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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第七十三話 仮面の正体

 砂漠での戦い以降、管理局はシグナム達の痕跡を見つけることは出来ても、補足は出来ず時間は流れていった。

 そんな中で学校が終わった後、新たな夜天の書の情報や事件の進展、特に傷に関する情報がないか確認のためにアースラに来ていた。
 わざわざアースラまで来る必要はなかったかもしれないが、仮面の関係者に内部の者が関わっている可能性が高い以上、管理局と関わるのも情報収集の一環である。

 ブリッジに向かう途中で、オペレータールームから出てくるクロノ。

「ん? どうしたんだ士郎」
「ああ、リンディさんにちょっと用があって……」

 ……この匂い。

 クロノに近づくが間違いない。

 薬の匂いに混じっているが間違いない。
 僅かだがアイツの血の匂いがする。

「クロノ、今日はずっとアースラか?」
「ああ、一時間ぐらい前に無限書庫には行ったがあとはずっとアースラだ。
 いきなりどうしたんだ?」

 俺のいきなりの問いかけに困惑するクロノを無視して、重ねて質問をする。

「……無限書庫か。
 ユーノ以外誰かに会ったか?」
「さっきから何なんだ?
 何かあったのか?」
「いいから答えてくれ」

 僅かながら視線を強めクロノを見つめる。

「……無限書庫であったのはユーノ以外だとロッテだけだが」

 ロッテ。
 グレアム提督の使い魔の一人か。

 なるほど、あいつか。

 いや、もう一人のアリアの可能性は……低いか。

 二人とも立ち方や歩き方で訓練を積んでいるのはわかったが、ロッテの方が近接戦闘に秀でている。

 俺との戦闘で見せた、フェイトの背後をつく近接戦闘技能から考えれば間違いなくロッテの方だ。

「クロノ、グレアム提督に電話をしたいんだが、携帯に登録を頼めるか?」
「直接か?
 管理局の通信を使えば」
「そろそろ魔術、投影の事を話しておかないと悪いだろう」

 投影や魔術の本当の事を話すなど下手に管理局内の通信を使えるはずがない。
 そして、グレアム提督なら接触は出来る。

 ようやく見つけた鍵だ。
 そこですべてわかるだろう。

 直接会えば血の匂いに気が付かないはずなど無いのだから。




side クロノ

 グレアム提督の連絡先を士郎の携帯に登録し、見送る。

 それと同時にグレアム提督に士郎が直接話したいという事で連絡先を教えた旨を連絡しておく。

 それにしてもリンディ提督に用があると言っていたのに、グレアム提督の連絡先を手に入れてあっさり帰ってしまった。

 リンディ提督の用というのがグレアム提督の連絡先だったのだろうか?

 それにしてはどうにも違和感が拭えない。

 無限書庫でロッテに会った事を話した時、士郎の纏う空気が変わった。

 士郎の纏う空気はわからなかったが僕は無意識のうちに手を握りしめて、背筋は冷や汗が流れていた。

 まさか……士郎も気がついたのだろうか?

 エイミィに隠れて調べていたグレアム提督の事。

 管理局内での動き、そして出身世界である第97管理外世界とのやり取りを調べていていくつかわかった事もある。

 もし士郎が気がついたのなら注意しておかなければならない。

 最悪の事態を避けるためにも




side 士郎

 海鳴に戻り、家路につきながら携帯を操作する。

「グレアムだ」
「いきなりの連絡申し訳ありません。
 海鳴の管理者、衛宮士郎です」
「どうしたんだい、衛宮君が私に直接連絡を取って来るという事は会話の内容を聞かれたくないという事かな?」

 クロノが俺に連絡先を教えた事を話していてくれたのだろう。
 話が早くて助かる。

「はい、そうです。
 闇の書とその騎士達との戦いとなるとどうしても魔術を使います。
 リンディさんとレティさんにも教えていますし、闇の書事件の件でグレアム提督に話すタイミングがなかったので、真実をお話しておこうと思いまして。
 明日私の学校が終わった後、少し時間を頂けますか」

