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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第13話 早起きは三文の得、夜更かしは三文の損?

 新八は目の前の現状を急ぎ整理した。物事の発端は今から数刻前の事。散々休暇を満喫し、大人達はこれから月見酒を洒落込もうとしている昨今の事である。当然その中に銀時も混ざりタダ酒を頂こうと言う魂胆であったのは明白だ。
 されど、お酒の飲めない未成年や夜起きていられないちびっ子達はそそくさと寝の準備に入っていた。今夜はこの宿で一泊し、明日の昼頃に帰ると言う予定なのでそう言うメニューを組んでいたのだ。故に大人達は束の間の休日を酒で楽しもうとしていたのである。
 が、そんな時に限っての事であった。

「銀時さん、銀時さん!」
「んぁ? んだよ。これから銀さんはタダ酒、じゃなくて月見酒を洒落込もうって時にお前が来ると酒が不味くなるんだよ。あっち行ってちびっ子達と一緒にレム睡眠してろ」
「聞いてください。大変なんですよ」

 必死に座り込んだ銀時の裾を引っ張っているのはフェレット状態のユーノであった。顔色や声色からして只ならぬ事態だと言うのは見て取れる。しかし、銀時は一向に動こうとしない。否、動きたくないのだ。
 この男は面倒毎には出来る限り首を突っ込まないようにしているのだ。
 その為、重要イベントがあろうとそれをガン無視してカジノに入り浸れるのが彼なりのドラ○エ攻略法と言えた。

「何だよ。まさか暗闇が怖くて小便行けねぇってんじゃねぇだろうな? だったら外でやれ外で」
「いや、違いますよ! この近辺でジュエルシードの反応があったんです」
「あっそ……んじゃ新八達でも連れて行けば良いじゃねぇか。俺ぁ知らないから後宜しく~」

 相変わらず我関せずを決め込む銀時。そんな銀時にとうとう切れたユーノは意を決して銀時の肩に飛び乗る。そして、主室に銀時の耳にぶら下がっていたたぷたぷしている耳たぶに鋭い牙を突きたてたのだ。
 激しい痛みが耳を通じて全身に行き渡るのにそうそう時間は掛からなかった。

「んぎゃああああああぁぁぁぁ! てっめ何しやがるんだこの腐れフェレット!」
「怒る元気があるなら一緒に来て下さいよ。月見酒はその後で良いじゃないですか!」
「ちっ、わぁったよ。その代わり、この件はしっかり覚えておくからな。後で覚悟しておけよ」

 不満全開のまま銀時はその場を立つ事にした。もう滅茶苦茶不満そうである。

「あれ? 銀さん何処行くんですか? 一緒に飲みましょうよ」
「悪ぃ、ちょっと便所行ってくるわぁ」

 呼び止める士郎に対し適当ないい訳をして部屋を出る銀時。その後、熟睡中の新八と神楽を蹴り起こし、宿を出て庭を歩く事になったのである。

「何ですか、こんな時間に僕達を起こして……」
「夜更かしは美容の大敵アル! 其処んとこ分かれよ腐れ天パー」

 銀時と同じ位に新八と神楽も不満そうだった。そりゃそうだろう。折角熟睡してたのを邪魔されたのだから。が、それと同じ位に銀時も不満だったのだ。

「文句があるならこの駄目フェレットに言え。こいつがどうもジュエルシードを見つけたっつぅからそれを回収に行くんだよ」
「何だそんな事……ええええぇぇぇ! マジですか!? 此処にジュエルシードがあるんですか?」

 いきなり驚く新八。流石はツッコミの達人であった。ノーマルツッコミ、ノリツッコミ、その他ツッコミなどお手の物である。
 そんな感じで三人+一匹はジュエルシードの反応があったと言われる橋の上近くへとやってきた。そして、其処ではジュエルシードを封印し終わったフェイトとアルフのコンビが居たのであった。
 


