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蒼天に掲げて

作者:ダウアー
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十三話

『ねー、そろそろ諦めたら?』

(馬鹿いうな、こんなところで諦めるわけないだろう)

『でも、多分もういないと思うわよ?』

(いや、いるはずだ! 絶対いる!)

『はあ、一週間も前の話なのに待ってるわけないじゃない』

(まだ三日も経っていないはずだろ)

『残念だけれど崖から落ちて四日気絶していたわよ』

(そんな馬鹿な……)

『貴方が馬鹿なんでしょう、森で迷子になって崖から転落するなんてマヌケな真似する奴、初めて見たわよ』

(ぐ……)

 俺は今谷底でうろうろしている。理由は先程照姫がいった通りで、道なき道をひたすら前進しているわけだ。

『まああの三人は大丈夫じゃない? 一カ月前は貴方なしで旅をしていたんだし』

(まあそうだが、心配かけるだろ?)

『そうでしょうけど、最終的には「死んでないだろう」ってなるんじゃない?』

 否定したいが、確かにあの三人ならいいそうだ。

『それで、これからどうするのよ?』

(そうだな、どっか近くに村がないか?)

『えーと、そのまま十キロ先に村があるみたいよ』

(ならそこに向かうか)

 俺は冷え切った足を動かして、谷をひたすら進んでいった。






 結局村に着いたのは朝になる頃で、俺はそのまま宿に泊まろうと大通りを歩いていた。

(なんだか騒々しいな、なにかあったのかこれ?)

『どうやらそうみたいよ』

 最近はどこも物騒だなーと思いながら宿屋を見つけ、泊めてもらおうと女将に話しかける。

「忙しそうなところすまん、泊めてもらいたいんだが」

「ごめんなさい、今はそれどころじゃ……あ、貴方もしかして剣客さん!?」

「へ? まあ一応剣客ではあるっちゃあるが」

「お願いします! この村のために賊を討伐してください!」

 女将に泣きつかれ、俺は狼狽しながらも詳細を聞く。

「あー、とりあえず賊は今どこに?」

「村の先の西方向に約一千います! ですが私達の村は戦える人がわずか五百……陳留の州牧様も到着は遅くなりそうで」

「はあ、分かったが、とりあえず、飯と薬くれるか? 一週間も森で彷徨っててな」

「あ、ありがとうございます!!」

 俺は飯にありつき、特に大きな外傷はなかったが念のために所々の傷に薬を塗る。

「さて、それじゃ久々にがんばるか」

『ええ、たったの千なら余裕ね!』

 俺は女将にお礼をいい、西門に向かって歩いていく。
 西門につくとどうやら村の男達が集まっているようで、皆クワや鎌を持って賊が来るのを待っていた。

「すまん、今賊ってどこにいるんだ?」

 俺が一人の男に話を聞くと、男は震えながら小さな声で教えてくれた。

「ああ、もうすぐそこだよ。今まではたまに畑を荒らすくらいで他に悪さはなかったんだが、なにやら五胡の妖術使いがその連中とつるんだらしくてこの村を襲ってくるんだ……」

『五胡の妖術使い、ね。柏也、これは倒さないといけないわ』

(だろうな)

「ありがとう、それじゃ俺が頑張って討伐してくるから、おっさん達は応援しててくれよ」

「な、あんたもしかして一人でいくっていうのかい? そんな無茶はよせ――」

「はっはっは、俺は無茶なんていわねえよ。まあ見てろっておっさん。軍が来るまで俺が持ち堪えてやるからよ!」

 俺は笑いながら門を開け、賊共が群がり近づいてくるのを見てから、一気に前へ駆けだした。







 私は現在、陳留から南西の村を目指して行軍している。
 今回私が行うことは二つ、賊の討伐と情報収集だ。
 最近黄巾を身に着けた賊が多く、華林様も手を焼いている。そして、賊共の首魁は張角らしいのだが、賊の誰もそのことに口を割らないらしく、正体が全くの不明だということだ。

「そろそろ村に着くぞ、皆速度をあげよ!」

 私の号令で軍全体の移動速度が速くなる。しかしまあ、今までの黄巾の賊は皆戦わず逃げ回る奴等ばかりだったので、今回も大丈夫だろうと私は思っていたのだが、私の予想は大きく外れることとなった。

 そして村の前に着いた時、その光景を見た私は目を疑った。

「……なんだあれは」

 それは何者かと激しくやりあっている黄巾賊の姿。

 あやつ等は戦わないのではなかったのか? いや、それよりもあの人数相手にたった一人で戦っている者は誰だ!?