 明日はクリスマス・イブなので、なのは達がアポなしではやてにクリスマスプレゼントを持っていくと言っていた。

 だがシグナム達は最近戻らず蒐集をしているらしいから会う可能性も低いだろうし俺は抜けさせてもらおう。

「ああ、構わないよ。
 本局に来るための手続きもこちらでしておこう」
「では明日に」

 電話を切る。
 これで準備は整った。

 後は明日を待つだけだ。

 明日になれば、裏で何の目的で動いていたのかもはっきりするだろう。

 残された時間も少ない。
 明日が運命を決める大切な日である気がしていた。



 翌日、学校が終わると同時にアースラを経由して本局に向かう。

 アースラの転送ポートの件もグレアム提督が昨日のうちにリンディさんに連絡してくれておりスムーズに進む。

 もっともなのは達からはせっかくのクリスマス・イブなのにと少々責められた。

 今度、お詫びも兼ねて少しスペシャルなデザートでも作ってもって行くとしよう。

 俺が持っているのは鞄一つ。
 最悪、この場で戦闘に発展する事を想定し、赤竜布の外套を鞄の中に持ってきている。

 今は冬という事もあり黒のコートを着ているが、実はその中の服も戦闘用の服である。

 局員に連れられてグレアム提督の執務室に通される。

「ご無沙汰してます」
「久しぶりだね。衛宮君」

 笑顔で迎えてくれたグレアム提督。

 ああ、やはり予想通りだ。

 この部屋、いやグレアム提督に染みついている血の匂い。
 あの仮面と同じ匂い。

 前にフェイトの面接があったように俺がお茶を用意して向かい合う。

「今日は君の魔術について改めて教えてくれるという話だったが」
「ええ、本来ならもう少し早く教えるべきだったのでしょうが、闇の書事件などでバタバタしてもいましたから」
「確かに丁度タイミングが悪かったからね」

 さて、表面的な話はここまでだ。
 本題に入らせてもらうとしよう。

「ところでリーゼロッテは元気にしてますか?」
「ロッテは元気にしているがなぜだい?」

 わずかに眉が動いたがそれ以外反応はない。
 さすがにこれぐらいではポーカーフェイスは崩さないか。
 だがいきなり本題に入るとは思ってなかったようだ。

「黄の魔槍『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』で傷つけられた傷は癒える事がありませんから、あの程度の傷でも衰弱してきているのではないかと思いまして?」
「……やはりゲイ・ボウだったか。
 だがロッテにそんな傷はなかったはずだが」

 さすがイギリス人といったところか。

 赤と黄の双槍。
 さらに変身魔法の一部を解除した破魔の紅槍から、双槍の真名に検討がついているとは。

「そうですか、それなら構いません。
 でも気をつけて下さい。
 呪いは広がります。
 傷口に触れた手に、そしてその手に触れた所に」

 グレアム提督の眼が見開かれる。

「それは……どういう事だ?」

 声もわずかに震え動揺が隠しきれていない。

「どうも何も言葉通りですよ。
 リーゼロッテの傷に触れた貴方がクロノの肩に触れたのであれば、クロノの肩に。
 リーゼロッテがクロノに抱きつきでもしていればクロノの至る所に。
 そして、その箇所を負傷すれば血は止まることなく、治癒する事もない」

 俺の言葉にグレアム提督の視線が両手に向けられる。

「バカな。ゲイ・ボウの伝説にそんな事を聞いたことがない」

 当然聞いたことはないだろう。
 だけどそれはいくらでも誤魔化せるんですよ。

「不思議なことでありませんよ。
 歴史とは改竄され、歪んで伝わるモノです。
 その中で、本当の能力が伝わらない事などいくつもある。
 私も所有するまで知りませんでしたから。
 そして、呪いは私を殺すか、槍を破壊しなければ解けることはない」

 グレアム提督は大きく息を吐く。
 そのまま肩から力が抜け、項垂れるようにソファに体を預ける。

「……いつ気がついたんだい?」
「何がです?」

 直接言葉にするように促す。

「ロッテとアリアがあの仮面だという事にだ」
「では認めるのですね」
「ああ、私の完敗だよ。
 私がロッテとアリアに命じて闇の書の監視と君達の邪魔をしていた」

 証言としては十分だ。
 最後に教えておくとしよう。

「血の匂いですよ。
 俺は人の理から外れてましてね。
 血の匂いには鼻が利くんですよ。
 そして、ゲイ・ボウに付着した血と同じ匂いが貴方からもしていた」
「まさかそんなところからバレるとはね」

 予想外の事に苦笑するグレアム提督。
 そして、大きく息を吐き、ゆっくりと語り始めた。

「私は闇の書が完成した時、八神はやてごと闇の書を氷結封印するつもりでいた」

 完成前に封印しようとしても転生してしまう。
 だが完成後に暴走し、転生する前に完全に氷結させ活動を停止させる。
 あとはその氷結を維持できれば封印は出来るということか。
 確かに有効的な方法なのかもしれない。
 だがその方法は

「両親もおらず、一人で暮らす孤独な子だった。
 孤独な子であればそれだけ悲しむ人は少なくなる」

 九を守るために管理局の法を破り、一を切り捨てる。

 正義の味方(破綻者)の道

 最小限の犠牲で終わらせる選択としては間違っていないだろう。
 だがこの人はこの道の異常さにまだ気がついてはいない。

「グレアム提督。
 その道は、その正義という名の道は、決して踏み込んではならない歪な道ですよ」
「わかっている。
 だが私には」
「いや、理解していない」

 グレアム提督の言葉を遮る。

 人を数という天秤にかけて斬り捨てた人間の末路を。
 行きつく先を理解できるはずがない。

 いや、本来なら人が知ってはならない禁忌なのかもしれない。
 だが俺は踏み込んでしまった。
 一人でも多く救うために正義の味方(破綻者)の道を突き進んできた。
 それが歪なモノとわかっていても