 

 以上、前回のあらすじであった。

「って、長ぇぇよ! どんだけ長いあらすじなんだよ! ドラゴ○ボールじゃねぇんだよ!」

 とまぁ、いきなり切れる新八を他所に銀時達はフェイトとアルフを見ていた。しかしその視線は明らかに友達を見る目線や仲良い人を見る目線ではない。明らかに敵意のある者を見る目であった。
 そして、それはフェイトとアルフも同じであったと言える。いや、寧ろフェイトとアルフの方が敵意以上に殺意をむき出しにして睨んでいるのが伺える。

「何ですかぁお宅らはぁ。夜の橋の上でレ○プレイですか? いけない大人の橋渡っちゃう気ですかぁ? 気が早ぇんだよ! そう言うのしたかったらなぁ、此処じゃなくて18禁小説に行けよ。此処はなぁ、健全なお子様が見る健全小説なんだよ。そんなレ○プレイや百合プレイなんか望んでる奴が来るべき場所じゃねぇんだよボケがぁ!」
「いや、それ言ってる時点で健全じゃないですから。ってか、それ言ってる銀時さんの方が遥かにやばいじゃないですか!」

 いきなりの危ない発言にユーノがツッコミを入れる。新八は未だに半ギレ状態なのでユーノが変わりにツッコミを入れた次第なのだ。
 
「何言ってるのさ。お前みたいな駄目人間が出てる時点でこの小説は18禁小説にくら替えしてるってのに気付かないのかい? どうせあれだろ。お前この後の展開で誰か女性キャラを○○○したり×××したりピーーーしたりするんだろうが! 見え見えなんだよ」
「おいいいぃぃぃぃぃぃ! 何とんでもない事口走ってんだ其処の犬耳ぃぃぃ! 本当にこの小説が18禁小説になったらどうするつもりなんだボケがぁぁぁぁ!」

 流石のユーノも切れてしまった。もう銀魂メンバーが来ただけでこの場の空気がフリーダムになってしまうのには慣れないようだ。しかも、ユーノはどうやら新八と同じツッコミ属性ならしくその手の事には慣れてるらしい。不憫と言えば不憫であった。

「おうおうおぉう! こちとらいきなり叩き起こされて不機嫌なんだよぉ。ボッコボコにされたくなかったらさっさと物置いて帰るヨロシ。そうすりゃ今なら四分の三殺しで勘弁してやるアルよぉ」
「いや、四分の三って殆ど殺してますよねぇ。半殺し超えてますよねぇ。ってか、どんだけ不機嫌なんですかあんたら。しかもその発言なんか、まるで何処かのヤクザ物ですよ」
「うっせぇよこの淫獣! そうやって小動物に化けてりゃ女湯とか平気で入れると思ってるアルかぁ? マジ鬼畜アル」
「待てやゴラアァァァ! 別にそう言う下心があってフェレットになった訳じゃねぇんだよ! 只ちっこい方が魔力を使わなくて良いからこうなっただけであった別に下心とかそんなのは全然ないんだからなぁぁ!」

 最早我慢の限界であった。偶々フェレットになっただけで淫獣扱いされたのだから溜まったものじゃない。が、そう言う発想に至るのも強いて言えば原作が悪いので分からない人は原作をチェケラッ!

「ま、とにかくだ……お前等さっさと俺達の目の前から消え失せろ。お前等が俺の視界に居るとイライラしてくんだよ。いきなり人の命狙いやがって。何処かの鉄砲玉ですかぁてめぇらはよぉ」
「それはこっちの台詞よ。今すぐ貴方は何処かの崖の上から身投げするなり、樹海で首吊るなり、業火の中に身を投じるなりしてこの世からさよならしてくれない? 貴方がこの世に居て私達と同じ空気を吸ってるって思うだけで胸焼けがするんだけど」
「んだとぉこの金髪変態女! ガキの癖してんな小難しい言葉並べたって銀さん大人だから絶対反応しないもんねぇ! 残念でしたぁ」
「そうなんだ。それじゃもっと言わせて貰うけど、今すぐ――」

