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至誠一貫

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第一部
序章 ~桃園の誓い~
  弐 ~出会い~

 
前書き
2017/8/20改訂 

 
「はぁぁぁぁっ!」

 私が一人を斬り捨て、

「うぎゃぁっ!」

 関羽も、また一人。

「げっ!」

 斬っても斬っても……という言葉が相応しいな、この光景は。
 最初は斬り殺していたが、キリがない上に切れ味が鈍りかねぬと判断。
 今は急所を狙い、戦闘不能追い込む戦法に切り替えた。
 手首を斬り飛ばしたり、臑を斬ったり。
 あたりは血の臭いで充満し、むせ返りそうだ。

「土方!」
「ほう。やっと名を呼んでくれたな、関羽」
「茶化すな! それより、このままでは埒があかない!」
「そうだな。だが、逃げる事は適わんぞ?」

 会話をしながらも、互いに手は止めない。
 ……しかし、何か手を打たねば。
 む、関羽の背から、斬りかかろうとしている奴が。
 声をかけても、間に合わん!
 咄嗟に国広を抜き、投げつけた。

「ぐはっ!」

 そいつの首筋を貫き、絶命させた。
 まさに、間一髪だったな。

「な……。土方、貴様」
「話は後だ。そら、前だ」
「応っ!」

 だが、どうする?
 打開策は……。
 そう思いながらまた一人、剣ごと腕を斬り飛ばした。
 その時。

「大勢でかかるとは、卑怯なのだ!」

 子供の声……?
 賊の背後から、その背に似合わぬ長さの槍を持った少女が、姿を見せた。

「な、何だこのガキは?」
「死にたくなかったら他に行ってろ!」

 残った賊は、一斉に罵声を浴びせる。

「鈴々を舐めるななのだ!」

 そして、その槍と思しき武器を、軽々と振り回す。
 恐ろしいとしか言えぬ怪力。

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 振り回された槍は、そのまま賊共を薙ぎ倒していく。

「凄い……。かなり遣うな、あの子は」
「感心している場合ではないぞ、関羽。今のうちに」
「わかっている! はぁぁぁぁっ!」

 賊は、浮き足立ち始めた。
 よし、これなら後一押しでいけるな。

「こ、こりゃ敵わねぇよ。に、逃げる……ひいっ!」

 我先にと、逃亡を図ろうとした賊が、立ち止まった。
 ……また誰か、現れたようだが。

「理由はわからぬが、賊に義はあらず。この趙子龍、そこの御仁達に助太刀いたす!」

 趙子龍……恐らくは趙雲か?
 しかも、また女子(おなご)か。

「な、何だこいつらは!」
「知るか! お、おい、退却だ! 退却しろ!」
「逃がさないのだ!」
「左様。賊ども、その悪行の報いを受けよ!」

 名はわからぬが滅茶苦茶な強さを持つ子供と、そして趙雲。
 すっかり戦意喪失の賊は、次々に倒されていく。

「……どうやら、助かったようだな」
「……ああ」

 関羽は、ホッと一息をついた。
 正直、私も一息入れたかったところだ。



 半刻も経たずに、賊は潰滅した。
 全滅とはいかぬが、少なくとも再度襲い掛かってくるような真似はせぬであろう。

「助かった。礼を申す」
「大した事ないのだ」
「私など、後から助太刀したに過ぎん。礼には及ばんよ」
「いや、正直危なかった。私からも、お礼を言わせて貰う」

 義理堅い関羽らしく、丁寧に頭を下げている。

「……そして、貴殿にも礼と、詫びをせねばならぬな。この通りだ」

 と、私にも。

「いや、気にするな」
「しかし、それでは私の気が済まぬ」

 と、食い下がる関羽。

「その前に、まずは落ち着きませんか?」
「そうですよ。お兄さんもお姉さんも、お疲れのようですしー」

 む?
 趙雲の連れらしい二人、
 眼鏡をかけた女子と、頭に人形のような物を載せた子供……?
 しかし、先ほどの賊は全て男であったが。
 ……どういう事だ、これは?

