!!今、治してやるからな!!」


エルザと愁磨が捕まってから、もうすぐ一年半。

あれから俺達は旧世界・魔法世界を問わず紛争地帯を回って

被害に遭った町とかに物資を届けたり、今みてぇに怪我してる人の治療を続けて来た。


「あ…、ありがとう、『正義の魔法使い(マギステル・マギ)』ナギ……。」

「『治癒(クーラ)』。……これで、もう大丈夫だ。」


俺がそう言うと、女の子は気を失った。

魔法世界だと、こうして魔法を使って直ぐに怪我を治せる。

・・・けど、旧世界だと魔法を迂闊に使えねえ。

使うとしてもひと気がなるべく無いとこを選らばねぇとダメだし、

ひと気があるにしろねぇにしろ、記憶を消す必要がある。


―――そのせいで、一人だけ、助けられなかった。



「詠春、この子をさっきの村まで頼むぜ。」

「分かってるさ。俺だと、気でゆっくり治すしかないからな。任せっきりですまん。」

「いいって。アルが言うには、ホントはそっちの方が良いらしいぜ。」


あの子も、この子みたいに・・・簡単に助けられた筈だった。

あそこは戦場のど真ん中で、周りは人だらけで・・・・・。

とてもじゃねえが、秘匿なんて出来なかった。

走って、走って―――ようやく林ん中に行けた時には、もう手遅れだった。


「じゃあ、ちょっと行ってくるぞ。」

「あ、待ってください詠春さん!クルトから通信です!」


魔法がばれりゃあ、無駄な戦争が生まれる。

魔法の秘匿はそれを防ぐ為だって、お師匠もアルもオヤジも言ってやがった。

たしかに、大を救うためには小を切るしか方法がねぇ。

だが、救える命が目の前で、手の中で消えてくらいなら、いっそ―――――


『皆さん、聞こえますか!!?』

「どうした、クルト。そんなに急いで。」


通信画面のクルトは、なんでか慌てて――嫌な予感がした。


『エルザ様の処刑が、来週に早まったんです!!』


Side out



Side 愁磨


「暇だ~暇だ~♪ひっまっで、し~に~そ~お~~♪」

「ひどい歌……。とりあえず、天井に座るのはやめてください。」

「……へ~い。」


一年以上も一緒に居たせいか、最近はエルザさんの遠慮がすっかり無くなった。

・・・まぁ、それも上辺だけ。

兵士が持って来る情報を聞くたびに、エルザさんは最初の気概を無くして行った。


『ナギが、絶対に助けてくれる――愁磨さんは何を考えているか分からないし、

ここに居る事自体、意味が分からないのだけれど。』


最初は、助かりたい、助けてくれる、大丈夫。そんな事を言っていたのに。


『私が死ねば―――少しは、世界が平和になるのでしょうか?』


最近は、死ねば、消えれば、罰を受ければ――そんな言葉が増えた。

そしてそれに拍車を掛けているのは――――


「ぎ、議員!このような辺境にわざわざ、ご苦労様です!!」

「うむ、御苦労。話は通してあるから、君は下がっていてくれ。」


ゴゴゴォォォォォン

と重厚な音を立てて、石の扉が開いて行く。

実は前の牢は勝手な事をしすぎて、今のバベルみたいな所に鬱されたのだ。


「これはこれは御二方とも、見るに堪えないお姿ですな。」


大仰なフリをして入って来たのは、先日と違う議員。

毎日風呂には入ってるし、着替えても居るんだが?


「最古の王家の末裔と英雄殿にこの様な仕打ち、心が誠に痛みます。」


カツーン カツーンと足音を響かせ、エルザさんに近づいて行く。


「実は市民の不安を早急に取り除く為に、刑の執行は8日後に変更と

先日の議会で決まってしまいまして……。

我々も、急がなくてはならなくなったのです。」

「……なん、だと!?」


俺の声に優位を取った気になったのか、議員の声が僅かに上がる。

一ヶ月ほどならずれても大丈夫なように計画を進めていたが、

まさか、半年も繰り上げられるとは!・・・前倒しするしかない、か。


「クク…その前に、お尋ねしましょう。

黄昏の姫御子と共に封印された墓所の最奥部……そこに到る方法を、貴方は知っている筈だ。」


・・・ゑ?こいつ馬鹿?ああ、馬鹿でしたね。

いや、知る訳無いだろうが。あそこにエルザさん居なかっただろうが。


「さあ、答えるn(ドゴォォォォォン!!!)」


このゴミがエルザさんに手を伸ばしたその瞬間、間に『嵐脚(らんきゃく)』で斬撃を飛ばす。


「ヘイヘイヘイヘイ、クサレ寄生虫野郎!!

女性(レディー)を手荒に扱おうとするなんてどんな漢魂(ブラザーソウル)してやがんだ?ああ!?」


しばらく腰を抜かして俺を見上げていた議員だが、

正気を取り戻すと、指を指して激昂してくる。


「ア、アーカード貴様ァ!!