 此処から先の発言は彼女のイメージを著しく崩壊させる内容が含まれていましたのでカットさせて頂きます。ご了承下さい。

「あんだとゴラァァァ! 子供だからって大目に見てやったら調子に乗りやがって! 今すぐその腐った根性叩き直して頭冷やさせてやるよぉ!」
「上等よ! こっちだって今度こそ決着つけてやるわよ!」

 とうとうぶち切れた銀時とフェイトの両者が互いに得物を手にバトルを勃発しだした。銀時は木刀を手に持ち、フェイトはバルディッシュを手に閃光の刃を携えて互いに激しくぶつかりあう。
 
「銀さん! 僕達も一緒に……」
「行かせると思ったのかい?」

 突如新八や神楽の前にアルフが降り立ってきた。どうやら三人を分断する作戦だったようだ。
 何てこった。新八は毒づいた。今の万事屋メンバーは三人揃ってようやくこいつらと渡り合える位の強さなのだ。にも関わらず戦力は分断され、更に相手は二人も居る。明らかにこちらの方が分が悪いのは明白であった。

「前の時は三人居たから痛手を受けたけど、今回はそうはいかないよぉ」
「上等だよこの犬耳がぁ! いい年こいてそんなコスプレして恥ずかしくねぇのかぁゴルァ!」
「これはコスプレじゃなくて元々ついてるの。それにあたしは犬じゃなくて狼! 其処んとこ間違えるんじゃないよ貧乳小娘」

 アルフの発言に対し神楽の眉間に大量の青筋が浮かびだした。そう、彼女は言ってはいけない事を言ってしまったのだ。胸の無い女性達が常に抱えているコンプレックスを思いっきり突き刺してしまったのだ。
 言い例えるならば、龍の逆鱗に触れてしまったに比例すると言っても過言ではない。

「んだとぉこの獣耳野郎! 胸でっかくてスタイル良いからって調子に乗ってるんじゃねぇよゴラァ!」
「へぇん、無い物ねだりにしか聞こえないねぇん。悔しかったらあんたもあたし位に成長してみろってんだぁ!」
「言われなくてもなってやるネ! Gカップ位になって胸の谷間に1万円札挟み込まれる位のナイスバディになってやるヨォ!」
「おいぃぃぃぃぃ! いい加減にしろてめぇら! 青少年の居る前で胸の話題に持っていくなぁ! 目のやり場に困るだろうがぁぁぁ!」

 即座に待ったを掛ける新八。確かに新八もお年頃だ。そんな新八の前で胸の話題や巨乳の話題を持ってこられたら流石に平常ではいられなくなる。

「んだよこのスケベ眼鏡! お前も口ではまともな事言ってる癖に本当はボインちゃんの胸ばっか見てて鼻の下伸ばしてたんだろうが。このムッツリスケベが」
「げぇっ! マジ? 何か嫌だなぁそう言うのって。もうあたしの前から消えてくれない? マジで一緒に居たくないんだけど」
「待てこらぁぁぁ! お前等本来敵同士だろ? 何でそんな仲良いコンビみたいに出来るの? 何で僕だけ敵視してるの!? 止めてくれない、これ以上僕苛めるの止めてくれない。もう涙が出そうになるからさぁ」

 気がつけば二人して新八を敵視する始末であった。こりゃもう泣きたくなるのも分かる気がする。これ以上行くと下手すると口論だけで1話終わる危険性がないとも言えないのだ。

「神楽ちゃん、良いからさぁ。早く銀さんを助けに行かないとやばいって! 今銀さん本調子じゃないんだからさぁ!」
「おぉっといけねぇや。何時までもこんなスケベ女に付き合ってられないネ」