「八神はやてを氷結封印する時、貴方は一つの選択を迫られる」
「……選択?」
「はい。管理局の局員を巻き込むか、否かの選択を強いられる。
 クロノや管理局の局員が闇の書の暴走を止めようとする中で彼らごと氷結させるのかを」

 グレアム提督が俺を真っ直ぐに見つめる。

 闇の書が完成して管理局が気がつかない可能性など無いに等しい。
 その時、クロノや武装局員が闇の書の暴走を止めようと集まり、この選択を強いられることになる。

「その時、貴方は選択し踏み込むことになる。
 犠牲になる数を天秤にかけ、少ない方に最愛の人がいても実行する事を。
 そして、その選択は迷うことは許されない。
 当然だ。
 貴方が迷う分だけ貴方の正義は失敗する危険を増すのだから。
 そして、封印が成功すれば今後の被害も抑え、最小限の犠牲で済む
 だが」

 瞼を閉じて元の世界を思い出す。

 助けた事を喜んでくれた事もあった。
 感謝された事もあった。

 だが斬り捨てた人の親しい人から恨まれた事がった。
 命を狙われた事があった。

「最小限であって0ではない。
 貴方が斬り捨てた人間達の復讐の刃が貴方に、貴方の大切な人に向けられる。
 それを理解しているのか。
 もし、はやてを氷結封印したら俺は貴方を殺しに来る。
 同じように氷結封印にクロノやフェイトが巻き込まれれば、リンディさんやプレシアが。
 斬り捨てられた者達の親が、子が、兄弟が、友が貴方に復讐しようと怨嗟の声を上げる。
 殺人者、異常者と罵り、殺しに来るという事をわかっているのか、ギル・グレアム!」

 答えることなく、力なく肩を落とすグレアム提督に、俺も息を吐き出す。

 説教するとは一体何様のつもりだ。
 俺が歩んだ道だというのに。

「そんな道に踏み込んではならない。行きつく先は……破滅しか残らない」

 俺が語れるのはここまでだ。
 とりあえずシグナム達と今後の動きは考えている。

 これ以上勝手な行動をさせて予定が狂う事は避けたい。

「……リーゼ達は今どこにいる?」
「……闇の書を監視していたアリアによると今日、騎士全員が八神はやての所に集まる。
 もう闇の書の空白頁もわずかだ。
 何かあれば騎士達を蒐集することでリーゼ達は闇の書を完成させるだろう」

 今日……だと
 なのは達もアポなしではやてに会いに行っているのだから鉢合せになる可能性が高い。
 本当に俺はここぞという時の運がないらしい。

「闇の書、いや夜天の書を完成させ、八神はやての意識さえ取り戻せれば止めることは出来るというのに。
 いや、これはギリギリまで俺とシグナム達に以外に情報を明かさなかったこちらの問題でもあるか」

 巻き込まないようにと秘密裏に進めてきた事が仇になったともいえるのかもしれない。

 俺はコートを脱ぎ捨て、鞄に入れていた赤竜布を纏う。
 そんな俺の横でモニターを開き、何やら操作するグレアム提督。

「衛宮君、君の緊急ポートの使用許可を取った。
 うまくいく事を願っているよ」
「ロッテがフェイトを襲った件などもある。
 細かい話はまた後に」
「ああ、私はここで待っているよ」

 短い時間で老けこんだようなグレアムを残し、部屋を出る。

 ああ、アレは教えておくか。

「それと先ほどのゲイ・ボウの話ですが嘘です。
 アレの傷から呪いが広がる事はありませんのでご安心を」
「そうか。それは一安心だ」

 安堵したのか大きく息を吐くのが聞えた。

 クロノにそんな呪いがない事に安心したというところかな。

 そして、振り返ることなく転送ポートに向かって駆ける。

 転送ポートに近くにいた職員に話しかける。

「衛宮士郎です。
 グレアム提督より緊急ポートの使用申請があったと思うのですが」
「第97管理外世界地球軌道上、アースラへの転送ですね。
 用意完了しています。
 こちらへ」
「感謝します」

 償いかグレアム提督の行動もあり、すぐにアースラに戻る。

「士郎君」

 いきなり戻ってきた俺に驚くリンディさんだが時間がない。

「なのは達の所に」
「わかりました。エイミィ!」
「いわれると思って準備してたよ。行くよ。
 なのはちゃん達の所に転送!」

 リンディさん、エイミィさんも俺の次の行動を読んでくれて助かる。

 そして、俺はなのは達がいる傍のビルの屋上に降り立つのであった。 
 

 
後書き
遂に仮面の正体があかされました。

ちなみに来週は士郎のバトルシーンと行きたいところですが、一旦はなのは達側のクリスマス・イブ話。

そして、士郎達の戦いと続いていきます。

それではまた来週にお会いしましょう。

ではでは
 
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