大人しくしていれば閉じ込めておくだけで許してやろうと思っていたモノを!!」


えー、何こいつ何様?殺して良いよね、一人くらい。

って駄目?ああ、こいつが議員長ね。なら仕方ないか。


「アー、ウン、ゴメンゴメン。どうしたら許してくれる?」

「ふざけおって貴様あああああああ!!!フン!!

ならば墓所の最奥部に行く方法を教えて貰おうか!!まぁ、聞いた所でどうせ教えられんd」

「ああ、そんな事で良いの?

俺があの時風穴開けた所があるから、そこから入れるよ。

もっとも、認識阻害が掛かってるせいで見えないんだけどね。」

「「…………………………………え!?」」


案の定俺の言葉に反応するエルザさんと議員さん。


「え、ちょ、愁磨さん!?合っているか分からないけれど、言って良いの?!」

「……それは、本当なのか?」

「うん、マジだよ。ああ、でも早く行った方が良いぞ。

力を手にできるのは、最初にいった人だけだから。今頃、ここを盗聴してる奴等が先に行って――」


―――と、俺の話しの途中でドダダダダ!とけたたましい音を立てて

走って行ってしまった。

やれやれ、教育がなって無いな。親の顔が見てみたいよ。


「愁磨さん!!どういうつもりなの?!

元老院が黄昏の姫御子の力を手に入れてしまったらどうなるか!!」


議員を見送ると、エルザさんが珍しく声を荒げる。

まぁ、当然か。アリカの妹はエルザさんの妹も同然。

その妹をまた利用されようとして、それを促したのが俺なのだから。


「ククク、安心していいよ。あいつ等は、絶対に辿り着けないさ。」

「え……ああ、嘘だったんですね。良かった……。」


俺の言葉に、安堵した様子のエルザさんだったが、再びの俺の言葉で百面相をする事になる。


「いや、本当の事言ったけど?認識阻害さえ破れば、後は簡単に行けるよ。

ああ、でも安心していいのは本当。あそこには、俺の次に最強の番人がいるから。

まぁ、詳しい話しはここを出てからするよ。」


―――出てから―――

そう言った瞬間エルザさんの顔が曇り、顔を膝に埋める。


「……なら、私が聞いても意味はない事ですね。だって、私は…………。」


――その言葉が、雰囲気が、あまりにも悲痛だった為に、俺は言葉を失ってしまう。


「……エ、ルザ、さん………。」

「ごめんなさい、愁磨さん。私は民の為に―――」

「…エ、ル……ぶふぅ!!」

「……え?」

「ブッハハハハッハハハハハハアァッハハハハハハハ!!!」


俺は、思わず吹き出してしまう。


「え、え、えぇ??」

「ヒーヒッヒッヒッヒッヒ、あー、ふぅー。

ククク、あんたさ、自分が惚れた男の事理解してねえだろ。」


まぁ、あの鳥頭を理解し切れる奴がいたら、それこそ神様しか居ないが。

だけど、これだけは言える。


「あいつは、絶対に助けに来るよ。なんせ馬鹿だからな。」

Side out



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide 議員


我々は牢での話を聞き、隠密行動できる限りの兵を率い『墓守人の宮殿』へとやって来た。

しかし―――――


「はあっはあっはあっ―――!!」


おのれ、おのれ、アーカード!!

よくも嵌めてくれたな!!何故、何故奴が生きているのだ!?

奴に媚び力を借り計画通りに『紅き翼』が奴を殺し、漸く我々に運が向いて来たと思ったのに!


「『余り逃げるな、人間。我は忙しいのだ……。』」


――ゆらっ・・・

と、あの黒いローブが揺れるのを、目の端で捉える。そしてそれは、私の顔を掴み唱える。


「ヒィィィ!!や、やめてくd……!!」

「『【浸み込む闇(デスト・ペイン)】』」


闇が広がり、顔に張り付く。


「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


そしてそれは、皮膚を溶かし痛みを、筋肉を溶かし痛みを、骨を溶かし痛みを。

そして、魂を蝕み絶望を与えてくる。


「『貴様等はそうして、永遠の痛みに踠くが良い。』」

「あぁぁあぁぁあああ、ああああああああああああ!!!