 ようやくバトルモードに切り替えてくれた神楽。そんな神楽を見てアルフもまたバトルモードへとスイッチした。

「へ、今度はそうはいかないよ。あんたら二人だったら楽にボコボコだからねぇ」
「舐めんじゃねぇよ。あべこべにボコボコにしてやるから覚悟しとけやゴルァ!」

 一体その自信は何処から来るのか? そう疑問に感じながらも新八も同様に木刀を構えて戦闘態勢に入るのであった。




     ***




 新八と神楽対アルフの激しい口論から一転したバトルをしている最中、銀時とフェイトが激しい接近戦を行っていた。フェイトの戦法はスピード重視の一撃必殺が主だ。相手の懐に一瞬で近づいて音もなく切り裂き敵を倒す。しかし、それは銀時も同じと言えた。接近戦でなら銀時も得意な面でもある。その為、接近戦対接近戦の戦いが行われていた。

「はぁぁぁ!」

 雄叫びと共にフェイトが乱舞の如くバルディッシュを縦横無尽に振るっていく。その速さは飛ぶ鳥を落とす勢いだったと言える。振り切った動作を見た頃には胴体が真っ二つになっていた。と言う位の速度だ。
 されど、それを銀時はかわしていたのだ。身を翻し、時には木刀でいなし、捌き、かわしていく。幾ら神速と言っても当たらなければ扇風機の羽と大差ないのだ。

「舐めんじゃねぇぞ! 幾らてめぇが早くてもなぁ。来る方向が分かりゃかわすのは簡単なんだよ」
「くっ!」
「今のてめぇなんざ相手にするよりも扇風機の回ってる羽根に手ぇ入れる方がよっぽど危ねぇや! 何時までも強敵面してんじゃねぇぞ!」

 怒号と共に横薙ぎに木刀を振るった。銀時の木刀の威力は既に知っている。大した事ない威力だ。アルフも結界なしで防げた程だった。
 その油断があった。脇腹に叩きつけられたその木刀の威力の前にフェイトの顔色が変わった。細身の体に木刀の刃がめり込み痛みが迸る。

「ぐっ……づっ!」
「確かに腕力は衰えたよ。だがなぁ、別の力を応用すりゃこうやっててめぇにダメージを与えるこたぁ可能なんだよ!」

 咄嗟に距離を置くフェイト。誤算だった。前に戦った時は圧倒していたと言うのに今回は逆に押し負けている。この男は自分の逆境を物ともしていないのだ。
 力がないのなら別の力を利用して戦う。この男は明らかに自分以上に戦い慣れている。前回の様な圧倒的有利さはなくなっていた。
 そっと、フェイトは木刀で叩かれた箇所に手を置いて確かめた。痛みはあるが骨には響いていない。当たり所が良かったようだ。それに、以下に威力があってもバリアジャケットを纏っているお陰で幾分かは軽減されている。まず殺される心配はない。
 だが、銀時にその類はない。自分の閃光の刃を突き刺せば豆腐を切るように銀時の体を引き裂く事は可能だ。それに、接近戦だけがフェイトの戦法じゃない。

「確かに、今の貴方相手に接近戦は分が悪いみたいね……だけど、私の戦法は地上での接近戦だけじゃないんだよ!」

 そう言うなり、突如フェイトは上空へと舞い上がる。月をバックにバルディッシュを構え、銀時を見下ろす姿勢をとる。そう、フェイトは飛べるのに対し、銀時は飛べないのだ。其処を突いた戦法。つまり、空中戦だ。

「てっめ、汚ぇぞゴラァ! 降りて来いよ。敵わないと悟ったからってお空に逃げるのは反則だと僕は思います先生~~!」
「自分にとって有利な場所で戦う。これも戦法の一つだって教わらなかった? それに、お前みたいな駄目人間相手に、手加減なんてしない!」