「この先に村がありますぞ。皆、参られよ」
「そうだな。関羽、まずは趙雲に従おう。良いか?」
「う、うむ」

 何故か、関羽は顔を赤くして目を背けた。



 そして、小さな宿に落ち着いた一行。

「私は……蝦夷共和国陸軍奉行並、土方歳三だ」
「蝦夷共和国? それは、どこにある国なのですか?」

 と、眼鏡をかけた娘が尋ねてくる。

「その前に、私が名乗ったのに皆は名乗らぬのか?」
「は、これはご無礼を。私は、戯志才、と申します」
「風は、姓を程、名を立、字を仲徳と言いますよー」

 と、人形の子供。

「私は姓を趙、名を雲、字を子龍と申す。旅をしながら、仕官先を探している」
「鈴々は張飛なのだ!」
「私は姓を関、名を羽、字を雲長。村々を周り、賊の討伐を行っている」

 ……さて。
 関羽に趙雲だけでも驚きだが、この子供があの燕人張飛とは。
 他の二人は近藤さんに押し付けられた三国志演義の読本で、かすかに覚えがある。
 確か、程立と言えば魏に仕えた謀略で知られた軍師……後で、程昱と名前を変える筈。
 戯志才は……確か、曹操の初期の軍師か。
 偽名のようだが、それはおいおい知れよう。
 やはり、ここはあの物語の時代なのであろうか?

「それで、先ほどの質問なのですが」

 戯志才の言葉に、皆が私を見る。

「では、有り体に話そう。だが、滑稽無稽な話故貴殿らが信じるとも思えぬ。気が触れていると思うかも知れぬが、それでも良いか?」
「聞きますよー。風は、何だかお兄さんに興味があるのです」
「鈴々も聞きたいのだ」

 関羽と趙雲も、同意と言わんばかりに頷く。

「……わかった。私は、今から千年以上も後の世にいた者だ」
「千年? だが、その証拠はあるのか?」

 関羽の言葉も、尤もだ。

「証拠はない。あったところで、到底信じて貰える事ではなかろう。私自身、それが証明する証などない。だが、皆の事を知っている限りで当てて見せよう」
「ほう? 例えば?」

 興味津々と言った風情の趙雲。

「そうだな。趙雲、貴殿は常山の出だな?」
「おや、正解ですな」
「次に関羽。貴殿は私塾で子供に学問を教えていたであろう?」
「……む。そ、その通りだ」
「次に程立だが。後に、程昱と改名を考えているな?」
「むー。稟ちゃんにしか言っていない風の秘密なのに、お兄さんがご存じとは」
「戯志才。貴殿は、曹操に仕えている筈だ。なのに、このような場所にいる訳がない……だから、偽名と見たが?」
「……ぐ。そ、その通りです」
「お兄ちゃん。鈴々は、どうなのだ?」

 さて、張飛か。
 私の知る張飛は、豪傑だが酒癖が悪く、そして粗暴。
 ……だが、全くそうは見えぬ。

「まさかとは思うが……。酒は痛飲しても平気か?」
「正解なのだ!」
「初対面なのに、全員の事を知っている、と。……確かに、あり得ぬ事だが」

 関羽が、腕組みをする。

「私からも一つ、聞かせて欲しい。張飛や程立が、先ほど聞いたものと違う名を名乗っているようだが?」
「真名の事ですかー?」
「真名? なんだ、それは?」

 程立はジッと、私を見る。

「どうやら、本当にご存じないみたいですね。真名というのは、姓名や字以外に持つ、神聖な名前なのです」
「これは、本人の許しがなければ、いくら親しい相手であっても呼ぶ事は許されません。もし、そうなれば」
「即座に殺されても文句が言えぬ、という訳です」

 戯志才と趙雲が、後に続いた。

「なるほど。(いみな)のようなものか」
「諱とは?」
「忌み名、とも書く。無学故詳しくは知らぬが、親や主君のみが呼ぶ事を許される名だ」
「真名に良く似ているのですねー」