痛い痛い痛い痛いいt―――――」


プツン、

と何かが切れ、意識が無くなって行く。


「『やはり魔j……愁磨殿の魔法は奥が深い。即席で魂まで至る魔法を創れるとは。

――しかし、清廉潔白な英雄達を果してs』」


そして、意識が完全に落ちる。

後に残るのは無限の闇と、最早無い筈の体の痛み、そして絶望感だった。


Side out
――――――――――――――――――――――――――――――




「ツェラちゃん、終わったか?」

「『ああ、愁磨殿か。来ているなら手伝ってくれても良かったではないか。』」

「ちゃんと手伝ったさ。フェイト、手筈は?」

「すでに終わっているよ。今頃は、入れ替わり終わっているはずだ。」

「サンキュ。じゃあ、また八日後に。」

「『了解だ。―――全ては、この星の為。』」

「全ては、我が同胞の為。」

「そして全ては、自分と、自分の愛する者の為に。」




――――――――――――――――――――――――――――――


Side エルザ


あれから、八日。私は今日、魔法世界の安寧の為に死ぬ。

・・・いいえ、元老院の代わりに『父王殺し』の罪を被せられ、殺される。


――私は元々、第三王女だった。それがあの日、クーデターでアリカの父・・・

旧国王が死んだ事によって、私は第一王女となった。

・・・・・そう、クーデターを起こしたのは、私の父だった。


勿論、最初は知らなかった。王が死んだのなら、普通は第二王位継承者が王になる筈で。

子供ながらに疑問に思ったけれど、その時はただ嬉しかった。

――――アリカに、勝てた気がしたから。


「あー、ゴッホン!『これより、ウェスペルタティア王国元第一王女、

エルザ・ファミリア・エル・プレミロディオル並びに、

『白帝』愁磨・P・S・織原の処刑を行う!!』」


ウェスペルタティアは最古の王家と言われていて、特殊な魔法を使えた。

けれど、力だけの王国がこうも長く続く筈がない。ウェスペルタティアの真の力はその政治力。


そして、アリカの家が最も政治力に長けていて、私の家が最も"力"に長けていた。

その為、私の家は代々将軍の位に就いていたのだけれど、父はその不満を、常に漏らしていた。


『力を持つ者が王になるべき』だと。『政治だけの家は宰相になるべき』だと。


当然、歴史と同時に生まれた事を変えるのは難しくて。

――そして遂に、アリカの父も、他の王族も大勢殺してしまった。


「『彼の者の罪は以下四つ!!

一つ、父王殺し。一つ、戦争の原因である『完全なる世界』との関与』」


王になった父は、魔法世界を統一しようと――『完全なる世界』、敵を頼り利用されて。

そして死んでいった。


愚かだと思う。それに、本当に身勝手。

・・・それでも、父なりに誇りを持って、魔法世界の事を考えて。

家族には優しくて、厳しくて、強くて。だから、父は今でも、私の誇り。


だから、せめて。

私の手で、両親を殺されたアリカの手で、引導を渡したかった。

でもそれは、今目の前に居る外道共のせいで叶わなかった。

挙句、私自身もそいつ等に利用されて。


「『一つ、王国崩壊時の情報提起の怠慢。

一つ、これによる人民への被害と世界規模の混乱を起こした事!!』」


―――でも、この選択に、間違いはないと思う。

父も、私も、アリカも愛するこの世界の為に死ねるなら。きっと、私の死にも意味はある。


「『『白帝』はこれら全てに関与、並びに史上最悪の賞金首である!!

よって今日ここに於き、宣言する!!

元老院・帝国議会による全会一致を持ち、この者達を処刑する!!』」


「エルザ陛下、白帝様。順番に……お飛びください。」


ガシャッ、と兵士が愁磨さんに武器を向ける。


「うむ、そこでエルザさんに向けないのは正解だ。

あの時居た兵士だな、気で分かる。学習した様で何よりだ。」


・・・・今まさに処刑されようとしている筈なのに、この尊大な態度。

思わず、決意が揺らいでしまいそうになる程の眩しさ。

―――――だから。


「愁磨殿。申し訳ないが、妾から行かせて頂くぞ。昨日約束した通り―――」

「ああ、俺は一切助けんし、手を出さない。

入って行くべきでない信念と覚悟には、一切な。」

「……感謝する。―――ではな。」


そう言って、橋をゆっくり歩いて行く。


「エルザ様………!!」


ごめんなさい、クルト。・・・元老院の事は、貴方に任せるわ。

心残りがあるとすれば、これ以外には―――



―――初めまして姫様!俺はナギ!この『紅き翼』のリーダーだ!!

自信に満ちた、少年の顔。


―――おう、いいぜ。ひ、暇だったからな!!///

ちょっと照れた、可愛らしい顔。


―――よお、来たぜ、エルザ。

頼もしい、男性の顔。


―――エルザあああああああああああああああああああ!!

・・・どんな事があっても見せなかった、絶望した顔。



走馬灯のように、彼との思い出が浮かんでは消えて行く。

ごめんなさい、ナギ・・・。もっと、もっと貴方と――――


ガコン、と橋が軋む。

瞬間、私の体は宙に投げ出される。


―――アッハハハハハハハ!じゃあ約束な、エルザ!

せめて、もう一度。

その太陽の様な笑顔を、見たかった・・・・・。



ギャヤエエエエエエエエ! ギエアアアアアアアアア!!

魔獣の雄叫びが近づき、そして――――


トサッ


と軽い音を立てて落下が止まり、温かいモノに包まれる。

・・・・魔獣の口の中って痛くないし、温かいモノなのかしら?

そっと、目を開ける。そして、そこに居たのは――――


「待たせたな、エルザ。もう来るななんて言うんじゃねえぞ!!」


太陽な笑みを浮かべた訳で無く、自身に満ちている訳でもなく。

額に汗を流し、精一杯という顔をしているけれど。


「ナ、ギ………?」

「あ?それ以外の誰に見えるんだよ!!っとおお!!」


そこに居たのは、一番会いたくて、一番愛しい、私の騎士(ナギ)だった。



Side out

 
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