 言い終わると同時に弾丸の如き速さでフェイトが突っ込んできた。一瞬の内に迫り一瞬の内に去る。まるでかまいたちであった。これこそフェイトの本来の戦法だったのだ。
 空中から縦横無尽に銀時に向かい切り掛かる。それに対し、地上に居る銀時はそれの対応に手間取り思うように反撃が出来ずに居た。
 気付けば、銀時の体のあちこちには切り傷が出来上がっており、其処から流れた赤い滴が着物を赤く染め上げだしていた。

「てめぇ、コノヤロー! 着物どうしてくれんだ? クリーニング代請求すっぞコノヤロー!」
「クリーニング代じゃなくて、葬儀代の間違いじゃないの? 最も、出す気は全然無いんだけどねぇ!」
「あぁ、そうかよ!」

 突如、銀時の声のトーンが低くなる。それに気付くことなくフェイトは再度銀時に切り掛かる。今度は銀時の首筋に向かい閃光の刃を振るう。
 だが、その刹那、銀時の姿が消える。それを認識した直後、フェイトの首筋を何か強い力でつかまれる感覚を感じる。
 それは大人の手であった。物凄い力で掴まれており其処からは痛みしか感じない。その手の主は丁度フェイトの隣に居た。其処に居たのは、ドス黒い顔をした銀時であった。

「どうもぉん」

 不気味な笑みを浮かべた後、掴んでいた手を思い切り地面に押し付けた。それと同時にフェイトの体が地面に叩きつけられる。幾ら魔力を持っていようと突発的な力には対応出来ない。其処を突いたのだ。

「がふっ! な、何で……」
「確かにお前の戦法はあってる。俺ぁ空飛べねぇしお前の空中戦は凄ぇ。だがなぁ、一発で仕留めなかったのはてめぇの敗因だ。幾ら有利に事運んでようが、そんな何回も見せられちゃ対処法を思いつくのなんざ簡単だろうが!」

 完全にこちらの落ち度だった。あの時一撃で仕留めるべきだったのだ。なのに悪戯に何度も斬り付けたせいで銀時に対し対処法を教えてしまった事になる。それがフェイトには溜まらなく悔しく思えた。

「さぁて、散々大人をからかってくれたなぁこの糞ガキ! これからたっぷりお仕置してやるから覚悟しとけやぁゴラァ!」

 うつ伏せ状態のまま首筋を抑えられ、身動き一つとれないフェイトに対し、銀時が黒い笑みを浮かべていた。それをフェイトが見る術は、何処にもないのであった。




     ***




 銀時がバトルを始めた頃、新八達もまたバトルを行っていた。新八、神楽の両名の前には徒手空拳で戦うアルフが居る。彼女曰く元が狼ならしく獣の様な荒々しい戦い方で来ているのだ。

「おいゴラァ! いい加減諦めて家の妹分(なのは)返せや! でねぇとお前等全員丸坊主にして逆さ吊りにすっぞゴラァ!」
「神楽ちゃぁん! 確かにこの二人敵だけど言葉選んでぇ! あんまり過激な言葉言うと下手すると色んな人に怒られるから。只でさえ結構不味いコラボなんだから其処は選んでくれない?」

 バトル中でも構わず危ない発言をする二人のフォローに回る新八の気苦労は同情の限りである。されど、アルフもまた負けてはいない。

「やなこったい! あんたらにあの子は返さないよ」
「何でですか? まさかなのはちゃんを使って僕達を脅迫するつもりですか? 卑怯ですよそれは!」
「誰がそんな事するかってんだ! あの子が居たお陰で、フェイトは変われたんだ! 今まで暗かったフェイトが、初めて笑ったんだ! 遊ぶ事の楽しさ、美味しい物を食べる喜び、生きる事の楽しさを学べたんだ! あの子が、なのはが全部教えてくれたんだ! もし、今あの子がフェイトの元を去ったら、またフェイトは昔みたいな暗い子に戻っちまう。そんなのは嫌なんだよ!」
「アルフさん……」