 皆がしきりに頷いている。

「私からも、一つ聞かせて貰いたい。貴殿の名だが、姓が土、名が方、字が歳三……で良いのか?」

 と、関羽。

「いや、そうではない。姓が土方、名が歳三だ。字というものもない」
「むー。お兄ちゃん、変なのだ」
「変と言われても仕方なかろう。それが事実だ」

 私の言葉に、皆が顔を見合わせた。
 そう言えば、私も確かめたい事がある。

「関羽、張飛。貴殿達は、まだ誰にも仕えていないのだな?」
「ああ。今の私には、まだそのようなお方はおらぬ」
「鈴々もなのだ!」

 となると、この場に劉備がおらぬ以上は黄巾の乱以前の時代という事か。

「程立に戯志才も、だな?」
「稟ちゃんはいずれ、曹操さんにお仕えしようと思っていますからねー」
「ふ、風! 今ここで言わなくても良いでしょう」

 いずれ曹操に……となると。

「戯志才。間違っていたらすまぬが……貴殿、本当の名は郭嘉であろう?」
「…………」

 黙り、か。

「どうやら違っていたようだな。済まぬ」
「……いえ、その通りです。訳あっての偽名、お許し下さい。私は姓を郭、名を嘉、字は奉孝と申します」

 観念したように、話す郭嘉。

「いや、無理に言わせた格好になった。私の方こそ、詫びるべきだ」
「そ、そんな事は……」

 おや、郭嘉が何故か目を逸らしている。
 そして、隣では程立が何故かにやけているな。
 ……まぁいい、話を続けるとしよう。

「さて、国の事であったな。ここよりも遙か東に、島国がある。そこはかつて、徳川氏により幕府……そう、武人の棟梁による国があった。だが、それを打倒せんとする勢力が現れ……力及ばず敗れ去った」
「…………」

 皆、私の話に聞き入っている。

「無論、ただむざむざと倒された訳ではない。私は、仲間と共にその国の為に戦い続けた。そして有志と共に、その国の北にある大きな島へ辿り着いた。そこが、蝦夷共和国だ」
「では、貴殿はその国の将軍、という訳か?」

 将軍か……。

 私の中では将軍、というと上様の事になる。
 趙雲が言うそれとは意味合いが異なるだろう。

「そう解釈して貰えれば結構だ。そうだな、陸上部隊の指揮官……とでも言えばいいか」

 だが、もうあの世には戻れぬ。
 ……死んだ訳でもなさそうだが、何故か私にはそんな確信があった。

「もう少し、貴殿の事をお聞かせいただけませんか?」

 郭嘉が、真剣な目で言った。

「いいだろう」

 こうなれば、今更隠すべき事はあるまい。
 私は自身の信念に従って、精一杯生きてきたのだから。
 試衛館時代の事、浪士組の事、新撰組の事、そして幕府軍としての戦い……。
 思えば戦いずくめの生涯を、余すところなく、語った。



 一通り話を終えた時。
 不意に関羽が、席を立った。
 そして、私に向かい、深々と頭を下げた。

「申し訳ありませぬ! 貴殿がそのような方とは露知らず、数々のご無礼を」
「いや、止そう。私とて、貴殿と同じ立場だったら、やはり疑わずにはいられなかっただろう」
「いいえ!」

 関羽は、顔を上げて、

「貴殿の腕前、そしてその器量。並々ならぬ御方と見ました。どうか、私を貴殿、いえ、ご主人様の臣下に」

 ……突拍子もない事を言い出した。

「待て待て。詫びならばそれで十分だ」
「いえ! これはけじめではありませぬ。私の真名は愛紗、貴方様にお預けします」

 あまりの事に、私もどう返すべきか、思い浮かばぬ。
 関羽が配下にしてくれとか、どのような冗談だ?
 私は劉備ではないし、成り代わるつもりもないのだが。

「関羽。貴殿は真に使えるべき主がいる筈だ。結論を焦る事はない」
「いいえ。私は悟りました、私自身の未熟さと共に、ご主人様こそ、真に仰ぐべき御方だと」

 真っ直ぐに、私を見据えてくる。

「しかしな、関羽」
「愛紗です」

 ……うむ、これは参ったぞ。
 困惑したまま、他の者に目を向けると、今度は張飛が立ち上がった。

「鈴々も、お兄ちゃんについていくのだ」
「何だと? 張飛、正気か?」
「張飛じゃないのだ。鈴々と呼んで欲しいのだ!」

 関羽だけでなく、張飛も……だと?