 私は驚愕に目を見開き、少しばかり呆気にとられていた。

「夏侯淵殿、命令をお願いします」

 兵が私にそう伺い、私は正気に戻ると全員に号令をかける。

「総員、賊を討伐するのだ! 抜刀せよ!」

 「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 皆が武器を抜き、賊を蹴散らしていくのを眺めながら、私は一人で戦っていた者を見つめ、目を細めた。







「なあ照姫、あれ本当に千人くらいか?」

『そうねえ、大体千二百くらいかしらね』

「予想より多いのか、まあいいけどさ」

『さ、それじゃ補助はしてあげるけど、死なないでよ?』

「わーってるよ。…………よし、行くぞッ!!!」

 俺は二本の野太刀を引き抜き、賊の群れに突撃する。
 まず最初にぶつかった賊の首を刎ね、右の太刀で奥にいる賊共を突き刺し、振り回す。
 その様子に賊共は怯えず、飛びかかるように俺に剣を振ってきた。

 バキイイィンッッ!!!!!

 その複数の剣を左の太刀で叩き割り、ついでとばかりに刃の先端のほうで首を斬っていく。その名の通り首の皮一枚で残った賊は、地面に降りると、首が揺れて転がり落ちた。

『後ろから五人、右から三人よ』

 照姫の助言に反応し、両方の太刀を振り回すようにして体を回転させ、竜巻のように賊を吹き飛ばす。

『矢が飛んでくるわ、そのまま前進して』

 いわれた通りに前進し、前で狼狽えている賊を右の太刀で袈裟切りにする。そのまましゃがみ、左の太刀で近くにある賊の膝を斬り飛ばしていく。そして、右の刀身を立て、斬るのではなく打つようにして賊を叩き後ろに飛ばす。飛ばされた賊は降ってくる矢に刺さり、絶叫しながらのたうちまわる。

『さて、それじゃいっぺんに減らしましょ』

「簡単にいうなよ――なッ」

 照姫の言葉に愚痴を零し、両の太刀を使い、賊を一人ずつ突き刺す。そしてそのまま太刀を頭上に振り上げ、賊を飛ばすように太刀を斜め下に振り落とす。弾丸になった賊二人は、右左に分かれて吹き飛び、賊を巻き添えにしながら飛んでいった。

『ちなみに妖術使いがいるのはもう少し前よ。
 左に一人右に二人下に一人後ろに四人』

 なら前進だなと気合を入れ、左の太刀を下の賊に突き刺し、右の太刀で左、右、後ろの賊を胴体から半分に引きちぎる。

 やれやれ、普通ならもうとっくに賊は戦意喪失してるはずなんだがな。

 左の太刀を引き抜き、右と左の太刀を交差させて前進する。

『あれよ、あの黒い装束の男』

 照姫の証言通りの男を発見し、太刀を横振りにして首を狙う。が、するりと綺麗に避けた男は、逃げようとふらふら後退していく。

『あれは奴の視覚に入っちゃダメね。死角からグサリとやっちゃいましょう』

「だから簡単にいってくれるなよ」

 そうはいったが他に方法も分からないので、片方の太刀を使い棒高跳びのように跳躍する。そして装束の男に狙いを定め、上から振り落とすギロチンのごとく首を切断する。

『やればできるじゃない、さすがは私の見込んだ男ね』

「期待に応えられたようでなによりだ。それよりさっき陳留からの軍が見えたみたいなんだが、合流するか」

『ええ、そうしなさい』

「了解」

 俺は左の太刀を取りに戻りながら、軍と合流すべく道を作って駆けていった。






「伝令! 黄巾の賊、撤退していきます!」

「深追いはするな、攻めてくる連中だけ対処しろ!」

 俺が軍と合流し、将らしき人間を発見すると、向こうもこちらに気づいたのか、馬から降りて礼をされた。

「お主が先程黄巾賊を討伐してくれていた者か、礼をいう」

「気にするな、このご時世だ。遅れたのも仕方ないさ」

「いや、それでもだ。お主がいなかったら村がどうなっていたか分からない」

「ふむ、州牧の使者の割に礼儀がいいとは珍しいな。州牧になった人間はさぞ良い奴なんだろう」

「ああ、そこらへんの貴族とは比べることすら失礼なくらいな」

「ほー、それは見てみたいね。こちとら旅仲間とはぐれて行くあてがないんだ」

「それなら一緒にくるといい、歓迎するぞ」

「それじゃ遠慮なく。ああ、俺は稲威だ、字はない」

「私は夏侯淵だ。稲威よ、よろしく頼む」

 このあと、夏侯淵達と一度村に行き、黄巾賊を討伐したと伝えた。
 そして、俺は州牧の者に会いに行くべく、夏侯淵の軍にお邪魔させてもらうことにした。


 
 

 
後書き
 作者です。何故か日間ランキングにこの小説が載っておりまして、アイスを机に落としてしまいました。……マジかよスイカバー。
 感想やお気に入り登録、作品評価をしてくださった皆さん。それとこの小説を読んで下さった皆さん。ありがとうございます。作者も頑張って話を進めていきますのでよろしくお願いします。

 誰かスイカバー奢ってくれてもいいんですよ? 
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