 アルフの言葉に新八は心を打たれた。しかし、それが隙を作ってしまった。一瞬手の動きが止まった新八に向かい、アルフの鉄拳が叩き込まれる。胸部に直撃した鉄拳の威力のまま、新八は後方に吹き飛び地面に擦れながら倒れる。

「ぐぅっ!」
「新八ぃ!」
「お前も吹っ飛べ!」

 今度は神楽に向かい攻撃を仕掛けた。咄嗟に傘を盾にしてそれを防ぐも神楽もまた後方へと後退させられた。防いだ両手が痺れるのを感じる。やはり力の差があるのは辛い事だ。

「あの子は……なのははずっとフェイトの側に居るべきなんだ。あの子は、フェイトにとって初めての友達なんだ! あたしにとっちゃ、光なんだよ! 太陽と同じなんだよ! だから、お前等には絶対にあの子は渡さない! あの子は、ずっとフェイトの側に居て、フェイトを支えて欲しいんだ! それを邪魔するって言うんなら……」

 其処で言葉を切り上げる。すると、アルフの体が眩い光に包まれていき、その光が消えると、彼女の姿は人間の姿から一変して、荒々しい狼の姿へと変貌した。髪の色と同じくオレンジ色の体毛を持った大柄な狼である。

「あたしは、お前等を叩きのめす! 死んでも知らないよ!」
「お、狼になった! どう言うこと?」

 いきなり人が狼になった事に驚く両名。そんな両名に割って入るようにユーノが来る。

「やはり、君はあの子の使い魔なんだね!」
「そうさ、あたしはフェイトの使い魔。フェイトから魔力を貰う変わりに、フェイトを命がけで守る。そして、フェイトの側に居るあの子も守る! お前等になのはは渡さない!」

 言い終わると同時にアルフが鋭い牙で飛び掛ってきた。一直線にその巨体を神楽に向けてきたのだ。
 その神楽はまだ先ほどの一撃による手の痺れが残っていたのか上手く動けない。そんな神楽に狼の牙が迫る。

「うおぉぉぉ!」

 だが、その前に新八が割って入った。丁度アルフの口を挟みこむように木刀を横に持ち構える。
 口の前に木刀が邪魔をする形でそれを防いだのだ。

「し、新八ぃ!」
「アルフさん、貴方の言い分は分かりますよ。あの子は、なのはちゃんは誰に対しても平等に優しい子だ。あんなちゃらんぽらんな銀さんの娘だって言ったら誰も信じませんよ。でも、幾ら貴方達にとってなのはちゃんが必要だと言っても……僕達にも、なのはちゃんの存在は必要なんだ! だから、貴方達がそう出るのなら、僕もそう出る! そっちが力づくでなのはちゃんを取り戻すのを拒むって言うのなら、僕も力づくで、なのはちゃんを取り戻す!」

 断言し、木刀を振るった。その拍子にアルフの巨体は後方へと飛び退く。牙を見せて低く唸りを聞かせる。それを聞きながらも新八は全く動じず木刀を構えた。

「何で、何であんたはあの駄目人間と一緒に居るんだい! どうして、あんたらはあんな駄目人間と一緒に闘おうとしてるんだい!?」
「知らないなら教えてあげますよ。確かに銀さんは駄目人間ですよ。金銭感覚もないし、大金が入ったら全部使いきっちゃうし、給料もまともに払ってくれない。でも、それでも、銀さんは今まで僕達の事を助けてきてくれたんだ! 僕に侍の魂を教えてくれたんだ! だから、僕は銀さんの側に居る。銀さんと一緒に万事屋をやってるんだ!」
「私も同じネ!」