「何だか面白そうですねー」
「風? あなた、まさか……?」
「稟ちゃん。まだ曹操さんにはお目通りしていませんけど、風はもう決めました」

 と、程立は私に近づいてくる。

「お兄さん。風も、臣下に加えていただきたく。以後、風とお呼び下さいねー」
「はっはっは。いやいや、これだけの御仁に出会い、人となりも見せていただいたのだ。ならば、私も決断を下しましょう。この趙雲も、末席にお加え下され。真名は、星です」
「良いのか? そのように軽々しく決めては……」
「軽々しくなどないですよ、お兄さん」
「左様。主と呼ぶに相応しい生き様。この星、ようやく、仕えるべき相手に巡り会えた、そう確信しております」

 そして、程立は振り向いて、郭嘉を見た。

「さてさて、稟ちゃん? どうしますかー?」
「ぐ……」
「風は、稟ちゃんがどう決断しようと何も言いませんよー。かねてから、曹操さんにお仕えする事が稟ちゃんの目標でしたし」
「そうだぞ、稟。我らは我らの道を行く。だが、それにお前を巻き込むつもりはない。……もっとも、稟が今、何を望んでいるかは別だがな」

 何故か、ニヤニヤと笑う趙雲。
 そして郭嘉は、私を一瞥し、顔を真っ赤にする。
 ……なるほど。
 私とて、朴念仁ではない。
 だが、それを相手に無理強いするつもりもないがな。

「わかりました。私も、自分を偽る事は出来そうにありませんから」

 真っ直ぐに、私を見据えると、

「土方様。私も、貴殿にお仕え致します。以後稟、とお呼び下さい」

 ……ふむ、夢でないのだとすれば神仏も酷く悪戯好きと見える。
 歴史に名を残した武将達が、女子ばかり。
 しかも、皆が私に仕える……だと?
 私は、皆の上に立てるような者ではないのだが。

「真名とやら、それは預かる。だが、私は主君たるような人物ではない」
「そうでしょうかー? 風はそう思いませんけどね」
「ええ。身に纏う覇気と漂う貫禄、それは本物です」

 二人の言葉に、関羽らも同意とばかりに頷いた。

「ふふ、私も一度決めた事を覆すつもりはありませぬぞ、主?」
「そうなのだ。お兄ちゃんが駄目と言っても、鈴々はついていくのだ」
「ご主人様。これでもまだ、皆の想いを無にされると仰せで?」

 五人は、真剣そのものだ。
 私があくまでも拒めば、この場で腹を切りかねぬ雰囲気すら漂わせている。

「……どうあっても、私に付き従うと申すのだな?」
「愚問ですよ」
「愚問ですねー」
「うむ、愚問ですな」
「当然です」
「にゃはは、もう諦めた方がいいのだ」

 私には、近藤さんのような度量はない。
 だが、今ここにいる事も、天運なのであろう。
 ならば、それに逆らうだけ無駄という事か。

「……良かろう」

 すかさず、星が腰を上げた。

「では、早速誓いの杯と参りましょうぞ」
「そうだな。この村はずれに、見事な桃園がある。そこなら良かろう」
「ではでは、準備にかかりましょう」

 誓いの杯?
 そして、桃園……?

「ま、待て郭嘉!」
「歳三様。稟、です」
 毅然と、私を見返してくる。
「し、しかしな……」
「一度真名を預けた相手から、姓名でのみ呼ばれるというのは逆に恥辱なのです」
「……わかった。じゃあ、稟」
「はい」
「この村だが……。何という村だ?」
「は。楼桑村です」

 ……なるほどな。
 劉備が見つかっていない訳ではない。
 ……どうやら、私が劉備に相当する立場、という事らしい。



「我ら六人っ!」
「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」
「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!」
「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!」
「願わくば同年、同月、同日に死せんことを!」
「ここに誓うのですよー」
「…………」
「ご主人様。あなたが最後ですよ?」

 関羽……いや愛紗が、白い目で見てくる。

「し、しかしな……」
 まさか、桃園の誓いをやる事になるとは。
「ま、良いではないか。誓いには変わらんさ」
「星!」
「……乾杯!」

 こうして、私は別天地で、新たな一歩を踏み出す事となった。
 思いもよらぬ形と、そして出会いから。



 我が諱、義豊。
 これは皆には明かさずにいるが、誰もその事を口にはせぬようだ。
 ならば、このまま斃れるまで秘めておくのもまた一興。 
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