 神楽も新八の横に立ち、傘を振り翳して声を挙げた。

「銀ちゃんと一緒に居ると毎日が楽しいネ! 銀ちゃんはこんな私でも家族みたいに思ってくれてたヨ! 他行ったら私用心棒にされたり化け物扱いだったネ。でも、銀ちゃんは違った。銀ちゃんは私を仲間として見てくれた! だから私は銀ちゃんと一緒が楽しいから一緒に居るんだヨ! だから、私は万事屋に居るんだヨ!」

 新八と神楽の心の叫びだった。二人共銀時が好きだからこうして一緒に居るのだ。例え給料を払ってくれなくても、邪険に扱われたとしても、それでも、銀時は二人が危険な目にあった時、必ず助けてくれた。必ず手を差し伸べてくれた。だから、だからこそ、二人は銀時の側に居るのだ。銀時と共に居たいのだ。
 その絆こそが、万事屋銀ちゃんなのだ。そして、その万事屋銀ちゃんにはもう一人大事な存在が居る。それがなのはなのだ。
 銀時が拾い、育てた大事な娘。銀時自身は疫病神と罵っているが、実際はとても大事に思っている。そうでなければ、此処まで苦労して探す事など有り得ないのだ。
 銀時も、立派な一人の父親なのだ。

「あの男が……あの駄目人間が……」
「確かに側から見たら銀さんは駄目駄目の駄目人間ですよ。でも、銀さんは心の底まで駄目なんじゃない。心の底では、熱い侍の魂が息づいているんです!」

 新八は知っていた。普段は死んだ魚の目をしている銀時が、ほんの一瞬だけ熱い闘志に満ちた目をした時を。新八は知っていた。普段はだらしない銀時だが、決める時は決める真の侍であると言う事を。

「銀ちゃんは駄目人間かも知んないけどなぁ。あれでもやる時ぁやるんだよ。それも知らない赤の他人が、勝手に駄目人間だのほざくんじゃねぇヨ! そんなにほざきたかったら、まず銀ちゃんを知るべきネ! 話はそれからヨ!」

 神楽もまた知っていた。銀時の心の奥にある優しさを。そして、温かさを。
 侍でもあり、一人の人間でもあり、また、父親でもある。そんな銀時の人間らしい優しさ、父親らしい温かさを神楽は知っていたのだ。

「銀さんが何かに躓いたら僕達が起こして立たせる」
「銀ちゃんが挫けたら私達が殴って叱咤して奮い立たせる!」
「「それが万事屋銀ちゃんなんだよコノヤロー!」」

 声を揃えて自信を持って叫んだ。揺ぎ無い思いが其処にはある。その魂の叫びに、アルフは心を打たれた思いがした。もし、自分達の思っていた通りの人間だったなら、あの二人は此処まで銀時に尽くすだろうか? 此処まで銀時を信頼するだろうか? 否、絶対にない。
 だとするなら、もしかしたら銀時は本当はどんな人間なのだろうか?
 本当にフェイトや自分が思っていた通りの鬼なのだろうか? 
 その答えを迷っていた時、後方で激しい音と衝撃が伝わってきた。何事かと思い振り返ると、其処には地面に叩きつけられたフェイトと、叩き付ける銀時が居た。

「ふぇ、フェイトォ!」
「銀さん!」

 双方が双方の名前を呼ぶ。そして、そんな一同の前で、銀時が木刀を振り上げていた。月夜に照らされるように、洞爺湖と掘られた一振りの木刀が天に向かい翳された。そして、その狙いを地面に向かい押さえつけているフェイトに向けていた。

「や、止めろぉぉぉ! フェイトを離せぇぇぇ!」
「銀さん! それ以上は駄目だぁぁ! やっちゃいけませんよぉぉ!」

 アルフ、新八の両名が叫ぶ。だが、銀時は全く聞く耳を持ってない。見れば、銀時の目は完全に狂気の目になっていた。顔全体が怖そうな位に歪んでおり、邪悪ささえ感じられる。今の銀時なら、容赦なくフェイトの後頭部に木刀を突き刺すだろう。
 皆が必死に止めに向うが、間に合わない。銀時の木刀が唸りを上げてフェイトに向かい振り下ろされた。

「止めて、お父さん!」
「!!!」

 突如、横から声が響いた。銀時の木刀がフェイトの後頭部からほぼ数センチで止まる。その声を耳にしただけで銀時の狂気は消え去った。ゆっくりと、銀時は声のした方へと首を向ける。
 其処に居たのはなのはだった。何時から其処に居たのか。銀時の方を見ている。その目は潤んでいた。その潤みが何なのか、銀時には理解出来ていた。

「なのは……お前……」
「もう止めてよお父さん。フェイトちゃんは私の大事な友達だよ」
「こいつが……お前の――」

 銀時は、ようやく拘束から逃れ、起き上がっていくフェイトを見た。どうやら、フェイトはなのはを誘拐した訳ではなかったようだ。その証拠に、なのははフェイトを庇うように叫んだ。それが何よりの証拠だ。そして、あの目で全てが片付く。
 銀時は木刀を腰に戻し、フェイトをそのままにし、なのはの方へと向う。

「なのは……無事みたいだな」
「うん、私は平気だよ」
「そうか、悪かったな……寂しかっただろ?」

 視線をなのはに合わせるように銀時は方膝をつき、そっと幼い少女の頭を優しく撫でた。なのはの肌から伝わるのは優しい父親の手の感触だった。
 無骨で、傷だらけで、少し男臭いが、温かくて、優しい父の手だった。そっと、なのはは頭に乗せられていた手を両手で掴み、それを自分の頬に押し当てた。そして、其処から伝わってくる感触を感じていた。

「お父さんの手……ゴツゴツしてて、傷だらけだけど、あったかくて、優しいお父さんの手……」
「おう、男の手ってなぁ皆そんなもんだ。すべすべした手なんざぁ男の手じゃねぇよ」
「お父さん……お父さん!」

 声のトーンが一層強くなった時、なのはは感情に任せて銀時にとびついた。ずっと会いたかった父にようやく会えた。見ず知らずの世界に飛ばされてから、ずっと会いたかった父に会えたのだ。なのはは、回りの視線など全く気にする事なく、銀時の胸に飛び込んだ後、大声で泣いた。銀時は、自分の着物が汚れるのを構う事なく、泣きじゃくる愛娘の背中を優しく摩り、自分もまた、娘との再会を心から喜んだ。

「今の内に!」

 誰もが戦意を喪失した今を好機と思い、咄嗟にアルフはフェイトの元へと急いだ。未だ意識の朦朧とするフェイトを脇に抱える。

「フェイト、此処は一旦ずらかるよ!」
「でも、なのはが……」
「今は無理だよ。此処は悔しいけど一旦退こう。今の状態じゃ無理だよ」
「う……うん!」

 無念さを顔に出しながらも、フェイトはアルフに抱えられ、そのまま空へと飛び上がった。

「あ、フェイトちゃん! 待って、何処行くのぉ!」

 友達が去っていくのを見たなのはが必死に呼び止めるが、その声に応える事なく、フェイトとアルフは飛び去ってしまった。追い掛ける術がない今のなのは達では、それを見送る事しか出来ないでいた。
 それよりも今は……

「なのはちゃん!」
「うおぉぉぉん! 無事だったか我が妹分よぉ!」
「新八君、神楽ちゃん!」

 万事屋メンバー全員がなのはとの再会を心から喜んだ。そして、互いに強く抱き合いお互いの再会を体全体で喜ぶのであった。
 見ず知らずの異なる世界で、こうして万事屋メンバーが此処に勢揃いしたのである。




     つづく 
 

 
後書き
次回【仲良くケンカしなって言うけど……じゃぁ具体的にどうやってケンカすりゃ良いんだよボケがぁ!】 
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